レベル1なんてもういない 2−7
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「本当に大丈夫なんだろうな…」

 

「もう後には戻れない」

 

ラフォードは相変らずの無表情だがこちらの内心は心配続きだ。

 

金髪の子はフィンと名乗り、そのフィンと一緒に宿の部屋で箱を開けるという緊張の時を迎えていた。

 

「これ」

 

ラフォードが箱を持ってきた。

約50cm四方のアンティークなその箱は相変らず中が少しだけ動いている気配がする。

見つけてこなくてもよかったのに…

 

「この中に入っているの?」

 

「そうなんだけどさ…

 いや、そうかもしれないし…

 そうじゃないかもしれないし」

 

歯切れの悪い受け答えをしてしまう。

あの箱を預かった頃は頻繁に動いていたがすっかり大人しくなってしまっている。

それに箱の中にフィンの望むものが入っているのかどうかも、ここまで動いていないということはまさか既に息絶えてしまったとかないだろうな。

 

もしもそんな事になっていたらこの温厚そうなフィンでも、怒りに満ちてまた先程の地獄絵図になってしまうかもしれない。

 

 

「じゃあ、開けるよ」

 

「うんうん」

 

ワクワクと楽しみにするフィンを横目に箱を持つ指が震える。

 

「…えいっ!」

 

思い切って箱を開放する。

途端に箱からは無造作に光があふれ出てきた。

光は部屋中を照らし出しとても目を開けてはいられなくなった。

 

「眩し…っ」

 

「うひゃあ」

 

「……」

 

光の中から何かが動いている気配がある。

だが有余る光が眩し過ぎて両手は目を覆うことしか出来ない。

10秒ほどすると溢れ出た光がおさまった。

 

「あ、終わったの?」

 

「びっくりしたなぁ

 それで〜オリアスは〜」

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いない

箱は空っぽにだった。

周囲を見渡しても何も変化はない。

 

背筋がゾッとした。

 

…いや、

風が吹いている。

改めて見ると閉まっていたはずの窓が開いている。

 

「エル、窓から何か外に出て行った」

 

「え!」

 

「捕らえようとしたら突かれて逃げられた」

 

ラフォードの白く細い指を見ると30cm定規のような小さな斧がツッと刺さっている。

幸いにも傷は深くはないようだが神経が集まる指先なので体感では相当痛いはずだ。

 

「あ〜これ、これはオリアスの斧だよ〜

 オリアスは本当に中に入っていたんだね」

 

「ホント!?」

 

先ずは一安心できた。

そして次は鬼ごっこをしなければならない。

 

「エル、外に行って追いかける」

 

「うん、行こう

 フィンさんは?」

 

「ちょっと待って

 ラフォード、その傷を見せて」

 

斧を指から無造作に抜こうとするラフォードを不意に呼び止める。

こちらの逸る気持ちをよそに当の本人は余裕綽々だ。

 

「ゴメンね〜

 オリアスのせいで怪我しちゃったからさ

 今からゲハルトに治してもらうから」

 

そう言うと共に左手の人差し指をクルクル回すとその指の所からまた新しい何かが現れた。

路地での者達とは別に今度のは帽子を深く被った小さいものが浮かんでいる。

 

「ゲハルト

 この子の傷を診てあげて」

 

「… … …」

 

フィンに耳打ちをするような仕草で話している。

小声で話しているつもりのようだが小声と言うほどでもない位の音量だ。

しかし聞こえても話している言語が解らないので結果としても何を言っているのか解らない。

 

「大丈夫だよ

 オリアスを見つけてくれたんだよ

 だから、いい人たちだよ〜」

 

金髪を揺らしながら自ら召喚したゲハルトと呼ぶものと笑いながら会話をしている。

 

だから、いい人…か。

よっぽど人を信ずることが好きなのか、それすらもどうでもいい事に入るのか。

 

話をするよりも早くオリアスとやらを追った方がいいと思うのだが。

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「ゲハルトやってくれるって〜

 ねえラフォード、指を出して」

 

ゲハルトは傷ついた指に近付いて何やら念じ始めると指が薄い光に覆われた。

ゲームやらで見たことがある俗に言う回復魔法っぽい感じがする。

ちょっと異世界の空気が出ている気になった。

 

「どう?元気になってきた?」

 

「痛い」

 

治していると思ったら、本人その感想はそれだった。

本当に治しているのか。

 

痛いなら痛い表情を見せてくれ。

やせ我慢は他を余計に心配させる。

 

「ははは」

 

笑っている。

出会ってからというもの、どんな状況下でもフィンはいつでも笑っている。

なので一寸だけ見える笑っていない時の表情はが恐ろしく、肝が冷える。

 

「ちょっと!止めて!」

 

このまま痛みが続いていくのではないかと心配して慌てて声をかける。

被害が拡大してしまうのかもしれない。

 

「止めさせて!」

 

「エル」

 

振り返るとラフォードはいつもの表情で呟く。

 

「痛みが、消えた」

 

元通りだぜ、と言わんばかりにこちらに指を見せ付けてくる。

元々大した怪我とは言えないが本当に傷がすっかり治っている。

 

「ゲハルトはね、怪我を治せるんだけど、治るまでは痛いんだよね

 心配してた?」

 

「それとも、私を疑った?」

 

「はぁ…」

 

「うふふ

 ゲハルトの治療はその痛みに耐えられないくらいの怪我までは治せないの。

 怪我が治っても死んじゃうと意味無いもんね」

 

嬉しいのか嬉しくないのか…

妙な特技だ。

ゲームや王道の漫画みたいに単純にケアれないのか。

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「よし、じゃあ行こう」

 

指を確認していたラフォードも大丈夫と頷いたのを機にオリアスを追って外へ出る。

 

「あ、ちょっとまって」

 

再びフィンに呼び止められ出鼻をくじかれる。

 

「早くしないと見当も付かない方向に行っちゃうよ」

 

何度も二の足を踏まされるとヤキモキしてしまう。

急いでいると言うのにこの笑顔と落ち着きは一体なんなのだろう。

 

「召喚?」

 

落ち着け、と言わんばかりのラフォードの一言。

召喚術が探し物に使えるならオリアスって奴を探す時もそれで探したらよかったのに。

 

「当たり〜鋭いね〜」

 

当たりらしい。

拍手を終えるとゲハルトを出した時と同様に指をクルクル回すと、今度は先ほどと同じ外套と異なる帽子を被った小さいものが現れた。

黒い外套は全身を包み、その中はどんな物かも不明だ。

 

「やあ 久しぶりだね。

 どうしたの?」

 

「エスポス〜箱から逃げ出したオリアスを探して〜」

 

「しょうがないな

 その代わりに今度ケーキを奢ってよね」

 

召喚術、というよりか友達感覚だな。

主人の威厳はどこへやらだ。

 

説明
書いていると話が横道にそれすぎてなかなか進まない感じが;
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