【ショートショート】3mの絵の女
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「逃げろ」

 

ある大きな部屋にて、男はさけんだ。

 

男の目の前には絵があった。縦3m、横3mという大きな絵だ。

その絵には、貴婦人が大きく描かれている。

 

「ああ! 君を借金取りどもの手に渡したくない!

 でも、君のいる絵は、大きすぎて持ち運べない。

 お願いだ、せめて絵の外に出てきてくれ。私と一緒に逃げよう!」

 

男は、絵の持ち主だった。

そして絵の中の貴婦人に恋をしていた。

 

「家財道具はすべて、借金のカタとして持っていかれたが、

 あんなものはどうでもいい。君さえ無事ならそれでいいんだ。

 頼む、絵の中から出てきてくれ!」

 

「お困りのようですね」

 

男の背後から声がした。

 

「だ、誰だ!」

 

男はふりむく。そこには、悪魔がいた。

 

「私は悪魔と申します。どうやら困っているみたいですね。

 私でよければ、あなたの願いをかなえましょう」

 

「悪魔だと? 本当なのか?」

 

「信じないなら、それで結構です」

 

「……いや。このさい、悪魔だろうが、天使だろうが、

 なんでもいい。私の願いをきいてくれ。

 絵の中の貴婦人を外に出してほしいのだ」

 

「お安いごようで」

 

悪魔は絵に魔法をかけた。

不気味に輝く光が、絵の中に吸い込まれていく。

縦3m、横3mの絵から貴婦人の足が、手が、頭が出てくる。

そして、貴婦人は絵から完全にぬけだした。

 

「ああ……。なんてことだ」

 

男はなげいた。

男の目の前には今、貴婦人がいる。

顔も気品も絵の時と同じで、文句のない美しい姿だ。

 

惜しむらくは、身長も絵の時と同じ、3mだったことである。

大きな、大きな貴婦人だった。

 

貴婦人は男を見おろして言った。

 

「はじめまして」

説明
【作者より】
ショートショートという短い形式のお話です。
今は亡きホームページに、アップしていた作品です。

【あらすじ】
男は、絵の中の女性に恋をしていた。
ある日、借金のカタとして
絵を売却することになってしまった。
男は、絵の中の女性に「逃げろ」と願うが…
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ショートショート 掌編 五分小説 

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