真・恋姫†無双〜恋と共に〜 #17
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#17

 

 

 

翌日、俺たちは美以たちに別れを告げ、南蛮を出た。こう言っては失礼だが、あの美以たちが餞別にと果物をくれたのは驚きだった。贈り物を黒兎と赤兎に積むと、俺たちは邑を発つのであった。

 

 

 

「さて、今度はどこに行こうかね…」

「………一刀と一緒ならどこでもいい」

 

 

 

いつも通りのやり取りなのに、その言葉に胸が高鳴るのは、きっと恋への気持ちを知ったからだろう。俺は動揺を隠しながら、今度は東へと進路をとった。

 

 

 

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10日ほど歩いただろうか、俺たちの目の前には、巨大な水の流れが広がっていた。

 

 

 

「……すごい」

「あぁ、凄いな………」

 

 

 

おそらく、こいつは長江だろう。その広大な流れは、悠久の時を経ても、いまだ続いていく。

俺がちょっとした感傷に浸っていると、恋が袖を引っ張った。

 

 

 

「一刀…誰か、いる」

「ん?」

 

 

 

恋が指を指す方に目をやると、数百メートル先の川縁にひとり、座っている人間がいた。

 

 

 

「ちょうどいいな。人がいる、ってことは街か邑がある、ってことだ。あの人に近くの街を聞いてみようか」

「…ん」

 

 

 

俺の言葉に恋は頷くと、馬をそちらへと進ませた。

 

 

 

 

 

「あの、すみません。ちょっとお尋ねしたいんですが」

「………なぁに?」

 

 

 

俺が声をかけたのは、一人の女性だった。褐色の肌に、桃色の髪。コバルトブルーの瞳からは、ゾクリとするような光が感じられる。

その女性はひとり、ぼんやりと釣りをしているところだった。いつからやっているのかは分からないが、なかなか盛況のようである。魚籠の中には、3尾の魚が泳いでいた。

 

 

 

「あ、はい。実は、近くの街までの道―――」

「あっ!ごめん!!ちょっと待って!!」

 

 

 

俺の問いかけを遮った彼女は、竿を持つ手に力をいれる。どうやら仕掛けに魚が食いついたようだ。竹竿がしなる。

 

 

 

「来た来た来たぁぁあっ!」

 

 

 

俺と恋は、言われるままに彼女が釣り上げるのを待つ。しかし、大きな抵抗は最初だけで、すぐに竿がまっすぐになると、女性は難なく魚を釣り上げた。

 

 

 

「うん、今日も調子いいわね。………あぁ、で、なんだっけ?」

「見事なものですね。先ほどの話なのですが、俺たちは旅の途中でして、この近くの街への行き方を教えてもらいたいのですが」

「いいわよ?」

「ありがとうございます」

「ただし、条件があるわ?」

「………………………………え?」

 

 

 

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「(はぐはぐもきゅもきゅ)」

「こら、恋。落ち着いて食べなさい」

「(はぐはぐはぐむしゃむしゃバリバリ…)」

 

 

 

貴女もですか。

 

 

 

回想

 

 

「条件があるわ。貴方たちの荷物をちょっとだけ分けて欲しいの」

「はい?」

「あぁ、別に賊とかじゃないわよ?単に、焼き魚用の塩を忘れちゃったから、持ってたら分けて欲しいだけなの」

「なんだ…。それくらいならいいですよ」

 

 

 

一言目はなんの冗談かと思ったが、本当に冗談だったみたいだ。

俺は黒兎から降りると、塩を取り出す。確か、恋の荷物に突っ込んでおいたはずだ。恋とセキトも赤兎から飛び降りると、荷物下ろしを手伝ってくれた。

恋の頭を撫でてやり、女性に向き直ると、塩を渡す。

 

 

 

「ありがと。よかったら貴方たちも食べていかない?」

「いいの?」

 

 

 

恋さん、即答ですか!?………そういえば、そろそろ昼時だな。恋の腹はとっくに限界に近いだろう。

 

 

 

「あはは!即答ね。いいのよ、今日も調子いいし。それに、そろそろお昼―――」

 

 

 

ぎゅるるるる……

 

 

 

「―――だし、そっちの女の子もお腹が空いているみたいだしね」

「じゃぁ、折角なんで、お言葉に甘えさせてもらいます」

「あ・と」

「?」

「そんな堅苦しくしなくていいわよ。もっと普通に話しなさい」

「………ははっ、わかったよ」

 

 

 

こうして俺たちは、ご相伴に預かることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ〜それにしても、この娘よく食べるわね」

「………ごめんなさい」

「あぁ、そういう意味じゃないわよ、もう。いいのよ、見てて可愛いし」

「だってさ、恋」

 

 

 

俺と女性は食事を終えて、美以たちから貰った果物を食べていた。恋は、魚を焼いている間に追加で釣り上げた魚を食べている。

 

 

 

「それにしても、この山桃大きいわね。どこで採ったの?」

「あぁ、これは貰いものだよ。先日南蛮の邑に立ち寄ってね。そこの人たちと仲良くなって、邑を出る時に、餞別でくれたんだ」

「へぇ、南蛮に行ってたんだ?私はこの揚州から出たことがないから話にしか知らないんだけど、どんなところなの?」

「そうさなぁ………まず、植物が違っていたね。この辺りのものよりもずっと丈が高くて、蔦が絡み付いてたりするんだ。

あと、馬鹿でかい蛇もいたよ」

「どのくらい?」

「確か…2丈(約6m)くらいあったかな」

「はぁ!?そんなに大きい蛇がいるの!?い………南蛮って凄いのね。で、その蛇を見たとき、貴方たちはどうしたの?」

 

 

 

 

 

「………おいしかった」

「………………………え?」

 

 

 

恋の言葉に彼女はこちらを振り向く。

 

 

 

「ん〜…ちょうどお腹も空いていたし、蛇自体は食べたことがあったから、焼いてみようかな、ってね」

「2丈もある蛇を食べるなんて、あたしには想像もつかないわ………」

 

 

 

 

 

振り向いた彼女の両目は、呆れと驚きとで、これでもかというくらいに開かれていた。

 

 

 

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「………ごちそうさま」

「お粗末さま。さて、食事も終わったことだし………」

「そうですね」

「………勝負するわよ?」

「………………………………………え?」

「2丈もある蛇を倒すくらいなんだから、相当強いんでしょ?だったらあたしと勝負しましょうよ」

「まぁ、恋がいいって言ったら………」

「何言ってるの?あ・な・た・よ?隠してるみたいだけど、あたしにはバレてるわ。貴方、相当の使い手でしょ?もちろん、そっちの貴女もかなり強いんでしょうけどね?」

「マジっすか…」

「ほら、魚代よ。それに、この娘もあたしと貴方の勝負を見たい、って言ってるわよ?」

 

 

 

そう言われて恋を見ると、どこか、瞳をきらきらとさせている。そんな目で見ないでくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………ヤル気になるだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は了承の意を伝えると、立ち上がって腰の野太刀を抜く。

対する彼女も、地面に置いてあった剣を手にとると立ち上がり、鞘から抜いた。

 

 

 

「あれ?二刀流じゃないの?」

「ん?これはちゃんと使い時があるんだよ」

「へぇ?あたし相手に手を抜いてかかるとは…いい度胸じゃない」

 

 

 

そう言った途端、彼女から溢れんばかりの闘気が発せられる。

 

 

 

「(強いな………少なくとも、出会ったばかりの華雄や霞だと太刀打ちできないかもな)」

 

 

 

俺は素直にそう思った。

 

 

 

「あはは。君もそう言うんだね」

「君も、ってことは、他にも同じことを言った人がいるの?」

「あぁ。今では俺の友達なんだけど、初めて仕合をしたときに、同じように怒ってたよ」

「ふぅん………ちなみに、その友達の名前は?」

「華雄、って言うんだけど………知ってるかなぁ」

「へっ?あの華雄?」

「知ってるのか?」

「えぇ、一度会ったことがあるのよ…。まぁ闘ったのは母様なんだけどね」

「ふぅん………ちなみに勝敗は?」

「もちろん、あたしの母様の勝ちに決まってるじゃない」

「へぇ、君のお母さんって凄い人なんだね」

「ふふ、ありがと。さて………貴方とのおしゃべりも楽しいけど、そろそろ始めましょうか」

「そうだな……いつでもいいよ」

 

 

 

 

 

俺が返すや否や、彼女は先ほど以上の闘気を出しながら、斬りかかってきた。

 

 

 

 

 

「くっ…(まさかさっきのが本気じゃないとはな………待てよ?華雄と闘ったことがある?………母親が?………………まさかっ!?)」

 

 

 

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「ほらほら!避けてばかりじゃあたしに勝てないわよ!?」

「悪いが、これが俺の戦い方なんでね」

 

 

 

どうやら、彼女は恋と同じタイプの武人らしい。理によって攻めるのではなく、ただ本能、あるいはセンスのみによってどこをどう斬れば一番効果的か、身体で感じ取っているようだ。

 

………まさに天賦の才だな。

 

左からの薙ぎを野太刀で軌道をずらし、刀を水平にして右腕に一瞬力を込める。彼女の注意がそちらに行ったのを見た俺はすぐさま右手首の間接をさらに右に回し、斜め下から切り上げようとした。

 

 

 

「甘いっ!」

「っ!」

 

 

 

やっぱりな。水平斬りではどうやっても避けられるため、あえてフェイントを入れては見たが、彼女には通じなかったようだ。彼女はすぐさま剣を持つ腕を逆に斬り返してくる。

俺は身体の傾きを利用して、あえて右に屈んでその太刀を躱すと、一端距離を置いた。

 

 

 

「あれ、おしまい?」

「いや、君の持つ才能に驚いてね………。一つ、いいかな?」

「………何?時間稼ぎのつもり?」

「そんなんじゃないよ。ただね………君の名前、当ててみようか」

「………おもしろいじゃない。やってみなさい?」

「『孫策伯符』」

「っ!?………どうしてそれを?」

「いや、君のお母さんが華雄と闘って勝ったって話と、君自身の覇気と才能からね。………やっぱりそうだったか」

「………貴方って、本当におもしろいわ。あたしの顔を元から知っていたのか、って最初は思ったけど、あたしの立場を聞いたら、そんな言葉遣いで話すわけないしね。貴方、名前は?」

「姓は北郷、名は一刀。あいにく、俺は漢とは異なる国から来たから、字も真名もない。好きに呼んでくれ」

「じゃぁ、一刀って呼ばせてもらうわ。あたしの真名は雪蓮よ。これからはそう呼んでちょうだい」

「いいのか?ある意味、すごい怪しいぞ?」

「大丈夫よ、一刀は。あたしの勘がそう言っているもの」

「勘かよ……じゃぁ、ありがたく預からせてもらうよ、雪蓮」

「えぇ。じゃぁ………続きをしましょうか」

 

 

 

 

 

そうして再戦を始めようとしたその時、遠くの方から一頭の馬が駆けてくる音が聞こえてきた。

 

 

 

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ドドッ、ドドッ………

 

 

 

「やっぱりここにいたのね、雪蓮」

「あら冥琳じゃない」

 

 

 

馬に乗ってやって来たのは、一人の女性だった。雪蓮と同じく褐色の肌に、長い黒髪を風に揺らしている。眼鏡の奥からは、理知的な視線が覗いていた。

 

 

 

「どうしたの、こんなところで?」

「どうしたの?ではない。また政務を怠って抜け出したりして。城門の兵に聞いたら、貴女が釣竿を持って出かけてと言っていたから、まさかと思って来てみれば………」

 

 

 

冥琳と呼ばれた女性は、溜息を吐く孫呉の王である雪蓮にこんな風に話しかけられるとしたら、おそらく周瑜しかいないだろう。知性的な話し方からも、彼女が文官であることが窺える。

 

 

 

「あはは、ごめんごめん。帰ったらちゃんと仕事するから、お説教は後にしてくれない?今すごくいいところなのよ………ね、一刀?」

「え、俺?」

 

 

 

いきなり話を振られて素で返してしまった。

 

 

 

「駄目よ、雪蓮!昨日も一昨日もそう言って城から出ていって、結局やってないではないか」

「あれ、そうだっけ?」

「そうだっけ、ではない!そろそろ、ちゃんと仕事をしてもらうぞ?いいな?」

「ヤダ」

「ヤダ、って………駄々っ子みたいなことを言うな」

「だって、いま一刀と勝負してるんだもん」

 

 

 

雪蓮のその言葉に、ようやく周瑜の注意がこちらに向いた。

 

 

 

「はぁ………悪かったな。どうせ、雪蓮からふっかけたのであろう?」

「ん、そうだね」

「悪いが、今日は引き取らせてもらう。また、彼女が休みの日にでも、相手をしてやってくれ」

「あぁ」

「ちょっと一刀!?折角いい勝負だったのに、途中で止める気なの!?」

「どう考えても雪蓮が悪いよ。仕事をサボるのはよくないな」

 

 

 

俺の言葉に周瑜は再び溜息を吐く。

 

 

 

「はぁ…貴女、またそんな簡単に真名を預けたりして…………」

「いいじゃない、気に入ったんだし」

「はぁ………」

 

 

 

 

 

周瑜は再三溜息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

説明
#17
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コメント
↓まあ、そういう風に武を誇る時代ですしね?。日本でも戦国時代なんかだと、やっぱり自らの武を誇る武将も多いですし、なによりそれが物を言う時代ですからね?。(CL3)
毎回思いますけど基本的に恋姫の武将の戦い方って攻め一辺倒というか、剛の剣というか攻めこそ最大の守りみたいな考え方ですよね?あと春蘭や愛紗の言う武の誇りと言うのもいまいち理解できないんですよね〜。(ハーデス)
>>天覧の傍観者様 おぉ!久しぶりにカッコイイ台詞を聞きました!(一郎太)
うp乙です。彼の者は多くの出会いをつげ、悠久の時を紅き龍と翔ける。南には新たな『王』の器に目覚める密林の獣王。次なるは呉、江東の虎也。王は出会を求め、心を満たす甘露(カンロ)なる美酒を求める。(天覧の傍観者)
>>>シン様 それはよく見る光け…ゲフンゲフン!気をつけないといけませんね(一郎太)
>>紫炎様 愛ではなく、恋だ! よくわからんねw(一郎太)
>>砂のお城様 さて、どっちに転がすのがいいのかな〜♪(一郎太)
>>名無し様 たぶんそうでしょうwww(一郎太)
呉か。この様子だと雪蓮の真名をみず知らずの奴が知っている、とのことで蓮華や思春あたりが、一刀を拒絶するんだろうなー(シン)
はっはっは。さて愛を貫けるかな?(紫炎)
さて、一刀は恋への愛を貫けるのか(BX2)
女難かな?(名無し)
>>sai様 とりあえず、少し長くいさせようかなーとか思ってます(一郎太)
>>320i様 さて、どっちがいいですか?(一郎太)
>>ヒトヤ犬様 たぶん向こうの人は、武器は常に使うものと認識してるんじゃないでしょうか。使わなかったら、「お前なんて武器を使うまでもない」的な(一郎太)
>>よーぜふ様 じゃぁ、その予想を外してやんよ!(一郎太)
>>kabuto様 p(._.)メモメモ(一郎太)
>>クラスター様 あんまり人をからかったりしない一刀君のちょっとした意趣返しですね(一郎太)
>>ロンギヌス様 いや、あの辺は別に劉備とかまだいないんでwww ストップ高?常に右肩上がりですよwww(一郎太)
>>はりまえさま 一刀君がどれだけ誘惑を拒めるかですねw(一郎太)
>>FALANDIA様 付け合せです(´・ω・`)ショボンヌ(一郎太)
>>poyy様 少しは長居させようかなーとか思ってます(一郎太)
呉に来ましたね。一刀と恋はどう雪蓮たちと絡むか楽しみです。(sai)
一刀が「使い時がある」と言ってるのに何故手を抜くと受け止めてしまうのだろう、やはりオツムが・・・(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
なんかもう・・・だいたい先が読めますよね・・・主に雪蓮が恋にぶっとばされる的なノリとかw(よーぜふ)
種がどうとか雪蓮が言って恋がキレるんですね。(kabuto)
初っ端から孫策に絡まれる事になるとは…。ホントにヤンチャだよな、このズボラ君主様はww尤も、一刀の方も孫策の名前を言い当てて、見事に驚かす事に成功したのだから、引き分けと言った所か。(クラスター・ジャドウ)
う〜ん、益州・荊州を通り越して揚州。やっぱりこの大陸、埼○よりふた周りくらいしか変わらないんじゃないかww それにしても一刀たちの原作キャラエンカウント率がストップ高だよww(ロンギヌス)
さて、これでまた血を入れようと計画するような話しになりそうだ。ノリとカンが孫策の持ち味だから面白くなりそうだ。(黄昏☆ハリマエ)
ん、お?炒めた食材はどこへ・・・?(FALANDIA)
今度は呉ですか。さてこれからどうなるんでしょうねぇ。(poyy)
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