レベル1なんてもういない 2−8 |
再び藍の時間の外に出ると相変らず光に満ちている。
空から降る光と同様に夜の時間だからと言って街も眠る事はないようで、太陽の出ている昼間と同様に大通り沿いの屋台や踊る人の姿も見えるが、それらの質や趣が多少違って見える。
元いた世界同様の夜という時間帯らしい怪しく艶やかさが垣間見える気がする。
街並みを横目にオリアスというフィンの召喚獣を追いかけているはずだが…
「こっちこっち」
「あれ?この道は通ったよ」
「これで4度目」
「いちいちうるさいなぁ
オリアスがこっちに来てるんだからそのためには何度だって通るんだ」
召喚獣というのは頭の回転が悪いのか。
「動きを予測して手分けして待ち伏せればいいんじゃないの?」
「楽しいからいいよ〜。
急いでいるわけでもないし」
ハハハ
ご主人とお揃いののん気な性格だ。
だからと言ってこちらまでそのペースに乗せられ続ける訳にも行かない。
こちらとしてはもう夜遅いものだから早く帰って明日に備えたいし。
「じゃあさ、ウチ等はここで待っているよ
挟み撃ちしよう」
「え〜そうする?
解った〜宜しくね〜」
関心が無いとは言わないが考えがあっさりし過ぎている。
そのまま追いかけるフィンと別れてこの場でひたすらに待つことにする。
「エル、
特徴は知っているの?」
「え、あ。
解らないや」
フィンたちに負けず、こちらも鈍かった。
「居やがったな」
オリアスを待ち伏せていると
街の景観を台無しにしてくれる声と共に男が1人やってきた。
「誰?」
「あの時はよくもやってくれたな
借りを返しに手前等探して回ってたんだよ」
あの時
服屋を出たときにドレスを着た子とぶつかってしまった時
ついでに出てきた奴だっけ。
「あぁ、その事ならゴメンね
今忙しいし急いでいるからまた明日聞くよ」
「話を聞け!」
「話を聞いていないのはどちらもでしょう
明日聞いてあげると言ったよ」
「関係ねえ
俺のやる事は俺が決める。
時間もだ!」
いちいちと耳に障る怒鳴り声を上げるので周囲の人々がこちらを向く。
嬉しくない事に野次馬も集まり始めている。
昼間や夕方の時と違って足を止めてみるほど暇な人が多いようだ。
「この街で俺にたてつく奴は誰であろうと許さねえ」
「来い!」
男は一際大きな奇声を上げると似た服装の男がぞろぞろと寄せ集まってきた。
「お前らぶっ潰してやる!」
協力してひとつの事をなすのは悪い事ではないと思っていた。
いかにも人間らしい。
それに引き換え戦いは相変らずラフォード1人にお任せで、こちらは全然協力していない。
この体にどんな力があるかは未だに未知数だがやはり申し訳が無く後ろめたい。
「エルはそこで見てる」
「…」
今までと同じその言葉と共に目の前で喚く近所に迷惑な音が、ものの5分足らずで止んだ。
「単純」
いつもどおり澄ました顔をしているラフォード。
以前の戦いと違い、乱戦にもつれるはずなのだが男達はラフォードに成す術無く倒されていった。
これだけの人数を相手にして息を切らせないなんて…
次は、といった間合いでラフォードは残りの人のほうにゆっくり顔を向ける。
「ひ…」
立っている男たちはその場から逃げるように去っていった。
始めに現れた男の姿は既に無い。
真っ先に逃げ出したのか。
野次馬も去っていき、落ち着いた街並みを取り戻した。
「葵にばかり無理をやってもらってゴメンね」
「そんな事ない
私はこんな単純な事しか出来ない
それと、私ラフォード」
倒置法で来た。
「エルが戦わなければそれでいい
エルが本気になったらこの街は真っ先に世界から消える」
「そっか
やっぱり駄目なんだ…」
「それとね、今ので少し葵の戦法が見えちゃった」
「エル…」
「鞭、だろ」
「…」
「以前言っていたヒントを合わせるとさ。
そうなったんだ」
その武器ならば遠距離でも動かずに攻撃が出来る。
ただ、その鞘から鞭を出しているのかと言うとそうでもなかった。
鞭の長さとしても遠すぎるし、
鞭はどこに隠しているのか。
あの刀身はまやかしなのか。
解らない事は未だ多い。
「エクスプレス」
「なに?」
「これらの名前」
そう言うと自身の持つ刀身を前に出す。
特急便…あの速度からのこの名前か。
ヒュと音を鳴らし剣を巻いている包帯を解いていくと、それぞれ長さが微妙に異なる5本の包帯を見せてくれる。
いや、包帯に見えたものが平らな、薄く伸ばした金属を強化したもので、ソレを鞘の上から巻き付けていた。
「エル正解
動きは常人には見えない」
「だって知ってるだろ
ウチは勇者だよ
常人じゃないらしいんだぜ?」
「そうだった」
「まあ、何回も見てたしね」
それにしてもエクスプレスの名をラフォード本人が名づけたのかはちょっと疑問だ。
そんな洒落た名前を付ける感覚はあったか…
「だから離れている者を捕まえる事も出来る」
グッと腕を振り1つの鞭を伸ばすと
離れた所にいた何かを巻きつけてこちらに引っ張ってきた。
それは頭と下半身は馬の形を成したもので、上半身や腕は人の形をした小型の存在だった。
サイモンと呼ばれていたフィンの召喚獣同様に重力の概念を無視して仕掛けも無いまま宙に浮かんでいる。
「ぬかった…」
「こいつが…」
「あの箱の光と共に現れたオリアスと言うもの」
「早くご主人の元へ行かねばならぬのに…」
「動くと切れる」
「安心してよ
ウチらはそのご主人様から頼まれて迎えに来たんだよ」
「…信用ならんでござる」
馬の頭をしている癖にそんな話し方とは…
どこぞの馬の骨と思われたくないのか。
しょうがない再びフィンたちがここを通るまでこのまま待っていよう。
「わ〜オリアス〜」
タイミングと言うのは不思議で、フィンが都合よく現れた。
「ご主人…
不覚にも囚われの身に…」
「いいのよ。
その人たちにも手伝ってもらってオリアスを探して回ってたんだから」
「そうであったか…かたじけない…」
「エル〜ラフォードも〜ありがとね〜」
そういうフィンは喜んでいるのだろうが、喜ぶ顔が普段の表情なので今ひとつ実感が沸かないが目的を果たしたこちらとしては達成感に満ちたりた。
「お礼がしたいな〜
今は何も持ってないや」
「お礼なんかいいって
大した事したんじゃないし。
探し物見つかってよかったよ」
「じゃあ…」
「じゃあ私の家まで行こう
それがいいよ」
「ウチ等はコレ…で… … は?」
「そんな暇ない。
私達朝になったらすぐに旅立つ」
そこは譲れまいとラフォードが割ってはいる。
「じゃあ私もついてく」
「は?」
「駄目」
ちょっとした期待や接待みたいなゴマすり感が全く伝わらないラフォードの断り方も直球過ぎる。
旅の一期一会ってこういうものなんだろうか。
「そっか〜エル達はエル達の旅があるんだね
仕方ないね〜」
残念そうな台詞の割に笑顔なのもちょっと怖い。
「あのさ、どっちに向かってるの?
もしかして南西じゃあないの?」
「南西」
「わあ
方向が一緒だよ〜
それならやっぱり一緒に行こう〜」
マイペースのノリに結局乗り切られてしまった。
「じゃあ明日ここに来るから」
一旦宿の前で、フィンと別れた。
明日、と言ってもすでに無数の星の光が降る藍の時間は終わりを告げかけている。
東の地の果てから太陽がじわじわと見え始めている。
「とんだ夜になっちゃったよ」
「エルが手伝おうと言うから」
「でも悪い気はしないだろう」
「…」
ラフォードの答えが帰ってこない。
断る時は一瞬の隙もなかったのに、肝心な事は思ったことを前に出すのが苦手なのも考えものだ。
「ま、いいさ、一休みして服の仕上がりを見に行こうよ」
「ん」
服の発注をしてからと言うもの
ご飯を食べながらも、オリアスを追いながらも、
服の出来が気になってしょうがない。
ちゃんとイメージどおりに仕上がっているだろうか。
声に出しては言えないが、勇者の感じがする感じのものが。
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武器の設定をバラす回とかですw | ||
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