『記憶録』揺れるフラスコで 3
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 魔王とは俗称であって自称ではない。ヒトでは到達できない領域の魔法を駆使し、圧倒的な戦闘力を有する彼らを人々が畏怖と嫌味を込めて付けた俗称だ。彼らと人間が交わすようになったのはいつか定かではない。歴史が刻まれ始めた時にはすでに彼らは存在し、数百年もの年月を対峙しいがみ合い、共存と和解を終えた現代でもこの俗称は根付いている。

 魔王と呼ばれる彼らはどう思っているかは分からない。この俗称に憤りや不快感を感じてはいないらしく、個人によってはその通りだと自嘲している者もいる。

 そう、彼らにも個々に思想や行動基準、好き好みや嫌い苦手は存在する。基本的にはヒトとの関わりを持とうとしない彼らにでも、変わり者というのはいるものだ。ヒトとの関わりを好み、思想と行動基準は気紛れ、好きなものは酒、嫌いなものは不明。そんなロクでもない男が、今目の前にいる。

 

「んぁ…どうしたんですか、兵士さん?」

 

 掌をヒラヒラを揺らしながら機嫌良く挨拶をしてくる魔王さま。その眼は半開きで心地良さそうだ。対峙しているリリオリの心境は真逆。実に不愉快だった。

 周囲には部下達が待機している。警戒をさせながら合図あるまで余計な行動は控えるように伝えている。もっとも、世界の命運だの何だのとプレッシャーを感じていた彼らに余計な行動が出来る度胸があるとは思えない。あるとすれば恐怖からくる突発的な暴走ぐらいか。

 

「こんな場所で何しているんだ?」

 

「んぁにって〜…――――」

 

「……どう、したんだと訊いたんだが?」

 

「にしても最近のヒトはイけねぇな、イけねぇのよ。ナニガだろうね」

 

 会話が噛み合わない。苛立ちが先走るのを抑えつつ、座り込むガサラキの前に立つ。

 

「申し訳ないんだが、ここで飲んでいると迷惑が及ぶのだ。そろそろお開きにしてもらえないか」

 

「男がいれば酒を飲み、女がいても酒を飲む。子供がいれば将来飲もうねって約束する。それがそうだろ、アレだよ、アレ!!」

 

「…聞いているのか」

 

「はっは〜〜。何? 何言ってるの、はっはは」

 

 沸点に届かないよう、抑えながら言葉を紡ぐが盛大に笑われた。何かがビキビキと浮かび上がるのが分かるほど頭は冷静で、細く短い糸がプッツンとブ千切れるほど内心は暴れ狂っていた。待機している部下からは落ち着いて下さいと内線で何度も飛んでくるが、彼女の耳は右から左へ流すことはなく、そもそもフィルターがでも掛かっているように受け付けなかった。

 ゆっくりと、右手が剣に触れる。

 グビグビと一気に一本、酒を飲み干したガサラキが立ち上がり、空になった瓶を後ろに抛り捨てる。ガラスで形作られた瓶が砕け散る音が静寂を作り上げる。

 

「はぁぁぁ〜〜〜〜ん……何? お前も邪魔するわけか」

 

 身体を揺らすことなく、ガサラキはしっかりと地面に立つ。その眼光は目蓋を半分閉じた状態でも鋭く、愉快そうに口に笑みを浮かべる。

 ガサラキ・ベギルスタンは比較的大人しい部類に入る魔王だと聞いている。争いを好むわけでも嫌うわけでもなく、自ら争いの渦中に跳び込む様なことはしない。のんびりとそこにいるだけの存在だと。好むものは酒でその飲みっぷりは凄まじいらしく、日がな一日飲み続け、それこそ世界中の、酒場という酒場を飲み歩いているという。

 

「ん〜〜〜〜〜〜????」

 

 では今はさながら、酔っ払いに絡まれたと認識するべきか。酔っ払いとはいえ、それが普通の人間なら問題ないが相手が魔王であるなら、絡まれたという表現すら生温く感じる。そのことが全身に軽く冷汗を掻かせる。

 ガサラキが一歩、一歩と身体を揺らしながら近づいてくる。剣はまだ抜かず、だが柄だけは強く握り締めて睨みつける。

 

「んぁ」

 

「―――!!」

 

 一瞬、ガサラキが呆けた。次に映したのが、コマをとばしたのかと思うほど素早く接敵してきた身体と振り上げられる脚だ。頭部を狙った蹴りが生み出した風が髪を乱し、肉を薙ぎ払うのを感じつつ寸でのところで後ろに避けて後退する。

 

「俺は酒飲んでるだけだぞ」

 

「これ以上、抑えたくないからな」

 

 息を飲んで気を鎮め…冷汗が止まる。

 彼らとの戦争が終わる以前、子供向けの書物の中に魔王と呼ばれる存在が作り出された。数人の仲間を引き連れ、常人にはない強さを持つ人間だ。創造とはいえ、その強さは魔王にも匹敵する人間を許容することができることは凄いと思い、同時に吐気もした。魔王に勝つ、ということはその魔王を越えたことに他ならない。民衆が気付けば勝利の歓声は、瞬く間に新たな脅威の誕生に対する阿鼻叫喚に変わり、二度と戻れないだろう。

 そして、いま彼女は魔王と立ち向かう書物の人間に似た行動をしようとしていることに自身で嫌悪している。吐気とはここから来ている。

 

「酒のつまみは喧嘩だってか?」

 

「警告はしたぞ」

 

「んじゃあ、美味しく飲ませてくれ」

 

 引き抜き見せるのは互いの狂気(やいば)。駆け出したのがどちらが先だなんて分かるはずもなく、接敵し気付いた時すでにガサラキの拳は振り上がっていた。華奢にしか見えない腕が放つ威力など高が知れている。だが、それが人間であればの話だ。喩え急所から外れていようとそれは、ヒトにとって一撃一撃が必殺に等しい。

 

「はっは〜」

 

 繰り出される拳と蹴りを後退と横跳びで回避し続け、間合いを保とうと動き回る。

 

「んだぁ、つまみには程遠いぞ、おい」

 

 ガサラキが放つ挑発にリリオリは反応しない。口を開かず、何も返さずで動き回る。

 部下達に動きは見られない。待機を命じたままだから援護射撃もないのも当然だ。牽制も必要はなく、むしろ今のリズムを崩されては洒落にもならない。どの道、内線から聞こえてくる不気味なまでの不安の連鎖から察するに、精神的にはもう潰れ始めていて使えそうもないが。

 身体能力で魔王であるガサラキに勝てるはずもない。だが彼の放つ攻撃は動作が大きく、その身振りから判断すれば速さなど関係なく容易く避けられる。距離を稼いで逃げ回るのは、あればあるだけガサラキの動作が大きくなりやすいからだ。酔っているだけあって、動きに雑も無駄も多い。

 だというのに、リリオリは立ち止まった。迫るガサラキの拳を、今までの行動に反して脚を軸に身を捻りかわす。紙一重の回避によって得られた自身の得意とする間合いに、そして調子に乗る彼らをひれ伏させるために―――

 

「上等だ」

 

 笑みと、眉間を狙う鞘の刺突で応じた。

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 一方、建物の影で待機していた部下達はどうすれば好いのか判断しかねていた。

 市街地に到着するまで魔王との戦闘が世界の情勢を変えると、自分たちが変えてしまうのかと内心から溢れる恐怖と不安に押し潰されそうだった。何を話しても拭いきることは出来ないと口を閉ざし、目の前が真暗になるものもいただろう。

 

『ど、どうするよ』

 

「どうするって…」

 

 インカムから洩れる他班の言葉に動揺が伝わる。だがそれはこちらも同じだ。

 到着してみればただの酔っ払いで、実は魔王というのもガセではないかと思っていたのがどうだ。決闘場となった市街地の大通りで、鬼教官ことリリオリ・ミヴァンフォーマは一人で魔王と対峙し、放つ体術をかわし続けていた。そこから発せられる、初めて体感する戦場特有の覇気に気圧されて彼らは建物に隠れるようにして萎縮していた。

 

「大佐の援護射撃を―――」

 

『そんなの見てから言えよ』

 

『ああ…大佐、三メートル以上跳び越えてるぜ』

 

 割り込んできた二人の会話に、否、それ以前から視線は建物の影から先を見つめている。逃げるリリオリと暴れて追うガサラキ。大きく振るわれる腕や脚こそ当たってこそいないが勢いも流れも一方的過ぎだ。

 二人がいる大通りは幅で云えば十メートル近くはある。大きな町のないリオークスの中でも一位二位の大きさだ。その大通りの三分の一相当の距離を一度の回避で稼いでいる。否、そこが彼女の跳べる限界で、ギリギリあの凶器から逃げられる間合い。稼がないといけないのだ。それでも足りないだろうが、稼がなければ届いてそれでお終い。相手は魔王だが、その魔王と戦うリリオリは人間の限界を試されている。

 

『あんな奴ら相手に、俺達が何が出来るってンだ…』

 

 リリオリがリオークス基地に着任して以来、訓練の厳しさが急激に増したことに兵士達からの評判は若干だが悪かった。理由は云うまでもなく、学校で教えられる体育に武器の扱いが追加されて少し発展した程度の訓練しか行っていなかった彼らが、リリオリの扱きについていけてないからだ。

 リオークスには市街地はあるものの首都部などの都市と呼べる規模の街は存在しない。軍が出動するような事件すら起きていないのが状況だ。平和の中で生まれ育ち、実戦だけでなく訓練すら平和ボケした彼らに魔王の相手など出来るはずもない。

 

『銃だなんて、碌(ろく)に撃ったことないんだぞ。援護射撃どころか大佐諸共撃ち殺しちまう』

 

「だからって何もしないのは」

 

『じゃあ撃てるのか、あんなに跳び交っているのに』

 

 機関銃など持って構えようとはしているが、肉体を鍛える前に精神を鍛えることを第一に置いているリリオリによって素振りなどの基礎訓練しか行っておらず、銃器に関する訓練なんて微塵もしていない。

 今更ながら、自身の訓練不足に後悔が突き刺さる。平和が人を腐らせるとまでは云わないが、それでも何かが朽ち果てていたことを理解した。

 

『そもそも単身で魔王に対峙しようってのが間違いなんだ』

 

「な…貴様、何を言い出す」

 

『当然で当たり前のことだろ。もう何時かは知らねぇけど、かつては片手間さえあれば一瞬で街吹き飛ばしてた奴相手に一人でやるなんて、大佐もどうかしているぜ』

 

 遂に不安が零れ出した。最も恐れていたことだ。一人でも洩らしてしまえばすぐに不安は伝染してしまう。それが誰もが溜め込んでいたものなら尚更だ。インカムの向こうで、内線から飛び火した感情は一人、また一人とうつっていき、無理だ敵わないと誰もが言い始めた。

 その思わず呟いた言葉がまた飛び火して心を黒く深く染めていく。まるで伝染病か呪いの類いだ。止められない、止まらない。

 

「くそ、どうしろってんだ」

 

『どうしようも出来ねぇって』

 

『大佐だってジリ貧状態なんだ。いずれは…』

 

 黒くなり掛けていた視界が再びリリオリとガサラキを捉える。リリオリが避け、ガサラキが追う。状況は相変わらずだ。互いの表情にすら変化は起きていない。一転もしていないということは、誰が呟いたか分からないジリ貧だと、やがて体力が尽きてくれば終わるということだ。すでに時間の問題になり始めている。

 リリオリだってそのことは理解しているはずだ。そして、ガサラキを間合いに入れるということは必死はほぼ確定であることも。

 

『やっぱり魔王と戦うなんて無謀すぎたんだ』

 

 銃口が下がる。意図的ではない。だが力は入らず、持ち上がることはない。心が支えようとしていた支柱は不安の呪いによって朽ち果てて腐り落ち、重荷に耐え切れずに折れた証拠だ。

 絶望的だ。事態が露見すれば、おそらくガサラキを殺しても待ち受けているのは世界戦争。弱く脆いヒトが住む世界にとって魔王は危険な存在だと、再び火を炊き付けてしまう。事態を鎮圧させるという唯一の回避手段が不可能である以上、既に手はない。

 だというのに、あの大佐は立ち止まり呟いた。まるで部下達の不安を一蹴するように。

 

『上等だ』

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 目的は鎮圧であるため、ガサラキを殺す必要はなく、むしろ殺してはならない。彼の死が引金にもなりかねない。眉間に切先を突き立てる以外にも、抜身による頭部への攻撃はそれだけで即死に繋がる。だから剣ではなく鞘を使ったのだ。なにより彼女は右手に剣を、左手に鞘を持ち振るっていた。リリオリに利き手は右手だが、こと武器に関しては利き手など関係なく両方とも使える。自らそのように矯正したのだ。

 搗ち上げられたガサラキの頭。搗ち上げれたのは頭だけでなく、一瞬とも云える突進力とそれに合わせた迎撃によって何倍にも膨れ上がった反動が彼の身体を地から脚を引き剥がした。貼り付けられた狂喜が滞ることはない。体勢も整えず、ガサラキは脚を振るい薙ぎ払う。

 

「美酒じゃないけど」

 

 それを這い蹲るようにしゃがみ、頭上でやり過ごすのを待ってから引き寄せていた鞘を振り上げた。大きく反るガサラキの身体。ここで畳み掛けようと切り返し踏み込んだ。振るう、振るう振るう。鞘が壊れることなど考えもせず、ひたすらガサラキの頭部のみを狙って打ち込み続ける。

 右に打ち込めばガサラキは右に反れ、左に振るえば左に反れ、頭上高くから振り下ろせば身体がくの字に折れ曲がる。それら全てを受けるガサラキの表情が歪む。痛みからでも苦悶からでもなく、鞘による一撃一撃によって強引に変えられているのだ。

 渾身の連撃。常に全力で、殺さないために鞘を使っているのにむしろ首の骨を叩き折る勢いで撲殺しようとしている。それでも足りない。ならばもう一撃、さらに一撃と踏み込む。

 

「酔い潰れろよ、魔王」

 

 振り上げる。限界まで引いた鞘を、地面を擦り、聞こえる悲鳴を無視して。身体に直撃した鞘がしなり、軋みを上げて砕け散る。それでもまだ振り上げ、残った僅かな鞘がガサラキの顎を押し上げた。

 再び宙に浮くガサラキの身体。執拗に狙った頭部への攻撃は確実に彼の意識を叩き伏せているはず。たとえ魔王であろうと身体の構造はヒトと同じなのだから。

 

「ハッ」

 

 だが聞こえてしまった。零れた呼吸とも取れるが、しかしそれは空笑い。咄嗟に身を引いたのは直感からくる危険信号で、それは正しかった。瞬時に体勢を直したガサラキが大きく振るった右手。当たらず空を切ったにも関わらず、その軌道をなぞる様にアスファルトが砕け粉塵が舞い上がった。

 

「くそっ、修理代を掛けさせるな」

 

 舞う塵を振り払おうにもその量は膨大。視界だけではなく、建物をも飲み込むほどだ。バックステップで完全に飲み込まれる前に粉塵から脱出し、視界が開けた瞬間、真正面からガサラキが跳び出して来た。

 右手には何もない。要とも云える鞘はすでに砕けている。左手には剣が握られているが、使うわけにはいかないと押し留める。振りかざしたところで間に合うはずもない。使ってはいけないと身体を止めたのが失敗だった。

 

「ごふっ」

 

 ズンと響く衝撃を全身で受け、深々と突き刺さった蹴りはリリオリの腕を巻き込みながら腹部に直撃。

 身体は意思もなく急加速する。地面にバウンドなどしない。見ようによっては滑空にも見えるだろうその勢いは地面に擦りもせず、リリオリの身体を建物の壁に叩き付けた。

 激突の反動に仰け反り、一呼吸分の浮遊感のあとに続くのは重力に縛られた自身の重さだった。壁の次は硬い地面の触感で、それが全て一瞬の出来事のように感じた。

 

「おぅ、ご〜めんね。もうちょっとで気持ちよくなれそうだったんだけどっさ」

 

 苦悶に耐えていると場違いでしかない陽気な声が聞こえた。痛さから眉をしかめるも、その眼光は衰えることなくガサラキを捉えている。どこから取り出したのか、一本の酒瓶を手にして揺らす。

 

「やっぱ、酒(こっち)には勝てないよな」

 

「それは、すまなかったな。こっちは満足どころではないぞ」

 

「でもよ、それなりに楽しいぜ。ヒトを蹴り飛ばしたなんて何年ぶりだっけか」

 

「相変わらず人の話を聞こうとしないな、貴様」

 

 軽口を吐くも、今の一撃は身体中に響いて上手く力が入らない。痺れている。それでも剣を握っていた左手を引き摺るようにして前に突き出して視界に放り込む。しかしそこに刀身は半分も無く、拳ひとつ分有るか無いか程度しか残っていない。おそらくガサラキの蹴りに巻き込み砕いたのだろうが、反対に剣が妨害したことによって勢いを殺し、五体満足で居させてくれた。でなければ腕を骨折どころか、内臓もいくつか潰されていたに違いない。

 舌打ちを鳴らす。

 

「ったく。どうしてくれる、貰ったばかりの予備だぞ。しかも―――」

 

「ここまで暴れられたのも久しぶりだしな。もう少し付き合ってくれよ」

 

「こいつはこいつで、勝手に続けようとしやがって」

 

 ガサラキは一口含み、咽喉を鳴らして飲み干すと残りを足元に捨てた。というより手を滑らせた。

 

「ぬぉ! 酒が落ちた! 付いた! うぉぉおぉぉ勿体ねぇことした!」

 

 そして覇気も忘れて項垂れ、物凄い勢いで後悔し始めた。洩れて拡がった酒が付くのも厭わず、割れてしまった酒瓶の見つめて今にも泣きそうな雰囲気。挙句の果てにはきつく握り締めた手を叩きつける始末。まるで命よりも酒の方が尊く大切だと云わんばかりの落ち込み方だ。

 

「よくも…よくも俺の酒を…」

 

「…ああ?」

 

「まだ残っているのに…一口しか飲んでいないのに…」

 

「それが…私の所為だと…」

 

「まだ懐に沢山あるけど―――」

 

「勝手に落としたくせに何を言う」

 

 ゆらりと身体を揺らしながら立ち上がる二人。憎しみにも似た、どうしようもできない感情をバネに硬く冷たいアスファルトに脚を立たせる。決戦の最終局面―――に近い雰囲気だが、それに至る要素が乏しかった。

 

「この怨み、万死に値するぞっ!!!」

 

「貴様の思い上がったその戯言、万死に値するっ」

 

 犬歯を剥き出しにして疾走するガサラキ。対してリリオリに彼を迎え撃つことも、回避行動を取ることも出来ない。武器は鞘も剣も砕け散り、気力と根気と怒気で立ち上がったものの身体はまだ痺れている。脚だって震えて、今にも膝が折れそうだ。

 

『大佐、眼と耳を塞いで下さい』

 

「何!?」

 

『早くっ!』

 

 迫るガサラキはすでに目前だ。それでも尚、視覚と聴覚を塞げという部下。選択師のなかったリリオリが選べる唯一の行動はこれしかない。これしか出来ないことを呪いつつ、言われたとおり二つの器官を閉じる。

 暗闇が視界を埋め、届く音は自身の鼓動のみとなった途端、閃光と共に覆された。

 

「クソッタレ! んだこれはっ! ま、眩しッ!!」

 

 まるでテレビの砂嵐のようだ。映るのはホワイトアウトで、聞こえるのは雑音。誰かが近くで叫んでいるようだが、それすらも正しく認識されずに雑音の一つに成り果てる。どうしてこの状況になったかなど、部下の通信から考えれば容易に想像も理解も出来る。

 

「大丈夫ですか?」

 

 白く閉じられた中、突然左右の肩を抱えられた。眼を閉じていたとはいえ、強い閃光を焼き付けたのだから見て確認することはできない。雑音の減った聴覚と状況の理解が出来れば抱えている二人が誰なのか分かる。その一人は声からして起こしに来た男だろう。そのまま持ち上げられると引き摺るようにして移動させられた。

 

「貴様ら…スタングレネードを使うならそう伝えろ」

 

「あの状況でそんな時間ありましたか?」

 

「ああそうだな、無いな。だが、どうしてあそこでスタングレネードなんか…」

 

「おとぎ話に出てくるような化物とやり合って一撃打ち込むような人が目の前にいるんですよ」

 

「しかも、まぐれじゃなくて狙って打ち込んだんだ。そりゃあ、やれば出来るなんて思わない奴なんて男じゃないですって」

 

「おい。それでは私が化物と同じではないか」

 

「そう思うんだったら、人らしく一言ぐらい感謝のお言葉を」

 

「そうか…帰ったら全員訓練のやり直しだ。覚悟していろよ」

 

 徐々にだが視覚が回復してきた。ボンヤリと映る部下の顔は嫌な笑みを浮かべている。

 

「クソ…耳鳴りがまだ止まらないぞ」

 

「スタングレネードを目の前で爆発させたんですから。でも、それは向こうで悶えてる魔王様も同じですよ」

 

「ぬおおおぉぉぉぉううぅ!! 眼が!! 眼がーーーー!! てか酒ーーーーー!!」

 

 五月蝿く叫ぶガサラキの声が入ってくる。頭を振り上げて声のする方を見ようとするがすでに建物の影に隠れており、その姿は見えない。ゆっくりと下ろされ、コンクリートの壁に寄り掛かる。周囲にはコンクリートの壁以外にも、待機していた部下達の姿があった。

 聴覚は本来の機能を取り戻し、視覚もほぼ戻ってきている。どうやら回復し切るまでもうすぐだ。

 

「で、これからどうするつもりだ?」

 

「と言いますと」

 

「スタングレネードを使って時間は稼いだが、もうその効果は切れる。切れたガサラキが私が居ないことに気づいた時、何を仕出かすかだなんて誰にも分からないぞ」

 

「だからと言って今鎮圧しようにも銃による脅しも拘束も効かなくて、何一つ勝る要素はない。まぁ酔ってないって事ぐらいしかないですな」

 

「茶化してる場合じゃないが、その通りだ。よく理解しているじゃないか」

 

「あとは殺してはいけない、ということも解っていますぜ」

 

 手段はなく、途方にも暮れそうな気分だ。

 ふぅ、と息が洩れると力も抜けていく思いがする。

 

『それなんですが大佐』

 

 すると回線が開かれ、別場所で待機していた班長から連絡が飛んできた。

 

『先程リオークス基地から連絡がありまして、あと十数分持ち堪えろと』

 

「十数分持ち堪えろだ。持ち堪えるとどうなるってんだ?」

 

『そこまでは…。基地はそれだけを伝えてきましたので』

 

「十数分か…」

 

 ポツリと零した言葉が重く響いてくる。実に長く、それこそ一日二日から一週間一ヶ月にも感じてくる。しかしそれはあくまで感じているだけで、実際は気が付けば終わっていたと本人ですら経過を忘れるほんの一瞬に等しい単位に過ぎない。感じてしまうのは、殺さず逃がさずでそれだけの時間を稼がなければならないという杞憂から。

 目前で戦ったからこそ解るが、ガサラキの相手をするのはとても面倒だ。倒せない負けてしまうと考えてしまうからでなく、対峙して言葉を聞いているだけでも嫌気が挿してくるのだ。特に噛み合わない会話が気に入らない。だが、それが十数分で終わるのだ。

 視線を部下に振り撒けば、部下達が無表情でリリオリを見ていた。全員の表情は色無き布のように、彼女の放った一言で希望にも絶望にも染まるだろう。

 だからこそ言う。

 

「全員―――持ち堪えろよ」

 

『了解っ!』

 

「了解っ!」

 

 左右から入る覇気ある返事に立ち上がる。休息を終わりにして部下からまた代わりの剣を受け取る。

 明日は意地でも休日にしてやるとリリオリは誓った。

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 白く塗りつぶされた視界に色が戻ってくる。しかしどうにも建物が傾いき歪んで見える。しかしそこには気にはせず、先程まで目の前にいた存在がいないことに驚きの声を上げた。

 周りを見渡してもこの大通りにいるのは自分だけ。閃光が包むその瞬間までいたのに、あの女がいると楽しく酒が飲めないというのに、だから消去らなければならないというのにどうしていないと、怒りだけが積み重なる。

 

「クソッタレがっ」

 

 苛立ちが力を全身を駆け巡らせ、振るった拳が建物の壁を打ち砕いた。崩れて内部が覗けるがそんなものを見たくもない。全てを壊したくなる破壊衝動に駆らせられる。欲しいものが手に入らずに駄々を捏ねる子供のようだ。違うのは暴力を撒き散らして強引にでも手に入れようとするところか。

 

「どこいったあの女ぁ!」

 

 ただ酒が飲みたい。今日もその目的でこの街に訪れたはずなのに、どうしてこんな騒動になったのだろうかと疑問が湧いてくる。早くこの渇きを満たして何もかもを忘れたい。

 だが、そのためには―――

 

「修理代を掛けさせるなと言った筈だが、聞こえなかったか」

 

「そう! お前だよ女ぁ!!」

 

 建物の影から出たリリオリを視界に入った途端、まるで待ち焦がれていたかのように振り向く。

 間合いを取るように大通りを歩く彼女は新たな剣を携帯し、先程と同様に鞘をつけた状態で抜く気はないようだ。しかしそこは関係なく、現れたということしか認識できないでいた。その証拠にリリオリのあとに続いて出てきた数人の部下達には気に留めるどころか気付いてすらいない。

 部下達は散らばり、ガサラキに対して銃口を向けて構える。

 ガサラキの双眸は彼女だけを凝視し、歪んでいた建物や部下達など一切を排除して映っていない。

 

「さっさと俺の前から消え失せろ!!」

 

 両者が再び走り出す。リリオリは距離を取るように、ガサラキは距離を積めるように。そして当然とばかりに追いつく。充血した眼が横目で見つめるリリオリを目前に捉え、タイミングを合わせるように構えた。

 だが―――

 

「ああ、そうだな」

 

 リリオリが脇から放り投げた拳大の塊。その形状には見覚えがある。叩き潰そうと迫るガサラキとリリオリに割り込んできた物体と類似している。となれば脳裏に過ぎるのは視覚と聴覚を潰した閃光。

 腕を振るって払い除けられた塊は回転しながらガサラキの横を転がり落ちる。そして起動し膨らむ閃光は爆発というかたちで衝撃波を殴りつけて来た。

 手榴弾。鎮圧用である閃光弾と呼ばれるスタングレネードとは違い、正真正銘、敵を殺傷するだけの能力を有する殺意ある攻撃だ。

 思わぬところから襲い掛かってきた衝撃に世界は揺さ振られ、表情は驚愕し身体が吹き飛び地面に擦るようにして転がる。停止すると共に、アスファルトに叩きつけるようにして両手をついて起き上がる。

 

「テンメェ…!」

 

「そのとおりさ」

 

 深夜の闇に沈む街を照らし救い出す人工灯が生み出した影が挿した。リリオリを元に出現したものだ。見上げた先に映る彼女の身体から後光のように光が洩れ、その輪郭を映し出す。

 

「私だってこんなところから早く消えたいさ!」

 

「アんだっゴッパァ!」

 

 輪郭がぶれる。不満をぶちまけるが如くリリオリは大きく振るい、迫る鞘が顔面に食い込む。堪えようと踏ん張るが力が上手く入らず、仰け反り無理矢理立たされた。

 再び口を切ったらしく味覚が鉄分に反応する。最初に切ったのもリリオリの猛撃の中であったが、思考が鈍っている今のガサラキにとってどうでもいいことである。不味い。味覚が与えた信号への感想はそれだけだった。

 

「十数分だそうだ」

 

「何が!?」

 

「貴様とこうしているはこれだけだって言っているんだ」

 

「遊ぶだぁ! 生意気言ってんじゃねぇよ!」

 

「知るかっ! 上からの連絡で仕方なく付き合っているんだ、有りがたく思えっ!」

 

 ふん、と鼻を鳴らすリリオリ・ミヴァンフォーマ。

 

「それよりも、そこにいたら死ぬぞ。さっきのようにもう少し激しく動け」

 

「さっきから何言って―――ッ!」

 

 直感だけで駆け出し、直後にアスファルトから小さく粉塵が舞い上がった。

 酔いが醒めてきたのか、急に周囲が見えてくるようになってきた。駆けながら周りを見渡すと散らばっていた彼女の部下達が機関銃の引金を引いて撃っている。その銃口を向けているのは地上だけではない。建物の窓や屋上にも人影があり、撃ってはいないもののいつでも射撃できるように構えていた。

 

「ガサラキ・ベギルスタン。お前を殺す気はない―――というより殺すわけにはいかないんだが。さすがに一対一(サシ)はもう面倒だ」

 

 ガサラキの後を追うように、時には行く先を妨害するように撃ってくる。リリオリに近づこうとするものなら真正面に蔽うように銃弾が降り注ぎ、一定以上離れるものならば大通りの左右に潜んでいた男達に行く手を遮られる。だが狙いが僅かに外されている。特に走っているときは、どちらかといえば脚に照準が定めている。

 

「だから軍隊らしく、こちらは連係で戦わせてもらうぞ」

 

 生かさず殺さず。ただ時間を浪費させる戦法だ。

 まどろっこしいと奥歯を噛む。後を追う銃撃に苛立ち、視線は自然とリリオリに向かう。したり顔で立つ彼女を見れば見るほど憎たらしく、さらに奥歯を噛み砕く。

 身体に残る酒が切れかけている。そのことが余計に苛立ちを大きくしていた。

 酒を手に入れるためならば、飲めるためならばと、遊戯のつもりだった感情は手に入れられぬ故の憎悪に成り代わっていた。

 

「ウザったいんだよっ!!」

 

 リリオリから離される様に走らせていたのを一転、ベクトルをリリオリに向けた。銃を構える男達に彼の憤怒は向けられることはない。銃弾の追跡も含めてリリオリ・ミヴァンフォーマという存在が気に入らないからだ。

 急激な方向転換に関わらず、軽いステップのみで身体への反動はないに等しい。

 追っていた銃撃は対応できず、横を擦れ違いながら目標を見失いそのけたたましい銃撃音は止んだ。狙撃を行っていた男達の照準はもともと甘く、正確に狙っているというのではなく、居る場所に向かって銃口を向けて引金を引いている程度の腕だ。銃の訓練など碌に行っていない彼らに、魔王の動きを誘導するだけでも難しいのにその動きを性格に追わせることなど無理な話だ。

 視界に映るのは再びリリオリのみ。

 

「大佐ーーっ!」

 

 誰が叫んだのか、声が大通りに響く。

 銃口がすべて自身に集まるのを、意識がすべて自身に集まるのを背中で実感するがもう遅い。なぜなら、それよりも速くガサラキが走り、未だ余裕を見せるリリオリを打ち砕くからだ。

 酔いは切れた。腕力も判断力も十二分とはいわないが全力の七分は発揮できる。魔王であるガサラキがヒト一人殺すには十分すぎる凶器だ。

 

「ふん」

 

 だというのに、そのことをおそらくこの場にいる人間で誰よりも理解しているだろう女は鼻を鳴らし、懐から手榴弾を取り出した。素早くピンを抜き、二人の真ん中ほどの距離に放り投げた。

 だが、威力は高が知れている。

 

「馬鹿かっ。もうそれは効かねぇってよっ」

 

 先程もそうだった。彼のすぐ傍で爆発したというのに身体は全く損傷してなく、しかもその直後には走り出せるほどで、ダメージと呼べるダメージもなかった。期待できる攻撃にならず、吹き飛ばされる程度の突風でしかなくなった手榴弾など意味もない。

 事実そう。目の前で起きた爆発は、舞い上がる黒に近い煙と吹きつける風を生み出す以外の意味をガサラキに与えなかった。むしろこの近距離で爆発させては投げた本人が被害を被る。生身といえど、ガサラキはヒトの超越した魔王で、リリオリは貧弱なヒトでしかない。

 粉塵を突き抜け、跳び出したと同時に振り上げた拳が―――

 

「だとしても、目暗まし程度にはなるだろ」

 

 左から現れたリリオリによって叩き落され、斬り返しで飛び跳ねた鞘が鼻を押し上げた。

 強烈な痛みと深く残る盛大に噴出す鼻血がアスファルトを紅くする。

 

「ほぉ。魔王の血も私と同じ赤か」

 

 嘲笑い、薄く浮かべた笑みがリリオリの顔に貼り付けられる。その笑みが酒の切れたガサラキの神経を逆撫でする。

 戦闘開始からリリオリ優勢で進み、彼女の部下が登場してからもそれは変わりない。むしろ現れたことによって武器は一新し、人員も装備も出来たことによって攻防の手段が格段に増えたリリオリは勝てなくても負ける気はしない。つまり彼女の言う時間の浪費は遂行できると思っているだろう。

 そんな彼女達が戦っているガサラキとは魔王だ。かつては地上に存在するどの生物よりも強く、唯一魔法が使えるヒトを超えた超越人種だ。付け焼刃の戦略などガサラキからすれば子供が遊戯で考えた連係にも等しい。先程から振り回されて遊ばれているが、一撃で粉砕することは造作もない。

 だからこそ、怒りが湯水のように湧いてくる。止めるための蛇口はその勢いに負けで、とうに壊れている。魔法を使えば一瞬の出来事と喩えられる如く終われるが、それで晴れる気などなく、より深い怒りと憤りだけが残るに違いない。

 

「血ぃ…?」

 

 それだけは許さない。だから魔法は使わず、全力も出さず、遊戯に付き合ってきた。酒を無くした時の憤慨は消えてはいないが、解消すべき感情は魔王としての自負心。絶対強者であることの証。

 

「血だと…!?」

 

 酒が欲しい。全てを忘れ、ただ酔い痴れる時間の中に漂いたい。

 視界を落とし、入れるのはこの身体から抜け出た自らの血痕。

 頬の皮が引き攣り、顎の筋肉が強張る。

 

「そう血。どうだ、酔いは醒めたか?」

 

 相変わらず魔王を見下ろした態度で答えた言葉にある確信し、面を上げる。

 やはりこの女が、鞘に付いた血を振るって落とすリリオリが邪魔だと確信し、アスファルトを砕いて一歩踏み出す。その間を割って入るように銃弾が降り注ぎ、僅かな停止と大振りな構えが挙動を見計らっていたリリオリは後退する。

 

「醒めたかだと。ああそのとおりだ、今までで最悪の酔い醒めだ」

 

 腕を振るい、周りを包む煙を全て振り払う。その余波だけで襲い掛かって来ていた無数の銃弾は四方に吹き飛ばされ、大通りの左右に佇む建物に着弾する。

 着弾し、削れた壁の粉が舞い落ちる中、

 

「これはこれは、最悪だ。あと数分だろうに、早く時間にならないものか」

 

 緊張感の無い、平坦な口調が気に入らない。

 

「ああ、ならすぐに終わらせてやる。喜べよ人間の女。暴れるのが久々なら酒が切れるのも久々だ。何よりよ、ヒトの身でありながら俺を見下ろすその態度が、何より気に入らない」

 

「関係ないな。丁寧に言っていた最初に大人しく退いていれば、こうはならなかったぞ。自ら惹き起こした問題の責任やら何やらを私に押し付けるな。最も、貴様のお蔭で今ここに居る部下達には良い経験をさせてあげられたのは良しとするけど、…なっ!」

 

 驚き慄くリリオリはどう思うだろうか。

 表情を歪んだ笑みに変え、異様な雰囲気を纏い始めたガサラキを。

 

「けどよ、認めてやるよ。ハハッ、殺してやる、殺してやるさ。お前にだったら使っても後悔しねぇよ!」

 

 ガサラキ・ベギルスタンは彼女の事どころか、リリオリ・ミヴァンフォーマという名前すら知りもしない。精々、軍人でこの部隊を率いる隊長くらいだと判断するくらいだ。最初はただ邪魔だったから追い払いついでに遊んだだけで、徐々に酒切れから来るアルコール依存症のような苛立ちに続き、ついに憎悪にも匹敵する悪意に変わっていた。これが、ガサラキがリリオリに持った感情の変化だ。

 そう、ヒトに向けて殺意を向けるのは何年ぶりだろうか。

 

「これはヤバイ。どうするか……と言われてもだな」

 

 冷静を装っているがリリオリの頬を伝う冷汗が眼に見えて増えている。周囲の男達と交信しているのらしく、傍から見れば独りで会話しているようにしか見えない。

 その間にも、全身を纏わり付くようにある力が激しいうねりを挙げて加速する。奔流となったその力はどす黒い赤にへと色づき、脈打つのを各部位の神経でなく奥底に潜む魂で感じ取る。心臓とは異なる鼓動と打ち、しかしその振動は何よりも強く激しい。

 少しでも腕や脚に力を込めれば収束して、より不気味な輝くを放つ。自然と開いた掌には何もないはずなのに、五指が感じ取る感覚には僅かな重さと小さい温かみが篭っていた。

 その手を振り上げ、高々と宣戦布告と終焉を告げる。

 

「さあ見ろよ女! これが、俺たちだけに備えられた絶対の力! 大地を砕き、天空を割り、ヒトを踏み潰す神の如く遺業だ!」

 

 魔法。

 機械を通して擬似的二次的な魔法を発動させる必要もなく、この肉体一つあれば街は指で弾く如く吹き飛び、軍隊は脚で踏みつける如く壊滅することができる、ヒトには扱えず、魔王のみが駆使できる神秘の遺業にして独占技術。

 

「なに馬鹿を言っている。貴様程度の力で天地人全てを粉砕できるものか」

 

 だというのに、この戦場に跳び込んで来た言葉はそれを否定した。

説明
ついに三つ目を公開しようかとw
思い立ったが吉日の言葉を信じていま踏み切ります。
もしよくわからない人は「『記憶録』揺れるフラスコで」の1と2を読むか、サイトでその続きを読んでください。
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