G×S!「短編集」
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さて、今回は短編集でお送りします。

 

レポート1、「その胸の訳」

 

 

「ねえ、忠夫くん。忠夫くんって女の子になった時最初からそんなに胸が大きかったの?」

 

シアとキキョウの分離を記念してお祝いのパーティーを開いている時にシアはそんな疑問をぶつけてみた。

 

『こ、これ?いや〜その〜…何て言うか……』

 

横島は照れながらも胸を隠すようにしながら言葉を濁すが、タマモがその疑問に答える。

 

「最初はそんなに大きくなかったわよ。そうね、今のシアと同じくらいだったわ」

「マ、マジッスか!?」

『ま、まあね……』

「だったら何故そんなに大きくなったの!!納得の行く説明を要求するのですよ!!」

『じ、実は……』

 

 

 

 

それは今を逆上る事数ヶ月前、他者を寄せ付けないほどに落ち込んでいた横島が百合子達のおかげでようやく自分を取り戻した頃の事。

 

「こんにちは、お久しぶりね横島君。それとも横島ちゃんと呼ぶべきかしら?」

「に〜に〜♪」

 

妙神山に美神美智恵が娘のひのめを連れてやって来た。ひのめは久しぶりに横島に会えたのが嬉しいのか手を伸ばして抱っこをねだる。

 

『からかうのは止めて下さいよ隊長』

 

横島はあれからずっと妙神山で過ごしていた。神魔人の姿のままなので人界に出る事が出来ないらしい。

 

今は神魔界において横島の神魔人としての魔力を抑える為の封印具の研究が進められており、その封印具が完成すれば横島は再び普通の人間として生活する事が出来るようになるのだ。

 

『はあ〜、待ち遠しいわ』

「それより横島君、ひのめを抱っこしてあげてくれない?」

『だ、抱っこですか?』

 

美智恵がそう言いながらひのめを横島に渡そうとするが横島は胸を隠すようにしながら少し後ずさる。

 

「横島君、嫌なの?」

『いえ、別に嫌という訳じゃないですけど……ひのめちゃん、抱くと胸ばかり弄るので……しかも霊波を込めて来るからくすぐったくて』

 

「…うう、ふえぇ……に〜に。ぐすっ……」

 

そう横島がやんわりと断ろうとするとひのめは徐々にぐずり出し、それと同時に辺りに放電が起こり、普段は発火封じの札で押さえているひのめの発火能力が暴走し始める。

 

「ああっ!ひのめのかんしゃくが!!横島君、お願い!!」

『横島さん、私からも頼みます!!このままじゃ修行場が…さすがに三度目となるとただじゃすまなくなります』

 

美智恵と小竜姫に泣いて頼まれると横島もこれ以上は嫌とは言えなくなる。

 

『分かった、分かりました。抱かせていただきます!!……はぁ……、いらっしゃい、ひのめちゃん』

「びえぇ……ふあっ♪に〜〜に」

 

横島が手を差し伸べるとひのめはすぐに泣きやみ、笑いながら横島に抱きつく。

 

『まったく、仕方ないんだから。ん、ひゃうっ!!こ、こらひのめちゃん。だから胸ばかりいじっちゃダメだってば…やんっ!!』

「だーだー。ぱいぱい」

 

胸をいじり回されるが相手がひのめだけに乱暴に引き剥がす事は出来ずにされるがままになるしかなかった。

 

「だーだー。きゃはは♪」

『だから霊波を込めちゃいやーーっ!!』

 

 

そんな事が何回か繰り返された頃、ようやく封印具が完成した。

 

そして集まった仲間達の中の女性陣、特に一部分にコンプレックスを持つ者たちは横島の変わり果てた姿に呆然としていた。

 

「よ、横島クン……一体どうしたのよ、その有様は……」

『どうしたも、こうしたも……ひのめちゃんに揉まれ続けた結果、こんな事に』

 

美神の指さす先には、小隆…小竜姫サイズだったモノが美神サイズにまでスケールアップしていたのだった。

 

「裏切りましたね横島さん!!私の心を裏切りましたね!?」

『ちょっと待ってよおキヌちゃん。裏切ったって何を?』

「へ〜〜〜んっ!!横島さんのバカぁーーーーっ!!」

 

 

そんな妙神山の出来事。

 

 

 

『と、言う訳なの』

 

「と、言う事は私もそのひのめちゃんとやらに揉んでもらえばそのデカメロンが私の物になるのですか……」

『デカメロンて……』

「忠夫くん!!どうすれば忠夫くんが居た世界に行けるの!?」

『シアまで。いや、むしろそれは私が聞きたいんだけど』

「いいなあ、タダくん……」

『楓まで〜〜』

 

そんなSHUFFLE!世界の出来事。

 

 

レポート2、「男と女と父と母」

 

 

『ほれ横島。これが神魔の技術を総動員して作られたお主の為の封印具じゃ』

『有り難うございます、老師!!』

 

神界より帰って来た猿神は金色に光るブレスレットを横島に渡しながら使い方を説明していく。

 

『よし、左手にはめたな。まずは双文珠を作るのじゃ』

『双文珠を?』

 

今の横島は最上級神魔とほぼ同じ力を持つ存在。それ故に以前では作れなくなっていた双文珠も簡単に作れるようになっていた。もっとも、あの時の様に何度でも使える訳ではなく単文珠の様に一度しか使えない。

 

横島が右手に霊気を込めると白い光と黒い光が混じり合う様に渦を巻き、双文珠が手の中に現れる。

 

『では、その文珠に【封/印】と込めて封印具にある丸い窪みにはめ込めば神魔の力は殆んど封印され、元の人間の姿に戻れるぞ』

「じゃあ、これで横島さんはちゃんと人間に戻れるんですね」

『いや、そう言う訳でもない』

「…どう言う事よ、それ?」

 

横島が人間に戻れると喜んだおキヌだがそれを否定するような猿神の言葉に美神は聞き返す。

 

『その封印具は横島の中にある神魔の力を極度に抑え、反対に人の因子を高める物じゃ。その封印がある内は確かに人とほぼ変わりはないが横島が「神魔人」であるという事は変えようのない事じゃ』

「じゃあ、横島クンはアシュタロスや貴方達みたいに魂の牢獄とやらに囚われているってことなの?」

『そうではない。横島はその封印具をしている限り人としての死を迎える事が出来るしお前達同様転生の輪に入る事も出来る。じゃが、美神の嬢ちゃんが魂の結晶を持って転生していた様に神魔人としての魂を持ったまま転生する事になる』

『じゃあ、ルシオラも私の中に居るままなの?』

『いや、死んだ後の魂の状態でならばお主とルシオラの分離は何とか可能の様じゃ』

『良かった……』

 

来世でとはいえ、再会が可能と知って横島は安堵した。そして双文珠を封印具にはめようとした所で頭をよぎった疑問を聞いてみる。

 

『この双文珠って元の姿でも作れるの?』

『極限まで霊力を高めれば可能じゃと思うが、まあおそらく無理じゃろうな。ちなみに開封の【開】の単文珠ならば「半・神魔人状態」になれるからその時ならば作る事も出来るやもしれん』

「そうなの、良かった」

『……何が良かったんですか、美神さん』

『言っておくが文珠の販売は絶対に禁止じゃぞ』

「ちっ!!」

『舌打ちしたよ、この人!!』

 

そしていよいよ横島が双文珠を使って元の姿に戻ろうかという時、おキヌが肝心の二人が居ない事に気付く。

 

「あれ?横島さん。お義母さまとお義父さまは?」

「おキヌちゃん、今何か発音の仕方がおかしかった気がしたんだけど?」

「えっ…き、気のせいですよタマモちゃん」

「本当かしら?」

 

『…あの二人には今日私が男の姿に戻る事は教えてないの』

「何故ですか?」

『あの二人が私が元の男の姿に戻る事を許すと思う?』

「まず、許さないわね」

「許さないでしょうね」

「許さないわね」

「許さないでござる」

 

百合子と大樹の二人は横島が女性の姿になった時、喜々として着せ替え人形の様に色々な服を横島に着せて喜んでいた。男の姿に戻ると知ったらどの様な妨害工作をして来るか分からないので横島はあえて二人には教えていなかった。

 

『じゃあ、行くわよ』

 

そして横島は双文珠を封印具にはめ込む。

すると横島の体を眩い光が包みこみ、光が収まると横島の体は以前の男の姿に戻っていた。

 

「や、や、やったーーーーっ!!戻った、戻った、戻ったぞーーーーっ!!」

「おめでとうございます、横島さん!!」

「これでやっと先生との散歩が再開できるでござる」

「今までサボってた分、たっぷりと働いてもらうわよ」

「まったく、素直じゃないんだから」

 

そんな風に皆が喜んでいると、突然部屋の扉が開き現れてはいけない二人が現れた。

 

「忠夫ーーっ!!今日も可愛い服を買って来たぞーーっ!!」

「さあ、着替えま……しょ……」

「や、やあ、お袋…」

 

百合子と大樹は男の姿に戻っている横島を呆然とした表情で見ている。

 

「た、忠夫、アンタ何で……何で男になってるのよ!!」

「男になってるんじゃなく、男に戻ったんじゃろが!!」

「そんな事はどうでもいい!!何で娘のままでいないんだ、この親不孝者!!」

「あのなーー、あのままじゃ人界に帰れないから老師に頼んで元の姿に戻れる封印具を作ってもらったんだよ」

「……ほう」

「……そう言う事か」

 

途端に二人の雰囲気は変わり、それと同時に辺りの気温も10度位一気に下がった様に冷気に包まれる。

 

「どう言う事だい?」

『ど、どういう事も何も儂はただ、横島の為に』

 

百合子のプレッシャーにたじろぎ、猿神は震えながら後ろに下がって行くが其処には大樹が待ち構えていた。

 

大樹は猿神の頭を鷲掴みにすると力一杯に握りしめながら持ち上げて行く。

 

『痛い痛いっ!!、割れる割れるっ!!、き、緊箍児より痛いっ!!』

「てめえ、この猿っ!!俺達の大事な娘に何て事しやがる」

「小竜姫さん、異空間の修行場、お借りしてもよろしいかしら?」

『は、はい。ど、どうぞ…』

「ありがとう。じゃあ、あなた、行きましょう」

「おう」

 

百合子と大樹は猿神を掴んだまま修行場へと歩いて行く。猿神はもがきながらも逃げようとするがそれはやはり無駄な足掻きだった。

 

『しょ、小竜姫、助けてくれい!!』

『む、無理ですよ!!』

『ワ、ワルキューレ!!』

『その命令は実行不可能だ』

『ジーク!!』

『ガタガタブルブルガタガタブルブル』

 

小竜姫達に助けを求めるが、娘を奪われた二人が放つプレッシャーにはさすがの彼女達も為すすべがなかった。ジークに至っては部屋の隅で座布団を頭にかぶり丸くなって震えていた。

 

『や、止めてくれいっ!!離してくれーーーーっ!!』

「それは無理な相談だ。……俺達はお前を決して許しはしない」

「そう言う事よ」

『か、勘弁してくれーーーーいっ!!』

 

ガラガラガラ

ピシャンッ

 

横島達は修行場の向こう側に消えた猿神の無事を唯唯祈る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギャアァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』

 

 

 

 

レポート3、「悟○が好き。」

 

 

横島がようやく薬の効果も切れ、男に姿に戻れたある日の事。

 

「なあ、プリムラ。今日の時代劇はどうしても見たいんだが」

「ダメ。私もこの番組が見たい」

 

TVの前に陣取っているプリムラに稟は時代劇を見せてくれと頼むがプリムラは譲る気はないらしい。

 

そんなプリムラにタマモはどんな番組を見ているのかと聞いてみる。

 

「プリムラは何を見ているの?」

「昔のアニメを紹介する番組」

「ほ〜〜、懐かしいな。向こう(GS世界)ではやってなかったアニメだからな」

 

そう言いながら横島もTV画面に釘付けになる。そう言われては稟も諦めるしかなく一緒にTVを見始める。

 

二つの世界ではTV番組でも微妙に違い、片方で「鉄腕アトム」や「ガンダム」があり、もう片方では「ジェッターマルス」や「ドラグナー」があるといった感じだ。

 

「お茶を入れて来ましたよ。飲みながら皆で見ましょう」

「ああ、そうだな」

 

楓がお茶と茶菓子を持って来て四人でゆっくりとTVを見る。

時たま、子供の頃に皆で見ていた番組が紹介されると昔の話に花が咲き、その度にプリムラとタマモはのけ者にされた様にむくれていた。

 

 

『では次は、『悟空の大冒険』のED曲をお聞きください』

 

TVを見ていた横島とタマモはその曲と共にED映像が流れだすと飲んでいたお茶を噴き出し、突然笑い出した。

 

『♪学校が○き、好○、○き、勉強が好○、○っき!〜』

 

「わははははははははははははっ!!」

「あははははははははははははっ!!」

「な、何だ?いきなりどうしたんだ二人共?」

 

当然であろう、何故なら二人共本物の孫悟空であるゲーム猿を見ているのだから。

 

『♪そーんな奴が悟○の大冒険を見てみたら〜』

 

「ご、悟空が…ちっちゃくって…可愛い悟空がてくてく歩いてる〜〜。あはははははっ!!」

「い、言うな。わははははははっ!!は、腹が痛てえ……わははははははっ!!」

 

笑い転げている二人を見ながら稟は呆然としている。

ふと、横を見ていると楓も蹲り肩を震わせながら笑いを堪えていた。

 

「か、楓まで。何がどうしたんだ?」

 

楓もまた、夢の中でゲーム猿、孫悟空を見ているのであった。

 

『♪好き!』

 

「ぎゃははははははははははははははっ!!」

「きゃははははははははははははははっ!!」

 

 

 

 

ようやく歌も終わり二人は落ち着きを取り戻した。

 

「はあ、死ぬかと思った」

「私も…」

 

 

 

『では次は、あの『ドリ○ターズ』が声優を務めたTV人形劇『飛べ!孫悟空』より挿入歌『ゴー・ウエスト』をお聞きください。

 

『♪ニンニ○ニキニ○、ニン○キニキ○キ、○ニンが三蔵、ニン○キニキ○キ、ニンニ○ニキニ○、○シンが悟空〜』

 

其処に映っているのは志村けん風にデフォルメされた孫悟空の人形。

 

「ぎゃはははははははははははははははっ!!」

「きゃはははははははははははははははっ!!」

「あははははははははははははははははっ!!」

 

 

「お兄ちゃん、忠夫や楓達は何が可笑しくて笑ってるの?」

「さあ、俺にもさっぱり?」

 

 

注・解らない人はつべやニコで検索して見て下さい。

 

 

 

この話は本編で語られなかった物語で、一学期の中頃に起きた出来事です。

 

 

 

レポート4・「ファーストキス・レクイエム」

 

 

横島視点〜

 

それは麻弓の何気ない一言から始まった。

 

「…ねえ、楓」

「はい?」

「ファーストキスってどんな味だった?」

 

ガタンッ

 

突拍子の無い質問に楓はその場でひっくり返った。

 

「おお、今日は縞々なのね♪」

「タ、タダくんが好きそうだから…って何言わせるんですか!!と言うより口にしないで下さい!!」

 

スカートを押さえながら立ち上がる楓だが変な事を言わないでくれ、周りからの殺気がうっとうしい。いや、確かに好きだが……

 

「それよりいきなり何ですか?そ、そのキスだなんて」

「いやー、隣のクラスの友人と話していたらちょっと議論になりまして。で、何味だった?横島くんとはもう経験済みなんでしょ」

 

笑顔で楓を問い詰める麻弓だがその危険な発言のせいでクラスの中の空気は徐々に冷たくなっていく。稟もまた嫌な予感がしているのか気にしない振りをして次の授業の準備をしている、俺もここはそれに習っておこう。

 

「何だ樹、その殺意に満ちた視線は?」

「安心していいよ、俺様だけじゃないから」

「その言葉の何に安心しろというんじゃ」

 

辺りを伺うとクラス中の男共の視線は俺と稟に注がれていた。

 

「わ、私そんな経験ありません。キスだなんてそんな事……」

 

楓は顔を真っ赤にしながらもこちらをチラチラと見つめて来る、そろそろ逃げる準備をするべきか?

 

「なーに?横島くん、一つ屋根の下で暮らしておきながらキスの一つもしてないなんて。甲斐性無し?度胸なし?責任逃れ?はっきりした方がいいのですよ」

「ほっとけ!!」

「他に経験がありそうな子と言えば……リンちゃんはどう?」

「わ、私ですか?…そ、そのぉ……」

 

話を振られたネリネは赤く頬を染めてこちらをチラチラ見て来る。

か、可愛い。いや、それはそれでいいんだがこの状況でその表情は俺の命に危険が。

 

「していただけたらと、何時も待っているのですが」

 

揺れている。男共の貧乏ゆすりで校舎が揺れている。

これでは何時ぞやの妖怪「コンプレックス」が現れてもおかしくないぞ。

 

 

稟視点〜

 

もう止めてくれ。そう思いながら俺はある席に目をやる、今は居ない様だ。

戻って来る前に安全な場所に逃げようと席を立とうとする。

 

だが、どうやら運命とやらも俺の敵だったようで、シアが帰って来てしまった。

 

「あれ〜、どうしたの皆。何だか雰囲気が怖いけど」

「あ、シアちゃん。いや〜、キスの味ってどんなのかなあって」

 

「何々、何の話?キスがどうかしたの?」

 

来た、来てしまった空気破壊神。

何で亜沙先輩がここに来るんですか?

 

「キスの味ってどんなのかなと言う話になりまして。亜沙先輩はキスの経験はあるのですか?」

「え、ボ、ボク?ボクにある訳ないじゃない」

 

亜沙先輩は照れて顔を赤く染めながら何故か忠夫をチラチラ見ている。

止めてやって下さい。ああ、忠夫の顔が逆に青くなっていく。

 

「シアちゃんはどうなの?」

 

麻弓の質問で皆の視線はシアに集中している、今の内に教室から逃げ出そうとすると。

 

「私?キスの経験ならあるよ」

 

……世界よ、そんなに俺が嫌いなのか?

 

「へえ、シアちゃんキスの経験あるんだ。結構意外……」

 

一瞬の静寂の後……

 

「「「「な、なんだってぇーーーーーーーっ!!」」」」

 

窓ガラスが割れるかと言う位の絶叫が木霊した。

 

「だ、誰なのですか?相手は一体誰なのですか?いや、聞かなくても大体分かるけど一応念の為」

「えっとね…八年前、この街で…稟くんと」

 

シアは顔を赤らめながらそう言った。

膨れ上がった殺気に怯えながら俺が逃げる為に扉を開こうとすると一瞬早く扉が開き、タマモとプリムラが入って来た。

 

「一体これは何の騒ぎ?」

「何だか騒がしい」

「あら、タマモちゃん。実はね…」

 

タマモ達は麻弓に説明を受けていて、俺はと言うと逃げるタイミングを失って男子生徒に追い詰められていた。

 

「ふ〜ん、キスねぇ。キスと言えば意外に思うかもしれないけど」

「けど、何?」

「ヨコシマの唇って結構柔らかくて甘いのよ♪」

 

 

その瞬間、時は止まった。

 

 

横島視点〜

 

 

「ちょっと待てタマモ!!俺はお前とキスをした覚えは無いぞ!!」

「其処はアレよ。寝てる間にご馳走さま♪」

 

タマモはしてやったりという顔で頬を赤らめながら舌を出す。

可愛いとは思うが今はそれどころではない、早く逃げなくては。

 

「ふぅ……」バタリ

「楓、しっかりしなさい楓!!」

「まままぁ♪タマモちゃんと忠夫さんは何時の間にかそんな仲に。まままぁ♪」

 

楓は気絶し、亜沙先輩が介抱し、カレハ先輩が妄想する。

そしてこのパターンだと麻弓が何やら余計な事を言いそうだが。

 

「……ちょっと待つのですよ。寝てる間にと言う事はまさかタマモちゃん、貴女は…」

「しょっちゅう一緒に寝てるわよ。腹ただしい事に中々手を出してくれないけどね」

 

タマモはタマモでとんでもない爆弾を投下してくれた、寝る時は狐の姿だと言えないのが悔しい。

 

「忠夫さまっ!!」

「な、何でせうかネリネさん?」

「今日、泊まりに行ってもよろしいでしょうか!!」

「私も泊まりに行こうかな。どう、忠夫ちゃん♪」

「あー、だったら私も泊まりに行ってもいいよね、稟くん」

 

ネリネや亜沙先輩、シアがそんな事を言っている中で俺と稟は男共に追い詰められていた。

こうなったら逃げる為にはあの手段しかない。

 

「美神除霊事務所・防御術奥義!!」

「防御術奥義だと?た、頼む忠夫、俺も一緒に」

 

稟はそう言って来るがそれは望む所だ、何しろこの奥義は一人では出来ないのだから。

俺は稟に笑いかけると迫って来る男共に稟を突き飛ばす。

 

トン

 

「え?」

「『土見クン、お願い!!』」

 

ああ、懐かしいなぁ。俺もよくこうやって美神さんに盾にされたものだった。

 

「後は頼んだぞ、稟」

「忠夫ーーっ!貴様ーーっ!!」

 

まあ、シア達の治癒魔法で何とかなるだろう。俺は稟の悲鳴を聞きつつ、その場を逃げ出した。

 

 

 

そして、その日の夕食は何故か俺だけおかずが一品少なかった。楓、あんまりじゃないか。俺が悪いんじゃ無い筈なのに……

 

 

そんなある日の出来事であった。

 

 

短編集・終わり

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

あの人は私の憧れの人。

 

そして私は人間。

 

人間じゃないと駄目なんだ。

 

あの人の為にも人間じゃないと。

 

その為ならこの位の苦しみ…

 

その為にならこの命だって…

 

 

 

次回・第十話「せめて人として、されど人として」(前編)

 

 

だから私は……

 

説明
待っていてくれた方お待たせしました。

今回は短編集となっております。

書き換えと修正をしました。

本作はArcadiaとにじファンにも投稿しています。
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コメント
ついニコニコで聞きながら読み直してしまいました・・・(D,)
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