真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 第二章・序幕 『暗雲天覆』 |
「どうしても、帰られるんですね」
「まあ、ね。北郷殿のお誘いはうれしいけど、私らにもそれなりの矜持というものが、あるからさ」
平原の街の門の下。そこにて、名残惜しそうな一刀に対し、張?はそういって微笑む。
「”あれ”でも一応、長年仕えてきた主君だしね。簡単に見限ることなんてできないさ。……な、狭霧?」
「はい。……それに、姫様も決して、いえ、多分、無能というわけではないと思いますから、必ずいつかは、人の上に立つものとしての自覚を、持ってくれると。そう信じています」
張?に続き、高覧が自身の主君をそう弁護する。……少々顔が引きつってはいるが。
先の戦から、すでに一週間が経過していた。
この間、なんだかんだで街に残っていた張?と高覧の二人であったが、主君である袁紹から、矢のような帰還の催促を受け、この日、街を発つ事になったのである。
「それだけ必要とされてるんだよ。……いい主君じゃないか、袁紹さんは」
と、一刀はいまだに会ったことのない袁紹をそう評価し、二人を気持ちよく送り出すことにした。
本音を言えば、二人にはこのまま残ってもらい、自分の下で働いてもらいたかった。人材の少ない一刀達にとって、二人のような優秀な将は、のどから手が出るほど欲しかった。
しかし、二人はそれを拒否した。そう簡単に、主君を変えるつもりは毛頭無い、と。
そうして二人は、南皮への帰路に着いた。同行してきた五千の兵と、少々増えた”荷物”とともに。
「……残念ですか?一刀さん」
「……ちょっとだけ、ね」
「……それは、可愛い”女の子”が、増えへんかったからか?」
「……由。君は俺を、どういう眼で見ていると?」
『そういう目ですが、何か反論でも?』「……ありません」
三人からジト目を向けられ、 二の句の告げない一刀であった。
それからおよそ、一月も経った頃。
「兄上」
「……協か。どうかしたか?」
自身の私室にて、大量の竹簡と格闘する劉弁の下に、一人の女官姿の少女が現れた。
劉弁とまったく同じ色の髪。ほぼ、同じ背丈。そして、知らぬものが見れば、まず判別のつかない、瓜二つのその顔。
そして、”同じ”父と母を持つ、れっきとした実の兄妹にして、双子の妹。
劉協・字は伯和、その人である。
「……父上の御様態ですが、正直、後数日も持たないそうです」
「……そう、か」
妹から、父親が長くないと聞いた劉弁は、机に広げた竹簡に視線を落としたまま、一言ポツリとつぶやいた。
二人の父である、漢の今上帝・劉宏は、現在死の床についていた。永年の不摂生がたたっての、衰弱による病である。――手の施しようは、すでに無くなっていた。
「父上が崩御となれば、おそらく張譲めは、ここぞとばかりに動き出すでしょう。……董将軍を選んだのも」
「おそらく、その為の下準備じゃろ。だが、決してそうはさせぬ。宦官なぞに、これ以上朝廷をいいようにされては、さらに多くの無辜の民たちが泣くことになる。それだけは、絶対に防がねばならん」
バキッ!と。
その手に握っていた筆を、思わず折ってしまうほどに、劉弁はそのこぶしを力強く握り締め、その固い意志をはっきりと口にした。
そして、それから五日後。
後漢十二代皇帝、劉宏、崩御―――。
劉弁は、亡き父に”霊帝”の号をおくり、その葬儀の喪主を務めた。そして、その喪が明けた後、父の後を継いで、後漢の十三代皇帝に即位した。
その報せは、瞬時に大陸中の諸侯の下に届けられた。それはもちろん、一刀たちの下にも。
「そっか。白亜が皇帝に即位した、か」
?の城の執務室にて、その報せを聞いた一刀は、素直にそれを喜んだ。
この頃一刀たちは、ようやく落ち着きを見せてきた郡内の治安に安堵し、やっとのことで、本格的な内政に取り掛かり始めていた。懸念していた人材についても、以前から将官候補として訓練を行っていた人物の一人を、正式に将軍として認定。その幕下に加えることができた。
現在、一刀の執務室には、一刀を含め、その人物を加えた?の将が五人、集まっていた。
主座に座るのはもちろん一刀。その左、太守補佐の席に徐庶が座り、一刀の正面に残りの三人、徐晃と姜維。そして、
「……”それ”は、皇帝陛下の真名なんですか?」
と、姜維と徐晃の間に立つ、銀色の髪の少女が、一刀に問いかける。
「まさか。字、だよ。そっか。君は白亜とは面識が無かったっけ。……俺が太守になる前に、彼から預かったのさ。伴侶以外には教えられない真名の代わりにってね。……納得出来たかな?瑠里」
「……(コク)」
小さくうなずくその少女。
背丈は姜維よりも少し、小さいだろうか。フリフリの、黒を基調にした、いわゆる”ゴスロリ”と呼ばれる服がよく似合っている、まるで人形のように無表情な少女。
その、あまりにも一刀の知っている人物像から、かけ離れすぎていて、正直最初に自己紹介を受けたとき、徐庶たちとは違った意味でショックを受けた、その少女の名は。
姓を”司馬”、名を”懿”、字を”仲達”。真名を”瑠里(るり)”といった。
その出会いについては、また後々、語りたいと思う。
「で、話を元に戻すけど、白亜が帝位に就いたこと。それ自体はとても目出度い事だから、祝いの使者を送っておかないとな。……ほんとは俺が行きたいところだけど……そだな。由、君に頼みたいんだけど、良いかい?」
「はいよ。ま、カズはせいぜい、政務に励んでや。……ウチが居らん間は、”抜け駆け”無しやで?」
『わかってる』
姜維の牽制に、諾、と答えながらも、あからさまにその視線をそらす、徐庶と徐晃。
「……カズ?”信用”しとるで?」
「……はい」
そんな三人のやり取りを見ていた司馬懿が、冷ややかな目でポツリ一言、呟いた。
「……バカばっか」
それから十日ほどたったある日のこと。
姜維が都から戻ってきて、無事に祝いの使者を務めたとの報告をしていた、丁度その頃。その、洛陽にて、事件は、起こっていた。
「伯母上が来たと?」
「はい。……兄上がお呼びになられたと、そう仰っておいでですが。……違うのですか?」
自分たちにとっての伯母―つまり、母親である何太后の姉であり、漢の大将軍でもあるところの何進が、宮中にやって来た事を兄に伝える劉協。だが、
「朕は呼んではおらんぞ?母上の間違いではないのか?」
劉弁らの母である何太后は、何かと理由をつけては、姉である何進を呼びつけ、あれこれと文句をつけたり、愚痴のこぼし相手をさせている。だから、母ならば、何進を呼んでも不思議ではないと、劉弁は思ったのであるが。
「いえ。母上も、本日は呼んでいないそうです。側付きの女官から聞きましたので、間違いはないかと」
「どういうことじゃ?朕の名を勝手に使った者でも居る、と……まさか。彦雲!」
「は」
すた、と。どこからとも無くその場に姿を現し、王?がひざまずく。
「すぐに伯母上の護衛につけ!いやな予感がする……早う!」
「はっ!」
ふっ、と。現れたときのように、音も無く姿を消す王?。
「……どうか、取り越し苦労であってくれれば良いが……」
そう祈る劉弁だったが、全ては、”一足”、遅かった。
丁度、劉協が兄に、何進の来訪を告げていた、その時。禁門の内側、入ってすぐの場所において。
「何をするか、張譲!これは一体、何の真似か?!」
両側からその体を押さえつけられたまま、目の前の人物をにらみつけ怒鳴る、その銀髪の女性。
漢の大将軍・何進、その人。
「……あなたには、ここいらで退場してもらおうと思いましてね。貴女がいると非常に不都合なんですよ。いえ、貴女というより、貴女のその、”肩書き”が、ね。……”大将軍”閣下」
にぃ、と。邪悪な笑みをその顔に浮かべる、その人物。
一見すれば少年のようにしか見えないその外見だが、実際にはかなりの年齢に達しているはずのその男―――朝廷において、禁門内、そして後宮を牛耳っている、宦官たちの長。十常待筆頭、張譲―――。
その彼が、何進のあごを不意に鷲掴みにし、懐から取り出した小瓶を、無理やりその口に押し付ける。
ごくっ。
何進の喉を、何かの液体が通る。
「カハッ!な、何を……!?」
「……この状況で、”毒”以外の何を飲ませると?」
「き、貴様、わ、妾を殺して、な、なんとするつも……」
毒に苦しみながらも張譲をにらみ続け、その狙いを問い正す何進。だが、
「答える必要なんか無いでしょう?どうせすぐに死ぬんですから。……それじゃさよなら、大将軍閣下。あっははははは!」
笑いながらその場を去っていく張譲の背をにらみながら、何進はその場に倒れこむ。そして、薄れいくその意識の中、彼女は自分のからだが、宙に浮く感覚を感じていた。
それから程なくしてのこと。
大将軍何進の”自殺”と、涼州刺史・董仲頴の相国就任が、全ての諸侯の下に届けられた。
「……まさか、この展開って……」
その報せを聞いた一刀の脳裏に、三国志でも一・二を争う、有名な”事件”が横切った。
そう、これは発端。
そして、歴史の大きな、転換点。
まもなく大陸に、再びの嵐が、訪れようとしていた。
〜続く〜
てなわけで、第二章、連合編のスタートです。
「どもー、輝里でーす」
「由やでー。今日もよろしゅうな〜」
「さてと。まずは張?さんと高覧さんの話からですが」
「あの二人、麗羽のところに帰ってもーたな」
はい。出番はこの章の間はもうありません。
「その次ぐらいですか?出番」
そ。
「ま、ウチらとしても、ライバルがこれ以上増えんでええけどね」
次は初登場の新キャラ、司馬のいっちゃんこと、るりるりです。
「・・・ごすろり少女って・・・。この変態」
ふーんだ。何とでも言え。元ネタは、はい、言わなくても、大体の人は解ると思います。
「どっかの電〇の妖s」
こら!解ってても言っちゃだめです!
「えーけどね。・・・カズ、食っちゃうの?」
さあ?
「・・・手、出さないわけ、ない、わね?」
「・・・せやね」
では、そんな感じで次回予告。
「ついに始まる、最初の大一番。月さんの相国就任を知った”ある人物(笑)”が声を上げます」
「そして、それぞれにさまざまな思惑を秘め、諸侯がその声に応じます」
劉弁と劉協、そして董陣営の運命は?張譲のその思惑は、はたして?
「次回、真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 」
「第二章・第一幕。『諸侯集結』に」
ご期待ください!
「コメント等、その他ツッコミ、お待ちしてます」
「ほんならこれにて」
『再見〜!!』
説明 | ||
改訂版北朝伝、これより第二章です。 黄巾の乱が終結し、訪れた一時の平穏。 幕は、平原の街より上がります。 それでは。 追伸:副題が予告と違う!というツッコミは、しないでくださいねw |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
26980 | 19629 | 127 |
コメント | ||
長い猫さま、わりとそのまんまですけどね^^(狭乃 狼) mokiti1976−2010さま、そうなんですよね、軍師ばっかりなんですよね。・・・今のところはww で、瑠里にそれを言わせるのは、さ、どうしましょうか^^。(狭乃 狼) ナデシコのルリみたいでいいですね^^(長い猫) 瑠里さんに「結構私も馬鹿よね」って言わせてください。しかし一刀の下にいるのは軍師さんばかり(約1名除く)。(mokiti1976-2010) kabutoさま、何進さんのご冥福を祈ってあげてください(ニヤニヤ)w(狭乃 狼) ロンロンさま、TVバージョンと劇場版の中間ぐらいですかね。髪の色とか微妙に違いますけどw(狭乃 狼) poyyさま、はい、ありますけど、何か?www(狭乃 狼) 村主さま、何進さん、いい熟キャラなんですがね(TV版)ww(狭乃 狼) よーぜふさま、何をしごかれたかについてはあえて聞きませんwwさて、瑠里もやはり食われるのか?その場合の二人の反応は?今後にご期待ください^^。(マテ;(狭乃 狼) hokuhinさま、瑠里の特技は・・・さて?(しらばっくれ)ww(狭乃 狼) シンさま、瑠里との出会いについては、二章本編中に書くか、拠点にすべきかただいま悩み中ですww(狭乃 狼) 紫電さま、とりあえずは、史実に限りなく、近い展開になる(予定)です。(狭乃 狼) 瑠璃瑠璃きたーーーー!!まさかの司馬懿www何進には生きててほしかったな…。合掌(kabuto) ナデシコのルリか。「バカばっか」を使ったという事はTVバージョンの外見かな?(龍々) あれなんか聞いたことのあるセリフが…?(poyy) 撫子ですなw>芝居 文中表記では見た目TV版っぽいですね そして宮中・・・やっぱ可進さん運命からは逃れられんかったですか、熟jy(ゲフンゲフン) 妙齢枠で期待しとったのですが残念無念w(村主7) 前回間違えたせいでひたすらしごかれ続けたよーぜふです・・・蒔さんごめんなさい・・・ ってルリルリ!? えっ?とりあえず少しでも北郷と共に過ごしたものはすべていただかれるという話が・・・っていってましたよ由さん輝里さんw(よーぜふ) 新しい仲間は司馬仲達だと!やはり情報戦が得意なんだろうかwいよいよ本格的な争いになって、一刀はどのような判断をするか楽しみです。(hokuhin) 何だと。ここであの司馬懿の登場か。数少ない味方Verの司馬懿か〜どうやって知り合ったんだろう?(シン) 砂のお城さま、駄名族(笑)さんは次で出てきます。で、瑠里、ですね。字は正しくお願いしますww・・・犠牲になるのは・・・さて?^^。(狭乃 狼) |
||
タグ | ||
恋姫 say 北朝伝 一刀 徐庶 姜維 徐晃 劉弁 | ||
狭乃 狼さんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |