名家一番! 第一席 |
カッポ カッポ カッポ カッポ…
赤茶けた砂が延々と広がっている荒野に、騎馬の蹄の音と鎧の揺れる音が広がっていく。
騎兵の後ろを歩兵が十数人、規則正しい歩調で行軍していた。
歩兵達を率いている金色の鎧を着込んだ指揮官らしき騎兵は、いかめしい顔をした男と思いきや、意外にも二人の少女だった。
「斗詩ぃ〜、アタイお腹すいたぁ。もう帰りたいぃ〜」
「……文ちゃん。さっき、休憩したばかりでしょう?」
斗詩と呼ばれた少女が子供を諭すように答える。
「斗詩だって、馬に乗ってるだけだと、退屈すぎてお腹もすくだろぉ?」
「退屈だとお腹がすくんだ……」
二人の指揮官の会話を聞いていた歩兵達は、思わず苦笑いしてしまう。
「文ちゃんは馬に乗ってるだけって言うけど、警邏は民の安全を守る大事な任務なんだよ?
ただでさえ最近は、黄色い布を巻いた賊達の動きが活発になっているっていうのに……。
もっと、やる気を出してください!!」
先程の諭すような口調と変わって、だらしがない夫の襟元を正すように斗詩が叱りつけると、
「わ、わかってるって。だから、アタイら直々に警邏をやってるんだろ」
渋々といった感じで、文ちゃんも納得する。
「わかればよろしい」
斗詩がうんうんと頷く。
「なんか起きないかなぁ〜」
「なんかって、何が?」
「五胡の大軍勢が巨大絡繰に乗って、攻めてくるとか?」
「巨大絡繰? なにそれコワイ」
「いやさぁ、こないだ城下に食べ歩きに出た時に竹カゴ売りがいたんだけどさ、
その売ってる竹カゴってのが、全自動カゴ編み機っていう絡繰で編んだカゴだったんだよ」
「全自動!? へぇ〜、すごいねぇ」
斗詩は目を丸くして驚く。
「だろぉ〜? 絡繰の取っ手を持ってグルグル回すだけで、竹カゴの外枠を編めるんだからスゲェよな〜。
あんまり凄いから、アタイ3つも竹カゴ買っちゃったもん。」
「……文ちゃん、“全自動”って、どういう意味か知ってる?」
斗詩のツッコミを無視して、興奮した様子で喋り続ける。
「あんだけスゲェ絡繰があるんなら、人が乗り込める戦術巨大絡繰兵器があっても不思議じゃないね」
「そんなのあるわけないでしょぉ」
「んだよ、斗詩は夢がないなぁ」
「そんな物騒な、夢は持たなくていいです! ――あれ? ねぇ、文ちゃんあそこ」
斗詩が前方の異変を察知し、指差す。
「どした? 斗詩」
斗詩が指差した先には――、
「おっちゃんが三人と……、若い兄ちゃんが一人? なんか、もめてるっぽいな」
「うん。それにおじさん達が頭に巻いてる布、あれって……」
「ああ、黄色だな。このままだと……、あの兄ちゃんヤバイな」
二人の顔が談笑していた時とはうって変わって、引き締まったものになった。
「だね。早く助けに行か……って、文ちゃん!?」
斗詩が言い終わる前に、文ちゃんは騎馬で駆け出していた。
「もうっ! 一人で先行したら危ないっていつも言ってるのに!
歩兵の皆さんも、行軍速度をあげてください」
斗詩も歩兵達に指示を出すと、騎馬の横腹を蹴り上げた。
「アニキ、殺っちまた方が早いんじゃないですか?」
背の低い男はそう言い放つと、腰の剣を抜いた。
混乱していた頭が妙に冴えてくると同時に、背中に嫌な汗がジワっと広がる。
なんだこれは? どうしてこうなった……?
○ ○ ○
俺を眠りから解き放ったのは、
授業中に寝ている怠惰な生徒を叱りつける、いつもの教師の声ではなく、
ガラの悪そうな耳障りな声と、背中に走った衝撃だった。
目を覚まし周囲を見ると……、
地平線の彼方まで広がっている、赤茶けた荒野と、はるか彼方に、針の如くそびえ立つ岩山がいくつか目に入ってきた。
そして、俺を文字通り叩き起したであろう中年三人組に取り囲まれている。
(ナニコレ?)
それが周りの景色を見ての俺の最初の感想だった。
目覚めてから目にした景色にも度肝を抜かれたが、三人組の格好にも驚かされた。
明らかに着ている服が、現代日本で売っている代物ではないのだ。
中国の歴史物の映画などで、登場人物達が着ていた服に近いような気がする。
(え〜っと? たしか俺、歴史の授業中に眠くなってそのまま寝ちゃったんだよな?
……なんで起きたら教室じゃなくて、こんな荒野にいるの?)
現状がまったく把握できない俺に対して男達は、
「変な服」だとか、「こいつ急に現れやがった」などと言っていたような気がする。
寝起きのボケた頭とありえない状況のせいで、ショート寸前だった俺の頭には、三人組の言っていることの大部分は頭に入ってこなかった。
黙りこくっている俺の態度に業を煮やしたのか、ヒゲ面の男が俺に向かって一歩踏み込んだかとおもったら、
見えていた景色が二回転した。
「ゲホッ!」
一瞬、自分に何が起きたのか分からなかったが、
鳩尾に走る鈍い痛みと学生服に付いた靴跡で、ヒゲ面の男に蹴られたのだと理解した。
理解はしたのだが、出会って数分の人間に蹴りを入れられる経験など生まれてこのかた無く、俺の頭の混乱に拍車を掛ける。
それでもなんとか頭を整理しようと、ゆっくり立ち上がった。
「アニキ、殺っちまた方が早いんじゃないですか?」
背の低い男はそう言い放ち、腰の剣を抜いた。
さっきまで、あれだけ混乱していた頭が妙に冴えてくると同時に、背中に嫌な汗が広がる。
今、こいつなんて言った?
コ ロ ス ?
は? なんで、いきなり俺を殺すことになるんだ? どこの世紀末だよ?
「馬鹿野郎!」
ヒゲ面の男が背の低い男を叱りつける。
ですよねー。初対面の人間をいきなり殺すとか、ありえないですよね。
このヒゲ面のおじさんは意外とマトモなのかも……蹴られたけど。
「刃物なんざ使っちまったら、服が血で汚れて売りモンにならねぇだろうが。もっと別の方法で殺れってんだ!」
ぜんぜん常識的じゃなかったぁーーー!!! 殺し方にキレてたのかよ!
「そいつは気が回りませんで、すいやせんアニキ。
刃物がダメなら、くびり殺すか? ……いや、それだと時間が掛かるか」
背の低い男が俺の効率の良い殺し方に悩んでいると、
「服をひっぺがえしてから刃物で殺せば、服も汚れないし早く済むと思うんだな」
もう一人の太った大男が、背の低い男にアドバイスをする。
「おお! デクたまには良いこと言うじゃねぇか。」
俺を殺すことが、トントン拍子で進んでいく。
本当にこれは現実か? 悪い夢とかじゃないの? いや、夢でも殺させるなんてまっぴらだ!
「ふ、ふざけんなよ! なんで殺されなきゃいけないんだよ!」
この悪い流れを何とか止めねばと思ったが、何も思いつかず、俺は声を荒らげるしかできなかった。
クソッ! さっきから心臓が激しく鳴りっぱなしだ。口の中も急激に乾いてきた。
俺が急に叫んだことで三人組は驚いたのか、お互いに顔を見合っていた。
こ、効果あったか……? と、俺が思ったのも束の間、
三人組はゲラゲラと不快な声で笑い出した。
「おめぇを殺す理由なんて特にねぇよ。強いて言うなら、俺ら黄巾に出会ったことが理由
になるのかな?」
ヒゲ面の男が、いやらしいニヤけ面を張り付けながら答える。
(コウキン? 抗菌? 拘禁?)
ヒゲ面の男が言った単語が頭の中で反芻する。
「な、なんだよそれ! そんなの答えになるかよ!」
「ごちゃごちゃうるせぇ! おいお前ら、まずはこのやかましい口を閉じろ」
「へい!アニキ」
ヒゲ面の男の命令で、背の低い男と太った大男が俺に、にじり寄ってきた。
恐怖のあまり足に力が入らなず、逃げることもできな……。
ちくしょう! こんなわけの分からないところで、コスプレおじさん達に身ぐるみ剥がされて殺されるのか!?
「い、嫌だ!誰か・・・」
「こんなトコに助けが来るわけねぇだろ。諦めて、さっさと死にな」
俺の悲痛な叫びを遮るようにヒゲ面の男が言い放つ。
男達の手が俺の体を掴もうとした瞬間、
「待ちな!」
威勢のいい、よく通る声が俺の後ろから聞こえた。
あとがき
みなさま初めまして。濡れたタオルと申します。
恋姫†無双が好きすぎて、このような駄文を書かせていただきました。
このSS、ブログに載せているものを少し訂正したモノなのですが、ブログに載っている分よりは、読みやすくなってるとは思うんですが……。
誤字脱字や、ここ分かりにくなどの感想がありましたら、コメント頂けると大変あがたいです。
まだこの段階では、何ルートかは申し上げることができませんが、
タイトルと最初に出てきたキャラでバレてるかもねwww
まったりやっていきたいと思っておりますので、よろしければ、お付き合い下さい。
ここまで見ていただき多謝^^
説明 | ||
真・恋姫†無双のSS。 どこルートかは、秘密です。って、タイトルでバレてるかもしれませんが……。 初投稿なので、色々と指摘を頂けると嬉しいです。 |
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コメント | ||
>>XOPさん 了解です。報告ありがとうございます。(濡れタオル) 文ちゃと呼ばれた少女→文ちゃん(XOP) >>PONさん 恋姫キャラ以外の武将は名前だけしか登場しないかもしれません…(濡れタオル) 田豊と韓福から降ってきた連中をうまく使えれば…諫言軍師のアホ二人に気をつけて!(PON) >>XOPさん ご指摘ありがとうございます。修正しておきます。XOPさんに教えてもらうまで、「荒げる」が正しいと思っていました。また誤字・誤用があったらビシビシ指摘しちゃってください。(濡れタオル) 俺は声を荒げるしかできなかった。→「荒げる」は誤用。正しくは『荒らげる(あららげる)』(XOP) >>砂のお城さん 名(笑)家の人は、もうしばらくしたら登場しますのでお待ちください(濡れタオル) >>hokuhinさん 完結できるよう頑張りますね。よろしかったらお付き合い下さい(濡れタオル) >>村主さん 過度に期待せずに肩の力を抜いて見ていただいたら幸いです^^(濡れタオル) 珍しい√なので、ぜひ完結まで頑張ってほしいです。(hokuhin) TINAMIでも数少ない√ですから これからの続編に期待してます(村主7) |
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