真・恋姫†無双 外伝:みんな大好き不動先輩 その2
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外伝 その2

 

 

 

「さて、不動如耶と言ったか?お主の実力を計らせてもらうぞ?」

「はい。よろしくお願いいたします」

「………」

 

 

 

道場の中心では、不動と一刀の祖父が互いに正座して向き合っている。祖父はいつもの稽古着で、対する不動も、真新しい北郷流の稽古着に着替え、その手には竹刀を持っていた。

 

 

 

「………………」

「ほれ、いつまで呆けておる、一刀!さっさとこっちに来て審判でもせんか」

「そうだぞ、北郷?お前がいないと、いくら私でも緊張するというものだ」

 

 

 

その言葉にようやく我に返った一刀は、さっそく疑問を投げかける。

 

 

 

「なんで、先輩もいるの?」

「なに、私ももっと強くなりたくてな」

「なんで、爺ちゃんは普通に受け入れてるの?」

「なに、昨日の晩に電話を貰っての」

「なんで、俺は知らされてないの?」

「「その方がおもしろそうだったから(じゃ)」」

「ばーーちゃーーーーーん!爺ちゃんが若い女の子を連れ込んでるよーーーーーっ!!」

「あらあら、楽しそうね。そういえば、不動さん、今日はお夕飯食べていきなさいね?おばあちゃん、腕によりをかけて作っちゃいますから」

「はい、ありがとうございます。なにぶん寮暮らしですので、手料理というものは久しぶりです」

「えぇ、楽しみにしててね」

 

 

 

救いの神と思われた祖母は、何事もなかったように道場を出て行った。入り口から既にいい匂いが漂ってくるところを見るに、すでに夕飯の準備は佳境に入っているようだ。

 

 

 

「(あれ、ここって俺の家だよね?………なにこのアウェイ感?)」

「男の癖に細かいことを気にするやつじゃのぅ。ほれ、さっさとこっちに来んか」

「そうだぞ?さっさと審判をしてくれないか」

「………………………わかったよ」

 

 

 

自由気ままな祖父に、人をあしらうことに長けている不動。この二人に口で勝てるはずもないと、一刀は諦め、二人のもとへと向かうのであった。

 

 

 

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「で、北郷………と呼べば御祖父母殿も呼び捨てになってしまうな。一刀、その手に持っているものはなんだ?」

 

 

 

突然名前で呼ばれたことに少しだけ動揺するも、一刀はそれを億尾にも出さず、しれっと答える。

 

 

 

「ん?爺ちゃんの稽古用の木刀ですが?」

「それは見ればわかる。なぜ、その長さなのだ?」

 

 

 

一刀の手には、刃の長さが20センチ程の小刀サイズの木刀が握られていた。

 

 

 

「爺ちゃんと先輩の実力さだと、このくらいが丁度いいんですよ」

「ふむ、一刀も同じ意見か。如耶よ。儂はこれでかまわん。本気でかかってくるがよい」

「北郷殿までそう言うのですか。いいでしょう。私だって、伊達に公式戦不敗の実績を持っているわけではないということを見せてあげます」

「だってさ、爺ちゃん。俺としてはそのままボコボコにされたら面白いんだけど?」

「何を言うか!こんな爺不幸な孫に誰が育てたんじゃか………」

「爺ちゃんだよ」

 

 

 

その言葉を最後に、一刀は祖父に木刀を渡し、二人から距離をとる。祖父と不動もそれぞれ数歩下がり、距離をとる。不動は愛用の竹刀を正眼よりやや上、八双とは若干異なる風にに構え、対する祖父は両腕をだらりと垂らし、自然体をとった。

 

 

 

 

 

「それでは………はじめっ」

 

 

 

 

 

一刀の声が道場に響き渡る。

 

 

 

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その姿は不動には見覚えがあった。一度だけ、一刀に対して本気で試合をしてくれと頼んだことがあったが、その時の一刀もいまの祖父同様、両腕を垂らした自然体の構えであった。剣道とは程遠い構え。防具の重さにより、速度が下がることも厭わず、その姿をとる一刀に対して、瞬殺されたことを思い出す。

 

 

 

「(さすがは………一刀の師だな。まったく隙が見当たらない)」

「どうした?かかってこんのか?」

 

 

 

不動の思考を読んでいるかのように、さらにはからかうように語り掛ける。不動もそうしたいのは山々だが、如何せん、どう攻めていいのかわからない。いや、それは違う。不動の脳内には、幾筋もの刀の振り方が浮かんではいる。ただし、どう仕掛けても返される姿しか想像できないのだ。

 

 

先に動いたのは祖父であった。ただし、その動きは緩慢。悠然と一歩一歩距離を詰めてくる。その姿は隙だらけのようで、まったく隙が見当たらない。

 

 

 

一歩。

 

 

 

「(まだだ………)」

 

 

 

二歩。

 

 

 

「(あと一歩…)」

 

 

 

三歩………目が地に着こうかとするその瞬間、不動は脚に力を入れ、床を蹴った。

 

 

 

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「(ほぅ…)」 「(へぇ……)」

 

 

 

一刀と祖父は同時に同じ感想を抱いた。間合いに入る瞬間を待つのも一つの手だが、それは相手が格上で、且つ油断している時には有効だろう。だがしかし、祖父には油断も慢心もしない。一歩一歩品定めをするように距離を縮め、そして不動の反応を見ていた。

 

床に片足が着き、反対の足からその足に重心が移動する瞬間、その一瞬を狙い、不動は仕掛けたのだ。

 

身体が跳び出すが、腕は置いていく。慣性によって両腕と竹刀が遅れるなか、その動きを逆に振り上げに置き換え、振り下ろすまでの時間を短縮する。そして―――

 

 

 

 

 

「はぁっ!!」

 

 

 

 

 

――――――その動きは見事という言葉のほかに、表す言葉は見当たらない。相手の移動を逆手にとり、重心の移動の瞬間にどうしても発生する一瞬の隙を埋めるかのように、袈裟懸けに竹刀を斬り下ろす。

 

 

 

 

 

「(獲った!)」

 

 

 

 

 

不動は勝ちを確信した。

 

 

 

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不動の読みは当たっていた………………それが通常の達人であったならば、の話だが。

 

 

 

「ほれ」

 

 

 

祖父は小刀を自身の肩目掛けて下ろされる竹刀の切っ先に合わせると、刹那、手首を内側に返した。勢いを殺さず、されどその勢いを利用して竹刀の回転速度を極限まで高め、相手の手から抜く。

 

 

 

 

 

………からんからん………………

 

 

 

 

 

刀を振り下ろしきった姿勢で止まる不動。しかし、その手には何も握られてはいない。

 

 

 

 

 

「それまで」

「はっはっはっ!儂の勝ちじゃな」

「………………………」

 

 

 

一刀の合図に不動は立ち上がり、再び距離を空けるが、不動はいまだ何が起きたのか分からないという顔をしていた。

無理もない話である。不動はその言葉の通り、公式戦不敗の経験を持つ。その鍛錬も相当のものであろう。しかし、相手が悪かった。今回の試合相手は剣道ではなく剣術の師範。実践経験も豊富で、口には出さないが人殺しの経験もある。どのような状況でも心を落ち着けるほどの精神力を備え、あらゆる手に対して最善手を選べるほどの目を携え、それでいて遊ぶほどの余裕を持ち合わせる。ひとえに、その経験の差がはっきりと実力の差を示していた。

 

 

 

「ふむ、なかなかいい筋じゃったぞ、如耶。このまま鍛え、経験を積めば、老若男女問わずお主の前に敵はいなくなるじゃろう。………まぁ、儂と一刀以外には、の話じゃがな」

「………………………」

「一刀、今日はここまでじゃ。せっかく新しい楽しみを手に入れたんじゃ。お前にボコボコにされてまでこの興を冷ましたくはない」

「はぁ……わかったよ」

「さて、如耶よ。これからもここに通うかどうかはお主の好きにするがよい。そうやって、かつてない程の実力差に打ちひしがれるのもよい。あるいはさらなる高みを目指し、鍛錬を積むのもよい。お主が選べ。まぁ、とりあえず今日のところは夕飯を食っていけよ?あれほど楽しそうにしている婆さんを悲しませたくはないからのぅ」

 

 

 

そう言って祖父は、からからと笑いながら、道場の出口へと歩いて行き、ふと、何かを思い出したかのように、振り返った。

 

 

 

「そうじゃった。………お主、一刀に勝ちたいと言ってここまで来たんじゃったの?一つ言っておくが―――」

 

 

 

その言葉に、不動は顔を上げて祖父の目を見る。

 

 

 

 

 

「―――一刀は、最早儂より強いぞ?」

 

 

 

 

 

そういう祖父の目には、久しぶりに楽しみを見つけたと言うかのような、明るい光が宿っていた。

 

 

 

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残された一刀は、どうしたものかと頭を抱えたくなるのを抑えていた。無理もない。一刀にこれまで恋愛経験はなく、さらには、こうして傷ついた少女を慰めた経験もないのだ。

一刀が悩んでいると、不動が顔を上げた。

 

 

 

「一刀、本当か?」

「………何がですか?」

「御爺様よりも、お前が強い、というのは………」

「まぁ………ですね。初めて勝ったのは中学三年生の時でした。あの時は接戦でなんとか、って感じだったのを覚えていますよ」

「それから………お前はどれだけ鍛錬した?」

「そうですね……朝は爺ちゃんよりも早く起きて、夜は稽古の後、夕飯の後、ずっとひたすら剣を振り続けていました」

「………………それだけやれば、私も、強くなれるかな?」

「今でもじゅうぶんに強いとは思いますよ?」

「下手な慰めも誤魔化しもいらない。答えてくれ」

 

 

 

 

 

不動は一刀を見上げる。その眼は力強く、ただ、一刀を捉えて離さない。

 

 

 

 

 

「………………………これまでの自分を捨てる覚悟はありますか?」

「それは、どういう………」

「先輩はこれまで不敗神話を築いてきました。まぁ、俺や爺ちゃんは別にしてね。いまの先輩に至るまでに、どれほど先輩が努力を続けてきたのか、想像に難くない。

しかしそれでも、俺や爺ちゃんがやってるのは………北郷流は剣術です。剣道じゃありません。これまで先輩が積み重ねてきた努力を全て捨て去ってください。

それ程までに、剣術と剣道はその技も、精神も違う。

先輩がこれまでしてきたことは、剣術に足を踏み入れるためには、ひどい言い方をすれば、邪魔です。準備運動にもなりはしない………」

 

 

 

下地造りには丁度いいですが、と一刀は付け加える。

 

 

 

「俺や爺ちゃんに何度も、何度でも打ちのめされる。そこには、先輩がこれまで培ってきたものは、なんの救いにもなりません。それでも先輩は、『これまでやってきたことは、一体何だったのだろう』そう考えてしまうでしょう。

そんなことに時間を割くくらいなら、剣を振れ。それが、剣術を修めると心に決めた時に、俺が爺ちゃんから最初に教わったことです。そこには遊びが差し込む余裕なんかない。

爺ちゃんを……ましてや俺を超えようというのなら、すべての時間を剣術に注ぎ込む、過去も、そして今すらも顧みない。それが今の先輩に………これから剣術を学ぼうとする先輩に必要な覚悟ですよ。

………………………その覚悟が、先輩にできますか?」

 

 

 

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一刀の言葉に、不動は黙り、俯く。しかし、そこに何かを逡巡、あるいは躊躇うような空気は感じられない。伏せられた不動の顔から読み取れるのは―――覚悟。

不動はいままさに、一刀に言われたことを実践していた。悩むくらいなら、剣を振れ。躊躇うくらいなら、さっさと覚悟を決めろ。

いま、不動の頭は恐ろしいほどの恐怖と、それを上回るほどの覚悟で占められていた。

 

 

 

 

 

「(これまでの私………そんなものは知らない)」

 

 

 

 

 

不動の眼はそう語る。

 

 

 

 

 

「これまで積んできた鍛錬………そんなものは必要ない!」

 

 

 

 

 

不動の姿はそう語る。

 

 

 

 

 

「いまの私………もう戻れない、いや、戻らない)」

 

 

 

 

 

その覚悟は、一つずつ恐怖を殺していく。その度に、伏せられた瞳には力が宿り、その顔からは血が滲む程の覚悟が伝わる。

 

 

 

 

 

「(なぜ私はここに来た?………決まっている。それは――――――)」

 

 

 

 

 

上げられた不動の顔を見て、一刀は微笑む。それは、まるで初めからその結果がわかっていたかのように。そして不動もまた微笑む。一刀が……己の惚れた相手が、自分がそれを為し得るからこそ、冷たい言葉をかけたのだと気づいて。そして自分がそれを為し得ると一片の曇りもなく信じてくれていたと知って。

 

 

 

 

 

「これから、よろしくお願いいたします」

「あぁ、死にたくなるほどしごいてやるよ。そして、俺を超えてみせろ、如耶」

 

 

 

 

 

不動は両膝を床につき、両手を床に置いて頭を下げる。

対する一刀も、兄弟子として、おそらく今後彼女以外に持つことはないであろう、唯一の妹弟子の頭を、片膝をついて撫でるのであった。

 

 

 

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「あらあら、お邪魔だったかしら?」

「っ!ば、ばぁちゃん!?いつからそこに!?」

「もう少し、遅く登場して欲しかったです、お婆様」

「ちょ、先輩っ!?」

 

 

 

先ほどまでの静謐とした、ある種、厳かな空気が途端に霧散する。

 

 

 

「あんまり焦っちゃダメよ、如耶ちゃん?私だって、お爺さんを捕まえるのにどれだけ苦労したか………」

「あ、やはりですか?どうも貴女のお孫さんは、御爺様の血を濃く継いでいるようだ」

「よくも悪くも、ね?」

 

 

 

そう言って微笑む祖母に、如耶も悪戯っぽく微笑みを返すのであった。

 

 

 

「もう少しでお夕飯ができるから、軽く汗を流してらっしゃい。タオルと着替えは置いてあるから、一刀ちゃん、案内してあげてね」

 

 

 

如耶の礼を受けて、祖母は道場を後にした。そこに残されたのは、先ほどまでの師弟の二人ではなく、いつもの、これまでの上級生と下級生の二人。

如耶は悪戯な笑みを浮かべたまま、一刀に向き直った。

 

 

 

 

 

「さて、一刀。風呂に案内してくれないか?私も出来れば汗を流させて欲しいし、御婆様のご好意を無碍にしたくはないのでね………………………覗くなよ?」

「覗きませんよ………………………はぁ」

 

 

 

 

説明
外伝
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コメント
この外史もきになるなぁ(qisheng)
>>nameneko様 本編が終わったらこっちメインになるかもw(一郎太)
この外史が本編でいいよ(VVV計画の被験者)
>>きたさん様 外史だから、こんなことがあってもいいと思うんだwww(一郎太)
>>ZERO様 やってみておくれwww 命の保障はしませんがwwwwww(一郎太)
不動さんってそんなキャラだったんですか?(きたさん)
それは覗いてほしいというフリですか?(ZERO&ファルサ)
>>2828様 ここに外史の誰かしらがいたら、フラグになったんだと思うwww(一郎太)
・・・・・・・・・・・・・覗くなよ・・・・・・・フラグ?ww(2828)
>>砂のお城様 たぶん、その爺ちゃんを捕まえた婆ちゃんも、相当美人だと思うんだwww(一郎太)
>>zendoukou様 本当だ!どうしてこうなった!? すぐ直します!!!(一郎太)
>>320i様 そこはやっぱりチートの主役の底力を見せて欲しいですねw(一郎太)
>>sai様 出すならもっと早い段階で伏線を張っていなければ、ですねorz(一郎太)
>>O-kawa様 如耶!如耶!(一郎太)
>>よーぜふ様 痺れますよね!? 狙って書いたとはいえ、そう言ってもらえて何よりです(一郎太)
>>kabuto様 そう言ってもらえて嬉しいです! やっぱりその辺は遺伝だと思うんだwww(一郎太)
>>はりまえ様 そこはやはりBasesonのスタッフの方々のスキルですねwww(一郎太)
>>poyy様 もしかしたら婆ちゃんのキャラが一番好きかも知れませんw(一郎太)
2pに言葉が変になっている所がある(zendoukou)
一刀かっこいいな。やっぱ不動先輩を本編に出せないのが惜しいです。(sai)
不動!不動!(O-kawa)
おおぅ、なんというしびれるセリフ・・・すぐに戻っちゃいましたけどw(よーぜふ)
一刀君かっけええええええ!!?不動先輩に対する気遣いが神掛ってるwwwwそして爺さんもかよwwwww(kabuto)
一刀の生まれながらのスキル、女殺しのほほえみ、無意識の女殺し、女性に対しての鈍感野郎。これだけで今までの主人公を凌駕する(一人よりAllを目指せ!!)(黄昏☆ハリマエ)
今回は笑いを抑え、シリアスに来ましたねぇ。まぁ最後は笑いでしたけどwww(poyy)
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