【南の島の雪女】第3話 布団の中の4人(1)
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【回想】

 

 

白雪は、風乃と、風乃の母親を2階の寝室へ運ぶ。

 

二人とも、気持ちよさそうな顔で、

すやすやと寝ている。

 

白雪は、うんと背伸びをすると、2階のベランダに出る。

 

気持ちよい朝の空気。

青白い空が、広がっている。

 

白雪は、これまでのことを回想する。

 

腐った牛乳を飲んで腹壊したり、ぶっかけられたり。

ハブに拘束されたり、熱い緑茶を浴びたり、

遊女と化した風乃にもてあそばれたり。

 

「回想しなければ良かった」

 

白雪は、がっくりとうなだれた。

 

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【寝言は寝て言え】

 

 

そのとき、うしろから何かが聞こえてきた。

 

「ううーん、紳士さん。

 まだ戦うの?

 しつこいよぉ…

 さっきボコボコにしたのに…」

 

風乃の寝言だ。

夢の中では、まだ南国紳士と戦っているのだろう。

 

ほほえましくて、白雪は、くすりと笑った。

 

「あれ? うそ、紳士さん、どうしてこんなに強いの!?

 あー、うー…

 く…苦しい…

 しらゆき、しらゆき。

 助けて…!」

 

風乃は苦痛に顔をゆがませた。

頭を左右にふり、枯れそうな声で。

目に少量の涙が浮かぶ。

 

「風乃! 大丈夫か!」

 

ただならぬ風乃の様子に、

白雪は、ベッドの上の風乃に駆け寄り、

手をにぎろうとした。

 

「…と見せかけて」

 

「は?」

 

「馬鹿め! 死ね!」

 

風乃は寝たまま、グーパンチを空中に向かってつきだした。

白雪は、顔面に、風乃のグーパンチをまともに喰らう。

ぐしゃりとへこむ、白雪の顔。

白雪、横転。

 

「紳士さん…

 困った顔した女の子に

 だまされちゃダメだよ…

 気をつけないと」

 

寝たまま、黒い笑いを浮かべる風乃。

 

「ああ、俺も気をつけるよ」

 

白雪は、右手で鼻をさすりながら、

左手の拳をにぎりしめ、

風乃の寝顔をにらみつけるのだった。

 

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【出て行く】

 

 

小休止をとったあと、白雪は、身支度を整える。

風乃が起きる前に、この家を出て行こうと思っていた。

 

どれだけの数の沖縄の妖怪が襲ってくるのか、

白雪にはわからない。

 

だが、妖怪が、手段を選ばず襲ってくるような奴なら。

風乃は、ケガですまなくなるかもしれない。

 

風乃の寝言を思い出す。

 

「く…苦しい…

 しらゆき、しらゆき。

 助けて…!」

 

結局、あれは演技だった。

 

しかし、考え直してみる。

本当に演技だったのか。

 

妖怪と戦うなんて、誰もが恐怖するはずだ。

自分の命が危ないと。

 

風乃は、命の危険を、心の奥底で感じているのでは。

これ以上、風乃を苦しませていいのだろうか。

 

早く風乃の前から去ろう。

白雪は決意した。

 

白雪は、玄関の外に向けて、ゆっくりと歩き出す。

 

「あれ…

 俺の靴がないぞ」

 

自分の靴がない。

さっきまで履いていた靴が、どこにもない。

 

いったいどこに。

白雪は、玄関のあたりをきょろきょろ見回す。

 

「やあ、おはよう、白雪」

 

声をかけてきたのは、風乃の父親だった。

 

「お義父さん…。

 俺の靴を知らないか」

 

「靴? ああ、君の靴なら、洗って、今干しているよ」

 

「へ?」

 

「失礼なことを言うかもしれないけど、

 ずいぶん、ぼろぼろで汚れた靴だったね。

 気になっていたんだ。

 普通の履き方をしていたら、あそこまでぼろぼろに

 ならないよ」

 

「…」

 

「それと」

 

「なんだ」

 

「君の靴、腐った牛乳のにおいがしたよ」

 

「本当に失礼だな、おい」

 

白雪は、昨日、深夜の校舎で

風乃に腐った牛乳をぶっかけられたことを思い出し、

憂鬱になった。

 

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【靴と雪女】

 

「白雪がどこを走り回っていたのか、

 僕にはよくわからないけど…

 靴は大事にね」

 

「ずっと、俺は逃げ回っていたからな。

 靴が、きれいなはずがない」

 

「ずっと逃げ回っていたのか。

 何か悪いことでもしたの?」

 

「していない。

 俺は何ひとつ悪いことなど…」

 

白雪は、風乃の父親から目をそらした。

これ以上、何も言いたくない。そんな様子だった。

 

「ふーん…

 まあ、警察のお世話にはならないようにね」

 

「ふふ、そうだな…」

 

「警察につかまったら、死刑になるから

 あまりつかまらないほうがいいよ」

 

「お義父さん…間違ってはいない。

 間違ってはいないが、間違っている」

 

 

次回に続く!

説明
【前回までのあらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。

南国紳士を撃退した白雪と風乃は、
早朝、家に帰宅し、休息をとることにした。
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南の島の雪女 沖縄 雪女 妖怪 コメディ 

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