真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 第二章・第一幕 『諸侯集結』 |
「はあ、はあ、はあ」
暗い森の中、一つの人影が息を切らせて必死に走っていた。空にはたくさんの星が瞬き、美しい月が夜の闇を照らす。だが、森の中まではその光も届かず、一面の闇だけがあたりを支配している。
「……あと少しで、冀州に入るはず。……待っててね、白ちゃん。”ご主人様”に頼んで、必ずあなたを助けて貰うから」
その暗闇の中でも、正確に周囲の木々をよけながら走り続けつつ、その人影はそう一人ごつ。
”この世界”に生れ落ち、”この世界”の父と母が死んで以降、自分にとって無くてはならない存在意義。そして同時に、大親友と呼べるその人を救うため、その人物――王?は、全速力で森を駆け抜ける。
今まで、”数多の”世界で愛し続けた、その人物がいる場所を―――冀州は?郡を目指して。
その頃、彼女が目指すその?の城では。
「……やっぱり、間違いは無いんだね」
「はい。前大将軍、何進様の”死亡”の後、相国の座に就いた董卓公は、帝の名を使い、己の欲するままに、民からの搾取を続けているとの事です」
玉座に座る一刀の問いに対し、あくまでも無表情で答える司馬懿。
この数日前のこと。洛陽からの行商人たちから、一刀がとんでもない噂を聞いたことが、その発端であった。曰く、『相国となった元涼州刺史・董卓が、都にて言葉では言い表せないほどの、悪政を行っている』との事であった。
以前、本人と知り合って、董卓のその人となりを知った一刀は、彼女がそんなことをするわけが無いと、それを一笑に附した。それでも一応、事の真偽だけは調べておこうという、司馬懿の提案を受け、彼女の直属の草組に洛陽の様子を調べさせた。
その結果が、さきの報告であった。
「なあ、いっちゃん。ホンマに、ホン〜マに、間違いなかったんか?……ウチには絶対に信じられへん」
「由さんのお気持ちはわかります。ですが、事実は事実、ですから。……それとも、私の細作組が信用できないと?」
「……そうは言わへんけど……」
司馬懿の報告をどうしても信じることができず、姜維は彼女にしつこく食い下がった。しかし、司馬懿はその鉄面皮を崩すことなく、あくまでも調べ上げた”結果”だけを、冷静に言い放つ。
「……俺も正直、”あの”董卓さんが暴政だなんて、到底信じ難いよ。けど、瑠里の情報網が正確なのは、みんなも十分承知だと思う。……もしかしたら、裏に何かあるのかも知れないけれど、現状では確認のしようが無い」
「……せやな。すまん、いっちゃん。いっちゃんの情報が確かなんは、ウチも身をもってよう知っとるさかいな。疑うてごめんな?」
「……べつに。分かって頂けたならそれで。……てか、頭なでないでください。子供じゃないんですから」
司馬懿に謝りつつ、その頭をぐりぐりと撫で回す姜維に対し、された本人はその顔をほんの少しだけ赤らめつつ、それを拒否する台詞をつぶやく。
「……それで、瑠里?白亜は……皇帝陛下はどうしているんだ?彼がそんな状況をほうっておくなんて、それこそ信じられないんだけど」
「そうですね。どうなの?瑠里ちゃん?」
あの、民の事を第一に考え、心底からこの国を何とかしたいと思っている劉弁が、事の真相はともかくとして、現実に民の窮状を捨て置いていることに一刀が疑問の声を上げ、徐庶もまた、それに同調して、司馬懿に質問をする。
「……わかりません。さすがに禁門の内側、ましてや後宮にまで細作の人たちも忍び込めませんから」
だから、調べようが無いです、と。司馬懿はそう答えた。
「ならカズ。ウチに洛陽に行く許可を!ウチなら禁門やろうが、後宮やろうが、んなもん関係なしに忍び込める。その上で陛下に直接」
と、姜維が一刀にそんな提案をしようとしたとき。
「申し上げます!南皮の袁家より、危急の使者が参っております!」
と、来訪者を告げる兵の声が、玉座の間に届いた。
「……袁紹さんから、ね」
「……張?さん達のことだったりとか?」
「今更かい?……まあいいや。お通しして下さい」
「はっ!」
程なくして、一刀たちの前に一人の少女がその姿を見せていた。袁家所属の将、最大の特徴とも言える金色の鎧を見つけた、ショートカットのその少女。
「お初にお目にかかります。私は南皮太守・袁本初が配下、顔良と申します」
「始めまして、顔良さん。?郡太守を勤めさせてもらっている、北郷一刀です。……先の戦では、張・高の両将軍には、”大変”、助けていただきました。改めて、そのお礼を述べさせていただきます」
”大変”、の部分をわざと強調し、顔良に皮肉めいた謝辞を告げる一刀。
(……一刀さんも、結構いい性格してますね)
(……クス。まあ、ね)
「……本日は、わが主よりの、”檄文”を届けに参りました。まずは、こちらにお目通しのほどを」
一刀の謝辞にはあえて答えを返さず、顔良は”それ”を、一刀に対し差し出す。
「……檄文、とは、穏やかではないですね。……由」
「はいな」
一刀に促された姜維が、顔良の手からその書簡を受け取り、改めて一刀に手渡す。そこに書かれていたのは、董卓の暴政が知らされた時点で、ある程度くるであろうと予測していた、ほぼその通りの内容であった。
『袁本初がここに激を飛ばす。都にて、不遜にも帝の御名を使い、暴虐の限りを尽くす董仲頴に対し、ここに正義の鉄槌を下さんとするものなり。心ある諸侯よ、大儀の旗の下に、是非に参集されたし』
(ほんとに、ほぼ予想通りの内容だな。史実じゃ、この檄を飛ばしたのは曹操だったけど、状況が少し違うし。可能性として考えていた通りの展開になった、か)
「……顔良さん。激の内容については、よく理解しました。とりあえず、少し皆と話をしたいと思いますので、どうか別室にて、お休みください」
「ありがとうございます。ですがこれより、ほかにも回らないといけませんので、お返事は後日、南皮の方へお願いいたします。……それでは」
と、顔良は拱手したままそれだけ言い、そのまま退出していった。
顔良が退出していったその扉が閉じられると、一刀は椅子の背もたれにその背を預け、大きく一息吐いた。
「はあ〜。……さて、と。この檄文に応じるか否か、だけど。まずはみんなの意見から、聞かせてもらおうかな」
と言い、その場の全員を見渡す。
「私は参加すべきと思います。事の真偽はどうあれ、これにて洛陽での暴政と、それを行っているのが董卓さんだということが、世に知れ渡ることになりましたから」
「完全に、大儀は袁家にあり、ですね。もし仮に、この大儀に逆らう、もしくは傍観を決め込もうものなら、私たちは今後、完全に孤立することになるでしょうから、私も、参加に賛成です」
先手を打って賛成の意を表した徐庶と、それに追随する形で、司馬懿もまた賛成の意見を述べる。
「……ウチは正直、気がすすまへん。霞や華雄たちとやり合うことになんのやろ?いや、それが私心なんはようわかっとるけど」
「あたしも正直言えば、あまり乗り気ではないな。連合、と言えば聞こえはいいが、うまくまとまらなければ、ただの烏合の衆になりかねん」
あからさまに反対、と言うわけではないが、それぞれの理由から姜維と徐晃は難色を示す。
「……状況は五分五分ってところか。何か、決定的な要素の欲しいところだな。かといって、今から由に洛陽に行ってもらったんじゃあ、時間がかかりすぎるし……」
腕組みをし、一刀が思考状態に入る。それを見た四人は一斉に口を閉ざし、一刀の思考の邪魔をしないよう、そろって沈黙を保つ。
そうして三十分も経った頃、”それ”は唐突に現れた。
「ぶるわぁぁぁぁっっっ!!」
『おわあっっ!?』
どこからどうやって入り込んできたのか、一人の”女性”が、その容姿に似つかわしくない叫び声を上げながら、突然室内に”わいて出た”。
「あ、あ、あ、貴女、お、王?さん?!」
「何やの今の叫びわ!ていうか、どっから出てきたんねん!?」
「そお〜んなことはどうでもいい〜の!お願い”ご主人様”!白ちゃんを助けて!」
『……は?』
ぽかん、と。あまりの突然さに、いろいろと呆気にとられ、思考が麻痺状態となる一同であった。
一方その頃、都では―――。
「それでは陛下。”次も”よろしく、お願いいたします」
そう言って頭を下げる”ソイツ”に、玉座から冷たい視線を向けたまま、
「……分かっておる。用が済んだのであれば、早急に去ね」
と、そう吐き捨てた。
「おやおや、これは嫌われたもので。……くっくっく。それでは」
バタン、と。
扉が閉められ、男が玉座の間から出る。それを見届けた彼――劉弁は、
ダンッ!
と、椅子の肘掛を思い切り叩きつけ、唇を強く噛む。
「……張譲め。”協と相国”の居場所さえ分かれば、いつまでも好きにさせぬものを」
噛んだ時に切れた唇から、一筋の血を流し、劉弁は忌々しげにそう一人ごちた。
(……彦雲、頼むぞ。無事、一刀の下に辿り着いていてくれ。そなただけが、今の朕には唯一の頼みの綱じゃ)
声には出さず、そう願う劉弁。……あの時の、一刀の笑顔を思い出しつつ。
そして、それから数日後。
ところは?州と豫州の境。黄河を北に眺めることの出来る小高い丘の上から、彼らは眼下の盆地を見下ろしていた。
そこには、色とりどりの牙門旗が揚々とはためいており、数え切れないほどの兵達によって、大地が埋め尽くされていた。
「……よくもまあ、これだけ集まったもんだ」
「それぞれに、それぞれの思惑があるのでしょうけど」
馬上からその光景を眺め、率直な感想を思わず漏らした一刀に、その隣に馬を並べた徐庶が、冷静にそう続く。
「見る限り、総数は約二十万と言った感じか。『袁』の旗が二つに、『孫』と『曹』。それから」
「『公孫』に『劉』、そして『馬』、ですね。……どうやら、私たちが最後だったようです」
徐晃と司馬懿が、それぞれに視界の中の旗の字を確認していく。
「……王?さんと由は、うまく潜り込めたかな?」
はるか西のほうを見やりながら、一刀がポツリと、”先行”した二人のことを、心配げな表情で誰とも無く問いかける。
「大丈夫でしょう。二人とも、”その道”にかけては、大陸でも五指に入る実力の持ち主ですから」
そんな一刀に声を掛ける徐庶の顔は、彼の不安を消し去る、満面の笑顔であった。
「……そだね。白亜や董卓さんを救うためにも、俺たちは今回の策を絶対に、成功させなきゃならない。……あそこに居る、諸侯のすべてを、”騙し抜いて”」
『……』
ん、と。互いの顔を見合わせ、頷きあう四人。
「……よし!それじゃあ、俺たちも合流しようか。三国志の英傑たちを相手の、一世一代の”大芝居”のために」
『御意』
”十”の旗を掲げた、北郷郡の精兵三万が、隊伍を整えてゆっくりと動き出す。様々な思いを秘めた諸侯が集う、”反董卓連合”の集結地へ。
史上最大の”茶番劇”。
後世、史家によってそう評された、この戦い。この先に、一刀たちが得るものは、果たしてあるのだろうか。
そして、得るものがあれば、それと対等に、失われるものがあるのも、また理である。
はたしてそれらが何なのか。今は誰も、知る由が無いのであった。
〜続く〜
さ〜て、恒例あとがきこーなーです。
「どーもー。輝里でーす」
「由やー。よろしゅうなー」
さて、まずは連合結成の冒頭って感じでしたが。どうだったでしょうか?
「とりあえず、私たちは連合側に組することになったわけね」
「出陣前の王?はんとのやり取り、書かなかったんやね。なんで?」
単に雰囲気重視なだけ。話の展開とかね。
「さよけ」
そのやり取りは次回にてご紹介となりますので。
「連合参加勢力は、私たち以外は恋姫本編組みだけですね」
「せやな。ていうかさ、おとはん。一つききたいんやけど。前回のコメで、駄名族のひとが今回出るとか書いてなかった?」
最初はそのつもりだったけどね。書いてるうちに出番が無くなってもうたわ。はっはー。
「はっはー、て。・・いいのかな?」
「えーんやないの?いちお、斗詩は出てたし」
てなわけで、次回予告です。
「いよいよ開始される、反董卓連合の戦い」
「始めに立ち塞がる壁の名は”水関”!そこに待つは、果たして?」
次回、真説・恋姫演義 〜北朝伝〜、第二章・第二幕。
「『水 謀戦・前編』」
「ご期待くださいませ」
それでは、今回もツッコミその他、ご意見・ご感想、お待ちしております。
「支援も忘れんといたってな〜」
「それでは皆様」
『再見〜!!』
説明 | ||
北朝伝、二章の一幕目。 遅ればせながらの投稿にございます。 ついに結成される反董卓連合。 そのとき、一刀たちの下に現れた、その人物とは? それでは逝ってみましょう^^。 |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
26494 | 19554 | 148 |
コメント | ||
RevolutionT1115さま、そこはまあなんと申しますか。多分あえてスルーしたんだと思いますよ、みんな。その場の空気と流れを読んでww 頭の中では、何のこと?って思ってると思いますがww(狭乃 狼) なんか違和感があるところが。三国志の英傑〜て一刀が言ってますが、他の人物からすれば分からない気が;;(RevolutionT1115) 東方武神さま、燃えますか?燃えてくれますか?・・・うう、プレッシャーが重いorz(狭乃 狼) kabutoさま、興奮はそこそこにねww落ち着いてお待ちくださいな^^。(狭乃 狼) hokuhinさま、人質は、まあ、ある意味ベタな手ですがww(狭乃 狼) 紫電さま、茶番劇の意味を履き違えてないといいんですが。あ、僕が、ですww(狭乃 狼) aoirannさま、でしょでしょwwやっぱあの叫びは必須ですから^^。(狭乃 狼) この展開は燃えるねぇ。次回に期待大だね。(東方武神) 一世一代の大芝居!張譲の策略!劉協の安否!次回が気になるぅ!!(kabuto) 人質とはまた姑息な手段を取ったな・・・一刀達だけで諸侯を騙ししつつ月達を助ける事が出来るか楽しみです。(hokuhin) やはり、登場の際には、あの雄たけびがないとしまりませんなw(aoirann) よーぜふさま、ある種口癖かなー、なんて風に思い至ったわけですww(狭乃 狼) poyyさま、そのとおりの展開にできるといいんですが(ってオイwww(狭乃 狼) mokiti1976−2010さま、その期待の分だけ、私にかかるプレッシャーが重い・・・orz(狭乃 狼) 砂のお城さま、わいて出るのはいつものことww女性になってもそのスキルは変わらない^^。名(苦笑)族ショーは、さ、はたして?(狭乃 狼) 考えたらあの方の今の外見でその発言って・・・合唱!(ある意味誤字にあらず、鎮魂歌的な意味でw)(よーぜふ) 茶番劇とは続きが気になりますな。(poyy) 茶番劇ですか、きっと一刀のことですから痛快極まりない手をかんがえているのでしょうね。大期待!(mokiti1976-2010) KU−さま、さて、どんなオチになるやら。(狭乃 狼) 森羅さま、また単純なご感想をww・・・嬉しいですけどね^^。(狭乃 狼) 茶番劇か、オチが楽しみですねw(KU−) いいね!!(森羅) |
||
タグ | ||
恋姫 say 北朝伝 一刀 徐庶 姜維 徐晃 司馬懿 | ||
狭乃 狼さんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |