恋姫のなにか 27
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ウルガ様は俺の嫁、くらげです。

あまりにプッシュしすぎて友達と対戦する時確実に対策されるのが悩みの種。

 

あ、これ恋姫だっけ。

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「はいよ〜、どないしたんや〜?」

『あ、今平気?』

「かまへんよ〜。帰り道やさかいデカい声は出せへんけどな〜」

『あのさ、xx日から三泊四日で旅行いかね?つーか行って下さい』

「なんや急に。なんか可笑しなモン食うたんかいな?」

『温泉行こうっつってたじゃん、今度は皆でって』

「あー、そういや言うてた言うてた。 っていきなりかい!!」

『声でけーよ霞ねーさん。耳痛ぇ』

「おぉ、すまん・・・せやけど急にどないしたねん」

『いや、六人で宿取れたのその日しか無かったんだ』

「もう手ぇ回してるんかい・・・・・・まぁウチは構へんけど、他のんはいけるんか?」

『あー・・・それなんだけどさ』

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そんな電話が弟から掛かってきた数日後、霞はまず恋の部屋の前にいた。

姉妹の中でもっとも暇な廃ニートである恋は完全なる安牌だと踏んでの第一選択である。

 

「恋ー、ちょっとええかー?」

 

ゴンゴンと扉をノックして呼びかけるが反応は無い。つい先ほど一緒に晩御飯を食べた所だが、もう寝たのか。

不健全な思惑によって、この家の姉妹の私室には鍵などついていない。誰が呼びかけた訳でも無く自然に五人皆がそう選択したのだから、やはり姉妹というのは似るらしい。

 

「れーんー?おーい」

 

ゴンゴン、ゴンゴンと強めに扉を叩いて再度呼びかけるが、やはり全く反応は無い。

そこまで仲が悪い訳でもなし、入っても滅茶苦茶な理論で喧嘩を吹っかけたりはしないだろうが、マナーは家族間でも守られてしかるべきである。

一刀経由とはいえ頼みごとをするのだからと、霞は辛抱強くノックを繰り返したが部屋の中にいるであろう恋は全く反応しない。

 

「寝つきのええやっちゃな・・・・・・しゃーないか」

 

入るでー?と声を掛けてドアノブを捻って先ずは顔だけで室内を覗き込むと―――真っ暗な部屋を煌々と照らすPCのモニタをじーっと見ている恋が見て取れた。

何やら見覚えのあるヘッドフォンを装着してじーっとモニタを見ている恋に、溜息を吐きながら近づく霞。何かを蹴飛ばした気がするが、何なのかを確認する気にもなれない。

無論廃スペックを日々無駄にしている恋の事、部屋の扉が空いた事にも霞が近づいている事にも気が付いているだろうに振り返る動作すらしない。

普段なら拳骨を叩き込む所だが、前述の通りお願いしにきたという事もあって霞はヘッドフォンをひょいっと外すだけに止めた。

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「恋、ちょっとええか?」

「?」

 

ヘッドフォンを取り上げられた恋は不思議そうに霞の顔を見上げる。

驚いた様子は無い事から、拳骨を落としてこない事を不信に思っているのだろう。

 

「あんな、xx日からちょっとの間暇か?」

「・・・・・・なに?」

「ちょーっとお姉ちゃんに付きおうてくれへんか?」

「・・・その日は用事がある」

「はぁ?!」

 

霞のデカい声が近隣中に響き渡る。もっともこの一家が騒がしい事は周知の事実であるからご近所さんは誰も気に止めてなかったけれど。

それどころか霞の怒声を時計代わりにしている家まである始末。霞はもっと報われていいと思うんだ。

 

「よ、いやちょいまて! お前が用事ってなんやそれ?!」

「・・・たまに霞は失礼」

「あ、あぁごめんな・・・ごっつビックリしてん・・・・・・用事ってなんやの?」

「おかいもの」

「えーっと・・・・・・それはその日やないとあかへんの?」

「うん」

「そ、そうか・・・・・・どないしてもアカンか?」

「・・・ごめんなさい」

「い、いやええんよ?無理言うてスマンかったな・・・・・・」

 

気分屋の問題児にこうも素直に謝られては霞とて引かざるを得ない。

確実に連れて行けると踏んだ恋がまさかの不参加という事実に霞は動揺を隠し切れないが、一刀から『無理に誘わないで。予定あるならそっち優先させて』と頼まれていたので、無理矢理喰らい付く訳にもいかない。

ついでに『他の姉ちゃん達には内緒にしといて』とも言われており、それを引き受けた手前こちらの内容を探られるのも少々不味い。

霞は「どないしよ・・・」と自問自答しながらも、何とか平静を装って恋の部屋を出た。現在まさかの初黒星。

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気を取り直して凪の部屋の前に霞は居た。

恋の予定がまさか詰まっているなどと思いも寄らなかったが、逆に考えれば他の妹達、特に完全に無理臭い稟の予定が空いているかもしれない。

 

「凪ー」「はい?」

 

恋とはうってかわって、ノックと共に呼びかければ凪は直ぐに扉を開けてくれた。

風呂に入るつもりだったのか、普段三つ編みな髪の毛をストレートにしていた。

 

「ちょっと構へんやろか?」

「あ、はい。どうぞ」

 

凪の部屋は、何と言うか異様だった。

ダンベルやら何やらが並んでいたり床に置いてあったりするが、その隣に弟の写真を飾るのは如何なモノか。

本棚には●●流、やら××術といった武道の本が並んでいるが、その隙間を縫う様に『一刀 六歳』などといった弟のアルバムがサンドウイッチで置かれている。

 

「あの・・・?」

「へ?あ、あぁ話やったな」

 

何度も入っているが、このファンシーとファンタスティックが不協和音を奏で続ける空気には慣れない。慣れたらきっと何かが終わり、始まってしまう。

 

「あんな、xx日から三日ぐらい暇あらへんやろか?」

「ええっと、お待ちを・・・・・・すいません、前日から道場の合宿を引率する予定になってます」

「そーかー・・・・・・一応聞くけど、誰かと代わって貰われへんのか?」

「すいません、組み手の問題もありますので」

「あーそうかそうか・・・ほなしゃーないなぁ・・・」

「すいません」

「構へん構へん、急に言うたコッチが悪いんやし」

 

凪もダメ。まぁ此方は最初から諦めていた二人のウチの一人であるからショックは少ない。

部屋を出る時まで申し訳なさそうな顔をする妹に此方が悪い事をした気になりつつ、霞は凪の部屋を出た。現在ニ連敗。

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「稟、入るで。絶対立つな」

 

キチンと言い含めてから霞は稟の部屋を空けた。

 

「どうかしましたか?」

「おー、ちょっと話あってな」

 

凪の部屋が異様、恋の部屋が異質なら、稟の部屋は微妙である。

シンプルに纏めたい。というコンセプトは判るのだが、彼方此方がひび割れていたり傷付いていたりと可哀想な事この上ない。

窓にはきっちりガムテープが張られている。そこだけ見たら何かの事件があったと思わざるを得ないあたりがドジっ娘クオリティ。

 

「一応、ホンマに一応聞くんやけどな?」

「はい」

「xx日から三日ほど時間つくれへんやろか?」

「喧嘩売ってるんですか?」

「せやんな・・・すまんな、急にこんな話して」

「まぁ仕事で忙しい訳でもないですが・・・生憎とその日は数日飲み会が続いてまして」

「せやったら別の日に回されへん?」

「数合わせならどうとでも抜けられますが・・・後輩から招かれて主賓扱いですので・・・」

「それはアカンなぁ・・・すまんな急に」

「いえ、気になさらず。ところでどうして急にそんな話を?」

 

ついに来たというべきか、やっと来たというべきか。

普通なら恋に予定を聞いた時点で来て然るべき疑問であるのだが。

 

「チョットナー」

「はぁ・・・まぁ霞姉さんらしいと言えばらしいですね」

 

一刀と並んで家族への憧れは強い霞である。

弟共々、昔はあれやこれやと思いついては姉弟皆で何かをやろうと言い出したのを思い出して稟は思い出し笑いを浮かべる。

 

「調整できるか確認してみます。可能な限り善処しますので」

「いや、ホンマに無理せんでええで?」

「何時もは私の用事を優先させていますからね、偶に家族孝行するぐらいいいでしょう。・・・・・・尻拭いをして頂いている事もありますし」

「最後の台詞聞いたからには、ウチもけし掛けるしかないな。 死ぬ気で日程空け」

 

口を真一文字に結んで、むーんという表情になった稟はケータイに手を掛ける。

その様子を横目で見ながら、霞は稟の部屋を後にする。

現在一勝二敗。まさかの稟参戦、霞の胃がストレスでマッハにならない事を願う。

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最後は桃香の部屋である。

“カズちゃんのみノック不要”と銘打たれた壁掛けのカードの横にリアルな熊の絵と共に“猛獣注意”のペナントがある。

 

(ホンマ一刀はええ趣味しとんな・・・)

 

一刀が面白がってネタで買ってきた修学旅行のお土産だったが、桃香は酷い酷いと詰め寄りながらも今までずっと使っている。

 

「桃香〜?入るで〜?」

『いいよ〜』

 

一刀のみノック不要と言う事は、裏を返せば他はノックぐらいしやがれという意味である。

まぁ当の桃香とて他の姉達の部屋に入る時はノックぐらいするので当然といえば当然なのだが。

霞がドアを開けば、桃香はパジャマの上だけを着込んでエクササイズしながら電話の真っ最中だった。

 

「下もちゃんと履かんかいな・・・」

「お風呂上りだから熱いんだも〜ん。んで、何か用なの?」

「あー、まぁな。 電話はええんか?」

「つーわけでバイバイ。もう電話してこないで」

 

そう吐き捨てると通話をブチッと切って凄い速さでケータイを操作する桃香。

恐らくはメールしているのだろうが、その速度を見る度に最近の子は凄いなぁと思わずにはいられない霞だった。

 

「また変なんとつるんでるんちゃうやろな?」

「しっつれいな。向こうから来るだけで私は基本的にシカトしてますよーだ!」

「あんま危ない事しーなや」

「私は平和主義者だも〜ん」

「お前に嘘発見器付けたら年がら年中光っぱなしなんやろな」

「だー! 何、喧嘩売りにきたの?」

 

おっと、これではまた鉄拳制裁で世が明けてしまう。

霞は気を取り直すと、不機嫌そうに脚を動かす桃香へ提案した。

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「お前××日からちょっとの間空いてるか?」

「へ? 空いてるけど?」

「そかそか。ほなちょっと付き合い。恋と凪はアカンかったで正直困ってたんよ」

「恋ちゃんがダメだってのも気になるけど、稟お姉ちゃんの名前が出なかった事の方が気になるんだけど」

「稟はちょっと無理させたわ」

「なんで?!霞姉さんってそんなドMだった?!」

 

これは桃香殴られても仕方ない。稟の分まで殴られても仕方ない。

 

「おーいって・・・」「自業自得じゃ」

「・・・まぁ三人でもいいけど、正直私稟お姉ちゃんの面倒見切る自信無いよ?」

「ま、アイツはウチがどないかするわ。最悪縛って転がしといたらええやろ」

「うわー楽しみー♪ 私絶対指差してプギャーしてやるんだ〜♪」

「泣かん程度にしときやー」

「おっけぃ! んで、どっか泊り掛けで行くの?」

「んー。まぁ近い内に話すわ。 確認するけど参加出来るねんな?」

 

霞の確認に両手で大きく○を作る桃香を見ると、よっしゃ。と言って部屋に戻る霞だった。

結果は二勝二敗。恋が不参加というのは完全に予想外だったが、こうして結果が出てみると凪が仲間外れにならなくて済んだという事になる。

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『つー感じや』

「はいはい了解」

『で、モノは相談なんやけどな。皆にネタばらししたらあかへんか?』

「恋ねーちゃんとか無理に予定空けそうだし、このままでいいよ」

『せやけど、絶対拗ねるで?凪かて凹むやろし』

「そう言われるとなぁ・・・俺も皆で行きたいのは行きたいけどさ」

『何も言わんでも稟はちょっと無理させてるんやし、お前からちゃーんと言うた方がええんと違うか?』

 

と言った姉との会話内容を一刀はそのまま相談した。

相手は「久々に外で御飯食べたい!!前に行ったお店でいいから!!」と駄々をこね、オメカシして着飾りながらも食後のアイスを大口開けて美味しく戴いている華琳である。

 

「まぁ、こんな感じなんだけどお前どう思う?」

「お姉さんに一票。つーか一刀の名前隠す意味が解んない」

「なんで?!」

 

おいおい。と華琳は思うのだが、事情が事情だったし遠慮ぐらいはするだろうと今まで一刀の身内への対応や考え方には口を挟まないできたのだが、自分の考えを聞かれたとあっては答えぬわけにもいかない。というか、ようやく鬱憤が晴らせるというもんである。

 

「だって家族旅行でしょ?フツーは無理して皆の予定合わせるでしょ」

「いや「そりゃ一刀の気遣いも解るけど、行けないお姉さんにしてみたら自分達が除け者にされたみたいで面白くないっしょ」

「そんなつもりはねーよ」

「だから解ってるってば。まぁ落ち着きなさいな、アイスもう一個食べる?あーんしたげよっか?」

「どんだけ食う気だよ」

「もー!重苦しい空気を取り払おうと頑張ってるのにー!ま、いいや。

結論からいくよ? 一刀はお姉さん達が好きで、お姉さん達は一刀が大好き。旅行は皆で一緒に行きたい。OK?」

「ん」

「一刀は懐とバイト時間で無理をした。お姉さん達は予定で無茶をする。コレで平等、一気に解決。

駄々捏ねる所は捏ねて、我慢する所は我慢する。

一刀の方が無理する所多いのは幹事って事で割り切る、以上」

 

そう言い切ると残ったアイスをパクッと口に入れ、コーヒーを音を立てずに飲む華琳。

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(やっぱ、こういう所大人だよなぁ)

 

変な拘りや意地を簡単にとっぱらってくれる華琳に感謝しつつ、近いうちに帰って皆に話してみる。と霞にメールで連絡を入れる一刀だったが。

 

「あ、また今度帰って直接ーとか思ってるんだったらやめといた方がいいと思うよ。直ぐに皆に均等に連絡いれなさいな」

 

今まさにそんな内容のメールを入れた一刀は、そんな華琳の言葉に慌てずには居られない。

 

「なんで?」

「・・・・・・あのね、前から思ってたけど、一刀はサプライズを根本的に勘違いしてると思うの」

 

女心が解っている様でやっぱり解っていない年下の男の子に、華琳は額に手を当てながら溜息を何とか飲み込んだ。

 

「今度ったって一刀は週末にしか帰れないんだし、その週末も暫くバイトで忙しいって言ってなかった?」

「まぁ・・・」

「あのね、良い歳したレディが『明日から旅行いこっぜ〜♪』って誘われても何の準備もしてないのに行ける訳ないでしょ?」

「いやでも準備ったって家族だぞ?」

「んーそこからかーおねーさんこまっちゃうなー」

「お前ちょいちょいソレ言うけどすっげぇムカツクんだけど」

 

どう言えば一刀を納得させられる物か、とコーヒーで口を湿らせながら視線だけを脇にずらした華琳は、口に含んだコーヒーを一刀目掛けて噴射した。

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「げほっ!!ごほっ!!」

「・・・・・・・・・おい」

「ふむ、この場合は水も滴る良い男。と言って褒めるべきなのか?」

「・・・・・・冥琳先輩?」

「よ」

 

ほれ、詰めろ詰めろ。と促されるまま、一刀は座っていた場所を空け、其処に腰を降ろす冥琳。

少しの間も無く店員が冥琳にメニューを、一刀におしぼりを持ってやってきた。

 

「め、冥琳何してんの?めちゃくちゃびびった・・・けほっ」

「何をとはご挨拶だな。態々優待チケットせしめておいて」

「・・・ちょい華琳、鏡持ってね?」

「あ、ごめんね。 ちょい待ちうごかないで〜っと・・・ほい」

「所でお前達はもう食べ終えたのか?」

 

おしぼりを一刀から受け取って、頭をヒョコヒョコ動かして自分が吹きかけたコーヒーの拭い残しが無いかを確認する華琳。

顔を拭かれるままの一刀は、口を動かす代わりに冥琳の眼を見て首を縦に動かして肯定した。

 

「なんだ、急いできたのにつまらん」

「つまらんって・・・そういや今日は月とか雪蓮とかとは一緒じゃないの〜?」

「それはコッチの台詞だな。てっきり全員揃っているものだと思っていたから妹は誘わなかったんだ」

「今日は突発的に出て来たの。つか、良く今日私達が来たってわかったね?」

「おいおい、お前のせしめた優待券の出所を考えろバ華琳」

「あ、あの、冥琳さん・・・チケットってなんなんすか?」

「ん?まぁ言ってみればここのタダ券だな。名義が堅苦しいのは大人の事情だと思ってくれてかまわんぞ」

「・・・華琳、お前なんでそんなの持ってんの?」

「へ? だって此処のお店冥琳のだもん」「正確には周家が経営する、だがな」

 

そんな会話をしているウチに冥琳が何時の間にやら注文していた料理と、華琳が同じく何時の間にやらおかわりしていたデザートが届いた。

こういう高級店にとことん縁の無い一刀は、営業スマイルを完璧に貼り付けた従業員に小さくコーヒーの御代わりをなんとか注文したのだった。

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まぁ当然話は巻き戻り、一刀の計画する旅行の話になった。

冥琳としては華琳に聞きそびれた話であるからして興味深々だし、華琳としても冥琳なら一刀を巧い具合に説得してくれるんじゃないかなぁとか思っていた。

雪蓮と月に伝わって云々も一応危惧してはいるが、まさか其処までKYでもないだろうと親友を信じた華琳。

旅行先さえ黙っておけば大丈夫、という安易な考えもそこにはあった。

 

「どう思う冥琳?」

「私個人としては一刀に賛成なんだが、女の立場からすると少々考えてほしい所だな」

「えーっと、つまり?」

「「すっぴんで表歩けるか」」

「はぁ・・・そっすか・・・」

 

冥琳と華琳、二人にピシャリと言われた一刀だったが、その顔には少々釈然としないモノが残っている。

やはりその辺りの機微を男に分かれと言っても難しい話だろう。

 

「まぁ私達女だって人間だ。ノーメイクで外を出歩く事だってそりゃあるが、旅行やお出かけとなると話は別になる訳だ」

「あのね、一刀。いくら一刀だってパジャマでバイト先まで行かないでしょ?女の子はソレがスケールアップするの、服どころの話じゃなくなるの」

「はぁ・・・その辺は大体解ってるつもりっすけど・・・」

「「解ってない」」

「アレでしょ?眉描いたりとか、グロス?とか塗ったり」

「・・・・・・一刀、もういい。お前は良く頑張った」

「あのね、一刀。一刀みたいに朝起きて顔洗って御飯食べてさぁ出発みたいに簡単に行かないの、いい加減解って?

あとこの際だから言うけど後片付けしてるのに急かすのやめて?

手伝ってくれるのは嬉しいけど、自分の家の食器だからって適当に仕舞うの勘弁して、次に出す時にわかんなくなっちゃうから」

「華琳、単なるお前の愚痴になっているぞ」

「だって一刀ひどいんだよ!?何処に仕舞ったのって聞いたら俺が知るかとか覚えとけよとかさー!!」

「わかったわかった」

 

わー!とテンション上げ上げで冥琳に絡む華琳。華琳をよしよしとどうでもよさ気に構いながら一刀に何とかしろと眼で訴える冥琳。

正直すんませんした。と冥琳に謝る一刀。

華琳ガンガレ!!超ガンガレ!!

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またまた数日後の週末。一刀は実家へと向っていた。

あれから持ち直した華琳にちゃんと家帰って誘ったげなと言われたので、何とか都合をつけて帰省中。

皆に連絡入れろ。とも厳命されていたのでちゃんと姉達全員に大事な話があるから今日は家にいてくれといった内容のメールを入れておいた。

 

「ちゃんと誘ってもダメだったら思春と春蘭でも誘うかなー」

 

思春の用事なんてネトゲぐらいだろうし、春蘭はおねだりしやすい。

秋蘭の事を考えると少し心は痛むが、頭数一人増やすとか足が出てしまうし、そもそも春蘭を誘うのが決定したわけじゃないし、と気を入れなおす。

 

「ただいまー」

 

そう声を上げて実家の扉を潜る一刀。おかえりーと長姉の声が響くばかりで、他の姉達の声は聞こえない。

しん。と静まった我が家の空気に、気配なんざ読めないが皆いないんじゃないのかと思った一刀。

 

「ただい・・・なんだ皆いるじゃん。いないかと思ったわ」

「おかえり。なんか飲むかー?」

「コーヒー」

 

よ。とスポーツバッグを床に下ろして、姉達が微動だにせずに座っているテーブルを眺める一刀。

恋のみはチラチラと一刀を窺っていたが、他の姉達はじっとテーブルを見たまま動かない。

何か怖い。と一人離れてソファーの方に座った一刀の所に二人分のマグカップを持って霞が歩いてきた。

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「ほい、おまたせ」

「サンキュー」

「おう。んで、着いて早々で悪いんやけど、コイツ等に用件話たってくれるかー」

「それは良いけど、なんでこんな空気重いの?」

「一刀。ちょっとこっちに来なさい」

 

テーブルを見つめたまま、稟が声に力を入れて一刀を促す。

霞に視線で「どうしたの?」と尋ねるが、霞も首を傾げるばかりで回答はなかった。

久々に稟お姉ちゃんが怖い。とビビりながらも空いた椅子に腰掛けると同時ぐらいに、凪がまず口を開いた。

 

「今日は、一人なのか?」

「へ?」

「一人で、帰ってきたのか?」

「う、うん・・・えっと、誰か連れてきた方がよかったかな・・・」

 

一刀は自分でどんどんと崖に近づいていく。

 

「カズちゃん。カズちゃんだって男の子だし、わかるよ?わかるんだけど、お姉ちゃんまだちょっと早いと思うの」

「お前ホントどうしたの?霞ねーさんに頭殴られすぎたの?」

「カズちゃんはお姉ちゃんが捕まってもいいの?!」

「達者で暮らせよ」

 

乾いた笑顔を顔に貼り付け、桃香が縋るように一刀を見る。

が、一刀は桃香が何を言いたいのか全くわからない。

 

「一刀は恋の・・・」

「いやホントどうしたの?」

「恋の!!恋の!!」

 

今度は泣き出した恋を見て、どうしたものかと霞を見るか、霞は離れた位置に陣取るばかりで何時もの様に助けてくれない。

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「あの、ホント説明して欲しいんですけど、何で皆おかしいの?」

「一刀、このメールの内容についてなんですが、どういう事ですか」

 

そういって稟が差し出したケータイには、確かに送った覚えのある文面が並んでいた。

 

「あぁ、霞ねーさんから聞いたと思うんだけどさ。××日の旅行の件なんだけど、計画立てたの俺なんだ」

「「「「・・・・・・パードゥン??」」」」

「だから、××日から三泊四日で温泉行かないかって話。 あれ、聞いてないの?」

「いえそれは伺ってますが・・・」

「稟お姉ちゃんと桃香姉さんは大丈夫なんだよね?」

「う、うん。平気だけど・・・大事な話ってこの事なの・・・?」

「おう。 凪ねぇと恋ねーちゃんダメって言ってたけど、どうにかなんないかな?」

 

そう言って四人の顔色を伺うと、四人が四人とも口から魂を吐き出していた。具体的には放心していた。

 

「霞ねーさん、ホントみんなどうしたの?」

「アホがアホなかん違いしてただけや。ほっときー」

 

そういってコーヒーを啜る霞の横顔には哀愁が漂っていた。

どんだけアバウトな説明だ。と思いながらも霞にそう言われては一刀としても引き下がるしかなかった。

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「恋ねーちゃん?おーい?」

「 (・ω・*))((*・ω・)     弟(・∀・)ハケーン」

「ね、恋ねーちゃんどうしてもダメ? お買い物別の日に出来ない?」

「へいき」

「アカン言うたんちゃうんか・・・」

「へいき・・・」

「あーはいはい、大丈夫やなー」

 

おもっくそ投げやりな霞の返事に不貞腐れながらも、一刀のお腹に顔を埋めてモフモフを楽しむ恋。

そんな恋の頭を撫で背中を擦り、もう一回名前を呼ぶと口をωに変えた恋が顔を上げた。

 

「じゃあ恋ねーちゃんも旅行来れるって事で良い?」

「うん」

「ありがとね」

「♪」

 

ぴょんと一刀の膝の上に飛び乗って全身を擦りつけ出した恋。

無理させたなぁと思いはするのだが、華琳の助言を思い出し、最後の砦、凪に顔を向ける。

 

「凪ちゃんざまああああああああァァァァァァァ!!!!!!!!!!

「アンタほんっとに運無いわね、pgrモンだわホント」

「ちょ、ちょっと待ってくだしあ・・・・・・いま、いま調整を」

「ねぇねぇどんな気持ち?!ねぇねぇどんな気持ち?!」

「五分置きに写メ送って差し上げますから、存分に八つ当たりなさいなpgr娘」

「あば、あばばばばばば」

 

そこでは凄惨なイジメが繰り広げられていた。もう涙しか出てこない。

口から「あばばばば」と意味のない擬音を連呼する凪を見て正直、正直な所「うわぁ・・・」と思いながらも、一刀は駄々を捏ねるべく首筋を舐め出した恋のロックをひょいっと外して立ち上がる。

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「こら、あんまいじめないの」

「か、かずと・・・」

(おうふ・・・上目遣い超ツボです・・・)「あ、あのさ、無理できないかな?皆で行きたいんだ、俺」

「が、がんばる!がんばるから、おいてかないで・・・」

「大丈夫、待ってるから。 ごめんね、無理させて」

「そうだよーカズちゃん♪ 凪ちゃん忙しいんだから無理させちゃダメだよー♪」

「桃香、お前ちょっと黙ってろ」

「そうです。桃香は空気読みなさい」

「稟ちゃんだって一緒になってたじゃんかー!!」

「お姉ちゃんって呼びなさい、ぶちますよ」

「あーもうだめだ。霞ねーさん、二人引き取ってー」

 

おーう。と軽く声を上げると霞は立ち上がり、罵りあう桃香と稟の首根っこをひょいっと摘み上げると廊下に放り投げる。

腰を降ろしてない稟に勝ち目などなく、直ぐにバタンドガンと破滅の音が響き渡り、桃香の怒声が聞こえたぐらいで霞も廊下に飛び出した。

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「凪ねぇとおでかけかー。すっげぇ楽しみ」

「う、うん。私も・・・」「むおっ?!」

 

五姉妹-霞-稟-桃香=凪、そして恋。

この方程式宜しく、当然部屋の中には一刀と凪、そして恋が残っているわけで。

折角皆で行くんだし、凪ねぇともデート紛いのお買い物とか出来たらなぁと思って一刀は積極的に話しかけるが、それが恋のヤキモチメーターを跳ね上げる。

 

「こら!恋ねーちゃん危ないでしょ」

「恋も楽しみ・・・」

「もー泣かないの。はいはい良い子良い子」

「か、一刀は! どんな場所か知ってるの?!」

 

凪が大いなる一歩を踏み出した。これは歴史に名を残すべき一歩だ。

 

「うん、六人で泊まれる大部屋で雪見ながら露天風呂入れるとか探すのすんげー大変でさー」

「そ、そっか、がんばったね」

「・・・恋ねーちゃん、服のびちゃう」

 

恋は上を脱ぐと一刀のシャツに潜り込みだしていた。

ブチッ!ブチッ!と破滅の音が首元から聞こえるのを諦めの境地で聞きながら、ポン!と眼前に飛び出た恋の顔を見るが、喜色満面の笑み

 

を浮かべられては怒る事も出来ない。

まぁ久しぶりだし仕方ないか。と凪が脳味噌をフル回転させて次の言葉を口に出すまで、一刀は存分に恋とイチャイチャすることにした。

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幕間。彼女達はいかにして追い詰められていったのか。

 

 

溺愛している弟からメールが均等に届いた。その内容が『顔を見て話したい、とても大事な話だから、ちゃんと皆家に居てほしい』といった内容だったら、そりゃあ色々妄想するだろう。

用件を知っている霞を除いたやんちゃ盛りの四人姉妹は雁首付き合わせて凪の部屋でメールの文面を睨んでいた。

 

「どう思いますか」

「・・・・・・と、言われましても」

 

ケータイから視線を全く逸らさずに問う稟。凪は部屋の異様な空気に居心地が悪そうに身じろぐ。

 

「大事な話があるんじゃないですか?」

「だっから、その大事な話の内容考えてんでしょ」

 

空気読めよ。といつにもまして口の悪くなった桃香にムッとしたが、まぁ一理有るかと納得して苛立ちを何とか堪える。

 

「・・・みんないっしょ」

「顔を合わせて、という文面から察するに―――引き合わせたい人物がいるのかも知れませんね」

「だれ?」

 

ぶらーんぶらーんと左右に揺れる恋の問いかけに答える声は無い。というか、言いたくない。

しかし一度思い浮かんだ悪い考えは思考の端にこびり付き、凍て冴えた思考を侵食する。

 

「・・・・・・万が一、億が一の可能性ですよ?」

「まさか、ねぇ? だってカズちゃんまだ学生だよ?」

「ですが―――そう考えれば一応のつじつまが合うのも事実です。最悪の事態は常に想定していないとそれに対処出来ません」

「えっと・・・すいません、私には全く思い浮かばないんですが」

 

ちっ!と桃香は舌打ちすると、吐き捨てる様にその可能性を口から吐き出した。

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「女。彼女」

「いや無い。それは無い。一刀はまだ学生だぞ?」

「うん、それさっきアタシが言った。ちょっち黙って」

「彼女が出来たぐらいなら血の雨が降るぐらいで済みます。問題は、ただの彼女を態々連れてくるかという事な訳です」

「・・・けっこん?」

 

恋が言ってしまった。考えたくなかった最悪の答え。

無論、もし一刀がその心算だとしたら今頃霞が一刀の所に殴りこみを掛けている頃なのだが、テンパっている四人はその事に気付けなかった。

 

「やだ!一刀は恋の!」「バカ!暴れるな!」

「戯言は聞き流すとして、どうしますか」

「どうするもこうするも―――ねぇ?」

「恋の!恋の!」「だから!ばっかお前それは!」

「何事も基本は話し合いですね」

「そういう事だねぇ。 ところで肉体言語って万国共通の意思疎通手段だよね?」

 

拳をバキバキと鳴らしてにへら。と笑う桃香に対し、何を当たり前の事を。と眼鏡を直しながら呟く稟。

恋は癇癪を起こして物に当り散らし、凪は私物を守るために孤軍奮闘する。

そんな折、ドアが開いた。

 

「やかましぞー風呂はいりー」

「あ、霞ねーさんも参加するー?」

「ウチはええわー風呂はいりー」

 

霞の顔は悟っていた。どれだけ言い宥めても聞く耳持たないやんちゃが四人いるとあっては、諦めの悟りもそりゃ開くというものだ。

例によって全く自分の意見を聞かない妹達を暫く眺めた後、茶目っ気たっぷりに両手を挙げて退散した。

-21ページ-

言い訳。

 

言っていたかもしれない旅行編。桃香様が全力全開でもうどうしようもありません。

でもなんか凪が茶目っ気だせたり、華琳様に頼らなかったりと、個人的には満足な出来でした。まぁ旅行には出かけてすらいませんが、もう何時もの事。

今回凄まじい空きが出来ました。待ってて下さった方に申し訳ないと今回4作同時投稿しております。こまめに出せばいいのにね。

説明
サザンドラの孵化、始めました。もうこれ作品説明じゃない。
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コメント
華琳様マジ天使。華琳様とラブラブのSSみたかったですわー(Alice.Magic)
あぁもう華琳さんオワタにならないとだめな俺はもう終わってるんですねわかります(ACE)
温泉といえば、サスペンス。『浴場で倒れている一刀。その一刀(の裸)を見て倒れる姉’s。果たして犯人は誰なのか?「北郷姉弟湯けむり事件簿」』〇月×日閲覧予定!!っなんてのだったらいいな〜〜w。(Kito)
続きを早く見たいです。(シン)
なんか相変わらず、華琳と一刀は「お前ら、もう付き合っちゃえよ!?」的ですよwww(ロンギヌス)
あれ、おかしいな?華琳と一刀って付き合ってるの?会話がすでに彼氏と彼女の会話なんだけどwww(poyy)
華琳さん逃げてが無いことに物足りなさを感じる自分はもうダメだと感じました(悠なるかな)
×鍵をつけない○鍵つけた方が危ないですねwww稟姉ちゃんとか鍵かかってるの忘れてドアに突撃しそうだし、桃香姉さんはピッキングでもして潜入しそうだしwwwしかし霞姉さんがいい女すぎるwww(zero)
霞ねーさんいつもお疲れ様です。壊れかける凪初めて見たなぁww(sai)
華琳逃げ・・・ない・・・だと・・・? なにかを読んでないのかと勘違いしてしまったw そんなことより恋ねーちゃんが可愛すぎてクリスマスが辛い(武中)
一刀と華琳のやり取りがもう夫婦にしか見えないですwww やっぱり姉ちゃん'sの一刀がらみの時の壊れっぷりがサイコーですね! 次回も楽しみに待ってます。(happy envrem)
世間ではこのいい女の霞姐御を口説こうとする男もおらんのか情けない(鷲2)
おかしい・・・・今回華琳が無事だ、凪は乙w(ポセン)
ここの霞ねーさんの所為で脳内恋姫ランキングが変動しまくりw今ではトップ3の華琳、蓮華、美羽に迫る勢い!(ちゃあ)
一刀のメール、事情を知ってなければ物凄く勘違いする内容だなww 今回、久々に華琳が年上に見えた。でも、華琳の愚痴って「夫が偶に家事を手伝うと手間が増える妻」の台詞じゃないか?(Ocean)
・・・華琳さんもうアレだね、ほんと嫁だねw そしてなんという勘違い乙ww ま、うん・・・霞ねーさん、きっといいことあるよ、うん。(よーぜふ)
・・・・・・・・・・・華琳にげ・・・・なくていいやw(2828)
夜が明けるですよ(KU−)
凪、恋の可愛さは最強だと思うの♪そして霞は相変わらずの気苦労お疲れ様です(;Д;) 自分、くらげさんの秋蘭が一番大好きです!!本当に秋蘭が一番好きですからぁ〜〜(//▽//)(mighty)
霞さんの日々の苦労がまた一つわかった気がします、霞さん胃薬は、いりませんか?(付和雷同)
恋ねーちゃんが可愛すぎてクリスマスが辛い (リッチー)
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恋姫のなにか 恋姫†無双 またおまえか 桃香☆外道 華琳○○!! 

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