真・恋姫無双 EP.56 誓約編
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 洛陽の宮殿に、十常侍が集まっていた。とはいえ、すでに一人欠けており、黒装束は九つしかない。

 

「今回の何進の身勝手な行動を、見過ごすわけにはいかないだろう」

「だが、急ぎ過ぎるのも問題ではないか?」

「かといって、好き勝手させるわけにはいくまい」

 

 小さな明かりが揺れる中、それぞれが意見を言い合う。

 

「敵に回すには、厄介な相手だ。いっそのこと、別の使い道を考えたらどうだろうか?」

「と、言うと?」

「新たな器とする……」

 

 黒装束の一人がそう言うと、残りの者たちがどよめいた。

 

「脆弱な今の器は捨て、新たな力を持ってこの外史に介入すべき時かも知れない」

「危険が伴うのではないか?」

「もとより――」

 

 ひそひそと、玉座の間に声が響く。やがて、結論が出たのか全員が大きく頷いた。

 

「では、何進を呼び出そう」

「我らが主のために」

 

 風もないのに炎が揺れ、かき消えるように黒装束の姿は闇に呑まれた。残ったのは静寂と、不穏な空気のみだった。

 

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 沸き立つ街の声が、閉じた窓を震わせていた。寝台の横に椅子を置いて座った華琳は、目を閉じて改めて帰って来たことを実感する。

 華琳たちが張三姉妹の馬車で許昌に帰還したのは、日付が変わったばかりの真夜中だった。途中で馬を変えながら、ひたすら走り続けたのだ。時間も時間だったので、出迎えを期待していなかったのだが、華琳たちの帰りを知った街の人々は眠らずに待っていたのである。

 たくさんの喜びの表情で迎えられ、柄にもなく華琳の胸は熱くなった。一刀たちが帰って来たのは、それからしばらく後のことだ。

 早朝と言ってもよい時間で、物資搬入用の入り口からひっそりと戻って来た。街の住人は何も気づかず、華琳たちの帰還をただ喜んでいた。

 

「北郷の容体が落ち着くまで、許昌に戻っていることを公表するのは控えた方がよろしいでしょう」

 

 桂花の進言に従って、華琳は一刀についてのすべてに箝口令をしくことを決めた。それほど、天の御使いの存在は大きいのである。

 

「一刀……」

 

 街の賑わいに耳を澄ませていた華琳は、そっと目を開けて寝台で眠る一刀の名を呼んだ。鎮痛剤が効いているのだろう、穏やかな表情で呼吸も安定している。

 安心したように柔らかな笑みを浮かべた華琳は、一刀の額に手を乗せた。

 

「まだ少しだけ、熱っぽいかしら」

 

 戻って来たばかりの時は、怪我もそうだが、熱もひどく吹き出すような汗でびっしょりだったのだ。医者の治療の後、春蘭と秋蘭に誰も部屋に近づけないよう言い伝え、たったひとりで看病を続けていたのである。

 華琳自身も疲れていたが、のんびりと休む気持ちにはならなかった。

 

「別れてから、まだそれほど日が経っているわけじゃないのに、ずいぶんと変わってしまった気がする……。少し、痩せたのかしら?」

 

 呟きながら、華琳は額に当てた手を頬まで滑らせる。優しく撫でるように指先を這わせ、まるで引き寄せられるように唇に触れた。

 

「――! 私は何を……」

 

 自分の行動に驚いた様子で、華琳は慌てて手を離した。胸が高鳴り、視線が一刀の唇に釘付けになる。華琳は無意識に自分の唇に触れ、沸き上がる気持ちを振り払うように頭を振った。

 そして自らを取り繕うように、そばにあったタオルを手に取ったのである。

 

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「汗を拭かないと……」

 

 そう言い聞かせるように呟いた華琳は、一刀に掛けられている布団をめくった。しかし視界に飛び込んできた一刀の体に、華琳の動きが止まる。

 その目線の先には、包帯が巻かれた肘から先がない右腕があった。斧で斬られた断面は押し潰すような感じで、どんな名医でも再び腕を繋ぐことは無理だろう言われた。もっとも、斬られた右腕は処刑場に置いてきてしまったので、仮に元通りに出来たとしても無理な話だったのである。今頃は他の死体などと一緒に、片付けられているだろう。

 

「あなたはいつも、そう……」

 

 華琳は包み込むように、一刀の右腕に触れる。

 

「誰かが傷つくことを嫌がるくせに、自分の体には無茶ばかりして……」

 

 それでも恨み言は口にせず、困ったような笑みを浮かべるのだ。

 

「ねえ、一刀……私は、怖いのよ。あの瞬間、どうしてだかわからないけれど、あなたを『また失う』って思ったわ。どんな戦場でも乗り越えてきた私の心が震えて、恐怖を感じた。そしてその気持ちは、こうして無事に戻って来ても消えることはないの」

 

 覇王として、自分はすべてに公平でなければならないと思っていた。春蘭と秋蘭は家族で、確かに他の誰とも違う存在だが、特別扱いをして安全な場所に置いたことはない。常に自分の側で、もっとも危険な戦場に何度もおもむいた。

 だが、一刀だけは違った。目を背け続けることが出来ないほど、その存在が華琳の中で大きくなっていたのである。それは、初めて女の自分が欲したものだった。

 

「自分が死んでも、あなただけは守りたいと思った……。どれほどの犠牲でも揺るがない心が、たったひとつの命が失われるかも知れない現実におびえた。その瞬間、私はただの女だったわ」

 

 きっとこの世で、自分をひとりの女に戻す唯一の男。それがどんな運命なのか、天の御遣いと呼ばれる人物だった。

 

「きっと一刀は、目覚めたらまた何かを守るために戦うのでしょ?」

 

 それほど付き合いがなくとも、これまでの一刀の行動を考えれば容易に想像が出来た。きっとそこにはっきりとした理由などはなく、衝動的な行動なのだろう。けれどだからこそ、純粋で儚く思える。

 

「私はもう、この気持ちを偽らない……」

 

 華琳は椅子から立ち上がると、寝台の側で床に跪いた。

 

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 掴んだ一刀の右腕に、頭を垂れて額を押し当てる。すがるような、祈るような姿で華琳は囁いた。

 

「北郷一刀……あなたがその身を挺して誰かを守るなら、私があなたを守るわ」

 

 それは、穏やかな眠りの中にある一刀だけに向けた、華琳の誓いの言葉だった。

 

「無茶をして傷つかないように。悲しみに心を痛めないように。私に出来るすべての力を使って、あなたの側で共に戦いましょう。ふふ……本当は、おとなしくしていて欲しいけれど、きっと無理だものね?」

 

 ぬくもりを感じる。愛おしさが滲んで、息苦しいような切なさが胸に詰まった。

 

(以外とあっけないものね……)

 

 頑なに拒んで来た女としての自分を受け入れた気持ちは、想像していたよりも心苦しさを生みはしなかった。覇王としての生き方と女としての生き方、どちらか一方しか選べないと決めつけていたに過ぎない。だが、北郷一刀という存在が二つの自分を結びつけてくれた。

 

「……愛しているわ、一刀。あなたに救われたこの命、その炎が燃え尽きる最後の時まで、あなたのために捧げるわ」

 

 一刀の右腕に、華琳はそっと唇を押し当てた。

 きっと一刀は目覚めても、何も覚えてはいないだろう。それでも言葉にされた誓いは、お互いの魂に刻まれて永遠を共にするのだ。

 多くの者にとってこの日は華琳の無事を祝う日だったが、誰も知らない特別な意味は、ただ少女の甘い記憶の中だけに留まるのだった。

 やがて、名残惜しそうに身を離した華琳は、一刀を起こさないようにそっと部屋を出た。廊下には門番のように、春蘭と秋蘭が立っている。

 

「二人とも、桂花を呼んで一緒に私の部屋に来なさい」

「はい……」

 

 いつもと違う主の雰囲気に、秋蘭が戸惑いながらも返事をする。

 

「ここからが、本当の始まりよ」

 

 そう呟く華琳の顔に先ほどの甘い少女の面影はなく、覇道を歩む王者の風格を滲ませていた。

 

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 数日後、北郷一刀が目覚めるのを待ち、華琳は自らが王となり、『魏』の建国を宣言した。

 魏は天の御遣いの導きに従って、誰もが笑って過ごせる国作りを目指す事を公言し、そのための協力を豪族たちに求めた。そして同時に、オークだけの世界を築こうとする何進に対して、共に天を抱くことは叶わずと宣戦布告を行ったのである。

 

 人々はみな、新たな時代の始まりを感じていた。

 

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あとがき

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

物語は、一応、ここで一区切りとなります。

 

といっても、まだ終わりではないので

よろしければ引き続きおつきあいいただければと思います。

 

コメント、すべて読ませていただいてます。

一つ、一つにお返事できなくてごめんなさい。

 

飽きっぽい自分がここまで続けられたのは、

みなさんの応援のおかげです。

これからも楽しんでもらえるよう、

そして自分自身も楽しんで続けられるよう

がんばりますので、よろしくお願いします。

 

 

それでは、また。

説明
恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
ここで一区切り。おつかれさまでした。
楽しんでもらえれば、幸いです。
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コメント
この華琳と一刀の関係はとても良いですね。原作以上に一途な感じが見られました。様々なタイプのキャラが見れるのは二次創作の面白さですねw(HIMMEL)
おもしれええええええええええええ                                                                  このあと一刀が魏に残るのか別のとこに行くのか気になる展開ですね。(コウヘイ)
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真・恋姫無双 北郷一刀 華琳 

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