バカ兄貴がこんなに可愛いわけがない2 |
小さくなって桐乃が着なくなってしまった古着を引っ張り出してきた母親は、上機嫌で俺の肩にその色鮮やかなシャツをあてがった。
「やけに嬉しそうだな……」
「だって楽しいじゃない」
「俺の人生はどうでもいいの!?」
「アンタの人生なんてどうにかなるわよ」
高校二年生にして幼女になってしまった男の人生がどうにかなる社会があるなら是非見せて頂きたいものである。
自分でも何を言っているのか分からないが、とにかく俺は幼女になってしまったのだ。
妹のせいで。
桐乃のせいで。
「うん、着られそうね。ぴったりなんじゃない?ちょっと袖通してみなさいよ」
俺は言われるがままに肩にかけていたパーカーを脱いで桐乃のお古に腕を通した。パーカーは俺自身のものだが、背丈が変化し過ぎていてとても着られたもんじゃない。今の俺が着られる俺自身の服は、なに一つとして存在しない。
渋々桐乃の服を着る俺の憂いに気がついたのか、お袋は俺の小さくなってしまった頭にぽんと手を乗せた。
「京介」
「……なんだよ、お袋」
慰めてくれるのだろうか。
曲がりなりにもお腹を痛めて産んで、育ててきた息子である。情がないわけはない。
「今の方が可愛いからずっとこのままでいた方がいいんじゃない?」
「アンタ本当に俺の母親か!?」
「はい、あとこれとこれ履いて」
渡された布は、やたら小さい。
「え? こ、これ履くの?」
「え? あんたノーパンで歩く気? やめてよ恥ずかしい。まさか男だったときもノーパンだったんじゃないでしょうね」
「いやそうじゃねーよ! 全てにおいてことごとく間違ってるよ!」
俺はノーパンで街を闊歩したことはないしそんな趣味を持ち合わせてもいない。
誰だって、妹のパンツを履けと言われたら動揺すると思うんだが、俺だけか?え、俺だけなの?変なの俺のほうなの?
「しかもこれ、桐乃が現在進行形で履いてる奴じゃねえの?」
「そうよ?」
「………………マジかよ」
白い。真っ白だ。純白だ。
それは、色々な意味で、その、俺が履いてしまっても、良いのだろうか。
「マジで履くの?」
「だって他にないじゃない」
いくら桐乃の幼少時の服が残っているとはいえ、流石に履かなくなったパンツまでもは残っていない。というかそんなのは履きたくない、と思っていたら、まさかの桐乃が現在履いているパンツが出てくるとは思わなかった。
世の男性諸君は妹のパンツと聞いて興奮するだろうが、俺からしてみればなんてことはない。ただの白い布である。
ただの白い布、なのだが。
流石にこれを履くのは抵抗があるぞ……。
桐乃もどんな顔をするだろうか。
「そういや桐乃はどこにいったんだ?」
「なんか買ってくるって言ってたけど、なんて言ってたかしら」
「親父は?」
ちなみに今日は日曜日である。親父は本来家にいるはずだが、朝顔を合わせた途端に血相を変えてどこかに行ってしまった。
「頭を冷やしてくるって言って朝からどこかへお出かけ。アンタと桐乃のせいよ」
「俺のせいじゃないよね!? 桐乃のせいだよねそれ!?」
「同罪よ。それより履くの? 履かないの?」
「う…………」
目の前には、一枚のパンツ。
なんだろう。これ、履いたら負けな気がするんだよな……。
その時だった。
「ただいまー」
がちゃりという玄関の扉が開く音の直後、桐乃の声が聞こえた。靴を脱ぐ音が聞こえ、がさがさというビニール袋の音が聞こえ、そしてとんとんと足音は近づいてくる。
扉が開いた。
「……な、なにやってんの」
当然そういう反応をするだろうなあ、とは思っていた。
なにしろ、桐乃からしてみれば母親が女物のパンツを兄貴にあてがっているのだ。しかも、
「それあたしのじゃん!!」
桐乃は電光石火でお袋から自分のパンツを奪い返すと、憤慨した表情で俺とお袋を交互に睨んだ。
「まさか、履こうとしてた……?」
「ちげーよ、全力で拒否してたんだ」
いくら少女の姿になったからと言って誰が妹のパンツを履こうとするか。
「そう、それならいいのよ」
桐乃は納得しつつもまだ警戒しているのか俺を横目で睨み、そして手元に持っていたビニール袋から何かを取り出した。
「なんだそれ」
「買ってきたのよ」
「何をだよ」
そういえば朝からいなかったな。
「じゃーん」
桐乃が取り出したのは、パンツだった。
それも、縞々のパンツである。水色と白の、縞々だった。アニメや漫画の少女がそんなパンツを履いている絵は、桐乃が集めている物の中から拝見させてもらったことはあるが、実際に縞々パンツを履いている少女なんて見たことがない。そもそも少女のパンツなんて滅多にお目にかかる代物ではないけど。
「はい、履いて」
「俺が履くの!?」
「他に誰が履くのよ」
「お前が履けよ」
「なんで私がこんなパンツ履かなきゃいけないのよ!」
「じゃあなんで俺が履かなきゃなんねーんだよ!」
桐乃は真顔で叫んだ。
「可愛いからよ!」
……いや、なおさらお前が履けよ。と思ったが、……困った。言い返す言葉がない。
お世辞ではなく、可愛い可愛くないの話をしたら間違いなく桐乃は可愛いとは思うのだが、どうやらこれはそういう類の話ではないらしい。多分、桐乃が俺に対して言う「可愛い」は、桐乃が大好きな二次元の妹キャラに向けて放つ「可愛い」と同じ感覚なのだろう。その「可愛い」と、桐乃本人が「可愛い」のとは、恐らく一致しないのだろう、多分。俺自身何言ってんのかよく分からないが、桐乃の考えを理解するのはなかなか難しい。仕方ない。
そうだよ。クラスの奴らがよく「女の「可愛い」は分からん」とか言ってるのはきっとこういうことなんだな。
結局、女性用のパンツを履かせようとしてくる姿を見る限りでは、桐乃とお袋は間違いなく親子である。俺が断言する。眼の色とかそっくりだ。……これでお袋までそういう趣味を持ってましたみたいなカミングアウトがあった日には、俺は親父と一緒に家出しようと思う。精神衛生上、その方がいい気がした。
そんなことを考えていたら、桐乃が真面目な顔で縞々パンツを握り締めながらずいと歩み寄ってきた。
「いい? 考えてみて」
「なんだよ」
「自分に可愛い妹ができたら、縞々パンツを履かせたくなるのが人情ってものでしょう?」
「だから妹はお前なんだよッ!!」
そこで、桐乃は俺の足元に転がっている服に気が付いた。
「ちょっと、よく見たらこれあたしのじゃん!」
「サイズちょうどいいかなあと思って」
お袋の言葉は物腰柔らかで如何にも母親的ではあったが、着せられる俺からしたら恐怖でしかない。
男子高校生の身体が懐かしかった。
目の前に掲げられたお菓子のパッケージのように色鮮やかな洋服が恐い。それに身体が入ってしまうという現実を受け入れたくない。
そんな俺の心境を知ってか知らずか、お袋と桐乃の洋服談義はヒートアップしていく。
「ダメよ、こんなダサいの! っていうかなんか昔の自分見せつけられてるみたいで嫌!」
分からないではない桐乃の意見にお袋が唸る。
「じゃあこうしましょう」
もういい。なんでもいい。なんでもいいから、頼むから早く元の身体に戻してくれ。平穏な俺の生活を返してくれ。
お袋は財布から一万円を取り出すと、桐乃に渡した。
「これで京介の服を買ってきなさい」
お袋は、俺の頭から桐乃の昔の服を被せると、にこやかに微笑んだ。
……着ていけってことか。
桐乃も、「それならまあいいか」という顔で俺の手を掴んで「よし、行くわよ」とか言い出しやがった。
「おいおい待て待てっ、パンツはどうすんだよ!」
「「パンツならあるじゃない」」
…………ああ、縞々パンツは決定事項なんだ。
やっぱりこの二人、親子だよ。
*
それでもやっぱり桐乃の洋服のまま外に出るのは恥ずかしかった。
せめてと思い、俺は普段から来ているジャケットを自室から持ってきて上から着た。裾が膝下まできてしまいかなり不恰好になってしまうが、それでも俺のプライドが少女の服で出かけるということを許さなかった。
「おい」
「なによ」
「なんで手を繋がなきゃいけないんだ」
妹に握力で勝てない身体というのもなさけなくて仕方がない。桐乃の腕を振りほどこうにも手首を掴まれているためどうすることもできない。
「一人で歩いたら危ないわよ」
「俺は幼稚園児か!」
「見た目だけなら」
「そうだよ見た目だけだよ! なんでガキ扱いなんだよ!」
「そうやって叫んでる姿、すごく背伸びしたがってる幼稚園児にしか見えなくて凄く可愛いんだけど、なに、兄貴狙ってるの?」
俺の妹の笑顔がこんなに気持ち悪いわけがない。
オッサンにセクハラされる女の人の気持ちって多分こんなんなんだろうなあ。まさか実の妹にセクハラされるとは思わなかったけど。
「どこ行くんだよ」
「デパート」
「……電車に乗るのか」
「やったね、半額で乗れるじゃん」
「年齢設定はいくつなんだ」
「小三くらいじゃない? そうだ、魔法少女コスとかしてみない?」
「お前は俺に何を期待しているんだ」
間違っても管理局の白い悪魔なんて呼ばれ方はしたくない。それともカード●ャプターのほうだったか?
「で、なんで手を繋がなきゃいけないんだ」
「だから、急に可愛い妹ができたら手を繋いで歩きたくもなるでしょう」
「繰り返しネタもここまでやると飽きがくるぞ」
歩きながら、恍惚とした表情で桐乃が突然呟いた。
「…………女体化かあ」
誰か助けて下さい! 犯罪者が俺の手を掴んで離しません! 青少年の健全な育成なんてまやかしだ! ここに貞操の危機に晒されている実在青少年と最低な犯罪に手を染めようとしている少女がいます!
「…………男の娘? いや、この場合完全に女の子だもんねえ。私、ふたなり趣味はないし。……うふふふふふふ」
恐い! 実の妹なのに世界中の誰よりも恐い! っていうかあれだ、気持ち悪いよ! オタクが気持ち悪くないなんてまやかしだ! だって悪いけど俺いま桐乃に対して全力で引いてるもん! これ俺悪くないよね!?
「……でも、中身アレなんだよな」
「やっと我に返ったか」
さっきまでマジで眼が据わってたぞ。
「でもさ、ほら、少なくともその姿じゃ着るものは困るじゃない? 買っておいた方がいいって」
「まず戻る方法を探してくれ。さっきから一ミリも戻る方法を探す気がある人間が出てこないんだが」
「ふっふっふ、兄貴、私を誰だと思ってるの」
「変態」
「今なんつった」
「痛い痛い痛い痛い!」
ほっぺつねんな! そしてさりげなく俺の頬肉の感触で遊ぶんじゃねえ!
「全く、妹設定だけでなくそんな柔らかな頬を持つ兄貴が悪いのよ。お陰でいつもより余計にぷにぷにしちゃったじゃない」
「すっげえいい笑顔だったぞお前……。……あと妹設定で兄貴ってものすごく矛盾を孕んでるぞ……」
俺が妹でお前が妹で。訳が分からんな。
とりあえず分かったのは桐乃が錯乱してるってことくらいか。今のこいつとまともな会話ができる自信がない。
「じゃなくて、戻る方法ならちゃんと、来るわよ」
「来る? なんのことだ?」
「ほら」
桐乃が指さした先、駅前のベンチに座る姿には俺にも見覚えがあった。
座っている姿からでもそのスタイルの良さが分かる。足なげえ。そして、メガネ、ヘアバンド、シャツをズボンにインしたそのあまりにもダサ過ぎる姿。
そんな奴は、知り合いの中にも一人しかいない。
「沙織、バジーナじゃねえか……」
どうして出てきた沙織・バジーナ。
近づき、沙織・バジーナもこちらに近づき立ち上がり、そして俺と桐乃、沙織は向かい合った。
この慎重だとマジで沙織を見上げる形になる。首が痛い。秋葉原に行ったときにビルを見上げたときの気分に近いものがある。
「何を隠そう、あの「幼女になりたい方専用」の謎のドリンクを私にくれたのが、」
「拙者にござる、ニンニン。元気でござったか京介どの」
「原因、お前か――――――――――――――――――――ッ!!」
「おお、本当にきりりん氏の言うとおり、声が加藤英美里さんにそっくりでござるな!」
「でしょ!?」
――俺、オタク嫌いになっても許されるかな。
説明 | ||
もうなんか色々カオスですけど2です。ロリ京介のほっぺたぷにぷに。ぷにぷに! 元ネタ→[http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=14941274] ピクシブ→[http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=117563] |
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俺の妹がこんなに可愛いわけがない 桐乃 京介 | ||
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