虚界の叙事詩 Ep#.12「雨天順天」-2
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NK メルセデスセクター

 

11:51 P.M.(『NK』国標準時間)

 

 

 

 

 

 

 

 軽い振動と共に、エレベーターが地上階に到着したのを原隆作は感じた。

 

 彼は、マンションの中にある60階近くのフロアを縦断するエレベーターの箱、その上に身を

潜めていた。

 

 ほんのわずかな隙間から、エレベーターの箱の内部が見える。そこにはさっきの警官がい

た。おそらく彼らが自分を捜索する警察公安部。そしてその中でも位が高い者達なのだろう。5

2階の方は部下達に任せ、自分達自らが原長官を捕らえようとしている。

 

「さっきエレベーターが地上階へと向かって行ったそうだ」

 

「だが、無線連絡では中はもぬけの殻だったそうだ」

 

 警官達が言い合っている。それは、確かに隆作自らが操作したエレベーターだ。だが、無人

のまま下に来たと思わせ、自分はその上に潜んでいる。

 

「途中階で降りたのかもしれん。どちらにしろ、外へと出れる場所は限られている」

 

「このように回りくどい事をするよりも前に、さっさと捕らえてしまえばよかったのだろうに。世間

も混乱した」

 

 音を立てないように慎重に行動しながら、隆作はエレベーターシャフト内に、さっき、間一髪で

刑事達から身を隠したダクトと同じものがあるのを見つけた。

 

「現職の防衛庁長官が、海外でのテロ活動を支援しただけで、十分混乱しているさ。それも、

国内の組織だなんてな」

 

 刑事達が、どのように自分と『SVO』の事を知らされているかを知りながら、隆作はダクトへと

よじ登り、そこに身を入れた。軽く音が立ち、下の者達に知られはしないかとはらはらしたが、

彼らはすでに出て行った後だった。

 

 すでにマンション内は完璧に包囲されてしまっているだろう。ダクトを進みながら隆作は思う。

 

 ダクトのように狭い場所を這い回るのは、今までは自分の部下達、『SVO』の仕事だと思って

いた。だが、まさか自分が同じような事をするとは。上司が部下の仕事を理解するのには、部

下と同じ仕事をするのが一番なのだろうが。これもそうなのかと隆作は思った。

 

 ダクトの中を抜け、網のような蓋をこじ開ける。その際、外に誰かがいないかと警戒する隆

作。だが、そこには誰もいない。押し開ければ蓋は簡単に外れた。

 

 ダクトの外は、マンション内の空調設備を調節する機械類がある場所だった。この60階建て

のマンションを管理するだけの大型の機械類が並び、そこはマンションの廊下の無機質な空

間とは違う、とても無骨な無機質さがあった。

 

 隆作は、どこからか外へ出る事ができないかと内部を探る。やがて一つの扉を見つけ、そこ

から外へと出ようとした。鍵はこちら側からかかっていたので、簡単に扉を開く事ができた。

 

 マンションの外へ出れるかと期待した隆作だったが、そうではなかった。扉の外はマンション

の駐車場になっている。

 

 警官達の姿を探す隆作。とりあえず近くには誰もいないようだった。コンクリートを剥き出しに

した無機質な駐車場を、なるだけ身を隠しながら素早く移動していく。車から車へと、柱から柱

へと移動して行った。

 

 どれか、奪う事のできる車があればと、隆作は思った。まさか、自分が盗みを働くとは。今更

といった感じだったが、自分も物取りなどの犯罪者と同じだなと感じるのだった。

 

 近年の車は、指紋照合装置のお陰で、以前よりも楽には盗難ができないようになっている。

隆作もそのシステムが普及した時は支持したが、たった今では違った。しかも、たとえ扉のロッ

クを解除する事ができても、エンジンも指紋、声紋によってかかるようになっていているのだ。

 

 だが、隆作は思い出していた。島崎議員から、もしもの時は自分の車を使うようにと言われて

いたのを。

 

 車を盗むよりも、そちらの方が現実的だ。

 

 島崎の車はどれだったかと、隆作は手早く探そうとした。確か黒色の高級車だと思った。彼

の車は以前にも同乗した事はあるが、かなり昔の事だったので、よく思い出せない。しかも、こ

こには似たような車がごろごろしていた。

 

 やがて発見する島崎の車。彼はこの車でいつも議会へと向かうはずだが、なぜか今日はここ

にあった。不思議に思った隆作だったが、そっとドアノブの側の指紋照合装置に指を当てた。

 

 すでに隆作の指紋はここに登録されている。隆作はほっと安心した。

 

 素早く乗車し、電気起動のエンジンをかけ、シートベルトを締めた。その時、

 

「おい、そこで何をしているッ!?」

 

 はっとしてフロントガラスから隆作は正面を向いた。

 

 そこには2、3人の警官が立っている。隆作と両者ははっきりと顔を合わせ、彼も姿を確認さ

れてしまった。

 

「容疑者を発見した!すぐに拘束する!」

 

 無線で連絡を入れた警官が、自分を捕らえようと車に迫ってくる。

 

 しかし、隆作には戸惑いはなかった。もはや自分には失う者は何もない。

 

 だが、『SVO』が『ゼロ』を発見するまでは、自分と、現在肌身離さず持っている彼らの情報

を、たとえ『NK』の政府でも渡すつもりはない。

 

 その意思が後押しするように、隆作はアクセルを踏んだ。

 

 一気にアクセルが踏まれた事で、車は一気に発進した。目の前にいた警官は、思わず横に

飛びのく。

 

「止まれ!車を止めろ!」

 

「早く外に連絡しろ!」

 

 警官達の叫ぶ声が聞えてくる。だが、隆作はそれを完全に無視し、とにかくエンジンをふかし

た。

 

 駐車場内を車は全開で進んでいく。時々警官の姿が見られたが、構わず隆作は車を進め

た。とにかくマンションの外に出なければ。

 

 マンションの駐車場の出口が見えた。慌てて警官たちが隆作の乗った車を制止しようとして

いたが、全速力で進んでくる車に、彼らは飛びのく。

 

 出口のバーを思い切り砕くかのように破壊し、隆作を乗せた高級車は、マンションの外へと

飛び出していった。

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リヴァイアサン艦内下部

 

 

 

 

 

 

 

 赤い警告灯が艦内を照らし、更にけたたましい警報音が鳴り響いている。警備レベルが最高

の7まで引き上げられ、艦内は厳戒態勢だった。

 

 指揮系統は混乱していた。通信が完全にダウンし、無線が使えない状態だった。更に、機体

の損傷箇所のエンジンも停止。『リヴァイアサン』は今までよりも高度と速度を下げて航行して

いる。それは、さっきまでのように都市を旋回しているのではなく、人気の無い砂漠の方向へと

進路を向けていた。もし、機体中にある放射性物質が漏れ出したり、爆発したりした時、その

被害を最小へと抑える為なのだろう。

 

 『帝国兵』達は、その混乱し、緊迫した指揮系統の中でも、任務を遂行しようとしていた。『ゼ

ロ』を発見するという任務。

 

 どのようにしてこの艦内に侵入者があらわれるのか、侵入者の存在の真相についても、兵士

達には何も言われていなかった。ただ、危険な存在を暴走させないようにと。彼らにとっては、

この国の残党武装勢力の戦闘機が突っ込んできたようにしか思っていなかった。

 

 しかし、警備レベルが7にまで跳ね上げられ、無線の通信が通じず、さらに中央司令部が混

乱している事からして、相当な事件であるという事は、皆が思っていただろう。

 

 すでに兵士の中にも多数の犠牲者が出ていた。

 

 仮に戦闘機が突っ込んできたとしても、そのパイロットは無事では済まないはず。更に、もし

万が一無事だったとしても、そのパイロットだけで、完全武装の『帝国兵』を相手にできるだろう

か。

 

 『帝国兵』達は、自分達の知っている知識だけで推測していた。だから、国防長官の出す指

示には疑問さえ抱いていた。なぜ、自分達にそれを始末させないのかと。

 

 戦艦内に積まれている放射性物質が漏れ出すのを防ぐ事もあるのだろうが、兵士達の持つ

兵器ではそのような心配は無い。

 

 警備レベル7とはいえ、無事にこの戦艦は空を飛んでいる。兵士達は、すぐに事は済むだろ

うと考えていた。何しろ、2、3発のミサイルくらいでは、この巨大な機体はびくともしないのだか

ら。

 

「ユプシロン班、下部区域Cブロックに到着。指示を待ちます」

 

 『リヴァイアサン』の艦内を警備する部隊の一行、緊急事態に駆けつけた彼らは、戦艦の下

部へと向かおうとしていた。

 

 7人の少人数部隊。しかし彼らは、激戦地に赴く兵士達と何も変わらぬ重装備をしていた。

 

 防弾ヘルメットや防弾スーツだけではない。手榴弾や、小型機関銃も携帯している。それだ

けではない、彼らは標準装備として、ミサイルランチャーほどの大きさがあるレーザー砲を携帯

していた。

 

 この『リヴァイアサン』内で、果たしてこのような武器を使う事になるのだろうか。これは、地上

へ向かう部隊が持つものだろう。部隊長はそう疑問に思っていたが、最高の警備レベルと、す

でに何人もの兵士が犠牲になっている事、そして、何よりもそれが命令であるという事から黙っ

て従っていた。

 

「こちらユプシロン班。どうしました? 本部、応答せよ」

 

 ユプシロン班の部隊長は、無線の応答を待つ。しかし、そこからは雑音が聞えてくるだけで、

何の反応も無かった。

 

「やはり電波障害ですか?」

 

 最も先頭を行く隊員の一人が、部隊長に言ってきた。

 

「そのようだ。仕方ない。目標は先にいる。我々は、国防長官の到着まで侵入者を先へ行かせ

ぬように言われている。そして、侵入者を決して刺激せぬようにと」

 

「了解」

 

 隊員達が、皆そう答えた。

 

「よし行くぞ。いいか、決して刺激を与えるなとの事だ。ただ先に進ませてはならん。発砲は許

可されているが、目標には当てるな」

 

「了解」

 

 ユプシロン班は、周囲に警戒を払いながら、慎重に戦艦の下部へと侵入していった。

 

 赤い警告灯が光り、さっきから警報もうるさいくらいに鳴り響いている。彼らの緊張感は増し

た。

 

 この場所は、エンジンルームなどがある事から、上部よりもかなり無骨な作りになっている。

通路も狭くて、鉄骨やら計器類はむき出し、床も丈夫で無機質な鉄板が張られているだけだ。

 

「隊長。C−2ブロックに入ります」

 

 最も先頭を行く兵士が部隊長に言った。

 

「C−2ブロックか。すでに、アルファ、シータ班が向かったが、全滅したと見られているそうだ」

 

 その部隊長の言葉に、兵士達は何も答えなかったが、彼らがどう受け止めたかは、隊長に

はよく分かっていた。

 

「では、行くぞ」

 

 そしてユプシロン班は、C−2ブロックへと足を踏み入れた。大きく無機質な字でC−2と書か

れた文字が、赤い警告灯に照らされ壁に浮き上がっている。戦艦は上空を一直線でどこかへ

向かっているらしく、さっきから、どの方向にも慣性力がかかっていない。一定のペースだっ

た。

 

 緊張に包まれたまま、ゆっくりと歩を進めていく兵士達。その時、彼らの上部にあったスピー

カーから声が響いてくる。

 

「C−2ブロックにいる部隊に告げます。目標は発見しても、決して刺激を与えないようにしなさ

い。非常に危険な存在です」

 

 それは、この艦に乗っている、国防長官、浅香舞からの指令だった。彼女は部隊に直接伝え

る無線が使えない事から、艦内放送を通して指示し始めたようだ。

 

 部隊長は、すかさず、側にあった緊急連絡用のマイクを使用可の状態にし、それに向かって

返事をした。

 

「ユプシロン班。了解」

 

 すぐさま、頭上のスピーカーから国防長官の声が戻ってくる。その指示はおそらく、艦内全て

に伝わることはなく、このC−2ブロックだけに響くようになっている。多分、中央官制室でその

ように接続しているのだ。

 

「ユプシロン班。目標は前方10メートルから迫ってきています。警戒しなさい。但し、くれぐれも

目標に向けて発砲しないように!」

 

「了解」

 

 部隊長はそう答えた。彼自身は、緊張しているのか、恐怖しているのか、それも分からない

状態だったが、部下達の方はそうでもないらしい。

 

「前方8メートルです。ゆっくり近づいてきています」

 

 国防長官は、何かの装置で目標の動きを伺っている。彼女は、目標を目の前にしている部

隊よりも正確な指示を出していた。

 

 彼らの前には通路が伸びていて、5メートルほど先には、エンジンルームと書かれたプレート

のついた扉があった。

 

「自分が確認します」

 

 最も先頭にいた兵士が、率先して目の前にある扉を開けようと近づいた。彼の手に持たれる

銃器の照準は扉の方に向けられ、ゆっくりと彼はそこへと近づいていく。

 

「状況は?」

 

 艦内放送を通して舞が、部隊長に質問して来る。

 

「今、エンジンルームの扉を開けるところです」

 

 部下のとっている行為は、戦場においても当然の行為。だから彼の答えには迷いはなかっ

た。

 

「待ちなさい!相手がどうでるか伺うのです!」

 

「え?」

 

 舞がそう言った時には遅かった。すでに扉へと向かっていた兵士は、エンジンルームの扉を

開けていたのだ。

 

 エンジンルーム内へと銃を構える兵士。

 

 ほんの少しの間があった。まるで、そこには何事も無かったかのような沈黙が、ほんの少し

の間流れた。

 

 だが、次の瞬間。突然、何かが弾けたかのような衝撃と共に、扉付近が爆発し、そこにいた

兵士が、何メートルも吹き飛ばされた。

 

「な、何だ?」

 

 誰かが叫ぶ。

 

「私が行くまで待ちなさい!決して刺激しないで!」

 

 今の爆発音は、カメラのマイクを通して舞の方にも届いたらしい。彼女はとても緊迫した声で

そう言って来る。

 

「おい、やめろ!忘れたのか!発砲するなよ!」

 

 今にも爆発した場所へ向け、銃を発砲しそうになっている兵士に向かい、隊長は慌ててそれ

を制止させる。

 

「あなたたちの目の前にいます!すぐに距離をとりなさい!」

 

「な、何だって!」

 

 舞の言葉に驚愕する兵士。

 

「う、うわー!」

 

 誰かの悲鳴。そしてまた爆発音。

 

「な、何だ、ま、また爆発が!」

 

「発砲するな!よせッ!」

 

 部隊長の止める声。だが、彼は次の瞬間、目の前に現れた存在に立ちすくんだ。

 

「な、何だ、お前は!」

 

 その後、激しい銃声が何発も響き、艦を揺るがすほどの爆発が起こるのだった。

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ユディト上空

 

 

 

 

 

 

 

 香奈は、何度も振り落とされそうになりながらも、必死に機体の下部にしがみ付いていた。太

一の操縦するフライング・ホッパーはかなりのスピードで高度を上げ、一直線に上空を航行し

ている巨大な戦艦へと向かっている。

 

 眼下には、まるでミニチュアを思わせるような《ユディト》の街が広がっていた。現在の高度は

ざっと100メートルといったところ。それもどんどん上空へと高度を上げていっている。

 

 100メートルを超えてくると、上空での風もかなり強かったし、何よりも太一がフライング・ホッ

パーをどんどん加速させている。

 

 まるで、スポーツカーにでもしがみついているかのような感覚を香奈は味わう。それも、その

機体はヘリコプターのように上空を飛んでいるのだ。

 

 最初は、ただ空を飛び、車を超えるスピードをもつこの機体に香奈はただただ、必死にしが

みついている事しかできなかった。だが、だんだんと太一もその操縦が慣れてきたのだろう

か、機体が安定して来ると、香奈はこの『帝国軍』の兵器が、いかに機能面でも、兵器面でも

高性能であるかという事を知った。

 

 第一に香奈は、このようにジェットエンジンも、プロペラすらも付いていないのに、空を飛び、

かつ車よりも速く加速できるような技術を知らなかった。ただ、近い未来にこのような技術は実

用化されるだろうという話を聞いていただけだ。

 

 しかも、この機体はヘリコプターほどの大きさもない。最も小さなヘリコプターよりも更に小さ

い。何しろ、スノーモービルほどの大きさしかこの機はないのだから。唯一、その動力とおぼし

きものは、香奈がしがみついている横棒のすぐ側にある。

 

 それは青白く輝く、まるでヒーターのような装置で、それが前後に2箇所。機体が加速したり

減速したりする時に、その装置の向きが精密に変化していた。

 

 不思議と、側にいても熱いと感じたりするような事はない。ただ、時折激しく光って火花を放っ

たりしていたから、香奈はそれに注意した。どうしても自分の体に当たりそうな時には、不安定

な姿勢のまま能力を使って、自分の持つエネルギーを解放、その形を適切に変えてバリアを

張った。

 

 これが動力なのだろうか。だが、このようなエンジンなど見たこともない。『帝国』で開発され

た、まだ世間に公表されていない新技術と考えてよいのだろうか。そういえば、更に上空に浮

かんでいるあの巨大な戦艦、あれには、このフライング・ホッパーの十倍以上の大きさのエン

ジンとおぼしきものが、十数基付いている。あの巨大な戦艦も、このヒーターのようなもので浮

かび、航行しているというのか。

 

 エンジン音も、ジェットエンジンやヘリコプターのプロペラの出す騒音に比べれば遥かに小さ

い音だ。前世代のガソリンエンジンの車よりも遥かに静かな音で、香奈が聞いていたのは、時

折弾ける火花のような音と、上空を吹き荒れる風の音だけだった。

 

 もし軍用だけでなく、実用化されたならば、革命的な技術となるだろう。

 

 そんな事を香奈が考えているうちに、上空を航行している巨大な戦艦にフライング・ホッパー

はかなり近づいていた。

 

 高度は大体300メートルを超し、《ユディト》の街は更に小さく見えていた。更に上空には巨大

な戦艦が浮かんでいる。

 

 しかしそれよりも前の位置に、青く群れた影があった。

 

 さっき、自分達の真上を飛び、上空へと舞い上がっていた、あの鳥の姿をした生き物達だっ

た。

 

 鳥とは思えないほどのスピードで、フライング・ホッパーの前を飛んでいる。目的は自分達と

同じ、『帝国』の戦艦であるようだ。

 

 鳥達の方も、まるで汽笛のような鳴き声をお互いに共鳴させ、戦艦の方へと飛んでいってい

る。

 

 このまま、フライング・ホッパーのスピードでは間違いなく鳥の群れの中へと飛び込んで行くコ

ースだったが、太一は決してスピードを緩めようとはしていなかった。とにかく真っ直ぐ戦艦の

方へと向かうコースをとっている。

 

 今の姿勢のままではまずいと香奈は思った。さっきの地上での鳥達の行動を見ていれば、あ

の鳥達は、自分達の目の前に立ち塞がるものには容赦をしていない。ただ目標に向かって直

進しながら飛ぶだけだ。しかも鳥達の翼は、ナイフのように鋭利にできているようだった。

 

 もし、このまま機体にぶら下がるような形でいたら、自分の体は切り刻まれてしまうだろう。バ

リアで守るような事もできるが、太一と同じようにコックピットに上がるほうが、体力的にも得策

だった。

 

 青い鳥達の群れは迫ってきていた。香奈は、横棒にしがみついたまま、腹筋を使って、鉄棒

の選手がやるように、自分の両脚を棒よりも高い位置に蹴り上げ、横棒に自分の脚を引っ掛

けた。更に自分の上体を上げ、今度は、機体の部分に付いているでっぱりに自分の手を引っ

掛ける。その際、その部分が自分の体重を支えられるほど頑丈であるかを調べてみたが、心

配はいらないようだった。

 

 香奈は、時速300キロは超える速度の中で、自分の体をコックピットへと登らせている。多

分、並みの人間ならばとっくに振り落とされている事だろう。ただ彼女は、『高能力者』であり、

それは身体能力が常人よりも遥かに高いという事を意味していた。

 

 コックピットの高さまで登り、太一の姿が確認できたと思った時、ちょうどフライング・ホッパー

は青い鳥の群れの中へと突入して行った。

 

 慌てて香奈は、まるで流れ込ませるように自分の体をコックピットの中へと押し込んだ。2人

も入ると、鉄柵と強化ガラスだけで囲まれたコックピットは窮屈で狭かった。

 

「どうするの?」

 

 速い速度と、上空で吹く風でなびく髪をようやく押さえられながら、香奈は太一に呼び掛けた。

だが、太一は、彼にとっても初めての操縦のはずだ。新技術が駆使された『帝国軍』の兵器の

操縦に集中しているようだった。

 

「やる事は、一つだ」

 

 太一は答え、青い鳥の中を、それよりも速く機体一直線に飛び込ませていく。辺りは一瞬にし

て青い色に染まった。同時に、機体のあらゆる場所から、その鳥達が衝突する音が聞こえてき

た。更に、鳥達が出す汽笛のような音も全方向から聞こえてくる。

 

 香奈は、その鳥達に当たらないように身を伏せていた。太一も、同じように低い姿勢のまま

機体を操縦していた。

 

 鳥の姿をしたクリーチャー達は、刃を思わせる金属のような翼を持っているようだった。香奈

は、コックピットを覆っている柵が、鳥の刃が掠った衝撃で、鋭い傷跡が付くのを見ていた。も

し高い姿勢を取ったならば、あっとう間に全身を切り刻まれてしまう事だろう。さっき地上でとっ

さに低い姿勢を取ったのは正解だったらしい。

 

 このまま、危険な鳥達の群れの中を突っ込んでいくのかと、香奈は心配な顔で太一の方を向

いた。だが、太一の表情は真剣なままだ。

 

 それが何を意味するかと言ったら、香奈にはただ一直線に向かうだけと言う彼の意思しか答

えられない。

 

 だがこのまま突っ込んでいったら、もしや、何度も衝突する鳥達に機体の大切な部分、例え

ばエンジンなどを損傷させられ、墜落してしまうのではないかと気が気ではなかった。

 

 そう香奈が心配してもし足りないと感じていた時、突然、鳥達の鳴く汽笛のような鳴き声の中

に、銃声が響き渡ってくるのを聞いた。

 

 何事かと、柵の隙間から香奈は機体の外部を覗く。フライング・ホッパーの柵は、鉄柵を枠組

みとして、強化ガラスのようなものが張ってある。何度か鳥達が衝突した事で傷が幾つもつい

ていたが、香奈はそこから外の様子を覗いた。

 

 鳥の群れの一部が、銃弾によって撃ち落されていっている。ただの銃弾ではなく、香奈の目

には、とても大きな銃弾が、通常の短銃などよりも速いスピードで鳥達に命中し、その肉体を

粉々にしているのが見えていた。

 

 鳥達は、血痕のようなものを飛ばさず、まるで機械が破壊されたかのように粉々になって、空

中に飛散した。

 

 周囲に、自分達の乗った機とは別のフライング・ホッパーが姿を現し、機体に付けられた重

機関砲を発砲していた。注意は鳥達の方にいっている。

 

 しかしそれも最初の内だけだった。フライング・ホッパーの操縦者達は、すぐに自分達の乗っ

た機体と同じものを操縦しているのが、『帝国兵』ではないと気付いた。

 

 そしてすぐさま、警報無しの発砲が始まった。鳥達に向けても相変わらず機関砲は発砲され

ていたが、太一と香奈の乗った機体にも、銃弾が撃ち込まれて来た。

 

 太一は慣れない操縦をしながらも、何とか機体ごとその銃弾をかわそうとする。彼の目なら

ば飛んできている銃弾の軌道を読む事もできるだろうし、それをかわすこともできる。しかし、

フライング・ホッパーは、彼自身の体のように言う事は効かないし、また、銃弾をかわせるほど

素早くは動けない。

 

 一発の銃弾が、機体の後部をかすった。

 

 香奈は思わず悲鳴を上げた。銃弾がかすっただけでも、機体のパーツが激しく吹き飛び、機

体自体のバランスも崩れた。思わず外へと投げ出されそうになってしまう。

 

「な、何とかできないの?」

 

 だが、太一は黙ったままだ。冷静に機体のバランスを立て直す。すでに高度は1000メート

ル近くには達している。風が強くなってきていて、気圧も違う。

 

 多数のフライング・ホッパーが迫ってきた。皆が機関砲を向けてきている。

 

 もはや万事休すかと香奈が思った。その時、

 

 別の方向から機関砲を発砲する音が聞こえてきた。

 

 銃弾が、目の前にいるフライング・ホッパーの機体に命中する。機体のバランスが崩れたとこ

ろに、また何発も何発も銃弾が撃ち込まれて行き、その機体は、操縦者もろとも粉々に爆発し

てしまう。

 

「太一ッ!香奈ッ!」

 

 上空の激しい風、そしてフライング・ホッパーのエンジン音に紛れて聞こえてきたのは、沙恵

の声だった。

 

 彼女が乗り込み、そして登が操縦しているもう一機のフライング・ホッパーが、太一と香奈の

乗った機体に迫ってきていた。

 

 新たな不審者の出現に、他の『帝国軍』フライング・ホッパー操縦者は機関砲の照準を向け

ようとする。

 

 だが、登の方は容赦をしていない。更に彼の操縦する機体は奇襲を仕掛けていた。そして彼

はすでに機関砲の方の操作も理解しているようだった。冷静にその照準を『帝国兵』の乗った

機体へと向け、何のためらいもなしに弾丸を発射した。

 

 あっという間に2機のフライング・ホッパーが登の手によって撃ち落された。まるで撃ち砕くか

のように機体を破壊していた。

 

 彼に負けじと、太一も機関砲の操作を始め、まるで慣れた事のように目の前のフライング・ホ

ッパーを彼は撃ち落した。

 

 周りにいた機体達は、太一達の手によってあっという間に撃ち落されていく。出来上がった包

囲網の隙間を、登と太一は突き抜けるようにしてフライング・ホッパーを加速させ、一気に突破

する。

 

 背後から聞えてくる銃声。だが、香奈は機体の背後を振り返り、まるで自分の体くらいの物体

を右から左へ押しのけるかのような腕の動きをして見せた。

 

 それは、急いで、艦内に侵入しようという香奈の合図だった。

 

「良し。あそこの破壊されている場所から潜入してみよう」

 

 煙が上がっている場所がある。頑丈そうな戦艦の一箇所に大きく開いた穴。そこへと、太一

と登がそれぞれ操縦している機体は進路を向けた。

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帝国戦艦 リヴァイアサン下部

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な戦艦に開けられた大きな穴。その外壁は分厚い鉄板や強化素材でできた、戦車のよ

うに頑丈な壁だったが、外側から杭でも打ち込まれたかのように破壊され、穴は見事に内部ま

で貫通していた。しかし内部からはもうもうと煙が上がり、外側から中の様子は伺えない。

 

 太一と登は、フライング・ホッパーを操縦し、慎重に戦艦の内部へと向かっていった。戦艦の

外側には幾つもの破壊兵器が備え付けられており、それが向いているだけでも気が気ではな

い。

 

 だが、太一達のフライング・ホッパーが戦艦に近づいていっても、何事も変化は無かった。普

通ならば警告無しの砲撃などが始まり、又は更なるフライング・ホッパーが迫ってきたりするも

のだろう。それが当然だ。

 

 このような行為をする事自体が無謀、しかし、今は状況が差し迫っている。艦内に潜入し、

『ゼロ』に接近するにはこれ以外の方法が無い。

 

 しかしその原因は、太一の操縦するフライング・ホッパーが、戦艦の内部へと潜入していく時

に理解できるのだった。

 

 大きく開けられた穴から内部へと潜入して行くと、中の様子がゆっくりと理解できて来る。内

部は、無機質な機械室のようだった。太いパイプや機械類が設置されている。所々には破壊さ

れている機械もある。

 

 そして、何よりも中の緊張した様子を感じさせられたのは、中の照明が赤い色に染まってい

て、更に警報が鳴り響いている事だ。

 

「分かってはいた事だが、やはり内部で事が起こっているようだ。さっきからだが、携帯やら何

やらの電波が通じない。この艦を防備するレーダーとかも妨害されてしまっているのかも…」

 

 登はそう呟くと、フライング・ホッパーの機体をゆっくりと、機械室の廊下へと着陸させる。

 

 青白い光を放つエンジンが真下に向けられ、機体がゆっくりと廊下に着陸した。続いて太一

と香奈の乗った機体も着陸する。

 

「エンジンを止めなくてもいいの?」

 

 機体を着陸させると、すぐに廊下へと降り立った登を見て、同じ機体に乗っていた沙恵が彼

に言った。

 

「止め方が良く分からん」

 

 そう沙恵の方に向かって太一が言った。沙恵はなるほどというように頷く。そして太一は警戒

したように辺りを見回した。

 

「おかしい…。機体は大きく損傷している。中の気圧だって大きく変化してしまっているはずだ

し、損傷したのはエンジンルームだ。それなのに機体はまだ航行を続けている」

 

「それで、それがどうかしたの?」

 

 香奈もフライング・ホッパーから降りながら、さっさと戦艦内部へと向かおうとする太一と登を

追った。

 

「ああ、大した事さ。緊急着陸しないとまずい事になったりする。俺達が楽に潜入してしまえる

程に防備が甘くなっているというのに。普通ならば万全を期す。だが俺達が追っている何者か

が原因かもしれない」

 

 太一はそう言いながら、戦艦の奥へと進んでいく。無機質な機械室は赤い色に染まり、警報

は鳴り響いていた。

 

「ねえ、この警報は何て言っているの?」

 

 自然すぎる『帝国』のタレス語が聞き取れない香奈が登に尋ねた。少しの間、繰り返されてい

る警報の言葉を聞き取った登が答える。

 

「目標の確認を進行中。警備レベルを最高まで上げるようにとの事さ」

 

 そう言いつつ、太一は機械室の新たな扉を開けた。

 

 警戒をした手つきで開かれた扉の中へと、登と太一はすでに抜き放っていた武器を構え、と

ても素早く潜入していく。

 

「これは…」

 

 そう登が呟き、彼は警戒を緩め、低い姿勢から元の姿勢へと戻った。彼は視線を下へと向け

る。

 

 中がとりあえずは安全だと知って、香奈と沙恵も機械室の奥の扉へと入り込んでいく。だが

思わず踏みとどまり、思わず彼女達は軽い悲鳴を上げた。

 

 中には、鉄骨がむき出しの通路に、幾つもの『帝国兵』の死体が転がっていた。

 

 相変わらずの警告灯の赤い色に、床に広がっていた血痕は目立たないが、そこで何らかの

爆発が何回も起こっていた事は、周囲の破壊具合や、煙が立ち込めている事でよく分かった。

数名の兵士達は、そこで何らかの爆発に巻き込まれて死亡したらしい。死体の損傷の程度な

どからもよくそれが分かる。

 

 機械類の一部は粉々に破壊されていて、通路の手すりなども、強い力で折り曲げられてい

た。鉄骨で出来た通路自体も、大きくひしゃげ、一部が脱落し、途中から歩けないようになって

しまっていた。

 

「い、一体何が?」

 

 怯えた声で沙恵が言った。

 

「さっき俺達が入って来た場所で起きた出来事に巻き込まれたようではないようだ。ここでは、

また別の何かが起こったようだ」

 

 太一は冷静にそう言い、先陣を切って最も先に通路を歩みだした。

 

「何が…?」

 

「だがこのくらいの事ならば前にもあった。太一の追っているものを考えればそう不自然な事じ

ゃあない。早く彼を捜し出す」

 

 途中で切断されている通路を軽々と飛び越えた登。太一もそれに続いてそこを飛び越えてい

た。

 

「そ、そうね…。でも、どこへ行ったと思う?」

 

 沙恵が言った。彼女もその場所を飛び越える。橋が崩れている場所に爆死した死体が一つ

転がっている上、何らかの電気系統がショートし、火花が飛んでいて、その場所を飛び越える

のは、常人では容易では無かったが。

 

「どうやら破壊されている場所を追っていけばいいようだ」

 

 そう言って、登は先の方を見つめた。破壊箇所が、機械室のずっと先の方にまで続いていっ

ている。何度も爆発が起きたかのようになっていて、所々電気系統がショートし、火花が飛び散

っていた。

 

「しかし、やっぱり不思議ね。普通なら『帝国』の人達がもっといるはず…、なのにねッ!」

 

 香奈も通路の破壊されている場所を飛び越えた。彼女の動きが一番、危なっかしかったが、

誰も気にも留めなかった。

 

「とにかく先に進もう。そうすればいずれは出会う事になるかもしれないし、もし警備が手薄にな

っているなら、俺達にとって好都合さ」

 

 登と太一は、香奈が飛び越えて来るのも待たずに、すぐに行動していた。彼らは、すでに常

人には不可能なほどの動きを使い、本気で警戒をしていた。武器は既に抜き放って、いつ、何

が起こってもいいようにしている。香奈と沙恵も同じようにしていた。

 

 物陰に身を隠しながら、4人は迅速に行動した。

 

「地上の方の皆は、大丈夫かと思う…?」

 

 まだ誰も現れていないのを見計らって、沙恵が呟いた。彼女も円盤状の刃が付いた武器を

取り出していて、香奈も鉄製のロッドを抜いている。

 

「携帯が通じない。だが地上の事は、仲間に任せていればいいのさ。今、俺達は、任務の最も

重要な部分にいる。だから集中しよう」

 

 それだけ答えると、太一はどんどん赤い警告灯で染まった機械室を先へ先へと進んで行く。

それに皆が続いていく。

 

「そ、それはそうだね…」

 

 沙恵は返し、再び緊張の中に黙った。

 

 機械室は広く、『SVO』の4人は、しばらくその場所を移動していった。だがやがて、通路が大

きく破壊されている場所に辿り着いた。

 

「これでは進めないな…、ここにあった階段ごと破壊されてしまっている…」

 

 破壊された場所を見た登が言った。彼は通路の破壊箇所の寸前の場所に立ち、下を覗き見

る。

 

「飛び越えて行けば何とかならない…?」

 

 そう尋ねたのは香奈だ。彼女も、機体の下部の方に落下している、くしゃくしゃにした紙のよう

にひしゃげた階段の残骸を見ていた。

 

「ダイナマイトを幾つも仕掛けたかのような爆発だ…。激しい戦闘があったのかどうかは知らな

いが、破壊は上の方へと続いている」

 

 太一は上の方を見上げた。

 

 彼が見上げた機体の上部の方は、とても大きな吹き抜けになっていた。直径二〜三十メート

ルほどの円柱形の吹き抜けが、かなり上までずっと続いている。円柱の中心の芯となる場所

には、パイプやら回線やらの機械系統がずっと繋がっていた。鉄骨が剥き出しの渡り通路も見

えていて、破壊箇所も数多くある。

 

「ここを上の方へと登っていこう。足がかりとなるような場所は多くありそうだ」

 

 そう登が言うと、皆がその場所を見上げた。確かに彼の言うように、かなりの数の突起や凹

んでいる場所があったが、上まで登っていくとなると、相当の高さまで登らなければならないよ

うだった。

 

「それじゃあ、行動しよう…、迅速にね…」

 

 沙恵が言った。

 

-5ページ-

「おかしいのです。非常におかしな事態となりました」

 

「一体、どういう事です?」

 

 オペレーターの話を遮るように、舞が強い口調で聞き返した。面食らったかのように、オペレ

ーターは答える。

 

「今まであった目標の反応ですが、それが、どうも…、こんな事はあり得ません。未だかつてあ

りえない事態です」

 

 オペレーターの方も焦っている。彼女も画面の方に見入ったままだ。立体の特異エネルギー

波探査装置は、部屋の警告灯と同じような赤い色に染まったまま、この戦艦の立体画像と、地

上までの周囲の画像、更には特異なエネルギーのポイントを白塗りで現している。

 

「あり得ない事態ならば、さっきから何度も起こっています」

 

「そ、それでもあり得ないような事態です」

 

「具体的にいいなさい」

 

 舞がそう言うと、オペレーターはどう答えればいいか分からない様子だったが、やがて答え

る。

 

「目標を見失いました。変わりに、この戦艦自体に、全く同じ反応が出ています。そのような状

態です」

 

 オペレーターの目の前にあるコンピュータの画面には、この戦艦、リヴァイアサンの立体構造

図が映し出されていた。そして、今ではその戦艦の立体画像、それ自体が白い色に光ってい

た。

 

「どういう事です?」

 

「つまり簡単に申し上げますと、目標と同じ反応が、この戦艦自体から発せられているのです」

 

 その言葉に、舞は少し混乱した。彼女はどうしたら良いか考えながらその場をうろうろし始め

る。

 

 だがやがて、彼女の背後で一部始終を見ていたロベルトが口を開いた。

 

「つまり奴は、この戦艦の機能を乗っ取ったという事か…?」

 

 皆の視線が、ロベルトの方へと向けられた。

 

「計器類に以上が無いかどうかチェックしなさい」

 

 舞は、ロベルトの言葉を真に受けて別のオペレーターに尋ねた。

 

「いえ、異常はありません」

 

 舞は胸を撫で下ろした。

 

「どうやらそのような事は、無いようですね?」

 

「だが、反応は消えたし、今ではこの戦艦の形となって現れているのだろう? あらゆる危険に

備えるべきだ」

 

 冷静な声でロベルトが指摘する。

 

「計器類に異常が現れないかどうか、ずっとチェックしていなさい…」

 

 緊張した面持ちのまま、舞はオペレーターに指示した。

 

「もし…、もしもです…。あれがこの機体を乗っ取ったのだとしたら! ありとあらゆる兵器類。

更には高威力原子砲までもあいつの手の内にあるという事ですか…! そんな事が…!」

 

 舞は歯を噛み締めて言った。

 

「厄介な事になったな…。あいつの手に渡ったら何をされるか分からん」

 

 皇帝も真剣な面持ちで言った。

 

 すると舞は、すぐに管制室の出入り口へと向き直り、その方向へと歩き出そうとした。

 

「国防長官。どこへ行こうと言うのだ?」

 

 ロベルトが呼び掛ける。

 

「『ゼロ』本人を探しに行きます! もはやじっとしてはいられません!」

 

「アサカ君!」

 

 皇帝は彼女を呼び止めようとしたが、舞はそれに聞く耳を持たずに、管制室を出て行ってし

まった。

 

 

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―Ep#.13 『グラウンド・ゼロ』―

 

説明
巨大国家の陰謀から発端し、異国の地へ。世界を揺るがす大きな存在が、いよいよ主人公達の目の前に現れようとしています。
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