機動戦士 ガンダムSEED Spiritual Vol23
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SEED Spiritual PHASE-90 精神的負担

 

 アイスランド島を震源とした超大型の地震は数日をかけ地球全土に波及した。そしてそのまま打ち寄せた波が引くかのように地震が逆走する。

 地質学上地震の起こり得ない地域にまで差別なく震えた地表に、娯楽程度の研究を繰り返していた地震学者達がいきなり多忙を極め、原因究明に奔走を始める。議論のできる地域はまだ幸せだ。砕かれた世界は命も価値も余すと来なく飲み込み沈める。休火山、死火山までもが軒並み噴火し世界そこかしこで阿鼻叫喚が繰り広げられていた。

「ティニお待たせ! ターミナル≠ゥら結果来たよ」

「あぁ、予想通りのデータです。――少し前の話ですが木星、この値を出した直後にガス惑星になってしまいました」

「えーと、ティニの「ちょっと」や「直後」が何百年位なのか気になるわね……」

 ディアナの戯言に言葉を返している場合ではない。

「もっと事態を気にして心配して下さい。地球が死にますよ」

「…………………それはギャグデスか?」

 項垂れて猛然とキーボードを叩き始めたティニからは微塵も和やかな雰囲気が還ってこない。ディアナは半笑いで固まった表情筋、指を使ってほぐしながらティニの周囲に表示されたデータとターミナル≠ゥら送られてきたデータを並べて見比べてみた。頻出している用語がよく分からない。

「なにこのほしりきって?」

「便宜上の呼び名です。星流炉の動力エネルギーとして扱っているものですが……ここまで急激に減少した例は見たことがありません。あいつはもう死刑です。確定です」

 何やらティニの額に青筋が見えたような気がする。不理解を眉で示しながらも突っ込むことのできないディアナに彼女は次の指示を出してきた。

「各国の対応状況は?」

「フレデリカがもーちょっとすると持ってくると思うよ」

「待てません。オーブとの通信お願いできますか?」

「は!?」

 ディアナは思いっきりティニへと反対意志を投げつけたがあいつは意味すら取れないのか何も感じなかったらしい。

「曲がりなりにも地球圏汎統合国家なんですから、そこと話を付ければ全世界に伝わるでしょう」

「え? ちょっとアイオーン≠フ居場所突き止められるんじゃないの!」

 当然の反論が却下される。その場合相手が何もかも責任を取ってくれれば文句はないが発見されて攻撃されて殲滅されたらティニ一人の問題では済まない。この異生物はそこの所を解っているのだろうか?

 

 

 オーブ行政府は混乱の極みにあった。大西洋連邦地域からの連絡は完全に断絶されている。他の地域も似たようなものだ。先程、どころかしばらく前からあらゆる通信機器がなりっぱなしだが、全てが有益な情報提供かというとそうではない。椅子から立ち上がれないカガリ・ユラ・アスハ代表は机上で腕を組みながら、自分の判断を問うていた。

(鎮圧対象にターミナル≠含めたのは………果たして正しかったのだろうか……)

 最大であった情報源が、今は信頼できない。怨恨から意図的に誤情報を流される可能性を、否定できなくしてしまった。

「駄目です。大西洋連邦との通信、まだ繋がりません…!」

「ザフトの航空部隊にも応援を要請しろ。あぁ衛星の情報を提供しても構わん!」

「回答、ありました。ユーラシア側でも震度7強が観測されたと…。『地震の津波』のデータ転送されてきました。モニタに出します」

「どういうことだ? 今度は南極側から北上だと!?」

 対処法が思いつかない。情報が集まれば集まるほど混乱の度合いが深まってくるような気がしてくる。情報伝達の迅速化を期待して管制と議会を緊急措置的に融合させたが、その判断がもたらす結果すら悲観的になってくる。

「アスハ代表」

「? どうした」

 返答より先に報告が投げつけられるこの現状、『お伺い』は奇異に思える。だが続く言葉で通信士の言葉がカガリにその問いかけを理解させた

「あの、ターミナル≠ゥらの暗号伝文、いえ、リアルタイムの通信です」

 カガリは迷ったが、放置できるものではない。周囲を見回しても手の空いているものは誰もいない。そんな判断が先に発ったわけでもないが自らに回すよう指示した。

 モニタにはテキストオンリーと表示されている。期待していたわけではないが、やはり落胆はあった。顔を見せない、ただそれだけで信頼は大きく損なわれる。

「統合国家代表カガリ・ユラ・アスハだ。ターミナル=A用件は?」

〈統合国家の対応はどうなっているのですか。このままでは惑星が死にます〉

 突拍子もないいきなりの発言に、カガリは言葉を失った。間近でそれを耳に入れた白髪の閣僚が手元の件を後回しにしてその通信を一笑に付す。

「惑星――地球が死ぬですと? 冗談にしてもたちが悪い!」

「大地震から推理した幼稚な考えだ。今はそんなものに構っている暇など無い!」

「通信士! 何をしている! 忙しいのだ切れ!」

 怒りをふんだんに孕んだ閣僚達の声にはカガリも賛同した。なので彼が通信を切断しようとするのを看過するつもりだった。

〈ほら信じてくれるわけありません。繋ぎますよ〉

〈ちっ! ちょっと! だから拙いっ――〉

 そしてモニタが色を持つ。半ば以上興味を無くしていたカガリさえもその映像に引き戻された。

 映し出された少女、純白の世界で無数のコードに束ねられたその姿が一瞬の後に異形へと変わる。ズームアウトされたカメラの中で背中に巨大な翼手が出現し、存在を主張するかのように空打ちする。

「お前は…! え、エヴィデンス!?」

〈どうも取り敢えず初めまして地上の支配者様。取り敢えず私の言葉よりまずこのデータに目を通して下さい〉

 発信元を割り出せとの声が遠くに聞こえる。光量の強いその世界がどこなのかは判然としないが、モニタがその姿を映した瞬間異常な信憑性が宿った。送られてきたデータは球――地球を模した三次元グラフィック。アイスランド島南端が点滅し、何かがそこに集まるような矢印が表示される。見る間に周囲が黒ずんだ。

〈反論も質問も後にして、聞いて下さい。先刻の戦闘の折、星流炉が激しく活性化し、星力が異常消費されました。あぁ、そちらが以前ルインデスティニー≠ノマガノイクタチ≠仕掛けた際を思い返してみて下さい〉

 矢印が消えると、球の末端から黒ずんだ部位へと新たな矢印が流れ込む。

〈壊死を起こさないため、他の部位から爆発的に星力が流れ込みました。ここで止まれば星の寿命が幾らか縮んだだけで事は終わっていました〉

 次いで逆向きの矢印が地球全土に波及する。再び、逆流。三次元グラフィックは延々と津波の行き来を繰り返し始めた。

〈ですが、流入が過激すぎたため逆流に次ぐ逆流を繰り返し、地核にまで影響を与えています。お分かりでしょうか? これが世界規模の地震の理由です。はい質問あれば受け付けます〉

 カガリは食い入るように撓み崩れていく地球の図を見つめた。単純な図が、破滅する未来を暗示している――。それはどうもぞっとしない話だった。真偽の程を検討している時間はない。どうせ手詰まり……。だとすれば質問できることなどこれしかない。

「対処方法は、あるのか?」

「代表っ!?」

 横手からの非難など平手で制する。自分も含めた仲間達の生きる根幹が『死ぬ』とされて何に反論するというのか?

「わざわざ脅しの為に顔をさらしたとでも言うつもりか? エヴィデンス=Aあなたには何か打つ手があるんだろう」

〈話が早くて助かります〉

 羽のある少女がまた何かを送りつけてくる。エスペランサ、セント・ヘレンズ、エトナ、ブルカノ、リンジャニ、タンボラ、キラウェア、エレバス、富士………

〈星の動脈に接しているものほど上位に並べてあります。これに陽電子砲を撃ち込んでください。マントルに直接作用できる火口が狙い目です〉

「……その砲撃で、どうなる?」

「星力の補充など望むべくもありませんからこの作戦は地震の原因となっている津波を抑え付けるのが目的です。陽電子砲なら衝撃波としてのダメージ以前に対象との対消滅が起きますから。四十〜五十程度に衝撃を与えられれば星力の対流速度が中和される――ような気がする計算結果が出ています」

 淀みなく応えるその言葉を否定する要素は見あたらない。虚偽と断じれば敵と認定したものに借りを作ることなく済むが、原因不明の地球規模地震という事実がその看過を許してくれない。彼女の言葉は原因不明で対処不能は状況に、その原因と対処法の両方を提示してくれたのだから。

「――以前傭兵がモビルスーツで陽電子砲を扱ったデータがあったな。陽電子砲自体はアークエンジェル≠フローエングリン≠加工するよう伝えてくれ。戦艦じゃ地表に対して垂直ってわけにはいかない。モビルスーツに撃たせるしかない」

「モビルスーツに!?」

「Nジャマーキャンセラーが必要になる……」

 その一言にカガリを取り囲んでいた閣僚達が口ごもる。Nジャマーキャンセラーを搭載した機体は現状の統合国家には二機しか思い当たらない。もしかしたら大西洋連邦が旧連合軍にて核ミサイルを用いる際に製造したものが残っているかもしれないが、搭載型モビルスーツとなればその限りではない。そもそも未だ大西洋連邦とのラインは不通のままだ。決断するしかない。

「イザークと……アスランを呼んでくれ」

 皆が示し合わせたようにかぶりを振る。

「馬鹿な。アスラン・ザラは――」

「犯罪者か? そんな個人的な見解で……世界の危機を見過ごすのか?」

 一回り以上年かさの者達がカガリの眼力に総じて怯んだ。いや、彼女の地位に怯えたわけではなかろう。『世界の危機』という究極の公を示す魔法の言葉が彼らの反論を完全に封じ込んだ。

「エヴィデンス≠謔闔ヲされた方法、現状任せられるのはフリーダム≠ニジャスティス≠セけだ。アスラン以外に誰がジャスティス≠扱えるというのか?」

 誰も反論しないが誰も率先して動こうとはしない。喧噪に包まれながらも漂う沈黙……。そこに紛れ込んだ誰かの反論がカガリの堰をたたき壊した。

「で、ですが代表――」「あぁもぉいい! わたしが呼びに行く!」

 電動車椅子だけが従う。議場から出ようとすると車輪に爪先が差し込まれる。舌打ちを零しながら見上げれば予想外の顔があった。非難ではなく、決意を表情に込めたメイリン・ホーク。

「あの……えっと、押しましょうか?」

 車椅子は当然安全性を重視するため気が急いたところで速度と呼べるほどのものは出ない。だが彼女が押してくれるというのならその限りではなくなる。

「頼む!」

「はいっ! 代表、しっかり掴まってくださいね!」

 周囲の白い目も何のその。扉を開けたメイリンは車椅子の取っ手をしっかり掴むと一気にトップスピードに到達する。腰の高さで流れてていく景色は思いの外スリリングで――カガリはしっかり掴んでいたアームレストに思わず腕を巻き付けた。

 

 

 

「何!? 火山を撃てだと?」

 鎮静剤を打たれようやく眠ったルナマリアの横で絶叫するのはやぶさかではないが、隠れ家に逃げ込み擬装を終え、応急手当を受けていきなりこき使われてはたまったものではない。疲弊したクロの頭は休息ばかりを求め、アイオーン≠ヨ逃げ帰る方法ばかり求めていた。声にはどうしても苛立ちが含まれる。

 地球規模の地震が誘発する惑星崩壊。ティニはそれを阻止するため統合国家にも協力を取り付けたという。

「じ、常軌を逸した作業だな。どこかの傭兵がローエングリン<宴塔`ャーで軍事衛星を撃ったってのは知ってるが、今度はそれで地球を撃てだと?」

 陽電子砲は大量のガンマ線を放出してしまう。核爆弾に匹敵するか、凌駕するとも読んだ記憶がある……。故に地球連合などは大気圏内での使用を制限していたはずだ。大量被曝も度外視せざるを得ない状況にクロは陰鬱な面持ちになった。

〈こちらでも陽電子砲を準備してはいますが他にも当たる予定がありますし、搬送の時間が惜しいと考えます。その点ルインデスティニー≠ネらそのままで同等以上の威力が出せるでしょう。星力回復もできるかもしれませんし」

 ライフルと砲を連結して火口を狙う自分を想像する。確かに今も、揺れは感じる。一刻の猶予もないと言うのなら疲れたから嫌だなどとは言ってはいけない……のだろう。

「それで全世界が地震に注目してくれればいいがな。ここにずっと隠れていろってのは却下だ。ノワール≠ェリペア可能かわかんねー状態だし、ゲイツR≠熾站汲ネしで戦えるもんじゃない。早急に援助が要る。道が無くてもだ」

 洗脳兵達は壁際に直立したまま何時間も微動だにしない――などというおぞましさを想像したがそんなことはなかった。皆各々の場所に座り込み、気心知れた仲らしく談笑などしている。軍隊という超体育会系の割に会話内容が上品なことが異常と言えば異常だが、そんなもの、ナチュラルの群衆がコーディネイターの群衆に紛れれば恐らく誰でも感じることだろう。

(ファントムペイン≠セって全てが機械人形だらけってわけじゃなかったしな……)

 ビリヤードに誘われた事も在れば軍服の改造に余念のない奴もいた。ザフトと連合の両方を行き来したクロには今の彼らは至って普通と考えられる。

 ティニは、どう考えている? まさか消費可能なパーツとしてみていないだろうな?

〈はい。しかし現状モビルスーツが届けられるとは考えにくいので脱出経路の作成を優先させます。クロには地球鎮圧次第連絡を入れるという形で了承してもらえませんか?〉

「ちっ…解ったよ。オレが出る間にすぐさまアイオーン≠ノ帰れるよう準備だけ整えといてくれ」

 ティニはぺこりと頭を下げて通信を切った。振り返ると皆が一様にこちらを見る。緑でナチュラルの敗残兵がリーダーやってもいいのだろうか。クロはなにやら申し訳なくなる。目を合わせることに抵抗を覚えたが、余所見して話すわけにも行かない。ルナマリアの治療に当たっていた男に目を合わせると取りあえず今からの予定を伝えた。

「――じゃあオレは今すぐ出る。えーと、みんな。ルナマリアを頼むぞ」

 一様に頷く。そして何人かがこちらに気遣わしげな視線を向けた。

「わかりましたが……その、あなたは大丈夫ですか?」

「うん? あぁ、まぁあのシステム使わなきゃ大丈夫だろ。肋骨イッたわけじゃなかったし」

 バースト・シード≠ヘやはり一般ナチュラルには無理があった。戦闘中は気が張っていたからか事なきを得たのだが、拠点にたどり着いた瞬間吐血してぶっ倒れた人間が何を言っても説得力はないだろう。だから曖昧に笑って言葉を濁すしかない。

「アレ使ったのは初めてだが、今まではずっとこの機体使ってたんだ。それにこのミッションは破壊はあっても戦闘はない。機動力なんて求めないから使いようもない」

 男の心配そうな視線にこそばゆさを覚えるのもどうかと思うが悪い気はしない。クロは疲労に凝った肩を回すとルインデスティニー≠フミラージュコロイドを解除した。

 

 

 

 オーブに関われば自分は犯罪者として拘禁される。

 それは自明の理であった。だがスカンジナビア軍を頼り、各地のターミナル≠竍ブレイドオブバード≠ヨの抵抗活動を続けていたアスランの耳にはどうしても情報は入ってきた。

 ザフト・統合国家の連合軍がロゴス℃c党を殲滅するため大西洋連邦への攻撃を開始した。そして――予想外の抵抗に遭い苦戦していると。

 ザフトにも、オーブにも大切な仲間がいる。アスランにはその危機を知らされて尚自身を優先させることができなかった。

 

 ――「こいつはザフトの脱走兵でもあるっ! 我々が確保した以上プラント¢、で判断を下すまではそちらに引き渡すわけにはいかんっ!」

 

 イザークはよくもこんな自分のために国を相手取った抵抗をしてくれたものだ。手をすれば上り詰めたその地位が地の底にまで失墜しかねないと言うのに。

 オーブに関われば、今の自分は国家反逆者として拘束される。

 それが解っていてもジャスティス≠JOSH‐Wへと疾らせた。結果、誰かが救え、咎人の潜入を阻止することはできた。

 

「イザーク。無茶を言うな。俺は統合国家の代表補佐官を投げ出したんだ。俺の思惑や、結果がどうあれそこは曲げられない」

 

 現在、アスラン・ザラの眼前にはすり抜けるには狭すぎる鉄の林立がある。硬い、ベンチとして扱える出っ張りに腰を下ろし、深く大きく息を付く。覚悟はしていたつもりだったが独房に入れられる精神的負担というものは予想以上だった。

「思っていなくても、上流階級ではあったと言うことか……」

 顔を押さえ、独白。軍を脱走すれば銃殺が当然と聞いたことはある。だが何度も脱走しながら自分は代表代行に、そこから逃げ出してすら一国の軍を在る程度自由に使える権限が残った。

「流石にそろそろ観念しないと死んだ後非道い目に遭うのかもな」

 独白に続く、苦笑。自分の信念のために周囲に多大な迷惑をかけた。スカンジナビア王国の参戦を、イザークがどのように説明したかまではわからない。あそこまで自分のために尽くしてくれた王室に対して恩を仇で返すことしかできない自分が嫌になる。

「そうだ。お前は裏切り者だ」

 眩暈は感じなかったはずだ。ならば彼は、現実に、目の前にいるのか? 年かさの緑服を着たザフト兵が両腕で拒絶を示しながらこちらに悪罵を投げつけてくる。確か――サトーと名乗ったか? 父の思想で作り上げられた、人生を捨てた人形がいる。

「あなたは、本当に父――パトリック・ザラの言葉が平和に結びつくと考えていたのか!?」

「信念など持てず平和という幻想に踊らされて全てを裏切る男に諭されたくなどない」

 ニコルを匂わせるブリッツ=Bその戦闘能力を奪おうと振り上げた刃にこの男が操る黒いジン≠ェねじ込まれてきた。

「お前は全てのコーディネイターを裏切ったのだ! お前を守ろうとし、特務隊に推薦した父を、ナチュラル共との決戦を早期に解決し、流血を未然に防ごうとジャスティス≠託した軍を、何ができるか迷ってきたお前に力を与えたデュランダルを!」

 確実に命を奪う部位へ喰らい込むビーム刃。その時アスランは殺戮を止めようなどとは考えなかった。この男は一昨年にも地球規模の災害――いや地球の全生命を殺し尽くす破壊を実行してしまった大罪人だ。救う価値など無かったからだ。

「静かな生活を望み、隠棲をも由としていたキラ・ヤマトを!」

 アスランは両手で顔を覆った。この男がそんなことまで知り得るはずもない。これは自分の罪悪感が産み出した幻覚に過ぎないのだと自身に言い聞かせる。

「そんな男が平和を歌ったところでただ皆の正義を叩き壊して廻るだけだ。お前に確かなものなど何一つ手に入れられない!」

 言い聞かせる。それでも胸中は負が占めた。「――黙れ」

「そう、お前にパトリック・ザラを非難する資格など有りはしない! お前こそが平和を乱しているのだ!」

 アスランは空を見上げた。見上げたところで無機質な壁しかない。思考を無意味に変えてくれる無機質に、彼は寧ろ、縋り付いた。目を閉じれば無数の過去が思い起こされ自分を苛む。もう悩むことはやり尽くした。罪を思っても過負荷に耐えかねた心は自分を優先する。吐息の後には静寂――そのはずだった。

「……ん?」

 足音が、聞こえる。拘禁されてまだ数時間と経っていない。食事にしても早すぎる。そんな犯罪者に何の用が……

「久しぶりだなアスラン。全く……お前いっつも何やってるんだよ……」

「ぅぁ!!」

 脇を囲むオーブ兵など目に入らなかった。息をするのも忘れる。彼は思わず脱走を望む囚人のように鉄格子に縋り付いてた。

「カガリッ!? お前、無事だったのか!」

「無事だったって聞いてもどっかに行ったと聞いたぞ。全くお前は非道い奴だな」

 特赦が扉を開け放った。息を切らせて車椅子を支えていたメイリンが、一歩退く。彼にはそれが見えぬまま――

「!? おいっ! おま、卑怯だぞ! わたしが逃げられないのを知っていてそう言う――っ!」

 縋り付くように抱きついた。

「よかった……本当によかった。無事で……」

「あぁ。って無事じゃないけどな。細かい操作は問題ないんだが……その、えーと、何だ車の運転や足じゃんけんはできるが……立ったり歩いたりが――い、いい加減に離れろよ…」

 アスランは離れなかった。そしてカガリも押し返すようなことができなかった。心地よいと感じてしまったから。メサイア攻防戦≠フ前、アークエンジェル≠正式に第二宇宙艦隊所属とし、皆が宇宙へ行く中自分がオーブに残ると決めたとき、いや自我を捨ててユウナ・ロマと結婚表明の手紙を書いた時からアスランよりもオーブを選んでいたはずだ。だが、この手を離した瞬間、寂寥が来るのを知っている。それが怖くてカガリは彼のさせるがままにしていた。

《そうやって友に縋ることで罪を忘れて過ごすつもりかっ!?》

 心の温かいものを満たしかけていたアスランは唐突に聞こえた男の声に慌てて振り返った。

「ど、どうしたアスラン? 誰か呼んだか?」

 見えるはずもないものを見ようとカガリが訝しげに目をすがめた。そんな彼女を、たまらなくなってアスランが再度かき抱く。

「お、おい…」

「大丈夫だ。俺がお前の…この国の盾になる……!」

 

 

 距離は一歩。歩幅で数えられる本当に近距離。それでもメイリンには目の前の抱擁する二人とどうしようもない隔たりを感じてしまった。だが――

(略奪愛って言うのも、わたしには似合わないしね)

 メイリンは、それを微笑ましく思えるようになっていた。多忙、いや忙殺にさらされて、自分の感性は狂ってしまったのだろうか? あまりにも鈍い彼の感性に呆れてしまったのだろうか? あぁそうだとしても構わない。奪い取るべき存在でありながら奪い取られてもほんわかできる……ヒトにはこういう一面だってあるんだと、確信できたことが嬉しい。

「アスランさん」

「! っ!いや、すまない!」

 声をかけたら慌てて離れてしまった。それも微笑ましい。

「もっとしてても良かったですのに……」

「め、メイリン…」

「まずはこの星を、お願いします」

 自然と敬礼はザフト式になっていた。アスランは多少の不理解に困惑したようだったが彼も返礼をしてくれる。

 

 

 

「――じゃあ聞こうじゃないの。シンじゃなかったら銃殺もののあの巫山戯た発言の意味をっ!」

 大地震が世界規模であることは輸送艦に辿り着いてようやく知れた。それは一息付けたことを意味するのかも知れないが、心に余裕がなかったからこそ置き去りにできたものがある。

 シンは乱暴に音を立てて座席に腰を落とす。

 ライラは上官の価値とプライドを徹底的に粉砕してくれた部下以下の兄に向き直るとその額へ尖らせた人差し指を突き付けた。

「おれは間違ったことを言った覚えはない」

 睨め上げる兄に気圧されそうな自分に腹が立つ。ライラは眦をつり上げながら口を開いたが、兄妹の怒号がぶつかる前に割り込んでくる爪先があった。

「ち、ちょっと」

 生き残った仲間の制止も聞かず、ステラがシンを睨み付けた。そのまま丸めた拳を、突き出す。

「っ……」

 強化人間故か、見た目に反してその一撃はかなり重かった。声を上げかけたシンは格好悪さを何とか飲み干し、憮然と睨み上げるステラ――の頬を思い切り張った。

「ちょっとぉっ!?」

 強制的に横を向かされたステラの姿に疲れ切っていたアサギ達まで腰を浮かした。掴み掛かってきそうな女共を口よりものを言う眼力で押し留めると未だ横を向いたままのステラの肩に両手を乗せた。

「これしか知らない、じゃない。悪いことは悪いことなんだ。それを見逃すこともな」

「シン!」

「意味わかんなくてもいい。聞いてくれ。

 昔、ステラと同じ人がいたんだ。その人は、おれの仲間を何人も殺した。でもそれは、悪い奴にやらされてたことだった」

 ステラの眉間には不理解が見え隠れしていたがシンはあえてその目だけを見つめ続ける。

「おれの仲間がその人を敵だって言った。おれは反発した」

 少女の肩に手を乗せたまま視線だけを持ち上げればミネルバ≠フ独房越しにアスランの憂いを含んだ顔が見えたような気がした。

「『ステラだって被害者だ』」

 悪いのは世界。自分ではない。悪いのはロゴス=B利用されているステラではない。その概念を信じて戦い、ラクスの言葉に心を砕かれた。

 

「悪いのは彼ら、世界――。あなたではないのだと語られる言葉の罠に、どうか陥らないでください」

 

 そのステラと、目の前にいるステラは違う存在。解っていても理解と納得は別次元の感情だった。案の定、自分ではない自分の名前を使われた少女は眉を顰めた。

 逆にシンは当時自分が漏らしたであろう言葉を細部まで思い起こせたことに自分の思い詰めていたものの重さを感じさせられた。

「殺してもいい――」

 ステラを睨み据え、続けて脇に控えるアウル達をも睨み付ける。

「死んでも構わない――そんな考え、おれは認めない」

「あんっ……アンタ…! そんな甘いことっ! あたし達がどうやって生きさせられてきたかまだわぁんない――」

 掴み掛かってくるライラを――シンは乱暴に掴み返した。睨み付けてくるその目を全力以上で睨み返す。

「いい加減に解れ! そんな考えがっ! 父さんと母さんを殺したんだ! おれとお前を人殺しにしたんだ! おれがザフトに入ったのも お前の復讐も、これ以上哀しい思いをする奴を……出したくないからじゃなかったのかっ!?」

 右腕を模した兵器が激しく疼く。マユはそれが意味する所を計りかねていた。

「あの、ちょっといいか?」

『後にしろ!』

 サイは何となく顔を出し険悪過ぎる雰囲気に飲まれて後ずさった。雇い主の部下達の取りなしを得てようよう声を絞り出した彼は思いっきり険悪な形相を浮かべている男をおずおずと手招きした。

「シン、すまないがちょっとこれを見てくれ。正体不明の通信なんだが――」

 怪訝と苛立ちをありありとと浮かべながらサイの指すモニタを見やる。それが映像を映し声を発した瞬間、感情全部が驚愕と後ろめたさに押し流された。

〈はいお久しぶりですシンさん〉

「てっ、ティニ!?」

 裏切り者を糾弾するでもなく神出鬼没を発見して誇るでもなくこちらの驚愕を無視して淡々と話す。通信機器を介しているはずなのにまるで目の前で詰め寄られているような心地に、シンは戦いた。

〈そちらの窮状は全く構いませんので取り敢えずこちらを見てください〉

 彼女が示したのは――ハイパーデュートリオンリアクターを用いての地球救済作業だった。デスティニー≠ェ、世界を救えるというのか?

〈たまには世界を救って、見ませんか?〉

 悪戯を楽しむように笑う彼女の言葉は、物理的に心臓を掴み混んでくるようだった。

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SEED Spiritual PHASE-91 怒号が押し流す

 

「ムウが、地上に降りた!?」

 活火山帯への発進準備に緊張しているところへ入った報告はマリュー・ラミアスの脳裏から現実感を喪失させた。真っ白になった頭の中へプラント≠ゥらの通信士が困惑気味に言葉を流していく。

〈はい。まだ一時間程度前の情報ですので地球に到着してはいないと思われますが、アカツキ≠ヘどうした、と尋ねられました。オーブに返送した旨を伝えましたところそれを追う…ようなことを言われた、と伝えられています〉

 無事、だったんだ……。思わず熱くなる目頭を押さえ通信士から顔を逸らす。

「ご、ごめんなさい。ムウは、無事なのね……」

〈えぇあぁ、はい。こちらで看護を口説いたとか聞いてますからすごく無事ではあります〉

 せっかく落ちかけていた涙が引っ込んでしまう。取りあえず会ったらまず問いつめようと心に誓った。

〈――でも……〉

「えっ? な、なにか」

 その情報に安心しただけに逆説が恐ろしい。思わず座席から乗り出すと通信士は安心させるように慌てて手を振った。

〈あぁいえ心配なさらずに! 病院側が妙なことを言ってたものですから疑問に思いまして〉

「……どんな?」

〈なんと言いますか……予断を許さないほどの大怪我だったはずなのに、とか。でも搭乗手続きの係員からはとっても元気で包帯で腕をつっているようなこともなかったと聞いてますから、あの、心配要らないと思いますよ〉

「あ、ありがとう。悪かったわね。こんな私的なことで煩わせてしまって」

〈いえ。大変な任務だと伺っています。心の重荷は減らすべきですよ〉

 溜息を零す。確かに心労は減った。オーブにザフトの援軍が入り、ディアッカから満足のいく返答をもらえなかったその時から――いや、アカツキ≠ェ何者かに撃墜されたと聞かされたときから、考えまいとしても澱のように張り付いた心配事が消せなかったのは否定のしようがない。マリューは一つ深呼吸すると次の通信を繋いだ。

「マードックさん、陽電子砲の状況は?」

〈ローエングリン§Mくるだけですからね! 骨子はできてるんであと三時間で形にできまさぁ!〉

「お願いします。モビルスーツの動力炉に頼ることになるからそこの所は注意してください」

〈了解ぃ!〉

「エヴィデンス≠ウん、こちらはあと三時間ほどで出撃できますが」

 新たなウィンドウが開き白い世界にエヴィデンス≠名乗る怪しい少女が映し出された。彼女はこちらの言葉に頷くとまずどうでもいいことから切り出してきた。

〈ティニとお呼びくださいラミアス艦長。確かめますので少々お待ちを〉

 話しながらも両手は何やら凄まじい勢いで操作を繰り返している。後ろで同じような勢いでキータイピングを奏でている女性二人も見えた。コーディネイターという存在の技術に感服するが……よくよく考えても見る。エヴィデンス≠ヘコーディネイターなのか?

 

 

「――、と言うわけですがどうでしょうか?」

 ティニが無数の空間投影モニタの一つを北米拠点のファクトリー≠ニ接続すると、構成員らの顔の横に組み立て中の巨大砲身が見て取れる。その間も彼女の指先は忙しなく機器操作を繰り返し、送られてくるデータを処理していた。

〈装飾無視ならこちらも三時間程度ですね。しかし運搬方法がありません〉

 応えたアラスカのターミナル≠ヘ、ドミニオン∴ネ降のアークエンジェル°於\備パーツで陽電子砲を準備すると伝えてきている。放置されていたものだとすると信頼性に首を傾げざるを得ないが、現状ゼロから造っている時間はない。ティニの手元では今も地球の三次元グラフィックとカウントダウンを続けるタイマーが表示されている。当然未曾有の事態であるため、タイマーと現実の誤差がどれほどなのかも判然としない。今もどこかで地震の津波に押し流されている生命があるのだ。――なにより建造中の場所がいつまでも無事だという保障はない。

「その点はご心配なく。使用者自身に取りに行かせますから」

〈は? と、とても着艦できるような――〉

「モビルスーツが行きますから着陸地点の心配は無用です。寧ろ地震予測の方に注意してください」

 頷く構成員に頷きを返し、通信を切る。

「と言うことですラミアス艦長。効率的だと思われる火山狙撃順リスト作りましたので転送いたします」

〈助かります〉

「あぁ、インフィニットジャスティス≠ニフリーダム≠フパイロットと通信は繋げられますでしょうか?」

〈大丈夫、かと……。このまま繋ぎます〉

 マリューは怪訝そうな表情を見せていたがあちらの都合など関係ない。程なくして二つのウィンドウにイザーク・ジュールとアスラン・ザラの顔が映った。

 

 

「活動中の火山がほとんどらしいな!?」

「ならば尚のことフェイズシフト装甲を有したこの二機にしかできないっ。火山弾も物理的な質量兵器だ」

 データを受け取ったイザークとアスランはアークエンジェル≠フブリーフィングルームで一通りの復習を終えた。ガラス越しには鉄灰色のインフィニットジャスティス≠ニフリーダム≠ノ巨大なローエングリン<宴塔`ャーが取り付けられようとしていた。正確にはその銃把や引き金と言うべきか。モビルスーツとほぼ同等サイズの砲身は標準のマニピュレータのみで保持できるものではなく、固定のためにサブアームが必要になるらしい。

 しばし見入っていた二人だが、やがてアスランが目を反らし、聞こえよがしの溜息をついた。

「なんだアスラン? 不安そうだな」

 両腰に手を当てたイザークが見やったアスランは項垂れている。

「そもそも、あのターミナル≠ヘ信用できるのか?」

 イザークは彼の表情を盗み見た。本当に承伏できないらしくやたらと視線が逃げていく。確かに件の組織が不透明な実体を持ち、俗に言う胡散臭さに満ちているのは彼も否定しないが、アスランは別の理由で目の敵としているような節がある。黒のデスティニー≠ェ引き起こした、彼と彼の近しい国オーブへの仕打ちを考えれば頷けもするが。

(ここの代表との関係、か。精算できたんじゃなかったのか?)

 あのエヴィデンス≠ェルインデスティニー≠扱っていると言うのは最早周知のこと。あの機体がオーブを襲った際、代表が殺されかけたと聞いている。

「割り切れアスラン」

 だが、如何に気にくわなくとも今はターミナル=\―エヴィデンス≠ノ頼らざるを得ない状況なのだ。気持ちを、命を存在させるにはこの惑星が必要不可欠。彼の気持ちを優先する道理はない。僅かに痛んだイザークの心はそう結論づけて自己正当化を終わらせた。

「……わかっている」

 恐らく割り切るまでにはもう少し時間がかかるだろう。彼の精神状態が作戦に影響しないことを願う。願うが――直ぐさま彼を熱する存在が目の前に現れてしまった。

〈こんにちは。準備順調ですかお二人とも〉

「エヴィデンス=c…!」

「お前――っ!」

 ブリーフィングルームの大型モニタがティニセル・エヴィデンスを映し出した。彼女は無表情のままこちらを見るともなしに視線を投げているが恐らくアスランにはそれが許せないことだろう。ここまで世界を殺しておいて何の良心の呵責も感じないその存在が。

〈えー……イザーク・ジュールさんと、あぁようやく会えました。あなたがアスラン・ザラさんですね〉

 イザークは気が気ではなかった。思わず舌打ちを零す。事務的に作戦内容だけを伝え、発進命令を下せば余計な諍いは起こらないというのに。全く異生物の思考は理解できん!

 案の定、アスランはモニタから顔を背けていた。

「データだけを。お前となれ合うつもりはない」

 ティニセル・エヴィデンスが愁眉を下げた。イザークは相手の心中まで読み取れたわけではないがそれを意外に思っていた。

〈あぁ。残念です……)

「な、何がだ?」

〈今の受け答えて解りたくないものを解らされてしまいました……。多分02が聞いたら超激怒いたします〉

「だ、だから何がだ!?」

 姿に騙されているのか、アスランの怒りは持続しきれないようだ。イザークは寧ろそれを好ましく思った。作戦終了後にはそれを罵ることになるかも知れないが、今しばらくだけはその方が都合がいい。

〈お父様から、あなたの価値については全く伝えられていなかったのですね〉

 なればこそ、この心を揺らしかねない一言が鬱陶しい。

「……どういう意味だ?」

〈あぁ作戦終了時にお話ししますからお気になさらず集中してください〉

「ならばそんな思わせぶりな発言は控えろぅっ!」

 今まで存在を忘れ去られていたのだろうか。怒りそのままに絶叫してしまったイザークはいきなり集まった四つの視線に虚を突かれた。羞恥を咳払いで誤魔化し、奧の愛機へ人差し指を突き付ける。

「サポートはどうなるっ!? 個々の判断で火山を撃てと言うわけではあるまいな!?」

 モビルスーツ二機に並ぶようにして巨大砲二門が牽引されてくる。

〈その点はご心配なく。ターミナル≠ゥらの情報に不足はありません。私が責任を持ってサポートだのナビゲートだのいたします。はいそれぞれのモビルスーツにデータ転送しておきました。ルートディレクトリに『terminal7501D1』とできていますのでインストールしてください。届いていなければご一報を〉

「お前が? 俺達二人をか?」

〈いえ。四人を、です〉

 眉を顰めていたアスランは彼女の言葉に絶句した。

「そんなこと、できるわけがない」

〈まぁ口は一つですから、同時に話しかけられた場合はこちらの搭乗員に頼みます。女性ばかりですからご心配なく〉

 何をご心配なくなのか……。地球が無くなってしまえば失敗をなじることすらできないというのに。

 反論を口にしようとした二人だがモニタ越しの女の掌がそれを制した。

「今度は何だっ!?」

〈マリューさん、発進予定は? ――間に合いませんね。お二人とも今すぐモビルスーツへ搭乗してください〉

「どうした?」

〈乗ったらそのまま各々戦艦へ。地震です。薙ぎ払われますよ〉

 是非もない。アスランとイザークは虚を突かれながらもヘルメットを掴んで走り出し、それぞれが搭乗機に滑り込んだ。意識するより体の覚えた動作でシステムを立ち上げていき、それぞれの機体に陽電子砲を掴み取らせる。

「……大丈夫なのか?」

〈やるしかなかろう!〉

 アスランは暗澹たる面持ちでジャスティス≠フ目を通して外を見た。ハッチが開いていく――その先には始動を始めたアークエンジェル=Aそしてもう一隻の戦艦がある。

 

 

 

「クロ、現状は?」

 わざわざルインデスティニー≠フ通信機をコールした後で気づく。彼の場合、ナノマシンに話しかければ良かったのだ。多少の緊張はあるのかも知れない。脳裏を流れる膨大な情報に隙間を見つけ、ティニセルはぽつりとそう思った。

〈三つ撃ってきた。えー、テイデ、ボエホ、あとエスペランサ山だ。なかなかスリリングな体験をどうも。火山灰でモニタがきかねぇ所に火山弾が飛んでくるのはたまんねーよ〉

「ジン≠ニ宇宙で戦えば真っ暗な中機銃弾が飛んできますよ。その機体の装甲なら真っ正面からぶち当たっても死にません」

〈お前……鉄の箱に入って延々モビルスーツに蹴られてみろ〉

 と、いつまでもクロの戯れ言に付き合っているわけには行かない。北米からは陽電子砲完成の報告が入っている。ティニセルは適当に礼を述べると一つのモニタをこの間見つけたばかりのサーバ使いと接続した。

「N/Aさん、シンさんの準備はできていますか?」

〈はい。既に向かいました。繋げますが、どうしますか?〉

「彼に直接話したいので、お願いします」

〈了解しました〉

〈ん? シンだと? ティニ、どこと喋ってんだよ?〉

「もうすぐシンさんとも繋がりますからその時まとめて説明します――あ、繋がりました。シンさん状況は?」

〈どこだ? もっと詳細なデータ送ってくれ! 地面ボロボロになってて貰った奴じゃあ役に立たねえよ!〉

 先刻オーブの二機にも渡したソフトウェアをシンに渡す。しばらくしてデスティニー≠フシステムも掌握することができた。

「こちらで誘導しますのでそのまま説明を聞いてください。現在私を介して四機の会話が繋がっています。以後私が管制となりますので」

〈四機だと? Nジャマーキャンセラー搭載型だろ……まさか〉

「そうですクロ、シンさんとあなた、イザークさんとアスランさんです」

〈! お、おいおい……。お前がオレをバラす気かよ……〉

「アスラン・ザラさんは既にあなたのことをご存じです。私もこうして顔を見せていますから、事が済んだら総攻撃を受ける位は覚悟しましょう」

 全く。最強力なら最強力らしく開き直って傲慢になれないものだろうか? いや、なれないからこその要なのだ。ここは割り切るしかない。

「代表からの約束は取り付けてます。『再度のテロが起こるまで統合国家はアイオーン≠攻撃しない』と。彼女は義理人情には厚い方ですよね」

 脱線している間に他から苦情が届いたらしい。フレデリカが誰かを拝み倒していた。

「あぁすみません。はいでは機体の通信チャンネル478.52を確認してください。正常にインストールされていれば固定されているはずですが。状況を逐一お伝えします。まずこのコードで――」

 程なくして転送したスパイウェアじみたソフトが四つの機体状況のモニタリングを始めた。データを見る限りいずれも陽電子砲をドライブするだけのジェネレータを有している。しかし――

「あぁ、オーブもHDや新型エンジンの解析まではできていないみたいですね…」

 数値が他の二機と比べて明らかに劣っているフリーダム≠ノは多少の不安が残るが、現状使える機体は一機でも多い方がいい。ティニセルはあえてイザークへの危険性説明を避けた。その間に自分の意識が集めた内容をディアナとフレデリカが伝えていく。

「じゃあシン、最初の目標はパブロフ山で。以降はそのまま南下して」

「ジュールさんがユーラシア側、ラミアス艦長がオセアニア側ですよね……。はい、オーブから最も近いのはインドネシアのタンボラ、リンジャニ山辺りですが…タンボラ山の噴火規模は大きめですので後回しにした方がいいかもしれません。いえ、判断は任せますが…」

 ティニセルから送られてくるデータを…ただ読む。ディアナとフレデリカはニュースキャスターにでもなった気分を味わっていた。3Dモデル表面を追いかける地震の津波に焦燥感は掻き立てられるものの、ティニから送られてくる情報を読み間違えないようパイロット達に伝えていく。彼女から命じられたのはそれだけだった。大意が伝われば読み間違いなど問題がいないように感じられるが、まぁそこはカワッタイキモノのこだわりなのだろう。

〈パブロフ山撃った!〉

「了解。次シャスタ山だって。直線ルートで大丈夫よ!」

 地球規模の災害への対処法など知らない。先年のブレイク・ザ・ワールドの際にも、人間には落下物を細かく砕く以上の回答は出せなかった。破片が大気圏に入ってからは運を天に任せるしかできなかった。天災とは、そう言うものだと認識している。だが、彼女はその対処法を提示した。疑うことは容易い。だが信じることが愚かとは言い切れない。ならば『試す』以外にできることはない。

「クロ、エネルギー残量に問題があった場合も太陽光のみに頼り、接地は極力控えてください」

 ディアナは頷きながら次の指示を体に通す。ともかく今は世界を支配することより世界を救う方が優先事項だ。

 

 

 

 ティニセル・エヴィデンスは通信を介して四人を繋げた。そこから得られた情報はアスラン・ザラの心を乱す。

「ルインデスティニー=I クロフォード・カナーバかっ!」

 倭国での邂逅欧州での敗北、その後も思うがままに社会をかき回し、自分を貶めた存在が手の届くところにいる? 彼は地球の危機さえ忘却の彼方へ追いやり心の底から黒のデスティニー≠求めた。

「エヴィデンス=I 奴は今――」

〈それを私に聞く暇があったらさっさと戦艦から出て火山一個撃ってください〉

「お前っ――!」

 言いたいことは解る。エヴィデンス≠ヘ敵側の存在。愚問だったことくらい解る。それでもアスランは抑えが効かなかった。

「教えろ! 奴は今――」

〈アスランんっ!〉

 操縦桿を殴りつけそうになった心をイザークの叱責が押し留めた。

〈あの補佐官も言っていただろうっ! 今は星を救うことが先決だっ!〉

 納得はできなかった。それでも彼に反論するだけの材料はない。呻きながらもアスランはジャスティス≠フシステムと武装の最終チェックを行った。

〈はいそこ勝手にチャンネルを変えないでください〉

〈む……〉

〈めんどくさそうなのでお二方の相互通信は繋ぎっ放しにしておきます〉

〈む。か、感謝する〉

「感謝などするなイザーク」

 奴は面倒をお前に押しつけただけだ。アスランは奥歯を噛み締めたが、尚も食い下がる余裕は与えられなかった。

〈ジャスティス=Aコントロールをパイロットへ移譲します〉

 ハワイ島近辺に到達してしまったらしい。舌打ちを零しながらもそれを無視してまで我を通すわけにはいかない。装備された陽電子砲との接続を確認し、開放されたハッチより覗いた空に視線を注ぎ込む。

「アスラン・ザラ、ジャスティス¥oる!」

 右モニタは巨砲が映り続け、左モニタには虚空が映る。リフターの推力を全開にし、アークエンジェル≠フハッチ躍り出た青空の先は――流星雨だった。

「うっ!」

 ロックオンされた旨を警告するアラートが鳴らないまま無数の砲弾が叩き込まれる空間は歴戦の英雄までも息を飲ませた。それでも彼の卓越した反射神経は数限りない火山弾の軌道を瞬時に把握すると機体を無軌道に振りながらMA‐6Jハイパーフォルティス<rーム砲を起動させた。巨大砲で機体のバランスを欠き、ビームライフルを封じられた状況ではこれに頼るしかない。

「くそっ!」

 ナビゲートと熱紋センサーに刹那の視線を投げ二門のビーム砲で火山弾を撃ち据える。しかし粉砕までは至らず作り出した安全圏内に機体を高速でねじ込むしかなかった。

〈火山弾の軌道は送ってありますから参考に〉

 確かに正確なデータは送ってもらえるが、それに答えている余裕など無い。ビームキャリーシールドから光盾を展開し続け、亜音速で飛来する巨岩の群れへと突進する。モニタを行き過ぎる火山弾は肉眼で捉えきれるものではなく、目をどれだけすがめたところで火山灰で霞んだモニタはどうしようもなく視界を制限してくる。殺意無き破壊力の乱打はバランスを欠いたジャスティス≠何度も打ち据えた。

「あぁくそっ!」

 それでも彼の技能と機体の性能は致命を避けきりマウナ・ケア山の山頂へと辿り着く。が、接近すればするほど脅威の密度はより濃くなる。アスランは受けきること、避けきることに辟易し始めたがその間にもティニセル・エヴィデンスから新たなデータが送信されてくる。

 噴火の停止周期。一定ではない。未来を示すそのカラーバーには心電図のような流れが追従している。噴火の轟音に慌てて機体を旋回させると確かにバーと波形が重なる刹那、吹き上がる衝撃が停止した。次の周期は停止期間が長めになっており、ナビゲーターからも勧められているようである。

 アスランはリフターファトゥム‐01≠パージし、サブフライトシステムに変えて機体を安定、高速化させる。次いでローエングリン<宴塔`ャーを機体前面に構えさせると火口目掛けて急速降下を試みる。

 信じられるのか?

 命を賭けてまで?

 ――だがそれでも、親しい人々全ての暮らす大地が賭けられているとなればそれを問うことさえ許されない。ジャスティス≠ヘリフター上で重心を落とし更なる機体安定を求め、陽電子砲とジェネレータを直結させる。

 砲口に、暴力的な光が灯る――。

 デブリベルトで戦闘を繰り広げるのに相似した無謀。岩石の海を泳ぎ切り、無数の恐怖を吐き出す火口中心にサイトを重ねようと苦心する。

 火口の直線上に砲口を重ねた。戦艦ではなしえない、大火力と姿勢制御と機動性を併せ持ったモビルスーツだからこその砲撃。マウナ・ケア山の絶叫口を間近にした瞬間、確かにその絶叫が、止まった。

「っ!」

 刹那の好機を逃さず破壊意志を中心に重ね、間をおかずにトリガーを引き絞った。

 遮光処理とほぼ時を同じくして暴力的な消滅光が吐き出された。機体を圧する陽電子の奔流は寸分狂わずマウナ・ケア火口へと吸い込まれる。

 

 

 

「こ、こいつはぁああっ!」

 三千メートル級のアポ山を上り詰め、火口を目の当たりにしたフリーダム≠ヘ翻弄されていた。バラエーナ≠ニクスィフィアス=Aこの機体ならではの大火力多砲身を吐き出し続け殴りかかる巨石を撃ち抜き逸らし、火口への肉薄を試みるもマグマの吹き上げに阻まれた。黒赤の間欠泉にはプラズマ収束砲も満足な破壊を見せてはくれない。流動する破壊が装甲を打ち据えイザークの背筋を冷たくしていった。

 これを今から繰り返すというのかっ!? マルチロックオンシステムを起動させ無数の火山弾をロックしながら回避のために意識を割く。その作業は刹那の内に神経を絞り上げて磨り減らしていく。護衛のモビルスーツを用意しなかった作戦発案者に敵意を抱くがそれは詰まるところ並の護衛では弾よけにすらならないことを意味しているのかも知れない。

「えぇい! 邪魔だぁああああっ!」

 虹色の奔流が迫り来る岩塊を撃ち抜き、砕ききれずとも軌道を逸らす。登り詰めても更に上を気にすることに、イザークは辟易した。

〈上空の飛来物は艦に落として貰っては如何でしょう?〉

 まるで心を読まれたかのような彼女の提案に息を飲む。悟られまいと声を荒らげれば彼女は通信を買って出た。

〈ソロネ≠ノ通達。フリーダム¥纒の邪魔者を撃ってあげてください〉

 ぞんざいな説明に言葉を失ったか。アークエンジェル級三番艦ソロネ≠ヘしばらく沈黙したが、放たれた四門の収束火線砲がフリーダム≠ノ降り注ぐはずだった火山放出物を押し流してくる。負荷の減ったイザークはティニセル・エヴィデンスより送られてきた噴火周期データに目をやる余裕ができた。両肩の砲を放って血路を開きながら取り回しに難ある巨大砲を機体前面へ引き寄せる。

 火山が、黙った。

 機体を滑り込ませる。

 ふと、ソートに敗北した長距離砲撃シミュレーションが思い起こされた。

「俺は…俺がフェイスだあああっ!」

 弱い心を怒号が押し流す。翼を打ち据えられながらも解き放った陽電子の奔流がアポの火口に突き刺さった――

 

 

 大量の放射線を撒き散らした一射が――終わる。

「どうだっ?」

 火山弾の乱打を危惧して機体を翻す。振り返りかける首を押し留めリアカメラを注視する。――結果、アスランはジャスティス≠引き留めた。

「………収まった、のか?」

 先程までの狂乱が嘘のように、世界が静まっている……。

 対象を対消滅させる陽電子の奔流が火山の中央を消し飛ばし一時的に破壊を押し留めた、それは理解できるが――あの規模の噴火を一瞬で押し留められるものなのだろうか?

「エヴィデンス=c…これは…」

〈質問は後です。折角押し留めてもらっても全滅させなければ意味がありません。可及的速やかに次のポイントを撃っちゃってください〉

「り、了解した」

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SEED Spiritual PHASE-92 絶望の光檻

 

 要狙撃火山リストからまた二つ、名前が消えた。

 同時にあれほど苛立っていたアスランから、あれほど焦っていたイザークから快哉が挙がるのがここまで聞こえる。

 ほら、守りたいものは皆同じ。根源を揺るがされれば敵対者ですらこうも協力し合える。生きる。それ以上を求めるから解り合えなくなるのだ。クロの理論の正しさがここにも表れている。ティニは情報処理の片手間、心のあり方を感じて微笑んでいた。

 情報が集まってくる。フリーダム≠ェバリ島、ジャワ島に砲撃を加え、ジャスティス≠ェハワイ島の三火山を処理した。あの二機にはアークエンジェル∞ソロネ≠ニ言った戦艦がバックアップについている。が、クロとシンはモビルスーツだけで行動している。問題はある。

「クロ、整備の方はどうしましょう?」

〈なんだどーしましょーって!? どっか近くのターミナル°駐_ねぇのか!〉

「ザフトの秘密兵器でノストラビッチ博士特別製を他の人が整備できるはずもないでしょう。仕方ありません。不具合が出たら教えてください。こちらからヴィーノさん達放り込みます」

〈出たら、かよ! ちっ…まぁいい。その特別製を信じさせて貰う〉

 ティニはほくそ笑んだ。彼は、『信じる』という言葉を信じていなかったはずだ。あぁこれは彼なりの皮肉なのか、それとも彼の嫌悪する人間の一貫性の無さなのか。

「お願いします。――で、シンさん」

〈レーニア山撃った! 次はセント・ヘレンズ山だっ!〉

 彼は時折律儀である。今のところ狙撃した火山全てを報告してくれている。

「エネルギー、大丈夫ですか?」

〈あ?、えーと……半分だ。き、気づかなかった〉

 流石のハイパーデュートリオン≠烽アう立て続けの大放出には対応しきれていないらしい。先程言ったばかりの言葉が悩みを引き出す。ザフトの秘密兵器、ターミナル≠ナ補修だの整備だのできるのだろうか? ティニはターミナルサーバ≠ゥらHDリアクターの情報を引き出すとその構造を一読する。

「核動力側でデュートリオンビーム≠フ生成さえできれば回復も可能のようです。どうしようもなくなったら待機、ということで」

〈わ、わかった〉

「整備に関しては……そのきわめて複雑な構造のモビルスーツを信じるしかないですね……」

 ついでに目に入ったデスティニー≠フ構造故の整備班の泣き言が列挙してある。彼の立場を無視すればザフト所有のジブラルタル基地に向かわせることもできるが――いざともなればそれも検討しなければならない。

 もう少し思索をしたいところだったが話し相手が四人もいてはその時間は与えられない。シンは回復待機を選んで手持ちぶさたになったのか、指先より口を動かし始めた。

〈おいティニ、さっき四機って言ったよな? おれと、クロと、アスランと、ジュール隊長――〉

「はい。その四機ですね」

〈いや、まだあるだろ。ヘブンズベースとスタンフォードでおれ達を襲ったレジェンド≠ヘなんだ? あれはターミナル≠カゃないのか?〉

 あぁ頭の痛い問題を失念していた。あの機体の制御権をクルーゼに盗られたまま放置してしまっていた。だが現状のシステムにこれ以上の負荷を与えるのも問題だ。思い出さなければ放置できる問題というのもあるらしい。

「はぁ……あの機体はザフトの造り上げたレジェンド≠ナはありません。我々のターミナル≠ェ月面に墜ちていたレジェンド≠フ材料を引っ張り上げて再生したルインデスティニー≠フ試作型、ZGMF‐X666STジエンド=B星流炉がモビルスーツで機能するかの実験機です」

 思いつくままぺらぺら喋ると案の定、クロが食いついてきた。そう言えば彼に伝えた覚えもない。

〈ジエンド!? なんだそれ、星流炉搭載型はルインデスティニー∴鼡@じゃなかったのかよ?〉

「そんなことを一言も言った覚えはありません。星流炉、時間はかかるでしょうが、地球の物質でも再生産可能かと思います。激烈な圧力をかけられる環境さえあれば木星空間を真似ることもできるでしょうし」

〈……〉

〈……〉

 ……話しかければ脳細胞を傾けさせられ鬱陶しいが、明確な回答を得られないまま黙られるのもこれまた鬱陶しい。クロとシンにとってはよほど意外なことだったのか沈黙の通信が佇んでいる。その間にもアスランやイザーク、その母艦長からの質問やら結果報告もあるが、ティニは彼との会話をこそ優先させてしまった。

〈あ……う…。あ! そ、そいつのフォローが駄目でもあと一機はある! 今のザフトの、軍神がいる!〉

 彼の声に混じった喜色がどのような意味なのかティニは計りかねた。クロもそうではないか?

「もちろんプラント≠ノも連絡は入れてあります。ですが――現状月軌道にいる彼が来られるかどうかは不明です。恐らく評議会の議決も必要でしょうし」

〈そ、そうか……〉

 残念そうなシンの声の後にクロのかすれた声が届いた。……シンの心の使われ方など頓着している余裕など無いらしい。

〈馬鹿な……そんな、オレの、このモビルスーツが完成してるってェのにそんな試作機残して、何の意味が?〉

「クロが見つかる前は彼に任せようとしていたんですよ。彼の考え方が――ちょっと行き過ぎですが――我々に近かったものですから。その彼が離反ですからね。心というものは色々信じられなくて問題です」

〈いやそー言う意味じゃ――じゃなくてなに!? 裏切られて盗ってかれたのか!? ち、ちゃんと管理しとけよ…………〉

「申し開きようもありません」

 申し開きもできずにいる内に二機のデスティニー≠フステータスチェックは終了した。両方ともエネルギー残量を除けば問題はない。地波動は今も3Dグラフィックを浸食している今、悪いが限界まで酷使させて頂きたい。

「なので頼れないモノに頼らないよう心を引き締めてお願いします。クロはアフリカ共同体へ、シンさんはそのまま南アメリカ合衆国の南下をお願いします」

 そして彼らも酷使に対しての反論はなかった。放置すればこの星が無くなるのだ。寧ろ休憩が拷問のように感じられるのだろう。

〈了解!〉

〈了解だ。どうせ地形なんか変わってる。火山全部ぶっ潰す気で行くからな!〉

 

 

 

 エルゴン、カメルーン、キリマンジャロ、ケニアと、クロはアフリカ大陸を順調に縦断している。

 レーニアに続き、フエゴ山を砲撃したとの報告がシンから届いた。

 キラウェアの処理を終えたアスランからニュージーランド方面へと移動の連絡。今後向かわせるのは南極か、南米か。シンの進行状況を鑑みればアスランのサポートなど必要ないように思えるが……。

 イザークにはインドネシアに犇めく火山全滅を断念し、スマトラ島のクリンチ山を何とか処理した後はより中枢に関係する倭国へ移動させた。ソロネ≠ヘあくまでオリジナルアークエンジェル級に倣った仕様であるため潜水機能、ブースターなしの大気圏離脱機能と言った特別な付加はなく、同時に核搭載型モビルスーツの運用は荷が重い。彼のフリーダム≠ヘ、遠からず限界が来るかもしれない。

「ティニ、ラミアス艦長から。さっき見せた地震予測に引いちゃってるよ。南半球から逃げたがってるみたいだけど……」

「南極のエレバス山、行って貰いたいんですけどね。――ジュール隊長、無理はやめてください。リアクターに不安があるようでしたらオーブへの帰還も検討してください」

「ティニ! シンさんがっ!」

 フレデリカの悲鳴がマイナスを引き寄せた。そう言ってしまえば彼女は泣き出して塞ぎ込むことだろうが、それを酒の肴に利用する余裕など無い。地球に『対抗』する戦力に、余裕など無いのだ。フレデリカに問い返すより素早く引き取ったデータがティニの脳裏で形を成す。

 ガラパゴス島フェルナンディナ山へ赴いたデスティニー≠ヨ地球の震えが襲いかかる。三千メートル級を制覇しようとするモビルスーツへと岩の津波が覆い被さるが、津波の速度が如何に速かろうと最強のモビルスーツと最高のコーディネイターの組み合わせがそうそう追いつかれるものではない。………脅威が単一のものであったのなら。

 

 

「ぅおおぉっ!?」

 フレデリカからの情報がまるで役に立たない程あっという間に地震が来た。スラスターをマックスまで引き上げレバーとペダルを小刻みに操作。接地していたのなら今頃は小山の芯にでもされたのだろう。光の翼を撒きながらの急上昇、爪先を流れる岩山が掠めていく。重すぎる無骨な陽電子砲は機体バランスを著しく崩し、操縦を容易ならざるものにしている。

 舌打ちを零している。そんなことに時間を費やすくらいなら陽電子砲乱射して目の前を流れる岩の壁を薙ぎ払ってやりたい。だがこの破城砲はどの望みも叶えてはくれない。連射では無理だし動力を食い過ぎる。先程もエネルギーがある程度溜まるまでただ虚空に浮かぶと言う焦燥を塗りたくった針のむしろに座らされたばかりなのだ。無駄撃ちはただ苛立ちを増す羽目にしか陥らない。

「くっそ――!」

 容易ならざるその操縦をこなし、岩の津波の手が届かぬ高みにまでは上がった。相手がモビルスーツなら、ことはこれで終わっていた。ロックオンされれば音と光で気づくことができる。だが相手は意志無き自然現象であり、場所は一つ避ければ終わるような空間ではなかった。

 フェルナンディナ山が大噴火を起こした。星の命の流動が吹き上げたか、火口から吹き出した散弾が急上昇するデスティニー≠ノ容赦なく降り注いだ。

 細かい飛礫なら幾ら降り注ごうともフェイズシフト装甲は毛ほどにも感じぬが、機体重量すら超える火山弾にのし掛かられてはその限りではない。鳴らないアラートが一歩を遅らせた。シンがスラスターを真横に噴射させるも一手遅い。巨大すぎる火山弾が紅い翼を強かに撃ち貫いていった。

「なにっ!?」

 超激突音と同時に制御が利かなくなる。風にあおられ錐揉みしたデスティニー≠ェガラパゴスの木々を薙ぎ倒し大地に激突した。翼が折れたか確認もできぬうちに、続く鳴動が体を跳ね上げる。苦しみと悔しさに翻弄されながらシンは絶叫した。

 

 

 ソロネ≠ゥら飛び立つこと何度目か。ターミナル≠フ管制がこともあろうにオーブへの帰還を勧めてきたが、この状況でそれができるはずもない。所々で火を噴く東南アジアを断腸の思いで通過し、倭国中央部に辿り着いたイザークは程なくして蒼い火山を見つけ出した。上方から襲い来る火山弾にも視界を覆う火山灰も経験が緊張を押さえ込んでくれている。陽電子砲を担ぎ上げたフリーダム≠ヘ無数の脅威を軽やかにかわし、あるいは破壊し瞬く間に岩色の山頂を臨む。

 確実に世界を救っている。その昂揚がイザークを冴えさせていた。マルチロックオンされた火山弾は瞬く間に光に飲まれて塵となり、臨んだ山頂は瞬く間に流れて空になる。眼下に火を噴く火口。イザークは火口から離れながら陽電子砲を中心に構え、機体を反転させた。

 と、警報音に指先が震える。

「――っ、なんだとっ!?」

 出撃前に機体状況は確認したはずだ。それなのにどうして!? 疑問に思っても意味はない。今起こる最悪が現実だった。

 空間を滲ませる音と共にフリーダム≠ェ鉄灰色に染まってしまった。のみならず機体制動すら奪われている。原子炉に不具合でも起きたのか、安全のため自動的に閉鎖されたリアクターが機体から全てを奪ってしまっている。モニタ越しに映る景色が急速に上昇を始めた。

「くっ、くっっそおおおおおおおおおお!」

 涙混じりの絶叫にもがらんどうは応えない。フリーダム≠ェ火山灰の中で傾ぎ、落下を始めた。

 

 

「どうしたっ!? おい!」

 突然イザークが怒号を上げ、アスランは慌てて繋ぎっぱなしになっている通信に問いかけたが返答はない。間もなくニュージーランド上空に辿り着くはずのアークエンジェル=Aそこに収められたジャスティス≠フ中で彼は体の凝りをほぐす機会すら奪われた。

「イザーク! 応えろ!」

 遠く離れた声がする。嗚咽か? 判別の着かない声がぼそりと聞こえるのみで彼からの返答はまるでない。業を煮やしたアスランは管制に状況を尋ねようとしたが、これまた繋ぎ続けている通信にはこちらの狼狽も筒抜けだったらしい。

〈ジュール隊長は……今落ちました〉

「お、おち!? 火山に撃墜されたのか!?」

 そう叫んで自分が何を言っているか眉を顰めてしまう。

〈いえ、エネルギー切れです。機体性能の差です〉

「そ、そうか。イザークは無事なんだな……」

〈ちなみにシンさんは撃墜された模様です〉

「なにぃっ!?」

〈詳細は追って知らせますので、アスランさんはアスランさんの仕事をしてください。次はタラナキ山です〉

「ま、待て!」

〈待ってる間にお二人が死んでしまうかも知れませんよ〉

 ああ確かに。遠く離れた場所にいる自分にできることは中継される情報で自分を慰めることしかできない。ならば彼女達に救援の一つでも呼んで貰った方がまだしもマシなのだろう。

 聞かされなかったのは……クロフォード・カナーバの状況だが、彼の安否を気遣おうなどとは夢にも思わない。そして、彼の状況を聞いてしまえば足を引っ張る方向にしか意識が及ばないのは疑いがない。

「だ、大丈夫なのか?」

〈今のところは順調ですから。まだしも想定内ではあります。二機の脱落は傷手ですが〉

 そう言うことが聞きたかったのかそれとも友人の無事が聞きたかったのか? アスランは自分の心が解らないまま目的地への待機時間を悶々と過ごした。

 

 

 

 究極は唯一であるべき。神は唯一だからこそ最高位。八百万の神々は精霊との差が見つけられない――などと言った固定観念が自分の中にあったのか。ルインデスティニー≠フ試作機に当たるモノが存在するなど考えもしなかった。

 だからこそ、それが眼前に現れてたとき、クロは言葉を失った。

 ニーラコンゴ山の猛る紅い空、灼熱に照り返されながらも自身の黒を保ち続けるその機体は――

『お前も、こんなことをしているのか』

「――っ!」

 思わずヘルメット越しに頭を抑える。脳に走った痛みは言葉。ティニとのナノマシン通信とは何かが違う、心に差し込まれる声だった。しかもこの声には聞き覚えがある。

「お前……クルーゼか!」

 だとすれば、ティニの言う裏切り者とはこいつなのか?

「プラント≠フエヴィデンス≠フとこにいたんじゃねーのかよ」

『折角手を汚すことなく世界を浄化できるというのに……お前のような無価値に邪魔はさせん!』

「な、なんだとっ!?」

 現れたモビルスーツ、ジエンド≠ェ巨大化した。自分の視覚を疑う現象は急速接近によるものだった。今までニーラコンゴ山を狙っていた長射程砲ゾァイスター≠ゥらビームライフルを引き抜く間など与えられない。クロは両手を固定したまま慌てて機体を翻す。

 行き過ぎた黒い機体には右足がない。

「ぬ!?」

 凍りかける意識をAIが引き戻す。リアを示すロックオンアラートが鳴り響いている。振り返る制御すら惜しんで流した機体横を特火重粒子砲じみた大出力光が貫いていった。見やる先には大口径の砲塔が――敵機の方へと飛んでいく。

(なんだ? 大出力のドラグーン*C塔?)

 疑問に思う間に二つの銃器を分割する。その間に飛来した砲塔は変形して脚部となり母機へとドッキングする。砲を畳む間も惜しみ背中を見せるその機体へビームライフルを撃ちかけたが空間に生まれた波紋がこちらの殺意を風に溶かした。

「トルーズフェイズシフト! だが、なんだ……!」

 何だ今の効果範囲は!?

『幾ら要の機体と言えど今の私には敵わぬよ!』

 熱帯の空に黒い花が咲く。

「う!?」

 全てのアラートが真っ赤に灯る。ストライクフリーダム∴ネ来だ。オールレンジ攻撃可能な機体との戦闘など――考えてみればそれ以外経験がない。無数の砲塔が周囲に飛来しこちら目掛けて閃光を降らせてきた。

「この…!」

 トルーズフェイズシフト装甲は完璧なアンチドラグーン<Vステムだと豪語したことがある。常ならばクロはその考えを貫いただろうが今だけは違う。異常に豊富なエネルギーを湯水の如く使える状況ではない。地球にいながら太陽しか頼れない。この状態で小型砲塔に乱打されれば――メーターが目に見えて下降を始める。

「くそっ! てめぇと遊んでる時間はない! 協力しろとは言わねえがせめて邪魔すんなよっ!」

 思考補助。『シン』の意識が無数射線の未来を読み取る。クロは小刻みな操縦桿捌きで機体を刹那の安全圏に差し込み睨み据える。

『全てを滅ぼすと言った! お前こそ邪魔をしないことだ三下が!』

「人の信頼を容易く裏切るようなクズなんぞに……! 説教されたくはねぇなあ!」

 ルインデスティニー≠フ右手が巨大刀へと伸びる。砲塔を放ちきったジエンド≠ヨコンマ以下で肉薄すると袈裟懸けに斬りつける。――斬り抜ける、つもりだった。だが現実は違う。ビーム刃は異常な揺らぎに反らされており、鉄の刃も虚空の揺らぎに火花を散らす。更に力を加えれば実体剣が――貫通できるか、折り飛ばされるか。危険の可能性に恐怖したクロは刃を引いた。引けばビーム刃が何事もなかったように繋がり輝く。ゼロからショートレンジに離れた瞬間大口径のライフルが突き付けられた。出力したビームシールドで弾けた光は脅威を本体にまでは伝えなかったが有り得ない威力がルインデスティニー≠押し遣った。奥歯を噛む。互いのオリジナルであるデスティニー≠ニレジェンド≠ナは得意領域がまるで逆だ。離されては、勝ち目がない。

(デスティニー≠フロングレンジ支配はあくまで狙撃だけだ。ナチュラルの思考では多数同時処理など望むべくもない。ドラグーン≠無力化しねーと……!)

 長射程砲に伸びかけた指を引き寄せる。その間にもアラートが叫ぶ。

「んなっ!?」

 バックパックの砲塔全てを放ったジエンド≠ェ――更に弾けた。たった今脚が飛んできたのを見たばかりだったというのにこの『分解』は予想外だった。オリジナル機と同様の十の砲塔に加えビームライフルを握った両手、大口径砲と化した両足が一斉に閃光を放った。全面モニタが白む程の殺意。クロは意志とは裏腹に後退させられていた。光の格子、その隙間はAIが算出する。しかし幾つも提示されるその逃げ場は、機体に比べて狭すぎる!

『ふははははは! 踊れ踊れ! お前のようなものが世界に出せる答えなど何もないのだ!』

 悔しかろうとも操作に全力を振り向けるしかない。喋っている余裕など無い。

『その機体は惜しいがな!』

 何重ものビーム砲をTPS装甲に頼り貫きながら距離を潰す。しかしジエンド≠フ速度は明らかにこちらを上回っている。開く間合いに辟易したクロの指先に従い腹部方向が黄金に輝いた。MGX-2235カリドゥス&。相ビーム砲が灼熱を吐き出す。その閃光は胴部だけとなった黒い機体へ吸い込まれたが文字通り吸い込まれただけだった。機体周囲にまで及ぶ世界の揺らぎが破壊光を無意味な波紋に変えてしまう。

「ならっ!」

 さらにTM04-2000GXゾァイスター≠展開し、フルチャージして解き放つ。しかし結果は変わらなかった。

『フフフ気が済んだか?』

 クロは熱くなりかけた。唾液を喉奧に落とし猛る心を何とか抑える。今の二射、避けることはできたのだろう。こいつの異常な機動性と速度なら。だが避けられたのならまだ希望は持てる。だが、例え当たっても効果がないと思い知らされれば、希望的観測を切り替えざるを得ない。それが見つからないのなら――絶望するしかない。

『思い知ったのなら――消えろ!』

 ライフルと砲の連結を試す余裕などない。クルーゼの命令、いや意志に従う空飛ぶ砲口共がルインデスティニー≠取り囲み一斉に、そして絶え間なく粒子光を吐き出し始めた。

「――っ!」

 両手甲と盾のビームシールドを張り巡らせ、足、いや、羽を止めずに回避し続ける。虹を蒔く後を追い淡緑の殺意が追い縋り、時折追いつく。ビーム兵器の衝撃は重弾に比べれば些細なものだと自分を慰めても被害は機体に蓄積されていく。現状最高のモビルスーツと言え不死身の怪物では有り得ない。蓄積が限界を超えれば、当然、壊れる。

 クロは予言の如く見せつけられた未来に戦慄した。

 戦慄するだけしかできない。当然訪れると思っていた希望が、見えない。

 これだけの閃光を吐き出しながら、いつまでも衰えない。小型砲塔の一つすらほとんど母機に戻らない。AIが与えてきた予測値も大きく外れている。

「馬鹿な……っ! どーいうドラグーン≠ネんだよ!?」

 異常な動力を積んでいることは、ティニから聞かされている。だがこうも補給回復なしでビーム兵器を撃ちまくれるモノか。

 星流炉搭載型だったか?

 星流炉は星の命を食うと聞いている。

 ――この地震、何が原因だった?

 アイスランド島……シンのいたファントムペイン≠ヘヘブンズベースとJOSH‐Wに展開しており、彼はレジェンド≠見たと言っていた。

「まさかてめぇ……この地震はてめーの仕業か!」

『ハッ! 私も星流炉を甘く見ていたよ。ここまでできると解っていればもっと早くに飲み込んでやれば良かったな!』

 憎悪にまみれた男が嗤う。世界を滅ぼす手段を手にして。クロはその思考に言いようのないムカつきを覚えて持て余す。しかし理不尽を具現化する、重力下で起動し補給なしで乱舞するドラグーン<Vステムが彼の焦燥さえも嘲笑し続けた。

説明
戦場は去ったがそこに平和などない。当然だ。戦場はより圧倒的な力になぎ払われたのだから。全てを押し流す最悪の津波を前に人間達は主義主張立場と敵意をかなぐり捨てて手を取り合う。人はたとえ仇同士であろうと手を取り合うこともできる。―しかしそれを成すためには存在を賭けねばならない…。
90〜92話掲載。絶望せよ。星に逆らう力などない
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コメント
そ、即座に絶望せよ発動ですか…。コレは文章だからのどーなった彼!?ですね。映像だと吹っ飛んでるのは土だけじゃん!、とかしっかりぶっこわけやがったぞあの機体!に限定されますが活字だけだとボカせます結果どっちだよ?は次回をご期待下さい(黒帽子)
そんな…シンが…デスティニーが…(シン)
年始一発目は準備と引きだけですな読み返すと。実際噴火してるところを横切るのも暴挙ですがそこに向かうわけですからもぉ…。運命と伝説が暗がり火山の前で対峙…はなかなか良い場面でしょうが字ばっかなここでは想像力に期待。(黒帽子)
あけおめいらっさいませ。クルーゼに理性なんぞいらんですが確かに「理性的」と設定されてるはずのコーディネイターに落ち着いた人いないな…。ギ長ですら自分に酔って流れてったワケですし。極悪に書いたつもりはなくともちゃんと敵役になってくれる彼らには作者をして驚愕です(黒帽子)
あけおめですよっと。相変わらずキレキレのアスランさん。並べてみるとわかるけど、コーディネーターのエースって直情型が多いですよねw(さむ)
よろしく〜。さて記念すべき今年の第一話。最後の最後でまさかまさかのジエンドVSルインとはやらかしてくれましたね。果たしてクロは破滅を望むクルーゼを薙ぎ払うことができんのだろーか?火山弾に撃墜された二人も気になるし、今だ出てこない軍神も気になります。次回も楽しみにしてます。(東方武神)
あけましておめでとー。その第一声が「絶望せよ」もアレで…こっちのCEは大変なことになってますが今年もよろしく。(黒帽子)
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