そらのおとしもの 桜井智樹(モテないキング)はモテ男が嫌い |
総文字数10200字 原稿用紙34枚
桜井智樹(モテないキング)はモテ男が嫌い
みなさん、こんにちは。
智樹です。
平和が一番だと思うお正月な今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?
年明けと共に気分を改め、俺は平和について熟慮を新たにする毎日です。
「……マスター、お茶が、入りました」
「智樹っ、りんご飴食べに神社の屋台に行きましょうよ」
「トランプ一緒にやろっ!」
居間でくつろいで新聞を読んでいる俺は3人の未確認生物に襲撃を受けています。
この未確認生物たちは何だかんだ言っては俺の平和を乱そうとします。
実際に俺の日常はこいつらによって滅茶苦茶に崩されてきました。
「俺は今新聞を読むのに忙しいから後にしてくれ」
ですがこいつらが俺の平和を乱すのにはもう慣れました。
それよりも今地球はかつてないほどの危機を迎えています。
その方がよほど深刻な事態です。
「ねえ、智樹、何をそんなに熱心に読んでいるの?」
貧乳の未確認生物が俺の読んでいる新聞を覗き込んできました。
綺麗で小さな顔が近くてちょっと焦ります。
髪からシャンプーの良い香りが漂ってきます。
綺麗な瞳に吸い込まれてしまいそうになります。
ですが、人間様として未確認生物に欲情するなど許されません。
「最近全世界的に結婚しない人が増えてるって記事だよ」
俺は落ち着いてニンフに回答しました。
「ライフ・スタイルの変化ってやつでしょ? そんなに熱心に読むような記事なの?」
ニンフは事の重大さを理解していません。
やはり所詮は未確認生物。人間様の深い葛藤と滅亡への警鐘がわからないようです。
「フッ。ニンフは何もわかっちゃいないな」
ゆっくりと立ち上がります。
ここはひとつ、偉大なる人間様である俺がこの記事が如何に地球の危機を訴えた切実なものであるかを愚かなる未確認生物たちに説明しようと思います。
「私が何をわかってないと言うのよ?」
「結婚しない人が増えているのがライフ・スタイルの変化? 冗談言うなっ!」
真剣と書いてマジと読む鋭い眼力で未確認生物たちを見据えます。
「いいかっ、よく聴けッ! 結婚しない人が増えている理由、それはモテ男どもによる女の乱獲が起きているからだぁっ!」
世界で今起きている、人類滅亡に向けた最も恐ろしい凶行を大声で叫びます。
「はぁ〜? 何、言ってるの、智樹?」
ですが、この頭でっかちな未確認生物はいまだ俺の言おうとしていることを理解してくれません。
「いいか、現在の世界の婚姻制度の基本は一夫一婦制だ。つまり、男1人に対して女は1人しか結婚できない」
「それがどうだって言うのよ?」
「よく考えてみろ。モテ男は1人で何人、何十人、いや、何百人の女を虜にして離さない。だが、その中で結婚できるのは1人だけ。残りの女は未婚のまま生涯を終えるんだッ!」
それは、人々の幸福と公正を追求した筈の婚姻制度が生んでしまった予期せぬ悲劇。
「ちょっと待ちなさいよ。幾らモテ男がいるからって、それだけで結婚しなくなるなんて変じゃないのよ?」
「じゃーお前たちは本命の男以外と妥協して結婚できるのか?」
「本命の……男……」
ニンフが急に顔を真っ赤にして黙ってしまいました。
それから俺の顔を見たかと思うと顔を更に赤く染めました。
よく見るとイカロスとアストレアも顔が真っ赤です。
一体、どうしたのでしょうか?
「ごめん。やっぱり、本命の男以外とは結婚できないよね……」
よくはわかりませんが、俺の意見がようやくわかってもらえたようです。
「わかってくれたようで何より」
俺は首を縦に振りながら自分の戦果を反芻しました。
「モテ男1人が結婚する為に、数百人の女が影で泣き、その女たちを好きな男たちが数百人泣く。こうして世の婚姻率は低下の一途を辿っているんだっ!」
なんと恐ろしきはモテ男のカルマ。
彼らは存在するだけで世界を滅ぼしかねないという原罪を背負った存在なのです。
「はぁ〜。私たち3人の内、2人は結婚できないことが決まり、なのよね。あっ、そはらも含めると4人の中で1人だけなのかな。私たちで結婚できるのは……」
「……マスターは、1人だけ」
「辛い現実ですよね」
未確認生物たちが急に落ち込み始めました。
流石未確認生物だけあって、その行動原理はよくわかりません。
ですが、そんな些細なことは気にせずに、俺に課せられた、世界を救うための崇高な使命について述べなければなりません。
「人類はモテ男の乱獲により存亡の危機に瀕している。だからこそ俺たちは、モテ男どもをこの世から滅ぼさなくてはならないんだっ!」
モテ男どもを根絶やしにする。
それこそが、人類の、地球の未来を守る為に俺に課せられた使命なのです。
「大儀の為に俺はモテない同志たちとフラレテルビーイングを結成し、世界中のあらゆるモテ男どもに対して武力介入を開始し、これを根絶することを決めたんだ」
胸に熱いものが込み上げて来ます。
人間は自分の為だけではなく、見知らぬ誰かの為に立ち上がれるからこそ素晴らしいのではないかと俺は思います。
「それって、モテない男たちが人気のある男を妬んだだけのただのテロリズムじゃない」
「黙らっしゃいっ!」
聖戦とテロを一緒にするとは何とおぞましい。これだから未確認生物は。
「そして俺たちはモテ男どもが最も増長するクリスマス・イヴの夜、奴らを殲滅すべく一斉蜂起した」
「クリスマス・イヴに家にいないと思ったら、あんた、そんなことをしていたの?」
思い出すのは1週間前の、あの惨劇のこと。
「俺たちは福岡のデートスポットを焼き尽くし、モテ男のいない清き清浄なる世界を作り出そうとした」
「デートスポットを焼き尽くしたら、1対1で付き合っている普通のカップルまで困るじゃない。趣旨、変わってるんじゃないの?」
いちいちうるさいチビッ娘未確認生物は放っておきます。
「だが、俺たちの崇高なる計画は汚い国家権力により事前に察知され、開始を目前にして弾圧という憂き目に遭ってしまった……」
それは今思い出してもあまりにも悲惨な光景。
資金及び武器弾薬のスポンサーであった五月田根家が俺たちを裏切り、襲撃を前に空美学園前に集結していた俺たちに警官たちが一斉に襲い掛かったのです。
次々に捕まっていく同志たちを見ながら最高に楽しそうに笑っていた会長の表情が今でも忘れられません。
今思うと、あの真性サドはあの惨劇が見たくてスポンサーになったとしか思えません。
「世の真理を説こうとすると、いつだって国家権力は敵視して弾圧してきやがるんだっ!」
「良かったじゃない。世間様に迷惑掛けずに済んで」
やはりこの未確認生物たちに俺の崇高なる使命を理解させるのは無理のようです。
そして革命の失敗を鑑みるに、この腐りきって堕落した現代の世界では俺の理想を実現するのは不可能なようです。
ならば、俺がなすべきことは……
「決めたっ! 俺はモテ男がいない理想郷へと旅立ってやるッ!」
この穢れた救い難いこの世界と決別し、新天地にて清く正しく美しい生活を送ることではないかと思います。
モテ男がいない平和な世界で、平和を愛する人々と共に純朴に暮らす。
それこそが、平和を愛する俺に一番相応しい選択肢でないかと思うのです。
いえ、果たすべき使命であると固く信じています。
「理想郷に旅立つってどうするつもりなのよ?」
ニンフが呆れ顔で尋ねてきます。
ですが、その程度の疑問、クリスマス・イヴを警察で過ごした俺にとってはもう何度も頭の中で反芻したことに過ぎません。
「俺はこの1週間、新天地に旅立つための準備を怠らなかった。イカロス、アレを2人に見せてやれ」
「……はい、マスター」
密かに準備を進めてきたアレを披露する時が来たようです。
イカロスが俺の部屋の押入れで密かに製造を続けていたアレを持ってきます。
こういう時、この無口未確認生物は人間の何倍も力があるので助かります。
何しろアレは俺の体重の何倍も重さがあるので、人間様の手で運ぶのはちょっと不可能です。
それから数分が経過して、イカロスは2m近くある大きな白いカプセル状の機械を運んできました。
「何なの、これ?」
ニンフがカプセルをペタペタ触りながら尋ねます。
常日頃、電算能力を自慢していても俺の崇高なる理想の為に作られたこのマシンの正体がわからないようです。
ならば教えて差し上げましょう。俺がどれほど壮大な計画を抱いているのかをっ!
「これはな、その名も素敵なコールドスリープ・マシンだぁっ!」
「コールドスリープ・マシン? …………ああ、シナプスにあるアレと似たようなものね」
ニンフは1人納得したように、云々と首を振っています。
その様子を見るに、シナプス、つまり守形部長が言う所の新大陸にも似たようなものはあるようです。
地上を見下す連中の集まる巣窟だけあって、俺と同等程度の知能は有しているということでしょうか。
まあ、羽生えた分頭が軽そうな奴らが俺に叡智で及ぶとは思いませんが。
「はいは〜いっ! コールドスリープ・マシーンって何ですかぁ?」
シナプス出身でもこの機械のことがわからないヴァカもいるようです。
ならば教えて差し上げましょう。
この機械が如何に素晴らしいものであるかを!
「良いか、よく聞けっ! この機械はなぁ、簡単に言うと人が年を取らないまま眠り続けることができる凄い機械なんだよっ!」
SF映画でしか存在しない夢のマシンがここにある。
「ああっ、それってシナプスにあるア……」
ニンフがアストレアの口を塞ぎます。
「む〜む〜むぅ〜っ!」
「あんた、それ以上喋っちゃプロテクトに引っ掛かるわよ」
ニンフ曰く、シナプスに関する情報は最重要機密なので俺たちにむやみに喋ってはいけないそうです。
知ると俺たちがシナプスに命を狙われる確率が格段に増すそうです。
機密という言葉の意味すら知らないだろうヴァカもここにはいますが。
「それで、智樹は眠り続けてどうしようって言うの?」
ニンフがアストレアの口を押さえたまま尋ねます。アストレアが窒息しかかっていい感じでもがいていますが、一向に力を緩める気配がありません。
まあ、そんな些細なことよりも、俺はこの未確認生物たちに偉大なる計画の内実を明らかにしたいと思います。その内容とは……
「俺はモテ男がいなくなった未来の世界で生きるっ!」
モテない男たちに残された最後の安住の地。それは、真の平和が成り立っている筈の未来なのですっ!
「人類はこれまで数々の困難を克服しながら発展して来た。人間の知恵はモテ男による乱獲だって克服できる筈なんだっ!」
俺は人類に絶望しちゃいません。人類の力を、可能性を信じています。
「そんな理由で現在の世を捨てようと言うの? ひがみ根性もそこまで来ると立派よね」
「そんなとは何だ! 俺にとってはこれ以上ないほど切実な理由だぞ!」
モテ男のいない穏やかな世界で生きる。
罪のない世界は人類にとって永遠の夢じゃないかと思うのです!
「はぁ〜。まあ、智樹がそうしたいのなら良いわ。サポートしてあげるわよ」
「おおっ、わかってくれるか、ニンフよ!」
ニンフが溜め息を吐きながらも俺の案に同意してくれました。
普段は小生意気なニンフですが、仲間になってくれるととても心強いです。
「年を取らない私たちエンジェロイドから見れば、人類の歴史自体一瞬の時の流れみたいなもんだし」
俺から見れば気の遠くなるような昔から存在しているエンジェロイドは流石言うことが違います。これで俺が眠っている間の体制は完璧になりました。
「イカロスっ、早速コールドスリープの準備に取り掛かってくれ」
「……わかりました、マスター」
思い立ったが吉日。
俺は早速偉大なるこの計画の実行に着手し始めます。
イカロスのセッティングとニンフのフォローにより準備はあっという間に整っていきます。
「ねえねえ、私は何をしたらいいの?」
「アストレアには後で重要な役目がある。その時まで休んでいてくれ」
「やっぱり、いざという時は私の力が必要なのね。えっへん」
バカな未確認生物は手伝ってくれない方が話がスムーズに進みます。
それにこの体育会系バカには後で実際にやってもらうこともありますし。
「……マスター、準備が、整いました」
そしてセッティングを開始してから10分もしない内に、希望の未来にレッツ・ゴーする準備が整いました。
「なら、俺も準備しないとな。クロスッ・アウトッ!」
未来に向かって飛び立つべく、俺は一瞬にして全裸になります。
イカロス曰く、カプセルに服が入っていると体の機能を維持するのに邪魔になるそうです。
ですが、俺にとってみれば、全裸は普段着みたいなものですから少しも気になりません。
「ねえ、智樹」
カプセルに入ろうとする俺にニンフが声を掛けてきました。
「何だよ?」
「本当に未来に行ってしまって良いの?」
ニンフはそはらの部屋を見ながら言いました。
その瞳は真剣そのものです。
その瞳の力強さに、みんなに鈍いとよく言われる俺でもニンフが言おうとしていることは何となくわかりました。
「そはらを俺の勝手で無理やり未来に連れて行く訳にはいかないだろ? 仕方ない、さ」
少し気が滅入って、下を向きながら答えます。
そはらにはそはらの生活があります。
俺の我がままでいつとも知れない時代にあいつを連れて行くことはできません。
「ふ〜ん。まあ、智樹がそう言うんならそれを尊重するわ」
ニンフは複雑な表情でそはらの部屋を眺めています。
その表情を見ていると、せっかく決めた覚悟が揺らいでしまいそうです。
だから俺は気が変わらない内に早々に出発することにしました。
「それじゃあ、出発に当たって、アストレアっ、お前に重要な役目をお願いしたい」
「いよいよ、私の出番って訳ね」
鼻息荒いアストレアにお願いしたい大切な役目。それは……
「俺が眠っている間、マシンが止まることがないようにそこの電力供給装置を漕ぎ続けて欲しいんだ!」
カプセルの隣に置いてある、自転車を指差しながら説明します。
「人力なんですかぁ、これぇ〜!?」
アストレアが泣きそうな情けない表情をイカロスに見せます。
「……電力を、半永久的に、供給するには、人力の方が、確実」
「そこで、眠らないで半永久的に漕ぎ続けられるあんたの出番って訳ね」
イカロスとニンフがコクコクと首を振ります。
「イカロス先輩やニンフ先輩は途中で漕ぐのを替わってくれないんですかぁ?」
「……私は、機械のメンテナンスが、あるから、無理」
「私も昼ドラ見るのに忙しいから無理ね」
適材適所。
未確認生物たちはそれぞれ自分の仕事に専念するようです。
そう言えば、昼ドラって昼間しかやってませんし、イカロスはこのマシンは1年に1度ぐらい調整が必要だと言っていましたが、それは些細な問題なのでしょう。
「それじゃあ、最後にもう1度だけ確認するけれど、本当に未来に行って良いのね?」
「ああっ、お願いするぜ」
そはらの悲しそうな顔が瞬間的に脳裏に過ぎりました。
しかしそれを振り払ってカプセルの中へと入ります。
俺は男です。
1度決めたことは何が何でもやり通さなければなりません。
カプセルの中で仰向けになって寝ます。
「……マスター、寝ている間、見る夢を、コントロールできますが、どんな夢に、しますか?」
「エロい夢でお願いしますッ!」
俺は即答しました。
そして俺は、ニンフとアストレアの軽蔑の視線に見送られながら眠りの世界へと入ったのでした。
「智樹ぃ〜っ、大人の階段上っちゃうぅ〜〜〜〜♪」
目覚めは突然でした。
羽の生えた3人の未確認生物とポニーテールの幼馴染とムフフなことをしていたら、これから一番良い所という時に夢から覚めてしまいました。
大人の階段、上ってみたかったのでちょっと残念です。
とはいえ、カプセルの扉が開いたので俺はゆっくりと上半身を起こします。
「……ここは、一体どこなんだよ?」
どれだけ発展した空美町が広がっているのかなと思ったら、目の前に広がっていたのは荒涼とした草さえまばらな大地でした。
「やっと目が覚めたみたいね」
眠りにつく前の最後の瞬間に俺に軽蔑の視線を送ってくれたニンフが、変わらぬ姿で俺の顔を覗き込んでいました。
「ぜぇぜぇ。桜井智樹が、目を覚ましたということは、ハァハァ、もう自転車を、ぜぇぜぇ、漕がなくて良いんですよね?」
振り返ると、汗をダクダクに掻いて疲れ果てているアストレアの姿が見えました。
「10年に1度だけ漕げば良い自転車をずっと漕いでくれてご苦労様だったわね」
「10年に1度っ!? そんなこと、今初めて知りましたよっ!」
「言ってなかったもの」
未確認生物たちは相変わらずのようです。
「……マスター、お体の具合は、どうですか?」
続いて俺の顔を覗き込んできたのはイカロス。
「ああ、何ともないぞ。ついさっき眠りについたみたいな感じだ」
全身を動かしてみますが、どこにも異常は感じられません。
「ところで、今、何年なんだ? どうして空美町はこんなに荒廃してるんだ?」
「……それは」
イカロスは俺の質問に答えずに辛そうに顔を背けました。
代わりに答えてくれたのはニンフでした。
「ここは智樹が暮らしていた時代から見ると、遥か遠い未来よ。人類が滅亡してしまった遠い未来……」
ニンフの話はとても衝撃的でした。
「人類が滅亡したってどういうことなんだよ!」
俺はモテ男のいない平和と希望に満ちた世界に来た筈でした。それが、人類滅亡だなんて何を言っているのでしょうか?
「……モテ男は、マスターの言う通り、危険な存在、でした」
「どういうことだよ、それ?」
「……それは」
口ベタなイカロスの話はどうにも要領をえません。
「モテ男による女性の乱獲は智樹が眠りに続いた後も続いたの。ううん、その酷さは増す一方だったわ」
代わりに話を繋いでくれたのはニンフでした。
「……全世界の、婚姻率、及び出生率は、低下の一途を、辿っていきました」
「全世界の人口は世代を経るごとに急減していった。それでも世界はモテ男を中心に回り続け、人類は無力だった」
「……そして、最後のモテ男と、結婚した女性に、子供ができなかった為に、人類は、滅亡しました」
「世の女性たちは、他の男と妥協して結婚、なんて選択肢は選べなかったのよ……」
2人の未確認生物によって語られた、人類の壮絶な最後。
俺はそれを涙なしでは聞けませんでした。
「人類は、モテ男の脅威を克服できなかったって言うのかよ……」
ガックリと膝をつきます。
自分で未来の世界に来ることを選んだとはいえ、こんな結末が待っていたなんて……。
人類は無条件に発展していくものだと思い込んでいた俺がバカでした。
「元気出してよ、智樹」
「……起きて下さい、マスター」
「落ち込んでいてもお腹が減るだけよ」
未確認生物たちが肩に手を乗せて俺を慰めてくれます。
「お前たち……」
イカロスたちの手がとても温かいです。
人類は確かに滅亡してしまったのかもしれません。
でも、俺は独りぼっちじゃない。
そう思わせてくれる温かさがありました。
「そはらにも、悪いことをしたな……」
幼い頃、落ち込んでいた俺を慰めてくれるのはいつもそはらの役目でした。
そのそはらにはもう2度と会うことはできません。
それを思うと、また涙が溢れてきます。
「へぇ、智ちゃん。私の為に泣いてくれるんだ」
聞こえる筈のない声が耳に入り、俺は慌てて振り返ります。
そこには裸身を白いシーツで身を隠した……
「そっ、そはらぁっ!」
過去の時代に置いてきた筈のそはらの姿がありました。
「私に一言の相談もなく、未来の世界に行っちゃうなんて酷いよ」
そはらは拗ねた表情を見せます。それは紛れもなく、俺が10年以上の時を一緒に過ごして来た幼馴染の少女のものでした。
「そはらっ、何でお前がここにいるんだよ!?」
目の前の少女は確かにそはらです。
でも、そはらがこんな未来の世界にいる訳はありません。
これは一体、どうしたことでしょうか?
「私も智ちゃんの後を追ってコールド・スリープしたんだよ」
そはらがニッコリと微笑みました。
「えっ?」
「智樹、そはらの意思を尊重するみたいなこと言っていたじゃない。それでそはらは智樹と同じ時代を生きることを選んだ。だから、智樹の後にコールド・スリープしてこの時代に来たのよ」
ニンフの驚くべき説明に、そはらの顔をマジマジと見つめてしまいます。
でも、間近で見たその顔は俺の知っているそはらとはほんの少しだけ違う気がします。
「お前、何か、大人っぽくなってね?」
俺の知っているそはらはもうちょっと童顔だったような?
それに、胸のサイズがまた大きくなっています(断言)。92だったバストが95にパワーアップしています。
「両親にコールド・スリープの許可を得るのにちょっと時間が掛かったからだよ。ほらっ」
そはらが見せてくれたのは、空美学園の卒業証書。
つまり、そはらは俺なんかを追い掛ける為に1年以上も時間を費やしたという訳です。
「こんな、俺なんかの為に……」
涙で霞んで前が見えません。
「だって、私……智ちゃん以外のお嫁さんになりたくなかったんだもの」
瞳を潤ませるそはら。
そはらの言葉を聞いて、俺は胸が高鳴るのを抑え切れませんでした。
「智ちゃん……」
「そはら……」
ゆっくりと近づいていく俺とそはらの顔。
そして2人の顔の距離がゼロに……
「そはらばっかり良い雰囲気になってずるいわよ!」
なる直前でニンフにより遮られました。
「私も智樹のことが大好きなんだからね!」
そう言ってニンフが俺の首に抱きついてきます。
「……私も、マスターのことが、大好きです」
ニンフが背中からそっと抱きついてきます。
「私だってっ、大好きなんだからぁあああぁっ!」
アストレアが俺の両腕を取ってブンブンと振り回します。
一体、何がどうなっているのでしょうか?
俺の身に一体何が起きたのでしょうか?
「結局、今の世界に残っている女の子って、みんな智ちゃんのことが大好きなのよね」
みんな、俺のことが好き!?
そ、そうだったのか。
もしかすると、とは思っていましたが、口にされるまでわかりませんでした。
俺って、みんなの言う通り本当に鈍かったのかもしれません。
イカロスたちは巧妙に好意を隠してきたので気付かないのも無理なかったのですが。
「……つまり、マスターは、人類最後の、モテ男に、なりました」
「なっ、何だってっ!?」
俺自身が、俺が最も忌み嫌っていたモテ男になってしまうとは。
これが、歴史の皮肉というやつでしょうか?
「お、俺は何という業を背負ってしまったのだぁ〜っ!」
人類を滅亡させた悪しき存在に自らが成り果てるなんて。己が抱いた正義を貫く為にはもう……死んで詫びるしか……
「モテ男としてこれからの生涯を立派に生きれば良いじゃない」
そんな俺にケロッとした表情で意見を述べたのはニンフでした。
「ニンフ、お前、一体何を言って?」
「モテ男が世界を滅ぼしたのは、世界が一夫一婦制だったからでしょ?」
「ああ、そうだけど……」
ニンフの話が掴めない俺を他所にニンフはとてもニコニコしています。
「だけど、人類は滅亡して人間が作った婚姻制度もなくなった。だったら、この新しい世界で智樹は一夫多妻制の下に子孫を沢山増やしていけば良いのよ」
俺はニンフの言葉を聞いてしばらくの間呆然として何もできませんでした。
「俺、モテ男で、いいのか?」
そしてやっと紡ぎ出した言葉がこれです。
「モテ男でいてくれないと人類が本当に滅びちゃうわよ」
ニンフはクスッと笑いました。
「俺、複数の女の子と結婚して、いいのか?」
「重婚してくれないと人類が滅びちゃうわよ」
体が、体が震えて止まりません。
どうしたら良いのかわからなくて。でも決して不快な感情じゃなくて。
それどころか凄く嬉しい感情が、温かさが体中をうねっています。
「……実は、マスターに、ご報告したいことが、あります」
イカロスが自分のお腹を右手で押さえながら近寄って来ました。
「……実は、私たち、子供が生める、体に、なりました」
「はっ?」
イカロスは一体、何を言っているのでしょうか?
エンジェロイドに子供?
「智樹が眠った後、私たちの作り親であるダイダロスに相談してね。子供が生めるように色々と改造してもらったの」
「なっ、なんと!」
これは驚きの新事実です。
「私、そんな話、全然知りませんよっ!?」
「デルタにはずっと自転車漕いでもらっていたからね。言ってないし、改造もされてない」
「そっ、そんなぁ〜」
適材適所故の悲劇が再びここに。
「でも改造の仕方は私の電子頭脳が記憶しているからその内私が改造してあげるわ」
「あっ、ありがとうございますぅ〜っ!」
涙を流しながらニンフと握手して喜ぶアストレア。
元凶はみんなニンフのように思えますが、本人が喜んでいるので良しとしましょう。
「そういう訳で、智ちゃんはここにいる4人と結婚して、みんなを幸せにすること。いいわね?」
そはらが俺の顔をジッと見ます。
イカロスも、ニンフも、アストレアも俺を覗き込んできます。
桜井智樹、男としての決断をしなければならない時が来たようです。
「べっ、別にしたくてお前らと結婚する訳じゃないからなっ」
思わず、ツンデレして答えてしまいます。
でも、答えは決まっていました。
俺の為にこんなにも尽くしてくれたこいつらと一緒にいたい。これからもずっと一緒にいたい。俺がこいつらと共に幸せになりたい。
そう、思ったのです。
「智ちゃんっ!」
「智樹っ!」
「……マスターっ!」
「桜井智樹っ!」
こうして俺は新しい人類の最初のハーレム王として、モテ男の業を背負いながら4人のお嫁さんと共に生きていく道を選びました。
色々ありましたが、未来に来て良かったです。
モテ男に乾杯っ!
そらのおとしもの Happy End
説明 | ||
あけましておめでとうございます 本年もみなさまにとりまして実り多き1年となりますことをお祈り申し上げております お正月は短編集を出していこうと思ったのですが、色々と忙しくて執筆時間が取れませんでした……。 正月三が日があけてからの短編発表となります。 そらのおとしものfの二次創作作品です。 『ヤンデレ・クイーン降臨』『逆襲のアストレア』とは平行世界のお正月用作品です。 また、原作を知らなくても楽しんでいただける様に努力しております。ですが、キャラクターの基本的な説明は前作で行っている為にこの作品では省いています。原作を知らない方は特に『ヤンデレ・クイーン降臨』を読んでからご観覧されることを望みます。 なお、多くご支援、感想を頂けると創作をする上で励みになります。 そしてこの場を借りて、ご支援感想を下さった方々に感謝の意を表したいと思います。ご支援ありがとうございます。 そらのおとしもの二次創作作品 http://www.tinami.com/view/189954 (ヤンデレ・クイーン降臨) http://www.tinami.com/view/190843 (逆襲のアストレア 前編) http://www.tinami.com/view/191418 (逆襲のアストレア 中編) http://www.tinami.com/view/191618 (エンジェロイドの誕生日 クリスマス・イヴ編) http://www.tinami.com/view/192101 (エンジェロイドの誕生日 クリスマス編) http://www.tinami.com/view/193075 (アストレアさんの抱負 ニンフさんの悩みごと イカロスさんとスイカ) |
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コメント | ||
tk様へ お正月ということでhappy endを目指したところ読者様の智樹への不満が高まり申した。次の作品では普通にまた酷い目にあいますからご安心を(枡久野恭(ますくのきょー)) 智樹もげろッ! この一言につきますなw それにしても、本当に未来へタイムスリップさせるとは思い切った事しましたね。(tk) 月野渡様へ 無自覚に女性を囲うモテ男。武力介入も止む無しですな(枡久野恭(ますくのきょー)) BLACK様へ 逆襲のアストレア前編で使えなかった台詞を随所に入れました(枡久野恭(ますくのきょー)) フラレテルビーイングの魔威巣汰亜としてこの男のフラレテルビーイング入りは認めません。というかこやつは武力介入の対象です(月野渡) ガンダムチックな台詞が多かったなwww(BLACK) |
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