、キミのとなりで1話前半
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第一章   アパートの住人

 

 

 

 

 

 

「も〜やっと起きた。」

 

 

 俺は聴きなれた、いや聴きなれてしまった声によって目を覚ました。

 重い目蓋を擦り目を開くとそこには近い天井。

 

 そして声の主の方へ目を移すと助手席から赤みがかったショートヘアーの幼馴染が俺を睨んでいた。

 

 はっきりいって怖くない……。

 

 というか、二十歳になる奴が頬を膨らますって、お前は小学生か! ってツッコミを入れたいのはさておき……。

 

 まぁ、その怒ってる(自称)幼馴染は松野琴音。

 

 一著前に頭周りを外し耳より後ろに間引きながらパーマでふんわりとした髪型をしている。

 

 別に特別美形というわけではないが両親が美男美女ということもあり顔貌は整っていると思う。

 

 よく、女の将来の姿を見たいならば母親を見よ!なんていうか、裕美さんのようにおしとやかなオトナの女性になるとは到底想像できない。

 

 見た目はしっかりしている様に見えるが……まー実際しっかりした所もあるのだが、どうもマイペースで抜けている所が多々ある。

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 なにせ何もない所で躓く事が出来るというポンコツな特技を持っているくらいだ。

 

 しばらくすると先程まで心地よい眠りに誘っていた一定のリズムの振動が止まる。

 

 寝ていた場所へと目を落とせば独特のこもった匂いを放っている座席にエナメルのトラベルバッグを抱き枕にして寝ていたようだ。

 

 不思議と体の節々が痛いのは雑多に置かれた荷物を下敷きに寝ていたせいらしい。

 

 そもそも何故このような状況になっているのかといえば……言わいる引越しというやつをしている途中だからだ。

 

 両親を事故で失い途方に暮れていた俺たちを父方の祖父母が引きとって以降俺と妹、じぃちゃんとばぁちゃんの四人で暮らしていた。

 

 しかし、何時しか俺も大学に通うようなり、家を離れバイト先の紹介でこのアパートに引っ越すことになったのだ。

 

 本当は大学進学と同時に一人暮らしするつもりだったのだが……。

 金銭面だったり、心配性のばぁちゃんの説得に難航した為に、今になってしまった。

 

 しみじみとここに至るまでの経緯を思い返していると、ぶっきらぼうな声が運転席から飛んで来た。

 

 

「早く降りろよ! 

 誰の為に車出してやったと思ってんだつうの。

 さっさと飯食って荷解きやらないと、後で泣き見んぞ?」

 

 

 バックミラー越しに急かすのが昔からの悪友、岡沢優斗。

 

 金髪で無造作に見せつつ無駄に髪型を決めているコイツは、かなり調子のいい奴なのだが意外と情にもろかったりもする。 

 

 そして車好きという事もあり、優斗の車で引っ越しの荷物を実家から運んでもらっているのだ。

 

 それはさておき、優斗の言う事は最もである。

 

 今日は土曜日、明後日にはまた授業が始まる。

 なんとしてもそれまでには荷解きを終わらせたい。

 

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「そうだよ武弥早くしないと日が暮れちゃうよ?」

「ごめん、もろ寝てた」

 

 

 事実寝たのは朝の五時近く……。

 家を出る為起きたのが七時なので二時間程しか寝ていない。

 

 

「まったく〜、

『漫画詰めてる時に何となく漫画読んだら、止まらなくなって朝になっちまったぜ』

 って武弥らしいって言えばらしいけど……」

 

「あはは……悪い、悪い。」

 

 

 琴音の小言に苦笑するしかない俺。

 

 さて、流石にそろそろ起きないと本気で怒られる。

 俺は周りの荷物をどけワゴンのドアーを引いた。

 

 車から出ると背筋の通った老紳士が立っている。

 

 乱れる事の無い白髪混じりのオールバックと、指の先そして服の先まで計算尽くされたような燕尾服。

 

 またその本人も壮年とは思えない確りとした立ち振る舞いと、ちょこっと額に垂れる後れ毛には色気すら感じる……。

 

 そこら辺に転がっているそこら辺の枯葉ようなジジィではなく、酸いも甘いも噛み分けた老練さを醸しだした一人の男性といった感じ。

 

 そして白いバトラーグローブと呼ばれてる手袋やなんかそれっぽい小物……まさに俺がイメージする執事その物。

 

 しかしその姿はどこか下町情緒溢れたこの街の中で、一際異彩を放ちぶっちゃけいうと浮いていた。

 

 あぁ、この人だ。

 

 前に大家さん会ったときに『ちょっとボクは忙しいから代理の者を建てるよ、あぁ大丈夫彼なら目立つしすぐに判るよ……』と言われた。

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 何故大家本人ではなく代理人なのかというと、詳しい経緯は知らないが大家は鳴海伯斗(なるみはくと)という方で、本業の方の仕事でとても忙しいらしく、執事さんが主にこのアパートの事を任されているとのことらしい。

 

 実際大家さんには俺も一度会ったのみで、詳しいプロフィールは知らない。

 ただ、大家は副業で本業は探偵……みたいなものと言う事だけ。

 

 あともう一つ知ってるとすれば、どう見ても同世代にしか見えない容姿と、見たことのないペットを飼っているということくらいだ。

 

 年齢は仕事に差し支えがあるからと教えてはもらえなかった。

 

 それはそうとその老紳士は俺たちに一歩近づき、挨拶をしてくれた。

 

 

「はじめまして。

 私は本日、大家代理人として参りました日下部と申します。

 失礼ですが、あなたが羽賀武弥様でよろしいでしょうか?」

 

 「え、あ、はい……大家さんからお話を聞いています」

 

 

 老執事もとい日下部さんの丁寧な言葉に萎縮してしまう俺と雄斗。

 

 しかし、一方琴音は声にさえ出してなかったが、目をキラキラとさせどこか熱い眼差しで日下部さんを見つめていた。

 

 

「左様でございますか、これは失礼致しました。

 こちらが羽賀様のお部屋のカギでございます。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

 

 差し出された鍵を受け取ると、なんとなくだが一人暮らしをするんだという実感が徐々に沸いてきた。

 

 

「何かお分かりにならない事がございましたら、

 本日は一日こちらに居りますので何なりとお申し付けください。」

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「あっはい! よろしくお願いします。」

 

 

「あゆーのなんつーんだっけ、ひつじ? 

 いったいココの大家って何者だっつうの。」

 

「ひつじじゃないよ、執事!」

 

 

日下部の丁寧な物腰に少々及び腰になる武弥に対し興味津々な二人。

 

 

「どうなんだろうな……? 

 確かにお金持ってそうな感じはしたけど、

 俺もよく知らないからなー」

 

 

 よほど日下部さん……、というより執事が気になる様子の優斗と琴音。

 ひと通りの説明の後自室へと戻る日下部を、身を乗り出すようにその後姿を追う。

 

 実際、あまり大家や日下部さんの事は知らないので説明のしようがないのだ。

 

 

「そういえば……ペットも見た事ないようなのだったな」

 

 

 少し勿体付けるようにわざと呟く。

 謎めく人物だけあってそれを少し知る身としては小さな優越感を覚えた。

 

 

「見た事ない奴ってなんだっつうの。」

「可愛かった!?」

 

 

 たしかにペットを見ているが、その姿は『親指サイズの猫の様なもの』というなんとも答えづらいものを聞かれたところで――

 

 

「まー可愛かったけどホントに知らない奴だったし……。

 ってか、そろそろ始めない?」

 

「お前が言うか!」

「う〜気になる〜〜」

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 吠える優斗に唸って一生懸命想像を膨らませようとする琴音を横目に早速トランクを開ける。

 

 

「しゃ〜ない、んじゃ〜とりあえず、

 俺と武弥で大きいもんからどんどん運んじまうべ?」

 

「う〜〜……」

 

 

 未だ気になるといった様子で珍妙な唸り声を上げている琴音はさておき、俺と優斗はそそくさと荷解きを開始した。

 

 

 

「しかし大家が謎なだけあってこのアパートも変わってるよな」

 

 

 車から荷物を外へとだしながら優斗が改めて引越し先である建物へと目を向ける。

 

 

「う〜ん、確かに古き良き時代の立派なお屋敷って感じね」

 

「いや、つうか確かに外観もあるけど俺的には名前だろ名前」

「名前……?」

 

 

 朝食のおにぎりを食べていた琴音が不思議そうに首を傾げる。

 

 

「ありえないだろ、名前がアパートって!?」

 

 

 木目の大きな表札にでかでかと書かれた名前を指差す優斗。

 

 実際優斗が言うようにそこにはカタカナで『アパート』と書かれている。

 

 またその外観は、琴音が指摘するようにまさにお屋敷とまではいかなくとも、百坪程度の趣のある作りになっている。

 

 もちろん変わっていると言う点で言うのならば名前の『アパート』意外にも太陽光発電用のソーラーパネルやら、外装では分かりにくいがオール電化になっているなどなんとも建物とのギャップのある設備がかなり整っている。

 

 

「う〜確かに……あ、でもほらソーラーパネルが付いてるなんてお得だよね」

「つうか、それこそアパートに付いてるのってすごくね」

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 改めて異様なアパートに興味をそそられる優斗。

 

 

「最初はアパートとして使ってたわけじゃないみたいだからね」

 

 

 二人の疑問に対し言葉を返した。

 

 

「マジか!?」

「そうなの!?」

 

「何でも大家が昔探偵の仕事の時に自宅兼事務所として使っていたみたい」

「昔ということは、探偵物語だね」

「う……うん、古いっていうイメージだけね……」

 

 

 琴音の斜めにそれたの質問になんとか答える。

 これが天然のなし得る業なのだろう……。

 

 

「つうかどんだけ金持ちなんだっつうのその大家!? 

ヤバい内装も気になってきたんだけど」

 

 

 苦笑しながらも琴音とのやりとりを横目に、アパートへ視線を移す優斗。

 

 

「まーね、んじゃー荷物運びながら次は中でも見てみますか!?」

 

 

 物珍しさに興味津々の二人に対し段々不安になってきた俺は急いでおにぎりを頬張ると、早速中を見せようと荷解きの作業へと移ることにした。

 

 とりあえずふざけてなにか壊すのだけは止めてくれよ……特に優斗!

 

 

 

 玄関に入ると、両サイドに一部屋二十足は収納出来そうな大きな靴棚が並び各部屋の番号が記されていた。

 

 番号は101〜103、201〜204と七部屋分に分けられており、空の棚が一部屋のみな点から自ずとこのアパートの住人が最低でも何人居るのかを予測することができる。

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そして先に入った琴音が立ち往生していた。

 

 

「琴音どうした?」

「えっと〜、武弥の部屋どこだっけ?」

 

 

「ん、202号室だけど……? 

あぁ、靴はぬぎっぱでいいから」

 

「そうなんだ、んじゃココに置いとこっ〜と。

 優斗と武弥は適当に脱いでいいよ?

 私が整えておくから。」

 

 

 俺の言葉に小さなパンプスを脱ぐとちょこんと端に揃えた。

 

 

「お、わりいな……助かる」

「ああ助かるね」

 

 

 なぜ脱ぎっぱなしで良いのかというと荷物を部屋まで運ぶ際に、わざわざ棚に出し入れするのは面倒だから予め大家さんから許可を貰っていた。

 

 

「よかった〜、わざわざ棚に入れてたら大変だもんね」

「いや、つうかそのつもりだから!」

 

 ほっとしたように肩を撫で下ろす琴音とは対照的に優斗は、端から玄関に脱げ捨てる算段をしていたようだ。

 

 現に乱暴に脱ぎ捨てていた、そしてそのあとを『あッコラ、優斗! もぉ〜……!』とぷりぷりと怒りながら拾いに行く琴音であった。

 

 

 

 

 

「しっかし中は思っていたより普通だな」

 

 

 玄関から内装を見渡した優斗は、つまらなそうにため息をつく。

 入り口早々玄関がある『アパート』これは中々ないのでは無いか。

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 しかし、外観を見る限り言ってしまえばただの一軒家。

 

 玄関を上がって直に2階に続く階段があり、廊下から101〜103の各部屋がある。

 更にそのまま直進すると共用部の洗面台や浴室、トイレに繋がる。

 

 また突き当たると、共同のリビングもあり、キッチンが充実している為食事をここで取ることもできるのだ。

 

 しかし、優斗としては常識の範囲だったらしく思い描いていたモノとは違ったようだ。

 

 

「大体こんなもんだろ、どんなの想像してたんだよ?」

 

「そりゃーアレだよ、部屋が動いて変形合体しちゃう感じ!?

 ロボットになるんだぜロボット!! 

 そんでもっと、ジャッキーン――ッ! 

 グシャァ!って感じっつうの?」

 

 

「そいつはすごい、グシャ――ってどう考えても潰れてるな。

 そもそも家が変形するなら最初の形とか関係ないだろう?」

 

 

「あ、やッべッマジだ! 

 いや、まだ合体する可能性が――」

 

「いや、無いだろ……てか、何と合体するんだよ!?」

 

「うぅ〜〜武弥も優斗も遊んでないで早く運ばなきゃでしょ!? 

これじゃ何時までたっても終わないよ〜!」

 

 

 玄関先で漫才を続ける二人に対し何時もの事のように呆れた様子で間に入る琴音。

 

 三人のうち二人がさむい漫才を始めた際に残りの一人がその場を治めるのが何時ものパターンだ。

 

 

「うっ……、しゃ〜ないとっとと運んじまおうぜ」

「お前が言うか……優斗」

 

 

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 荷解き前と逆の立ち位置になりながらも要約真面目に運ぶことにしたのか、二人は腕まくりをし気合を入れ本棚を持ち上げた。

 

 

 

 

 真面目に荷解きを開始して、はや四、五十分経ったであろうか?

 荷物の少ない男の一人暮らし、それもワンルーム、家具の位置にやや時間はかかったがある程度は区切りはつく。

 

 

「だいぶ運んだな、後ちっとだぁ――」

「ばっ、お前その上に雑に置くなよ!」

 

 

 優斗が運んできた段ボール箱やや雑にのせた。

 すると武弥は急に目くじらを立て始めた。

 

 

「――あん、なんだぁ?」

「…………。」

 

 

 優斗はなぜ武弥に注意されたのか分からなかったが、彼の指差すモノを見て合点が入った。

 

 

「あぁ、わりぃ……」

 

 

 優斗はバツが悪そうにガシガシと頭を掻いた。

 

 武弥が指さす場所には先程優斗が乱雑に置いた箱の下――そこには明らかに太いマーカーで書かれた大切なモノと琴音の丸文字書かれた他のもとは色の違う段ボール箱。

 

 

「まぁ……ね、一応デリケートなものだからさ……。」

 

 

 そう言うと何故か武弥も少し気恥ずかしそうに頭を掻いた。

 武弥は気をとりなおして、残りの荷物を運ぼうとドアを開けると――

 

 

「はにゃっ!?」

「ぬわっ!?」

「うぅ〜〜イッタ〜イ……。なんで、そんな所にいるのよぅ〜!?」

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 ぶつかって尻餅をついた琴音は涙目なりながらも武弥と優斗に抗議していた。

 

 

「あ、ごめん琴音……いやなんでもないんだ」

 

「あぁなんでもないんだ。

 さてとっとと終わらせちまおうぜ?」

 

 

 二人はバツが悪そうに琴音の抗議を聞きいれていた。

 

 

 

 気がつけば、まだきちんと整理されてはいないが、クローゼットには衣服を入れるための空の収納ボックスや冬用の毛布類は取り敢えず入った。

 

 また、ベットや本棚も運び終わり、まだ手付かずの箱があるが荷解き開始時に比べれば、人の匂いのする部屋になってきている。

 

 現に大方の荷物を運び終え、残すは日用品などのこまかい物のみとなっている。

 

 

「そういえば、美雪ちゃんが差し入れ持ってきてくれるのってあと少しだよな」

 

 

 俺と琴音が細かい作業をしている中、優斗はベットに腰掛け一息つくと時計を確認した。

 

 

「ホントだ!! 

 10時半ごろって言ってたから、後30分もないね……」

 

 

 優斗の声に釣られ時計を覗いた。

 美雪というのは武弥のバイト先であるイタリアン喫茶『クラシコ』のオーナーの愛娘で、本名『朝岡美雪』高校三年生。

 

 美雪の評判はとても高く大学にまでも広がっており、評判を聞いた優斗に連れられクラシコに行ったのが、そもそも武弥がバイトする切掛けになったのだ。

 

 その美雪がなぜわざわざアパートに来るのかというと……。

 桜木公園に隣接した所にクラシコが建てられており、アパートから目と鼻の先で、そして何より紹介してくれたバイト先の人というのが美雪ちゃんだからだ。

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 どうやら紹介者である美雪ちゃんとしては、引越し初日に挨拶に行きたいという思いが強く、今日早速来ることになっているのだ。

 

 

「美雪ちゃんはホント可愛いくて、良い子だよね!!」

「琴音の場合世界中の女の子が可愛くて良い子になっちゃうけどな。」

「う〜、そんなことないよーだ!!」

 

 

 

 手を安め思い出すように両手を合わせ自分の世界へと入っていく琴音だったが、武弥に馬鹿にされているのだと思い、フンッとそっぽを向く。

 

 

「じゃー聞くが、ウチの妹はどうだ?」

 

 

 只武弥にしてみれば、事実大抵の女の子に対し琴音は「可愛くて、良い子」だと言う為、面白半分で実の妹を引き合いに上げることにした。

 

 

「え〜!! 

 それこそ可愛くて良い子じゃない」

 

「どこがだよ!?」

 

 

 

 何故ならば俺にとって妹、羽賀愛(まな)はもう高校生だというのに幼く考え無しで突拍子の無い行動をとる。

 

そのせいで主に俺自身にツケが回ってくるいわばトラブルの元凶そのものなのだ。

とてもではないが可愛い娘、更には良い娘だとは思えるわけがない。

 

 

「はいはい、痴話喧嘩は後にしろ〜〜」

「「なっっ!!」」

 

 

可愛い、可愛くないで火花を散らす俺と琴音の間を割って入る優斗。

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「それにタケ! 

 マナちゃんはあの小さく愛らしい顔立ち。

 そしてその期待を裏切らない無邪気な性格……あれは国宝級だぞ!?」

 

 

 鼻を膨らませながら自慢げに語る優斗。

 どんな目で親友の妹を見ているんだコイツは?

 

 俺はある意味感心しながら、しかし吐き捨てる様に……。

 

 

「ただガキなだけだろ。」

 

 

 と、可愛いと思う優斗が信じられないと言わんばかりに呆れたように言葉を返す。

 

 

「ホントは可愛いと思ってるくせに〜!」

「「ね〜〜っ」」

 

 

 しかし優斗は俺の反応を照れているだけだと判断したらしく、琴音に同意を求める。

 それに答え優斗と声をあわせる。

 

 

「いや思ってないから!」

 

 

 どうしたらそういう捉え方になるのやら……。

 

 

 

「さらに自分を顧みず人に手を差し伸べる優しさ、ホント良い子だ〜」

 

 

 

 俺が突っ込むのもむなしく一人の世界へと束だった様子の優斗。

 

 

「おかげでこっちまで迷惑を被るんだけどな。」

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 否定するのもバカらしくなり、半ばあきらめたように言葉を返す。

 

 

「そこは誰かさんとそっくりだもんね〜」

 俺と愛が似ていると言わんばかりの琴音。

 

「一緒にしないで頂けます!?」

 

 

 内心この話に関してはもうどうでもよくなってきていた物の、愛と一緒だと思われるのは迷惑極まりない。

 

 

「そういうなって、

 彼氏がいなければ俺がお付き合いしたいくらいなんだぞ。

 義兄さんと呼ばせろ!!」

 

 

 旅だった世界から無事帰還した優斗が間に入る。

 確かに妹には幼馴染の彼氏がいるが……。

 そしてドサクサに紛れて何言ってやがる。

 

 

「次義兄さんといったら沈めるよ。」

 

 

 どうやら次は片道切符での世界旅行が御希望の様だ。

 

 

「はい、はい、それは今後考えてもらうにして……話は変わるが……」

 

「変わるのかよ!

 ってか考えるつもりもないけどな」

 

 

 俺の突っ込みを「何時もの事」として完全にスル―しようとする優斗。

 

 

「荷解き初めて結構経つが誰も出てこないな……」

 

 

 唐突に話を変えながら開いたドアの先へと視線を移す。 

 

「言われてみればまだ誰とも会って無いな……?」

 

 

 優斗に言われるまでは気にもしていなかったがまだ一度も日下部さん以外のアパートの住人に会っていない。

 

 

後半へ続く……

 

 

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