刻印 〜キズ〜 (聖霊機ライブレード) |
★刻印 〜キズ〜 ★
その日、リーボーフェンに乗り込んで来たジグリムの二人の軍人は、フォレスとリーモンドと名
乗った。自分たちの大将グロウスター元帥はリーボーフェンと戦う意志はないと伝えるためにやっ
て来たと----------------。
リーモンドはどこか飄々としていて憎めなかった。上官のフォレスが好きなことは見ていてすぐ
にわかった。ミヤスコはそんな二人を微笑ましく見守っていた。
「ジグリムの奴らなんか信用できるか」
フェインが苦々しく言い放つ。
「でも、あのお二人は曇りのない目をしていましたよ」
ミヤスコは遠慮がちに口を開いた。
「信用、できると思うんですけど」
「う・・・ミヤスコさんがそう言うのなら、まぁ・・・」
フェインはバツが悪そうに顔を逸らした。
信用できる--------と言うのとは少し違った。ミヤスコは心の中で呟いた。
(信用したいだけなのかも・・・・・・)
自分はある時期、人を信じられずにどうしようもない孤独と闘っていた事があったから。
通路の片隅で壁に寄りかかるようにしてゼェゼェ荒い息を吐いているリーモンドを見つけて、通
りかかったミヤスコは慌てて駆け寄った。
「リーモンドさん、どうしたんですか?」
額を伝う脂汗に尋常でない事を知る。
「早く医務室へ・・・」
肩を貸して歩かせようとしたミヤスコをリーモンドは手で制した。
「だい・・・じょうぶ、だ。構わないで・・・くれ」
「そんな・・・・・・・これのどこが大丈夫なんですか? 顔が真っ青ですよ」
「く・・・いつもの、発作だから」
喉を掻き毟るように伸ばした手先が震えている。苦しい呼吸の下、取り出した錠剤を見咎めてミ
ヤスコは声を失くした。永遠に抹消してしまいたい忌まわしい記憶が甦ってくる。
(この人も・・・あの地獄を・・・・・・)
尋常でない量の錠剤を飲み下したリーモンドを支えながらミヤスコは医務室へと歩き出した。
「少し休んでいたほうがいいです」
リーモンドは今度はおとなしく従った。ありがとう、と小さく呟いて。
ガボンの姿は医務室にはなかった。ベッドを整え、リーモンドを座らせる。
「あの人には・・・フォレス隊長には黙っててくれないか」
大分落ち着いたリーモンドはうなだれたまま低く呟いた。
「すごい心配性なんでね」
そう言って苦笑する。
「フォレス中佐を愛してらっしゃるんですね」
ミヤスコの静かな問いかけにリーモンドは喉の奥でくっと笑うと、深いため息をついた。
「笑っちまうだろ? 薬漬けの冴えない男が------」
やがて自嘲気味に笑い出したリーモンドを小さいが凛とした声が遮った。
「おかしくなんかありませんわ。だって・・・・・・・」
ミヤスコはそう言うと驚いて顔を上げたリーモンドに背を向けると、震える手でひとつに結んだ
髪を掻き上げた。
「 ! 」
露になった項にリーモンドの目が釘付けになる。白い項に痛々しく刻まれたその痕は、悪魔のプ
ロジェクト"コード3"の哀しき犠牲者の証しだった。
「あなたにはそばにいて支えてくれる女(ひと)がいるんですもの。だから・・・」
「もういい。わかった・・・わかったから」
リーモンドにはミヤスコの刻印(キズ)を直視する事ができなかった。男の自分でさえ血を吐くよ
うな苦しみとおぞましい記憶を甦らせるその刻印を、女であるミヤスコも背負って来たのかと思う
とどうにもやり切れなかった。
「もう少し休んでいて下さい」
髪を下ろしたミヤスコがゆっくりと振り向いた。
「私はブリッジで少し仕事がありますから戻りますね」
「待ってくれ」
出て行こうとしたミヤスコにリーモンドが慌てて声をかける。振り向くミヤスコ。
「 ? 」
「まだ名前も聞いてなかったな」
「ミヤスコ、です」
随分顔色が良くなったリーモンドにミヤスコはこぼれるような笑みを返すのだった。
〜終わり〜
説明 | ||
聖霊機ライブレード同人誌『Natural Enemy』に収録した、ミヤスコとリーモンドの話です♪ | ||
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ウインキーソフト 聖霊機ライブレード ミヤスコ コード3 | ||
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