真・恋姫†無双〜愛雛恋華伝〜 27:【漢朝回天】 軍閥勢、上洛す |
◆真・恋姫†無双〜愛雛恋華伝〜
27:【漢朝回天】 軍閥勢、上洛す
この時期、大陸全土あらゆる場所で黄巾賊が蜂起していた。
悪政を行う領主に対して反旗を翻す。始まりは、そんな純粋なものだったのかもしれない。
しかし今この大陸を脅かしている黄巾賊のほとんどは、勢いに便乗し、己の欲求を満たさんがために黄色い布を巻いているだけである。
事実、黄巾勢力を立ち上げたとされる張角、及び張宝や張梁らの名前は聞かれなくなっている。賈駆や鳳灯、公孫?、曹操など。それぞれが独自に細作を放ち、方々から情報を掻き集めてさえそうなのだ。黄巾賊を捕縛し尋問をしても、居場所を知らないならまだしも、その名前を初めて知ったという輩が出てくる始末である。
結果、独自に調べを進めていた軍閥たちは、張角らはすでに死んでいると判断する。少なくとも、今の黄巾賊に係わってはいない、と。
曹操をはじめとした軍閥らは、主格の生存確認よりも、黄巾賊の勢力減退に力を入れるようになった。思想的な繋がりが見られない以上、もはやただの匪賊でしかない。投降は認めるものの、民に害為すと判断すればただひたすらに鎮圧し討伐していくのみである。
黄巾賊が暴れまわると、その地を治める領主は朝廷に泣きつく。
普段からなにかと賄賂を贈っているのだ、なんとかしてくれ、と。
もちろん、放っておくことは出来ない。朝廷は軍勢を派遣するが、その数が多くなればこなしきれなくなる。更にいえば、かつて張遼が嘆いていた通り、朝廷軍の質がよろしくないのだ。鎮圧に赴いて逆に全滅したといった事態も少なからず発生している。
結局、朝廷側は「各地の軍閥を頼れ」と返事を返すようになった。
それがまた各軍閥の勢いを増す原因となるのだが、ここではひとまず置いておく。
そんな嘆願の数が増えるほど、朝廷内部にもまた動揺が生まれる。
司州、更には洛陽にあっても、賊の猛威に晒されてしまう。
これはまことによろしくない、と、朝廷の高官たちは危惧を深めた。
だが、これはなにも朝廷の権威どうこうという問題ではなく。単純に、自分たちの身にまで危険が及ぶのではないか、という、自己保身からのものでしかなかった。
必要と感じたときに権力を振るう。でなければなんのための権力か。
漢王朝の軍部を司る地位・大将軍に位置する何進は、自分の持つ権力を躊躇いなく振るった。
まず、彼は名家として名の知られる袁家、袁紹と袁術のふたりを引き入れる。名家ゆえの、名声、財力、兵力といった素地まで含め、己の属官として召抱えようとしたのである。新たな地位と権力という餌でもって釣り上げようとした。
見方によっては、名家の威光を金で靡かせようとしているように見える。だが袁家のふたりにしてみても、何進のしめした権力と地位は魅力的に映った。結局、袁紹と袁術らは揃ってその呼び掛けに応じ上洛する。
次いで彼は、北夷を押さえるほどの軍事力を持つ、涼州の董卓に目をつける。
建前としては、これまでの黄巾討伐に対する恩賞を与えるということで、董卓を呼び寄せた。そして、何進はそのまま、司州である河東の太守という地位、そして朝廷のある洛陽を守護するという誉れ等、いくらかの餌を用意した上で召し抱えたのだ。
事実上、有無をいわせぬ上意である。ただ涼州の一地方を治めていただけの彼女が、朝廷の大将軍に歯向かうことなど出来るわけがなく。董卓は、内心はともかく、恭しく河東太守の任を拝命した。
彼女は、河東をまとめ軍備を整えつつ、いずれ何進直下の朝廷軍の一角として従うように命じられた。有事の際には、有するその力をもって洛陽を守るように、と。
このように何進は、袁紹、袁術、董卓といった軍閥を手元に引き入れ。西園八校尉の地位を与えた上で、己の後ろ盾とした。軍部の最高責任者という立場を大いに活用し、皇帝直属の軍の長という地位でさえ、自己保身のために私物化してみせたのである。
さて。
何進が軍事力を強化している一方で、それを危険視している者たちもいる。
朝廷権力のもう一端を担う宦官の長ともいうべき、十常侍と呼ばれる面々だ。
表向きは、洛陽を守る戦力の強化に勤しんでいるという何進の言葉。だがもちろんそれを真に受けるわけがない。
では我々も洛陽を守る者を募りましょう、と。十常侍は独自に軍閥を招き後ろ盾を得ようと考える。
そこで挙げられたのが、曹操だ。
彼女の祖父・曹騰が、かつて宦官の最高位である大長秋を務めていたことから選ばれた。宦官特有といってもいい、近しさゆえの皇帝への直言や、裏から行われた牽制なども功を奏し。曹操もまた、西園八校尉の一角に強引に捻じ込まれる。
これに対して、大将軍である何進はもちろん反発したが。形としては皇帝から直々に地位を与えられたということになっており、さすがにこれを撤回させることは出来ず。朝廷軍の一角である以上は大将軍に従うべし、という原則を含ませるに留まった。
ちなみに。
西園八校尉という地位は、簡単にいえば、「西園軍」と呼ばれる皇帝直属の軍の長に当たる。この西園軍が、洛陽の四方の門の警護を一手に引き受けるのだ。まさに洛陽の守護を司る、重要な地位だといえる。
とはいえ。世が荒れているとはいっても、大陸を統べる朝廷のある地なのだ。どれだけの匪賊が押し寄せたとしても、洛陽はそう簡単に落とされるような街ではない。それだけの軍勢を集中させる必要があるのかと問われれば、首を傾げる者もあろう。
事実、何進は、自分の身を守る背景たる軍事力を集めるがためだけに、西園八校尉という地位を利用したに過ぎなかった。
何進はもちろん、十常侍も、そして西園八校尉に任ぜられた四人でさえも、それは重々承知している。
それを受け入れているかどうかまでは、各々の胸の内にある以上うかがい知ることは出来ないけれども。
「本当に、忌々しいわね」
「まぁそういってくれるな」
不機嫌さを隠すでもなく、悪態を吐く。
常々、宦官の言動を嫌う様を隠さない彼女である。その宦官によってもたらされた現状が気に入らないのだろう。不満を隠そうともせず、目の前に座る男性に向けて言葉をぶつける。
そんな様子を目の当たりにして、その男性は、彼女の荒々しい態度を気にもせずに宥めていた。
ここは洛陽の王城内にある、十常侍に数えられる宦官が執務に励む一室。
そこでふたりは椅子に座り向かい合っている。
片や、年若い少女ともいって差し支えない風貌を持つ女性。
片や、その父親といわれても不思議ではない年齢の男性。
女性の名は、曹操。
男性の方は、この部屋の主である張譲である。
「だいたい、私が宦官を嫌っていることは貴方もよく知っているでしょう?
お爺様が大長秋だったからといって、私まで宦官に与するなんて、本気で思っているの?」
「私はそんなことを思っちゃいないよ。もっとも、他の十常侍は皆そう思っているようだが」
ゆったりとした声で、お茶を啜りながら。まるで他人事のようにいってのける張譲。
度し難い馬鹿ね、と、曹操は曹操で呆れてみせた。
宦官を嫌うことに関しては自他共に認める曹操。そんな彼女が、宦官の長たる張譲と席を同じくしている。
何故か。
ふたりの接点は、曹操の祖父・曹騰にある。
かつて曹騰が、宦官の長・大長秋として務めていた際、張譲は部下として従っていた。
そのおかげで、ふたりは面識があった、
当時の宦官の中では、張譲は賄賂などで汚れようとしなかった。そんな彼を曹騰が気に入り、目をかけられるようになり、張譲は曹騰や曹嵩といった宦官の大勢力と知己を得ることとなる。そして両名の薫陶を受けながら、宦官として出世を着々と重ねていき。現在では十常侍まで、その中でも最たる地位につくまでになった。
曹騰に曹嵩、そして張譲。
彼らがその地位をもって成そうとしたのは、霊帝を頂点とした漢王朝の安定。
ただそれだけである。
王朝の安定、そして権威の高潮。それによって民の生活を保護し、一定の税収を確実なものにする。
そうすることで王朝の在り方はより安定し、権威は更に高まっていく。
つまり、「正統な権力による、人民にとっての善政」を目指していたのだ。
しかし、人の心というものは易きに流れやすく。己を律し続けるよりも、欲望に忠実であることの方が容易い。
遠くの大きな理想よりも、目の前にある小さな利に。多くの官吏たちが目を奪われ、足を取られ、やがてその身を蝕まれていく。
ここ洛陽は殊にそれが顕著であった。私利私欲と感情による専横がまかり通り、もし汚職が発覚しても賄賂ですべてが解決してしまう。そんな蛮行が、幾多となく繰り返されて来た。曹騰らの奮闘が空しくなってくるほどに。
その最たる例は、賄賂によって後宮入りし、皇后にまで上り詰めた何皇后の存在だ。
義兄である何進を大将軍にまで引き上げ、子を生したことに嫉妬し霊帝の寵妃を毒殺するなど。何皇后は、朝廷や後宮の和を乱し続けている。宦官と軍部による対立が顕著になったのも、彼女の台頭によるものといっていいだろう。
度重なり起こる問題の数々に晒されて、曹騰が去り、曹嵩が去り、数少ない良心ともいうべき人材はことごとく朝廷を去っていった。
曹騰らが朝廷を去ると同時に、他の宦官たちの腐敗はさらに勢いを増し、酷いものになっていった。それは宦官に収まることはなく、末端の文官や、軍部の将兵にまで広がって行く。まるでなにかの枷が外れたかのように。
ひとり残されたような形の張譲は、大長秋が不在の宦官勢力において、確かに、最大の力を持つ人物となっていた。その力をもってして、朝廷内の澱みをなんとか改善しようと尽力を続けていた。だが彼に味方する者は現れぬまま。大多数の声という大きな波に、実質上の権力者たる彼の声は攫われてしまった。すでに、彼の声は響かなくなっている。
朝廷の内部に喝を入れる、劇薬の如きものが必要だ。
そんなことを考えていた矢先に、何進による軍閥召集の騒ぎが起こった。
これは却って好機と判断した張譲。反発しつつも具体的な行動を起こせない他の十常侍を他所に、"宦官に縁のある軍閥"として、曹操を西園八校尉の一角に無理矢理捻じ込んだ。表向きは、宦官の後ろを守る軍閥として。
その実、事あらば宦官たちを薙ぎ払うことを期待して。
「飴と鞭、というだろう。どうやら私の振るう鞭は、彼らには温いようなのだよ」
しょせん、宦官が思いつく程度の鞭では効き目がない。
ならば軍閥の手による、容赦のない制裁が必要になると張譲は考え。
「それで、私を?」
「そうだ。曹孟徳、君に、鞭役を担って欲しい」
彼は、乱世の奸雄とまで称される彼女を呼び寄せたのだ。
「この私を使おうとするだけじゃなく、承諾さえ取ろうとせずに事後報告とはね。開いた口が塞がらないわ」
「なに、朝廷が地位を与えるときなど、報告が事後になるなど当たり前のことさ」
呆れた曹操の声に、張譲はさも愉快そうにいう。
だが笑みを浮かべるその表情は、苦悶と憔悴によって刻まれた深いシワに覆われていた。
曹操と並んでみれば、父親と子ほどに離れた年齢差が実際にある。だが傍目には、祖父と孫ほどの差があると見られかねないほどだ。彼の外見は、実年齢よりも遥かに上に見える。
内心、相当まいっているのだろう、と、曹操は彼の心情を察することが出来た。
胸の内で思いはしても、それを口にするようなことはしない。張譲はそれを望まないだろうし、曹操もまた小娘の労わりがなんになろうかと考えている。ゆえに、交わす会話は普段と同じようなものになっていた。
言葉の上では、曹操の方がやや後方に退いている印象はある。だが実際には、彼女は張譲に対して上司とも年上とも思わない遠慮のなさを見せている。祖父を間に挟んだ旧知ということもあり、公的な場でならともかく、いまさらこの男に遠慮など必要なものか、という気持ちがある。
彼女は宦官を嫌っている。だが正確にいうならば、権力を笠に着る無能が嫌いなのであって、それが宦官の中に蔓延っているから毛嫌いしているに過ぎない。そんな中で、張譲は数少ない例外というべき人物であった。真名こそ交わしていないが、彼女の知る男性の中では評価の高い人物であるといっていい。
朝廷の中で渡り合うためには清廉潔白でい続けることは出来ない。
彼とて、叩けばそれなりに埃の出てくる人間である。
それでも、向かうべき先は、漢王朝の安定と人民の平穏。そのことに偽りは一切なく。
なにより、曹騰の目指したものを未だに胸にし、実現に向けて足掻き続けている。
そのことに関して、曹操は好感を抱いていた。
朝廷の、そして権力や人民に対する考え方の齟齬が、他の宦官たちとの格差を露にする。
ゆえに、張譲は宦官勢力の重心人物であるにも係わらず、多くの宦官、ことに十常侍の面々から疎まれていた。
もっとも、彼とてそんなことは重々承知しており。分かった上で彼は、未だに宦官の長たる地位に座り続けているのだ。
「これまで、私は飴を与えすぎていたようだ。曹騰殿に比べてどうも侮られている。恥ずかしい限りだよ」
「その程度でも、宦官たちはあれこれ文句をいうのでしょう?
お爺様の目が離れたとはいえ、質が落ちたものね」
「返す言葉もない。次を担う者たちには、こんなことがないよう願うよ」
張譲は、それこそ一気に宦官の首を挿げ替えるくらいのことを考えている。
少なくとも、曹操はそう見て取った。
そして、曹操らのような若い者たちに譲り渡そうとしている。その後の後始末までが、自分のすべき仕事だと。
「貴方たちの残した面倒まで見るのは御免だけどね」
「自分たちの尻拭いくらいはさせるさ」
「そう願いたいわね」
「しかし、害ばかりではなく利もあると判断したからこそ、文句をいいつつも中央へとやってきたのだろう?」
確かにその通り。朝廷の挙動をつぶさに知り、いざというときにすぐさま動くために、悪態を吐きながらも自ら中央へと乗り込んだのだ。呼ばれたのが宦官側、というのは、曹操にしてみれば本当に気に入らないけれども。
曹操は溜め息を吐く。
中央に身を寄せてからというもの、気に食わないことばかりで眉間にシワが寄り続けている。
張譲はともかく、他の宦官たちは曹操の背中の向こうに曹騰を見ているのが分かる。しょせん小娘になにが出来るという視線に晒され続け、毎日必死に自制を働かせているのだ。目の前の張譲に対してかなり素の部分が出てしまっているのも、相手が顔見知りだという緩みもあっただろう。
此処でなければ得られないものが多々あることは理解している。しかしそれらを投げ出して、さっさと陳留に帰りたいと思うことも一度や二度ではなかった。こんな場所で毎日のように権謀に明け暮れていたのだから、祖父・曹騰や、父・曹嵩の豪胆さには感嘆せざるを得ない。
それは目の前にいる張譲についてもいえるだろう。心労のほどは、年齢を伺えないその表情に表れている。もちろん悪い意味で。
自分の才に自信をもってはいるものの、経験のなさは如何ともし難い。
曹操の中に沸き起こる、苛立ちや負の感情。それらを抑えるのもの一苦労だ。
「……なにか美味しいものが食べたいわ」
鬱々とした気分を晴らしたい。
それなら美味しいものを食べるのが一番だ。そんなことをいっていたのは、ふとした縁で知った料理人。
なるほど、確かにそうかもしれない、と、曹操は思う。
弱音ではないが、愚痴にも近いものをこぼしてしまう辺り。彼女もまた慣れぬ境遇に参っているのだろう。
ゆえに。簡単に気を晴らす手段として、彼女は食事を連想した。
「少し前に、幽州に出向いたのよ。新しく州牧になった身として、善政を敷くという噂の遼西に視察に行ったの。
そこで、なかなかの酒家を見つけてね。珍しいものをいろいろと食べさせてもらったわ」
「ほう。君がそこまで褒めるとは、かなりのものだね」
引退したら、一度行ってみるといいわよ。曹操は軽い口調で勧めてみせる。
さりげない口コミ。これがすなわち評判の基となる。
ましてや口にするのは、かの曹孟徳。鉄板といってもいいだろう。
彼女がなにかを褒める基準の高さを知る者として、張譲はそれを記憶に留めておくことにした。
後に、乱世の奸雄そして宦官の長さえ動かした料理人、と、北郷一刀の名がごく一部の者の記憶に残されることになるのだが。思い切り余談であるので。これ以上は触れない。
「幽州といえば」
張譲は話を変えてみせる。
「何進が抱えている軍閥の、董卓だが。彼女のところに、幽州からの客人が身を寄せているらしいぞ」
「へぇ。張譲殿の耳に入るということは、それなりの人物なのかしら?」
「君と同じように、董卓の軍師が遼西を視察に行ったらしい。その後に内政官を引っ張って来たそうだ。
河東を任されて、そこをまとめるための相談役みたいなものが欲しかったのだろう。
実際、河東の治世はなかなかに評判がいいらしい」
若い者が実績を残しているのはいいことだ。
その腕を遺憾なく発揮できる環境があるというのはもっといいことだ。
なにより、年をとった者がそれを妬まず受け入れることが出来る、これはとてもいいことだ。
張譲もまた、少しばかり気を抜くことの出来る者を前にして気が緩んだのかもしれない。
気がつけば、余裕を持っていた語り口がガラリと崩れ。悪い意味で年齢相応な愚痴っぽい口調に様変わりする。
曹操にしても、そんなオヤジの愚痴に耳を傾ける義理などさらさらなく。
適当に相槌を打ちながらも話を流してみせ、自分の考えに耽っていく。
曹操は考える。
出向くほどの、幽州の内政官。というと。鳳灯だろうか。
なんのために? 公孫?が中央に出向くための足がかりか?
いや、見た限りでは出世願望はさほど強くなかった。
権力よりも地元の平穏を望んでいるように見えたから考えづらい。
仮に鳳灯ならば、なにか考えがあるのだろう。ただの親切心だけで、わざわざ他地方に出向くとは思えない。
共に過ごしたのはわずかな期間ではあったが、曹操は、彼女の内面をそれなりに把握したつもりであった。
董卓について上洛してくるならば、ここで顔を合わせることもあるだろう。
河東に在住しているならば、洛陽からもそう遠くない場所だ。会う機会も少しくらいはあるかもしれない。
幽州を離れることが出来るなら、自分のところにも来てくれないかしら。
有能な才を好む曹操は、張譲の独り語りを聞き流しつつ、そんなことを考えていた。
何進の求めに応じて、とうとう、董卓たち涼州勢も上洛することになった。
なぜ董卓を呼び寄せたのか。
その理由が極めて利己的なものだという事実に、賈駆は怒りを抑えることが出来ずにいる。
「理由こそもっともらしくしているけれど、何進はボクたちを使い潰すつもりに決まってる。
大事にしようなんて思わない。使いこなそうなんてこれっぽっちも思ってない」
そして、何進はそれを当然だと思っている。
大将軍という地位の高さが、目の下に立つ者の姿を霞んで見せているのだ。
兵というものを"数"でしか捉えていない、ともいえる。1000人の兵が、戦を経て500人になったとしても、何進にとって、それは500人が死んだのではなく兵力が500減ったということにしか過ぎない。
「そんな、月を使い捨てになんてさせない」
利己的という点のみをいうならば、賈駆とて似たようなところはある。
彼女の場合は、董卓だ。
親友である董卓が微笑んでくれるのならば、なんでもやってみせる。親友が悲しむようなことがあれば、全力でもって排除する。
賈駆にとっては、なによりも"月"が一番。
極論をいえば、親友さえ無事であるなら、他の誰がどうなろうと構いはしない。
彼女が平穏な日々を望むのならば、すべてを捨てて朝廷などから逃げおおせてみせる。
彼女が民の生活に心を痛めるのならば、民の生活を少しでもよくしてみせよう。
もしも彼女が。
もしも、権力を求めるのなら。智謀のすべてをかけて、手に入れてみせる。
相手が大将軍だろうと、自分は逆らってみせる。そのくらいの覚悟が、賈駆の中にはある。
しかし。
董卓はそんなことを望みはしないだろう。
ただ愚直に。自分の目が届く人たちが、笑って暮らしていけるのならば。それで満足出来るに違いない。
誰もが望むであろう、簡単なこと。
同時に、あまりに忘れやすく、為すには難しいこと。
そんな想いを、董卓は常に抱き続け、どうすればいいのか日々悩み続けている。
董卓がそれを望むのならば、賈駆もまた、民の平穏を第一に考えるだけだ。
涼州、河東。そして今度は洛陽である。漢王朝の核ともいうべき場所に赴くことになる。
ならば。
親友の想いを叶えるために、中枢から変えてやろう。
これから乗り込むところは、権謀術数の飛び交う場所。一筋縄ではいかないだろう。
幸いというべきか。賈駆は、鳳灯という仲間を得た。
彼女の目的もまた、董卓が目指すものと違いはない。
なにより。親友のことを第一とする賈駆の心情を理解してくれる。
鳳灯に対して、賈駆は大きな信頼を寄せるようになっていた。
心強い友を得て。
賈駆はその思考の深さと幅を更に広げつつ、洛陽に向かい立つ
親友の身を守り、そして彼女の愛するものを守らんがために。すべてを注ぎ込む覚悟をもって。
・あとがき
こんな風にグダグダ書く方が性に合っているような気がするな。
槇村です。御機嫌如何。
はい。今回から朝廷内でのあれこれ、「洛陽炎上」編となります。
さっそく新キャラ登場。張譲さんです。真名は考えていません。
多分名乗らないからなくてもいいでしょ。(え?)
張譲というと、なんだか悪者で雑魚っていう扱いが多いような気がします。
ウチの張譲さんは、そこから外してみた。というか書いているうちにそうなっちゃっただけなんだけど。
この先に進むのならば俺の屍を超えていけ、みたいな人にしたいと思っている。
このままだと軍師サイドな人たちばかりになりそうですが、追々武将サイドな人たちも絡めていくつもりです。
この時期の原作キャラとしては、麗羽さんの扱いはある程度もう決まっているのですが。
美羽さんはどうしようかなぁ。まだ決まっていない。
同時に、呉の面子をどう扱うか。いくつか妄想はしているのですが、煮詰まっていません。
まぁ、書いているうちにピースが嵌っていくでしょう。うん。
説明 | ||
前回比、二倍強。 槇村です。御機嫌如何。 これは『真・恋姫無双』の二次創作小説(SS)です。 『萌将伝』に関連する4人をフィーチャーしたお話。 簡単にいうと、愛紗・雛里・恋・華雄の四人が外史に跳ばされてさぁ大変、というストーリー。 ちなみに作中の彼女たちは偽名を使って世を忍んでいます。漢字の間違いじゃないのでよろしく。(七話参照のこと) 感想・ご意見及びご批評などありましたら大歓迎。ばしばし書き込んでいただけると槇村が喜びます。 少しでも楽しんでいただければコレ幸い。 また「Arcadia」にも同内容のものを投稿しております。 それではどうぞ。 |
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ZEROさま>麗羽さんはともかく、美羽さんがまだ決まりません。むー。(makimura) O-kawaさま>あれですよ、後半仲間になる中ボスみたいな感じ(笑)(makimura) namenekoさま>渋く書けるだろうか。頑張ります。(makimura) ロンロンさま>ご指摘ありがとうございます。 そうなんですよね。なんでみんな何進なんだろう。(makimura) クラスターさま>恋姫に関しては、朝廷内のあれこれを書いている方が少ないような気がします。私がいうのもなんですけど、むっちゃ捏造しなきゃいけませんしねぇ。(makimura) よーぜふさま>張譲さん、まだイメージが掴みきれていませんが。なんとかいい感じに動かしていきたいと思っております。(makimura) 槇村です。御機嫌如何。書き込みありがとうございます。(makimura) 麗羽や美羽がどんな扱いになるか楽しみです。(ZERO&ファルサ) 張譲さん大抵小物かラスボスだからこれは期待(O-kawa) 渋い人はけっこう好きっすよ(VVV計画の被験者) 誤字?報告2ページ 「なんいなろう」ではなく「何になろう」では? 自分も恋姫の二次創作は結構読んできましたが、張譲が小物で悪党じゃないっていうのは初めて見ました。何進が現状の漢を憂いている人間というのは何度かありますが。けどこれはこれでおもしろい。(龍々) …張譲が悪人ではない作品って、恋姫どころか演義関連全般の二次創作を見渡しても、相当稀有な部類に入るのでは…?(クラスター・ジャドウ) おう?あとがきにもありますがこれが張譲さん? なんか・・・渋い、なんかこゆ人好きかもです・・・(よーぜふ) |
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