真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 幕間・その四
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 (まるで人形のようだな)

 

 その少女を初めて見たとき、彼−一刀はまず率直にそう思った。

 

 鮮やかなその銀髪とは正反対に、氷の彫像のような無表情なその顔。年齢は十七歳だと聞いているが、とてもそうは思えない、その大人びた顔。それでいて、十歳前後の童のように見えるその容姿。

 

 その瞳はどこかうつろで、まるで生気というものを感じさせていない。

 

 「…………」

 

 ただ、その瞳の奥には、何か強いものが宿っている。それが何なのかはわからないが、少女にはまだ、生きていく”意志”があることだけは、一刀にも理解することができた。

 

 「……それで、輝里?彼女、何か話したかい?」

 

 「……いえ。けど、無理もないと思います。……目の前で一家を、あんな、惨たらしい”殺され方”をされては」

 

 「……だな」

 

 

 それは、この三日ほど前。

 

 ?の街から少し離れた小さな町を、黄巾賊が襲撃したとの報せを受けた一刀たちは、すぐにその討伐に向かい、賊を見事に壊滅させた。だが、被害を完全に抑えることは出来ず、町の者たちに少なからぬ被害が出てしまった。

 

 その被害者の中に、件の少女がいた。

 

 おそらくは、少女の親兄妹であろう、すでに事切れた者たちに守られるようにして、少女はそこにいた。……感情というものが、すべて抜け落ちたかのような、うつろな表情で。

 

 一刀たちはその少女を、自分たちで引き取ることにした。

 

 町の者たちに話しを聞いたところ、少女の身寄りは、殺された家族ですべてとのことだった。天涯孤独になったその少女を、一刀たちは見捨てることがどうしても出来なかった。――自分たちと、”同じ境遇”になってしまった、その少女を。

 

 そうして三日が経ち、軽症ですんでいたその少女が、徐庶に連れられて病院を退院し、一刀の下へとやって来たのである。

 

 

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 「体のほうは、もう何の心配もないそうや。あとは、心の問題やて、お医者はんは言うとったで。……せめて、名前ぐらい教えてほしかったんやけど、何を聞いても何の反応もないから、医者も困っとったわ」

 

 「……そっか」

 

 姜維の台詞に頷くと、一刀は徐庶のその手を強く握り締めている、少女のその傍に歩み寄る。

 

 「……」

 

 少女の前に屈み、その、色を失った瞳をじっと見据える。そして、その眼前に握った拳をかざす。

 

 「……?」

 

 それにわずかに反応する少女。そして、一刀がその手をパッ、と開くと。

 

 ぐるっぽー。

 

 「!!」

 

 どこから取り出したのか、一羽の鳩が、一刀の手の上で鳴いた。

 

 「……驚いたかい?ああ、妖術なんかじゃないよ。ちゃんとタネのある手品さ。……名前、聞いてもいいかい?俺は北郷一刀。……君は?」

 

 少女に優しく微笑む一刀。すると、その微笑を見た少女は、その頬をほんのりと紅くし、小さくつぶやいた。

 

 「……い」

 

 「ん?」

 

 「……姓は、司馬。……名は、懿。……字は、仲達……」

 

 「…………へ?」

 

 その、まったく予想だにしていなかった名に、一刀の頭は完全に、その思考を停止させていた。

 

 

 その衝撃の出会いから、約一月がたった。

 

 「……にしても、あの娘がかの司馬仲達とはなあ……。女性になっているであろうことは、ある程度予測はしてはいたけど、ギャップがありすぎだって……」

 

 一人つぶやく一刀。その視線の先には、兵の調練を行っている徐庶と、あの少女――司馬懿仲達の姿があった。

 

 (正史じゃ、後に”魏”を乗っ取って次の王朝――、”晋”の礎を築いた、希代の天才軍師。あの”諸葛孔明”のライバルでもあった人物――。それが、あんな幼く見える容姿の少女だって言うんだから、ほんと、この世界はわけわからんな)

 

 と、そんなことをしみじみ思う。

 

 「けど、その能力はやっぱり本物だな。わずか一月で、輝里を相手にいい勝負をしてる」

 

 眼下の練兵場で、実戦形式で陣取り合戦をしている二つの集団を見つつ、司馬懿の采配に心底感心する一刀。

 

 

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 あれから後、なかなか口を開かないその少女が、たった一つだけ、強く願ったことがあった。

 

 「……私を、将として、使ってください」

 

 それには皆、一様に驚いた。

 

 一刀からすれば、かの司馬仲達が、自分の仲間になってくれると言っているのであるから、これほど心強いことはなかった。だが、正史の彼女を知らない徐庶たちからしてみれば、司馬懿はまったく無名の人物に過ぎなかった。みな、危ぶみこそしたものの、一刀の台詞で不承不承納得した。

 

 「……彼女の意思は大事にしたい。それに、将としてでもなんでも、生きていく目的があるのは、彼女にとって良い事だと俺は思う。……何かあったら俺が責任を取るから、みんな、彼女を認めてあげてくれないかい?」

 

 

 そして、将軍見習いという形で、司馬懿は一刀の幕下に加わることになった。それから一月。司馬懿は見事なほどに、その才を発揮した。政務、軍略双方において、その類まれなる才能を一同に示した。とくに、情報の収集と管理においては、これまでそれを担って来た姜維も、その舌を巻くほどのものだった。

 

 雑多に集められた情報を整理し、その中から必要なものだけを的確に拾い出し、もっとも適切な形にくみ上げる。無数に散らばったパズルのピースを、必要なものだけ瞬時に集め、一枚の絵を完成させていくように。

 

 わあああっっっ!!

 

 「お。どうやら終わったようだな」

 

 みれば、”司馬”と書かれた旗を、徐庶率いる隊の兵が、それを高々と掲げていた。

 

 「一応、輝里が勝ったか。……よし、俺もあっちに行くかな」

 

 欄干を離れ、練兵場へとその足を向ける一刀。

 

 

 「はあ〜。何とか勝てた……。なかなかやるね、司馬懿ちゃん」

 

 「……別に。負けは負けです。……あと、ちゃんはつけないでください。……じゃ」

 

 「あ……」

 

 てくてくと。無表情のまま、その場を去っていく司馬懿。

 

 「……悔しい、とか。そんな風に思わないのかな?……冷徹なのが、悪いこととは言わないけれど……」

 

 司馬懿の背を見送りつつ、徐庶がそんなことをつぶやく。そこに、

 

 「……思ってはいるさ。けど、それを表にうまく出せないんだよ。……相当根深いな、彼女の”トラウマ”は」

 

 「一刀さん、見ていたんですか?……ていうか、虎と馬がどうかしたんですか?」

 

 「はは。……言われるとは思ってたけど。……トラウマ。心的外傷症候群、ってやつさ。簡単に言えば、心の傷ってこと。……子供の頃なんかに犬に追っかけられたりして、それ以来犬がだめになったりする人がいるだろ?」

 

 「……なるほど。それが”とらうま”ですか。……あの子の場合は、それがかなり酷い、ということですね?」

 

 「ああ。……時間がかかるのはわかってるけど、何とか、彼女が笑っているところを、見てみたいな。……ずいぶん、可愛らしいだろうに、さ」

 

 少し離れたところを歩く少女の、その後姿を眺めつつ、一刀はそんな風につぶやく。

 

 「そう、ですね……。あ、でも、だからって、手を出しちゃだめですからね?」

 

 「……出しませんって」

 

 どんだけ信用ないんだよ、おれ。と一刀が言い、普段の行いが原因です。と、徐庶がそんなツッコミをする。そのやり取りを、遠目で見ていた司馬懿は一言、「……馬鹿」と、つぶやいていた。

 

 

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 そして、黄巾の乱が終結したその日。

 

 「輝里で〜す!」

 

 「由や〜!」

 

 「二人合わせて」

 

 『輝里あんど由で〜す!』

 

 「って!そのまんまやないかい!」

 

 「細かいこと気にしちゃ、だ、め」

 

 そこは練兵場の一角。しつらえられたその舞台の上で、何故か漫才をしている徐庶と姜維の姿があった。

 

 「……何ですか、これ」

 

 「ん?もちろん祝勝会だよ。あと、慰労会もかねてる。……戦続きで、みんな精神的に疲れているだろうからさ、ちょっとした息抜きだよ。……”瑠里”も楽しんでくれよな?」

 

 「はあ……」

 

 黄巾賊壊滅の祝勝会。

 

 一応はそれが名目ではある。だが、一刀の本当の狙いは、隣にたたずむその少女にあった。この数ヶ月の間に、真名を許しあうことまでは出来た。だが、司馬懿の無感情ぶりは、一向に改善される様子が見えない。

 

 そこで、祝勝会を理由にして、めったに部屋から出ない彼女を引っ張り出し、何とか彼女を笑わせよう、ということになったのである。

 

 (せめて、きっかけだけにでも、なってくれればいいんだけど)

 

 と、一刀がそんなことを考えているうちも、徐庶と姜維の漫才は順調(?)に進み、そろそろ”オチ”のところに差し掛かっていた。

 

 「……だから、私はそいつに言ってやったわけ。……あんたの顔より、饅頭のほうが怖い」

 

 「なんでやねん!えーかげんにしなさい!」

 

 あっはははははは!

 

 大爆笑に包まれる会場。二人が舞台の袖へ引っ込んでいく。

 

 (いや〜。やっぱり由をツッコミにして正解だったな〜。いいもん、見せてもらった。うんうん。……さて、瑠里のほうは、と)

 

 こっそりと、一刀は司馬懿の顔を横目で見やる。が、

 

 「…………」

 

 (……駄目、か)

 

 彼女はまったく表情を変えていなかった。クスリとも笑うどころか、冷たい視線を舞台上に向けているだけ。

 

 その後も、徐庶、姜維、徐晃、そして、天和たち数え役満姉妹の舞台が、次々と行われていくが、司馬懿の表情はまったく変化を見せなかった。

 

 そうして、宴も終わり、皆がそれぞれ帰路についていく。最後に残ったのは、一刀と司馬懿の二人だけ。

 

 「……楽しく、なかった、かな?」

 

 思い切って、一刀は彼女に聞いてみた。絶望的な返事が返ってくることを、半ば覚悟の上で。

 

 「…………まあまあ、ですね」

 

 「え?」

 

 予想外の返事。表情は相変わらず氷ついたままだが、彼女はそう言ったのだ。今までのような、「別に」、とか、「特には」、とかではなく。「まあまあ」と。

 

 「……何ですか?」

 

 「……いや。そか、まあまあ、だったか」

 

 「……はい」

 

 

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 で、翌日。

 

 「こらーっ!この、浮気者ーっ!」

 

 「またんかこらーっ!今日という今日はゆるさへんでー!」

 

 「誤解だー!ちょっとしゃべってただけじゃんかー!」

 

 「だったらなんで、あんなに鼻の下を伸ばしてた?!やましい考えがあったんだろうがー!」

 

 「天地神明に誓ってないですー!」

 

 『だったら逃げんなー!おとなしく”オハナシ”されなさーい(されやー)(されんかー)!!』

 

 「だったら、その手に持ってる武器をおいてくれー!」

 

 『それは断る!!』

 

 「イヤーッ!」

 

 

 今日も今日とて、浮気をした(ほんとは女中と立ち話していただけの)一刀を、それぞれの武器を手に、徐庶たちが城中を追い掛け回す。恒例のその光景が展開されていた。

 

 「……またやってるんですか」

 

 「瑠里!頼む!助けて!このままだと、確実にみんなに”絞られる”!」

 

 「……じゃ、いい言葉をさしあげます」

 

 「……何?」

 

 「……自業自得」

 

 「はう!」

 

 司馬懿のあっさりとした一言で、心にクリティカルヒットをもらう一刀。そこに、

 

 「見つけた!」

 

 「逃がさへんで!」

 

 「覚悟して、おとなしく絞られろ」

 

 「いーーーやーーーーっっっ!!」

 

 再び始まる四人の鬼ごっこ。そうして去っていく一刀たちを見やりつつ、司馬懿はポツリとつぶやいた。

 

 「……ほんと、馬鹿ばっか」

 

 クスリ、と。

 

 わずかにその口元を緩めて。

 

                                〜了〜

 

 

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 さて、拠点の四回目、ルリルリ編でしたが、いかがだったでしょうか?

 

 輝「最初のシリアスはどこいった」

 

 しりません。どっか遠くに逝ったかと。

 

 由「・・・・・自分が逝っとき。なんでウチらが漫才せなあかんねん」

 

 輝「そーよ、そーよ。それも私がボケって」

 

 だって、ツッコミはやっぱ、関西弁じゃないと。

 

 瑠「・・・理由はそんだけですか?」

 

 ですが。何か問題でも?

 

 輝・由・瑠『・・・なんでもない』

 

 

 さて、次回は白亜の拠点です。

 

 輝「ネタ、もう出来てるんですか?」

 

 はい。大まかなものは。

 

 由「投稿はいつごろ?やっぱおそなるん?」

 

 未定。諸事情により、いつやれるかわかりません。なので、気長にお待ちください。

 

 瑠「じゃ、いつもどおり〆ますか」

 

 

 輝「それではみなさま、今回もコメント、お待ちしてますね」

 

 由「ツッコミでもええでな。ぎょーさん待っとるで?」

 

 瑠「誹謗中傷はご勘弁くださいね」

 

 それではみなさま、

 

 

 『再見〜!!』

 

説明
はい。北朝伝の拠点第四弾をお送りします。

今回は司馬仲達こと、瑠里のお話です。

時間的には、黄巾の乱が始まって間もないころです。

それでは。
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コメント
こちらの瑠里の中身は・・・ナデシコの?(津時)
良いなあ。(readman )
笑わそうとするよりも日常の一コマにこそ意味があるのでしょうね。まあ、日々の積み重ね、周りが笑っていることも重要ですかな(ZEROS14)
村主さま、あ、4p、やっぱそう思いました? で、ゆっくりとした自然な付き合いこそ、何よりの薬ですね^^。(狭乃 狼)
紫電さま、もちろんいずれは、そうなる予定です。どんな心の傷も、仲間がいれば、いつかは癒されるものですからw(狭乃 狼)
東方武神さま、すきですか、そーですかwよし、狙い通り(えww(狭乃 狼)
長い猫さま、そうなったら一刀は復讐鬼になってまいますやんw(狭乃 狼)
4p目冒頭の遣り取り見て「何故に途中で後書きがw」と思ったり でも(良い意味での)馬鹿馬鹿しい日常こそが心の傷を埋めていく最良の方法では無いかと、無理に心配されるより自然体に接していく感じで(村主7)
こういう無表情キャラ、嫌いじゃないわ嫌いじゃないわ!!次回も楽しみにしてます♪(東方武神)
ナデシコのルリぽいですね、だっだら一刀を黒ずくめにしてみたらどうですか^^(長い猫)
mokiti1976−2010さま、笑顔で打ち解けるのが先か、一刀にいただかれるのが先か、それは誰にもわからない(えwww(狭乃 狼)
kabutoさま、重力砲ですかw誰に向かって撃つかは知りませんがww 白亜のほうもお楽しみに、です^^。(狭乃 狼)
瑠里さんが皆と笑顔で語り合う時を心待ちにしています。きっとその頃には一刀においしくいただかれているのでしょうが・・・・・・。(mokiti1976-2010)
hokuhinさま、とびっきりの笑顔を見せるシーンは、必ずご用意しますよw・・・だ〜いぶ、先ですが^^。(狭乃 狼)
瑠璃瑠璃の可愛さは神だ。そろそろ重力砲が来るんですね・・・。次は白亜ですか!?楽しみです!!(kabuto)
瑠里の心からの笑顔が出来る日を楽しみにしてます。(hokuhin)
よしお。さま、遥か彼方の狭間へ飛んじゃいました。今頃どっかの漢女が拾ってたりしてw(狭乃 狼)
よーぜふさま、etyudoさまの、ですか。・・・どうしましょうね?くすw とりあえず一刀は、モゲチャエww(狭乃 狼)
poyyさま、そしてやがては、瑠里にもその力が及ぶ・・・かも?^^。(狭乃 狼)
シンさま、ご満足いただけましたでしょうか?(狭乃 狼)
ロンロンさま、それが×3で、来ますからwwま、いい気味ってことで^^。(狭乃 狼)
面白かったですwシリアスがとっか遠くにいきましたねw(よしお)
おっと、etyudo様なるりるりにぐっと来てしまいました・・・見せてもらえますよね? (ぇ まぁ真に恐ろしいのは逃げられなくしてから一撃必殺なものたたきつけてから行う魔砲少女なOHANASHIがあるので・・・どうせ絞られるだけだからいいじゃないか、モゲロw(よーぜふ)
自業自得といわれても止まる事を知らない種馬力。(poyy)
司馬懿、瑠里との出会いをやっとみることが出来た。(シン)
オハナシ………まるで某砲撃魔法少女のような言葉を。(龍々)
サイレントピエロさま、はい、そうですが。何か、問題でも?くすwww(狭乃 狼)
etyudoさま、まだまだ初期段階ですので、これからじわりと堕ちていきますよw(狭乃 狼)
namenekoさま、ざんねんながら、”まだ”、堕ちてませんw これからこれからww(狭乃 狼)
名前が瑠里で馬鹿ばっかって ナデシコですか?(サイレントピエロ)
う〜ん、もう少し落ちて欲しかったな〜。一刀の服の袖を違うところを見ながらそっとつかんだり〜(自分の希望なだけなので聞き流してください(笑))今後もがんばってください!(etyudo)
司馬懿まで堕ちたか(VVV計画の被験者)
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