虚々・恋姫無双 虚漆之奥
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「…それは出来ないわ」

 

「………」

 

私は誓った。

天下も、一刀も、私も手に収めて見せると。

 

「皆がそれのために頑張っていくれてるわ。彼女らの苦労を無駄にすることはできないよ」

 

「………」

 

それを聞いた一刀の目は、真っ直ぐな目から濁った目へと変わった。

その目は目標を失って座ったままで私の腰辺りに向かっていた。

 

「かず、

「出て行って」

 

私が一刀の名前を再び呼び切る前に一刀はそう言った

 

「……一刀」

「ボクが出て行く前に出て行け!!」

「!」

 

一刀はそう叫んだ。

初めて聞く一刀の叫び声は、私への怒りと悲しみに満ちていた。

きっとそうだった。

きっと、あの目から溢れそうになっているあの涙は、私のせい。

 

けど、それでも私は諦めない。

私は曹孟徳。

自分が手にしたいと思うのはなんとしてでも手に入れる。

その中には一刀も入っている。

 

一刀を私の側にいつまでもおいていたかった。

一刀は、私が私であるようにしてくれる。

乱世の中たくさんの戦で無数な人の命をとらなければならない私は、いつぞやか私で無くなるかも知れない。

だけど、一刀がいれば違う。

私は私であり続けられる。

 

 

 

そう思っていた。

 

バタン

 

「……かず…と?」

 

次の瞬間、一刀が私の目の前で前へと倒れるのをみたその時までは……

 

 

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「身体に大した異常はないようです」

「ただ、何?」

 

秋蘭は言葉を選んでいるように見えた。

その一秒、二秒が一年、二年のように覚えた。

 

「精神的に己を追い詰め過ぎたのでしょう」

 

そこで答えを出したのは紗江であった。

 

「紗江、あなたは……」

 

どっちの紗江なのかと訊こうと思ったら、次の瞬間、

 

べしっ!

 

「……」

「……くたばれ」

 

次の瞬間、思い切った彼女のビンタで、彼女が「あっちの紗江」だと言う事が分かった。

 

「紗江!」

「貴様!!」

 

そしてそれとほぼ同時に、その場にいた春蘭と秋蘭が紗江に向かって武器を構えた。

 

「あなた、なんてことをするのよ!」

「華琳さまに手を出すなんて…いくら紗江殿でも」

 

桂花と稟も加勢したが

 

「静まりなさい!」

 

私はにそう一喝した。

 

「ですが華琳さま」

「一刀の前よ。これ以上の騒ぎを起こすものは許さないわ」

「「………」」

 

それを聞いた秋蘭は武器を下げて、それを見た春蘭も納得できない顔で剣を下げた。

 

「紗江、どういうことか話して頂戴」

「………」

 

紗江は私を睨んでいた。

怒りに満ちていた。

普段の紗江の口から出てくるとは思えないほどに酷い話まで聞いたのだ。彼女の怒りがどれほどのものかが分かった。

 

「一刀ちゃんはあなたに戦とやめてほしいと言ってた。確かそうおっしゃいましたね?」

「ええ」

「そして、あなたはそれを断りました」

「当然の話よ。子供一人の話で止める戦なんてないわ。そんなものだったら最初から始めようとも思ってないしね」

「……だけどその頑固さが一刀ちゃんの心を追い詰めました」

 

紗江は私を通りすぎて寝台で寝ている一刀ちゃんのとなりに座った。

そして、その寝てる顔を優しく触れながらこっちをまた見た。

 

「一刀ちゃんはどうしても今回の戦を止めたいと思っていた。でも今の自分じゃあどうしても戦が止めることができないということも分かっていた。だから華琳さま、あなたに直接その気持ちを伝えました。そして、あなはそれを直前で断った。これが何を意味するのかわかります?」

「私のせいで一刀がこうなったと言っているの?」

「いいえ、違います。あなたのその野望が一刀ちゃんの心を蝕んだという話をしているのです」

「貴様、言わせておけばー!」

 

また春蘭が剣をあげる。

 

ーーすっこんでろ

 

「っ!」

「姉者!」

 

紗江がつぶやいた瞬間、春蘭はその場で倒れた。

秋蘭が急いで春蘭を支えたが、紗江はそんなことなんてどうでも良いように私を見て話を続けた。

 

「……おかげで一刀ちゃんは心の重さを耐え切れなくなりました。だから気を失ったのです」

「なら、私にどうしろっていうの?戦をやめろとでも言うの?」

「……もう遅いです」

 

紗江は頭を左右にふりながらまた一刀の顔を撫でた。

 

「可哀想な子……これから行く道は厳しいのに、心は弱すぎる……いっそ、ここで終わりにしてしまうのがいいかも知れません」

「勝手な事を言わないで頂戴」

 

私はそれを聞いて黙っていられなかった。

 

「いつまでも現実から逃げるわけにはいかない。それは一刀でも同じよ」

「この子を戦という現実から逃がそうとしていたあなたの口から出る言葉とはとても思いませんね」

「それは、あくまで一刀のために…」

「一刀ちゃんのため?自分のための言い間違いでしょう」

「なんですって?」

 

紗江は私を真っ直ぐ見ながら言った。

 

「あなたはいつだって己のことしか考えられない人でした。どんなに歴史を繰り返しても人を駒としか扱えないその心の硬さこそがその証拠です」

「いくらあなたでも、それ以上は許さないわ。訂正なさい」

「華琳さまこそ訂正してください。あなた様の野望の前で、これからこの子にどれだけ傷つけさせようとしているのですか?何度でも言います。一刀ちゃんか覇道か選んでください。あなたの半端な考えの中で、この子を犬死させるのはもう見たくありませんから」

「……司馬懿……」

「……曹孟徳……」

 

私と紗江はしばらくそうやってお互いをにらみ合い続けた。

他の皆はそんな私たちを止めることもできず、この痛々しい状況を見守るほか何も出来なかった。

 

 

「……ぅぅ」

「「!!」」

 

その時、私と紗江、そして他の皆の視線が寝台の方に向かった。

 

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「一刀!」

「一刀ちゃん!」

 

私と紗江はほぼ同時に寝台に近づいた。

 

「…………」

 

たった今目を覚ました一刀は、イマイチ私と紗江が同時に見える状況が良く分からないのか、私たち二人を見ていた。

 

「…………」

 

沈黙が続いた。

一刀が何かを言うのかと思って待っていたけど、一刀は何も言わなかった。

 

「……結局こうなってしまったのね」

 

暫くしていたら、紗江は突然そうつぶやいた。

 

「何を言っているの?」

「……桂花さん、悪いですけど、どこかで竹簡を持ってきてもらえませんか?」

「突然何よ?」

「竹簡なら姉者がいつも持ち歩いているのがあるが……」

「それでも結構で……春蘭さん、いつまで寝てるんですか?――起きろ」

「うぅぅん……な、なんだったんだ?」

 

紗江はつぶやいたら、倒れていた春蘭がまた起きた。

 

「姉者、突然悪いが、ちょっと竹簡と筆を持っているのがいるか?」

「おぉ?おお、この前秋蘭が「めも」というやらをしろって言われたから……」

「いや、あれは北郷が……いや、それで構わん。少し貸してくれ」

「おぉ……」

 

春蘭から筆と竹簡を渡された秋蘭は、それを紗江に渡した。

紗江はそれを持って寝台の一刀にあげた。

 

「………」

 

竹簡をもらった一刀は、竹簡に筆で何かと書き込み始めた。

 

 

『どうして皆集まって騒いでるの?』

「何でって……あなた、倒れたのよ?何も覚えてないの?」

「?……!」

 

キョトンとしていた一刀は、しばらくしたら何か全て思いついたのようにパッとしながらまた何かと竹簡に書いた。

 

『そう!戦はどうなったの?いや、その前に春蘭お姉ちゃん今どこ?』

「春蘭?春蘭なら……」

「!」

 

スッ

 

その時後ろの春蘭と目があった一刀は寝台から居なくなって急にその場でまだ姿勢をちゃんと整っていない春蘭の前に現れた。

 

「うわっ!な、何だ?」

「………」

 

春蘭の目をしばらく見つめていた一刀は………

 

「………<<すぐん>>」

 

突然目を潤わせた。

 

「な、ななななんだ!?私は何もしてないだろ?どうして私を見て泣くのだ!」

「……<<ぎゅー>>」

「な、なんだ!?何故抱きつく!!って、そこに涙を拭くな!汚れるだろ!」

 

一刀は春蘭を抱きしめて泣いていた。

これは一体……

 

「記憶が戻ったんです」

「記憶が、戻った?」

 

紗江の言葉に、私も他の皆も一瞬何のことか全然分からなかった。

 

「言いましたよね。精神的に追い詰められた一刀ちゃんは、その心の重さを耐え切れず倒れることを選んだ。そして、生きるために取った行動がこれです。今の一刀ちゃんは、洛陽で皆さんが戦っていたところで春蘭さんを守るために出て行ったあの頃の記憶に戻ったのです」

「何ですって?」

「それでは、それ以後の記憶は……」

「消えました。だから喋ることもできないのです」

「元に……昔の一刀に戻ってしまったの?」

「ええ……よかったですね。これで華琳さまが望むような一刀ちゃんにできますから」

「紗江、あなたは……」

 

「………<<ぐいぐい>>」

「「うん」」

 

その時、一刀は私と紗江の服の裾を引っ張った。

 

「………」『二人とも、喧嘩しちゃ駄目』

「……」

「……」

 

私たちはお互いを見た。

 

「……結果はどうであれ、一刀ちゃんがそれを望んだのなら、僕にはどうすることは出来ません」

「……あなたはそれでいいの?」

「…………あ、一刀ちゃん、ちょっといいですか?」

 

紗江は私の質問に答えず、一刀ちゃんを見て笑い顔で話した。

 

「?」『何、さっちゃん』

「実はですね。一刀ちゃんが気絶してる間、戦争ぜーんぶ終わっちゃいました」

「!?」『ええ!?じゃあ洛陽は…』

「もうとっくに終わってます。っていうか、一刀ちゃんものすっごく長い間倒れていました」

『え?どんなに?一週間?』

「一年ぐらい?」

『一年!?』

「そうですよー。というわけで、今日は皆一刀ちゃんが起きた記念として、皆でお祝いしましょう。皆さんいいですよね?」

「「「「…………」」」」

 

そこに居た皆はしばらく状況に追いつけず黙っていたけど…

 

「……ふっ、そうだな。それじゃあ、私は流琉を呼んで料理の準備でもすることにしよう」

「……そうね。私は凪たちを連れてくるから、稟は風をさがしてきなさい。後、良い酒も手配して頂戴。あ、張三姉妹にも連絡しておかないと駄目ね」

「いや、ちょっと待ってください。これは一体どういう……」

「ああ、もうややこしいわ。後で説明するから今は行きなさい!」

「ほら、姉者も行くぞ」

「お、おぅ……」

 

そうして皆一人二人部屋を出ていった。

 

「…」『何かすごいことになっちゃった…ねえ、ボク本当に一年も寝てた?』

「はい……もうおかげで僕がどれだけ寂しかったか分かってます?」

「……」『ごめんなさい』

 

でもどうしてこの子はこんなにとんでもない話をがっと信じてしまうんだろう。

 

「まあ、まぁ、大丈夫ですよ。一刀ちゃんのせいじゃないですし……あ、そう、そう。華琳さまが一刀ちゃんと話すことがたくさんありそうですし、僕はこの辺りで去ってしまいましょう」

 

え?

 

「ちょっと、あなた、待ちなさい」

「それじゃあ、ごゆっくり」

 

私が止める間もなく、紗江は部屋を出て戸を閉じてしまった。

部屋の中は、私と一刀二人だけとなった。

 

 

「……」

「……『華琳お姉ちゃん』

 

久しぶりに見る一刀の竹簡に書いた言葉からは、以前の声から感じた怒りや悲しさがまったく感じられなかった。

 

「何?」

『ごめんなさい。ボク、なんかよくわからないけど……華琳お姉ちゃんと皆に迷惑かけちゃったかな』

「……」

 

そう、この子は昔からこういう子だったね。

何もかもが自分のせいな………

 

「そんなわけないでしょ?あなたが迷惑なんてありえないわ。そんなことを思うヤツがいたら私が即座でそんな事を思う首をなくさせてあげましょう」

『こ、ころしちゃ駄目だよ』

「冗談よ。それより、一応言っておこうかしら?」

「?<<キョトン>>」

「そうね……」

 

 

 

あなたのこと、絶対幸せにしてあげるわ。紗江あの子に負けないためにも。私の意志を貫くためにもね。

 

 

 

「取り敢えず、一度抱っこしてから話ましょう」

『え!?』

説明
皆さんの選び方には素で驚きます。(寧ろ自分がおかしいのでしょうか)

一番シュールなのが選ばれました。ほんとうにあ(ry
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コメント
まさかこう来るとは… 拠点は紗江を。(シン)
あー、戻ったか。 拠点は華琳様で(きの)
拠点は風でお願いします。 これがどんな影響を受けるか楽しみです。(ZERO&ファルサ)
おうふ。こうなるか。予想外!!だがそれがいい。 春蘭で(紫炎)
まさかこの状態に戻るとは思わなかったですね。拠点は秋蘭か華琳で (VVV計画の被験者)
こうなるとは思いもしませんでしたね。拠点は秋蘭でお願いします。(sai)
あ、言い忘れました。次回の拠点で誰がいいかコメントお願いします(桂花と霞は決定事項です)(TAPEt)
これからどうなっていくのか楽しみですが、また話せなくなってしまうなんて……(山県阿波守景勝)
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真・恋姫無双 恋姫 虚々 一刀ちゃん 華琳 韓国人 

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