真・恋姫無双 EP.60 再起編(2) |
一刀が恋と霞、季衣、流琉たちと談笑をしていると、草むらから三匹の猫たちがひょこっと顔を覗かせた。
「あっ! ミケ、トラ、シャム!」
先に気付いた季衣が声を掛けると、三匹の猫たちもこちらに気付いてトコトコと走ってきた。
「おーっ! 会いたかったぞ!」
顔をほころばせて、一刀が三匹を迎え入れるように両手を広げた。しかし三匹は一刀をスルーして、流琉にまとわりつき始めたのだ。
「にゃあ!」
「にゃー……」
「にゃん!」
「あれっ? おい、俺だよ。一刀だよ? こっちにもおいで」
そう言いながら手を差し出すと、トラがくんくんと匂いを嗅いできて、プイッとそっぽを向いてしまう。
「にゃははっ! かじゅと、嫌われた!」
「そ、そんな……」
霞にも笑われ、一刀はショックで落ち込んでしまう。まるで娘に無視された父親のような気分で、しょんぼりと三匹を眺めるしかなかった。
「流琉はいつもご飯をあげてるからねー」
季衣が一匹を撫でながら、一刀にそう教えてくれた。餌で釣るか……などと一刀が考えていると、突然、一斉に三匹が顔を上げて廊下の方を見る。何事かと思い視線を向けたが、誰もいない。だがすぐに、角から桂花の姿が現れた。
とたんに、ミケ、トラ、シャムは桂花のもとに走り寄って行く。
「あっ! ちょっと、やめなさいってば!」
「にゃあ!」
「にゃー」
「にゃん!」
じゃれつく三匹を適当にあしらいながら、桂花が一刀のそばまで近づいて来た。
「北郷、それからみんなも一緒に来てちょうだい」
桂花に言われてやってきたのは、玉座の間。一刀たちが中に入ると、懐かしい顔が並んでいた。
「ご主人様!」
「恋殿!」
真っ先に声を上げて駆け寄って来たのは、月と音々音だった。月は一刀に、音々音は恋の元に走ってくる。
「月! それにみんな!」
一刀が嬉しそうに笑って手を振ると、笑顔でやってくる月が表情を強ばらせて足を止めた。
「ああっ……」
まるでこの世の終わりのような声を上げて、フラフラとした足取りで近寄ってくる。そしてそっと、失った右腕に手を添えた。
「ご主人様……こんな……」
「いや、まあ」
笑って頭を掻く一刀だったが、すぐに他の者たちも異変に気付いたようで、取り囲むように集まってきた。
「ちょっ、あんた……」
「一刀殿……」
さすがの詠と稟も驚いた様子で、一刀の姿に眉を寄せる。音々音は恋の服を掴んだまま、遠くからこちらを見ているだけだった。
「何というか、とりあえず腕以外は元気なんで……」
心配しないでいい……一刀がそう続けようとした時、月がその腕にすがりついて堪えきれずに泣き出してしまった。
「へぅ……ご主人様」
ぽろぽろと涙をこぼす月に、一刀はただオロオロしながら必死になだめようとする。詠には怒られ、何だか散々な再会だったが、その雰囲気が妙に楽しく感じられた一刀だった。
やがて、月が泣き止んで落ち着いた頃、華琳が春蘭と秋蘭を伴って現れた。一緒に張三姉妹もやって来て、玉座の間は一気に騒がしくなる。
「かーずーとっ!」
天和が満面の笑みで、一刀にぎゅっと抱きついてきた。
「会いたかったよぅ、一刀!」
「元気になったんなら、すぐにちぃに会いに来なさいよね。まったく……」
「よかった、一刀さん……」
地和と人和も笑顔で、一刀に声を掛けてくる。三人は運ばれてきた時の、一刀のひどい様子を目の当たりにしていただけに、元気そうな姿にホッと安堵していた。容体は聞いていたが、やはり自分の目で見るまでは安心出来なかったようだ。
「三人にも心配かけちゃったね。もう、大丈夫だから」
「でも、色々と不便でしょ? 何か手伝えることがあったら、私たちに言ってね?」
「そー、そー。ちぃたちに任せなさい!」
そう言いながら、地和がドンッと胸を叩いた。
「賑やかでいいわね。一刀の仲間が勢揃いした感じかしら?」
笑みを浮かべながらやりとりを見ていた華琳が、全員を見回しなが言う。頷きかけた一刀が、確かめるように皆を見て、一人足りないことに気付いた。
「風がいないけど?」
「彼女は袁術のところです」
一刀の疑問に、稟が答える。それを聞き、華琳が首を傾げた。
「何でまた袁術のところなんかに?」
「はい、実は――」
緊張した面持ちで、稟が経緯を説明する。話を聞き終え、華琳は納得した様子で頷いた。
「なるほどね……。その程cという人物に、ぜひとも会ってみたくなったわ。もしもこちらに来たなら、教えてちょうだい」
「はい」
「到着したばかりで疲れているでしょ。部屋を用意するから、ゆっくり休みなさい。それから一刀?」
「何だ?」
「みんなも来たことだし、これからのことをよく話し合っておきなさい。これから『魏』には多くの人材が必要となる。一刀の仲間なら歓迎するけれど、私は一刀やあなたたちを縛り付ける気はないから、もしも他に望むものがあるなら止めはしない」
「……わかった」
確かめるように仲間たちを見て、一刀は了承した。
窓から差し込む夕日に目を細めながら、紫苑は夕食の準備をしていた。近くの山で採れた山菜をふんだんに入れた雑炊である。
「こんなものかしら?」
味見をして満足そうに頷いた紫苑は、そろそろ遊びから帰ってくるだろう娘を迎えるために外に出た。太陽が山の間に半身を隠し、そろそろ暗くなる。
「どこまで行ったのかしら?」
周囲は山に囲まれ、麓の村までは距離がある。いつも山に入って、木の実や果物を取ったりして遊んでいるのだ。
「璃々−! ごはんよー!」
名前を呼んでみるが、返事はない。遠くには行かぬよう、いつも言ってある。今まではそれを守って、近所で遊んでいたはずだ。
「璃々! 璃々!」
心配になって、山に入ってみる。だが、いくら叫んでも自分の声が響くばかりで、人の気配すらない。
「璃々ー!」
たった一人の大事な娘を捜して、紫苑は走り回った。だが、いつもはいるはずの場所にいない。村に行ったのかも知れない……わずかな希望を抱いて、紫苑は村を目指す。
しかし結局、璃々の姿はどこにもなく、夜になっても帰ってくることはなかった……。
説明 | ||
恋姫の世界観をファンタジー風にしました。 大勢が一同に揃うと、大変ですね。 楽しんでもらえれば、幸いです。 |
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コメント | ||
連れ去られたか。なんか一刀が助けそうな展開だな・・・まぁ無いと思うけど(VVV計画の被験者) | ||
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