真・恋姫†無双〜恋と共に〜 #28
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#28

 

 

 

風たちと出会ってから1カ月半ほど経っただろうか。俺たちは長江を越え、さらに平原を北上し、とうとう陳留の街に辿り着いた。流石あの曹操のお膝元なだけある。街は栄え、通りには生活必需品だけでなく、それ以外の嗜好品の店も多く見られる。

風の真意は知らないが、稟はもともと曹操に仕官するつもりだったし、長居するならとりあえず拠点がなければ何も始まらないと、俺たちは宿をとることにした。幸い宿もピンからキリまで様々なものがあり、俺たちは安いが見た目はいい一軒の宿に部屋をとることにした。………ちなみに、風と稟も同じ部屋で、宿代は俺が貸すということに落ち着いた。別に気にしなくてもいいのに。

部屋に荷物を置いたあと、風と稟は陳留の城での求人を調べに行くと出て行き、俺と恋は黒兎たちの世話をしに、厩へと向かう。

 

 

 

と、そこで俺たちの愛馬をじっと見つめる一人の女性が目に入った。

 

 

 

 

 

「むむむ………これほどの馬はこの辺りでは手に入らないな。華琳様の絶影のように、私も良馬が欲しい………。幸い2頭いることだし、私と秋蘭合わせて………いやいや、どこの誰のとも知らぬ馬だし………………ぬぬぬ」

 

 

 

ここからではよく聞こえないが、どうも黒兎たちを見て何事か呟いているようだ。これまででも、夜のうちに黒兎たちを盗もうとした輩がいたが、皆返り討ちにあっていた。盗人猛々しいとは言うが、まさかこんな真昼間から物盗りをする莫迦もいないだろう。

俺と恋は、黒兎と赤兎を物欲しげに見つめ続ける女性に近づいた。

 

 

 

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「あの、俺たちの馬がどうかしましたか?」

「なにやつっ!?」

 

 

 

なにやつ、って………。

赤いチャイナ服に黒髪の映える女性は、俺たちが声をかけると、もの凄い勢いで振り向いて、背中に手をやり何かをまさぐる仕草をする。位置的に剣か?反射とはいえ、さすがにないものを探されてもなぁ。そんなことを思いながらも、女性に再度問いかけた。

 

 

 

「そこの2頭は俺たちの馬なんですが………どうかしました?」

「む?これはお前たちの馬なのか!?」

「そうですが―――」

「私にくれっ!!」

「………………………………え?」

「いや、タダで貰うのはさすがに悪いな。言い値で買い取るから、この馬たちを売ってはくれないか!?」

「………………いや、無理」

「無理なわけあるかぁぁあああぁっ!!」

「ちょ!苦しい苦しいっ!!」

 

 

 

いきなり訳の分からない要求をしてきたかと思うと、俺の否定の言葉に胸倉を掴みあげてくる。待って………キまってるから………あ、元の世界の爺ちゃんが見える………あれ、まだ死んでなかったっけ?あ、ダメだ………視界が白く………………。

 

 

 

 

 

「………ふっ」

 

 

 

 

 

どごっ!

 

 

 

 

 

「ぐはぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………あれ?俺、何してたんだっけ?

ふと周りを見渡すと、俺は厩の前にいた。そばには恋が立っており、視線は下に向かっている。俺もつられて視線を下げると、足元には一人の女性が倒れていた。

 

 

 

「………………………誰?」

「………わかんない」

 

 

 

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流石に倒れている人を放置するのは拙かろうと、俺たちはその女性を起こすことにする。よく見ると、彼女の頭部はわずかに地面にめり込んでおり、土にはヒビが入っていた。何が起きたんだろう。というか生きているのか?

そんな疑問を感じながらも彼女の肩を軽く揺すると、予想に反してあっさりと目を覚ました。

 

 

 

「そこは駄目です、華琳様っ!?………………誰だっ!?」

「いや、君こそ誰だよ」

 

 

 

誰かの名前(真名だろうか)を叫びながら目を覚ました女性は、俺たちを視界に入れるなり、質問する。その高慢とも言える様子に若干の呆れを感じながらも、状況を把握しようと努めた。

 

 

 

「恋、何があったか分かる?」

「………この人が、赤兎と黒兎、欲しい…って」

「え?俺たちの馬が欲しいの?」

「馬ぁ!?………そうだ、馬だ!お前から馬を売ってもらう了承を得ようというところで、何かが頭にぶつかった気がする」

「………………………………」

「いや、売らないよ?」

 

 

 

突然の女性の言葉に、なぜか恋はそっぽを向くが、俺ははっきりと拒否した。確かにこいつらは相当な良馬だが、誰かにあげる気など毛頭ない。しかし相手もなかなか引き下がる様子を見せず、なおも突っ掛かってくる。

 

 

 

「何度言っても駄目だ。それにこいつらは気性が荒いから、たぶん君には懐かないよ?」

「そんなことはないぞ!………なぁ?」

 

 

 

彼女はそう言って黒兎に近づいて、その鼻面を撫でようとする。その瞬間―――

 

 

 

ガチッ!

 

 

 

「うわぁっ!?」

「な?」

 

 

 

黒兎が差し出されたその手に噛み付こうとした。

 

 

 

「言っただろう?そいつらは滅多なことでは人には懐かないよ」

「くぅぅうぅうう………」

「まぁ、こいつらは涼州で手に入れた馬だから、君も涼州に行けば他にも見つかるんじゃないか?」

 

 

 

俺が冗談交じりにそう言うと、彼女はハッとした顔をして、しばし考え込んだ後、こう告げた。

 

 

 

「そ…その手があったか………。よし、そうと決まればこうしてはおれん!華琳様に涼州への遠征許可を貰わねば!!すまなかったな、お前たち。ではさらばだ!!」

「えと…うん………」

「………さらば」

 

 

 

言うや否や、彼女はまさに疾風と形容できるほどの勢いで走り去っていった。………………なんだったんだろう。

 

 

 

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俺たちは馬の世話を終えて昼飯を摂り、宿に戻った。部屋に入ると、室内には風と稟が戻ってきており、何やら話し合っている。

 

 

 

「ただいま。城の方はどうだった?」

「あぁ、一刀殿と恋殿でしたか。おかえりなさい」

「おかえりなさいです。どうもこうもないですよー。文官も募集してはいたんですが、試験は3ヶ月先と言われてしまいました。これからどうやってそれまでのお金を稼ごうか話し合っていたところなのです」

「そうか…残念だったな。そういえば、誰か将軍とか軍師とかには会えた?」

「流石にそれは無理ですよ、一刀殿。あ、でも………」

「風たちが城を出る時に、『夏候惇将軍』と呼ばれたお姉さんがすれ違いに城に入るのを見ました。もの凄い勢いで走ってましたが、何か緊急事態でもあったんですかねー?」

 

 

 

「お姉さんが走っていった」という風の言葉に、まさかな、と思いつつも俺は話を続ける。

 

 

 

「曹操の側近にして猛将夏候惇か………一度くらい見てみたいけどなぁ」

「食事の時に耳にしたことですが、曹操殿は大層な人材好きらしいですよ。一刀殿たちの実力があれば、すぐに武官として十分働けるのではないでしょうか」

「むしろ将軍までいけそうなくらい凄かったですけどねー」

「ん?……曹操もなぁ」

 

 

 

と、俺はここで口籠る。三国志では、かつて敵であった者たちですら迎え入れる度量のある曹操だ。月や雪蓮たちの処のように、俺や恋ならすぐに働ける気がしないでもないが………問題はその後なんだよな。果たして、あっさりと手放してもらえるかどうか。

 

 

 

「とりあえず、文官の試験までは我々も何か職を探すことにします。いつまでも一刀殿に甘える訳にもいきませんからね」

「幸い、この街には本屋さんもいくつかあるので、写本や書物の注釈なんかの仕事もすぐ見つかると思いますしねー」

「そうだな。まぁ、ゆっくりやっていこう」

 

 

 

会話はそれきりで、風と稟は出かける仕度をして、部屋を出て行った。何か仕事でも探しに行くのだろう。

 

 

 

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「曹操、か………」

 

 

 

二人が出掛けた後、セキトと昼寝をする恋の頭を撫でながら、俺はひとり考えていた。

陳留に来る途中でも、何度か黄巾党に襲われた。毎回、数こそたいしたことはないが、その頻度は、彼らの勢力がどんどん大きくなっていることを示唆している。そのくらい、民の不満は爆発に近づいているのだろう。

さて、この乱を天和たちが主導で起こしているかと問われれば、俺はまったくそんなことは考えていない。むしろ逆だとすら思っている。以前冥琳が言ったように、彼女たちの信徒の暴走が原因だろう。では、彼女たちをどうやって助けるかだ。流石の俺や恋でも、数十万に膨れ上がった大群をたった二人では相手にできない。

月のところは、地理的に見てそれほどの数は現れないだろう。むしろ、天水からでは彼女たちから遠すぎる可能性がある。同様の理由で馬騰も無理だ。

雪蓮たちのところはどうか。駄目だ。彼女にはその覚悟があったからこそ、こうして出てきたのだから。

では袁紹は?………それも駄目だろう。名門袁家である。実質は知らないが、対外的な忠誠から考えると、乱の首謀者である天和たちを生かしてくれるとは考えにくい。また、袁紹の従妹である袁術も同じだ。雪蓮たちもいるしな。

仁徳の王、劉備………ないな。今はまだ義勇軍として動いているだろうから、どこにいるのかすら分からない。やはり…………。

 

 

 

 

 

「曹操しかないのかなぁ………」

 

 

 

俺の呟きは誰にも聞かれることなく、虚空へと消えていった。

 

 

 

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翌朝―――。

 

 

俺は今日も恋と共に黒兎たちの世話をしに厩へとやって来た。くぁぁ、と可愛らしい欠伸をする恋を横目に和みながら馬たちのもとへ向かうと、昨日の女性が膝を抱えて馬たちの前に座っていた。

 

 

 

「いいなぁ………お馬さん欲しいなぁ………………やはり、私が紅い方で、秋蘭が黒い方かな?いや、逆もまた見栄えがありそうだ。………………欲しいなぁ」

「おはよう。何やってるの?」

「………ん?あぁ、この馬たちの持ち主か」

 

 

 

俺が声をかけると、昨日の勢いもどこへやら。彼女はこちらを振り向いて、元気なく答えた。今度は無茶な要求をしてこないから束の間安心はしたが、どうも元気がなさすぎる。

 

 

 

「実はな?昨日、華琳様に涼州遠征の許可を貰いに行ったのだが、却下されてしまってな………。秋蘭には人の馬を無理やり奪うのは駄目だと説教をされるし。………はぁ。かっこいいなぁ」

「その人たちがどんな人かは知らないけど、その人たちが正しいよ。厭がっていることを強要するのはよくないな」

「………だめ」

「あぁ………なぁ、もうくれとは言わないから、一度だけ乗せてくれないか?」

「一度くらいなら………あ、でも黒兎たちがいい、って言ったらだよ?昨日も見た通りこいつらは気性が荒いし、俺たちの言葉も理解しているから………。乗りたい方に聞いてごらん?」

「そうか、ありがとう。………では」

 

 

 

そう言って彼女は黒兎に近づき、話しかける。

 

 

 

「ええと、黒兎、と言ったか?昨日はすまなかったな………謝るから、一度だけ乗せては貰えないだろうか?」

 

 

 

そうして今度こそその顔を撫でようと、手を伸ばし――――――。

 

 

 

 

 

ぷい

 

 

 

 

 

「ほぇ?」

「え?」

「………………いやだ、って」

 

 

 

なんというか………そこまで嫌われるようなこともしていないだろう。今度は噛まなかったとはいえ、流石に可哀相になり、俺も黒兎に近づいて声をかける。

 

 

 

「なぁ、どうしたんだ?この人は悪い人じゃないよ。乗せてやってくれないか?」

「………(ぷい)」

「まさに…馬が合わない………だな」

 

 

 

俺の一言に、彼女がキレた。

 

 

 

「上手くない!全然上手くなんかないぞぉぉおおおおおっ!!」

「ごめん!今のは俺が悪かった!だから首から手を離せぇぇええ!!」

「うわあぁぁぁああああぁぁあん!!!」

 

 

 

泣き叫びながら走り去る彼女の背中に、俺は同情を禁じ得なかった。

 

 

 

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さらに次の日の朝―――。

 

 

 

「またいるし………」

「………………くぁあ」

「………………………………………私は諦めないぞ」

 

 

 

 

説明
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コメント
なんか かわいいぞ(qisheng)
流石は春蘭(笑)(タク)
>>よしお。様 テラカワイソス(´・ω・`)(一郎太)
春蘭カワイソスw(よしお)
>>sai様 たぶん、そう簡単には抜けられないでしょうね。早めに手を打たなければ………(一郎太)
>>グロリアス様 座布団1枚!(一郎太)
>>nameneko様 あれは一刀が悪いですねwww(一郎太)
>>kabuto様 次回は落ち着くといいなぁw(一郎太)
>>東方武神様 かわいいでしょう、可愛いでしょうwww(一郎太)
>>クラスター様 そうなんですよね。風と稟はいいとして、一刀たちは迂闊に客将にもなれないですからね。 え、春蘭さん?彼女はおバカキャラなんで、一つのことしか考えられないのですw(一郎太)
いぇ〜い!!チョコだ!チョコだ〜!(運営の犬)
>>ZERO様 存分に萌えてくださいw(一郎太)
>>名無し様 さて、曹操の覇気をどう捉えるのでしょうかね…(一郎太)
>>kashin様 春蘭可愛いよ、春蘭(一郎太)
>>KATANA様 そうなんですよねぇ………さて、どうしましょう?www(一郎太)
>>こるど犬 (´・ω・`)つ チョコレート(一郎太)
>>M.N.F.様 だって春蘭さんだしw(一郎太)
>>shin1203様 ありがとうございます!魏√にするつもりは………秘密ですw(一郎太)
>>ロンロン様 曹操さんはそこのところが怖いですよね。たぶん、髪が黒いからライバル視してるんじゃないでしょうか?w(一郎太)
>>きのすけ様 そこは陣営の雰囲気にもよりますね。月とか雪蓮のところはよかったけど、こっちではどうなることやら………w(一郎太)
>>2828様 一つのことしか考えられないから………w(一郎太)
>>神龍白夜様 萌えているかー!?w(一郎太)
>>O-kawa様 直しました!あとーんす!(一郎太)
>>poyy様 そこが可愛いのではないですか………?(一郎太)
>>森羅様 春蘭ちゃんはたまに哀れだと思うんだw (一郎太)
>>はりまえ様 馬をもらう時も書きましたが、ほかの馬より大きいので、そうとう迫力があると思います(一郎太)
魏に仕官したら絶対に抜けれそうにないな。春蘭がかわいすぎるww(sai)
一刀うまい!(グロリアス)
春蘭かわいいぞ・・・・・・・・・一刀心の中で上手いとおもったな(VVV計画の被験者)
春蘭落ち着けwww(kabuto)
春蘭ェ・・・可愛いやつめッ!!(東方武神)
曹操のお膝元には着いたけど、曹操の人材マニア振りを考慮すると、迂闊に売り込めない、か。しかし、現状で他に選択肢を選んでられるのか?…一方で夏候惇、毎日馬のストーカーとは、将軍職放り出して何やってんだ!?せめて自己紹介はしようよ、マジで。…いっその事、夏候惇のコレをチャラにする事を条件にすれば、客将で居られるかも…?(クラスター・ジャドウ)
いやあ!これは萌えるでしょう。(ZERO&ファルサ)
ムフフ(運営の犬)
はっ!そうかっ!俺は宿でメガネたちにあんなことやこんなことをしているんだな!!(運営の犬)
覇王の力。一刀達にどう写るのかな?(名無し)
くっ!いつまでも撫でてんじゃねえ!・・・俺が舐める(運営の犬)
姉者かわいいよ姉者(kashin)
ツンデレ?ツンデレなの? ふっ、やっとか さあ優しく掘ってあげるよ(運営の犬)
春蘭が面白すぎるwww(M.N.F.)
何時も楽しく読ませて貰っています、魏ルートは1番多いから別ルートが読みたいですね(shin1203)
客将で妥協しようとするかすら怪しい。あと黒兎が春蘭嫌いなのは御主人(一刀)を無意識とはいえ害しようとしていたからとか。(龍々)
魏の客将なんてしたら抜けれなさそうだよね。 つか客将なんて立場で重要な作戦に口出しできるのかな?(きの)
春蘭・・・馬どうこう以前に自己紹介ぐらいしろよw(2828)
春蘭可愛ぇぇええ!!!(リンドウ)
1p、「1カ月半ほだ経っただろうか」→「1カ月半程経っただろうか」 次回覇王降臨、満を持してですね多分(O-kawa)
春蘭もしつこいねぇ。(poyy)
春蘭様かわええ!!そして哀れ!!ww(森羅)
潔く別の馬を探して一から育てるのも一つの手・・・でもここまでほしいとなると結構な良馬と伺えるな。(黄昏☆ハリマエ)
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