変態司馬懿仲達物語 10
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司馬懿が体を起こすと毛布が床にバサッと落ちた。

麗らかな陽気の朝日が昇る時刻。小鳥のさえずりが聞こえてきそうな気持ちの良い朝を司馬懿は執務室で、しかも机に突っ張った状態で迎える事となった。何故そうなっているのかというと、それは十日ほど前にさかのぼる。

張曼成率いる黄巾党三万を五千の兵でわずかな被害だけで撃破した司馬懿は朝廷からその功績が認められ、自身は司隷校尉に封じられ、新野の発展具合も認められて洛陽より程近い許昌を治める様に勅命が下ったのである。

司馬懿はすぐに本拠地を許昌に移して、新野では労働力の関係で行なえなかった工事や軍部の強化、穀物庫の蓄えの増加などを行い、瞬く間に力をつけて弱小勢力だった頃の二倍の兵士と蓄えを手に入れることに成功した。

それと同時に問題となったのは民からの検案書の処理だ。人口が増加した事で問題点が増えてきており、毎日のようにそれを改善して欲しいという検案書が届けられているのだ。

その処理を行なっているおかげで睡眠に割ける時間が極端に減り、机に突っ張って眠っていた、なんてことがよく起こっている。

 

「わたしとしたことが、寝てしまうとは。おや? ずいぶんと数が減っていますね」

 

司馬懿の記憶が正しければ床に山を作った竹簡が五つほど連なっていたはずなのだが、見渡してもそのような山は見えず、せいぜい山二つといったところだった。何故だろうと見渡して納得して頷く。

司馬懿の隣、もう一つの机に小さな体を更に小さく丸めて机に伏せている徐庶の姿を見たからだ。起こさないように近づいて徐庶が掛けてくれたのであろう毛布をそっとかけた。

 

「んぅ……」

 

ぼんやりとした表情で徐庶が目を開いた。まだ眠たそうな目蓋をこすりながら体を起こし、大きな欠伸をする。まだ脳が働いていないようでボーっとしていたが、隣で楽しそうな笑顔で見つめている司馬懿を見て、ハッとして顔を両手で覆った。

 

「おはようございます。良い朝ですね、彗里」

「お、おはようございます、勝里さま。あの……寝顔、見ましたか?」

「可愛らしい寝顔でしたよ。寝顔は無防備で素直な気持ちが現われるそうですね」

「うぅ……見られないように早起きしたり遅くまで起きてたりしたのに」

「そんなことをしているから起きられなくなるのですよ? わたしは寝顔が見れて文句ははありませんが、体調にだけは気をつけてください。倒れてもらっては困ります」

 

ようやく許昌での政策が波に乗り始めた時期に司馬懿か徐庶どちらかが倒れればどれだけの損失を被るか、想像もできない。ケ艾、姜維は既に解体された黄巾党の残党狩りに毎日のように出兵を繰り返す日々を送り、少しずつ仕事を覚えている一刀に司馬懿たちと同じ仕事が出来るはずもなく、まだ仕えて日が浅い荀ェは信頼できないという声が多いので重要な案件に関わらせる事ができない。

だからどちらも倒れるわけにはいかないのだ。しかし、司馬懿はそれとは違うことを口にした。

 

「彗里が倒れては心配で仕事が手に付かなくなります。夜も眠れないかもしれません」

 

徐庶は顔を真っ赤にして、うわわ、と可愛らしく動揺して口をパクパクさせて司馬懿の顔を見たり見なかったりを繰り返した。くすくす、と笑う司馬懿に気が付いて真っ赤な頬っぺたを膨らませて怒った仕草をする。

司馬懿はその丸く膨らんだ頬っぺたを人差し指で突いて、楽しそうに微笑んでいる。

 

「ぷにぷにです」

「遊ばないでください。それよりも仕事の事ですが、やはり荀ェさんにも手伝ってもらうべきなのではありませんか? 彼女は優秀だと思いますけど」

「わたしもそう思うのですが、天が猛反発しているのです。袁紹ならまだしも曹操のところから来た奴は信用できないって」

「確かにそうですが、彼女をこのまま重宝せずに曹操のところに戻す方が問題だとわたしは思います。何とかこちらに引き込んで戦力になってもらう方がいいんじゃありませんか?」

「そうですね。それは既に手を打ってあります。わたしは成り行きを見守るだけです」

「……とても楽しそうに見えるのは何故でしょうか?」

「さあ? 何故でしょう」

 

司馬懿はくすくす、と笑うだけでそれ以上は答えなかった。

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北郷一刀の朝は早い。といっても、彼が早起きを心がけているというわけではなく、そうせざる負えない理由があるからだ。一刀の部屋は城の中でもかなり奥の方にあり、それは彼が自力で暗殺者を撃退できないので警備が厳重な場所に部屋を設けているわけだが、それをあざ笑うかのように一刀の部屋の前に立つ人影があった。

その人影は何も言わず部屋の扉を蹴飛ばす勢いで開いた。バンッと盛大な音を立てて開いた音を立てたが、疲れが溜まっている今の彼はこの程度の音では目覚める事はない。

人影はズンズンと一刀に近づいていく。寝台に眠る一刀の気持ち良さそうな寝顔を確認して寝台の上に乗り、そして、

 

「さっさと起きろ! この疫病神!」

 

罵声と共に腹部に強い衝撃と痛みが走り、それに驚いた一刀は目を覚ました。

 

「ぐえっ! な、なんだ!? って荀ェ?」

「そうよ? 悪い? さっさと起きて顔洗って準備しなさいよ。二度寝なんてしたら、わかってるわね?」

「わ、わかった。起きる、起きるから足を退けて。出来れば早急に」

「はあ? 疫病神の分際で意見が出来ると思ってるの? 退けるか退けないかわたしの勝手じゃない」

「いや、その通りなんだけど……というか、いい加減その疫病神っていうの止めてくれよ。結構酷いし、変な噂が立ったら困るの俺じゃなくて勝里さんだし」

「知らないわよ。わたしにこんな奴の教育係を命じるなんてどうかしてるわ。そりゃ曹操のところから来たのは事実だけど、何もそこまで警戒することないじゃない」

 

唇を尖らせて拗ねた様子の荀ェにちょっと可愛い、などと思ってしまった一刀だが、そんなことは口が裂けても言えなかった。言えば最後、未だに腹部を圧迫している荀ェの足が深く抉りこんできて大変な事になるからだ。

 

「それより早く足を退けてよ。その、目のやり場に困る」

「……?」

 

視線を横にずらした一刀に首を傾げつつ視線を下に向けた。余り外に出ないので日焼けしない色白の素足が一刀の腹部に向かって伸びている。徐々に上のほうを見ていくと、

 

「―――――ッッ!! 何見てんのよ!」

 

持ち上げられた足が死刑執行人が振り下ろす鎌のように一刀の腹部に抉りこんだ。意識が飛びそうになったが、何とかそれを間逃れ、寝台の上をのた打ち回る。

 

「さっさと準備してさっさと来い! 色欲疫病神!」

 

バタンと壊れそうな音を立てて閉められた扉に目を向けつつ、まだジンジン痛むお腹をさすりながら一刀は寝台に腰掛けてため息をついた。

 

「……白か」

 

脳裏に蘇ってきた絶対領域の光景が浮かび、無意識に声を発していた。今の発言が聞かれていたらと思うと思わず身震いを起こした。今にも扉を蹴破って乗り込んできそうな気がして恐る恐る扉を

見た。

 

「……よし、来ないな。さっさと着替えて行くか。命は惜しい」

 

一刀は寝台から立ち上がり着替え始めた。

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荀ェは両手を腰に当てて不機嫌そうなしかめっ面で立っていた。

彼女が今居るのは城の中にある園芸などで綺麗に整えられた花壇がある憩いの場となっている庭で、荀ェは花壇の前に立って今か今かと一刀が来るのを首をキョロキョロさせながら待っていた。

別に一刀が恋しくて待っているわけではない。むしろ来た瞬間に身長的な問題で届かない顔の代わりにお腹に鬱憤を晴らす意味も込めて蹴りをお見舞いしたいくらいだ。そうではなく、早く来ないと考えている特訓の時間割をこなす事ができないからである。

荀ェは胸のところまで伸びた茶色い髪をいじりながら、

 

「まったく、どうしてわたしが天の御遣いだか何だか知らない男の面倒を見ないといけないのよ。そりゃ信用がないってのはわかるわよ? わかるけど、せめて監視をつけて他の仕事をさせるとか、もっと方法があったでしょ? よりにもよって天の御遣いの教育係をさせるなんて」

 

心底疲れたようなため息を漏らしながら髪をくるくるいじり続ける。

荀ェは本拠地を許昌に移してからすぐに司馬懿から北郷一刀の教育係に命じる、と朝議が終了する直前に告げられ、異を唱えようと前に出ようとした荀ェに「お前は信用できない」と敵意丸出しの姜維が遮って何も言えなくなってしまった。

確かに荀ェは信頼がない。それは彼女自身も感じている事で、その理由もわかっている。

彼女は元々仕えていたのは名家として名高い袁家の出、袁紹である。我が侭で派手好きで良い所を挙げるとしたらお金をたくさん持っていることくらいしかない駄目君主で、次に姉の荀ケの勘違いで黄巾党の首魁、張角を討ち取った曹操に仕えて今に至る。

駄目君主、袁紹から鞍替えして司馬懿に仕えたのなら何の疑いも問題もなく今頃は忙しい日々を送っていたはずなのだが、それが出来ないのは曹操のところから来たからだ。

張角を討ち取った曹操の名は今や大陸に轟き、その智謀の高さは誰もが認めるほどの人物である。有能な人物を愛し、覇道を唱える曹操が易々と有能な人物を手放す訳がない。それが荀ェを信用できない要因であった。

 

「こんな事が続くなら陳留に戻ろうかしら。でも、桂花に逃げてきたって思われるのは癪ね。春蘭は……別に仲悪いわけじゃないから普通の反応で、秋蘭は歓迎してくれそう。季衣も喜んでくれそうね」

 

真名を交し合った短い間だったが共に曹操を支えた仲間たちの顔を思い出していると、

 

「いやぁ、ごめん。天さんと話してたら遅れちゃった」

 

悪いと思っているのか微妙なヘラヘラした声に荀ェは顔をしかめ、そちらを見た。いつも着ている白いキラキラした上着ではなく、その下に着ている黒い肌着姿の一刀が走って近づいてきていた。

荀ェは両手を腰に当てたまま不機嫌そうな顔で、

 

「遅いわよ。それじゃ城の中を走ってきなさい。順路は覚えてるわね?」

「庭をスタートして執務室の前を通って書庫を一周して城壁を回ってここに戻ってくる」

「ならさっさと行きなさい。この後に腕立て、腹筋、背筋、走り込み、休息、新兵に混じっての調練、休息、部屋での政治から軍事まで幅広く勉強、よく体をほぐして就寝。これだけ詰まっているんだから」

「今日は辰さんとの特訓なしなんだ」

「ケ艾将軍は視察に出掛ける司馬懿さまの警護よ。姜維将軍はその間の仕事を手伝うことになっているわ」

「そうなんだ。あ、だからさっき天さんが……」

 

そこまで言って一刀はしまった、という顔をしてそっぽを向いた。何か知られてはならないことを言おうとしたのだろうと推測する荀ェは、

 

「大方、見張りを多くしておくから安心しろ、とでも言われたんでしょ?」

「うん……ごめん」

「どうしてあんたが謝るのよ。悪いとしたらわたしで、あんたじゃないわよ」

「そうだけど、なんかごめん」

「訳わからない。さっさと行きなさいよ」

「う、うん」

 

後ろめたさがあるのか何度も振り返る一刀に「わうっ!」と犬のように威嚇して走り去るのを見送った。はぁ、とため息を漏らして一刀が消えた廊下の先を見る。

「あんたの考えが甘いから監視が増えたって気付いてないのかしら? 気付いてないんでしょうね。……はぁ」

荀ェは花壇の縁に腰掛けて、読みかけの本を開いて読書を始めた。

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一刀は部屋で疲れた体を癒していた。

先ほどまで姜維が指導する新兵に混じって訓練を受けていたのだが、これが予想以上に辛い。今ではそうでもないが、最初に混じった頃は新兵だから厳しくはしないだろうと甘い考えでいた。

姜維は新兵の誰もが思っているその考えを払拭する為に腑抜けた態度を取った新兵に向けて目にも留まらない速さで引き抜いた日本刀のような細長い刀を首に押し当てた。

冷たい刃の感触に顔を強張らせる新兵に「死にたいならその態度を続けろ」と冷たく言い放って刀を鞘に納めて訓練を開始した。

一刀も刃を首に当てられた事があるが、二度とそんなことが起こらないように頑張ろうと心の底から誓って訓練に取り組むようにしている。

その訓練が終わって今は大休憩の時間だ。一刀はこの後に待っている勉強の為に体力を回復させておかなければならない。先生が荀ェなのだからそう思うのも当然だ。

 

「居眠りなんてしたら蹴られるもんな。椅子から蹴落とされるし」

 

まだこの生活に慣れていない頃はよく居眠りをして椅子から蹴落とされて体を強打したものだ。今でこそ気をつけているが、疲れていると眠気に勝てないときがある。

 

「そういえば、そろそろだよな。準備しておくか」

 

よっと体を起こして机に向かった。

教材となる教科書は既に机の上に準備してあり、筆と墨も予備を揃えて机に置いてある。このくらいしないと荀ェが「準備もできてないの? さっさとやれ」と文句を言ってくるからだ。

先生が来る間に復讐しておこう、と教科書を開く。一刀が開いたのは子供でもわかる経済の流れ、という本だ。

需要と供給がどのようにして起こるのかを明確に記された本で、ご丁寧にもそれに絵を載せて詳しく解説されている。初心者にはこういう図や絵で説明する方が簡単らしく、一刀もこの方が分かりやすいとこのやり方には賛成だった。

 

「遅いな。忘れてる……事はないと思うけど、何かあったのかな?」

 

いつもなら壊れるんじゃないかって心配になるくらい勢いよく扉を開いて、「準備できてるでしょうね? さっさと始めるわよ」と挨拶も何もなしに突撃してくるのだが、今日はその様子も気配も感じなかった。

 

「見に行ってみるか。部屋、隣だし」

 

一刀は椅子から立ち上がって部屋を出た。

廊下を見渡しても荀ェの姿は見えず、彼女の部屋の前に立って軽く扉を叩いても返事はなかった。どうして部屋が隣同士なのかというと、司馬懿が独断でそうなるように仕向けたからである。

 

「荀ェ? いないのか?」

 

呼びかけてみたが返事がない。厠にでも行っているのか、と思って部屋に戻ろうとすると、部屋の扉が開きかけていることに気が付いた。無用心だなぁ、と思いながら扉を開けて鍵を見るとだいぶ古くなっていて止め具が緩んでいた。

 

「こりゃ直さないと危ないな。簡単に部屋に入れちゃうし」

 

それを証明するように扉を開けたまま部屋へと侵入した。一刀の部屋と何ら変わらないように見える荀ェの部屋だが、そこは荀ェなりのオシャレで日当たりのいい場所に花が一輪飾られていて、それだけで窓の印象はガラッと変わって見えた。

少し見習おうと考える一刀は机に目を向けた。

 

「……なんだこれ? 手紙?」

 

無造作に机の上に広げられた紙を手に取った。まだ書きかけのようで文章が途中で途切れ、傍には墨のついた筆が置かれていた。一刀は内容はまったく理解できないが、一部分だけ読むことが出来た。

 

「北郷一刀? どうして俺の名前が……」

 

手紙の書き出しに自分の名前が出てきた事に驚きつつ、なんとか頭を捻って読み進めていくと、

 

「北郷一刀は駄目人間……しかし、注意すべき人物? なんだこりゃ」

 

読めない字は片っ端方省いて、読める字だけを読み取って一刀なりに解釈するとそんな風になっ

た。本当はもっとごたごたと書かれているのだが、今の一刀の読解力ではそれが精一杯である。

 

「これって曹操への密書? 俺のこと報告してるっぽいし。じゃあ、天さんが言っていたように荀

ェは曹操軍のスパイ?」

 

腕を組んで頭を悩ませる。この手紙を見る限り、荀ェは司馬懿軍に仕向けられた斥候で、天の御遣いである北郷一刀のことを密告していると考えるのが妥当である。その心配を姜維もしていたし、一刀の手には証拠が握られているのだ。

 

「なによ“すぱい”って。それって天の国の言葉?」

 

怪訝そうで不機嫌な声が部屋に響いた。そちらと見ると、相変わらずの冷ややかな視線に拍車をかけた冷め切った目をした荀ェが腕を組んで壁にもたれかかっていた。苛立っているのか、壁をドンと一度叩いて一刀に近づいてくる。

 

「勝手に人の部屋に入るなんていい趣味してるじゃない。色欲疫病神」

「まだその名前……今はいいや。これ、どういうこと? 曹操に俺のこと知らせるつもりだったの?」

「違うって言っても信じるかしら? ……それはあまりの扱いの酷さに陳留に戻る為の手見上げに作ってたまでよ。でも信じないでしょ? わたしにかかっている疑いを考えれば嘘だと思うのが当然よね。それで? どうする気?」

「どうするって?」

 

キョトンとした顔で一刀は荀ェを見つめた。その態度に呆れと苛立ちが混ざった微妙な表情で荀ェは迫っていく。

 

「あんた馬鹿? 司馬懿仲達に報告するかしないか。今この場でわたしをどうするか。やる事なんて山ほどあるでしょ? 男なんだからやりたい事がたくさんあるんじゃなの?」

「これを使って君を脅迫しろってこと?」

「そのくらい覚悟は出来てるわ。この部屋であんたの姿を見た瞬間にね」

 

逃げるつもりは毛頭ないらしい。一刀を下から睨みつけるように見上げ「やるならさっさとやりなさいよ」と強気な姿勢でいる。手紙と荀ェを交互に見て一刀はうぅ〜んと悩んだ。

 

「特にこれといってやってほしい事とかないんだけどなぁ。あ、そうだ。俺の名前を普通に呼んで、じゃ駄目?」

 

予想外の回答だったようで今度は荀ェがキョトンとした表情になった。この状況、弱みを握った相手に対して何らかの嫌がることを強要するとばかり思っていた一刀の突拍子もない言葉に目を丸くするしかなかった。嫌なことと言えば名前を呼ぶことも嫌なのだが、そんな小さなことは今はどうでもいい。

 

「それだけ? もっと自分に素直になれば? 後々掘り出されても困るんだけど」

「あ、じゃあ勝里さんの為にちゃんと働くってのはどう? 俺もサポート……弁護するからさ。今の扱いが不満なら改善すれば問題ないんだよね?」

「そりゃ世話係みたいな仕事じゃなくて、政務に関わらせてくれるなら文句はないけど……あんたにそれだけの権限があるの? 疑惑の人物を扱うのは賭けよ? もしも本当は内通してて情報が漏れていたら、あんたの首だって危ないかもしれない。わかってる?」

「内通はしてないんだよね?」

「そりゃしてないけど……信じるの? わたしを」

 

窺うように上目遣いで見上げてきた荀ェに一刀の胸が高鳴った。今まで見たことのない女の子らしい仕草に可愛いと思ってしまった。少し拗ねたような表情で見上げてくる荀ェは何かに似ていると思いつつ、無意識に手が頭を撫でていた。

 

「あ、子犬に似てるんだ」

 

思わず漏れてしまった言葉に荀ェが超反応し、頭に乗せられた手をバシッと弾いてキッと睨みつける。

 

「子犬って何よ! あんな可愛らしい生き物と一緒にしないでくれる?」

「子犬みたいで可愛いっていう意味なんだったんだけど?」

「か、可愛い……またあんたは可愛いなんて言って! 小生意気で口が悪いわたしが可愛いわけないじゃない!」

「いやいや、前にも言ったけど荀ェは可愛いって。俺が見てきた中でも上のほうにいるよ。前から思ってたけど自分を悲観しすぎじゃない? もっと自信を持ってもいいと思うけど」

「あぁ〜もう! あんたと話してると子犬とか可愛いとか不愉快だわ! さっさと勉強始めるから部屋に行け! わたしの部屋から出て行け!」

「ちょ、押さないで! わかった、出て行くから!」

 

荀ェに背中を押されて部屋から閉め出された一刀は隣の自分の部屋に足を向けた。

 

「荀ェでもあんな表情するんだ。女の子だし、当たり前か」

 

背中を押されている時にチラリと見た顔を真っ赤にして恥ずかしそうな荀ェの顔を思い出しつつ、一刀は部屋に戻って勉強の支度を整える。

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空もすっかり暮れた夜。執務室で仕事をしていた司馬懿はようやく最後の書類を片付けて今日一日の職務を終えたところだった。筆を片手に書類と向き合っていたおかげで目蓋が重く、精神的な疲労が体の内側でじわじわと広がっていくのがわかった。

それは同じく仕事をしていた徐庶も同じだったようで、睡魔に勝てずにスヤスヤと吐息を漏らしながら気持ち良さそうに眠っている。毛布が掛けられており、風邪の心配はない。

こんな日はさっさと寝てしまうのが一番なのだが、司馬懿は書類とは違う机の箸に置いてある書簡を手にとっておもむろに広げた。

広げられた書簡には今日一日の荀ェの監視報告が書かれており、これは姜維が作成したものだった。仕事をしていたので何か面白い事が起こっていても知ることができないので、ごく僅かな責務と大部分を占める興味で姜維に提出させたのだ。

 

「荀ェさんが姉に手紙を送りましたか。天は抜かりがないようですね」

 

報告書には手紙の写しと思われる文字が書かれており、そこには「わたしは戻らない」の一言が添えられていた。他にもいろいろ書かれていたのだろうが、姜維は無駄な部分を省いて重要な部分だけを抜き出したようだった。

 

「荀ェさんは曹操ではなく、わたしを選んでくれたのですか。いや、この場合は今の表現は正しくありませんね」

 

まだ文字が続いており、その先を見ていくと荀ェの部屋でのやり取りが記されていた。曹操の元に戻ろうとし、一刀に露見したが丸く治めたこと。それを確認して報告書を読み終わり、司馬懿は腰掛けに深く座りなおした。

 

「これで曹操の力を削ぐことができました。彼女は乱世を駆け抜ける英雄でしょうし、今でさえ数

 

多くの者が彼女の元に集まっている。これからのことを考えると好ましくありません。荀ェさんを取り込めたことは大きな一手となることでしょう」

夏侯惇、夏侯淵姉妹をはじめ軍師に策を用いて曹操に気に入られた荀ケ、頭角を現し始めている許?。まだ将としては未熟だが磨けば光る楽進、李典、于禁の新人たち。他にも斥候の報告では数多くの勇将知将が控えているそうだ。

司馬懿の戦力はケ艾、姜維、徐庶、そして荀ェの四人だけ。一刀も将軍兼軍師として頭数には入っているが、実際の戦いが始まれば一刀は戦力として加算するかどうかは今後の頑張り次第である。

 

「さて、報告書も読み終えましたし、少し仮眠を取るとしますか」

 

用意していた毛布に体を包み、司馬懿は憑き物が取れたような気分で眠るのは久しぶりだと、眠りに着いた。

 

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どうも傀儡人形です。

リアルが忙しいので投稿遅れがちです。

まぁのんびりやっていくので、のんびりまってくれると

うれしいです。

 

説明
どうも傀儡人形です。

かなりの駄文。キャラ崩壊などありますのでご注意ください
オリキャラが多数出る予定なので苦手な方はお戻りください

書き方を試行錯誤しているのでおかしな箇所あります。
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コメント
荀ェ逃げて!超逃げて!知らなかったのか?種馬さんからは逃げられない ってかんじですねw(PON)
・・・ふむ、やはり餌食ですかw(よーぜふ)
荀ェさんに種馬の手が伸びているw(hokuhin)
タグ
真・恋姫†無双 司馬懿 ケ艾 姜維 徐庶 荀ェ 一刀 

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