真・恋姫†無双〜神の意志を継ぐ者〜 第六幕 |
※この物語は『北郷 一刀』に対し、オリジナルの設定を含んでいます。
基本的に蜀ルートです。
それでも大丈夫という方のみ、どうぞ。
「休んでる所すまんな。呼び出してしまって」
侍女に連れられ、玉座の間に入った一刀に白蓮は申し訳なさそうに言った。
そこでは既に桃香、愛紗、鈴々、星もいた。
一刀も呼び出された理由は解っていた。
最近、巷を騒がせている黄巾党の話だろう。
現在の大陸の情勢は今までと明らかに変わっていた。
匪賊の横行、大飢饉、疫病の流行が重なり民の心身ともに疲弊していった。
そんな時だった。
とある地方太守の暴政に苦しんでいた民が、民間宗教の指導者に率いられて武装蜂起し、官庁を襲撃するという事件が起きた。
本来なら烏合の衆である民の一揆など、官軍がすぐに鎮圧する筈だった。
だが、当初の予想と相反し、官軍は返り討ちにあってしまい全滅した。
それが暴徒の勢いを増す事となり、周辺の街にまで侵攻した。
そしてあっという間に暴徒の勢いは大陸の三分の一まで乗っ取ってしまった。
暴徒達は共通して黄色い布を身に着けていた。
その事から暴徒を『黄巾党』と呼んだ。
最初の鎮圧に失敗し、狼狽した朝廷が地方の軍閥に討伐令を出したのはつい昨日の事だった。
つまり、これはもはや朝廷に暴徒を止める力が無いという事だった。
白蓮の呼び出した話は、やはりその討伐令に関する事だった。
「で? 白蓮はどうするんだ?」
「私は既に参戦する事を決めているのだが・・・」
「白蓮ちゃんがね、これは私達にとって好機なんじゃないかって」
白蓮の言葉を桃香が続けて言った。
「俺達が独立する為のか?」
「察しが良いな、北郷」
白蓮は頷いた。
黄巾党の討伐で手柄を上げれば朝廷より恩賞を賜り、それなりの地位を得られる。
そうすればもっと沢山の人を救えるという事だった。
「残念ながら、今の私の力はそれほど強くない。そりゃ勿論、もっともっと力をつけて、この動乱を収めたいとは思っているけど今すぐは無理だ。そんな私に桃香を付き合わせる訳にもいかない。時は金よりも貴重なんだから」
「・・・・・・なるほど。ま、そっちもそろそろ俺達の扱いに困ってるだろうしな」
「え?」
「ご、ご主人様?」
一刀の指摘に桃香はキョトンとなり、愛紗が動揺する。
一方で、指摘された白蓮は苦い顔をした。
「最近の討伐退治で愛紗と鈴々の活躍は近隣の街まで知れ渡ってるからな。太守としては、部下が自分より名声を上げるのはマズいんだろう?」
「そんな、ご主人様・・・白蓮ちゃんが、そんな事を・・・」
「いや、桃香。北郷の言う事も尤もだ」
白蓮を庇おうとした桃香を、白蓮自身が制した。
「実際、私はお前達の扱いに困っているんだ・・・名声もあるが、それよりもお前は共に机を並べた学友だ。そんなお前を、どの地位に置けば良いのか解らないんだ」
真名で呼び合う事を許した学友を顎で使うような事は出来ない。
かと言って、桃香を此処で燻らせておくのも気が引ける。
それが今の自分の考えだと、白蓮は言った。
「ぱ、白蓮ちゃん・・・」
桃香は感動で体を震わせ、おもむろに白蓮に抱き付いた。
「ありがとー!」
「ば・・・こらやめろ! 恥ずかしいだろ!」
「ありがと〜」
暫くの間、桃香の熱い抱擁は続くのだった。
「まぁ独立するのは良いけど、問題は手勢か」
白蓮の下を去る事は満場一致だが、問題が無い訳ではない。
褒賞として白蓮からある程度の賃金は得られた。
後は手勢だった。
白蓮の下を去れば、再び四人だけになってしまう。
そうなると、黄巾党討伐に参加する『軍』ではなくなってしまう。
「はい。手勢が無ければ、黄巾党討伐に参加出来ません」
一刀の言葉に愛紗が頷く。
討伐に参加できなければ、朝廷からの恩賞など貰える筈も無い。
となれば、結局また誰かに召抱えて貰わなければならない今と変わらない生活を送る事になる。
「手勢ならば街で集めれば良い」
そんな時、星が唐突に言って来た。
「な、伯珪殿?」
「お、おいおい! 私だって討伐軍を編成する為に兵を集めなくちゃいけないんだから、そんなの許せる筈・・・」
流石に自分の街で兵を集められるのは困ると言う白蓮だが、星はニヤッと笑って言った。
「伯珪殿。今こそ器量の見せ所ですぞ」
「うっ・・・」
「それに、伯珪殿の兵達は皆勇猛ではありませんか。義勇兵の五百人や千人、友に門出に贈ってやれば良いのです」
「む、無茶言うなよぉ・・・」
「私も勇を奮って働きましょう。どうです、伯珪殿?」
「むぅ〜・・・ま、まぁ余り多く集めないでくれると助かるけど・・・」
星に諭される形で折れた白蓮。
「じゃあ桃香、愛紗。手配頼む」
「まっかせなさ〜い♪」
「御意。では早速行動しましょう」
白蓮の許しが出たことで早速、兵士募集の手配に取り掛かる愛紗。
「はあ・・・仕方ない。こうなった以上、私も出来る限りの協力はさせて貰おう」
観念した白蓮は、星に兵站部に武具や兵糧の提供を手配するよう指示した。
それに頷いた星は、特にする事のない一刀と鈴々を伴い、兵站部へ赴く事になった。
兵站部へ向かう途中、一刀は先を歩く星に向けて言った。
「悪かったな。白蓮の客将なのに、彼女の戦力を削るような事させて」
「さて、何の事やら」
はぐらかす星に、一刀は彼女の性格を何となく理解した。
自分の思いつきを素直に実行とするというか、人をからかって楽しむというか・・・微妙に兄に似てる気がした。
「ところで北郷殿」
「ん?」
「此度の討伐に際して、何か策の様なものはおありか?」
一転して、星は真剣な表情で尋ねて来た。
その質問に、一刀は髪を掻きながら天井を見上げる。
「さぁな・・・集まる義勇兵の数や相手の規模によるな。今の時点じゃ何とも言えない」
「なるほど。しかし余り悠長な事をしていては、功名の場が無くなるのでは?」
「そうでもないと思うけどな」
「? と、仰いますと?」
「黄巾党ってのは民衆が今の朝廷に不満を持って集まった連中だからな・・・たとえ鎮圧されても、したのは地方の諸侯。朝廷に力が無いと解れば、どいつもこいつも次の天下を狙おうと動くさ」
そうなれば功名の場など関係ない。
大小どの邑も様々な思惑を持つ事になる。
大国と同盟を結ぶ、小国を落とす、そうした時代の変革は必ず訪れる。
一刀は、歴史上そうなる事を知っているが、たとえ知らなくても力の無い王朝は、次代の強者によって滅びるのが常である。
「だったら此処で焦らなくても、いくらでも機会はやって来るさ」
「ふむ・・・目先の利ではなく、更にその先の利を得ようという訳ですな」
「まぁすぐ手柄が立てられるなら、それに越した事はないけどな」
「確かに・・・いや、中々考えておられるな」
一刀の考えに、星は素直に感心する。
「ならば私もその時代の激流に身を投じなければなりますまい・・・・この乱世の世、我が武がどこまで通じるか知りたいのも武人の性」
無論、その根底は自分の自分の武で弱き民を守りたいという想いがあると星は付け加える。
「白蓮と一緒にか?」
「さぁ、どうでしょうな。所詮、私は一武人。国を治めようとは思わぬ・・・かと言って、伯珪殿にこのまま仕えるとも限らぬ」
現在の星の立場は、白蓮の客将。
正式な家臣ではなく、好意によって力を貸しているだけに過ぎない。
このまま白蓮に仕えるか、彼女の下を去り諸国漫遊し、本当に自分の仕えるべき人物を見定めるか・・・それは星自身も決まっていなかった。
「無論、その仕えるべき人物には貴方も含まれていますぞ、北郷殿」
「そりゃ光栄だ」
「何せ、あんな旨いメンマ丼を作れるのですからな〜」
最後の方は冗談めいて――微妙にマジっぽいが――ハッハッハと笑いながら言う星に、一刀は肩を竦めた。
そのまま彼等は星に案内され、兵站部へ向かった。
一刀が兵站の受領手続きをし、桃香達が街で義勇兵を募る。
その作業は一週間ほどかかり、白蓮の下を離れる出発の日。
「沢山集まってくれたねー」
目の前に整列する義勇兵の数に桃香は嬉しそうに言った。
盗賊退治で高まった愛紗、鈴々の勇名や、一刀の天の御遣いという肩書きも相まって、集まった義勇兵の数は六千人にまで及んだ。
その中には、街だけでなく近隣の邑からも志願した者も入っている。
これだけの数が集まった事に白蓮は微妙に顔を引き攣らせていた。
「しかし、これからどうしましょうか」
「そうだな・・・」
愛紗の言葉に一刀は頷く。
六千人もの義勇兵が集まってくれたのは正直嬉しい。
だが、それは同時に自分達が彼等を養っていかなければならないという事だった。
桃香の志に同意して集まってくれたとはいえ、彼等にも生活はある為、タダで戦に参加してもらう訳にはいかない。
また白蓮のお陰で、戦に関しての兵糧に関しては最初の内は持つだろうが、この人数ではそう遠くない内に尽きるだろう。
「こうきんとーを探し出して、片っ端からやっつけるのだ!」
余り深く考えていない鈴々が愛紗の疑問に答える。
「それもそうだな」
一刀は、それも一理だと考える。
黄巾党の規模は大きく、六千人の兵でも相手にならない。
なら、鈴々の言うように黄巾党の末端から潰して行き、少しずつでも名声を上げていくのも手だった。
「さて、どうするか・・・」
果たしてこの手で行くべきかと考えているその時だった。
「しゅ、しゅみましぇん! あぅ噛んじゃった」
「?」
どこからか可愛らしい声が聞こえ、一刀達は辺りを見回すが、声を上げたであろう人物の姿は見えなかった。
「はわわ、こっちです。こっちですよ〜!」
「え〜と・・・声は聞こえど姿が見えず」
「ふむ? 一体誰が・・・」
桃香、愛紗も不思議そうにキョロキョロと首を振る。
だが、やはり声の主の姿が見えないと、頬を膨らませながら怒った様子の鈴々が言って来た。
「皆、酷いこと言うのだなー。チビをバカにするのは良くないのだ」
鈴々を見るように視線を下へやる。
するとそこには、いつの間にか二人の小柄な少女が立っていた。
「こ、こんにちゅは!」
「ち、ちは、ですぅ・・・」
ベレー帽を思わせる帽子を被った金髪の少女と、魔女を思わせるトンガリ帽子を被った蒼銀髪の少女が、緊張した面持ちで一刀達に向けて挨拶する。
「・・・・・・誰?」
いきなり見知らぬ少女等に挨拶されて一刀は少し驚きながらも尋ねた。
「わ、私はしょ、諸葛孔明れしゅ!」
「私はあの、その、えと、んと、ほ、ほと、ほーとうでしゅ!」
ずるぅっと一刀は大きく体勢を崩した。
「ご、ご主人様!?」
慌てて愛紗が一刀の肩を支えた。
「わ、悪い」と謝りながらも、一刀は普段の彼からは見られない驚愕に満ちた顔で二人の少女を見る。
「しょ、諸葛孔明と・・・何だって?」
カミカミだったので恐る恐る、トンガリ帽子を被った少女にもう一度聞いてみる。
「鳳統でしゅ! あぅ・・・」
(マジか・・・)
一刀は我が耳と目を疑った。
諸葛孔明と鳳統・・・三国志演義において、『伏龍』、『鳳雛』と称された天下の知謀を持つ二人の名前だった。
その二人が同時に目の前に現れた事に一刀は戦慄する。
演義において、この二人は劉備に仕える事になる。
だが、それは物語のもっと先の話になる筈だった。
諸葛孔明は劉備が放浪している最中に三顧の礼を以ってその臣下となり、また鳳統は三国志における中盤最大の戦である赤壁の戦いで初めてその姿を現す。
その二人が、この黄巾党討伐のタイミングで現れるとは、一刀にとって余りにも予想外過ぎだった。
後ついでに二人揃って、小動物を思わせるような少女というのも意外だった。
「諸葛亮に鳳統か・・・あなたたちのような少女がどうしてこんな所に?」
二人の名前を聞いて愛紗が尋ねる。
「あ、あのですね、私たち荊州にある水鏡塾っていう水鏡先生という方が開いている私塾で学んでいたのですけど、でも今この大陸を包み込んでいる危機的な状況を見るに見かねて、それで、えと・・・」
「力のない人達が悲しむのが許せなくて、その人達を守る為に私達が学んだ事を活かすべきだって考えて、でも自分達だけの力じゃ何も出来ないから、誰かに協力してもらわなくちゃいけなくて・・・」
「それでそれで、誰に協力してもらえば良いんだろうって考えた時に、天の御遣いが義勇兵を募集してるって噂を聞いたんです!」
「それで色々と話を聞く内に、天の御遣いが考えていらっしゃる事が、私達の考えと同じだって解って、協力してもらうならこの人だって思って・・・」
「だからあの・・・わ、私達を戦列の端にお加えください」
「お願いします!」
一気にまくし立て、孔明と鳳統は真剣な眼差しを一刀達に向けて懇願する。
「んー。ご主人様、どうしよっか?」
「戦列の端に加えるには、歳が若過ぎるような気もしますが・・・」
「それなら鈴々はどうなんだ?」
「それはそうですが、鈴々の武は一騎当千。歳は若くとも充分に戦力になります。しかし、二人は見た所、指は細く、体格は華奢・・・戦場に立つには可憐過ぎるかと・・・」
「武芸が立つ人間だけが戦場に立つ訳じゃないけどな・・・なぁ、桃香?」
「そうそう。私なんて、頭もそんな良くないし、剣の腕なんてからっきし。自慢できる所なんて全然・・・・・・ご主人様、私、故郷に帰って筵編みに戻る!!」
「ちょ! 桃香様!?」
自分で言っといて泣き出して走り出そうとする桃香を愛紗が後ろから羽交い絞めにして止めた。
「離して愛紗ちゃん! どうせ私なんて胸が大きいだけの何にも出来ない能天気娘なんだよー!」
「そんな卑屈にならないでください! っていうかご主人様、止めるの手伝ってください!」
助けを求める愛紗だったが、一刀はそれをスルーして孔明と鳳統に尋ねた。
「これから、今の戦力で黄巾党の末端を叩いて少しずつ名声を上げようか考えてる。この事に関してどう思う?」
「ふぇ!? わ、私達の考えですか!?」
「ああ」
「あの・・・その方針で良いと思いま――――」
「ご主人様! 敵を選ぶというのですか!?」
孔明が答えようとした所で、ジタバタ暴れる桃香を止めていた愛紗が割って入って来た。
「ひゃう!」と驚きの声を上げる孔明は、一刀の後ろに隠れた。
「弱い者を狙うなど卑怯者のする事です!」
誇り高い愛紗は、弱い敵を選んでそいつ等を倒し、名を上げる事に抵抗があった。
そんな彼女に、一刀は冷静に言った。
「合理的に考えろよ。今の俺達じゃ黄巾党の本隊を倒すなんて不可能だ。それに六千人もいたら、兵糧は近い内に尽きる。兵糧が無ければ、これから先、戦えるものも戦えなくなるぞ」
「は、はい。そ、そうなってくると方法は二通りです」
孔明は一刀の後ろで震えながら愛紗に説明する。
「名を上げつつ近くの邑や街の富豪達に寄付を募るか・・・」
「敵の補給物資を鹵獲するしか、今の所解決方法は無いと思います」
孔明の説明に、鳳統が続けた。
「そういう事だ。時間と手間を考えると、後者の方が手っ取り早いのは解るだろう?」
三人に諭され、愛紗は目を逸らして「はい」と頷いた。
「確かに・・・それしか今は出来る事はありません。桃香様、よろしいですね?」
「どうせ私なんて筵編んで、怪しい人に騙されて剣盗られて、お母さんに川に投げ込まれて・・・」
「桃香様!!!」
「きゃ!? な、何、愛紗ちゃん?」
何だか変な世界に旅立ちかけていた桃香の耳元で思いっ切り怒鳴る愛紗。
桃香はハッと正気に返り、改めて今後の方針を説明され、その意見に同意した。
そして一刀は愛紗に向き直り、孔明と鳳統を一瞥して言った。
「で、愛紗。この二人は、どうするか迷っていた俺達に今後の方針を示してくれるだけの知恵がある。まだ戦列に加えられないって言うか?」
「・・・・・・」
そう言われて愛紗は、まだ怯えている孔明と鳳統を見る。
「愛紗ちゃん」
ポン、と桃香に肩を叩かれ、愛紗はフゥと息を吐くと、片手で拳を作り、その拳をもう片手の平に当てて目を閉じた。
「私は関羽。字は雲長・・・真名は愛紗だ」
「「!」」
愛紗に続き、桃香と鈴々も彼女と同じ姿勢で孔明と鳳統に向き直る。
「私は劉備。字は玄徳。真名は桃香だよ・・・宜しくね」
「鈴々は張飛! 字は翼徳。真名は鈴々なのだ!」
愛紗、桃香、鈴々に自己紹介され、そして真名を教えられた事で驚くが、すぐに笑顔を浮かべ、彼女達と同じ姿勢で自分達も改めて名乗った。
「姓は諸葛、名は亮。字は孔明。真名は朱里です」
「姓は鳳、名は統。字は士元。真名は雛里です」
「「よ、宜しくお願いしましゅ!」」
こうして天下の名軍師として誉れ高い諸葛孔明こと朱里、鳳士元こと雛里は、一刀達の戦列に加わる事になった。
街を離れ、荒野を進軍する義勇軍。
その際、朱里、雛里の指示で細作(間者)を放ち、黄巾党の動向を探る。
暫く行軍していると、兵士の一人が駆け寄って来た。
「申し上げます!」
「ここより前方五里の所に、黄巾党とおぼしき集団が陣を構えております! その数、約一万!」
「い、一万!? ちょっと多過ぎだよ〜」
兵士からの報告を受け、桃香が相手の数に驚く。
一万対六千。
勝負にならない差ではないが、苦戦は免れないというのが普通の考えである。
「マズいな・・・まだこの辺の地域は把握してないんだよな」
「大丈夫です、ご主人様。私達が、地図を持ってます」
一刀の呟きを聞いた朱里が鞄の中から一枚の地図を取り出した。
皆が、その地図を覗き込むと、その出来栄えに感心した。
「これは・・・私達の地図より正確だな」
「その地図・・・市販のものですよね?」
雛里曰く、市販の地図は行商人が使う街道や山道など必要最低限のものしか描かれておらず、詳細な部分は描かれていないのだと言う。
精巧な地図は、官軍か、もしくは各地の太守などが独自に調査して自分達で作ったものを使用しているらしい。
「幸い私達は水鏡先生のツテで正確な大陸の地図を見る事が出来ました。その記憶と此処に来るまで来た所をまとめたものです。だからおおよその地理は解りますよ」
「わ、解るって、ひょっとして大陸全土の地理を覚えてるの!?」
驚く桃香に雛里は、おどおどしながら頷く。
「ふぇ〜・・・凄いね、ご主人様」
「・・・・・・・」
「あれ? 何で顔背けるの?」
桃香が一刀の方を見ると、彼は少し気まずそうに視線を逸らした。
言えない。
子供の頃に、世界地図に載ってる国の名前と場所は全部覚えたなんて。
言ったら、また桃香の心を折ってしまいそうで何となく言えなかった。
「お、俺も作ろうと思ってたんだけどな・・・白蓮は持ってなかったし」
一刀は話題を変え、二人の正確な地図を見て言った。
「多分、公孫讃さんは、そこまで気が回っていなかったのかも・・・」
「うー・・・白蓮ちゃんって、時々そういう大ポカをやらかすんだもんなー」
「お姉ちゃんが言うななのだ」
「そ、それもそうだね」
「まぁ白蓮や桃香の詰めが甘いのは今は良いとして・・・」
「ご主人様酷いよ〜」
「まず相手がいるのは、此処から五里先・・・」
桃香の文句を華麗に無視し、一刀は朱里と雛里の地図をジッと見つめ、相手がいる場所を見て眉を顰めた。
「変だな」
「何が変なのだ?」
「いや、此処から五里先って言うと、この位置なんだけど・・・」
一刀が五里先の場所を指す。
その位置は丁度、様々な道が伸びている場所だった。
朱里は頷いて言う。
「はい。そこは兵法でいう所の衢地です」
「くちー? なんなのだ、それ?」
「衢地とは、各方面に伸びた道が収束する場所の事を言うんです」
「つまり交通の要。そこを抑えれば物資の補給なんかが効率良く行える・・・いわば陣営の急所みたいなもんだ」
「なるほど〜。で、ご主人様。それの何が変なの?」
「そこに一万人しか配置していないのが変だと言うんですね?」
「ああ」
朱里の言葉に一刀は頷いた。
「素晴らしい読みです、ご主人様。ならこの戦、千載一遇の好機です」
ニコッと朱里は微笑んだ。
交通の重要拠点に一万の兵しか置いていないのは、戦術において致命的であり、そのやり方から相手が戦略も何も無いただの雑兵の集まりの可能性が高い。
しかし、黄巾党の重要拠点を自分達が攻め落とせば名声は否応なく高まる。
雑兵の集まりと、愛紗、鈴々と初陣で士気の高まっている義勇兵。
それだけで数の差は、かなり埋まるだろうと朱里と雛里と説明した。
「なるほど。だが、このまま正面からやり合っても、まだ勝算は低いと思うが・・・」
「はい。なら、ここからは勝利を導く為の策が必要です」
「勝利を導く策?」
朱里は頷いて説明を続けた。
「本来、敵よりも多くの兵を用意するのが兵法における正道です。でも、それが叶わない場合は、策を用います」
「この場合、地の利を活かして相手の数を減らす・・・理想は狭くて崖になっている場所だな」
そうすれば相手は大人数で攻め切れないし、先に高所を確保すれば上から弓矢で狙い撃ちに出来ると一刀が言うと、朱里と雛里は目を輝かせた。
「ご主人様、凄いです。正にその通り、そこに適しているのが、此処です」
そう言って朱里は、ある一点を指差した。
「此処より北東に二里ほどの所に川が干上がって谷になった場所があります」
「格好の場所だ。相手は雑兵の集まり。自分達より少ない人数で攻めたと見せかけて、この谷に後退すれば、かなりの確率で追いかけて来るな」
特に今の自分達は正規の軍には見えない。
武器は白蓮から支給されたが、鎧などまで全員に行き渡っていない着の身着のままの状態である。
そんな自分達を見れば、敵の油断を買う事も出来る筈だと、一刀が予想すると、朱里と雛里も同意した。
「はい。後は、狭い谷で敵を迎え撃つだけです」
「なら、愛紗は前衛で敵を誘い出して、機会を見て反転。そのまま峡間を目指す」
「御意!」
「お兄ちゃん、鈴々は!?」
「お前は後衛」
「えー!? 鈴々は先陣が良いのだ!」
「反転した愛紗達の殿を守らなきゃならないだろ。愛紗の背中を守ってやれ」
ポンポン、と鈴々の頭を撫でる一刀。
鈴々は「む〜」と膨れるが、仕方ないととりあえず納得してくれた。
「鈴々の補佐役は朱里、頼む」
「御意です」
「ご主人様、私は私は?」
「桃香は俺と一緒に本陣だ。補佐は雛里、頼むな」
「は〜い」
「ぎょ、御意です」
「さて・・・」
作戦も決まり、一刀は腰を手を当てて、黄巾党のいる前方を見据えた。
「行くか」
説明 | ||
今回は早めの投稿です。今回は、一刀の知力の高さが割と発揮されます。ただし、本当に凄いのは次回や、その次になると思います。 | ||
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次の更新楽しみにしてます(ミドラ) 続きがみたいです(黄昏☆ハリマエ) ああ、成程。アニメは一刀出ないもんで見てないんですよね。情報感謝です。(FALANDIA) ↓ アニメ版の話(yosi) あれ、靖王伝家盗られてないか?(FALANDIA) |
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