名家一番! 第七席
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「うわぁ、でっけぇ!! あっ! あそこで売ってるの何?」

 

二人の主である袁紹に謁見するため、猪々子と斗詩に連れられ、南皮の城下町までやってきた。

 

道沿いには多くの店が立ち並び、そしてそれ以上の数の人が行き交っている。

 

陳列されている品から何の店かすぐに分かるものもあれば、生まれて初めて見るような物が売られている店も多い。

 

客を呼びこむ店員の声、顔見知りとする世間話、屋台から聞こえる食器の音など、様々な生活音が溢れかえっている。

 

「はぁ〜、すごい人の数だな。この時代でもこんな大きな町があるんだなぁ」

 

袁紹のお膝元ということもあってか、先ほど俺の尋問をした村とは違い、人も建物もひしめき合い、まさに都会といえる賑わいだ。

 

「一刀、あんまりキョロキョロしてっと、お上りさん丸出しでかっこ悪いぞ」

 

視界に入るもの全てに目を奪われていたら、猪々子に注意されてしまった。

 

「ご、ごめん。けど、どれもこれも初めて見るモノばっかりでつい……」

 

さっきまでは、気が動転していたので余裕がなかったが、自分の置かれている立場が理解できると、冷静に周りを見ることもできる。

 

こうやって、人々の日常生活を垣間見ると、自分が本当に異世界に来たのだと、実感できるなぁ。

 

「クスクス……」

 

「んだよ斗詩? 急に笑ったりしたりして」

 

笑い声を漏らした斗詩に猪々子が怪訝そうに尋ねる。

 

「だって、さっき文ちゃんが一刀さんに言ったことって、私達が初めて南皮に来た時に、姫に注意されたことと同じこと言ってたじゃない。

 

だから、おかしくって」

 

猪々子があれこれ質問したり、あたりをチョロチョロと走り回る画は容易に浮かぶけど、斗詩のはイマイチ想像ができない。

 

……いや、そうでもないか。

 

俺が真名のない世界から来た人間と思い、猪々子の剣から俺を守ってくれたりと、斗詩も好奇心が相当強いんだろう。

 

「だってあの時は、どれもこれも初めて見るモノばっかりでつい……」

 

猪々子それ、俺がさっき言ったし。

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 さて、これから俺は袁紹に謁見するわけだが――、

 

「そういえば袁紹って、どんな人なの?」

 

“姫”って呼ばれているから、やっぱり袁紹も女の子になっているんだろうけど、どんな性格とかある程度知っとかないと、また地雷を踏みかねないからな。

 

「袁紹さまはねぇ、一言でいうと……スゴイ人だね」

 

「うん、あの人はスゴイね」

 

二人とも同じ意見なのだが、どう“スゴイ”のかが全く伝わってこないんですけど。

 

「え〜っと……すごく立派な人物ってこと?」

 

「まぁ、立派は立派だよ。なにしろ四代にわたって三公を輩出した、名門袁家の当主様だからね」

 

猪々子が自分のことのように、得意げに答えているが、初めて聞く単語が出てきたな。

 

「“さんこう”って、何?」

 

俺がその質問をすると、途端にうろたえだす猪々子。

 

「うっ!? え、え〜っと、斗詩! 一刀に説明してやれ」

 

逃げたなコイツ。

 

「“三公”というのは、漢王朝が定めた官制において、最高位に位置する司徒・司空・太尉の三つの官職のいずれかに就いている大臣のことを指します。

 

袁家は、四代にわたって三公を輩出した一族なので、四世三公なんて言われたりもする名門中の名門なのです」

 

「「へぇ〜」」

あれ? 今、俺と一緒に猪々子も感嘆した声を出してなかった?

 

「なるほどねぇ。三公のことはよく分かったんだけど……斗詩?」

 

「はい?」

 

「なんでメガネかけてんの?」

 

斗詩はいつのまにか、インテリメガネをかけていた。てか、この時代にメガネとかあったの?

 

「説明するなら、こっちの方が雰囲気でるかな? と思って、かけてみたんですけど……似合ってなかったですかね?」

 

そう言い、斗詩は指先でメガネの縁を軽く上げた。

 

「いや、似合ってはいるけどね……」

 

どっから取り出したとか、説明するたびにメガネかけるのとか、色々ツッコミたかったが……、

 

まぁ、いいか。可愛いは正義っていう格言もあるし。

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 斗詩の説明から袁紹を現代風に置き換えるとすれば、高級官僚を代々輩出してきたエリート家系の御令嬢ってことか?

 

……う〜ん、会うの不安になってきたなぁ。

 

「そんな身分の高い人に俺なんかが、いきなり会いに行ってもいいの?」

 

自慢じゃないが、俺は学校の先生と話すだけでも緊張してしまうんだよ?

 

「事前に謁見を願い出たい、という書簡は出しておきましたから、大丈夫ですよ」

 

「え? 書簡なんていつの間に出してたの?」

 

「一刀さんを尋問したあの村で、私達が出発するよりも前に早馬を出しましたから、もう袁紹さまの元に届いているはずです」

 

そういえば、斗詩が店の奥に入って何かしていたようだけど、アレは袁紹宛ての書簡を書いていたのか。

 

「けど、事前に願い出たからって、そんな簡単に謁見できるもんなの?」

 

「まぁ、普通なら一月ほど待ってもらわないといけないんですけど、私達二人の推薦ということなら、すぐにできますよ。

 

私と猪々子はこれでも、袁紹軍の全権を任せてもらっている身分ですから」

 

「そうそう。文醜と顔良っていえば、“袁家の二枚看板”で、結構有名なんだからっ!

 

一刀は何も心配せずに、泥舟に乗った気でいればいいんだぞ」

 

「文ちゃん、乗る船間違えてない?」

 

二人の漫才を見ていると忘れそうになるが、やっぱり“あの”文醜と顔良なんだなぁ……。

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「お! 見えてきたな」

 

猪々子が指差した前方には、巨大な塀が延々と横に広がっていた。

 

町に入るときも大きな塀と門をくぐってきたが、この町はどうやら内と外の二重の塀で守りを固めているようだ。

 

この向こう側に袁紹がいるわけか……緊張してきたし、すでに疲れた。

 

ここに来るまで町の人達に、何度呼び止められたことか……。

 

猪々子と斗詩がそれだけ町の人達に慕われている、ってことの証なんだろうけど、みんな話が長いんだもんな。

 

さて、それはさておき――、

 

「袁紹の城って、どの辺りにあるの?」

 

「どの辺りって……目の前にあるじゃん」

 

は?

 

「まさか!? この塀の向こう側全部が、袁紹の城ってこと!?」

 

「そぉだよ」

 

ま、マジかよ……塀の端が見えないくらい広いんですけど? これが、名門袁家コンツェルンの財力ってわけ?

 

「なに? 一刀ビビってんの?」

 

俺の表情の変化を目聡く感じ取った猪々子が、挑発するかのようにニヤついてやがる。

 

「べ、別にビビってねぇーし」

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。謁見には私達も立ち会いますから」

 

「“決して”ビビってはいないが、そうしてくれると非常に助かるよ」

 

「それをビビってるって――」

「さぁ、行こうか! 待たせたら悪いもんなっ!」

 

猪々子がまだ何か言いかけたが、無視して歩を進めた。

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 門をくぐると、さっき通ってきた町並みとまるで別世界だった。

 

まず、静かだ。町ではあれほど溢れかえっていた生活音が、一切聞こえない。聞こえてくるのは足音ぐらい。

 

すれ違う人も皆、汚れも味気もない似たような服を纏い、猪々子と斗詩に気付くと二言三言、事務的なあいさつを交わすだけ。

 

(市役所や図書館でも、もう少し暖かみがあったような気がするな)

 

塀を隔てた世界がまるで違うことに戸惑いながらしばらく進むと、広く長い階段の前で二人は立ち止まった。

 

汚れが一切見られない程に磨きこまれた階段にも驚いたが、階段の先を目で辿っていくと、さらに仰天した。

 

階段の頂上には、今まで見てきた中でもひときわ大きく立派な建物があった。その荘厳な佇まいは見るものを圧倒する。

 

「ひょっとしてここに……?」

 

「はい。ここの本殿に袁紹さまはおられます……多分」

 

「多分?」

 

「う〜ん、私が出した書簡をちゃんと読んでくれているなら、ここの本殿で待ってくれているはずなんですけど……」

 

「自由奔放な人だからなぁ。仕事放り出して、どこかに出掛けてるかもなぁ」

 

「文ちゃんがそれを言う?」

 

「なにぉう!? アタイは姫みたいにお気楽極楽な思考回路じゃないぞ」

 

自由奔放、お気楽極楽な思考回路……なんかイメージしていた人物像と違うな。

 

名門一族のお姫様って聞いてたから、もっとお堅いキャラを想像してたんだけど……。

 

そういうことなら、こんなに身構えなくても大丈夫かな?

 

二人の後ろに付き従い、長い階段を上ると、華美な装飾が施された重厚な扉と、その扉を守護する屈強な兵士が二人立っていた。

 

「文醜将軍・顔良将軍、警邏の任務お疲れ様でした! 袁紹様が中でお待ちです!」

 

兵士達は猪々子と斗詩に向かって拝礼すると、扉の横に下がった。

 

「よかった。ちゃんと待ってくれているみたい」

 

斗詩は兵士達に向かって軽く頷くと、息を少し吸い、

 

「顔良・文醜の両名、ただいま任務より帰還しました!」

 

胆にまで響く声量で扉に向かって叫んだ。

 

斗詩の叫び声に呼応するように、扉がゆっくりと開いていく間、俺は背筋を伸ばし、服装を正した。

 

(いよいよ袁紹姫とのご対面か……しっかし、ここに来るまでの短い間だけでも色んな事があったよな)

 

タイムスリップして、賊に殺されそうになったり、三国志の武将が女の子に変わっていたりと、こっちの世界に来てから驚かされてばかりだった。

 

しかし、袁本初という人物に出会ったことに比べれば、それまでの出来事なんて、取るに足らぬ小事だということを、俺はこの後すぐに痛感することになる……。

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あとがき。

 

第7話いかがだったでしょうか?

あの人が登場すると思い期待してくださった方、申し訳ありません。

どうしてもここで、話を区切りたかったのです。理由は次回を読んでもらえば分かると思います。

 

あと、斗詩にメガネをかけさせたのは完全に私の趣味です、ハイ。

なじるならなじってくださって、大いに結構! しかし私は間違ったことはしていないっ!

……終始かけさせるわけじゃないから大丈夫ですよね? ね!?

 

さて、次回いよいよ“名前を呼んではいけない例のあの人”が登場します。

なるべく“あの人”らしさを出せるよう頑張りますので、よければ次回も見てやってください。

 

ここまで読んで頂き、多謝^^

説明
第7話です。

ボブカット+メガネ+美女
これこそ至高。

よろしければ、今回もお付き合い下さい。
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コメント
>>XOPさん これもよく間違えます……。報告ありがとうございます。(濡れタオル)
警邏の任務ご苦労様でした!→お疲れ様でした(『ご苦労様』は目上が目下に使う言葉なので兵士が将軍に使うのはおかしい)(XOP)
>>こるど犬さん あまり過度に期待せず、肩の力を抜いて読んでもらえば幸いです。(濡れタオル)
>>ヒトヤ犬さん アンソロ買ったこと無いんで知らなかったんですが、斗詩にメガネが似合うと思っていたのは私だけじゃなかったんやっ!(濡れタオル)
>>hokuhinさん 楽しみにしてくれていたのにスイマセン。けど次回は必ず登場しますので…(濡れタオル)
こっ!こんなところに!袁√が〜(泣)これが読みたかったんだ〜!(運営の犬)
アンソロにメガネネタあったな〜(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
うわっ良い所で切るなんてひどいお方だw斗詩が眼鏡かけると、優等生に見えるかもね。(hokuhin)
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真・恋姫†無双 北郷一刀 猪々子 斗詩 名家一番! 

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