転・恋姫?無双 第壱話 |
「こんにちわー!一刀くん居ませんかー?」
玄関から聞こえてきたのは、利発そうな少女の声。
まだあどけなさの残る声の主に呼ばれた一刀という名の少年は、奥の間から顔を出す。
「あれ、思春?もうそんな時間だっけ?」
「あ、一刀!そんな時間だよ、皆待ってるし!」
ゴメンゴメン、と苦笑いを浮かべ、慌てて玄関へ駆けだす一刀。
「一刀様?どちらへお出かけになるのですか?」
「ゴメン紫苑!ちょっと思春と約束してたんだ、夕飯までには戻るからさ!」
「そうなの紫苑。今日はね、一刀と遊びに行く約束してたの」
「これは思春様。そうでしたか、一刀様を宜しくお願いしますね」
「うん!一刀は私が守ってあげるから、紫苑は心配しなくて良いよ!」
「それはそれは心強いですね」
「俺は思春に守ってもらわなくたって平気だよっ!」
「この間蛇見て腰抜かしてたくせに〜」
「し、思春だって蜘蛛が首筋に乗った時泣いてたじゃん!」
「一刀!それ内緒って言ったのに!」
顔を真っ赤に染めて一刀に怒る思春。
それを慣れた様子でかわし、逃げ出す一刀。
その一部始終を見ていた紫苑と呼ばれた女性は、やれやれといった様相の笑みを浮かべると、一刀に一礼して、
「ご主人様も遅くなると心配なさる故、あまり遅くならないようにしてくださいね」
優しい笑顔を浮かべて、「わかってるってばー」と言い表へ駆けだす一刀を見送った。
主からの依頼(一刀の勉強)の事を思うと若干引っ掛かるものがあったが、
それでも一刀の笑顔を見ると、後悔の念も何処かへ消えてしまった。
「さてと、一刀様の宿題、今日は3割増ですね……」
若干サディスティックな笑みに見えたのは読者の思い違いに他ならない。
此処は益州巴郡臨江県
とある街の近郊にある比較的小さな邑。
その邑を代々取り仕切る、北家に一刀は生を受けた。
名を、性を北(ほん)名を郷(ごう)字は興斗(きょと)真名は一刀
として北郷一刀こと北郷は、
近隣の村からも知識人と慕われる北家の長男、一人息子という事もあり両親や祖父母にも愛され非常に恵まれた環境に転生した。
無論、幼い一刀に前世の記憶がある訳は無いが、
周囲の期待にこたえるためにも、良く学び、武の鍛錬も怠らない勤勉な少年と……
若干の悪戯癖はあるものの、将来を期待される少年へと成長していた。
また、邑を取り仕切る父の影響を受け
政にも幼い時から興味を持ち、今では父の仕事を手伝えるほどにまで成長していた。
そんな、将来有望とされる少年はというと……
「お、押すなよ?絶対に押すなよ?」
「押さないって。大丈夫だって」
「語尾が笑ってるよ!本当に押したら思春ともう遊ばないからな!」
池の淵に、細い木の枝に支えられ立っていた。
どう考えても振りにしか見えないだろうが、本人はいたって真剣である。
「もう…ちょ、っ……と、やった!取れたよ思春!」
「あ、一刀!手離しちゃっ」
そう言った時には既に時遅し。
喜びのあまりついうっかり、文字通り手放しで喜んだ一刀は、咄嗟に捕まえようとした思春ごと池へ見事に飛び込んだ。
「あぅ……もお、一刀のおっちょこちょい!手離して自分で落ちたら振りも意味無いじゃん!自爆じゃん!」
「んー!むー!」
ジタバタともがく一刀。
大体身振り手振りでも意味が伝わった思春は、途端に目を泳がせ口笛を吹く思春。
「〜♪ 振りとか何のことかわかんないな〜」
実に分かりやすかった。
「……で、結局アレは大丈夫だったの?」
「ぷぁっ、ばっちりだよ!」
思春に引き抜かれ、水面に顔を出す一刀。
アレとは、一刀の手に握られた桃の実のこと。
池のふちに生えた桃の木が実を付けているのを二人は見つけたのだ。
普段はあまり食べる事の無い桃の実。
市で売っているのを見る事があっても、二人の小づかいでは高根の花。
その桃の実が生っている。しかも無造作に。
当然二人はそれを取ろうと挑戦したのだった。
そして今に至る。
浅い池だったことが幸いして、溺れはしなかったものの、
二人は泥まみれ。一刀は思春の下敷きになった為、どこぞの犬神家よろしく頭から泥に刺さる羽目になった。
決死の思いで採った桃は、手を上に掲げた一刀とっさの判断で死守され、潰れはしなかったが。
「やった!桃だね桃!早く食べようよ一刀!」
「その前に綺麗に洗わないと。ちょっと泥で汚れちゃってるし」
「じゃそこの川で洗えばいいよね!」
一刀の上に乗ったことで被害が少なかった思春。
今回の功労者一刀の手から桃をさっさと奪うと、未だに泥を拭えて無い一刀を放置、
久々の果物にすこぶる機嫌が良い思春は、一刀を置いて一人で駆けだしてしまった。
「あ、思春待って!」
「一刀遅いよ!」
「思春が慌てすぎなだけだよ!」
頭を2、3度振り泥を払い落すと、一人はせっかちな幼なじみの元へ駆けだした。
「思春!待ってってば!」
一刀がせっかちな幼なじみを追いかけ川へ向かうとそこには、
視点を一か所に集中させ、茫然とする幼なじみの姿があった。
「思春?どうし…た……」
視線の先には、超が付く程大柄な熊。
白と黒の斑点状の毛並みは、呼吸の所為か僅かに震えているように見える。
そんな、子供から見れば死の代弁者の様な生き物が、河原で少女と対峙していた。
黒髪に一部白髪が混じった特徴的な頭髪。
凛とした視線と、それを強調するように吊り気味な瞳。
一刀や思春と同じくらいの年なのにも拘らず、手にした巨大な槌をいとも簡単に持ち上げている。
そして、その視線の先の少女は俺たちに気付いたのか、
一瞬だけ慌てた様子を見せるも、直ぐに表情を切り替えると
目配せで一刀たちに伝えてきた。
『気付かれる前に早く逃げろ』と。
無論、俺も思春も熊なんかに敵う筈がない。
少女には悪いが、彼女もそれなりに手馴れの様だし、何より戦闘では一般人の存在なんて邪魔になるだけ。
なんとか冷静な判断を下した一刀は、思春を連れて素早く去ろう、と決めた。
「(思春、早く此処から……)」
「(う、うん。目を合わせないように、そーっと…だよね……)」
いつも気丈な思春が、一刀の手をきゅっと握り締める。
一緒に居ると忘れがちだけど、思春も女の子なんだ。
必死に我慢してるみたいだけども、手は震えてるし、足なんか今にも崩れ落ちちゃいそうなくらい震えてる。
(北郷!しっかりしろ俺!こんな時こそ人を率いて窮地から救うのが俺の仕事なんだから!)
自分に激を飛ばし、確かめるように思春の手を握り返す。
ゆっくり、悟られないように、そーっと。
徐々に河原から遠ざかって、林の中へ……。
思春の震えが俺まで伝わってくる。
俺が思春を守らなくちゃ、じゃなきゃ他に誰が守るんだ…。
自分にそう言い聞かせると、何処からか勇気が沸いてきた。
あと少し、もう少し……。
その時、対峙していた少女が熊の一撃で吹き飛ばされる。
直撃こそ免れたものの、少女は川へと飛ばされ、大きな水柱を上げ水面に叩きつけられた。
対峙していた少女が熊の一撃で吹き飛ばされる。
直撃こそ免れたものの、少女は川へと飛ばされ、大きな水柱を上げ水面に叩きつけられた。
「あっ!」
その瞬間を目撃し、思春が堪らず声をあげる。
慌てて口を塞ぐものの、それだけで熊の気を引くには十分だった。
声に反応し、振り返った熊と目が合う思春。
幼なじみが恐怖によって目を見開く。同時に恐怖の限界を超えたのか、
力が抜けたようにへなへなと座り込んでしまった。
「思春!」
「あ…わ……あ、あ……」
腰が抜けた思春。
それを好機とばかりに、熊はユラリとその巨体をこちらに向け、獲物を追う様に突進する。
迫る熊、怯える幼なじみ。
「クソッ!」
このままでは思春が危険な目にあってしまう。
そんなの許さない。
思春を、俺の家族を傷つけるなんて絶対に。
そう思うと、俺は無意識のうちに護身用の小刀を鞘から抜き、熊の前に立ちはだかっていた。
悪態を吐きながら感じるのは、不思議と力が沸いてくるような感覚。
危機だと分かっていても、無意識のうちに、満足げに頬が緩まる。
力さえあれば、俺は思春を守るれる。
遠いところで、知らない声が俺を止める。
すぐ傍で、思春の息を呑む音が耳を撫でる。
心配しないで。
っ、シュッ──
息を吐きながら、振りかぶり急激に迫る熊の巨大な鈍器の様な前足に短刀を突きたてる。
短刀は熊の分厚い皮を貫き、確かな手ごたえを俺に伝える。
熊は無害だと思っていた生物の思わぬ抵抗に手を引き怒りの咆哮を上げ、恨めしそうに俺をにらみあげる。
しまったなぁ、短刀ごと持って行かれちまった……
武器を失った俺に対して、熊は同じ罠に2度はかかるまいと警戒しつつも徐々に距離を詰める。
その様子を見た俺は、せめて思春だけでも守ろうと幼なじみを自分の後ろに隠すように立つ。
熊は俺に全体重を掛け飛びかかろうとして──
重く鈍い打撲音と共に、その巨体は崩れ落ちた。
重く鈍い打撲音と共に、その巨体は崩れ落ちた。
「っはぁ、はぁーっ……ふぅ、間にあったか」
「……え?」
「大丈夫だったか、怪我は無いか?」
俺と思春を心配そうに交互に見る。
「あ、うん。思春も俺も無事だよ」
「そっか、なら良かった」
ニカッ、と豪快な笑みを浮かべる少女。
思春に手を差し伸べると、一気に引き上げて立ちあがらせた。
「あ、えっと、その……ありがとう。……えっと」
「あ、魏延。ワタシの名前は魏延って言うんだ」
「ぎえん……そっか、魏延ちゃんって凄いんだね!」
「本当、熊を殴って倒しちゃうなんてさ。俺もアレくらい強くなれると良いんだけどなぁ……」
「なんだ?えっと、お前も何が武術をやっているのか?」
「あ、俺は北郷、真名は一刀」
「私は甘寧、真名は思春だよ」
いきなり真名を預けられた所為か、魏延が驚いたように目を見開く。
「呼べとは言わないけど、俺と思春の命を救って貰った恩への礼だと思って欲しい」
「魏延ちゃんが私達を認められると思ったらでいいからね」
そう言うと、魏延は頬を染めて此方を見つめてきた。
睨まんばかりの形相で。
「(俺、何か悪いことしたかな…?)」
「(大丈夫……だと思うけど。軽々しく真名を預け過ぎって怒ってるとか?)」
そう言っているうちにも魏延はこっちを睨み、プルプル震えている。
「あ、あの魏延「焔耶って呼んでくれ!!」ごめんなさいっ!」
『……へ?』
大きな声につい反射条件で謝ってしまった。横で思春も怯えた表情を受かべ……。
一瞬の間の後、3人の間の抜けた声が同時に木霊した。
「あ、や、やっぱり迷惑だよな!こんな男女の真名なんか預けられてもな!本ッ当ごめん!それじゃ!」
「あわ、待ってぎえ、焔耶ちゃん!」
咄嗟に思春が焔耶に声を掛け、焔耶もそれに反応し止まる。
「今、焔耶って……」
「あわっ、……やっぱり駄目だった?」
思春が申し訳なさそうにすると、焔耶がちぎれんばかりに首を横に振る。
「そそそそんなことない!でもさっきごめんなさいって……」
「あー…ゴメン、俺焔耶が怒ってるのかと思って、つい……」
「そんなっ、全然怒ってなんか無い!むしろ嬉しくて、同じくらいの年の人に真名を預けられるなんて初めてで……それでワタシっ!」
そこまで言うと、もじもじして恥ずかしそうに赤み懸かっていた頬が更に染まる。
「なあ思春、コレは天然なんだよな?」
「狙ってやってたら末恐ろしいねー」
若干焔耶の癒し効果に当てられてる二人だった。
「ワタシ、そういうの居なくってさ……その、友達って奴がさ、それでさ……」
焔耶の真面目な語りに元に戻る二人。
なかなか言い出せない台詞の先を呼んだ思春。
「じゃあ私たちが初めての友達だねっ」
「いいのかっ!?ワタシなんかが友達で本当に」
「自分を卑下するような言葉を言っちゃ駄目だよ」
「そうだよ、じゃないと焔耶に真名を預けた俺達まで貶めちゃうじゃないか」
クスクスと笑いながら一刀が焔耶を嗜める。
「…うん、そうだな、ありがとうな!一刀に思春!……って呼んでも良いんだよな…?」
「何時まで気にしてるの焔耶ちゃん。もう友達なんだから遠慮はいらないってば」
「…あれ一刀、私達って何しココ来たんだっけ」
「えっと……あ、そうだ桃だ!洗いに来たんだよ」
そうだったね、と同意の意を口にする思春。
水で泥を流し、受け取った一刀は血を拭った小刀でそれを3等分にする。
「はいっ焔耶」
「え、ワタシも貰って良いのか?」
「もちろんだよ。あ、焔耶ちゃん桃苦手だったりする?」
ぶんぶんと物凄い勢いで首を横に振る。
「そんなことない!そのっ、こういう分けあいって初めてだったから、嬉しくて……」
「じゃあ俺は焔耶の初めての人って訳か」
「初めての、人……か、へへっ」
「ちょちょちょっと一刀!?」
思春が凄く慌てた様子で振り返る。
「あ、そっか。俺と思春が初めての人か」
「はうっ……」
思春が真っ赤になってはわわあわわ言ってるのを、不思議そうに見つめる一刀と焔耶だった。
説明 | ||
第壱話投下です 思春さんがキャラ崩壊しているのは幼少期だからです。 若干デレ気味な思春さんを受け付けない人は プラウザバックをお勧めします |
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サディストチック→サディスティックでは?(紫炎) 作者の名前が・・・(運営の犬) ・・・魏延・・・だと?(運営の犬) ふむ、そしていずれはあの口調でツンデレデレデレになるんですねわかります。 それにしても焔耶可愛いなぁw(よーぜふ) |
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