真・恋姫無双 EP.61 明滅編 |
途方に暮れた様子で、凪は立ち尽くしていた。沙和は岩壁にもたれて、抱えた膝に顔を埋めている。
「真桜……」
親友だった者の名を呟き、夕日に赤く染まった空を見上げた。
(どうしてなんだ、真桜?)
一時は込み上げた怒りにまかせて、村の者たちと一緒に親友を責めたが、落ち着いて考えてみれば腑に落ちないことが多かった。何よりも、真桜が自分たちを裏切るなどとは考えられない。
きっかけがなく、話しかけることが出来ずにためらっていた結果、真桜が村を出て行った。
「ねえ、凪ちゃん……真桜ちゃん、どこに行ったんだろう?」
「わからない……くっ!」
どうしてもっと、話をしなかったのか。責める前に、問いただすべきだったのではないか。凪は唇を噛みしめて、うなだれた。頭の中をただ、ぐるぐると後悔が駆け巡った。その時である。
「あっ、凪ちゃん! 誰か来るみたい!」
「何っ?」
沙和の声で顔を上げた凪は、夕日を背にしてこちらにやってくる人影に目をやった。
「誰だ? 真桜? いや……」
ゆっくりと歩いてくる人影が、ようやく顔がわかるまで近くに来た時、凪と沙和は驚愕に顔を歪めた。
「そんな、まさか……」
「確かに死んだはずなの!」
その顔を忘れるはずはない。村を救ってくれた恩人の顔なのだ。
「華雄さん!」
「久しぶり、なのかな? 今の私は、覚えていないが」
その人物は、村を出て旅だったはずの華雄だった。
何がどうなっているのか、凪と沙和は互いに顔を見合わせた。
「死人ではないぞ? 真桜が私に再び命をくれたのだ」
「真桜が?」
「うむ。技術的な難しいことはわからないが、私は真桜のおかげでこうして新しい命を手に入れることが出来た。だからお節介だとは思いつつも、彼女の親友であるお前たちにだけは真実を伝えるべきではないかと、こうして戻って来たのだ」
華雄の言葉に、再び凪と沙和が顔を見合わせた。
「どういう事でしょうか? 何か知っているのですか?」
頷いた華雄は、自分の知るすべてを話して聞かせた。
村の人々を守るため、身を切られるような思いで設計図を差し出した事。そしてその責任を取るために、村を出て行った事。
「まだぼんやりとした意識の中で、真桜の声を何度も聞いた。生まれたばかりの私に、その声は母の子守歌のようでもあった。何よりも大切な親友が二人……その思い出の一つ一つを、私に聞かせてくれたのだ」
「……」
「共に笑い、共に泣き、共に怒り……そして出来れば、これからもずっと共に生きたかったとな。それが叶わぬ事が、辛いと笑っていたよ」
「真桜……」
「真桜ちゃん……」
突然、凪が走り出す。そして岩壁に向かって、思い切り拳を叩きつけた。
「でりゃあああーーーー!!!!」
ドオンッという轟音と共に岩壁にヒビが走って、その一部が崩れ落ちた。
「凪ちゃん!」
「くそっ! どうして、どうして……私たちだけでも、真桜の事を信じてあげられなかったのだ! どんなことがあろうとも、信じてあげるべきだったのに!」
崩れ落ちるように座り込む凪に、沙和が駆け寄った。
「ならば、信じてやればよい」
そんな二人に、華雄が言う。
「真桜も、お前たちもまだこうして生きている。時間はあるだろう? 彼女は『魏』に向かったようだぞ」
華雄の言葉で、二人の瞳に光が宿った。
「行こうよ、凪ちゃん! やっぱり三人はいつも一緒じゃないと」
「……ああ、そうだな」
二人はすぐさま、旅の支度をするために家に戻って行く。それを笑顔で見送った華雄は、今度こそ村を後にしたのである。
静かな宮殿に、ガラガラという何かを転がすような音が響いた。音の正体は、どうやら廊下を進む車椅子のようだ。小太りの中年の男性を乗せた車椅子を、不気味な白い仮面の男が押している。その横には連れ添うように、豊満な胸を揺らす女性が居た。
奇妙な三人組だったが、車椅子の男性は高貴な人物らしく、すれ違う者は皆、その姿を見つけると端によって顔を伏せた。だが一人、堂々とその行く手を遮るように歩いてくる人物が居た。
「これはこれは、雷薄(らいはく)様」
その人物が、わざとらしい口調で車椅子の男性に声を掛けてきた。一瞬、男性は不愉快そうに眉をひそめたが、すぐに笑みを浮かべる。
「これは張勲殿、お元気そうで何よりだな」
「ありがとうございます。えっと、そちらは確か陸遜さんでしたね?」
「はいー。こんにちは、張勲様」
陸遜と呼ばれた女性が、のんびりと頭を下げる。
「雷薄様がわざわざ宮殿に来られるなんて、何か問題でもありましたでしょうか?」
「いや、何。ちょっとした野暮用だよ。足が不自由とはいえ、たまには顔を出さねばならない事も多いからね」
「そうですか。お体は大事になさってくださいね?」
「そちらこそ、気をつけるようにな。思わぬところから、足下をすくわれかねない。大事な物ほど、手の間から滑り落ちてしまうものだ」
「ふふふ……それは、警告でしょうか?」
「まさか! 経験からの忠告だよ」
二人の視線が絡み合う。互いに笑顔を浮かべてはいるが、雰囲気は張り詰めている。
「それでは、これで」
「うむ。袁術様にも、よろしく伝えてくれ」
会釈をして、張勲が去っていった。それをその場で見送り、その姿が見えなくなると雷薄は舌打ちを漏らした。
「忌々しい小娘め……ふふ、だがあの余裕も今のうちだ。軍を掌握しているのはこちら、孫策を飼っている程度でいい気になるなよ」
呟きながら不気味に笑う雷薄の横で、陸遜はふと仮面の男の様子が気になった。まるで何かの発作のように、小刻みに震えている。
「どうかしましたかー?」
「……」
尋ねるが、返答はない。陸遜は肩をすくめ、再び車椅子を押して歩き出した男の後を追ったのだった。
疲れ果てた顔で、紫苑は家に戻ってきた。何日も何日も、娘の璃々を捜し歩いていたのだ。小さな子供の足で、それほど遠くに行けるわけはない。心臓が破裂するような気持ちで、崖下なども見てみたがどこにもいなかった。
「璃々……」
娘が、自分のすべてだった。自分の命よりも大事な、宝物である。諦めるわけにはいかない。紫苑は食事の準備を始めた。休んでまた、探しに行くつもりだった。
そんな時だった。
「誰か、いるかね?」
戸が叩かれ、声が聞こえた。
「どなたですか?」
「お前の娘の行方について、知る者じゃよ」
「――!」
紫苑は急いで、戸を開けた。そこに居たのは、粗末な服を着た老婆だった。
「娘の、璃々の行方を知っているのですか?」
「ああ……何せ、さらった現場を見ていたからねえ」
「えっ!」
驚く紫苑に、老婆は手紙を差し出す。
「娘を返して欲しければ、この手紙の指示に従うと良い」
「あなたは……」
どうやらこの老婆は、ただの目撃者ではないようだ。紫苑の中に怒りが込み上げ、殺気があふれ出る。それを敏感に感じ取った老婆は、手紙を置いて慌てて側の木に身を隠した。
「おお、怖い。わしを殺せば、娘も無事では済まないよ?」
「くっ、卑怯な」
うめきながらも、紫苑は手紙を拾う。そして中に書かれていた文字を読むと、複雑な表情で顔を歪めた。
「私に、これをしろと?」
「そうじゃよ。どうするね?」
「……わかったわ」
紫苑には、承諾するよりなかった。璃々を無事に取り返す、今はそのことで頭がいっぱいなのだ。忌々しそうに手紙を破り捨てると、準備のために家の中に戻っていく。
ひょこひょことやってきた老婆は、捨てた手紙の切れ端を拾う。
「やれやれ。しかしこれはまた、難儀な仕事だねえ」
そう言って笑う老婆が拾った手紙の切れ端には、『孫策暗殺』と書かれていた。
説明 | ||
恋姫の世界観をファンタジー風にしました。 オリキャラの雷薄という名は、何となく袁術に関係ある人物ということで採用しました。 こういう、何かが起こる前触れという話は何となく好きです。 楽しんでもらえれば、幸いです。 |
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コメント | ||
くそ、紫苑になんてことをさせるんだ(VVV計画の被験者) | ||
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