真・恋姫†無双 外伝:みんな大好き不動先輩 その3
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外伝 その3

 

 

 

「なぁなぁ、かずピー」

「どうした?」

 

 

 

とある日の昼休み、一刀が数少ない男の友人と弁当を食べていると、ふと、その友人が卵焼きを頬張りつつ口を開いた。

 

 

 

「なーんか、かずピーに彼女ができた、って噂があるんやけど、これってマジ?」

「………は?いや、彼女なんていないけど」

「いや、でも朝はいつも女の子と登校するし、帰りは一緒に帰ってる、って目撃情報があるで」

「あぁ、それ、不動先輩だよ」

「ちょ!おま、あの不動先輩と付き合ってるんか!?」

 

 

 

その言葉に、周囲でそれぞれ輪を作って弁当を食べていた女子たちの会話が止まる。皆視線は向けないが、彼の言葉に注目しているのは明らかであった。目の前の及川も同様に真相を探ろうとしているし、一刀は居心地の悪さを感じながらも、返答を口にする。

 

 

 

「先月から、先輩がうちの道場の門下生として朝晩稽古に来ているんだよ」

「………ホンマに?」

「ホンマに」

「………………なんや、かずピーに負けた思うてビクビクして損したわ」

「いや、お前は存在そのものが負けだろう」

「ひどっ!?」

「それはともかく、先輩も凄いよな。朝は自己鍛錬にして稽古は夜だけでいい、って爺ちゃんも言ったのに、朝6時には来て稽古を始めようとするんだぞ?何時に起きてるんだろうな」

「マジでか。かずピーん家はけっこう遠いから、30分前に女子寮を出るとして、5時起きか?………よく起きれるて思うで」

「まぁ、俺は5時には鍛錬始めてるけどな」

「………………………」

 

 

 

不動の熱心さに驚きつつも返事をしていた及川は、今度こそ絶句する。自分の友人は、自分が凄いことをこれっぽっちも理解していないのだ、と。

周りで注目していた女生徒たちも絶句する。『稽古』の辺りで、その手があったかと実行を検討していたところに、まさかの時間設定を設けられ、そこまで出来る不動には敵わないと、一刀を諦めることすら考え始める者もいた。

 

 

 

そんな沈黙に満ちた教室の中で、ただ、一刀が箸を動かす音だけが響いていた。

 

 

 

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部活を終え、着替えた如耶は部室の前で一刀を待っていた。元来女子校であったため男子用の施設は少なく、剣道部の更衣室に関しても、女子が優先的に着替えられるというのがこの武の方式であった。それに苦言を呈する男子部員もいたが、部長である如耶の意向と、部で一番の実力者である一刀が何も言わない為、今ではそれについては何も言おうとはしない。更衣室くらい作ってあげればいいのに、と不動が思っていると、部室の扉が開いた。

 

 

「お待たせしました」

「いや、構わないよ」

 

 

 

いつも通りの短い遣り取りだが、彼女にとってはこれだけで十分であった。一刀は如耶に対して気を遣らない。行動の端々に不動に対する気配りはあるが、気遣いと気配りは異なる。恋愛対象として見られていない感がないとも言えないが、そうやって気の置けない仲とも言える今の関係を、それはそれで満足のいくものである、というのが彼女の結論である。

「………………じゃぁ、行きましょうか、先輩」

「そうだね。今日も地獄の鍛錬が始まるのか」

「地獄って大袈裟な―――」

 

 

 

そうやって会話を楽しみながら帰る姿は、何処からどう見てもカップル以外の何ものでもなかった。

 

 

 

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「さて、それでは始めるかの」

「はい、よろしくお願いいたします」

 

 

 

北郷流の道場には今、3人の姿があった。現北郷流当主の北郷刀之介、次期当主である北郷一刀、そしてひと月前に門下生として入門した不動如耶である。ただし、3人の位置はそれぞれで、刀之介と如耶は道場の中央で対峙し、一刀は広い庭に面した縁側で一人木刀を構えていた。対峙する二人の得物はこれまで通り、普通の長さの木刀と短刀サイズの木刀である。

 

 

 

「………いきますっ!」

「おう!」

 

 

 

言葉と共に如耶は刀之介に斬りかかる。様々な角度から撃を振るう不動の刀を、刀之介はさも、なんでもないかのように逸らしていく。

 

 

 

ガガッ、ガギィ! ガガガ………!

 

 

 

「どうした、如耶?その程度か?たった二十で呼吸が乱れておるぞ」

「わかっております!でも………まだまだです!」

「ははっ、その調子じゃ。じゃが、力は弱めるなよ?」

「はい!」

 

 

 

………これが北郷流の鍛え方であった。もちろん、型や太刀の種類も豊富にはあるのだが、如耶はそれを覚えるに至っていない。理由は至極単純で、これまで振るってきた剣の数が圧倒的に少ないのだ。無限にも思える反復の中から、最前の一振りを求めるのが北郷流。その為の下地作りとして、こうして、唯ひたすらに剣を振るっていくのが、本格的な稽古に入る前の通過儀礼とも言うべきものであった。これまでの門下生もこれをやらされるのだが、最後までやり切れた者は、刀之介の記憶では遙か昔にしか存在しない―――己の孫を除いて、ではあるが。

もちろん一刀もこれを経験している。如耶がどのくらいかかるかは分からないが、一刀が初めて型の稽古をつけてもらったのは十歳の頃である。物心ついた時にはすでに刀を握っていた一刀であるが、少なく見積もっても、7〜8年の歳月はこの、ただ刀を振るうだけに費やしていた。

 

そうして30分程経過した頃、ようやく一度目の稽古が終わった。如耶が全身汗で濡らして肩で息をしているのに対し、刀之介は涼しい顔で鼻歌を歌っている。

 

 

 

「よし、5分休憩じゃ。全力で休んでおけ」

「は…はい………」

 

 

 

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師の合図に、如耶は倒れ込む。部活では自分が指示を出し、休憩の時も正座をしてその綺麗な姿勢で部員たちを眺めている彼女であるが、ここではそのような事はしない。したくても出来ないのである。

常に全力で刀を振り、常に全力で師の刀を躱す。今の不動に求められているのはたった2つであった。だがそれだけに、辛い。初めの頃は10分も打ち合えばクタクタになっていた身体も、この稽古に慣れてきたのか、今ではその30分はなんとか経過させることができた。

とはいえ、まさに疲労困憊と言えるその姿は、部員には見せられないな。そんなことを思いながら、彼女は首を傾けて縁側に立つ一刀を見やる。

 

 

 

「はぁ…はぁ………」

「………………………………」

 

 

 

その視線の先では、一刀が片手で木刀を構えている。その切っ先には数羽の雀が止まっているのが見える。何も知らずに見ると、鳥や動物に好かれるのかとも思えるのだが、そうではない。眼を凝らして見れば、その鳥たちはもぞもぞと動き、飛び立つ素振りを見せている。だがしかし、飛び立ちはしない。

如耶は邪魔をすることを申し訳ないと思いつつも、なんとか声を発して彼に問う。

 

 

 

「か…一刀………それ………どう、やっているのだ?」

「………………………ふっ」

 

 

 

如耶の問いかけに応えるように一刀が息を軽く吐き出すと、それを合図に鳥たちが一斉に飛び立った。それをしばらく見送った一刀は、ようやく彼女を振り返る。

 

 

 

「これも修行のひとつだよ。北郷流でもなんでもないけどね」

 

 

 

一刀は道場で寝そべる如耶に近づく。彼女は身体を起こそうとするが、彼はそれを手振りで押しとどめ、彼女の傍に座った。

 

 

 

「鳥が飛び立とうとするタイミングに合わせて木刀をほんの僅かに下げるんだ。脚に力を籠めていた鳥は、足場が揺れることでタイミングを逃して飛べなくなる。その繰り返しだよ」

「そんなこと…できるのか………?」

「難しいのは鳥がとまるまで静止していることと、鳥の筋肉の動きを察知することだね。最初は鳥をとまらせることすら出来なかったけど」

「………遠いなぁ」

 

 

 

ようやく息も落ち着いた不動は、上半身を起こして呟く。その声に諦観の響きはなく、むしろ憧憬が内包されていることに、一刀は気づかない。

 

 

 

「ほんと、遠いよ………」

 

 

 

再度呟く如耶の頭を撫でてやり、一刀は立ち上がった。如耶もそれに合わせて顔を上げると、道場の入り口から師が戻ってくる姿が目に入る。

 

 

 

「さぁ、稽古の続きじゃ」

 

 

 

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何度目かの稽古を終えたところで、夕食を告げる祖母の声がかかる。お決まりの、稽古終了の合図である。

師が構えを解き、弟子は倒れ込む。今度こそ起き上がれないというように、仰向けではなくうつ伏せで。刀之介はそれを満足そうに眺めると、先に行くぞ、と道場を出て行き、如耶はそれを見送る。祖母もこうなることがわかっているようで、夕食の支度が整う15分前に声をかけられるのは毎度のことだ。

 

 

 

「お疲れ」

「………………」

 

 

 

一度緊張を解いてしまえば、もはや動くことのできない如耶には、その声の主をなんとか見上げることしかできなかった。一刀はいつものように彼女を仰向けにひっくり返して抱き起すと、その腕を自分の肩に回す。言葉遣いからもわかる通り、いまの二人は先輩後輩でも男女でもなく、ただの兄妹弟子にすぎない。一刀はその身体に触れることを遠慮する様子もなく、彼女を立たせ、ひきずるように道場を出て行く。

 

これもまた、いつもの光景であった。

 

 

 

 

 

 

「如耶ちゃん、お代わりはどうする?」

「………いただきます」

「はい。大盛りかしら?」

「………大盛りで」

 

 

 

祖母の言葉に、如耶はひょっとすれば生気のない声で答える。会話がワンテンポ遅れているのは全身を襲う疲労のせいであろう。無言で茶碗を出されても祖母は気にしないが、それでも返事をするのは不動の律儀な性格が故だ。

 

 

 

「婆さん、儂もお代わりじゃ!」

「俺も」

「はいはい、ちょっと待っててね」

 

 

 

笑顔で茶碗に米をよそう祖母の料理は、いつものように和食中心である。肉料理も出ることは出るのだが、修行で大変な新しい門下生を思って、どれも消化のよいものを作っているのは彼女の優しさだろう。もちろん、得意料理の種類も関わってはいるかもしれないが。

 

 

 

「はい、まずは如耶ちゃんね」

「………ありがとうございます」

 

 

 

渡される茶碗には先ほどの言葉通り、2杯分はある米が盛られている。それを受け取った不動は、そこに彼女が受けた躾など忘れたかのように、がつがつと口の中へ送る。

 

食わなければ強くなどなれない。

 

初めて稽古をつけてもらった日に、疲労によりあまり食べられなかった如耶に、刀之介と一刀から送られた言葉である。最初は遠慮がちだった彼女も、一度箸を口に運べば、祖母の料理の腕も相まって途端に空腹を感じだす。こんなに体力を使っていたのかと思っていた彼女は、瞬く間に一杯目の茶碗を空にしていた。

 

疲労により言葉が少ないのは変わらないが、祖母はその姿を満足そうに眺める。

 

 

 

「一刀ちゃんもそうだったけど、やっぱり稽古の後はいっぱい食べるのねぇ」

「だからちゃん付けはやめてくれ、って言ってるじゃないか。………爺ちゃんの稽古は加減を知らないからね。限界まで体力を使わされてるから、食べなきゃやってられなかったんだよ」

「何を言うか。成長期じゃから儂より食いおって。まぁ、婆さんの料理の腕が一流というのもあるがの」

「………お婆様の料理は、いつも美味しいです」

「あらあら、ありがとうね」

 

 

 

珍しく食事中に言葉を出す如耶を、祖母は自分の孫のように見つめるのであった。

 

 

 

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食事もひと段落して、4人でお茶を飲んでいると、祖母が思い出したかのように、如耶に話しかけた。

 

 

 

「如耶ちゃん、毎日うちに来るのは大変じゃない?」

「いえ、これも修行のうちですから」

「でも、朝も早くて辛いでしょう?でね、お爺さんと相談したんだけど………」

「おう、如耶よ。これからうちに住め」

「ぶばっ!?」

 

 

 

祖父の言葉に噴出したのは如耶ではなく、一刀であった。いや、如耶も驚いているのは驚いているが、話を聞くために湯呑をテーブルに置いていたのが幸いした。

 

 

 

「ちょ、爺ちゃん、何言ってんだよ!」

「言うたまんまじゃ。朝うちに来てまた学校に行くのも、稽古に来てまた帰るのも面倒じゃろう。ならば此処から通った方が早いではないか」

「いや、確かにそうなんだけど………」

「どうじゃ、如耶?」

「えぇと、あの………」

 

 

 

如耶にしては、珍しく口籠る。突然の誘いの中身は予想外のものであり、また、その内容は如耶にとっては願ってもないものであった。修行ももちろんそうではあるが、好いた男と共に暮らせるのである。乗らない手はない。ただ―――。

 

 

 

「………お誘いはありがたいのですが、私は寮に住んでますし、仮に寮を出るにしても、親の許可がないことには―――」

「それなら取ってあるぞ?」

「………………………………はい?」

「じゃから、お主の父親の許可は取ってあるから安心せい」

 

 

 

 

 

今度こそ、如耶と一刀は硬直した。

 

 

 

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とあるビルの一室―――。

 

 

 

壮年の男は自分の机に向かってパソコンを開いている。ビルの最上階に据えられたその部屋は華美な装飾は一切ないが、それでもかなりの広さを有しており、その部屋の主である彼が部屋にふさわしい人物であることが窺える。一通りメールを見終えたところを見計らって、彼の秘書が話しかけてきた。

 

 

 

「社長、外線からお電話がかかってきているのですが………」

「どうした、取引先か?」

 

 

 

眼鏡をかけた理知的な女性は、秘書としてとても優秀な部類に入る。そのことを認めているの男は、そんな彼女が口籠る姿に若干の驚きを感じつつも、冷静を装い問い返す。

 

 

 

「いえ。どこの方かはわからないのですが、その、『北郷と言えば分かる』とだけ言っておりまして………」

「っ!!すぐに繋げ!!………繋いだら、君は一旦席を外すように」

 

 

 

今度こそ驚きを隠せず、社長という地位の人物にしては珍しく慌てた様子を呈し、秘書に命じる。彼女は彼女でそのような様子の上司に驚きながらも、そこは秘書である。畏まりました、と一言告げて、部屋を出て行った。

 

 

 

「もしもし、お久しぶりです」

『おう、不動か!久しぶりじゃな!元気に稼いでおるか?』

「はい、お蔭様で………。それで、本日はどのような御用で?」

『何、簡単なことじゃ。お前の娘じゃがな、しばらくうちに住まわせる事にしたからの』

「はい、そうですか………………って、えぇっ!!?」

『ひと月前から如耶がうちに入門しての。流石お前の娘なだけある。朝晩通って熱心に稽古を受けていきおるわ』

「………そうですか。娘が剣道に熱心なことは存じておりましたが、まさか北郷流に入門していたとは」

 

 

 

彼は、娘の勤勉さをよく知っていた。だが、そこまでするものなのかと驚きながらも、その理由を電話の相手に問う。

 

 

 

「北郷さんに稽古をつけて頂けるのはありがたいのですが、それで、なんでまた住まわせることに?」

『いやな、頑張って通ってはおるんじゃが、少し無理をしているようでのう。朝早くからうちまできて学校に行き、そしてまた来て帰っていく。いくら熱心な娘でも、流石に辛いと思うての。というわけで、寮を出てうちで世話をする許可を貰う為に電話をしたのじゃが………受けるか?』

「………………北郷さんから見てそうした方がいいというのなら、喜んで受けますよ。手続きの方はこちらでやっておきます。娘をよろしくお願い致します」

『そうかそうか、お主なら娘のことをわかってやると思っておったが、流石じゃな』

「恐縮です」

『では、しばらく住み込みの門下生として、うちに住まわせるぞ?』

「はい、どうか、強くしてやってください」

『任せとけぃ!あぁ、あと、如耶はどうやらうちの孫にベタ惚れのようじゃが、気にするな!それではの!』

「そうですか………って北郷さん!?もしもし!?もしもーし!?」

 

 

 

彼の握りしめた受話器からは、規則的な電子音しか聞こえることはなかった。

 

 

 

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「―――と、いうわけじゃ」

「阿呆かぁぁあああぁぁああっ!!何やってんだよ!というか、なんで如耶の父親と知り合いなんだよ!?」

「ん?昔、あやつの剣道の師をやっておったからの」

「そうなのですか!?」

「おぅ。あやつが中学生の頃から高校卒業までじゃったか。部活だけではなく、もっと鍛えたいということで、儂に話が回ってきての」

「………父が剣道をしていたことは知っていましたが、お爺様の弟子だったとは知りませんでした」

「まぁ、大学では剣道も辞めてしまったからな。知らぬのも無理はない。と、いうわけで、あいつは儂に頭が上がらんからな。そこを利用させてもらった」

 

 

 

言葉こそ悪いが、なかなかに良い師弟関係であったのだろう。昔を懐かしむ祖父の顔には笑顔が刻まれていた。

 

 

 

「ちなみに、如耶が生まれた時も、一度だけ見に行ったことがあるのじゃぞ?」

「………え?」

「そう言えば見に行きましたねぇ。あの頃も可愛かったけど、随分まぁ綺麗になっちゃって」

「………………」

 

 

 

二人の言葉に、如耶は口を開いたり閉じたりしている。驚愕の事実に言葉が出てこない。と、今度は如耶に変わって一刀が口を開いた。

 

 

 

「………もういいよ。如耶は寮を出てこれからうちに住む。親御さんの了解も得ているから問題ない。こう言いたいんだろう?」

「やっと理解したか、馬鹿孫よ」

「うるさい。おい、ジジイ、これから仕合するぞ。言っておくが、アンタに拒否権はないからな」

「かっかっかっ!そのように動揺しておるお前なんぞ、相手ではない!返り討ちにしてくれるわ!!」

 

 

 

一刀の誘いに笑いながら居間を出て行く祖父。一刀にしては珍しく激昂しているが、以前のお仕置きを思い出し、今は触れない方がいいなと、如耶は二人を見送った。

 

 

 

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しばらく今の入り口を見ていると、祖母が如耶に話しかけてきた。

 

 

 

「ごめんなさいね。お爺さんったら、思ったらすぐ行動しちゃうし。でも、もし迷惑なら今からでも断っていいのよ?あの人はちゃんと説得するから」

「………いえ、受けさせてもらいます。もっと強くなりたいので」

 

 

 

そう答える彼女を見て、祖母は破顔する。

 

 

 

「それも理由でしょうけど、本当の理由はもっと違うところにあるんじゃない?」

「………え?」

「一刀ちゃんのこと、好きなんでしょう?」

「………………………」

「だって、強くなりたい、ってだけじゃ、お爺さんの稽古はキツ過ぎるもの。で、どうなの?当たってると思うのだけど?」

「………はい、仰る通りです。一刀は学校でも人気者で、たくさんの女子に言い寄られているのにそれにも気付かないくらい鈍感で………。そのくせ誰にでも優しいからもっと人気が出て………でも、そんな彼が好きなんです」

「………………………」

「でも、一刀は気づいてくれなくて………。最初は、彼に近づきたい、という思いで此処に来ました。いや、勿論強くなりたい、という思いもありましたが、その強くなりたい理由も彼に近づきたいからでした………」

 

 

 

如耶はここで一度言葉を切る。そんな不純な動機でうちに来るな、と叱られるかとも思ったが、祖母は穏やかな顔で如耶を見つめる。一度お茶を口に含むと、彼女は両手に持った湯呑に視線を落としたまま、言葉を再開した。

 

 

 

「私は、剣道には自信がありました。公式戦でも負けたことがありません。………でも、此処ではそんなこと、何の意味もないのだと思わされました。それが悔しくて、それでも一刀の傍にいたくて………いろんな想いがないまぜになって………………。

気がついたら、次の日の朝、此処に来ていました。こんな早朝に来るなんて失礼だとも思いましたが、庭の方から気配を感じたので回ってみました。………そしたら、一刀がいたんです。それで私に気づいて、おはようって…よく来てくれたねって………。その笑顔を見て、私は決心しました。絶対にいつか、一刀に勝ってやるって。絶対に私に振り向かせてみせる、って………」

「そうね………お爺さんや一刀ちゃんが何て言うかはわからないけど………………お婆ちゃんはそれでいい、って思うの」

「………え?」

 

 

 

それまで黙って聞いていた祖母が口を開けば、そこから出てきたのは如耶を肯定することばだった。思わず顔を上げた如耶の眼に入るのは、祖母の笑顔。

 

 

 

「だって、如耶ちゃんも女の子だもんね?だったら、好きな男の子の傍にいたい、って思うのは、当然なのよ。お婆ちゃんだって、お爺さんの傍にずっといたいもの」

「………」

「まぁ、一刀ちゃんはお爺さんに似てニブチンだから、気づくのにだいぶかかるかも知れないけどね。でも、きっといつかは振り向いてくれるわよ」

「そうで…しょうか?」

「えぇ。大丈夫よ。………ね、一刀ちゃん?」

「えっ!?」

 

 

 

祖母の言葉に思わず振り返れば、後ろには誰もいない。

 

 

 

「ふふ、冗談よ」

「……お婆様も人が悪いです」

「ごめんなさいね。でも、今の反応でもっと確信が持てたわ。………頑張ってね、如耶ちゃん」

「………………はい」

 

 

 

返事をする如耶は、とても晴れやかな笑顔であった。

 

 

 

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その頃、道場では―――。

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ………もっと、年寄りを、労わらんかい………」

「うるせぇ、クソジジイ」

 

 

 

そこには、倒れて息も絶え絶えというような祖父の姿と、いまだ怒り冷めやらぬ一刀の姿があるのであった。

 

 

 

 

説明
外伝
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コメント
え〜お昼の後、更衣室のくだり、「武」じゃなく「部」だよね?(佐木瑞希)
>>ぬ ………ぬ(一郎太)
・・・・・・いぬ・・・・(運営の犬)
あれっ?そうだった?めーりんね冥琳 「えーりん」・・・どっかで聞いたことあるな?(運営の犬)
>>いぬ あー…えーりんだっけ(一郎太)
>>samuraikinngu様 こっちの外史は今のところ変動しないと思われるから大丈夫だと思います!!(一郎太)
「どこが?」えっ?いっいや、1つ目はともかく、2つ目は?(運営の犬)
もし、一刀が如耶の事に気ずいたら恋ちゃんは、どうなるのか!(まあ、この男には無いな、、)(鬱くしき人)
>>FALANDIA様 爺ですしねwww(一郎太)
>>ぷちとまと様 娘はお前には(ry的な話ですね、わかりますw(一郎太)
>>ZERO様 爺には頭が上がらないらしいから何ともいえないが………機会があればその展開も書いてみたいwww(一郎太)
>>犬 どこが?(一郎太)
>>2828様 もいでみろwww(一郎太)
爺さん大言吐いた割にフルボッコですね…w(FALANDIA)
お父さん再登場希望w(ぷちとまと)
不動先輩のお父さんは反対するんでしょうね。(ZERO&ファルサ)
俺のアンケートはまともだ!!(運営の犬)
爺フルボッコwんで一刀・・・・もげ・・・ではなくもぐww(2828)
>>sai様 もげればいいのに。リア充氏ねばいいのにwww(一郎太)
>>kabuto様 ニヤニヤさせるためだけに書いているので、本望ですwww(一郎太)
>>nameneko様 そんなハードルを上げないでおくれorz(一郎太)
>>くらの様 えっちなのはいけないと思います> <!www(一郎太)
>>ロンロン様 あ、アンケは恋姫のキャラのつもりでとってました。分かりづらくて申し訳ないorz(一郎太)
>>名無し様 これだからエロゲの主人公というのはアレなんですよねw(一郎太)
>>320i様 いやいや、今回は一対一だから種馬とは違うのではないでしょうかw(一郎太)
同棲、だと?もげればいいのにwwそしてジジイ破天荒すぎるww(sai)
クラス落ち着け、まだチャンスあるwww爺ちゃん自重wwww今回もニヤニヤが止まりません。(kabuto)
次回でもっと凄い話になるんだろうな・・・これは楽しみだ。いくら強いといってもじいちゃんをバテバテにするとは一刀凄いな(VVV計画の被験者)
そして、一刀の種馬がここで開眼! おいしく頂かれるんですね、分かります。アンケート? 気がついた時には終わってました。残念でしゅ。(くらの)
どうなんだろう、これ。 祖父母公認ともとれるが。 アンケートですが、自分は不動先輩の元ネタをプレイした事がないので答えようがなかったのです。(龍々)
何故だろう? 羨ましいと思うより、希望を持てということしか思い浮かばない(名無し)
>>はりまえ様 だって…アンケートにまともな答えがなかったんだもん(´・ω・`) ほかのキャラの登場すらないんだぜ………(一郎太)
え?じゃあ会わずに終了ということも・・・・(ないない・・・・とは言えなさそうな気配が)作者さーーン1!(黄昏☆ハリマエ)
>>はりまえ様 大丈夫、これは外伝なんでタイムスリップとかないから!!………たぶんw(一郎太)
>>よーぜふ様 それはホラ、付き合ったら話が終わっちゃうじゃないですかwww(一郎太)
>>O-kawa様 ぉおぅ!頑張って変えるかもしれません!! エロゲ主人公はこれだからorz(一郎太)
>>ヴァニラ様 氏ねばいいのにwwwホント市ねばいいんだwww(一郎太)
>>きのすけ様 じじいもある意味チートですねwww(一郎太)
>>森羅様 もげろwww まぁ、そこまでして見たいキャラがいたら、って感じで、あんな体裁にしました。 そして貴方の愛は歪んでいるので却下だボケwww(一郎太)
>>poyy様 これだからエロゲ主人公は………orz(一郎太)
期待通りありがとうございます!しかしこのまま今の時代(三国時代)にいて戻った時この恋は成就するのかそこそこ楽しみです(本妻?「恋」側室?「風」愛人「加耶」?)(黄昏☆ハリマエ)
もうあんたらつきあっちゃえYO!!w(よーぜふ)
5p、「成長期じゃから”と”儂より〜」の方が良いかと。ここらへんは個人の感じ方なんで一郎太さんに任せますが。 しかし種馬&主人公属性が憎いっ・・・!(O-kawa)
なんだこの無自覚リア充www(ヴァニラ)
じじい大活躍w(きの)
同棲とか・・・もげてしまえwww   あとアンケートについて個人的な感想を。応援メッセージに記入っつ〜のがいけなかったんだと思います。アンケはアンケで作ってUPすればよかったんじゃね?例えば題を「アンケートにご協力ください」みたいな。(森羅)
一刀君きみいっぺん地獄を見た方がいいんじゃないかな?腹が立つぐらい羨ましいんですけど!!(poyy)
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