真・恋姫無双〜妄想してみた・改〜第二十七話 |
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「良いか。強さへの近道は無いが、そこへ至るまでに自覚しておくべき事がある」
「はい。師匠」
「それは己の技量を見極める事。自分の長所、短所も解らぬ者に成長など見込めんからな」
「はい。師匠」
「今回は時間が少ないから特別に指導してやろう、本来ならワシ自ら、ねっとりと鍛えてやりたいところなんだがのう」
「はい。変態」
「北郷。貴様の長所は相手の先を読める“先見の勘”というところだ。これは相手がどう動くか、何をしてくるのかを直感的に感じ取れる先天的な才能じゃろうて。貴様の女共にモテる理由はここにあるのやもしれぬな」
「はい。師匠」
「それを伸ばす訓練をこれからは重点的に行ってもらうぞ。内容は簡単。とにかく様々な種類の戦い方をもつ相手と組手を行い、そこから自分の勘を磨いていくのだ。ワシは貴様の構えや基礎部分を矯正してやろう」
「はい。師匠」
「修行はつらい。だが諦めず、ワシに突いてこい! この名刀『東方不敗』のナニかけて必ずや貴様を新たな階段へと上り詰めてみせよう!」
「はい。誤字はワザとかこの野郎」
「…………」
「はい。師匠」
「…………」
「はい。師匠………………………ってなんで服を脱ぎ出す!?」
――――――――――――――
場面は変わり、仲間に囲まれる中で一刀が今日も訓練を続けている。
振るう剣閃は右上段から真っ直ぐ軌跡を残し、空を切る。
寸前で避けられた為、相手の反撃を警戒しながらすり足で距離を取った。
構えは八相。
刀を右肩水平辺りで脇を締め、天を突くように両手で掲げる基本の型。
攻撃前も後もこの構えを維持するこれがタイ捨流、本来の構えだ。
卑弥呼の訓練によって矯正された俺の戦闘スタイルは、後の先を取る形のまま、幼い頃習った本流の戦い方にさせられた。
苦手意識は有ったけど、実際やってみれば以外なほど良く馴染む。
自惚れかも知れないが、過去に凪がスジが良いと言ってくれたのは本当なのかも知れない。
「どうした北郷。貴様の実力はその程度かっ! その様ではこのワシから一本取るなど絵空事にしかならぬぞ!」
「ご主人様ー! 頑張れーー!」
「一刀! 妾はお主に賭けているのだ。負けは許さぬぞ!」
「なら、今回も倍プッシュでお願いしますねー」
「美羽殿、賭け金はこちらに入れてくださいね」
「ふむ。まさに恋は盲目、今夜も豪勢な食事にありつけそうだな、凪よ」
「!? 隊長! 自分は隊長の勝ちを疑っているわけではありませんよ!」
「でも賭けの予想はちゃっかり北郷では無いのです。楽進、恐ろしい子! なのです」
「仲良いなっ、君たち!?」
観戦しているギャラリー達から野次や声援が飛ぶのを聞き流して、訓練に集中。
こちらからあえて先手を取るつっこみ紛れの攻撃。地に踏み込み、一気に距離を詰めての斬り込み。
牽制の袈裟斬りは当然のようにかわされ、相手から遠慮の無い一撃が襲い掛かる。
空を切るどころか、空気を切り裂かんばかり勢いに乗った打ち下ろしを直前で見極め、半身を逸らし回避。
当然反撃が来るだろうと予測した相手は振り落とされた得物を掬い上げるように薙ごうとするが、
それを実行される前に片足で武器を蹴り飛ばす。
「!?」
予想外の行動で得物を握る手が緩み、体勢を崩したところで、再度袈裟斬りを加える。
「……くっ!」
すかさず柄の部分で防御されるが、相手の姿勢は崩れたまま。ここが勝負所だ!
防御された柄の部分を支点に相手の反撃を防ぐように刀で押さえ込み、胴廻し蹴りを放つと、
これ以上は勝手にさせないとばかりに相手の武器、方天画戟があっさりと抑えを抜けて迫り来る。
当然蹴りは空振り、遠慮無い一撃(寸止めはしてくれるだろう)が俺の横顔目掛けて一閃――
だが、
「……!」
それこそが狙い。以前洛陽で訓練していた頃よりも俺は確実に強くなっている。
予測していた一撃を上半身を逸らして掻い潜り、回避。
余波で突風が頬を打ち付け、一瞬恐怖がこみ上げるがそれを無理矢理押さえ込み、空振りしたはずの足をがに股のように地に着けて刀を番える。
「ほう、最初から空振りを前提に構えを取られましたか。これはなかなか厄介……。
ちょうど恋の後ろに回りこむ形になりましたな」
「せやっ!」
気合とともに無防備な背中に向かって横薙ぎを振るう。
前回の手合わせ以上の好条件、これなら!
「………………んっ!」
「うおおっ!?」
だが相手は天下無双の代名詞“呂布奉先”。
野生の勘からか、危険を察知した恋はその場で高速反転、戟がこちらの一撃を弾き飛ばし、
追撃を加えようと更に回転しだした。
(どれだけチートなんだこの子はっ!)
「ご主人様、危ないっ!?」
でもこっちだって成長してるんだ。華琳に窘められたとはいえ、武を磨く事は左慈に勝つためにも無意味じゃない。
一か八か、迫る戟に刀を合わせて受け止める。
「ぐっ!」
全身が痺れる程の衝撃に一瞬とはいえ耐えてみせた。
防ぎ切るなんて考えていない、体の軸をずらし、刀をレールに見立てて押し込まれる力を上へと逸らす。
「うまいっ!」
「ほう、あのタイミングで力の掛かり所を見切りおったか……」
三度空を切る互いの武器。
(恋相手では並みの奇策では歯が立たない以上、この状況で取れる起死回生の手段は!!)
「……おりゃっ!」
「っ!?」
両手を大きく開いての体当たり!
では無く抱き抱えるハグ。恋を抱擁する形で拘束し、みんなに一言告げる。
「……これで勝ちにならない?」
零距離で抱き合う俺達だが、この体勢なら小回りの効く刀が有利、現に俺の刀はそっと恋の後ろで構えられているし、
この状況で反撃してこないなら、一応勝ちとは言えなくもないだろうか?
「……ふーむ、なら審議しますので少々お待ちをー」
【審議中】
∧,,∧ ∧,,∧
∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧
( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )
| U ( ´・) (・` )と ノ
u-u (l ) ( ノu-u
`u-u'. `u-u'
【審議中】
( ´・ω) (´・ω・) (・ω・`) (ω・` )
ざわ…… ざわ……
ざわ……
鉄骨渡ったり、限定的なじゃんけんをするように観戦者兼審査員が意見を交わす。
その間、若干暇なのでハグした恋を“かいぐり、かいぐり”、撫で回す。
「………んぅ……ッ……」
すると、くすぐったそうに身を捩りながらも、“もっと、もっと”とせがんできた。
(やっぱ恋は可愛いなぁ。強気の女の子が多いなか、数少ない癒しだよ)
顔を赤くする恋に満足していると、討論を終えた審議長である風から判決が下された。
両手を上に掲げて、左右に交差。×印を作る。ってオイ!?
「お兄さんの反則負け。愛という名の凶器使用は認められません」
「若干かっこいい!?」
勝負に負けて、戦いに勝ったとはこの事言うのではないのだろうか?
今晩もまた、負けた俺となぜか長坂の一件以来、妙に懐いている美羽が夕食代を払わなくちゃいけないのか……とほほ。
……それはともかく。
今現在、俺たちは孫権のいる平原の町に帰還すべく、手前の村で待機している。
なぜさっさと入城しないのか?
答えは簡単、たった一つのシンプルな答えだ。
それは、
「「「ほああああああああ!! ほあっ! ほあっ! ほあああああ!!!」」」
「「「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」」」
目の前に大きく『最後尾』と書かれた木札を掲げる行列。
その先には延々と平原に続く更なる大行列が並び、どこぞの海沿いイベント会場よろしく、人という防壁が入場門までの進路を妨げている。
「そう、入城出来ないのではない! 入場出来ないのだ!(どやぁ)」
「とうとう頭に虫が沸きましたか、この妄言男は」
人数が多いと、軽いボケでもすぐ拾われるな……。
冗談はさておき、俺達はこの行列が原因で平原帰還への足止めを食らっている。
地平線まで続こうかというこの大行列、彼らの目的は張三姉妹による、“真・数え役満☆姉妹961ライブコンサート”だ。
長坂の一件と、療養で俺が居ない期間に干吉が兵と人心を掴む為にと、進言した政策の成果がこれらしいが、なぜか異常なまでの大好評を受けている。
まさか干吉にアイドルプロデューサーの才能があるとは驚きだ。
まあそれ自体は良いとして、問題なのは先も言った通り、これが原因で街へ簡単に入る事が出来なくなった点だ。
現在の平原はライブ会場都市として普段から入場者制限を行い、多すぎる人の出入りを厳しく管理しているため、姿を隠して進入する事が出来ない。
なぜなら、俺の周りにいるほとんどの人間が超が突く程の有名人の集まりで、しかも俺や凪は軍から指名手配を受けているらしく、このまま進めば目立つ事極まりないからだ。
故に無用な問題を起こさないよう作戦を立案できるまで、ここで待機する事になった。
最初は予想外過ぎる事態に困惑したが、内側からの情報によれば今のところ孫権や他のみんなにも特に異常はないとの事。それだけは本当に良かった。
ちなみに平原の現状や指名手配の情報を提供してくれた人物は、
「美羽さまー。何であんな下半身しか自信の持てないすけこましに、真名まで許して誑かされているんですかー? 私は悲しいですよー」
「貴様、勘違いするでないっ! 北郷は下半身に特化しているだけだ!!」
「なんのフォローにもなって無いからねそれ」
ご存知、七乃・華雄ペアです。
いや、別に否定するわけじゃ無いけどさ。もうちょっとこう、オブラートに包んでほしかったな。
その後もなんやかんやで皆が喋り始め、場が混沌としてきた。
女の子は三人寄れば姦しいというか、ここにいるのは総勢十人。一度騒いでしまうと手が付けれないから困ったもんだ。
しかも魏側の人間は事情をよく知らないという事もあって、最初こそ牽制したりして落ち着きの無い日々が続いていたが、
そこはあれ、一刀さん印の荒ぶるマーラ様が大活躍して一応の収束は見せた。
下世話な話、まさかの11P+魏の子達と7Pという荒療治をもって……。
事を終えた直後はさすがに疲労でぶっ倒れたが、そのおかげで過去の記憶を取り戻した面々は誤解や敵対心も薄れ、仲も良くなったようで大満足の結果に終わった。
まあでも、あれだけの乱痴気騒ぎは流石に堪えたので。
「まだあと何回かお願いしたい(キリッ」
「隊長、また氣弾を受けたいのですか」
凪から放たれる不穏な空気もなんのその、頭に閃いた事柄に思考が奪われる。
「……いや、待てよ? この編成、小さめの子が多いせいか、若干おっぱい分が足りない気が。……出来れば黄忠さんみたいな巨、爆サイズも来てくれ(ゴキッ)れれ痛い痛い痛いイタイィー!!」
いきなり恋から引き剥がされ、その勢いのまま右腕の間接が外された。何事!?
「随分と失礼な物言いね、一刀」
「華琳!?」
宙ぶらりんな腕を掴んでいるのは、こめかみに露骨な皺を寄せる少女とその配下の面々。
「貴様! 華琳様の寵愛を受けてまだ不満だとでも言うのかっ!」
「言ってないっての! 変に邪推しないでくれ!」
「でもそれってぇ、一刀はうちの胸じゃ満足してくれへんかったって事やろぉ? 悲しいなー」
喧しいのが嫌だと、列から離れていた魏のメンバー三人が何時の間にか急接近していた。
ちなみに秋蘭、桂花、季衣は残存していた魏軍を再編、また流琉を再び傘下に収めるべく、別行動を取っているのでここには居ない。
つまり後で腕の治療をしてくれるだろう華佗も合わせて俺の周りには総勢16名。しかも平原に残した二人と秋蘭達が合流すれば魏軍のメンバーは全員集合状態になる。
(何時の間にかすごい大所帯になったなぁ……)
外れた右腕をぷらぷらさせながら一人思案に暮れていると、華琳がパンパンと手を叩き皆の注目を集める。
「この、“人の身体的特徴を卑下する狼藉者”はほっといて、情報提供者が帰って来た以上、もう一度話し合うわよ。風、稟、趙雲、それに陳宮と張勲もこちらに来なさい」
流石のカリスマといわんばかりに騒いでいた皆が大人しくなり、指示に従って呼ばれた五人がこちらへ歩み出てくる。
見習うべき統率力だけど、その前に誰でもいいから心配の言葉くらいかけてくれて欲しかった。
一人打ちしがれていると、駆け寄る足音とともに少女がにっこり笑いかける。
「ご主人様、あのねあのね!」
「た、たんぽぽ!」
―ごきっ
「……」
左腕も外された。
「一刀。いつまでも遊んでないで、こちらに来なさい」
「……ぐすっ」
とぼとぼと両腕を揺らしながら、涙目で輪に加わる。
(自分の成長とともに、周りの人間の扱いがぞんざいになっていくのは気のせいだよね?)
一抹の不安を抱きながらも近くの酒房に場所を移した。
テーブルを囲んだ軍師、賢しい人グループで会議を行うが、なぜか眼前に若干の酒とつまみであるメンマが並ぶ。
犯人は明白だが、突っ込むと話が続かないので敢えてスルーを選択。
「進行は任せるわ稟。そろそろ具体的な案を纏めて行動しましょうか」
「御意。ではまず目的の確認から」
かつての主に促されて稟が司会を務めて、説明を始めた。
「現在我々の目的となっているのは、平原に居を構える孫権殿に協力を仰ぐための説得。及びその話し合いが実現できるよう彼女のもとに近づく方法の模索です。説得に関しては、過去我々が孫策
殿を暗殺したという誤解を説き、この世界の危機を救うための協力を仰ぐ重要なものです。……一刀殿、この部分は貴方に全てかかっていますから、必ず成功するよう留意しておいてください」
「あぁ、そこは任せてくれ」
一番の要である役回りにプレッシャーも大きいが、ここで怖気づいたら上に立つ者としての沽券に関わる。
皆を不安がらせないよう、あえて大げさに頷いて答えると、側に腰掛けた華琳が満足気な笑みを浮かべた。
「お願いします。次に一番の問題である潜入方法ですが、張勲殿からの情報によれば一刀殿は現在、呉の裏切り者として軍内部だけですが通達が行き渡っているとの事。そのため無防備に平原周辺に近づけば問題が起こるのは必至。ついては確実に孫権殿のもとへ送り出せるよう各人の意見を聞きたいのですが如何でしょう?」
稟が口火を切り、会議が始まると同時に俺は改めて自分達の状況を整理しておく事にした。
まずは呉における俺の立場の変化。
長坂へ向かったあの晩から既に二週間が経過し、止むを得ない状況だったとはいえ、無断で飛び出した俺は脱走と反逆の罪で指名手配されていた。
軍に携わる者に見つかれば即刻通報され、捕縛されてしまうだろう。
そんな事になったら色々と不都合が……いや、大問題が発生する。
先の通り、周りのいる人間は華琳や風といった魏のメンバーがほとんど揃っているから非常に不味いのだ。
以前から仕官している凪や真桜の時は記憶が無い等、特に問題として取り上げられなかったが、記憶を思い出している呉の人間からすれば、以前の世界で魏国は直接的ではないといえ雪連の死に携
わった怨敵だ。
その相手がのこのこと雁首揃えてやって来ては、問題が起こらない方がおかしい。
華琳達にも説明はしてあるが、今の彼女達にとっては与り知らぬ事。緩衝役として俺が間に入らなければ、どんな行き違いがあるか判ったもんじゃない。
一人思い悩んでいると、発言を求められて最初に口を開いたのはねねだった。
「ここはむしろ北郷を囮に……いえ、ここは逆転の発想で我らの存在を主張して別働隊を編成、陽動する作戦が効果的に決まっております。そのスキを狙えば内部への侵入は問題無し。あそこには一度入ってしまえば掃いて捨てる程の人間が密集していますので、紛れてしまえれば楽勝なのです!」
別の意味で平原な胸を張って、自身満々で答えるねねに疑問を唱えたのは星、メンマを肴に酒をひと飲みして一言。
「確かに一番単純で効果は高そうですが、そううまくいきますかな? 町の侵入は容易くとも、城内へは難しいと思うが」
「むっ、だったら街中でも騒ぎを起こして気を引けばいいだけの事ですぞ!」
文句をつけられたのが気に食わないのか、びしりと指を差すねね。
だが、その横から今度は風が反論する。
「それはいけませんねー。ただでさえ人が犇いている所で暴れたら大混乱間違い無し。そうなったらまず警備を固めるのは孫権さんの居るお城ですよ、交渉中に雪崩れ込まれたら厄介だと思うのです」
「だったらお前はどうすればいいと言うのですか!」
「そですねー。ここはやっぱり隠密潜入がよろしいかと。兵士さんの服でかっぱらってお兄さんに着せればそうそうバレ……」
「あーそっちも無理だと思いますよー」
今度の反論は張勲こと七乃。
俺の事を快く思ってないようだけど言うべき所は言うらしい。
「この種馬、もとい下半身男は、平原では知らない者がいないと呼ばれるほど、人気者で顔が売れてるんですねー。変に隠しても怪しまれますし、そっちの案も無理っぽいですよ」
「……ふむ、主の普段の行動が裏目に出ましたか」
前半と中盤のどっちについてかで大きく意味合いが変わってくるので文句があるが、今更言及はしまい。
「星殿はどう思われますか?腹案があるのならお聞かせ願いたいのですが」
「ま、下策とは存じますが、ここはいっそ素直に捕まってみるのも一案かと。少なくともこれなら城内へは簡単に入れますぞ」
「ですがそれで確実に孫権殿の会えるという確証がありませんね……。最悪、見つかった段階で裏切り者として処断される可能性も低くありません。もし何かあった場合の対策が取れないのは問題ですね」
「あくまで私は武官ですからな、参考程度に留めておいてくだされ」
そう言ってから、またメンマを摘む作業を再開する星。
うーん、ここまでで三つ案が出たけど、いまいちどれもピンとこないな。
この後も、何度か意見交換や討論が続くがどうにもうまく纏まらなかった。
しばらくして一応の意見が出揃ったのか、まとめに入ろうとした稟がいきなりこちらを向いた。
「それでは一刀殿。判断をお願いします」
「え……お、俺?!」
突然の指名に驚くと、呆れたような華琳の叱責が飛ぶ。
「少しは上に立つ者の自覚が出来たと思ったら直ぐこれね。最終的な判断は王が決める。これは当然でしょう?」
いや、まだ国土の一つも無いんですが。
咄嗟に文句を述べようとしたが、ここに居る全員の視線が俺の発言に集中しているのに気がつき、言葉を飲み込む。
(そうだったな。これからは自分の立場をよく理解して発言、行動していかないと)
俺を慕ってくれる皆のためにも、今まで見たいに優柔不断な態度は控えよう。
慣れない咳払いを一つしてから所見を述べた。
「まず、騒動を起こしての陽動作戦だけど、これは条件付きで賛成だな。街中だと星が指摘したように混乱の度合いが計り知れないから、やるなら街の外周で警備を引き剥がすのに専念してもらいたい。あまり近くで事が大きくなりすぎると、軍の方も動いてより一層城への防備が厚くなると思う。そうなったら本末転倒だろ?」
あくまで警備の人が対処できる程度までに抑えておかないと住人にも迷惑が掛かりそうだしな。
「風の意見は七乃さんの言う通り、他者に成りすましてもすぐバレる可能性が高い、多分中では以前俺が提案した、一人一人自分がどこの警備担当か確認できるよう名札なりで区別されている方法
を取っているはずなんだ。運良く俺とバレなくても怪しまれるのは避けられない。悪いんだけどこの案に関してはまたの機会にって事にしようか」
正史の世界での知識を活かしたつもりがこんなところで足枷になってしまった。
しかも予めこういうお客さんでごった返す事態を予測して、警備の人達に指導しておいたのも裏目に出そうだな。
「最後の意見は個人的都合で大問題が発生する恐れがあるので、却下させていただきます」
今は鈴の音を聞くだけで非常に恐ろしい。
彼女とも裏切る形で離れてしまった以上、出会えば間違いなく一悶着あるだろう。
「で、だ。ここまで意見を俺なりにまとめてみると、部隊を三つに分けて行動しようと思う」
「具体的にはどういった編成で行うのですか?」
稟の質問から皆の視線がより強まり、説明を促された。
「一つは先の通り陽動部隊。ここには蝶的ななにかに変装した星や卑弥呼とか目立つ人物で騒ぎを起こしてもらいたい。これは俺と別働隊がその混乱に乗じて入場するためだ」
興が乗り過ぎるといけないから、お目付け役も割り振っておこう。
「二つ目は俺と一緒に行動する城内への潜入部隊。どう忍び込むか方法はまだ考えていないけど、少なくとも少数による隠密行動になる。ここは腕の立つ人間、城内部を知っている凪なんかに同行してもらいたいな」
候補としては、空気の読める霞にも付いてきてほしい。
「それとこれは保険なんだけど、もし見つかった場合に備えて、言葉は悪いけど囮用の部隊が必要かな? 孫権は部屋に閉じこもっているそうだから一度入ってしまえば、問題は無いはずだ。最悪その時間稼ぎに活躍してほしい」
ここはクセのある、たんぽぽや無駄に騒ぐであろう春蘭が適材だろうか。
「一応ここまでが皆の意見を聞いた上での、俺の意見なんだけど、最後に一言。誰かを傷つけたり、怪我なんてしないように気をつけてくれ。いくら良い案件でもそこが蔑ろになるなら了承しないよ」
ある程度は許容しないといけないだろうけど、犠牲や代償はなるべく払いたくない。
そこだけは徹底してほしい。
ざっとまとめただけだから文句の一つでも出るかと思ったが、全員考え込むように俯き、黙ったままだ。
「……何か気に障ったのかな?」
この発言にまたも華琳がフォローを入れてくれる。
「違うわよ。あなたの意見を踏まえて再考しているの。……まあ条件が条件だから、
まだ少し時間が掛かりそうね…………んっ」
「ん…………華琳」
「ふふっ」
視線がこちらに向かないのをいいことに不意打ちのキス。
あの夜から積極的に甘えてくる彼女に翻弄される事が多くなった。
それは全然嬉しいんだけど、今はちょっと問題ある気がする。
「なに? 一人前に恥ずかしがっているの? 夜はあんなに積極的なのにねぇ」
「……場所と時を弁えてるだけだよ。……これ以上挑発するようなマネは遠慮してくれ」
ただでさえ君は俺の側……“膝の上に座っている”のにこれ以上彼女たちを刺激したら、また血を見るはめになるには自分なのですよ。そこら辺分かってますか華琳さん?
溢れる覇気に誰もが躊躇して、表立っての文句は君に届いていないけど裏では、こう、色々とあるんだっ!
無論、悪い気はしないので抵抗したことはないが、更に華琳はこちらを困らせるような発言を告げる。
「言い忘れてたけど、孫権の説得には私も同席するわよ」
「……は?」
「記憶に無いとはいえ、暗殺などという無粋なマネを見逃した責任は今の私にもある。ならば話し合いに加わるのは道理でしょう? …………それに一刀が誰の所有物なのか、最初に理解させておかないと後々揉めてしまうわ」
いや、後半の部分は控えてもらいたいのですが。
一気に先行きが怪しくなったこれからの騒動に思いを馳せると、頭が痛くなってきた……。
(うまくいけばいいんだけど……な)
眼下には微笑む華琳、そんな様子を考えるふりをしてこちらを覗き込む面々を薄目で確認し、俺は小さく、けど少し嬉しくも溜息をついた。
説明 | ||
第二十七話をお送りします。 ―変態を師と仰ぎます……おぇっ― 開幕 |
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コメント | ||
PONさん>ぞんざい 修正しました! 脱走罪と反逆罪ですね!すみませぬー。 デレ覇王は可愛い!(よしお) またぞんざいが存外になってますねー。あと一刀の罪状は普通に「脱走罪」「反逆罪」のどちらかでは?不敬罪は別に犯してないような・・・ それになんだこのデレ華琳様wすげぇ!(PON) 村主さん>そんなのごめんですわーw ひんにゅーをバカにした一刀が悪いです。ざんまー(よしお) タケダムさん>大丈夫です、問題ありません!いや、問題ありますけどw(よしお) 赤字さん>マスターアジアみたいななにか、ですよあれ!(よしお) よーぜふさん>ツ、ツンデレおつ!(よしお) ヒトヤ犬さん>真です。(よしお) 黒野 茜さん>楽しめていただけたようでよかったですw(よしお) りゅうじさん>選択肢を間違えたらロストヴァージンしちゃいますね……誰得!(よしお) 320iさん>間違いなく惚気も出してますねw(よしお) やっぱいつかは夕日の海岸で卑弥呼さんを膝枕しつつあの台詞を・・・想像したら寒気が(Gガ〇は好きですが) そしてさり気無く種馬さんの扱いが 両腕の間接外されるってw(村主7) 華琳が一刀に付いて行ったら不味くないか?一応魏の王様なんだから呉に変なふうに誤解されるかもしれないよ!(タケダム) マスターアジアがみえるぞw(赤字) 見よ!東方は赤く燃え(たぎっ)ている!・・・おぇ。 いえ、本来の師匠は大好きですよ? そしておい種馬、モゲロ、ホラレロ べ、別に華琳を膝上に乗せたいなんて思ってないんだからね!?(よーぜふ) 「暗殺などという無粋なマネ」・・・何時の記憶?(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ) あの変態が師匠か。。。間違えたら掘られるなこれはwww(りゅうじ) |
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