Cリーナさんの休日 第2話 地下鉄のハジ |
第二話 地下鉄のハジ
浅草と秋葉原の電気街、それに横浜が混然一体となったような小さな街、名古屋の大須。
どこか浅草の下町を思わせる情緒豊かな街の、地下十数メートル下には
冬でも熱気むんむんの地下鉄が、網の目の様に張り巡らされている。
実はその地下鉄の、更に地下数十メートル真下に、日本の主要都市並びに
各国の主要都市から、停車駅のひとつであるこの大須に向けて超大型の線路が敷かれている。
鉄道マニアが見たら泣いて喜びそうな、一両六十メートル級の超大型貨物列車を初め、
時速千キロの海底超特急等、各国の財力を持った大物達が資金を出し合って開発し、
自分達の都合がいいように運用している秘密の私設サブウェイだ。
最近の石油の値上りも産油国の富豪達が敷設費用の足しにしてるかららしい。
そんな訳アリの地下鉄がつながる大型イベント地下会場〈大須ビッグサイト
(※本家東京ビッグサイトの十倍の広さ!!)〉がリーナお嬢様の自宅マンションの最深部にある。
そこへ僕とリーナお嬢様はエレベーターで到着した。
幼い頃、何かイベントがあるごとに、奥様や旦那様に連れて来られたお嬢様は、
この会場にはいい思い出がありニコニコしている。
可愛い女の子の笑顔って見てて救われるよね。
会場につながる大きな通路は各界の大物でごった返している。
「やあ、Tさん、メ○セデスのマイバッハに対抗して作った新車の大型リムジン〈グリフォン〉も
凄いですが、今日のイベント展示用にひっぱってきた三十メートルもある、あの二足歩行の
試作土木機械凄いですなあ。陸・海・空三タイプ用意でどんな現場にも対応とは!」
「うちの新開発のプラズマレーザーとか付けたら大型廃棄建造物破壊用だけじゃなく、
軍用にも転用できますなあ」
「キ○○ンスさん怖いこと言わんでくださいよ(笑) しかしイベント用二足歩行ロボで、
自分たちが先を行ってると思ってた〈あの〉会社もきっと腰をぬかすと思うとります。
ハッハッハ!!」
威勢のいいドラ声で、世間話があちこちでかわされている。
通路を五分ほど歩くと僕たちは会場の入口についた。
会場で僕たちを待ち受けていたのは、なんと……
その道の通が涎を流して欲しがる世界中の珍品・奇品が大は航空機や車を初め、
小は飲み物や食品、漫画等、ジャンルを一切問わず大量に勢揃いしていた。
しかもここに並ぶ珍品・奇品は入手方法も不明な正真正銘、人を選ぶ曰くつきの品物ばかり。
当然目が肥えに肥えた鑑定人達の審査を通過した どれもなぜか〈本物〉。
探し屋の本能を刺激され、早速お嬢様があちこちをフラフラし始めた。
「ふあぁぁ〜〜っ、 ピニンファリーナ ミトスぅ〜〜!!」
「ひぃぃ〜〜ん、ブラフ シューペリア!!」
「うわわぁぁ〜〜っ、マセラッティ ブーメラン〜〜!!」
「うはぁぁ〜〜っ、スバル アマデウス〜〜!!」
「ひよぇぇ〜〜っ、凄いーっ日野サムライ〜〜!!」
「なぁぁ〜〜っ、事故で全損したランボルギーニイオタの錆びた残骸〜〜!!」
「おっきぃぃ〜〜っ、火災事故で爆発したはずのヒンデンブルグ号(←(注)本物(笑))が
何故かここに〜〜っ!!」
「あはぁぁ〜〜っ、鶴田 謙二さんの『The Spirit of Wonder』の初版本が山積みに〜〜!!」
「やぁ〜〜ん、試食のコーナーでインスタントラーメンの〈たまごめん〉に〈お茶づけラーメン〉見っけ〜〜!!
あっ、アイスクリームの〈宝石箱〉やジャフィービスケットまであるーっ!! 」
「わ〜〜っ、お嬢様 数十年前に賞味期限すぎたもの食べないでくださいっ!!」
こんな珍品が判るリーナお嬢様も普通じゃないけど、この会場に集まった人達も
同類なので普通じゃない。(笑)
大はしゃぎだったお嬢様だけど、人混みに見覚えのあるオレンジ色のケースを
見つけて突然、表情を曇らせた。
「あ……あれは!!」
そう、それはリーナお嬢様と僕が探しだし、つい先日依頼人に渡したはずの
クリーンな超小型原爆〈ポパイ・ザ・セーラマン〉だった。そしてそのケースを
抱きかかえた人物はなんと旦那様。
がっしりしていて背が高く、知的だけどギョロっとした目つきに、長く伸ばしたアゴ髭、
山賊みたいな人相だ。久しぶりにお会いしたけど、悪人っぽさにいちだんと磨きがかかっている。
「な……、どういうこと?! なんであんたが持ってるのよ、それ?!」
「ふふっ、待っていたぞリーナ。どうだ、凄いイベントだろう?」
「確かにもの凄いけど、このイベント、曰く付きの物ばかり並びすぎ!! 変よ!」
「ここにある物は世界中の探し屋が探し出し、依頼人に届けたものの、様々な事情で
依頼人が手放したものばかりだ。言ってみればこのイベントはそんな物の展示即売会だな。
この〈ポパイ〉はおまえの依頼人が手に入れたものの、処分が難しくて怖くなり二束三文で
ブローカーの俺に売り渡したもんだ」
「それをどうする気?!」
「無論、製造元に高値で買ってもらう。そしていずれ反対勢力がその情報を嗅ぎつけ
お前のような探し屋を送りこみ奪ってくる……そいつをまた反対勢力から、うまく頂戴して
俺が製造元に売る。いやぁ、なんと素晴らしいループ♪ いい商売だァ」
「この死の商人が!!」
「まあ、商売なんてもんは「儲け」をどこかから盗らなきゃならん宿命がある以上、
それに関わる奴ぁ大なり小なり歪んじまうもんさね。この場所にあるモノは持ち主が手放してしまった物ばかり。
買ってから、なにか問題が起きたところでそれは買い手の問題。
探し屋やブローカーが口は出せんよ。それより開き直ってこの状況を楽しんだらどうだ?」
「そんな話聞いた後で楽しめるかっ!!」
「フフ、相変わらず潔癖症な娘だな。まあいい。俺は早いとこポパイを売りさばいて、
その足でハリウッドに向かわにゃならんので、これで失敬する。そんじゃまたな!!」
「もう帰ってくるなぁっ!!」
お嬢様はさっき握りしめてヒビが入った携帯を旦那様に投げつけたけどうまくかわされ、
携帯は壁に当たり無惨に飛び散った。
ムスっとした顔で、あたりの散策を再開したお嬢様を元気のいいしわがれ声が呼び止めた。
「よぉっ、リーナ、久しぶりアル!」
「あっ、チンさん!!」
お決まりの怪しい中国人を思わせる日本語で挨拶してきた、白いチョビ髭に
老眼鏡のお爺さんは陳・源斉(チン・ゲンサイ)さん。大須商店街で書店を
やっているお嬢様の昔からの知り合いだ。
「今、おまえの親父さんから面白い本を一冊委託されたネ」
「えっ、そ、それって……!!」
それは『月光花』と銘打たれた この世にあるはずのないリーナお嬢様の写真集だった。
第三話 再会 お母さまっ!!につづく
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少々際どい話題のお話です。 商業誌では、まずできないネタを ここぞとばかり使い、やりたい 放題です。(笑) 3月に加筆修正しました。 |
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