Dリーナさんの休日 第3話 再会 お母さまっ!!
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 第三話 再会 お母さまっ!!

 

 浅草と秋葉原の電気街、それに横浜が混然一体となったような小さな街、名古屋の大須。

 通路に並ぶハンバーガー屋さんやお好み焼き屋さん、ういろう屋さんなど小さな

食べ物屋さんが美味い。古書店に穴場があったり、大須が元祖といわれている(?)おでん缶

なんてのも、知る人ぞ知るアメ横の片隅の自販機で昔から売られている。

 最近では古着も大々的に売られていて、秋葉原流れの〈萌え〉ショップ(笑)が

勢力拡大中で、老人の街と言われた十数年前と違い、名古屋栄と並んで若者の

楽しみの場のひとつとしてごった返している。

 ただし朝は十時と遅く目覚め、夜は八時位に閉店が多かったりと昔のなごりは残っている。

 そんな大須に高級マンションがそびえてるんだけど、そこがリーナお嬢様とその家族の自宅。

 その自宅数十メートル下に世界各国から秘密裏に地下鉄がつながる

大型イベント地下会場〈大須ビッグサイト〉があって、そこで催された

イベント〈超珍品奇品即売会〉の見学にリーナお嬢様と僕はやってきたんだ。

 会場で書店主のお爺さん陳・源斉(チン・ゲンサイ)さんと出会い、旦那様から

売るように依頼されたという、この世にあるはずがない『月光花』と銘打たれた

リーナお嬢様の写真集を目前にし、リーナお嬢様と僕は驚愕した。

 

「なあぁぁ〜〜っ!!、なによ、これぇ〜〜っ!!」

 頬を真っ赤にして、珍さんから猛スピードで写真集を取りあげるお嬢様。

「あっ、リーナなにするネ!、売り物をふんだくるなんて」

「誰に許可とって、こんなの作ったのよ!! あの親父ィ!! ハルロー!! 今見た!? この表紙!?」 

  恥ずかしそうに僕をにらみつける眼が怖い。

「見てません!! 見てません!!」

 チラッと見えた表紙には、装飾品で飾られたビキニを着たお嬢様が、ハーレムの踊り子

みたいに月の砂漠で踊っている姿が載っていた。確かにありゃあ、窮屈そうで恥ずかしい

ビキニだ(笑)。

 だけど、あの衣装どこかでお嬢様が着てたのを間近で見た覚えが……。

「お嬢様、その写真集って、前に何かの仕事で撮影した写真じゃないですか?」

「当ったりまえでしょ!! 私の初主演映画〈イレブン・ナイト・ストーリーズ〉で

撮った宣伝用のスナップ写真よ!! あんたマネージャーでしょ、もう忘れたの!?」

 思い出した!!

 一年ぐらい前にお嬢様主演の映画〈イレブン〜〜〉の企画が立ち上がり、

なんとか撮影まで、こぎつけたんだけど、よく似た題材の作品が先に世に出てしまい

盗作疑惑がかけられ、すぐにお蔵入りしちゃった幻の作品だ。

 あんまり期間の短い仕事だったから、すっかり忘れてた。

 カメラマンがお嬢様の宣伝用スナップ写真を撮ろうとしたのを

「娘の成長記録は父親が撮るのは当然!! ヤマしい所など無い!!」

とか言って、旦那様が強引に自分で撮影しちゃったんだ。

 それはもう、あちこち立派に成長してますから旦那様が無理に成長記録

撮らなくても結構ですって、なんとか断ろうとしたんだけど、あいつが

恥ずかしがるから変装して撮影する、心配いらんとか言って聞かなくて……

 結局、後でお嬢様にバレて携帯の破片が一杯突き刺さってたっけ旦那様。

 つまり『月光花』は旦那様がリーナお嬢様に、無許可で作った曰く付きの写真集って訳だ。

「リーナ、それ売りものアル! 返すネ」

「ううぅっ……」

 困った顔で本と珍さんの顔を見比べてしぶしぶ返す。

「これ……、いくら?」

「クククっ、それおまえの値段みたいな物ネ。いくらなら買う、リーナ?」

「あうぅっ……女の子の、しかも自分の写真集買うなんてバカみたいだけど――、

え〜〜いっ!! 一万円だっ!!」

「おまえの親父は、わしにソレ十万で売りつけたヨ」

「あいつぅぅ〜〜っ!!」

「わっ、お嬢様、僕の携帯ーっ……!!」

 お嬢様の手の中で、貸していた大事な僕の携帯が「ミシリ」と鳴いた。

希少な人気デザインの携帯なのにっ!

「リーナ、今回金はいらないヨ。タダであげる。その代わり、その写真集の

価値に見合う仕事を一つやってもらいたい。〈等価交換〉ネ!」

「写真集の価値に見合う仕事?」

「あら〜〜っ!! リーナちゃん元気ぃ?!」

 突然、優しい女性の声がお嬢様と珍さんの会話に割り込んできた。

 身長が一メートル四十センチ位、見た目は十歳程度のフランス人形みたいな、

金髪の可愛い女の子がいつの間にか、お嬢様の脇でニッコリしている。

「えーっ、お母様っ!! 日本に帰ってたの!?」

 大喜びで、その女の子に抱きつくお嬢様。 

 信じがたいけど、どう見ても、見た目小学校三、四年生の、この女の子は

僕より年上の二十六歳で、リーナお嬢様の母親だ。

 身長一メートル六十一のお嬢様が抱きつくと、お姉さんが歳の離れた妹を

抱いてるように見える。

 彼女はイギリスの名門プライトニング家の娘さんで、本名は安治江・

プライトニング・ティーナ。

 長いので〈プティさん〉の愛称でみんなから親しまれている。

「もう、甘えんぼさんなんだから。ハルロー君も元気してた?!」

「はい。いつ見てもお若いですねプティ様。もう少し老けた方が

よろしい位ですよ。」

「あらあら、なにいってんの、相変わらず口が上手なんだから。

でももう駄目ねぇ、子供産んじゃって、二十六歳にもなるとすっかり

オバさんになっちゃって。フフフフ」

「お母様の歳を聞くたびに、あの親父に殺意を感じるわ。十歳の貴族の娘に

出産させるなんて腐れ外道よ!!」

「里井久(りいく)くんのこと、あんまり悪くいうもんじゃないわ。

その腐れ外道くんのおかげで産まれることができたんでしょ、リーナちゃん(笑)」

「お母様に死ぬ思いさせてまで産まれたくなかったよ、私!!」

「そりゃあ、天地がひっくり返る位、痛かったけど誰も恨んでないし、

リーナちゃんの顔見ることができてお母さん嬉しかったよ」

 さすが母親、渋いなぁ。少女漫画みたいな外見には全然合わないけど。

「里井久くん、大須に少し寄ってリーナの顔を見たら、ハリウッドへ行って

ミックベンソン監督の新作映画の悪役オーディションに出るんだって

はりきってたのよ。日本の俳優がハリウッドに行ってメジャーに

なるの流行ってるでしょ。 あの人、裏の世界じゃメジャーなんだけど、

オモテはただの一市民だからね。面白そうなんでお母さんもついて来たの」

 旦那様ならオーディション一発合格間違いなしだ。

「それより、見せてもらったわよ、リーナちゃんの写真集。

よく撮れてるじゃない。ねえ珍さん」

「男に産まれて悔い無しと思たアル」

「あのねぇ……!! 珍さん」

「ちょっと見ないうちにおっぱいやお尻ずいぶん立派になっちゃって〜〜。

いい子が産めるわよぉ(*^o^*) お母さんスタイル全然駄目だから羨ましいな」

 さりげなく母親から受ける言葉のセクハラにどう反応していいのか

思いつかないらしく真っ赤になったお嬢様は目を点にしてモジモジしている。 

「でも不思議よねぇ。リーナちゃん、赤ちゃんの時、里井久くんに

私のお乳独り占めされちゃって粉ミルクで育ったのに、産んだ親よりも

立派になっちゃうんだもん。粉ミルクって栄養あるのかしら〜〜。

まあ、リーナちゃんには、私みたいに難産しないよう、これからも

どんどん育ってもらわないとね〜〜。

男の子にマッサージしてもらうと効果があるっていうから協力して

もらうといいわ。ねぇ、ハルロー君」

「はぁ、喜んでご期待に……」

 ズドン!!

 思いきりお嬢様に足を踏んづけられた。

 しかし相変わらずとんでもないパスするなぁ、プティ様。(^^;)

黙ってれば可愛い魔法少女なのに……

 

 ♪ピンポロパンポロピロピロリーン〜〜

 

「あっ、携帯! 里井久くんね。――あっ、はい、私です。はい、

大須観音の前で……、迎えに来てもらえるのね。わかりました、すぐ行きます」

「えっ、もう帰るの? ゆっくりしてけばいいのに……」

「ごめんね、また帰ったらそうするわ。セントレア(中部国際空港)に

予約してあるそうだから、もう、行かなきゃ。じゃあ元気でねリーナちゃん。

ハルロー君、リーナちゃんのことよろしくお願いね」

「プティ様、道中お気をつけて」

 別れの挨拶を済ますとプティ様はテテテっと、小走りでエレベーターに

乗り込んだ。

「ふーっ、おふくろさんに話の腰を折られたネ」

「写真集と引き替えの仕事ってなによ?」

「探し屋に頼む仕事といえば捜し物に決まってるネ!!」

 今までゆるんでいたリーナお嬢様の表情が生き生きと、そして不敵になってきた。

お嬢様の短かい休日が終わる気配を僕は感じた。

 

 

リーナさんビギンズ!! 〜star regulations〜 

第1話 最高のシ者に続く。

 

説明
 このお話は発表した中でも受けが良かったお話です。
リーナお嬢様の問題児な両親はこれからもお話を
引っかき回していきます。
3月に加筆修正しました。 
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