猛り狂う者、刹那潰える灯火 1・旅立ち part2 |
ようこそ皆々様
当外史の管理者より水先案内人を任されている者にございます
この外史を辿るにあたり注意をさせていただきます
一、外史『猛り狂う者』は、黄巾党√です
一、キャラクターや物語の進行など、原作とは異なります
一、場面によっては、暴力的であったり、グロテスクな表現が入ります
一、悲劇を辿る物語ですので、ハッピーエンドはしません バッドエンドです
今のところはこの程度でございます
貴方に『希望』を捨てる覚悟があるのならば
どうぞお進みください…
悲劇を辿る外史 1
猛り狂う者、刹那潰える灯火
1・旅立ち part2
ある朝。
「そうか、もう行くのか」
「はい。私達は歌で生きる旅芸人ですから。
それに、いつまでもお世話になっているのも申し訳ありませんし」
程信が三姉妹を助けてから三月ほど。
行き倒れの身元も知れない彼女達を、村の者たちは何の不平をあげることなく、
にこやかに歓迎してくれたことは、まだ記憶に新しい。
村人たちの笑顔と、程信の不器用な優しさに包まれた日々は、
それまでの三姉妹の人生の中でも、特に満ち足りたものだった。
しかし、その傍ら常に考え続けていた。
何時までも村の善意に、程信の腕の中にいる事に甘えていていいのか。
否、と。 そう結論する。
自分達を保護するために、間違いなく村人たちは、
特に程信は何かしら損をする、していることは間違いない。
人が人らしい生活を送る事もままならない今の世の中だ。
他者から与えられるだけの恵まれた環境に浸っているだけでは、ただのダメ人間だ。
なにより『歌で大陸をとる』という夢の為にも、いつまでも立ち止まってはいられない。
それは、幼少のころから三姉妹が育て続けてきた大望だ。
なによりそれが絵空事ではないという、夢の一端を垣間見た今、
三姉妹の想いはより一層胸を焦がすようになった。
それから。
時は矢のように流れ、ついに三姉妹は旅立ちつことを告げた。
「そうか。寂しくなるな」
「そう思うならアンタも一緒に来なさいよ。
ちぃ達みたいな美少女と一緒に旅できるんだもの。寂しくなんかないわよ?」
「あ〜、それいいね〜。行こうよ信くん?」
てらいもなく心境をこぼす程信に、地和が同道の誘いを持ちかける。
横で聞いていた天和も、地和のすすめに便乗して程信を誘う。
しかし。
「……すまない。自分は行けない。
まだ祖父に、村の皆に受けた恩を返し切れていないから…」
「…そうですか」
人和には、程信がそう答えるだろうことは、なんとなくわかっていた。
だからこそ、その声色にはさしたる変化を感じるものはなかった。
とは言え、無表情を装ったその顔からは、明らかに生気が落ちていたが。
「私達は、明後日の朝に発ちます。」
「わかった」
View : 地和
「なによ、もぅ!せっかくちぃが誘ってあげたのに!」
肩をいからせ、わざとドシドシ音が立つようにうろうろする。
自分がご立腹であることを、誇示するように。
明後日の朝には、この村を出る。
もう此処にいられるのは、あと1日程度。
「アイツの側にいられるのも…」
アイツの、程信の側にいられるのも。
アイツの隣で笑っていられるのも、あと1日くらいしかない。
「そっか。もうお別れなんだ…」
目の前まで迫った時間に、改めてそう自覚させられた。
「いいもん。すぐにでっかい売れっ娘になって、
ついていけばよかったって、後悔させてやるんだから!」
そう意気込んだはいいものの。
アイツと、姉や妹と過ごした楽しい日々は鮮明に思い出せるのに。
このままこの村で暮らしていったらどんなに楽しいかも、想像できるのに。
此処を旅立ち、私達姉妹だけで旅をして、
大陸を席巻する有名人になっているその様子をいくら想像しても。
致命的な何かが欠けてしまっているようで。
酷く霞んで、上手に想像できない。
「…………嫌……だなァ」
思わず、口をついて出てしまった言葉。
夜空を見上げても、ぐんにゃりと歪んでしまって。
あの綺麗な星空が、よく見えない。
小さく光る流れ星が、私の頬をつたって落ちて行った。
View End
View : 人和
荷物の整理が終わった。
それどころか、もう既に5・6回漏れがないか点検している。
幸い準備は完璧だったらしく、1回目の点検から既に漏れはなかった。
「……何やってるの、私」
出発は明後日だ。
何も今日の内から準備する必要なんてない。
だというのに、私はとにかく手持無沙汰で、休みなくそそくさと動き回っている。
何度も何度も確認して、荷物に漏れは無い事はわかっているのに、
何か忘れてしまっているような気がして、また幾度目かの点検を始める。
しかし、やはり何度確認しても、忘れている者なんてない。
…『者』?
ああ、そうか。 そういうことか。
ようやくわかった。 私が何を忘れていると思ってしまっていたのか。
思い出したくなかったからだ。 置いていく彼のことを。
ようやくわかった。 私がなぜ、明日でも構わない作業を休みなくやっていたのか。
考えたくなかったからだ。 彼とお別れという、その事実を。
そこに思い至った途端、膝から力が抜け、その場にへたり込んでしまう。
力が、入らない…。
「…なんとなく、気づいてはいた。でも、理屈で片付かなくて…」
だから、理解できなかった。
苦しいのに、切ないのに、辛くない。
胸の奥の方が温かくなるような、そんな感じ。
胸の奥なんて、どこだろう。
すごく曖昧で、抽象的だけど、そんな感じなのだ。
わかってる。目をそらしただけ。
理解できても、納得できなかったから。
でも、理屈じゃないのね。こういうのって。
目をそらしていた感情を、ようやく受け入れた。
「好きです…。愛しています…。程信さんっ…!」
まぁ、もう遅いのだけれど。
View End
View : 程信
彼女達が、出ていくことになった。
告げられた時の感情を、どう例えようか。
大切な何かを失う感覚、とでも言えばいいのだろうか。
記憶を失った自分では、明確な感情知覚がうまくいかない。
自分の表情が乏しいといわれるのも、そのためなのだろう。
うぬぼれではないと思うが、自覚はしているのだ。
自分が彼女達に向けているこの感情が、いわゆる『恋愛感情』であること。
同様の感情を、彼女達から向けられている、ということ。
それは、わかっている。
出来る事なら、彼女達について行って、この大陸を旅してみたい。
世界の広さを、記憶を失ったこの身で感じたい。
彼女達との協奏で、もっと多くの人々を笑顔にしたい。
でも、自分にはそれは出来ない。
自分は、この村の人々に救われたのだから。
自分が祖父の宅に現れた時、自分は生きているのが不思議なほど傷だらけだったらしい。
全身に掠り傷や打撲痕や風穴がいくつもあり、いくつもの金属の塊が体内に食い込んでいたらしい。
運よく旅の医者が近くに来ていた事で辛くも一命は取り留めたが、
自分を助ける、そのためだけに祖父や村の皆は酷く苦労したそうだ。
だから…。
だから、自分はこの村に尽くす。
そうすることで、恩に報いるために…。
View End
View : 天和
「な〜んて、お姉ちゃんは諦めないんだからね〜」
もう結構暗くなってきた村の中を、奥に向かって歩いて行く。
それにしても、もう夜も遅いのに、家々にはまだ明りがともったまま。
きっと工芸品とかつくってるんだろうな〜。
信くんは、助けられた時すごく酷いけがをしてたんだって。
だから、みんなあわてて近くの村に医者を呼びに行ったり、
なけなしの食材から病人食をつくったりしたって聞いた。
義理堅い信くんのこと、一生村の為に生きるつもりなのは目に見えてる。
でも、そんなのは人として間違ってると思うんだ。
ただ人の為だけに生きたって、なにもいい事無いと思う。
人は利己的な生き物だって聞いた事がある。
人は自分の利の為に生きるものなんだって。
私も、それは正しいんだと思うよ。
さっきも言ったけど、人の為だけに生きてもいいことなんかないんだよ。
だって、自分が幸せじゃなかったら、人を幸せになんてできっこないじゃん。
なら、自分の為に生きないと、人のために生きるなんてことできないよ。
だから、私は私のために生きるよ。
そして、大切な妹たちのために生きるよ。
そのうち、歌を聞いてくれる人たちのために生きるようになるよ。
大好きな程信くん。貴方のために、私は生きます。
でも信くん頑固だから、私達が何を言っても聞いてくれないよね。
だったら、味方をつけちゃえばいいんだよ。
私は、村の一番奥の家の戸をたたく。
「ごめんくださ〜い」
これが、切り札だよ。
View End
村の門から出た雑木林を、四人は歩いて行く。
先頭に立つ天和の足取りは軽いものだが、残りの三人の歩みは遅々としたものだった。
程信の表情はいつもどおりだが、地和と人和は酷いものだ。
両目が真っ赤になったままで、いまだにちょっとしゃっくりしている。
そろそろ雑木林を抜けるあたりにさしかかる。
程信の見送りは此処までなので、そこで別れ、となるはずだった。
だが、其処には程信を除くすべての村人たちが待っていた。
呆気にとられる三人をよそに、天和が「やっほ〜☆」とのんきな声を出す。
混乱からなかなか立ち直れない三人の前に、一人の老人が出てきた。
姓を程、名を覧。村の長にして、程信の祖父である。
「準備はできたようだのォ、嬢ちゃん達。ほれ、餞別よ」
程覧は適度に膨らんだ袋を三姉妹に渡した。
「??」
「あの、これは?」
「一が作っておったおんしらの服よ。作るのに苦労したわぇ」
「…いつのまに」
隠していたはずの服の台紙をいつのまにかちょろまかされていた事に憮然とする程信。
袋の中身は、黄を基調とした衣装だった。
所々に派手に成りすぎない程度に装飾が施され、それでいて目立たず、
あくまで着る者の魅力を引き出す事のみを考えて作られている。
「すごい…」
「一よ、おんしにはこっちじゃ」
「は?」
置かれているのは明らかに旅仕度。
いきなり渡されても理解が追い付かない程信は、困惑気味に口を開く。
「これはいったいどういう…」
「どうもこうもなかろ。誘われたのだろぅ?なら、嬢ちゃんたちと供に行くがえぇの」
「なんでそれを…」
「私がお願いしたんだよ」
天和が言う。
その顔に浮かぶ表情は、いつもののほほんとしたものではなく、
姉妹の長たりうる貫禄を見せる、強い女の顔。
自分の預かり知らないところで話をすすめられた程信は食ってかかる。
「なんでそんな真似を…!
自分は行かぬといっただろう!?
自分はこの村に一生をかけても返しきれない恩が―」
「じゃァかぁあしぃいい!!ドたわけがぁぁあああ!!!!」
『!?』
突然の罵声に、程信や地和、人和、村の住人が身をすくめる。
程信の言葉を叱り飛ばした程覧と、凛とした表情のままの天和だけが、
真剣な瞳でじっと程信を見据えている。
「思い誤るじゃねぇよの、一や。
拙者らぁ、おんしの人生捧げて欲しぃて助けた訳じゃぁない。
むしろ、拙者からしてみりゃぁはじめは死んじまった倅(せがれ)の代わりに、
手前ぇ慰める為みてぇに助けただけじゃぁの。
おんしの為にやったわけでもねぇのに、返される恩もねぇよの。
第一、おんしがこの村にもたらしてくれた物はぁ、
そんなものぁ比じゃねぇ価値があるってぇものよの。
放っときゃ消えてた村ぁ建て直して、ここまで栄えさせたぁよ。
おんしは、拙者達全員の命を救ってくれたようなもんよ」
「そうだぜ一っちゃん!」「さっすが一にぃ!」「\キャーシンサーン/」
村人たちは口々に程覧の言を肯定する。
「一よ。おんしは、こんな賊が頻出する物騒な時代に、
力のない女子を放っぽり出すような漢ではなかろぉの。
ましてそれが、好いた女子なら尚更ってぇもんよの。
踏ん切りつかんのなら聞けぇ。 嬢ちゃん」
「信くん、私達を、護って……?」
潤んだ瞳。 上目遣い。 自分を頼ってくれる女子。
ここまでされて応えないようでは、もはや漢ではない。
「…はぁ。負けたよ。
了解した。天和、地和、人和。皆、全力で護り通そう」
★ 大 ☆ 喝 ★ 采 ☆
「信くん〜!!」
「信!!」
「信さん!!」
程信に抱きつく三姉妹。
程信はゆるぎなく受け止め、言う。
自分が程覧から名前を貰った時、唯一覚えていたうろ覚えの言葉。
真名としたその名を、告げる為に。
「改めて名乗ろう。
自分は、 姓は程(テイ) 名は信(シン) 字は遠志(エンシ)。
それから、真名を一刀(イットウ)という。
一(イチ)と呼んでほしい。 以後、よろしく。」