茜ちゃん 第三話『選択』 |
「あ、ああ、なんかTVで見たような古い街並みが……何の映画のセットですか?」
「認めたくないのは分かるけど、これ現実だから、そろそろ認めようね」
いい加減降ろしてと言うのもどうでも良くなるくらい変てこな事態に驚愕する茜を、同情の混じった目で視界の端で眺めていると、視界の先に目的の屋敷が目に入る。
街と少し離れたものの大きな屋敷に何の躊躇もせずに入る護衛に茜は少しだけ安堵の息を吐く。
周りの家と違い、藁ぶきや板が剥き出しの屋根ではなく瓦葺きの屋根が用いられており、それだけでこの家の持ち主がこの辺りで有力者だと言う事一目で分かったからだ。
だけど勝手に屋敷に上がって行く護衛の行動に、茜は目を見開く。
「さてと、うたまるは居るかな」
そう言って顔を向けたのは、綺麗に掃除はされているものの、それは単なる布を退きつめた箱でしかなく。
どう見ても、犬か猫の寝床にしか見えなかった。
言葉の意図に首を傾げていると、護衛はその箱に片足を突っ込み。
ひゅっ
「えっ?」
一瞬目の前が暗くなったと思ったら、次の瞬間には周りの光景は一変しており、まるでどこかの穴倉のような場所に、護衛共々立っている事に気が付く。
「こっちへ」
護衛は事態に付いていけないでいる茜の手を引っ張り、洞窟の奥へと進む。
幸いうたまるの術のおかげで、それなりに明るいので、茜も躓かずについて来てくれる事に、安堵しながらこの洞窟。仙郷の主を呼ぶと。
「ひゃぁ〜」
すぐさま、足元からそんな声が聞こえ慌てて足を止めると、茜がその声の主に気が付き声を漏らす。
「猫?……でもこんな丸い猫なんて……なにこれ?」
「まぁその意見は俺も賛成だが一応これでも猫らしい。 仙猫だけどね」
「何用? せっかく気持ち良く昼寝をしていたのに」
「し、喋ったっ!」
「いや、仙猫だからそれくらいはするって。 それはともかくうたまる。実は各々云々なんだ」
高速言語で、うたまるに情報を渡す護衛に、うたまるは考えているのか、考えていないのか分からない顔をしたまま。
「むり。 私は癒やし専門よ。 筋肉達磨やホモとその相方の相手なんて無理よ。 あの4人相手では泥矢の結界も持って半日って処かしらね」
「そんな事は分かっている。 だが、時間稼ぎや今後の対応を練るくらいは出来るだろ」
「まぁそんな所よねぇ。 えーと茜ちゃんだったかな」
「はい」
「聞くけど、可愛い娘と見れば見境なく手を出す覇王と。 血に酔うと相手が気絶しようがむしゃぶり付くすように愛す自由奔放な王と。 友達顔で皆と仲良くしようねと言って、数人掛かりで開発してゆく自称人徳の王とどれが良いかしら? むろん全員女よ」
猫が人間の言葉を話すだけでも、いい加減夢から覚めて欲しいと嘆く茜に、神も仏も無いのかと言いたくなるような内容を問われても、答えなんて決まっている。
「どれも嫌ですっ! だいたい何なんですか、その聞くからに人間失格な人達はっ!」
茜の言葉に、護衛もうたまるも頷きながら、
「言っとくが、あいつ等に捕まったらもっと悲惨だよ。 そうだな、君が最初に見た光景みたいになったりとか」
「ひっ! あ、アイツらそんなにとんでもない変態なんですか?」
「左慈や于吉も方向性は違っても似たり寄ったりよ。
言っとくけど、今言った三択意外だとまず間違いなくあいつ等に捕まると思った方が良いわ。
今の三択なら世界の強制力が働くから、アイツらも手を出しにくくなるの。 それにその三択でも貴女次第で貞操は守れるわ」
白虎を相手にするか、龍を相手にするか、鳳凰を相手にするかを選べと言われた気がして、茜は手を顔に当てながら天を仰ぐ。
やがて、どれも一緒ならばと、出した答えを述べると。
「そう、なら転送してあげるから、後は向こうのJINに聞いてちょうだい」
「え?」
「ひゃぁ〜〜〜〜っ!」
うたまるの鳴き声と共に消える茜を護衛は安堵の息と共に見送っていると、
「安心するのは早いわよ。 これであいつ等は表立って行動できなくなっても、この外史の人間に扮して、この外史の人間としてあの娘に関わろうとするはずよ」
「そうだな。 アイツがどんな道を選ぶにせよ。 時間が必要か」
「そう言う事。 左慈と于吉は方向音痴だから放って置いても時間が稼げるけど、問題はあの二人よ」
「そうだな。 どうする?」
「ひゃぁ〜〜〜〜っ!(こうするのよ)」
「え?」
鳴き声と共に、消え去る護衛を見向きもせずに、うたまるは洞窟の奥に足を向け再びお昼寝を始める。
「猫の昼寝を邪魔をするからよ。あの二人の相手を精々してあげるのね。 ふぁ〜、寝よ」