深色のファンタジア ――プロローグ―― |
何が悲しいのだろう。
少年は仰向けに倒れ、青空を見上げていた。
何が嬉しいのだろう。
少年の側に転がった、小さな時計が音を奏でる度に、彼はそう思った。
少年の体はボロボロなのに、その小さな時計は何事もなかったような姿で音を奏でている。
「…」
そんな時計の音に紛れて、微かに声が囁いてきた。
「大丈夫…?」
「怪我、酷いよ…誰がこんなことしたの…?」
ふと少年の目の端に、黒い髪の毛が映った。
それは声の主だろう、少年はそう思った。
少年はその声の主を見ようとしたが、体を動かす気力さえ無かった。
「だ…れ…だ……」
変わりに一つずつ、確実に声を出していこうとする。
「…私?」
一瞬躊躇した様に返事をする黒い髪の人物。
それだけ言うと後は黙ってしまった。
「君は、…君はなんて言うの、名前、なんて言うの?」
その変わりに、少年の名前を聞いてきた。
「…」
沈黙する少年に対し、黒髪の人物はくすくすと笑う。
黒髪の人物は、少年の怪我の手当をし始めた。
ふと少年の顔をのぞき込んだその黒髪の人物。
それは、少女だった。
艶のある黒い髪に、真っ赤な瞳の少女。
彼女は、まるで小さな子供でもあやすような言い方で少年に言った。
「大丈夫だよ、私は君のこと、いじめないから」
それを聞いた少年は驚いた。
「名前を聞いても、驚いたりしないから、大丈夫」
「見てたんだ…」
「うん…」
「ごめんね、助けられなくて…」
そう言った少女は微かに悲しい顔をしてみせた。
「本当は、もっと早くに助けたかったんだ」
「助けられる程弱くないよ…」
少年はそう言うと、起きあがった。
「そっか…そうだよね」
体の至る場所に絆創膏が貼られ、また別の場所には布の切れ端が巻かれている。
今、少女が少年にそうしたのだった。
それを見た少年はこう言った。
「…でも、ありがとう…」
「うん」
その言葉に対し、少女は微笑みを浮かべていた。
その後、彼らは何度も出会った。
名前も分からない二人。
そんな二人は、どこかしら惹かれる所があったのかもしれない。
そんなある日の事。
少年はふと、少女の出で立ちについての疑問を口にした。
それは、人にも魔にも、どちらにも属さない物の姿だったからだ。
「黒い髪に、紅い目…?」
少女はきょとんとした目で少年を見返した。
「うん」
「人間…?」
そしてその問いに、ほんの少し首を傾げながら答えた。
「うん…珍しいの?」
「…珍しいよ、…他の人たちに何か言われたこと無いの?」
そう聞かれると、少女は自信なさげに答えた。
「どうだったかな…覚えてないの」
「それじゃ、言われたことないのかな」
「みんなはどんな髪の色なの?」
「金の髪だよ」
「でも、君は銀の髪だよね」
「僕は、魔族だから」
「まぞく?」
「人間をいじめる人が、魔族って言うんだ」
「君は人間をいじめるの?」
「…いじめたことなんか、ないよ…」
「じゃあ君は、魔族じゃないんだね」
「そんなことないよ、僕は魔族だ」
「よく分からないよ…じゃあ…私はなに?」
「君は人間じゃないのかな」
「でもみんなは金の髪なんだよね」
「うん…そうだね」
「君は、目の色が金だね」
「うん」
「みんなも金なの?」
「魔族のみんなは金だよ」
「じゃあ人間のみんなは?」
「青…」
「…」
「私って、なんだろう…」
「君は君だよ」
「うん、私は…私」
「人間でも魔族でもどっちでもいいんじゃないかな」
「どっちでも大丈夫なの?」
「そんなのきっと、関係ないよ」
「そうなんだ、それならいいや」
「どこにいくの?」
「私、帰らないと行けないの」
「どこに帰るの?」
「私が帰るところに…」
「ねえ、君の名前教えてよ」
「私?…私は…」
「僕の名前はナダル、ねえ、君の名前は?」
「私はね…ユカ…って言うの、そう呼ばれるの…」
説明 | ||
構想だけが浮かんでいるお話。 いつかこの女の子が主人公の乙女ゲーム風RPGにしてみたいと思いながらも、早数年(^^;) |
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