真・恋姫無双〜妄想してみた・改〜第三十三話
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「――では、此度の件は一切の害意は無く、不測の事態が招いた結果だというのか」

「あぁ。……全ては左慈、そして干吉が仕組んだ罠だったんだ」

 

厳格な周瑜の声が胸に突き刺さる。

昼下がりの陽光が暖かいはずの午後、城の中心部である玉座の間で俺は申し開きを行っていた。

 

本来なら最終的な打ち合わせをしてからこの場所に臨むつもりだったんだが、

急遽、会議開始が早まったせいで華琳達が用意しているという準備が何なのか知る時間が無くなってしまった。

 

この場に裁量側として出席しているのは現呉王である雪蓮と大都督である周瑜。そして穏を始めとした複数の文官らしき人物達。

対して裁かれる側の俺の隣に華琳が、少し後方に離れて稟と秋蘭、星の四人が控えている。

本来なら雪蓮側に蓮華も居なくてはいけないのだが、何かしらの理由でもう少し時間が掛かるらしい。

 

一通りの説明を始めて数十分。

何度目かの過去の外史、記憶、三国に渡った俺の軌跡を順を追って証言していく。

 

一部曖昧なところはあるが華琳や星がこの場にいることが何よりの証拠となると思う、

記憶が戻っていても事態を理解できていない穏はあたふたとするだけで援護は望めそうもない。

 

「―――そして華琳を、魏を、同盟国として向かい入れて貰いたいんだ。……世界全てを救うために」

 

頭の中で状況を把握してる内に主題である嘆願を述べる。

長坂橋での無断出奔と自己裁量で魏軍を引き入れた件についての説明だけでは話し終えた時に妙な難癖を付けられ、同盟誓約の障害となるかも知れない。

 

そう予想していた稟の提案で要望も沿えて一気に説明を終えた。

後はあちら側の判断を待つのみといったところか。

 

周瑜を中心に穏や文官が集まり、話し合いを始めている。

耳に入ってくるのは真剣に交わす言葉や意見。

それに混じってこちらを馬鹿にしたような嘲りや曲笑も流れ込む。

過去の事情を知らない文官からすれば俺の申し開きは戯言にしか聞こえないからだろう。

 

あえて嘘を付く必要も無かったので正直に話したが、穏の表情にも戸惑いの色が浮かんでいる。

呉軍全員が半信半疑の状態で進む軍事裁判。誰もがこちらを疑う視線を浴びせる中で、

 

「……」

 

ただ一人、こちらを穴が空くほどの眼光で見定める雪蓮が玉座から見下ろしていた。

 

「……っ」

「しっかりなさい、一刀。ここが男の見せ所よ」

 

華琳とはまた違う王の気迫。その飲み込まれそうな深い重みを持った瞳に気圧されかけるが隣からの一言が牽制となりなんとか踏み留まる。

氷のように鋭く、炎のような情熱を秘めた彼女独特の雰囲気。

傍に控えるのではなく、向かい合って初めて理解した彼女の凄みを肌で感じていた。

 

「ん……大丈夫だ。心配いらないよ」

 

この状態からいかに自分の有利な状況へ引き寄せられるかが問題。

呉で培った軍師の経験を活かす時だ。

 

やがて協議が終わったのか、人の輪が解かれ、元の位置へと戻っていく。

何度も心配そうに穏がこちらを見やるが、上司には逆らえないのか済まなさそうな表情で項垂れている。

 

「さて、北郷一刀よ。今回の騒動についての我ら呉軍からの判決を下す」

 

仰々しく口上を垂れながら周瑜がこちらに向き直り、言葉を紡ぐ。

 

「自らの職務を放棄し、無断で出奔した件に関しては如何なる理由があろうと許しがたい。

一つ間違えば袁紹軍と敵対する良い理由になったであろうからな。一部の臣下と交流が深かろうと一人の勝手は許せん」

「……」

 

雪蓮は喋らない。黙して語らず、視線だけをこちらに投げかける。

 

「だが、魏王と有力な将を捕らえた功績については充分に評価出来る。よって、この場において曹操の首を刎ねてみせれば先の罪については不問としよう」

「!? ちょっと待ってくれ! 俺はそんなつもりで彼女達を連れてきたわけじゃない!!」

 

説明時の同盟等の要望を完全に無視した物言いに慌てて異を唱える。

事実を事実だけで捉えるのは当たり前だけど、すぐさま処罰を実行させるなんていくらなんでも横暴過ぎる。

 

「では何だ? 本気で敗残した魏と同盟を組めなどと言うつもりなのか。そのような愚考、後顧の憂いを絶つに一理あろうと呉にとって手を結ぶ利点などどこにも無い。下らぬ過去の記憶などという曖昧な証言だけでは信用出来ぬな。……所詮貴様は一介の将。大局を動かせるほどの発言力があるとでも思ったか」

「っ! でも! その過去の記憶のおかげで星……趙雲や呂布が力を貸してくれるだろ! それが証明に――」

「蜀を取り入れ、戦力を増強し、謀反を起こす……と?」

 

 

 

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「なっ!?」

「確たる証拠が無いうえで幾ら講釈を垂れようと欺瞞にしか聞こえぬな。蜀の武将が本当に過去の記憶によって鞍替えしたというのなら明確な証拠を提示してみせろ」

「それは……」

 

予想はしていた、もっとも痛い部分への指摘に言いよどむ素振りを見せる。

利害関係で結託しているわけじゃない俺達の絆は過去を知る人物でなければ非常に歪な集まりなんだろう。

天の御使いという代名詞が無い俺はこの世界において周瑜の言う通り、特別な存在じゃない。

 

へたな勘繰りは受けてしょうがないけど、ここは引き下がれない正念場。

何とか雪蓮の気を引いて流れをこちらに手繰り寄せよう。

事前に小蓮の助言がなければ実行しえなかった大博打に掛けてみる。

 

「俺達の間にあるのは信頼だ。形のある証拠は出さない。けどこれからの行動で裏切りや謀反の疑いを晴らしてみせる事は出来る」

 

その一言に周瑜が面白そうに顔を歪めた。

 

「ほう? 何をしてみせるつもりだ。生半可な行動では身の潔白を証明できんぞ」

「あぁ、それぐらい俺だって理解してるさ。だから呉にとって有利にしか働かない、大きな目的を果たしてみせるさ」

 

ちらりと横を見遣れば華琳が『なにを言い出すつもりなの?』みたいな表情を浮かべている。

当初の予定ではここで呉軍と和解し、協力体制を取りたかったが予想以上の隔たりがある現状では止むを得まい。

万が一にと用意しておいた腹案を胸に、小さく深呼吸をしてからと口を開く。

 

「“袁紹”を、俺達だけで落とす。それならば成功、失敗を問わず呉に損失はないだろう」

 

いずれ必ず敵対する相手だ。戦力を削ぐ事に異存は無いだろう。

 

「一刀!?」「一刀殿!」「……主?」

 

打ち合わせに無い俺の発言に驚く三人。

本当なら冤罪を払拭するだけでなく、なんとしても協力関係を結ばないといけないところだったからなー。

直前の打ち合わせが出来なかった事が悔やまれる。

そしてその突飛な一言にざわめき出す文官達に紛れて穏は目に見えて動揺し、立場も忘れて捲くし立ててきた。

 

「だ、だんな様!? い、いきなり何を言い出すんですか!! れ、れれ冷静になって考えてください! 世の中にはやれる事と出来ない事があるんですよー! 三十万を優に超える相手にどうするおつもりですか!?」

「穏。心配してくれるのはありがたいけど、ちゃんと勝算あっての発言だ。無茶をするつもりは無いから大丈夫だって」

 

袁紹より先に周瑜との舌戦に勝算があるかどうかだけどな。

苦笑交じりに微笑むと、納得いかない彼女は体を乗り出して抗議する。

 

「だ、だめ! だめだめ、ダメー! です! そんな博打を打つくらいなら、この場で曹操の首を切っちゃってください! だんな様がお嫌なら私が直接――」

「「穏」」

「この手で……って、だんな様と……雪蓮様?」

 

 

 

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制止の声は俺だけのものじゃなかった。

ほとんど同じタイミングで玉座から雪蓮が発言し、こちらに歩み寄って来る。

 

「……一刀。あなた、本気でそんな大それた戦いに挑むつもりなの? 勇気と蛮勇を履き違えるなんてそんな愚挙を教えたつもりはないんだけど?」

 

眉間にしわを寄せて……随分と不機嫌そうだ。

 

「そんなに……この曹操が大事なの?」

 

苛立ちというよりか、納得出来ないってところか。

流し目で隣にいる華琳へと視線を寄越し、睨みつける姿は自分を殺した相手を見定めるというより華琳という人物自体を計っているように感じる。

 

「華琳は大切だ。けどそれだけじゃないよ。雪蓮も蓮華も、呉のみんなだって大切だから袁紹に挑むんだ」

「その結果、無用の犠牲が多く払われるとしても?」

「分かってる。けど今はそれしかないと思う」

 

はっきりと正面に立った女性の瞳を半ば懇願するような目つきで覗き込む。

普通ならここで突き放されるか、そのまま了承されるだけだろう。

 

けど相手は勘の鋭い雪蓮。

同情を引くようなこの露骨な素振りと暴言に違和感を感じ取ってくれるはず。

狙いは冤罪を逃れるだけでなく、周瑜との舌戦を避けて雪蓮の同情を引くという奇策だ。

 

この情け無いようにも見える策に関して雪蓮は何を思うのか。この返答一つ次第で成否が変わる。

数瞬の間を置いてから彼女は俺の真意を確かめる前に華琳へと口を開いた。

 

「一つ確認させてちょうだい、曹操。誇り高い貴女が一刀と行動を共にするのは本当に信頼だけ?

過去に殺された件は誤解だとしても、今回も何も企んでいないとは言えないでしょう」

 

それまで傍観者の立ち位置で眺めていた華琳がこちらの搦め手に気付いたのか“ふぅ”、と溜息混じりの呼吸をしてから質問に答える。

『……覚えてなさい』と。若干、こちらを睨みながら。

 

「もちろん、信頼だけで私は動いていない。打算は当然あるし、一刀の配下になるつもりもないわ。……なぜならば」

「!! や、やっぱりこの人は危険です! 雪蓮様、ここは強引にでも――」

「私は一刀と、好いた男と対等な位置で生きたいだけだもの」

「……ふぇ?」

 

呆気にとられる穏と絶句している周瑜が印象的だ。

どうやら俺の真意に華琳も気付いたらしく、雪蓮に言葉を返す。

 

「……それが本当に理由?」

「えぇ。好意を持つ男へ尽くすのは“女の愛嬌”でしょう? それは私にだって例外じゃないわ」

 

恥ずかしがるどころかむしろ、余裕を持った笑みで華琳が微笑む。

 

「いや、待ってくれ華琳。君の場合、他の子よりも優位に立って俺を所有したいだけじゃ……っていたたたたっ!」

 

抓られた。

 

「……こほん。邪推はともかく、私は左慈の手引きとはいえすでに一度袁紹に破れ、大志を砕かれた身。だからこれ以上策を労して無様を晒すつもりなんて毛頭ないわ」

 

脇腹を片手でキープした姿勢のままで答え、雪蓮はその返答を反芻するかのように薄く目を細めたかと思うと今度は俺に向き合う。

 

「ねぇ一刀。前に母様のお墓でのこと、覚えてる?」

「……当たり前だろ」

 

俺がまだ絡み合ったこの世界に降り立って間もない頃。過去の記憶に引き摺られ、過剰なくらい雪蓮や蓮華との距離を測っていた躊躇いの日々。

平原に発つ直前で孫堅さんの墓、雪蓮が暗殺された場所へと墓参りにいったんだ。

……トラウマめいた記憶に突き動かされて。

 

「あの時、“私離れして頂戴”っていうお願い……。一刀はきちんと克服できたみたいね」

「え?」

 

雪蓮は一歩下がり、俺と華琳を視界に納めて歌うように言葉を紡ぐ。

 

 

 

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「人の生き死なんて天命でいくらでも二転三転するもの。ましてや群雄割拠のこの時代よ? 無念のうちに死ぬことも、大事な人を守りきれずに生き永らえてしまう事も、全部人の身ではどうしようも出来ない大河の流れよ。だから過去に毒矢に倒れたのをいつまでも気にせずに、せっかく手に入れた新しい人生を謳歌したほうが色々と建設的だと私は思うの」

 

誰よりも悲しみを背負っていたはずの張本人が笑っている。

過去に縛られず、未来の為に生きるという思いを胸にしながら。

 

「だから久しぶりに再会した一刀が明日を、今をしっかり見据えようとしているのが嬉しかった。一刀が誰よりも明るくて、どんな女の子にも優しい、ちょっぴりだらしないけど頼りになる不思議な宿り木に戻ってくれて……」

 

片目を瞑り、挑発的なウインクで華琳の方へと視線をずらす。

 

「そのきっかけを曹操に取られたのは悔しいけど、ね♪」

「ふっ、当然でしょ。この男は私の所有物なのだから躾はキチンと施さないと」

 

(あ、ちゃっかり惚れて尽くしての部分を撤回してるな)

 

「そっか♪ だったら私も一刀に愛想尽かされないようにお願いを聞いちゃおうかなー?」

「!? 伯符! お前、何を言い出すつもりだ!?」

 

周瑜の制止も聞かずに、にんまりと口元を緩めた雪蓮が髪の毛をかきあげる。

 

「一刀。本当は何が目的かしら」

「雪蓮!!」

「袁紹を抑えるのは本当さ。ただ、なるべく犠牲を出さない。戦闘以外で戦力差を覆す作戦を実行する為にある条件を飲んでほしいんだ」

「ある条件?」

 

はっきりと聞こえるよう、一息唾を飲み込んでから口に出す。

 

「――俺を君主とした国家の設立だ」

「……わぉ」

「なっ!?」

「ええええぇぇ!?」

 

雪蓮、周瑜、穏の順番で驚きの声が上がり、玉座の間を駆け抜けていく。

まぁ、この状況で切り出すような話題じゃないからな。そういうリアクションは予想済みだ。

けど目の前の女性はすでに驚きを通り越して、興味津々といった様子で目を輝かせている。

 

「随分と突拍子の無い話だけど、そうする理由はなにかしら?」

「それについては私が述べてよろしいでしょうか」

 

ようやく出番だとばかりに稟が進言し、発言の許可を求めた。

 

「あなたは?」

「私の名は郭嘉。かつて曹操様の軍師を務め、現在は一刀殿に力を貸すべく馳せ参じている者です」

 

一礼し、頭を垂れる稟。

記憶が戻った後も風と二人、俺付きの軍師として加入してくれるという彼女がなんとも心強い。

 

「ふーん」

 

その呟きを肯定と取ったのか、気を引き締めるように眼鏡の位置を直してから説明を始める。

 

「まずは現状の戦力比についてご説明を。現在、袁紹軍は北方の地、馬騰殿が治める涼州以外のほとんどを手中に収め、民草を無視した強硬な軍拡政略によって規模を増大、大陸におけるもっとも強大な勢力にまで成長しました。これに真正面から戦いを挑んではいくら呉軍の援助を受けようとも相当数の被害が出るうえ、勝算は高いとはいえません。比率で袁紹軍が7、呉軍全ての支援があったとしてもこちらの戦力は3。この数字は覆らないでしょう」

「それはおかしくない? うちだって過去と違って結構数を増やしてるし、そこまで差が出るとは思えないんだけど」

「孫策殿の意見はごもっともです。ですがこれは兵の数ではなく戦力についての比率です。無論、呉軍兵士の錬度が低いという意味合いではなく、あちら側には中核戦力である袁紹兵の他に白装束を纏った死兵に近い動きをする部隊が多く存在しているからです。死を厭わなけば引くことも、躊躇する事も無く闘い続ける……先の官渡の戦いでこの厄介さは証明されています」

 

実際に戦った華琳や春蘭が言うんだから間違いない。

左慈によって生み出される白装束とは出来るだけ戦闘を避けるべきだ。

 

当然、蜀と連動して戦う案もあったけど、そうなったら大陸全土を巻き込んだ大戦に発展してしまうだろう。

俺と左慈が原因で派生してしまったこの世界。関係の無い住人をこれ以上巻き込みたくないんだ。

 

「ですので一刀が考案なされた『国政乱れる袁紹軍領地の人間を手厚く出迎え、こちら側に引き入れる』という策を実行し、民を扇動、敵兵士数及び、軍隊維持に必要な民衆を減らした上で戦いに挑みたいのです。本来ならば呉にその受け皿である役目を引き受けて貰うのがスジですが、不平不満を募らせている袁紹領地の民、それに紛れ、敗北したとはいえ再起の念絶えない元魏領の民を纏め上げるには一刀殿を君主とした新国家の方が都合が良いのです」

 

稟の説明に続けて華琳が言葉を繋げる。

 

「本当は左慈への意趣返しの為に北方へ紛れ込ませていた間者もこの際だから使うつもりよ。彼らは各州要所に配置してあるからそこで袁紹軍が悪仙や羅刹の類に唆されているという悪評を流させ、逆に一刀に対しては“ある噂”を流すように仕向ければ一気に人の流れは加速するでしょう」

 

「それこそが最大の目的。一刀殿はかつては董卓軍に所属し泗水関で夏侯惇殿を撃破、その勇名を大陸に轟かせ、呉に仕えた後も平原での奇抜な政策により善政が評価されています。更に加えれば魏軍を助ける為に長坂橋で立ち回った件も情報統制をすれば立派な武勇伝となります。その風評を活かすは、今。人心を集め、新たな勢力として台頭すれば必ずや民は集まってくるでしょう。……そう、『天の御遣い、北郷一刀』の元に。……魏王が援助し、呉王にも認められているという箔が付けば更に、ですが」

 

 

 

「……そういうこと……」

 

 

 

もう一度、俺は役者を演じる。

予想以上に広まっていた俺の噂を利用したこの作戦は、簡単にいうと過去の世界と同じように俺が客寄せパンダ役を買って出たわけだ。

過大評価で祭り上げられるのは正直気が引けるけど、この作戦が一番効率がいい。

 

 

 

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己の意思で決めた信念と覚悟を持って孫呉の王である彼女と向き合う。

 

「頼む、雪蓮。俺は全てを救いたいんだ」

 

この外史を守るため。

繋がりを持った人たちを救うため。

万感の意を込めた願いを投げかける。

 

「…………」

 

―――沈黙。

誰もが固唾を呑んで返答を待つ静寂の時間がゆっくりと流れ、答えを待った。

やがて、思巡していた雪蓮が突然真面目な顔つきで周瑜を見つめ、謝る。

 

「ごめんね冥琳。私は私の直感を信じるわ」

「雪蓮!!」

 

どこか予測済みだったのか周瑜の檄に張りが無い。

過去の記憶が無い彼女にとってこれから下されるであろう決断は呉に尽くそうという自分への裏切りに近い判決だ。

訴えかけるような弱さをはらんで自らの主であり、断金の友とも呼ばれる生涯の女性へと確認を取った。

 

「……もう、決めてしまったのだな」

「えぇ。これから呉は前面的に北郷一刀へ援助をするわ。表立っては策の妨げになるでしょうからあくまで秘密裏になるでしょうけど」

 

諦めたかのように首を振り、項垂れる。

 

「好きにしろ……私は少し休む」

「冥琳様っ!」

 

退場していく彼女に続いて穏もそれに付き添う。

ちらりと見えたその表情は灰暗い雰囲気よりも、一番の理解者であろうとした雪蓮の意思を汲み取れなかった自責の念が移りこんでいるようにも見える。

 

(……すまない、周瑜)

 

大望を掲げ、誰も無碍にしないと誓っておきながら、早速、君の呉を思う気持ちを踏み台にしてしまった。

その無念は必ず報わせるから、今はどうか納得してほしい。

謝罪の一念と同時に突然、一言の記憶が蘇る。

 

――成すべき事を成す

           でなければ先に散っていった者へ顔向けできない――

 

 

 

……それは誰が放った言葉だろう。

脳裏に倒れ伏せた女性の姿が走馬灯のように頭に浮び、正体不明の感情が押し寄せ鼻腔をくすぐる。

 

いや、この言葉と思いはきっと――。

かつて確かにあった信頼を思い出し、そのフレーズを忘れないようしっかりと胸に刻み込んだ。

奥歯を噛み締め、雪蓮の方へと首を戻す。

 

(……つくづく自分は色んな人の助けを借りてるよな)

 

今迄見た事も無いくらい顔を引き締め、佇んでいる彼女は王としての風格を匂わせていた。

 

「北郷一刀。今この時をもってあなたを呉軍から除名する。……これからは一人の雄として、一人の王としてこの大陸で生きなさい。何をするも、どんな判断を下すかも全て貴方次第。数千、数万の人間の運命を受け止める覚悟を持ちなさい」

「……誓うよ。俺は全てを救う為に尽力し、その責任を負う事を」

 

信念は言葉に出して始めて世界に認められる。

華琳との再会の夜と同じように、思いを形にする儀式めいた宣誓をこの場を離れた周瑜にも届くよう高らかに告げた。

 

 

 

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その急転直下の決定から半月。

新国家『北郷』建国の報は空前といった速度で大陸を駆け抜け、蜀や袁紹軍といった縁ある諸侯にも届いた。

 

ある陣営では……。

 

「これは……! くっ、北郷め……! 貴様自ら過去の焼き回しとはやってくれるじゃないかっ!!」

「左慈さん!? 乱暴にされては腕の御怪我に障りますわよ!」

 

仇敵がその行動を忌々しく思いつつも、緑の旗を掲げる軍勢に邪魔され不快感を露にしていた。

そして、戦の矢面へと立たされ、いまだ開合の時を果たしていない勢力にも動揺が走る。

 

「はわわ!? ご、ご主人様が新たに国を立ち上げ、君主に!? ど、どどどういう意味なんでしょうか桃香様!?」

「わわ、私に聞かれても!? うぅ、もしかして私たちの国が嫌いになっちゃったとかじゃないよね、鈴々ちゃん!」

「何でこっちに話を振るのだ! えーと! えーと…………翠っ!! どういう意味なのだ!?」

「軍師が分からないのに私が理解できるはずないだろ! 次っ、紫苑!!」 

「伝言遊びじゃないんだから、もうちょっと落ち着きましょうね……」

 

嗜める黄忠の表情に苦笑いが張り付く。

 

「ぐっ、居ても居なくて桃香様を掻き乱すとは! 今度会ったら叩きのめしてやる!」

「素直に会いたいと言えんのか、このへそ曲がりが……」

「あわわ、わわ! 皆さん落ち着いてくだひゃいー!」

 

混乱する軍議の中、ようやく決定したのは『北郷』へ使者を送る事のみ。

選ばれたのは果たして誰か?

 

 

 

 

【ざわめき立つ蜀軍の会議を

             何時の間にか牢から抜け出した

                           黒髪の女性が押し黙り眺めていた。】

 

 

更に……。

 

 

 

「お前達、北郷監視の任、しかと任せたぞ」

「……はい、冥琳様」

「必ずや我ら姉妹がご期待に応えて見せます」

 

呉からの監査役として周瑜が選んだ二人の少女。

本来ならば舞台に上がる事さえ出来なかった彼女達はこの世界で何を思うのか。

雪蓮の決定に不本意ながらも従おうという周瑜をよそに、

二喬と呼ばれた演者が悲痛な思いをひた隠しにしていた。

 

 

 

 

 

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かくして道化の如く演ずるは天命帯びた人の支え

巡る噂の真偽は如何に

答えはこれから明かされよう

初めは地を駆け、己を模索し『北郷』の時

自ら掴み取った未来は果たして只の再来か

 

天の御遣いに自分から成る、ここが重要

--------------------------------------------

 

<つづく>

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[もしも冥琳が○○だったら]

 

 

 

「自らの職務を放棄し、無断で出奔した件に関しては如何なる理由があろうと許しがたい。……寂しかった。(ぼそり

一つ間違えば袁紹軍と敵対する良い理由になったであろうからな。一部の臣下と交流が深かろうと一人の勝手は許せん。……心配したんだぞ(ぼそり」

「ちょ、おま」

 

雪蓮は親友の変わりように開いた口が塞がらない。

 

「だが、魏王と有力な将を捕らえた功績については充分に評価出来る。よって、この場において曹操の首を刎ねてみせれば先の罪については不問としよう」

 

(そうすることにより、“らいばる”が減るという私の策だ)

 

「!? ちょっと待ってくれ! 俺はそんなつもりで彼女達を連れてきたわけじゃない!!」

 

説明時の同盟等の要望を完全に無視した物言いに慌てて異を唱える。

事実を事実だけで捉えるのは当たり前だけど、すぐさま処罰を実行させるなんていくらなんでも横暴過ぎる。

 

「では何だ? 本気で敗残した魏と同盟を組めなどと言うつもりなのか。そのような愚考、後顧の憂いを絶つに一理あろうと呉にとって手を結ぶ利点などどこにも無い。下らぬ過去の記憶などという曖昧な証言だけでは信用出来ぬな。……所詮貴様は一介の将。大局を動かせるほどの発言力があるとでも思ったか」

「っ! でも! その過去の記憶のおかげで星……趙雲や呂布が力を貸してくれるだろ! それが証明に――」

 

 

 

「そもそもだ」

 

「え?」

 

「なぜ私に過去の記憶がない。まずそこがおかしいだろう。いや、百歩譲ってそれは良しとしよう。だがなぜお前は私を見ない」

 

「え? いや、ちゃんと見てるけど」

 

「私は雪蓮と親友だ。雪蓮を抱くのであれば私を抱くのは当然であろう? ほら、私が嫌いなんだ、やはりそうなんだろう」

 

「そんなわけないだろ! 大好きだぞ……め、冥琳!」

 

 

―――冥琳に電流走る!!

 

 

「な、なんと……! 愛しき者に真名を呼ばれると、このような感覚に襲われるのか……」

「か、可愛い! なんだか新鮮だぞ冥琳!」

「北郷! も、もっと私にイロイロなことを教えてくれ……」

「うっほぃ! 先生と呼びなさい!! 冥琳っ!!!」

「あぁっ! 先生っ!!」

 

 

玉座の間にも関わらず、ルパンダイブで冥琳に襲いかかった一刀。

周りは止めようとせず、ただただ静観していた。というよりも状況に頭が追いつかない。

 

 

 

 

「なに、あれ……」

「……見たくなかったわ。親友のこんな姿……」

 

 

 

玉座にて激しく行為に耽る二人を見て、華琳様と孫策殿はそれはもう、終始生温かい視線をなされていました。by秋蘭

 

 

<このお話は本編と繋がりません>

説明
第三十三話をお送りします。

―裁かれる一刀―

開幕
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コメント
PONさん>胸アツですね! ここからどうやって展開しようか……(よしお)
めーりんェ…かつて失くした天の御使いの称号が今、一刀の元に舞い戻る――胸が熱くなる展開ですね。(PON)
2828さん>めーりん、壊してしまった……ごめんよめーりん……(よしお)
320iさん>続きをお楽しみに!(よしお)
きたさん>さ、最後だけ楽しんでくれてもいいのよ……ぐすん。(よしお)
最後またかwwwめーりん壊れたwwww(2828)
いつもながら、どうしても最後のところが・・・ いや、もちろん本編も楽しく読ませていただいていますよ!(きたさん)
よーぜふさん>IFですからねー。キャラ崩壊させちゃってますよw(よしお)
namenekoさん>冥琳さんの今後については続きを待ってて下さい〜(よしお)
うっほほぃ! 本編ともしもシリーズの差が激しすぎます・・・でもかわいいです。 さて、本編の冥琳はどう思うのか、どう動くのか・・・できれば餌食になってほしいなぁ、もしものごとく(ぇ(よーぜふ)
冥琳が黒くなってるな。二喬がでてくるのか・・・・・・・・・期待(VVV計画の被験者)
赤字さん>うっほぃ!(よしお)
ポチさん>わたしも冥琳大好きですよー!そのうちきっと、本編でも一刀にむちゅ〜になる日が来るので待つのです! 穏いいですよねー、ヘヘヘ……(よしお)
うっほぃ!(赤字)
めーりん大好きの自分としては、オマケが本編の方が良かった! 動揺しまくる隠がカワイイです。(ポチ)
はりまえさん>いやあの、あの……わざと馬鹿っぽく書いてるんでそのぅ……(よしお)
きのすけさん>冥琳さんがすごく喜んでます。(よしお)
村主さん>も、もしかしたら本心かも!デレてるかも! 最後のページのあれはまぁ……色々とぶっ壊してしまっているのでw(よしお)
のんさん>そう言って頂けると書く甲斐がありますね(`・ω・´)キリッ(よしお)
最後のあれ二人とも馬鹿すぎね?(黄昏☆ハリマエ)
最後の冥琳がかわいすぎる(きの)
えっ、おまけが彼女の本心では無かったのですか!? これ位のデレはあってもおかしくは無い・・・のですがw しかし玉座で更に多数の人目有りでヤってしまうとわ、チクショウもげろw(村主7)
個人的にはおまけも好きだけど(笑)(のん)
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