ポケットモンスターNovels 第2話 |
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スズナが言うには、ポケモンリーグへ挑戦するためにはある条件を満たす必要があるらしい。
シンオウ地方には8つの「ポケモンジム」と呼ばれる施設があり、それぞれのジムには「ジムリーダー」がいる。
で、ジムリーダーに勝つ事で、勝った証としてリーグ公認の「ジムバッジ」を貰う事が出来る。
んでもって、8つのバッジを揃える事ではじめて、ポケモンリーグへの挑戦権を手に入れる、だったかな。
……道のりは長い。
目の前にそびえ立つ【ジムリーダー不在】と書かれた看板。
キッサキシティにもジムがあると聞いて来てはみたんだけど……、これじゃどうしようもない。
マキナ『うっわ……ただでさえやる気ダウンしてたのに、追い討ちですか』
スズナ『あはは、元気出してー』
ね、とスズナが微笑む。
じと……と睨んでみる、けど。
スズナに矛先を向けても意味ないか。
私はこれ見よがしにため息をついた。
マキナ『はぁ〜……』
スズナ『まあ、がっかりしないで! 今日はキッサキ神殿を案内してあげるからさ。それで、明日になっても帰って来てなかったら、次の町に行こう』
また聞いた事のない名前だ。
マキナ『キッサキ神殿って?』
スズナ『キッサキシティで1番の観光スポットだよ!』
ぐっ、と親指。
……何故そこで強調。
マキナ『いや、あの。あんまり観光してる気分でもないんだけど』
スズナ『大昔に3体のポケモンを作ったって言われてるポケモンの像が飾ってあるんだー』
いや聞けよスズナ。
建造物なんか見に行って何が楽しいんだ。
スズナ『ホントは選ばれたトレーナーしか入れないんだけど、マキナはスズナに勝ったんだから大丈夫だよね!』
……ダメだ。
何を言っても無駄だ。
スズナは私の腕を掴んでグイグイと進んで行く。
もとい、私を引き摺って行く。
グイグイ。
ズルズル。
ズルズル。
マキナ『痛いスズナ』
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
マキナ『……聞いてるのかなースズナさん?』
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
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ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル。
マキナ『……、おま、ちょっと待てスズナ……ッ! 痛いっ! 痛いって……!!?』
スズナ『着いたよっ』
ビタンッ
↑堪えようと踏ん張った矢先にスズナが手を離した結果。
スズナ『あれ、どうしたのマキナ?』
マキナ『よしきた。とりあえず1発殴らせろ』
にこ。
うん、今までに無いくらいの満面の笑顔を装って言えた気がする。
偉いぞー自分。
……あ。
マキナ『……うわぁ』
スズナの後ろに神殿が見えた。
神殿は光に当てられてキラキラと輝いている。
これは……氷?
神殿の材質は氷でできているようだ。
マキナ『……綺麗』
素直にそう思った。
なるほど、1番の観光スポットと言うだけの事はある。
スズナ『……待って。変な雰囲気…いつもと違う感じがする』
見れば、スズナはいつになく真剣な表情をしていた。
まるで目に見えない何かを恐れているような。
――スズナは私を放って置いて、神殿の中へと駆け出していった。
……、
呆然。
マキナ『…としてる場合じゃないっ! 待ってよスズナ……!』
私は未だ痛む鼻を押さえながら起き上がり、走ってスズナを追いかける。
本当に、なんでこんな事になってるんだろう?
マキナ『待てってばー……!』
急激に運動すると筋肉痛が怖いんだけど……
うん。後でスズナにマッサージでも頼む事にしよう。
私を引き摺り回したんだから、それくらいしてもらわないとね。
キッサキ神殿を地下へ、地下へと潜っていく。
私はなんとかスズナと合流する事が出来た。
マキナ『どうしたのスズナ? 何が変なの?』
スズナ『っ、それは……わからない。でも、絶対におかしいんだよ!』
いつもは呑気なスズナが完全に取り乱している。
マキナ『……っ!?』
スズナ『……!!』
ふいに、小さな叫び声が聞こえた。
人じゃない。ポケモンの鳴き声。
怒っている……?
腹の奥底から絞り出すような、まるで呪怨のような鳴き声。
……!
スズナ『……また聞こえた』
マキナ『、うん。でも、さっきのとはまた違う声』
鳴き声の種類は次々に増えていく。
鳴き声の他にも、何か固いもの同士がぶつかり合っているような鈍い音も重なって聞こえてきた。
ポケモンが戦っている……?
スズナ『、急ぐよマキナ!』
スズナが走る速度を上げた。
手はすでにモンスターボールにかけられている。
額には汗。顔色は青ざめている。
そんなに危険なのか。
私は頷き、スズナの走るペースに合わせた。
……、
しばらく走っていると、スズナが立ち止まった。
広い部屋。
神殿の最奥部だろうか。
部屋の中央ではいくつかの影が衝突と反発を繰り返している。
それ等はやはり、多数のポケモンたちだった。
ハガネール、エンペルト、ハッサムの3体が、見た事もない巨大な白いポケモンを取り囲んでいる。
白いポケモンの身体の中央には、7つの黒点と6つの光球が規則ただしく並んでいた。
スズナ『……レジギガス、が』
スズナは愕然としている。
……今度は、私も聞いた事のある名だった。
スズナに教えてもらった。
──キッサキ神殿の最奥部。
大陸を縄で縛って動かしたと言い伝えられるポケモンの像が奉られている。
伝説のポケモン、レジギガス。
けど、目の前でポケモンバトルを繰り広げている白いポケモン……レジギガスは像なんかじゃない。
確かに生きている。
『行くぞハガネール! 捨て身タックルだ!』
男の声が聞こえた。
と、ハガネールがその指示通りレジギガスに突っ込む。
レジギガスは正面からハガネールの頭を両腕で抑えて受け止めた。
『ハガネールに続け、ハッサム! 剣の舞からバレットパンチ!』
ハッサムが猛々しく剣舞を舞い、レジギガスに飛び掛かった。
レジギガスはハガネールを抑えたままハッサムを見据えると、身体の前で電磁波を発生させハッサムにぶつける。
まともに電磁波を受けたハッサムは麻痺。失速して辛そうに着地した。
『アイアンテールだハガネール! エンペルトはラスターカノンで援護を!』
男の声は続く。
見れば、レジギガス等ポケモンを挟んで反対側。部屋の端に声の主らしい男のポケモントレーナーが立っていた。
――その姿に、私は息を飲んだ。
……、
信じられなかった。
そこにいたのは、私のよく知っている人だった。
幼い頃は親友だった。
マキナ『……ッ、なんで、ここに』
本当はいるはずのない人間。
男の人の名は、ミツキ。
もう十数年は会ってない。
、2度と会えないと思っていたのに。
そのミツキが、何故ここに…?
ミツキ『ぐ……、ハガネール!』
レジギガスがハガネールの尾を片手で掴み、後に回り込んでいたエンペルト目掛けて投げつけた。
ハガネールとエンペルトは衝突。揉み合って倒れ、気を失う。
ミツキ『戻れ2人共……! くそ、出て来いメタグロス!』
ミツキはハガネールとエンペルトをボールに戻し、鬼の形相で新たなポケモンを繰り出した。
その間ハッサムは持っていたクラボの実で麻痺を回復し、再び剣舞を舞う。
その隙を狙ってレジギガスがハッサムに突進するが、間に割って入ったメタグロスに阻まれた。
ミツキ『メタグロス! 電磁浮遊からコメットパンチを連打ぁ!』
メタグロスは電磁浮遊でレジギガスの周囲を飛び回り、隙を突いてコメットパンチを叩き込む。
ミツキ『まだまだまだまだ……ッ!!』
レジギガスは必死で応戦するが、メタグロスの動きについていけず、良いように翻弄される。
メタグロスの攻撃を受け続けたレジギガスは体勢を崩し、グラついた。
ミツキ『今だハッサム! 峰打ち!』
ハッサムが自身の鋏をレジギガスの背中に叩きつけた。
レジギガスは前のめりに倒れる。
ミツキ『お前にはハイパーボールをお見舞いしてやる……!』
ミツキが腕を大きく振りかぶり、モンスターボールをレジギガスに投げつける。
と、レジギガスは赤い光に包まれてボールに吸い込まれた。
ボールは激しく動くが、すぐに静かになり、カチ、という音がしたかと思うとミツキの手元に戻っていった。
ミツキ『……ふぅ。戻れハッサム、メタグロス』
ミツキがモンスターボールをかざすとポケモンが帰っていく。
神殿を揺るがす戦闘は終わった。
マキナ『ミツキ……!』
声をかけると、ミツキは私を見て驚いたようだった。
ミツキ『……マキナ、か?』
マキナ『っ、なんでミツキがここにいるのさ』
故郷に帰ったはずなのに。
2度と会えないかもしれないと思っていたのに。
ミツキは迷っている様子で答えない。
私には言えない事なのだろうか……?
ミツキ『……それは、、』
スズナ『ちょっと待ったー!』
ミツキが何かを言いかけようと口を開いた時、スズナが割り込んで大声を張り上げた。
マキナ『スズナ……!?』
完全に空気だったから忘れていた。
スズナは大声を出した事でぜいぜいと肩を上下させていたが、すぐに胸を張ってミツキを指差す。
スズナ『君、ミツキだっけ? 何故レジギガスと戦ってたの? レジギガスを捕まえてどうするつもり?』
ミツキはレジギガスを倒して手中に収めた。
伝説のポケモンを使いこなす事などできるのだろうか。
──生命の創造を行ったという伝承さえ残されている超常のポケモンを。
ミツキ『……貴様には関係ない。出てこいハガネール! 十分休んだだろう!』
ミツキがモンスターボールを投げるとハガネールが咆哮を上げながら現れ、私たちを威嚇する。
マキナ『ど、どうしたのミツキ!? なんでこんな……』
スズナ『待っ……!』
ミツキは私の問いには応えずハガネールの背に乗った。
ミツキ『ハガネール、穴を掘るだ!』
再びハガネールが咆哮する。
ハガネールは勢い良く壁を掘削し、そのままミツキ共々に掘った穴の中へ消えていった。
マキナ『ミツキ! ミツキ……っ!!』
返事はない。
私の呼び声が、虚しく神殿内を反響した。
*
スズナ『そっかー。ミツキさんは、マキナの大切な人なんだ』
マキナ『だーかーらー! そんなんじゃないってば! いや、いや、あってるんだけどさ……! スズナの言い方だとなんか恋人って言うか片想いみたいなニュアンスになってるから!?』
神殿を出た私は、スズナの部屋で私とミツキの話をしていた。
スズナは本を読みながら。
私はスズナのベッドで両腕両足を振って喚いていた。
スズナは意味深な笑いを私に向け、また視線を本へと戻す。
……絶対勘違いしてるなこいつ。
突然、スズナが大きな音を立てて本を閉じる。
スズナ『ねーマキナ。ミツキさんってさ、前からあんな感じだったの?』
…
……
、スズナの言葉に胸が痛んだ。
……意識してないだろうけど、スズナが気楽に聞いてくれる分、いくらかこっちも話しやすい。
マキナ『……うぅん。私が以前から知ってたミツキとは、全然イメージが違った』
そう。あんな風じゃなかった。
私の知ってるミツキはどんな時でも笑顔で、礼儀正しくて。
困った人がいれば自分の事なんかそっちのけで助けに行くような、
そんな、素敵な人だった。
スズナ『……、、そう、なんだ』
少し、気分が暗くなる。
マキナ『明日は朝早いんだから、もう寝よう?』
こういう時はぐっすり眠って、全て忘れてしまおう。
スズナ『……ん、そうだね。じゃあ、もう電気消すよ?』
はーい、と布団をかぶると、静かに明かりが消える。
ちょっとして、スズナがもぞもぞと布団に潜り込んできた。
……なんか、楽しいかも。
スズナ『ねーマキナ。こうしてると姉妹みたいだね』
言いながらスズナが腕を私にかけてくる。
……姉妹、か。
マキナ『ふふ、おやすみお姉ちゃん』
きょとん、とスズナ。
徐々に満面の笑顔に変わり、声にならない声をあげて嬉しそうに悶えはじめた。
鬱陶しいけど、嫌な感じじゃない。
……今日は、良い夢を見たいな。
*
マキナ『ミツキ……どこかにいっちゃうの?』
ミツキ『……うん。もうすぐカントー地方に帰るんだ』
マキナ『かんとぉちほうって?』
ミツキ『とっても遠い所さ』
──なんだ、これは。
マキナ『またあえる?』
ミツキ『うーん…、もう会えないかもしれないなぁ』
小さい頃の私と、ミツキ……?
マキナ『そっかぁ、さみしくなるね』
ミツキ『そうだマキナ。マキナに僕の友達を紹介するよ』
マキナ『ともだち?』
ミツキ『ポケモンさ!』
あぁ、思い出した。
マキナ『……ポケモン?』
ミツキ『うんっ、僕いっぱいポケモン持ってるから、1人だけマキナにあげるよ』
マキナ『え、ダメだよ、そんなの』
ミツキ『良いんだ、僕とマキナなんだから』
これはあの日の記憶だ。
マキナ『……ん』
ミツキ『僕の大切な友達……マキナなら可愛がってくれるよね』
私とミツキの、2人の共通の記憶。
マキナ『……、ほんとにいいの?』
ミツキ『勿論! 寂しい時はこの子が一緒にいてくれるから』
ミツキが遠くに行った日。
マキナ『わぁ……とってもかわいい! ありがとうミツキ!』
ミツキ『あはは、どういたしまして』
──あの子と出会った日。
マキナ『ねーなまえはー?』
ミツキ『クチートって言うんだ』
マキナ『へぇ……クチートかぁ、よろしくね』
古い、記憶だ。
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