ポケットモンスターNovels 第3話 |
*
翌日。
キッサキシティを後にした私とスズナは、次のジムリーダーがいる町を目指して217番道路を歩いていた。
……はずだったんだけど。
見渡す限り、雪。
マキナ『……迷った』
スズナ『あはは……迷ったね』
いや笑い事じゃないからねスズナ。
まったく……なんで一度通った道を間違えなきゃならないんだろう。
しかも、一本道だったはずなのに。
マキナ『うわ、どうしよう。道に迷った時は下手に動かない方が良いような……?』
…うん。大人しく助けを待とう。
スズナ『きっとあっちが道だよ!』
気が付けば遠くに見えるスズナ。
待てこら……ッ!
スズナ『マキナこっちこっちー!』
どうしよう殴りたくなってきた。
あんな適当に歩いて更に迷ったらどうするんだ……!
スズナ『ぎゃー』
あ。ユキノオーに襲われてる。
はははザマーミロ。
マキナ『っていうか、帰れるのか私』
急に不安になってきた。
もしこのまま助けがこなかったら……
ぞく、と背筋が凍る。
……考えたくないな。
スズナ『見てマキナっ! ユキノオー捕まえたよ!』
スズナはキラキラと輝く笑顔で高らかにモンスターボールを掲げている。
眩しい。笑顔が無駄に眩しい。
この期に及んで、ポケモンを捕まえて楽しめる根性が信じられない。
スズナ『……あ! ひょっとして、この子なら帰る道知ってるかも?』
マキナ『GJ(グッジョブ)スズナ! 信じてたよ☆』
ここに住んでいたポケモンなら近辺の地理にも詳しいだろう。
ひょっとしたら無事にテンガン山まで辿り着けるかもしれない。
少し希望が見えてきた。
マキナ『ね、ね、早速その子に聞いてみてよ!』
スズナ『うんっ! ユキノオー!』
白い光と共に、ユキノオーが現れる。
スズナが捕まえたばかりのユキノオーは、ひょい、と私たちを持ち上げて肩に乗せてくれた。
……ひょっとして、このまま案内してくれるのかな?
考えている内に歩きだすユキノオー。
ちょ、2mは高いって。怖いって。
掴まるので精一杯なんですが。
スズナ『行っけーユキノオー!』
大きく腕を振って命令するスズナ。
走るユキノオー。
揺れる私。
スズナ『もっと速くー!!』
さらにテンションを上げるスズナ。
爆走するユキノオー。
ますます揺れる私。
酔いそう……っていうか酔った。
顔、青ざめてるだろうな。
マキナ『……へるぷ』
あはは、お花畑にチョウチョが飛んでるよー。
……って、違うだろ!
ヤバい。
これはヤバい。幻覚が見える。
見苦しい表現があるため美しい映像を見てお待ちください……なんて事態は絶対に避けたい。
とはいえ、
マキナ『……も、もうダメ』
*
──遠く、私を呼ぶ声が聞こえる。
……スズナだ。
スズナ『マキナ……?』
徐々に、スズナの輪郭がはっきり見えてきた。
……どうやら、私は気を失っていたらしい。
マキナ『ん……スズ、ナ……?』
私はなんとか声を絞り出す。
まだ頭がガンガンと痛み、ぼーっとしている。
ユキノオーはきっちりシめておこう。
二度とあんなものには乗らない。
スズナ『良かった、気がついた!』
それより、ここはどこだろう。
テンガン山のふもとくらいまでは進んだだろうか。
軽く周りを見渡すと、どこかの部屋のようだ。
と、身体中がふかふかした布の感触に包まれている事に気が付く。
私はベッドに寝かされていた。
…
……あれ?
マキナ『……部屋!? ベッド!?』
がばっと跳ね起きる。
スズナ『もー! 心配したんだから! 気分が悪くなったのなら、言ってくれたら良かったのに!』
窓の外は……青空。
キッサキシティに逆戻りしたという訳ではないようだ。
ひょっとして……
マキナ『スズナ! ここどこ!?』
スズナ『え? あ……えっと、ハクタイシティだよ』
……ジムリーダーのいる町だ!
テンガン山を越えたなんて…
でも、まさかユキノオーが私とスズナを乗せたまま……?
『おい、入るぞ』
トントン、とノックする音。
1人の少年が部屋に入って来た。
スズナ『……カイリ』
スズナが小さく、少年の名らしい単語を呟いた。
私と同い年くらいだろうか。いや、少し幼いかもしれない。
──いるだけで周りに威圧感を与えるような、そんな雰囲気のある人だ。
スズナ『……彼はカイリ。カイリのお姉さんが私たちを助けてくれたんだよ』
スズナは何故か、なんとも複雑な表情で言った。
少年……カイリは目を伏せ、腕を組んで壁にもたれかかっている。
マキナ『あの、私たちに何か……?』
まさか、ただ観察するために来たわけでもないはずだ。
カイリはゆっくりと顔を上げ、険しい眼差しで私を睨み付ける。
私が何かしたのだろうか……?
ふいに、カイリが口を開く。
カイリ『姉上からの伝言だ。食事の時間だから降りて来い、と。……確かに伝えたからな』
カイリは言うや否や部屋を後にする。
スズナはカイリが部屋から離れた事を確認して言った。
スズナ『……なーんか感じ悪いよね。マキナ、ご飯は……』
ぐぎゅるるるる……
スズナ『……食べられそうだね。あはは、安心した! さ、行こう?』
ちょっと雰囲気のあるテーブルクロスや可愛い食器に彩られた食卓。
そこに並んでいるのはご飯のような黒い物体と、スープのような黒い液体と、サラダのような黒い異物と、トドメに、肉のような黒い塊。
マキナ『……っ!!?』
スズナ『……ッ?!』
カイリ『ようやく来たか』
モグモグ、とカイリ。
ちょっと待てお前! そんなもの食べたら死……んでない、か。
平然とした顔して食べてるし。
ひょっとして悪いのは見た目だけとか言うオチが……あったりしたら、良いんだけど……、、
『はじめまして、マキナちゃん?』
と、見知らぬ女性に声をかけられた。
『私はヒビキ。カイリの姉です。さぁ座って座って』
ヒビキさん……か。
カイリとは違って優しそうな人だ。
私が座ると、スズナもその正面に座った。
カイリ『今日は姉上の手料理だ。感謝して食べろ』
……あ。
注意して見ないとわからないくらいだけど、カイリちょっと汗かいてる。
視線も若干空を彷徨ってるし。
…
……どうしよう。
カイリはきっとちょくちょく食べてるから耐えられるんだろうけど、それでもあれだ。
これを食べて、無事でいられるんだろうか…?
カイリ『どうした?早く食べろ(姉上を悲しませたらコロス)』
うわ、心の声が聞こえちゃったよ。
正面のスズナを見れば、ピキッとひきつったような笑顔。
明らかに困惑してるな。
……よし、こうなったら水で流し込むしかない。
味を感じる前に一気にいってしまえばなんとかなるかもしれない。
さあ覚悟を決めて……
――突然、空気を裂くような悲鳴が周囲を駆け巡った。
カイリ『……っ!?』
町で何か騒ぎが起こっているようだ。
カタン、とフォークを置く音。
カイリ『……姉上はここに。僕が様子を見てきます』
吐き捨てるように言ってカイリが走り出した。
助かった。
……って、安心してる場合でもないか。
騒ぎはますます大きくなっている。
マキナ『私たちも行こう、スズナ!』
スズナ『うんっ』
駆け出す私に、スズナも続いた。
後ろからヒビキさんの制止の声が聞こえたが、申し訳ないと心の中で謝りつつ外に出た。
騒ぎの元は町の中央のようだ。
…
……
──ハクタイシティの中央付近にある巨大な建物が、黒いベレー帽に黒装束の制服の軍団に占領されている。
軍団は大量のズバットやコラッタを従えて、建物に近づこうとする町の人々を攻撃していた。
スズナ『……酷、い』
全然、訳がわからない。
……リーダー格らしき男が1人。集団の中から前に出て叫んだ。
『Raid On the City,Knock out,Evil Tusks…!(町々を襲い尽くせ、打ち砕け、悪の牙よ!)』
『『『YHAAAAAAAAAAA…!!』』』
軍団員たちの地鳴りのような雄叫びが響き渡る。
……数百名はいるだろうか。
とんでもない人数だ。
マキナ『……あ、』
軍団員の黒装束の制服の胸には、赤いRのマーク。
……そういえば、噂に聞いた事がある。
昔カントー地方にはポケモンを使って悪さをする集団がいた。
──数年前、1人の少年のために壊滅したはずの、ポケモンを駆使するマフィア集団。
『私はソウリュウ!これよりこの町は我等ロケット団の支配下となる!』
『『『YHAAAAAAAAAAA…!!』』』
ロケット-ROCKET-団。
ロケット団の周りを遠巻きにする観衆の中、一歩前に出る人影。
カイリだ。
『なんだ貴様はぁっ! 俺達は泣く子も黙るロケット団だぞっ!!』
団員の一人が鞭を持ってカイリに立ち塞がる。
突然。カイリの後方からピンク色の蔓のような物がうねりながら伸びて、団員を叩き弾き飛ばした。
『……!』
──攻撃したのは、ベロリンガ。
蔓に見えたのはその長い舌だった。
カイリ『……お前等、好き放題やってくれたじゃないか』
……っ、最悪の展開だ。
この人数相手に喧嘩を売るのは明らかに無謀だ。
『ふざけるな貴様っ!』
『ガキが。馬鹿な奴だ…ただでは帰さんぞ!』
『坊やは家でママのおっぱいしゃぶってろよ!』
団員たちは気性荒く次々に自分のポケモンを繰り出す。
蟻のようにわらわらと、しかし隊列の整ったそれは統率の取れた軍隊。
カイリは動じず、じっとロケット団の動き見ていた。
と、すぐにロケット団の団員たちに囲まれる形になる。
…
……助けたい、けど。
下手に手を出して、矛先をこっちに向けられたら…
カイリ『……蹴散せ。パワーウィップ』
一閃。
ベロリンガの舌は一撃でポケモン共々団員たちを吹き飛ばし、包囲の一部に穴を空けた。
そしてその穴はソウリュウまでの道を開く。
カイリ『雑魚に用はない』
……!
そういえば、さっきもそうだったけど、カイリのベロリンガはすごく強い。
これならひょっとして、私達が加勢すれば勝てるかもしれない。
マキナ『手伝うよ、クチート!』
モンスターボールを投げると、クチートが大きな鋼の口で敵を威嚇しながら現れる。
スズナ『スズナも準備オッケーです』
横ではスズナのニューラが爪をギラつかせていた。
『な……! ソウリュウ様、こいつら』
ソウリュウ『落ち着け。……ふん。貴様等なかなか良いポケモンを連れているようだな』
……わかってるなら、大人しく引き下がってくれ。
ソウリュウ『……だが、何か忘れていないかね?』
ソウリュウは邪悪な笑みを浮かべて言う。
ソウリュウ『ハクタイビルには多くの人質がいる! 貴様等が我等に歯向かえばどうなるか……よく考えてみたまえ。フハハハハハハハハハ……ッ!!』
……!
ソウリュウは大声で哄笑した。
カイリ『……』
スズナ『……ッ!』
……こいつ、最低だ。
こんな人間がいるのか。こんな……卑怯な人間が……
『勝手な事をしてもらっちゃ困るのよねぇ』
……!
いきなり、後ろから声が聞こえた。
振り返って見ると、声の主はモノトーンの制服を着た赤毛の少女。
自分のポケモンらしきニャルマーの腕に抱えて撫でている。
その女性の後ろでは、同じような服装の部下らしき数名が控えていた。
カイリ『……ギンガ団の、マーズだ』
カイリが忌々しげに睨み付ける。
マーズ『あら。カイリじゃない。何、あなたが関わってるの?』
マーズは一瞬不思議そうにカイリを見たが、気さくな様子で声をかけた。
……ギンガ団は宇宙の新エネルギーを開発しているという組織だ。
ポケモンを使ってなにか不穏な動きをしているという噂もある。
カイリの、知り合いだろうか?
こんなよくわからない怪し気な人と……
マーズ『……まぁ、今はあなたはどうでもいいわ。それよりあんた達……ロケット団って名乗ってるんだっけ』
マーズは言って、ロケット団に向き直った。
マーズ『あのねぇ、誰が何処を占領しようとしった事じゃないけど、ハクタイはギンガ団の重要な拠点なの。早々に立ち退いてもらうわ』
──険悪な雰囲気の中、マーズは口上を述べながらロケット団員を蹴飛ばした。
ロケット団員はマーズに掴みかかろうとしたが、マーズの剣幕にたじろいで退がった。
……と、ソウリュウがマーズの前に歩み出る。
ソウリュウ『ボスのソウリュウだ。ギンガ団のリーダーである、アカギ様と話をしたいのだが?』
マーズがソウリュウを訝しむように見ると、ソウリュウはにこりと営業スマイルを見せた。
しばらくして、マーズが根負けしたかのように口を開く。
マーズ『アカギ様は会わないわ。用件なら私に……』
≪会おう、マーズ。丁重におもてなしするんだ≫
マーズの言葉を遮り、マーズの胸の辺りにある小さな機械が声を放った。
無線機だろうか。
マーズ『……了解です。失礼いたしましたソウリュウ様。こちらへどうぞ』
ギンガ団員と数名のロケット団員に囲まれ、ソウリュウとマーズがこの場を後にする。
カイリは舌打ちをすると、ベロリンガをボールに戻して帰っていった。
私とスズナもポケモンをボールに戻して、早足にカイリを追いかけた。
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第3話『謎の組織襲来!』 | ||
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