ポケットモンスターNovels 第4話 |
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ソウリュウ『――では、承諾していただけると?』
アカギ『あぁ。私は金や権力には興味ない』
ソウリュウ『いや、ありがたい。これで我等の間には絆が結ばれましたな』
アカギ『お互いに利用し合うだけの事だろう』
ソウリュウ『ふ、ははは……同じ事ですよ』
*
マキナ『クチート! ヘドロ爆弾……!』
クチートが毒の塊を吐き出した。
攻撃は相手のチェリムに命中し、チェリムの体はヘドロにまみれる。
効果は抜群だ。
チェリムは力を失い、倒れる。
相手が次に出してきたポケモンはロズレイド。
やはり草タイプのポケモンばかりだ。
ハクタイシティのジムリーダー、ナタネは草タイプのポケモン使い。
しっかり対策を練ってきてよかった。
ナタネ『ロズレイド、君の力を見せつけて!リーフストーム!!』
ロズレイドが舞うと、大小の木の葉がロズレイドの周りに漂いはじめる。
そして無数の木の葉の全ては鋭利な刃と化し、暴風となってクチートに襲い掛かった。
マキナ『防いでクチート!!』
草タイプの攻撃は、クチートには効果が今一つだ。
ロズレイドの木の葉は全てクチートの大きな鋼の口に弾かれ、散り落ちる。
ナタネ『くっ……!』
ナタネが動揺した。
……好機だ。
マキナ『火炎放射!』
が、ナタネはすぐに対応する。
ナタネ『シャドーボールで迎撃っ』
ロズレイドが両掌の間に影の力を溜めて放つ。
クチートの火炎放射はシャドーボールに阻まれ、通らない。
ナタネ『よし! ロズレイド、覚醒する能力<めざめるパワー>!』
ロズレイドがエネルギーを放出する。
直撃。
クチートがよろめいた。
弱点である炎タイプの攻撃を受けたらしい。
マキナ『持ちこたえてクチート……!』
クチートが私の声に反応する。
ロズレイドの方を向いたまま、瞳だけ動かして私を見つめてきた。
――大丈夫だ、と。
クチートはすぐに視線をロズレイドに戻し、鋼の口を構える。
クチートのその姿を見て、私は喜びに笑みが零れた。
マキナ『いけー! 冷凍ビーム!』
ナタネ『――な、』
一筋のラインがクチートとロズレイドを繋ぐ。
瞬間、ロズレイドが凍結した。
氷が崩れ落ちると、ロズレイドが前のめりにダウンする。
ナタネはしばらく悔しそうにロズレイドを見つめていたが、やがて肩を落としてため息をついた。
よし、勝利!
ナタネ『あははっ、すごい! 貴女とっても強いんだ』
ナタネは歯を見せて笑う。
奥からジムのトレーナーらしき人がバッジを持ってきた。
ナタネはそれを受け取ると、うやうやしく私に差し出す。
ナタネ『おめでとうマキナ!』
バッジは光を受けて輝いているように見えた。
ナタネ『またバトルしよう! 今度はジムリーダーとか関係なく、』
ね、とウインク。
マキナ『……はい! ありがとうございました!』
ナタネ……さん、か。すごくさっぱりした性格の人だな。
ちょっとスズナに似てるかもしれない。
うん。こういう人は好きだ。
ナタネ『こちらこそありがとう。楽しかったよ』
これでポケモンリーグに一歩近づいた。
マキナ『見て見てー! 勝ったよー!』
思いきり手を振ってアピール。
ナタネに貰ったばかりのフォレストバッジを見せびらかす。
スズナとカイリは、ハクタイの1番高い丘からロケット団の拠点を見張っていた。
本当はカイリが1人でやると言い出したのだが、スズナが自分もと聞かなかったのだ。
おかげでカイリも助かっているようだが、そんな事を口にするやつじゃない事はわかっている。
スズナ『すごい! さすがマキナだね! ナタネさんに勝っちゃうなんてさ!』
スズナはまるで自分の事のように喜んでくれる。
どこかの無愛想なやつとは大違いだ。
マキナ『えへへ、ありがとうスズナ』
と、無表情で町を見下ろしていたカイリの眉がはね上がる。
あー……あれが原因かな。
マキナ『やっぱり、ヒビキさんが技マシンをわけてくれたおかげだね!』
言えば、うんうんと1人頷くカイリ。
……意外とわかりやすいやつ。
カイリ『用が済んだならさっさとハクタイから出ていけ。……姉上は絶対にこんな事は言わないが、うちに居座られると迷惑だ』
このやろう、はっきり言いやがって。
まぁ、本当の事だから何も返せないんだけど。
スズナ『もー! こんな事になってるのに、見過ごして出て行けっていうの?』
スズナは頬を膨らせてカイリに抗議するが、カイリの態度は変わらない。
カイリ『五月蝿い黙れ鬱陶しい。出ていけ』
ずーん。
うっわぁ効果音が聞こえたよ。
沈むスズナ。
痛恨の一撃……だな。
スズナは、カイリが苦手のようだ。
スズナ『もー! なんでそんな事言うのさー!』
ちょ……スズナ涙目になってるし。
そんなに効いたのか。
カイリ『……お前等は部外者だ。ハクタイの揉め事はハクタイの人間が解決する』
カイリは真っ向から拒絶する。
これは……何を言っても無駄、かな。
マキナ『スズナ。私たちには目的があるんだから、それを優先しよう?』
それに、多分カイリは私たちを巻き込みたくなくて言ってくれてるんだと思う。
ロケット団と戦うカイリに私たちが加勢しようとした時も、気が付けばカイリは私たちを庇うような位置にいた。
カイリに言ったら絶対に否定するだろうな。
顔を赤くしてそっぽを向くカイリを想像すると笑える。
まあ、そんな事は天地がひっくり返ってもなさそうだけど。
スズナ『……ん、マキナがそう言うなら』
まだ少し不服そうだが、スズナも納得してくれたようだ。
と、カイリが見つめる先。
大きなピンク色のボールのようなものが、完全に重力を無視して下から猛スピードで転がってくる。
マキナ『なにあれ』
ボールの速度は徐々に上がり、一直線に私たちのいる場所に向かっていた。
ボールは地面の突起に引っ掛って跳ね上がり――
スズナ『ひ……っ』
スズナの目の前に落下。
ずずん、と重い音がした。
スズナ『な、なにこれ! なにこれ!?』
ボールがもぞもぞと揺れる。
スズナ『う、うううううううううううう動いた動いたよ……ッ!?』
カイリ『五月蝿い黙れ。……ベロリンガ、中の様子はどうだった?』
カイリは冷静にスズナに言い、ピンク色の何かに声をかける。
ボールのようだったそれは徐々に形を変え、舌の長いポケモンの姿となった。
……ベロリンガだ。
驚いて心臓が止まるところだった。
スズナも唖然として言葉を失っている。
ベロリンガは長い舌で近くに落ちていた木の枝を器用に掴み、地面に絵を描き出した。
どうやら建物の見取り図らしい。
ひと通り描き終えると、数十ヶ所にバツ印が、入り口から1番遠い部屋にひとつだけ○印が付け足される。
カイリ『よくやったベロリンガ』
言いながら、カイリはベロリンガの頭を優しく撫でた。
カイリ『今日はもう引き上げる。お前等も、ハクタイを発つ前に姉上に挨拶をして行け』
スズナ『もー! 言われなくてもわかってるってば!』
……カイリってさ。
嫌なやつだけど、ようは、とことんヒビキさんの事が大切なだけなんだよね。
2人暮らしで、何故かは知らないけど両親とかもいないみたいだし。
スズナ『ほらマキナ! 置いてくよー!』
スズナの声。
私は思考を止めて、スズナとカイリを追いかけた。
*
カイリ『っ、なん、だと……!』
カイリが声をあげて驚く。
珍しく、焦っていた。
私たちを待ち受けていたのは、家を取り囲む、ロケット団の姿。
標的は私たちだ。
以前カイリや私が喰いかかった事を覚えていたのだろう。
自身に牙を向ける者を排除するつもりだ。
しかし、あれでは……
カイリ『近付けないな』
ギリ、と歯軋りの音。
家にはヒビキさんが残っていたが、無事ではないだろう。
まさか、こんな事になるなんて。
スズナ『迂濶すぎた、ね。ハクタイマンションにいるだけじゃなかったんだ、ロケット団の戦力は』
スズナの言葉にカイリが頷く。
カイリ『おまけにギンガ団の幹部連中も揃ってる。手を組んだんだろうな。……勝ち目は、無い』
数が多すぎる上に、手練れも多い。
こっちはたった3人。
突破するのは難しいだろう。
マキナ『ねぇ、どうするの?』
疑問をぶつける。
カイリ『……姉上はおそらく無事だ。あの人は、どんな状況でも何とかして切り抜けているはずだ』
カイリのその言葉はありがちな強がりじゃなくて。
ヒビキさんは大丈夫なんだという、絶大な信頼があった。
カイリ『落ち着くまでハクタイを離れよう。姉上は1人でも大丈夫だ。むしろ、もう町を出ているかもしれない』
……意外だ。
カイリなら、無茶してでも戦うと思ってた。
スズナ『敵を前に、逃げるの?』
スズナが言った。
が、カイリはあくまで冷静。
カイリ『根性論で勝てる事もあるだろうが、あれは無理だ。勝率が1%でもあるのなら挑んでいいが、0%で戦うバカはいないさ』
正論だ。
カイリの言い分を聞いて、スズナがふふんと笑う。
あ、こいつカイリを試したな。
スズナ『……決まりね。行こう』
また大変な事になってきたなー……退屈しないで良いけどさ。
って、こんな事を考えるのは不謹慎か。
*
……なんで、このあたしが、こんな任務につかなきゃいけないのよ。
マーズ『ねぇ、ジュピター?』
横にいる紫の髪に長身の女性…同僚のジュピターに話し掛ける。
ジュピター『何よ』
……聞いてなかったのか。
マーズ『ロケット団がなんであの3人にこだわるのか、って話よ』
ジュピターはあたしの方を見ようともしない。
そっぽを向いたまま鬱陶しそうに答える。
ジュピター『さあね。そんな事、私たちが知る必要ないわ』
……やっぱ、こいつムカつく。
サターンもジュピターも実力は確かなんだけど、どうもあたしとは合わない。
温度に差があるのよね。
ま、多分向こうも同じ事を思ってるんだろうし、いちいち気にしてられないか。
それよりもあの3人……特に、クチート連れてたガキ。
直感でわかる。あの娘はけっこう賢いしデキる。
ひょっとしたらもう逃げてしまったのかもしれない。
というか、1人の女を助けるために戻ってくるやつがいたら本気で馬鹿だ。
とすれば……ここに陣取っていても無駄ね。
マーズ『ジュピター、あたし帰るわ。代わりを寄越すから後はよろしく』
アカギ様は多分、あいつらには興味が無い。
ソウリュウもこの町に来て日が浅いから、まだ不慣れだ。
だから配置もそこまで厳重なものじゃないし、探せばいくらでも隙間が見つかる。
だから、きっとここにいても無駄だ。
ジュピター『は? マーズ、あなた何言って……』
多少の命令違反ならアカギ様も許してくれるだろうし。
珍しいポケモンでも探して献上しようかしら。
そろそろ、あたしのニャルマーもブニャットに進化させてあげたいしね。
マーズ『じゃあねー』
ジュピター『ちょっ、待ちなさいよ! どういうつもり!?』
後ろからジュピターのヒステリックな声が聞こえるが気にしない。
――と、無線が入った。
アカギ様だ。
≪サターン、ジュピター、マーズ、そこはもういい。帰還しろ≫
ほら。アカギ様も無意味だってわかってたんだ。
マーズ『了解しました』
ジュピター『了解しました』
プッと一瞬のノイズ。無線が切れる。
マーズ『帰るわよ』
丁度良いタイミングだったわね。
ついでにニャルマーの餌でも買って行こうっと。
ジュピター『……』
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