歌姫†無双 〜蒼天已死 黄天當立〜 弐 |
絽較 〜過去回想〜
その日、俺はいつも通りに村を襲っていた。ああ、もうこの時には襲うことを“いつも通り”だと思っていたんだ。だから、どうだという訳じゃねぇが、ただ少しだけ寂しいと思う。“いつも通り”だと思えるほどに人を殺して、“いつも通り”だと思うほどに人の心を無くして来た。もう、戻れない。ふぅ、らしくもない。そんなこと、分かりきってんだろうが。
農具を持った男が俺に迫ってくる。どう見ても素人の動き。駆け出しの賊なんかだったら、もしかしたら倒せたかもしれない。だが、残念。こちとら、経験をつんでるんだよな。俺は躊躇うことなく男を斬る。そのことにすら、抵抗を覚えない。
そんな光景を男の後ろで見ていたやつがいた。男の妻であろう者と、男の息子であろう者。こんな時にとる行動は、だいたい決まっている。一つ、逃げようとする。一つ、助けを請う。一つ、敵討ちをする。俺が考えていると、女は包丁を持ってこっちに迫って来た。息子も木の棒か何かは分からないが、それを持って俺に向かってくる。俺は男と同様に斬り捨てた。
女だろうが子どもだろうが、今では全く抵抗がない。どうしてこんなになっちまったんだかな。そんなことを思うと、過去の記憶が甦ろうとする。だが、それよりも早く、俺は記憶に蓋をする。思い出したところで、何が変わるわけでもないからな。
代わり映えのしない日々。村を襲い、人を斬り、物を奪う。繰り返す。何度も何度も何度も何度も。終わりなんか見えない。まぁ、見えないだけで、終わらせることなんてすぐに出来る。俺が死ねば良い。と言ったところで死ぬ覚悟があれば、こんなことやってねぇんだけどな。
はっきり言って、つれぇ。死にたくないから、生に執着する。一人の命のために何十もの命を奪う。ただ、俺のためだけに数え切れないほどの人を斬ってきた。だが、俺は何のために生きているのか分からない。いや、生きることに目的は無い。死にたくないだけだ。
これは罰かもしれないな。1人のために何十もの命を奪ってきた俺への罰。奪った命に苦悩し、それでも死ぬことを許さない。どんだけ性質が悪い罰なんだよ。俺はついつい苦笑してしまう。こんなことを罰で考えるやつなんて、相当性格が捻くれているぞ。絶対、友達とかいねぇな。
………もう、限界かもな。自分のためだと言って人を斬るのも。自分のためだと言って村を襲うのも。これ以上、村を襲って何になる?これ以上、生きて何になる?はぁ、やっぱりらしくねぇ。どうも、今日は調子が悪いようだ。いつもの俺じゃない。
俺は裏路地に向けて歩き始める。表の道だと、他のやつが騒がしくて考えに集中できねぇ。大抵のものは表にあるから、裏路地は基本的に後回しにすることが多い。つっても、本当なら裏路地はしっかりと調べねぇといけねぇがな。もしかしたら、住人が集結してこっちに反撃を仕掛けるかもしれないし、もしかしたら、逃げ延びたやつがいてそいつが軍に知らせるかもしれない。
裏路地に行くと、足元に純白の布が落ちていた。珍しいな。こんな村に、こんなに高価そうなものがあるなんてよ。俺は布を拾おうとして、あることに気づいた。この布は“何か”を包んでいる。恐る恐る布を開くと、そこには餓鬼がいた。
俺は餓鬼を拾い上げると、腕で抱えた。こん時、俺はどうにかしてたんだろうな。普段なら絶対にしないことだ。どうも今日はおかしい。拾ったところで、俺が育てれるわけでもない。ましてや、賊のなかで育てるなんて出来るわけがねぇ。俺は餓鬼を再び、地面に置こうとする。
すると、餓鬼は俺を見て、笑った。ただ、笑ったんだ。血まみれの俺に向かって、手を伸ばす餓鬼。俺は恐る恐る、指を餓鬼の手の触れさせる。すると、餓鬼は俺の指を握ってきた。ああ、人って温かいんだな。俺は当たり前のことを、そんな本当に当たり前のことを思い出した。
「きゃっきゃっ」
餓鬼は俺の指を握るとさらに笑った。腕を振って、喜びを全身で表現してるみてぇだった。気づけば涙を流していた。最後に流したのが何時なのかも思い出せないほどに久しぶりの涙。今までの自分が救われた気がした。嬉しかった。ただただ、純粋に嬉しかったんだ。涙って悲しくなくても出るんだな。俺はそのことを初めて知った。
それから、餓鬼は俺が育てた。つっても、所詮は賊。まともな手段で育てることなんか出来なかった。やっぱり、村を襲うことになった。だが、その時に今までのような迷いはなかった。罪は全て俺が背負うから、餓鬼を育てたかった。俺の希望をこんな所で死なせたくなかった。
俺はもう迷わない。
「よし、じゃあ、都から離れよっか」
一刀は心の中で決めたことを攅刀たちの前で言う。村を襲ってから三日が経過していた。その間に官軍の動向を探っていた一刀だったが、村が襲撃されたのにあまり調査などは行われなかった。ただ、都周辺の警備が強化され、軍の増強が少しだけ行われた程度だ。偉い御方は自分を護ることしか頭にないようだ。
「それじゃ、次はどこに行くってんだ?」
その言葉に最初に反応したのは攅刀だった。一刀たちの賊は一応、攅刀がリーダーとなってはいるが、実質的には一刀が仕切っていた。その理由は単に攅刀がめんどくさがっているからだ。経験で言うなら、確実に攅刀のほうが仕切るだけの経験を持っているし、その経験を活かせるだけの武力や知力も持っていた。
「んーっと、益州の方に向かおうかなって思ってるけど」
「益州?遠いな」
攅刀は地図を見ながら言った。地図と言っても、そこまで正確なものではなく、大雑把に地名が書いてあるくらいのものである。この時代に地図はすごく重要なものとされており、戦術を行う際になくてはならないものなのである。なので、詳細な地図が出回ることなどまずないと言える。
「どうしてんな遠いとこに?」
「あそこはね、腐った下郎が刺史を務めているから、俺達みたいな賊には過ごし易いんだよ」
一刀は笑顔で言い放つ。その笑顔は見るものを恐怖させるには十分だし、何より攅刀自身も背筋が寒くなった。
「ふっ、さすがはアニキのガキだな」
そこで攅刀の隣に立っていた大男が口を開く。年齢は攅刀と同じくらいだが、あまり強くなさそうな攅刀と違い、その男が猛者だというのは雰囲気で察すことが可能だった。どこか大らかそうな顔とは正反対に、背中には多きな剣を背負っていた。
大男は名を昏酋(こんしゅう。字を秦廼(しんだい)。真名を龍盟(りゅうめい)と言う。
「こんな言葉を教えたつもりはないんだが」
「いつも使ってるくせに」
今度は一刀の横に立っていた少女が声を発した。茶色の長髪で、それを左右で結んでいる。一刀より年下で、まだ幼げを残しているが、雰囲気だけで言ったら女性と認識しても問題はない。そして、少女の腰にある扇子が何とも特徴的だった。扇子は鉄で出来ており、鈍い光を放っていた。
少女は名を慶眞(けいしん)。字を鷲扇(しゅうせん)。真名を蘭花(らんか)と言う。
「お前らなぁ……」
「ま、自業自得ってことで話を進めよう」
「……お前、父親に対する扱いがひぐくねぇか?」
「気のせい気のせい」
一刀はいつもよりも数割増しの笑顔を攅刀に向ける。攅刀はそれに対して、頬を引きつらせる。しかし、一刀は一切気にした様子も無い。
「それで―――」
いつも通りに攅刀を無視して話を進める。そう、いつも攅刀は無視されるのだ。
一刀たちが指揮をする賊。その集団は、どの賊――下手な官軍――よりも統率が取れていた。指揮をするのは、一刀・龍盟・蘭花の三人であった。本来は攅刀も指揮は行えるのだが、一応はリーダーなので基本的に拠点で待機が多かった。
その数300人。
そして、その中で一刀・龍盟・蘭花の3人の武は、飛びぬけて優秀であった。攅刀も弱くは無いが、この3人よりも別のことに特化した武である。しかし、今回は割愛させていただく。この3人の武は、決して武将にも引けを取らない見事なものである。
その中でも一刀の武は圧倒的だった。訓練で龍盟と蘭花が何度も一刀に挑んでいるのだが、一度たりとも勝つことは出来なかった。というよりは、むしろ余裕を持ってあしらわれてしまうのだ。無論、何度か攅刀も含め全員で挑んだのだが、結果は変わらなかった。
もちろん、そんな彼らに長年の間、鍛えられている賊達もかなりの腕前になっていた。その上に一人ひとりがきちんと自分の考えを持ち、行動していた。それは緊急時に命令を聞かないなど問題になるかもしれないが、この集団に限ってそれはなかった。
それだけの武を持っているのなら、軍にでも所属すればいいように思うだろう。しかし、“彼ら”にその選択肢はない。なぜなら、“彼ら”が賊であり、それ以外の生き方を知らないからだ。いや、知ってはいるが選べない。これまでに多くの人を殺めてきたのだから。
『懺悔室』
今回はかなり短いです。
壱の方に少しだけ場面を移したので自然とこっちが短くなりました。
次回からは話数を合わせられると思います。
それでは、ここまで見て下さった皆様に多大なる感謝を!!
説明 | ||
今回はかなり短めです。 では、どぞ↓ |
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コメント | ||
続き待ってます(睦月) | ||
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