休日 |
# 休日。
こんな夢を見た。
僕の肉体は既に無く、まったくの無色透明の存在。
僕は無意識のうちに死んでしまった事を理解していた。
其の事実を冷静に受け止める。
気がつくと、そこにはチームメイトがいる。
他にも見知った顔がいる。どうやら他校練習試合をしているみたいだ。
僕は彼等に近づいてみる。
でも誰も僕に気付かない。
嗚呼、肉体が無いって事はこーゆう事なのかと、少し寂しく思った。
僕が存在していなくても何事も無く世界は、日常は動いている。
心に少しの虚実感を抱いて僕は、彼の所へと行く。
気のせいか君のまわりはとても穏やかな空気が流れていて、
とても心地良い。
ボクハ、ココニ、イルヨ。
彼には届かない声で僕は囁く。
「わかってるから、心配すんな」
不意に彼が呟く。
口の端に笑みを浮かべて、普段人前では笑わない彼は一人、優しい笑みを浮かべる。
「何を一人で笑ろうとんのや、不気味やで。跡部」
「別に。ただアイツが今此処に来たから」
跡部だけはわかってくれた。
僕がちゃんと此処にいることを。
意識だけの存在になっても、僕の事を忘れないでいてくれる。
何故だか無性に嬉しくて僕は涙を流した。
実際にはもう涙なんて流せはしないけれど。
フジ……。
ふじ……、ふじ……、
空の彼方から僕を呼ぶ声が聞こえる。それは徐々に近づいてくる。
不二……!
五月蝿いな、聞こえてるよ。
「不二!!」
耳元で大声を出されて僕は反射的に飛び起きる。
「……大きな声出さないでよ。鼓膜破れるから」
「お前が起きないからだろ。何泣いてんだよ」
跡部は僕の頬に手を触れる。
そこで初めて僕の頬が濡れている事に気付いた。
何が悲しいのか、滝のように涙が流れている。
「何だろ……、何か夢を見ていた気がするけど……、急に起こすから忘れちゃった」
「はいはい、俺が全て悪うございました」
きっと跡部は尋常じゃない程の涙を流しながら眠る僕を心配して起こしてくれたのだろう。
彼はいつもぶっきらぼうな優しさを僕にくれる。
その優しさが僕にはとても心地良い。
「覚えてないけど……、跡部が優しかったのは覚えてるよ。だから泣いてたんだよ」
「? 優しくされて泣いてんのかよ。お前ってホントに複雑だな」
そう言って、口の端に優しい笑みを浮かべる。
僕は彼のその表情が好きだ。
「ねぇ、知ってた? 僕、君の笑顔が好きなんだよ」
「んなこた、前から知ってるよ。つーか、笑顔だけかよ?」
「あはは、笑顔だけだよ。性格悪いし」
なんだと、と言いながら跡部は僕の頭を無造作にガシガシ撫でる。
乱暴そうに見えてそれも限りなく優しい。
僕は、彼にこうされるのもかなり好き。 彼の部屋の窓の隙間から
頬を撫でるような風が入ってくる。
いつまでもこんな日常が続けばいいのに、と
跡部の腕の中で再び微睡みかけた意識の端で僕は思った。
そして再び、意識を手放す。
そんな、日曜日の午後。
END.
2004.6
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