ヴィルトゥオーソ
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 放課後の体育館。

 ボールの弾む音。

 

 シルエット。

 

 その瞬間、時が止まったかと思った。

 

 

 

#ヴィルトゥオーソ virtuoso

 

 

 

 

 その時までは瑞穂は数ある高校見学に選んだ学校のひとつでしかなかった。

 進学先として選ぶ高校は有名進学校などといったご大層な理由も特に無く、最低条件として「そこそこの活動をしているバスケット部がある学校」を適当に見繕って選んでいた。

 勿論、その中に瑞穂高校を入れたのは、"あの哀川和彦"がいる高校だからで単なる興味本位だった。

 

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 高校見学に関して唯一の目的である「バスケ部見学」もバスケ部の練習終了と共に終了し、時間潰しに他の部活動を見学してまわり粗方の部活動が終了したはずの体育館で、バスケットボールが弾む音を耳にした。

 部外者がうろつくのも褒められた事じゃないってのはわかってるけど、好奇心の方が勝り、誰もいないはずの体育館を覗き込む。

 

 

 

 綺麗な弧を描き余計な音も出さずゴールネットへと吸い込まれていくボール。

 

 正直、今までこんなに綺麗なシュートフォームを見たことがなかった。

 その場、その瞬間、そのカタチが切り取られ、彼を含む「それ」は俺のいる世界とは別の空間だった。

 あまりにも美しく、現実離れしていて、白昼夢でも見ているような奇妙な感覚。

 

 この遭遇がこの後、迷い無く瑞穂へ進学する動機だったのかもしれない。

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「……この程度のスタミナでよくレギュラー張ってられますよね。重いんで早くよけてくれません?」

 

 試合形式を取った部活練習で、藤原さん+1年 対 レギュラーチームに分かれての試合中、ゴール際の攻防時に空中で体勢を崩した三浦さんが俺の上に落ちてきた。

 と、いうより、俺が故意に受け止めたのだが敢えてそこはスルーしておく。

 

「体力無いのは言われなくてもちゃんと自覚してるよ。下敷きにして悪かったね、すぐよけるから」

 

「この分じゃ俺があんたの替わりにレギュラー入りする日も遠くないっすね」

 

 三浦さんは何も答えず、軽く一瞥して起き上がる。

 丁度、試合終了時の出来事だったのでそのままクールダウンに入り、部活は終了した。

 まだ自分の手には三浦さんの感触が残っている。

 バスケをするにしては華奢な体格だとは思っていたけど、受け止めた肩の薄さや体重の軽さに改めて彼の華奢な体躯を実感して、妙に焦る自分を見つける。

 

 タオルで汗を拭いながら石井先輩と何かを喋っている三浦さんの姿が視界の端に入ってきた。

 そしてまた、いつもの気分の悪さを自覚する。

 

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「えのもとぉ?、お前、何でいっつも三浦さんにつっかかるんだよ?」

 

「そーだよ、オマエ偉そーに言ってたけど、少なくとも榎本や俺たちより体力あるじゃん、三浦さん」

 

 水前寺をはじめ同じ1年の部員達が口々に言う。

 そんな事は言われなくても知ってるさ。彼が誰よりも練習してる事だって、体力作りのためにリク部の連中と一緒にトレーニングしてる事だって、多分、お前らよりも良く知ってるよ。

 自分でもわかならいけど、三浦さんを前にすると憎まれ口しか出てこない。

 良くわからないけど、彼を前にすると必ず名状し難いもやもやした思いが生まれて、やり場のない苛つきを抱え込む羽目になるから、だから、これは半分八つ当たりなんだ。

 

 わかってるけど、どうしようもない事ってあるだろ。

 

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「榎っち、また絡んでたっすね?、三浦さん。そのうち後ろから刺されちゃったりして」

 

 部活終了後、バイトで早々にあがった哀川さんや器具を一通り片付けた1年たちはその場を引き払い、後に残っていたトーヤさんが居残り練習を終え水分を補給している三浦さんの横に陣取り話し掛ける。

 他の1年と一緒に部室へと引き上げた俺は、忘れ物を取りに体育館へと引き返したが、自分の名前が出てきた会話が始まり何となく出るに出られず、かといって黙って引き返すことも出来ずにその場に潜む形に……早い話が立ち聞きする格好になった。

 俺がいるとも気付かずに彼らは会話を続ける。

 

「……やだよ、まだ死にたくないし。その時はトーヤ、身代わり宜しく」

 

 三浦さんのドリンクを欲しがるトーヤさんに、ドリンクを渡しながら三浦さんは言った。

 

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「つーか、アイツも若いってゆうか、露骨だよな……、」

 

「あー、確かに!まわりにモロバレだっつの、って本人自覚してるんすかね。アレ」

 

 三浦さんの左隣に腰を降ろした藤原さんが神妙に呟き、その言葉にトーヤさんは同意する。

 

「……露骨って、僕を嫌ってる態度を露骨に表わしてるって事? 別に僕は気にしてないからそんなに深刻にならなくてもいいよ、藤」

 

「嫌ってるって……」

 

 二人の暗黙の了解のような内容を当の本人は理解せず、見当違いの認識を示した三浦さんにその場に居合わせた全員が絶句をしているようだった。

 

「みーうーらーさーん……! それって分かっててワザとボケてるんすかぁ? 俺、つっこんじゃっても いっすか??」

 

「え? トーヤも藤も何さ、僕変な事言った?」

 

「三浦……。まぁ、いくらアイツが中学の頃のお前とキャラが被るって言っても……そうだよな、根本的な所が違うからアレか……、お前は大人だったよな……」

 

 藤原さんはそう言って、深い溜息を吐く。

 三浦さんはひとり解せない顔をしている。

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「好きな子ほどいじめたりするだろ、小学生とか、特に。」

 

「榎っちのアレは嫌ってるってよりも、それなんすよね?。構ってもらいたいってゆうか、自分だけを見て欲しいってゆうか……、高校生にもなって感情表現がコドモってゆうか……」

 

「はぁ?! 二人とも何言ってるの?! 好きだ嫌いだって……てゆうか僕、男だし」

 

「三浦さん……自分をもっと知っておいた方がいいっスよ。まじで。」

 

 そう言うと、冗談なのか本気なのかどっちともとれる態度でトーヤさんは三浦さんに抱きついた。

 

「ちょ……ばかっ、重いって。ばかトーヤ! 何か言ってやってよ、藤」

 

「……後輩に慕われるようになって良かったな、三浦」

 

 中学時代のお前からは想像出来ないぞ、と藤原さんは付け足した。

 

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 先輩達が引き上げ、誰もいなくなった体育館に一人、立つ。

 忘れ物を拾い上げ藤原さんとトーヤさんが言った言葉を反芻する。

 

 

 

 ……そんなわけ、ないだろ。

 

 

 ……そんなわけ、……。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

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 その日は、女バスの調整だとかで女バスが全面コートを占拠した為、男子は幾分早めに部活が終わった。

 

 これと言った大会も控えているわけでないし、ちょっとした息抜きになるといった雰囲気で、膝に爆弾を抱えている藤原さんは病院へ、哀川さんは例によってバイトへ、石井先輩と土橋先輩も早々に帰宅した。

 

 やる気があるのか疑ってしまう1年の連中も丈一郎を除き、自主トレをする気配も無く是幸いと帰宅していった。

 常に懸念してる事だけど、今の3年達が抜けていってトーヤさんと俺達だけになった新体制の瑞穂バスケ部はどこまで戦力が低下してしまうのか。

 はっきり言ってトーヤさん以外は使い物にならない状態じゃないか。

 てゆうか、あの先輩がこのままバスケ続けるとも思えないけど。

 大目に見て丈一郎と水前寺が少し使えるようになるかならないか、って所で後は何のために入部したんだ?ってヤツらしかいないし。初心者はいるし。

 俺一人頑張ったところで初戦敗退も夢じゃないよな……。

 あーあ……俺、進学先間違ったかな。

 

 

 ガラにも無くバスケ部の行く末に憂いを抱きつつ自主トレしていたが、いつのまにか女バスも練習を終了したらしく次々とコートを後にしていくのが見えた。

 

 

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 このトレーニングを終えたらちょっとだけコート使おうかな、と思っていた矢先、誰もいなくなったはずのコートからボールが弾む音が響いて来た。

 

 放課後の体育館から云々……と言った何処にでもある学園七不思議か、と何も知らないヤツなら思うところだろうが、俺は七不思議の正体を知っている。

 むしろ、彼しかあり得ない……という確信さえ持てる。

 

 そして同時に、また俺の中でもやもやとした居心地の悪い感情が湧きあがる。

 

 

 何なんだよ、もう! あの人は……!!

 

 

 

 

 

 気に障るなら行かなきゃいいのに、俺はバカみたく体育館の扉を開ける。

 

 

 そこには、"綺麗、"としか言い様のないフォームでシュートを放つ三浦さんと見事な弧線を描いてゴールへと吸い込まれていくボールが、何処か現実感の無い空間を創り出していた。

 

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 既視感とは……多分こんな状態の事をいうのではないか。

 

 でも、これは既視感なんかじゃなく、俺は同じ場面を確かに見た事がある。

 忘れたくても忘れられない光景として、今でも鮮明に残っている。

 あの時と同じ空間が再び目の前に再現されているんだ。

 

 俺の判断を狂わせた光景。

 

 思い出す度、胸が痛くなる光景。

 

 

 どうして……どうして、あんたは……。

 

 

 

 

 不意に、その異空間に亀裂が走る。

 着地する体力も残っていないのか、彼はバランスを崩し3Pライン上にうずくまる。

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「ちょっ……!!」

 

 頭で考えるよりも早く、殆ど反射的に三浦さんの方へと体が動いていた。

 今更後悔してもどうにもならない。

 だって、既に俺の腕は俺の意思とは関係なく三浦さんの肩を掴んでしまってるのだから。

 

「あんた……バカじゃないの?! 体力の限度ってもんを考えろよ! どうせ女バスがここ使ってる間はリク部と一緒に陸トレしてたんだろ?」

 

「へ……ぇ、よく分かったね。榎も、自主練してたの……?」

 

 息が上がってまともに喋れないくせに、三浦さんは微妙に的が外れた事を言う。

 あぁ!もう! 脱水でも起こしかけてんじゃないの? コレ!!

 勘弁してくれよ、つか、何で俺、こんなに必死なんだよ!

 

「ホラ、俺ので悪いけど、取り敢えずコレ飲んで、」

 

 三浦さんにドリンクの所持を訊くよりも自分のドリンクを飲ませる方が早いので温くなっていようがお構いなしで無理矢理三浦さんの口へ流し込む。

 勢い余って飲み口の角度をつけすぎ、飲み込める許容量以上の液体を流し込んでしまい、ユニフォームを濡らしてしまったけどまぁ、どうせこの後シャワーも浴びるだろうし問題無いだろう。

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「足は? 捻ったりしてない?!」

 

 ドリンクを飲ませつつ畳みかけるように、怪我の有無を問いただす。

 

「……や、着地の時にちょっとふらついただけだから大丈夫だよ。そんなに心配しなくても、」

 

「もう……!! 一体、何なんだよ、あんた……!!」

 

 取り敢えず足の故障も無く、何故か安心して、安堵したと同時に言い知れない苛立ちが込み上げてきた。

 

「何でそんなに必死になるんだよ。あんたなんか、ただの才能だけの人でいれば……俺だって……、」

 

「榎……?」

 

「あんたの所為で……、高校見学の時にあんたのシュートなんか見ちゃったから瑞穂に入学しちゃったし、入部してからもあんたの事が気になるし、ムカつくし、……あぁ、もう、何言ってんだ、俺。そうさ、そうだよ、あんたに俺の事考えて欲しくてあんたにばっかり絡んでたんだよ……!ちくしょう、トーヤさんが言ってた通りだよ!! てか、何であんたは俺より2年も先輩なんだよ!!」

 

 は?! 一体何を口走ってるんだよ! 俺……!!!

 さっきから訳わかんねーよ。

 第一、俺より早く生まれちゃってるんだから今更そんな事言ってもどうにもならんだろ。

 

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「大体あんたがそんな体格で、そんな華奢な身体のくせに頑張るから悪いんだよ! なんだよ、この腕は!手首なんか片手で掴めちゃうじゃんか」

 

 ……て、どさくさに紛れて三浦さんの手首なんか掴んじゃってるし、俺。

 でも本当に少し力を入れたら折れそうなくらい細いんだよな。

 

「体格の事言われても……好きでこんなんなってるわけじゃないし……。むしろトーヤとか榎とかが羨しいってゆうか……、榎なんか1年でこれだけの身長なんだから、順調にいけば3年になる頃には今の努より大きくなるんじゃない? いいな……僕もそーゆう体格だったら良かったのに」

 

 この人は、人の事をバカにしてるのか、何なのか、たった今俺が爆弾発言とかしちゃってるのに何事も無かったかのようにスルーしちゃって、挙げ句の果てには俺の身長を羨しがったりして……何か頭痛くなってきた。

 

 この人がこうだから、俺は言わなくてもいい事まで言う羽目になっちゃうし、逆に言わなきゃ気が済まなくなっちゃうんだ。

 

「ね……、三浦さん。俺、さっき、あんたの事好きだって白状した形になったんだけど、ちゃんと聞いてた?」

 

 実際には具体的に好きだとは口にしていないけど、冷静になって考えるとどう解釈してもそうゆう事になるじゃないか。

 

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「あ……、やっぱりそうなんだ……。薄々そうじゃないかなーとか感じてたんだけど……、トーヤや藤に言われた時は思わず気付いてない振りしちゃったけど……、てゆうかどうして?」

 

 そう言って、三浦さんは俺の顔を下から覗き込む。

 この人の顔をこんなに間近で見た事が無かったから思わず視線を逸らしてしまう。

 それにしても、この人は、自分がどんだけ美形かって事、多分意識してないんだろうな。

 トーヤさんの話じゃ、湘南のヤツらは三浦さんの事「美少年くん」とか呼んでるって話だし。この分じゃ他の学校でも何て言われてるか。

 

 男から見ても 美形だって思わせるその容姿は相当なものだよなって思うけど……あの口振りじゃ多分、本人はあまり気に入ってないんだろうな。

 ……て、根本的に、そこが原因のひとつだし、出会いがアレだったからってのもあるし……そんなに深く追及してないでくれよ。

 

 俺だって今気付いたばっかりなんだから。

 

 すっげー恥ずかしいんだから。

 

 

「どうしてって……、そもそもあんたの3Pシュートがいけないんだよ。んで、あんたがそんなに華奢だからいけないっての!まったくさぁ、俺、どのポジションでも出来るはずなのに……あんたが目の前チラついてどうしようもないだよ……こんなの認めたくないけどさ」

 

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「後輩に慕われるってのも悪くないね、」

 

「は?」

 

「実はね、榎って昔の僕にそっくりなんだよね。だから何となく気にかかるってゆうか。1年生のみんなが僕の事、心が広いって言ってたけど……僕は めっちゃ心狭いんだよ?ただ、榎のは昔の僕を見てるようで受け流せちゃってただけで。僕が間違っていなければの話だけど、榎、実は試合中に励ましてくれたりしてるよね。1年生たちには誤解されてるけどさ、榎って優しいよね。……うーん、こんな心境になれたのも藤に感謝しなきゃいけないのかな、」

 

「……て、ちょっと、なんであんたはいつもそうなんだよ?! ……て、別にいいけどさ。 てか、そんなに後輩に慕われたいなら、」

 

 バカか俺?次にとんでもない事を言おうとしてるぞ。

 言うなよ、絶対言っちゃダメだ……!

 絶対後悔するぞ、俺!

 後戻り出来なくなるんだからな!

 俺の意思とは裏腹に、言葉は躊躇なく形になろうとしている。

 

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「 ずっとあんたの後追って行くからな……!」

 

 人間、開き直ると自分で自分が制御出来なくなるらしい。

 先刻から俺は普段なら死んでも言わないだろう言葉を連発してる。

 正直、怖えーよ、どうするつもりなんだよ、俺?

 

 

「追ってきたいなら、どうぞ?」

 

 ガキの戯言だとでも思っているのか、三浦さんは……俺がこんな異常な状態なのに三浦さんはいつもと変わらず飄々と受け流す。

 そして俺はと言えば、わかっているのにムキになるのだ。

 

「あ、本気にしてねーな! 俺は本気だからな。大学だって何処だって、追いかけてくからな。覚悟しとけよ!」

 

 三浦さんは俺には初めて見せる笑顔で、俺の宣言を聞くのみだった。

 それはまるで、できるもんならやってみろ、と無言でいってるかのようだった。

 だから俺はムキになってしまって後に引けなくなる。

 ちくしょう、どうしてくれんだよ、あんたの所為で色々、本当にもう色々、滅茶苦茶だ。

 成り行きで普段だったら絶対口にしない事まで言っちゃったけど……もやもやの正体だって殆ど事故の様な感じで気付いちゃったけど、多分、だからといって早々変われるものじゃないよな。

 

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 これからだって、俺は多分、事ある毎に三浦さんに絡むだろうし、三浦さんは今まで通り軽く受け流すだろうし。

 世間から見たら、2年の差なんて大した事ないんだろうけど、学生の、それこそ今現在の2年の差はすっげー大きな、絶望的な差だよ。

 

 もしも、あり得ないけどもしも俺が三浦さんと同級だったら……もうちょっと違った接し方をしてるのだろうか。

 例えば石井先輩のポジションとか。それよりも藤原さんのポジションだとか。

 後輩なんかじゃなく対等な友人って関係になれたのだろうか。

 

 いくらそんな事を妄想しても、現実は三浦さんのが2年先輩で俺は憧れる事しか出来ずに友人とか親友とかにはなれなくて、そして三浦さんと同じコートに立ってプレイ出来る事も多分もう無い。

 否応にも三浦さん達3年は引退し、早ければウィンターカップはトーヤさんと使えねぇ1年しかいない新体制のチームに移行するだろう。

 

 ちくしょう、こうなったら何が何でも絶対三浦さんの後を追っかけてってやるからな。

 大学だって就職先だってしつこく追いかけてやる。

 俺は有言実行の人間なんだからな。首を洗って待ってろよ!

 

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 ……あーあ、何で俺はこの人の後輩なんだろう。

 

 てか、何でこんな事になってんだろ……。

 

 

 

 全てはあの時、あの時間、あの場所で見た、これ以上は無いと言うほど綺麗な シュートフォームの所為だ。

 ……と、思う。

 

 

 

END.

 

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2006.7

衝動に駆られ、勢い任せに初めて書いた榎蘭妄想文でした。

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