君の名を呼ぶ 3章 修正版
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重く感じる瞼を開いてみれば、目に映った天井は久しぶりに思えた

 

『そっか、フランチェスカに帰ってきたのか…』

どうやら別の世界に飛ばされるのでは無く、元の世界に戻ってきたらしい

 

もう一度目を閉じる

…どうやら向こうの世界を忘れてる、って事は無いみたいだ

 

 

どうやら横になっていたらしく、ベッドから身を起こし軽い伸びをする

ふと目に映った窓から夕焼けが黒に塗り変えられようとしていたのが見えた

 

その空を見て真っ先に霞の顔が思い浮かんだのは気のせいなんかじゃ無い

 

優劣なんてつけるべきじゃ無い

いやまぁ、華琳辺りは一番じゃ無いと言ったら怒りそうだけど

 

 

それでも霞が真っ先に思い浮かんだのはきっと俺の中で霞が特別、だから

別れ際の約束もあるから、って言うのもあるんだろうけどそれだけじゃきっと無い

 

うん、俺と霞はきっと似ているだろうから

何処が?なんて聞かれると返答に困るのだけど、そう思う

 

そこまで考えて俺は小さく笑う

俺がすべき事はもう決まっているのだから

 

なら今ここで考える事に時間を使うより行動に移す方がいいだろう

 

「きっと帰る…、出来るだけ早い目にするからさ…

 待っててくれよ?」

 

口からでたのは大きな願いと強い誓い

 

誰かが聞いた訳じゃない

 

自分に言い聞かせて俺は部屋を後にした

 

 

これが俺が誓いを立てた一年間の話

向こうに帰るために走り始めた俺の物語

 

 

真・恋姫無双 魏伝 〜君の名を呼ぶ〜

 

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こっちに戻って最初に驚いたのは時間の進み方だ

向こうで過ごした時間はこっちにとって数時間でしかない

だから…、俺はひたすらに走り続けた

 

「かずピー、今日こそは暇やんな?暇やろ?

 暇って言わへんかったらワイの…」

 

「うるさいぞ…、及川

 悪いけど今日もパスだ」

 

「痛ぁぁ!?ちょ、かずぴー?木刀は反則や!!」

 

持っていた木刀で及川を軽く叩き、胴着を外す

 

一年、なんて時間はあっという間だ

剣術の練習に励み、勉学に励み、向こうに戻る術を探すのに励み…

 

ゴールの見えないマラソンを走り始めて、気がついたら一年が経っていた

じいちゃんに頭を下げて「剣術を教えてください」と言って「…一刀、お前頭でも打ったか?」なんて言われたのや、先生に分からない所を聞きに言って「北郷、一体どうしたんだ?」なんて言われたのも今じゃいい思い出だ…

 

言うならば、がむしゃらだった

 

「…かずピー最近そればっかやん

 この間も、その前も、ずっと前もパスやん…」

 

そのがむしゃらだった中で友達と遊んだのは両手の指で数えれる程度 

 

俺にとって走り続けたこの一年は有意義だったと言えるけど、友人にとってはどうだったのだろうか?

 

一年前まで皆で馬鹿やって、笑って過ごして…

それが当たり前だったのに、それが急に変わって…

 

皆はどう思っているのだろう…

いきなり付き合いの悪くなった俺に何を感じているのだろうか…

 

俺がこんな事を考えてるっていうのにこいつ、及川は…

 

「しゃあないから今日も諦めるけど今度こそワイの〜ナンパ無双 あの子もこの子もワイの嫁〜計画に付き合ってもらうからな?」

 

以前と何も変わらず俺に接していてくれる

 

…こうゆう親友の存在には本当に救われる

 

「何だよ、その計画!?

 そんな計画捨てちまえ!!」

 

口には出してやんないけど、ありがとな…及川

 

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あの後、及川の誘いを更に丁重に断り俺は部屋に戻って来ていた

机とベッドと勉強道具にテレビにオーディオがあるだけの何も無い部屋

その部屋の机の上に置かれたのは少量のつまみと酒瓶

 

いつかみたいに蝋燭は用意してはいないけど十分だろう

 

向こうで当たり前のように飲んでいたせいか、時々飲みたくなる時がある

まぁ今日は今までの報告もしようかなぁ〜、とかも思ってる

 

聞く奴がいる訳じゃないし、言わなくちゃならない訳でも無い

 

…全部ただの思いつきだ

 

 

ちなみに酒はじいちゃんの道場からくすね…頂いた物だ

 

 

「ちょっと長くなるかも知れないからさ、気長に聞いてくれよ」

 

そして俺が始めた話は、大陸から…

 

霞の前から消えて帰ってきてからの一年の物語

 

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『俺に剣術を教えて欲しいんだ』

 

帰ってきて一番にしたことは、じいちゃんに剣術を習う事

 

戦争が終わった以上、誰かに勝つための力なんて必要無い

けれど本当は悔しかった

 

ただただ守られるのが、後ろで見ることしか出来なかったのが不甲斐無くて

 

だから今度は守れるように

自分だけじゃ無くて、彼女達も守れるように

 

そんな俺を見て最初こそ困惑していたじいちゃんも

 

『力を求める理由は分からんがお前が望むのなら教えてやる

 じゃがワシの剣を教えるつもりは無い

 お前はお前だけの、北郷一刀の剣を見つけろ』

 

なんておっしゃた

 

 

剣術は凶器だ、例え木刀でも間違えれば簡単に命を奪う

勿論、じいちゃんの剣…と言うか北郷の剣もそれだ

 

けど俺が目指す剣は奪うのでは無く守る

勝つための剣じゃ無くて負けないための剣

 

だからじいちゃんは言った

‘ワシの剣を教えるつもりは無い’と

 

後にどうして分かったのか聞いてみると、じいちゃん曰く、『お前の目がそう語っていた』だそうだ

そんな事が分かるのはじいちゃんぐらいだろうけど、俺はこの人の孫で良かった

今はまだ返せないけれどいつか必ずこの人に恩を返せれるぐらいに強くなろう

 

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次にしたのがそっちに戻る為の術を探しだすこと

こっちは教えてくれる人もいなければ、手がかりもない

 

まさにゼロからのスタートだ

 

三国志について書かれている本は片っ端から読んだし、時間があれば県外にも出てった

 

…けれど戻る術は見つからないままだった

かと言って諦める訳にはいかない

 

守りたい約束がある

守らなくちゃいけない約束がある

 

 

だから、考えて、考えて…無い頭を振り絞って出たのが華琳だった

俺があの大陸に遣わされ、与えられた役目が華琳の願いを叶えるためだと仮定するなら

その願いを叶えた俺は役目を終え、あの世界から消えた

 

だとすれば華琳が願ってくれればいい

 

俺が、天の御遣いが…、俺が必要なんだと

 

けどまぁあの華琳がそんなことを言う訳もないだろうし、結局戻れる方法は見つかっていない

 

 

うん、まぁそんな感じかな

 

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「じいちゃんとの修行で分かった事なんだけどさ

 俺の努力はまだまだ足りないみたいなんだよな〜」

 

一年という時間で俺もちょっとは強くなった……筈

けれど未だにじいちゃんからの撃を耐え切ることは出来ずにいた

 

それどころか未だに気絶しないで修行を終えた回数なんてこれッぽちも無い

 

「けど焦らずじっくり鍛えるよ

 …いや、焦らなくちゃいけないんだけどさ」

 

このままじゃ皆を守るなんて夢のまた夢

まぁ努力はするけどさ

 

「ありゃ、酒が切れたか」

 

そんなに飲んだつもりはなかったのだけどいつの間にか飲みきってしまったらしい

まぁたまに飲んでいたからそんなに量は無かったか

 

結構強くなったか?、なんて思いつつもう一本あけようとした時

 

ーーいつまで待たせるねん阿呆ぅ…ーー

 

部屋に俺のじゃない声が響いた

 

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居る筈が無い 分かってる

けれど姿を探してしまう

 

聞こえた声は愛しい人の声で

ずっと聞きたくてやまなかった声

 

でも霞がこの世界に居る筈が無い

今のは空耳かなにかに違いない

 

ーー一刀に逢いたいねんッ…!!ーー

 

「俺だって逢いたいよ…」

 

気付けば俺の口からはそんな言葉が出ていた

空耳だっていい 幻聴でも構わない

 

今は…この声をまだ聞いていたいから

 

ーーなぁ、ホンマに約束守れるん?

     ちゃんと頑張ってんの?−−

 

「頑張ってるし、約束は守るって」

 

ーーせやけど待たせすぎや、そんなん信じれると思てんの?ーー

 

「うっ…、面目ナイデス… けど絶対に帰るから」

 

ーー…ホンマに?ーー

 

「ホンマにほんま、必ず大陸に、霞の元に帰るからさ」

 

ーー…しゃーないからもうちょっとだけ待っといたるわーー

 

「あぁ、直ぐに帰るから…」

 

だから

 

「俺のこと、忘れないでくれよ…?」

 

それ以降霞の声は聞こえてこなかったけど、十分だ

 

俺はまだ頑張れる、約束…守らなくちゃだもんな…

 

その為にももう一度汗を流そうと立ち上がった時

 

‘ぐにゃり’と視界が歪んだ

 

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気がついたらそこは真っ白い空間だった

白に染められた空間には何も無い

 

立っているのか倒れているのか

歩いてみるけど進んでいるのかも分からない

 

始まりも終わりも分からない、そんな場所

 

 

その中でぽつんと異彩を放っている場所があった

 

…俺はあの色を知っている

どこかで…見かけた…事が…

 

「…!?霞ッッ!」

 

その場所で横たわってる霞の姿を見た瞬間、俺は駆けていた

 

此処がどこかだなんてどうでもいい

霞がそこに居る 俺はまた逢う事ができたんだ

 

…もうすぐ霞が居る所にたどり着ける…

 

「…ッう!?…何だよ、コレ」

 

けれど俺が霞の居る場所には行くことができなかった

俺の目には映らない何か、それで思いっきり顔面を強打した

 

「どうなってるんだ?…霞?霞!?」

 

その場に倒れている霞の名を呼ぶ

しばらく呼びかけていると霞の体が僅かに動いた

 

「…此処は一体…?

 ……かず…と…?一刀ッッ!!」

 

起き上がった霞は周りを見渡し、…俺を見つけてくれた

霞の声が聞こえるってことは声は届くらしい

 

「って、霞!?ちょっと待っ…」

俺の制止もむなしく、俺と同じように駆け出した霞は同じように何かにぶつかった

 

「痛ったぁ〜…、これ何やねん一刀!!」

 

「俺にもわからない…

 大丈夫か?」

 

「大丈夫やけど先に何かあるって言わんかい!」

 

「言ったのに聞かなかったのはそっちだろ!?

 何で俺のせい!?」

 

そうして始まった口論

…さっきまでのシリアスは一体何処に?

 

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あーだ、こーだと言い争ってようやく現状分析しだした俺たち

 

此処が何処か分からない

帰り方なんてもってのほか

どうして此処に居るのかも分からない

 

唯一わかっているのは

 

「この見えへん何かが邪魔っちゅうことやな」

 

俺と霞の間にある見えない何かが邪魔だってことだ

 

「一刀、ちょっと離れとき

 こんなんウチがぶっ壊すさか」

 

そう言って自分の得物を何処からともなく取り出す霞

霞といい、華琳といいどこから出しているのか不思議ではあるが…

 

今は置いておこう

 

「いくでぇ!!

 はあぁぁぁぁぁ!!」

 

霞の方に目を戻すと堰月刀を振りかぶろうとしている姿が移った

 

 

そして堰月刀と見えない何かがぶつかる瞬間

 

ーー止めておけーー

 

何処からか制止の声がかかった

 

俺と霞は周りを見渡すけれど此処には俺と霞の二人だけ

 

ーーそれが何か、知っておるのか北郷一刀?ーー

 

それでも声は聞こえてくる

 

「…知らないし分からない…

 それよりどうして俺の名前を知ってるんだ?」

 

ーーお前さんは有名人じゃからのうーー

 

「アンタ、一体何者やねん?」

 

ーーワシの事は放っておけ張遼よ…

  それよりそれが何なのか知りたくは無いか?−−

 

俺や霞のことも知っていて、更にこの見えないモノについても知っているらしい

 

「…なら教えてくれ、コレが何なのか」

 

誰かも分からないし、信じれるかどうかもわからない

けれど今は少しでも情報が欲しい

 

ーーそれはな、境界線じゃよーー

 

「境界…線…?」

 

ーー左様、言うてみればお主とそこの張遼は異なる世界の住人じゃ

  それを区切るのがその境界線

  …確かにそれを壊せばもう一度張遼の世界に行けるが、それきりじゃ

  二度とお主は戻れまいてーー

 

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コレを壊せば俺はもう二度と戻れない、か…

 

ーー今ならまだ戻れるが、どうする北郷一刀よーー

 

途端白い空間黄色の光が輝きだした

あれは俺の世界、まぁ天の国に繋がっているのだろう

 

 

けれど、ようやく霞と逢えたのに…

皆の下に帰れると思ったのに…

 

そんな時答えを出せないでいる俺に

 

「何迷てんねん、早よ帰りぃや」

 

「…え?」

 

霞の声が聞こえた

 

「え?、やあらへんやろ…

 向こうには家族も居んねろ?

 だったら何を迷うねん」

 

だから…、と

 

「自分の国に帰り…

 華琳たちには黙っといたるさかいに…」

 

そう言って無理に笑顔を作った後、霞は俺に背を向けた

 

ーー張遼はこう言っておるが、…どうするのじゃ?ーー

 

何かが聞こえたけれど、俺は霞の後ろ姿をみていた

…かすかに震えているその後ろ姿を…

 

…また俺は繰り返すのか、過ちを?

…また俺は霞を傷つけるのか?

 

俺はまた約束を破るのか…?

 

「…ざ……なよ…」

 

誓ったんだろう、絶対に守ると

その為に一年間頑張ったんだろ…?

 

「ふざけんなよ、この馬鹿霞!」

 

「……へ…?」

 

「確かに俺の世界には父さんが居て、母さんが居て

 じいちゃんが居て、大切な友だっている!

 伝えたい言葉だっていくらでもあるさ!!」

 

「…や、やったら尚更…」

 

「けどな、そっちにだって家族は居る

 絆で…結ばれた家族がいるんだよ…」

 

「そ、そんなんホンマもんに比べたら…」

 

「…けどな、父さんたちに二度と会えなくなるって言われても…

 霞のそんな辛そうな顔なんか見たくないんだよ…」

 

‘ピキッ’と音が鳴り空間に亀裂が走った

 

「頼むからさ、そんな顔しないでくれよ…」

きっともう境界線は無くなっただろう

俺はゆっくりと霞に向かって歩き出す

 

ーー成る程、それがお主の選択かーー

 

「あぁ、アンタには悪いけどな」

 

ーー後悔はーー

 

「今さっき言っただろう?

 結構恥ずかしいから何度も言わさせないでくれ…」

 

ーーそうか、お主の選択しかと見届けた 往くがよいー

 

「全く、なんて顔してんだか…」

 

俺はそう言って霞を抱きしめる

 

 

‘ただいま、霞…’

 

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「……ん?…かず…と…?」

 

ウチが目を覚ますとそこはさっきまで飲んでた小川やった

どうやらいつの間にか寝てしもてたらしい

 

軽く周りを見渡すけど、やっぱり一刀は何処にも居らん

 

やっぱりさっきのは夢やったらしい

まぁ当たり前言うたら当たり前やけど

 

…せやけど嬉しかった

一刀の言葉が、選択が

 

例え夢やったとしてもそれでもウチは満たされた

 

 

「ありがと…、一刀…」

 

「どういたしまして

 …けどお礼言われる事した覚えは無いけど?」

 

不意に聞こえた声にウチは直ぐ正面を向いた

そこにはさっきは居らんかった姿があって

 

「おはよう、霞…」

 

「さっきのは、夢と違たん?」

 

「どうだろうな…

 まぁでも此処に居るって事は現実だろうな」

 

「…ホンマに一刀?」

 

「俺の偽者が居るって話は聞いたことないけど?」

 

「実は夢が続いてるって事は…?」

 

「俺はちゃんと此処に居るから…」

 

「待たせすぎや、アホ…」

 

「ごめん、でもちゃんと約束守った…ッ!?」

 

一刀に飛びついて唇を合わせる

 

…一年越しの口付けは少しすっぱい感じがした

 

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〜あとがき〜

 

今書いてある章で一番この章が難しい気がする作者です

 

 

一刀君視点ですが一刀のキャラあってるのかどうか不安です

今回もまぁかなりの修正・加筆を行いましたが正直に言って修正前と修正後

…どちらが読みやすかったでしょうか?

感想いただけるとありがたいです…

 

 

さて話は変わりますが以前4章を投稿したときは前と後ろに分けるつもりだったのですが、

今回は併せちゃいます!!

 

ですのでもしかしたら最長ページいくかもしれませんし、修正などでページが減ったりするかもしれませんが次回もよろしくお願いします

 

 

説明
「雪が、雪が降るぞ〜!!」とか言いつつ降ったのは雨


まぁ最初から期待などしていないがwww
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コメント
再会のシーンはいいっすね。次回も期待してます(VVV計画の被験者)
おっ、おろろ〜ん・・・再会って、いいーですよね、うん・・・ 続きお待ちしております(よーぜふ)
変わっているところがまた別の感情を表せてくれます。これからも更新頑張ってください(名無し)
タグ
真・恋姫無双  一刀 

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