ポケットモンスターNovels 第7話 |
マーズ『この世界の裏側には、時空の捩れたもうひとつの世界が存在する
――そして、その裏側の世界にはギラティナが棲んでいる
ギラティナに関しては様々な研究が進められていたのだけれど
ここ最近になって、古代文明の遺産、石碑が発見されたの
そこにはディアルガ、パルキア、ギラティナの誕生が描かれていた
神と呼ばれる伝説のポケモン、ディアルガとパルキア
ギラティナはディアルガ、パルキアと同時に生まれたけど、狂暴だった為にこの世界から追放されて、歴史からも姿を消されて……
だから、シンオウ地方に伝わる神話でもほとんど語られる事がない
数少ない残された資料によれば……
世界が生まれて間もない、時空が安定していない時代に、世界の裏から時空を補完し安定させる…影の役割を担うようになった
と、ここまでは、みんな知っている事よね
……本題はこれから
ここ数ヶ月のところ、シンオウ各地で超常現象が起こっているのは知ってるわよね?
「人語を話すポケモン」も、これら一連の事象に関連性があると見てまず間違いないわ
それで、その原因なんだけど
ギラティナが、表の世界……つまり、私たちの今いるこの世界に顕現しようとしている為に、世界に歪みが生まれて崩壊しようとしているのよ
まぁ、これは専門家たちによるただの推測なんだけどね
簡単に言えば、人類滅亡の危機って訳
全ては終わり、新たなはじまりを迎える…ってね
きゃー怖いー、とか、嘘くさぁ、じゃ済まないのよね、実際
超常現象の多発だけじゃない
各地方で、伝説と言い伝えられるポケモンが突如出現したとの報告もあるわ
カントーでは三鳥
ジョウトでは守護獣
ホウエンでもつがいの龍が頻繁に目撃されているそうだし
まあ、けっこう深刻な事態っていうわけね
ギラティナがこの表の世界に完全に顕現した時、世界はバランスを失って砕け散る
各地方団体や神官に僧、リーグチャンピオン、四天王やジムリーダーもこの事態を察知して
ギラティナの顕現を阻止する為の、ギラティナに対抗する為の力を募っているわ
勿論あくまでも極秘裏に、ね
まぁ混乱は避けたいでしょうから、当然と言えば当然なんだけれども
ふふん、まぁ、その辺りの事についてはもっと詳しいでしょう人がそこにいるから、じっくり聞く事ね
ねぇ?
キッサキシティのジムリーダーさん
……え?
あなたたち、まさか知らなかったの?
ふふっ、
へぇ、ふぅん……
酷いジムリーダーもいたものねぇ、友達にこんな大事なことを隠しているなんてねぇ?
ジムリーダーの、スズナ
キッサキシティのダイヤモンドダストガールと言えば有名よねぇ
まぁ私も昨日知ったのだけれど…道理で貴女たちがマークされるはずだわ
ギラティナを制圧しようとするジムリーダー様の御一行だものねぇ
私たちギンガ団にしても、ロケット団の連中にしても、とってもとっても鬱陶しい目障りな事この上ない存在だわ
……ふん
無駄話をするのも、これまでね
次にあった時はおそらく敵
迷いなく倒すから、その時は素直に諦めてね
あははっ、それにしても、本当に面白いわ
秘密を隠し続けていたなんて、良い友達もいたものねぇ
あははは』
*
マーズが立ち去った後。
場には私とカイリと、スズナが残される。
カイリ『……大方予想はしていたがな』
カイリの言葉は刺々しく、瞳は厳しくスズナを見つめていた。
スズナは何も言わない。
ただ、俯いて、立ち尽くしていた。
嫌な空気が漂う。
カイリもそれ以上は言及しようとしなかった。
私は、意を決してスズナに問い掛けた。
マキナ『スズナが、私に声を掛けたのは、ギラティナと戦う為に』
スズナ『違う! それは違うよ…!』
私が言い終わる前。スズナが悲痛な声をあげた。
スズナ『たしかに、最初はその、』
スズナの眼が泳いだ。
弱気になってる。
私に黙っていた事を後ろめたく感じていたのだろう。
なんで、先に話してくれなかったんだよ。
スズナ『ギラティナと戦う為に強そうな人をって、そう思って、色んな人を見ていて、』
ひとつひとつ適切な単語を探るように、確かめるように。
少しずつ言葉を紡いで。
スズナ『皆似たり寄ったりで、誰でも大して変わらないんじゃないかって思いはじめてて……、』
スズナはあくまで素直に、真摯に。
その姿に、普段スズナの見せる覇気は全く感じられなかった。
スズナ『そんな時、モンスターボールを愛しそうに握り締めるマキナを見つけて、』
……うん
スズナ『直感だけど、ポケモンが本当に好きなんだって、』
――スズナはそこまで言うと、真っ直ぐに私を見つめた。
その眼は、透き通っていて。
スズナ『私が貴女に声を掛けたのは、バトルを申し込んだのは、』
スズナは静かに目を伏せた。
スズナ『本当に、マキナと友達になりたいって思ったから、だから……!』
マキナ『ねぇスズナ』
スズナ『……うん』
スズナが息をのんで私を見た。
――よし。
私は全力で笑顔を作る。
と、スズナが目を丸くして驚いた。
その間にゆっくり歩いてスズナの後ろに回り込んで。
バチーン!
おぉ、良い音したな。
思い切り背中を叩いてやった。
スズナは前のめりに倒れ、手をつく。
スズナ『……え? え、えぇ?』
って、ちょっとやりすぎたか。
スズナは頭の上にハテナマークを浮かべて、捨てられた仔犬のような目で私を見ている。
マキナ『あのさスズナ。ギラティナの件が解決したら、正式にバッジを賭けて勝負してよね』
スズナ『へ?』
マキナ『カイリはどうする?よく考えたら、一緒にいる理由とか特に無い感じだけど』
突然振られたカイリは、あん?と微妙な顔をするが、数秒、察してくれたようで、口ごもりながら話す。
カイリ『ふん、姉上ならばスズナを手伝うだろう。たとえ断られようともな。……僕もだ』
スズナ『え、ちょ、、え?』
マキナ『まぁそういう事だよ。…3人でささっと終わらせたら、私のリーグ挑戦に付き合ってね』
私はぐっ、と親指を立てて見せた。
カイリ『それは嫌だ』
マキナ『なんで!』
カイリ『面倒くさい』
ちくしょうこのやろう。
マキナ『可愛くないやつ』
カイリ『光栄だ』
と、私とカイリのやりとりを見ていたスズナが笑い出す。
うん。辛気臭いのは嫌だもんね。
スズナが笑ってくれて、良かった。
スズナ『ありがとう……マキナ、カイリ』
マキナ『あははっ、黙ってた事に関しては森を抜けてからゆっくりたっぷりとね』
にこっ、と笑顔。
カイリ『勘弁してやれ』
ため息がちにカイリが呟く。
マキナ『だーめ』
こういう事はちゃんと話し合わないとね。
そりゃあもう二度と立ち直れないくらいに、黙ってた事を全力で後悔させてあげないと。
にこっ。
今まで散々やってくれたんだ。この機会にきっちり仕返しをしておこう。
さぁて、そうと決まれば早く森を出ないとね。
こんな洋館にもう用はないし。
待てよ?
何か、忘れてるような。
スズナ『そういえば、モミさんは?』
それだ。
さっきまで一緒にいたモミさんの姿が見えない。
カイリ『彼女なら、何故か慌てて出て行ったみたいだけど………………!?』
急にカイリの表情が凍る。
マキナ『何、どうしたの? まさかまた幽霊でも見たなんて………………!?』
振り返ると、そこにはおじいさんと女の子が並んで立っていた。
いや、立っていたという表現は正しくない。
何故ならその2人は宙に浮いていて。
その姿が、
なんだ、その、
その姿が、透けていた。
『あ。良かった、ようやく気付いてくれました』
女の子は明るく笑う。
『お話の邪魔をしてはいけないと思いましたので』
老人は軽く会釈した。
『ゴーストポケモン達を追い払っていただいて、ありがとうございます。これで静かに眠る事が出来ます』
『わたくしからもお礼を言わせていただきます。本当に、ありがとうございました』
おじいさんと女の子は、揃って、深々と頭を下げた。
そのまま2人の姿は、スッ……と、
消えた。
スズナ『……』
カイリ『……』
マキナ『……』
スズナ『い、嫌ぁああぁぁぁぁあああああああああああぁッ!!』
カイリ『…………ッ!!』
マキナ『ぎゃあぁぁぁぁあああぁああああぁぁぁああああああぁッ!!』
――そうか。
だからモミさんは逃げ出したのか。
私たちが話し込んでいて気付かない間に。
あ。
羊羹も、ひょっとして。
*
それにしても、あのカイリが姉の安否より、世界の真相を知る事を優先するなんてねぇ。
まぁ、聞かれても絶対に教えてあげないってわかっていたのかもしれないけれど。
数年前までは、本当に、姉の幸せしか考えてなかったのに。
でも、何もわかってないわ。
ギンガ団を舐めていると痛い目に遇うって、いつかきっと教えてあげる。
ふふ、ふふふ、
『随分と、楽しそうですね』
!
突然、背後から声をかけられた。
そこにいたのは、モミ。
マーズ『びっくりさせないで』
私が、ここまで近付かれて気付かなかったなんて。
いくら油断していたとはいえ、背後を取られるなんて。
モミ『あら、全然驚いてなかったように見えましたけど?』
驚くわよ。
このマーズ様がこんなにあっさり出し抜かれるなんて恥だわ。
マーズ『あのねぇ。次やったら覚えてなさいよ』
モミ『あらごめんなさい。気を付けますわ』
喰えない奴。
マーズ『そういえば、報酬がまだだったわね』
情報収集を依頼したのはいいけど、ふっかけてくるのよね。
まぁ、目的の為なら多少の出費なんて気にしていられないんだけど。
モミ『そうですわね。これくらいで手を打ちましょう』
と、モミは指を3本立てた。
この女。
マーズ『小切手で良いわね』
あくまで冷静に、狼狽えないように。
紙切れを差し出すように、何でもない事のように。
モミ『ありがとうございます。私は引き続いて諜報に行きますわ』
モミは満足げに笑って言う。
マーズ『えぇ、お願い』
――まだ、やる事は多そうね。
あたしの動かせる兵士も少ないっていうのに。
ギンガ団全体が苦しい現状、あたしも弱音は吐いていられないけどさ。
サターンやジュピターも限られた手勢で踏ん張ってるし。
あいつらに負けるつもりはないわ。
取り敢えず、嗅ぎ回ってるやつらを先に片付けた方が、、
……その前に、まずアカギ様に今回の件を報告をしないといけないわね。
マーズ『……はぁ』
一旦、帰還した方が良さそうね。
*
やっと、森を抜けた。
あれからモミさんを見かけなかったけど、どこに行ったんだろう?
ハクタイの森はけっこうポケモンも多いし、危なかったのに。
いや、でも洋館まで一人で行けるって事はそれなりのポケモントレーナーなんだろうか。
そういえばジムリーダーのナタネさんとも知り合いみたいだったし。
うん。実は強いのかもしれない。
と、カイリが足を止めた。
カイリ『町に着いたら、僕は一旦別行動させてもらう』
マキナ『ん? どうして?』
今までそんな話はしてなかった筈だ。
カイリ『強いトレーナーが必要なんだろう? 僕に少しあてがある』
あれ?
カイリ、意外と乗り気じゃん。
カイリ『勘違いするなよ! 僕はただ姉上を護りたいだけだ』
うっわぁ、可愛いなこいつ。
マキナ『はは』
カイリ『何故そこで笑う』
いや、だって、ねぇ。
スズナに視線を向けると、スズナも苦笑する。
カイリ『先に行く』
カイリは吐き捨てるように言って、私達に背を向けて早足に歩き出した。
マキナ『いやいやいやちょっと待て』
飛び付いてカイリの脚に両腕を巻き付けるが、カイリは気にした様子もなく歩き続ける。
スズナは鼻歌を歌いながら、同じように隣を早足でとことこ。
私は地べたをズルズル。
マキナ『ねーカイリー』
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
マキナ『聞こえてるかな? 聞こえてるよね?』
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズル。
ズルズルズルズルズルズルズルズル。
ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル。
ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル。
ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル。
ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル。
ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル。
ズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル。
カイリ『……』
うわー絶対に止まるつもりない感じだよねー。
っていうか何これ。
なんか似たような事が前にもあったような気がする。
あー、なんて言うのかな、アレ、なんだっけ?
えーと……
スズナ『デジャヴュ?』
あ、それ。
マキナ『カイリの変態っ! 乙女の心を読むなんて…っ!』
カイリ『僕が言ったんじゃない!? …っ、というか全部声に出てるんだよお前は!』
てへ☆
マキナ『ねーカイリーいい加減に止まらないと脚の骨』
ビタンッ
↑突然カイリが止まって顔が鼻から地面と接触した音。
スズナ『あ』
マキナ『……』
カイリ『……………………………………………………………すまない』
ちくしょうこのやろう。
前は雪だったけど、土か、土かよ、、
マキナ『もー全部カイリのせいだ! 馬鹿馬鹿治療費払え馬鹿ー! 顔に傷が残りでもしたらどう責任取ってくれるんだよもうお嫁に行けない!』
言ってる間スズナが可哀想な人を見るような目をしていた気がするけど気にしない。
カイリ『っ、こっちが下手に出れば好き勝手に言いたい放題と! 何が治療費だ馬鹿かお前は!』
ってめ、人を頭の悪い子みたいに!
マキナ『あーまた馬鹿って言った! 暴言吐いたんだから慰謝料も払ってよねこの馬鹿カイリ!』
スズナ『なんか、平和だねー』
ポツリ、とスズナが呟く。
マキナ『和むなっ』
カイリ『和むな!』
……ハモった。
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