真説・恋姫演技 〜北朝伝〜 第四章・序幕
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 「それじゃあお二人とも、俺たちに力を貸してくれるんですね?」

 

 『はい』

 

 南皮城、その玉座の間。今、玉座に座る一刀の前に、張?と高覧の二人が、揃って跪いて一刀に対し臣下の礼をとっていた。

 

 この地から袁紹を追放してはや一月。

 

 その間、今後の自分たちの態度を中々決めあぐねていた、張?と高覧の二人であったが、一刀たちの尽力によって、見る見るうちに活気を取り戻していく、南皮の街の人々を見ているうちに、自分たちもその輪に加わりたいと思うようになっていった。

 

 さらに、政務の合間を縫って、頻繁に街中へと出ては人々と気さくに話し、どんな小さなことにも真剣に対応し、自らすすんで奔走する一刀の姿に、二人は完全に惹かれていった。

 

 旧主である袁紹への義理とか、後ろめたさみたいなものは、いまだ二人の中にくすぶってはいる。だが、旧友であり、今は隠居生活を行っている荀ェと、茶飲み話をしていたとき、その彼女からこう言われたのである。

 

 「……あんたら、相変わらず馬鹿よね。……どうせ脳みそ足りていないんだから、考えるだけ時間の無駄でしょうが。……下手の考え休むに似たり。……やりたいようにすればいいじゃない」

 

 と、相も変らぬ、口の悪さで。

 

 その言い方に少々腹の立った二人ではあったが、この、猫耳のついたパーカーを着た少女は、こういう言い方しか出来ないことを、二人はよく知っている。その言葉の裏には、本気で相手のことを考えている、彼女の真剣な想いがあることを。……そして、本気で嫌いな相手には、口すら開かないということも。

 

 そして、二人は決心した。一刀の、その正式な幕下に加わることを。その事を、この日の朝議に顔を出した二人が、一刀に申し出ていたのである。

 

 「わかりました。お二人のこと、喜んで迎え入れたいと思います。……皆、異論はないね?」

 

 「はい」

 

 「うむ。……二人とも、今後はともに頑張ろうの?」

  

 徐庶と李儒に続き、姜維、徐晃、司馬懿、華雄らも、彼女らに笑顔でうなづいて見せた。

 

 「ありがとうございます。では改めて、張?、字を儁艾。北郷殿にこれより忠誠を近い、我が真名をお預けいたします。我が真名は沙耶にございます。どうか、お受け取りのほどを」

 

 「私高覧も、北郷さまに忠義をお誓いいたします。私の真名は狭霧にございます。ぜひ、お受け取りくださいませ」

 

 「ええ、もちろん、喜んで受け取らせてもらいます。あと、俺のことは一刀と、呼んでくれていいです。俺は真名がありませんから、一刀が真名に相当すると思いますから」

 

 『はい!ありがとうございます!』

 

 一刀の笑顔に、その頬を赤く染めつつ、満面の笑顔で応える張?と高覧であった。

 

 

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 その場で二人は、李儒の正体も、仮面を外して見せた、その本人から明かされた。もちろん、とんでもない事実に衝撃を受けた二人であったが、李儒本人のその明るい笑顔と、一刀たちのその、元皇帝である人物への気軽さに、二人も幾分か、気が楽になったのを感じていた。

 

 そして、話は韓馥のことに変わった。

 

 「……結局、あやつからはたいしたことは聞き出せなんだか」

 

 「ああ。……王允から手ごまになるよう誘われた。その、俺たちの推測が当たっていた事ぐらいだよ。……またこれで、真相は闇に消えてしまったな」

 

 「ですね。……”死者”に口無し、ですから」

 

 韓馥は結局、王允の尻尾程度の存在でしかなかった。ただ、死にたくないためだけに、彼の使い走りとして、命じられたままに動いていただけだった。……真の黒幕に通じる、何がしかでも聞き出せないものかと、一刀たちは彼を尋問したのであるが、彼は本当に、何も知らなかった。

 

 そして、その翌日。

 

 韓馥は重犯罪者専用の強制労働所である、?の鉄鉱山に送られた。……のであるが、その移送途中、どこからか飛んできた一本の矢によって、その命を絶たれた。ご丁寧に毒まで仕込んであったそれにより、韓馥は悶絶しながら息絶えたという。

 

 「……それで、一刀。これから、どうするんだ?冀州はこれで、完全に我々の支配するところに成ったわけだが、積極的に、”動いて”行くのか?」

 

 徐晃がそんな質問を、厳しい表情で一刀に問いかける。冀州は確かに、一刀たちの手で平定はされた。しかし、河北だけを見ても、争いの火種となっても不思議ではない事柄が、青州や并州で起こっていた。

 

 「青州では、元・黄巾軍の者たちがいいように暴れておりますし、并州では異民族−五胡の一氏族である匈奴が、度々進入してきては好き放題に荒らして回っているとのことです」

 

 「……黄巾軍のほうは約二十万、匈奴の方は進入してきているだけでも、十五万は下らないと報告が来ています」

 

 徐庶と司馬懿が、その手に持った書簡に目を落としながら、両州の現状をそう報告する。

 

 「……幽州の方は?確か公孫賛さん……だっけ?動きは?」

 

 「情報やと、幽州もまた、異民族への対応に追われとるっちゅうことや。ただし、向こうは匈奴や無くて、烏丸やけどな」

 

 「しかも、だ。公孫賛の配下は、彼女の妹である公孫越と、文官の取りまとめ役である単経という人物だけ。……人手は、確実に足りていないだろうな」

 

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 幽州の牧に現在は就任している、公孫賛という人物。その彼女とは、以前の反董卓連合戦にて、一度だけ顔をあわせている。白馬義従と世に名高い、彼女のその白馬のみで構成された騎馬隊は、おそらく大陸でも一・二を争う、強力な戦力であろう。

 

 とはいえ、一刀の彼女に対する第一印象は、とりあえず、”普通”だった。

 

 見た目が派手というわけでもない。何か惹きつけるような、そんな魅力を感じるわけでもない。だが、将と呼べる人材がたった三人しかいないという、そんな状況にありながらも、彼女は幽州をうまく纏め上げていた。それは、並大抵の能力で出来ることではない。

 

 あらゆる面で、平均的に、高いレベルで、十分な能力を持っていなければ、そんなことは不可能である。

 

 「……人材さえ揃えば、彼女がこの大陸で、もっとも警戒すべき相手かもしれないな」

 

 「……ちょっと評価しすぎじゃないですか?」

 

 「手厳しいね、輝里は。けど、人ってのはさ、少々高く見積もるぐらいで見定めないと、後から手痛いしっぺ返しを食らうこともあるものさ。……よく知らない相手を過小評価する。それが一番怖いことだよ」

 

 そう。

 

 正史において、当時はまだ無名だった”ある人物”を軽く見たがために、最終的に死に追いやられてしまった、そんな人物がいたことを、一刀はその脳裏に思い浮かべつつ、徐庶にそう指摘した。

 

 「で?結局どうするのだ?……冀州とて、完全に落ち着いたというわけではないぞ?他方に兵を出すのは、さすがに…と思うがの」

 

 冀州−特に、平定したばかりの南皮周辺では、未だに賊が出没している。そんな状況下で、ほかの地への出兵となれば、いささか負担が大きいのではと、李儒がそう懸念を示す。

 

 「そう……だね。二兎を追うものは一兎をも得ずっていうし」

 

 結局、一刀が選んだのは無難な選択だった。?に残してきた一万の戦力はそのままにし、華雄が向こうに戻って、賈駆ら共に万一のことに備える。南皮は一刀と徐庶、李儒が張?・高覧の二人と共に政務と治安に従事。そして、青州に徐晃と姜維、司馬懿を三万の兵と共に派遣し、賊の鎮圧に当たる。数こそ多いかもしれないが、結局はまともな戦闘経験の少ない、統率も碌に取れていないであろう賊たちが相手である。さほど苦労することもないだろうとの、一同の一致した意見であった。

 

 

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 そうして一刀たちが動き出していた頃。

 

 幽州は北平城にて。

 

 幽州牧である公孫賛は、現在その頭を思い切り抱え込んで唸っていた。

 

 「う〜〜〜〜〜。……あ〜〜〜っっっ!くそっ!どうしてこうも忙しいんだあっ!?」

 

 執務室にて、思わずそう叫んでしまった、公孫賛の目の前には、これでもかというくらい大量の書類が、文字通り山積みとなっていた。

 

 「……せめて、趙雲のやつが残っててくれていたらなあ……。はあ。どうしてこう、うちには人材が集まらないんだろう……」

 

 つまりはそういうことである。徐晃が言ったとおり、公孫賛の下には、とにかく人がいなかった。妹である公孫越は、武に関してこそ信頼は置けるものの、政務となるとてんでからっきしなのである。一応、単経という文官筆頭の人物が、彼女の補佐を勤めてくれているものの、人手不足な状況に変わりはないわけである。

 

 その上、彼女にとって、ここ最近では最も頼りなっていた、客将の趙雲も、

 

 「伯珪どのに魅力を感じぬわけではない。だが、私はもっと多くの人物を見てみたい。……そのうえで、伯珪どのが主たるにふさわしいと判断したなら、また、戻ってくることもあるでしょう」

 

 そう言って、北平の地を旅立ってしまったのである。

 

 さらにさらに、である。彼女の頭を悩ませているのが、北の地の異民族である、烏丸の存在である。

 

 「……連中、最近はこちらからの話し合いには、一切応じる気配を見せやしない。……少なくとも、以前は話し合いに応じるぐらいはしてくれたのに、使者を送っても全くなしのつぶてとは」

 

 少し前。まだ彼女が北平の太守になったばかりの頃は、烏丸の族長である丘力居は、彼女らに対して好意的な態度を見せていた。たとえそれが、彼女を油断させるためのポーズであったとしても、である。

 

 「……白蓮さま、よろしゅうおますか?」

 

 「美音か。ああ、大丈夫だ、入ってくれ」

 

 そこに現れたのは、一人の女性。真っ白なその髪以外は、特に目立った特長のない、普通の文官服に身を包んでいる。

 

 彼女の名は単経。

 

 公孫賛にとっては(本〜当に)数少ない、配下のうちの一人である。

 

 「……あ〜、まだたっぷり残ってはりますな」

 

 「私一人で処理できる量なんて、たかが知れてるっての。……で、どうした?また、書類の追加か?」

 

 「いえ。……けど、悪い報告どす。……また、烏丸が動き始めたそうですえ?」

 

 「!!……またか。……水蓮は?」

 

 「もう対応するために動いてはります。……行かれますか?」

 

 「ああ。……すまんが、後は頼む」

 

 「はい。……お気をつけて」

 

 今年に入ってもう何度目か。……ほとんど毎月のように、烏丸のものたちが遼東半島へと侵攻し、その度に彼女は自ら出陣して、彼らを追い払ってきていた。そのお陰といって良いかわからないが、彼女率いる幽州軍は、文字通りの精兵ぞろいとなっている。……それもまた、皮肉な話ではあったが。

 

 彼女は今日もまた、戦場へとその身を踊らせる。……ある事を、その頭の中で、考えながら。

 

 

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 時は確実に刻まれていく。

 

 そう。

 

 人の思惑など関係なく、歴史は着実に、戦乱の時代の到来を告げ始めていた。一刻一刻、ゆっくりと、その時の針は刻まれていく。

 

 河北の騒乱。

 

 それは、一刀たちに何をもたらすのか。

 

 その先に待つは、輝きしき未来か。

 

 それとも、闇に包まれた地獄の日々か。

 

 時は何も語らない。

 

 ただ、無常に過ぎていくのみ。

 

 そして、

 

 光をもたらすもの。

 

 闇を剥ぐもの。

 

 そは、日輪。

 

 そは、太陽。

 

 そは、天。

 

 

 北郷一刀という名の、強く、そして、暖かく、すべてを包む光。

 

 

 ……多くの史家は、口を揃えて言う。

 

 

 帝国の勃興は、まさに、この時を起点とすると。

 

 河北の平定。

 

 それこそが、始まりのときであった、と。

 

 

                                  〜続く〜

 

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 といった感じの序幕でございます。

 

 輝「まずは沙耶さんと狭霧さん、正式参戦ですね」

 

 由「・・・またライバル増えた」

 

 負けたくなかったら頑張ってください。一刀が一刀である以上、増えないということはありませんから。

 

 命「わかっちゃおるけどの。・・・妾は”まだ”、手もつけてもらっとらんのに」

 

 だいじょぶ。もうちょっとだけ辛抱してくれ。

 

 命「・・・親父殿がそういうんなら、まあ、がまんはするがの」

 

 

 輝「で、新登場キャラは、公孫越さんと単経さんですか?」

 

 いーえ。越っちゃんはまだ名前だけですので、違います。

 

 由「ほな、後は荀ェはんかな?」

 

 まあ、せりふがちょこっとあっただけですがね。正式な参加はも少し後です。

 

 瑠「・・・やっぱり、桂花さんと同類ですか?」

 

 そりゃ、姉妹ですからw彼女の活躍(?)は、今後をご期待くださいませ。

 

 輝「・・・朔耶の時みたいにならないといいけど」

 

 う。

 

 

 と、とりあえず、次回予告。

 

 由「まずは青州の賊討伐に向かったうちと蒔ねえ、そしてるりるり」

 

 瑠「次回はその様子からお伝えするそうです」

 

 あわせて、ハムたちのことも少しだけ、お送りする予定です。

 

 輝「それでは次回、真説・恋姫演技 〜北朝伝〜」

 

 命「第四章・第一幕じゃ。楽しみに待っておれよ?」

 

 コメント等、いつもどおりお待ちしてます。それでは、

 

 

 『再見〜!!』

説明
みなさんこんにちは〜。

これより北朝伝、四章に突入でございます〜。

新キャラが二名登場します。

とはいえ、うち一人は、一刀のところにではありません。

誰のところかは、読んでのお楽しみに。

では、逝ってみましょうかww
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コメント
華北からの天下取りとは光武帝の再来か(Lumiere404)
mokiti1976−2010さま、所詮やつはその程度の存在ですからw ハムは・・・なるほど、彼女が残念だからじゃないんですねwww(狭乃 狼)
小物肉ダルマは小物らしい終わり方で・・・それとハムさんの所に人が少ないのはハムさんがそれこそ何でも「普通に」できてしまうからではないかと思われます。(mokiti1976-2010)
ほわちゃーなマリアさま、無理・・・じゃないでしょうか、多分w (狭乃 狼)
どんどん恋敵が増え続ける中、輝里は一刀を守り続けることが出来るのだろうか!?(ほわちゃーなマリア)
namenekoさま、頑張れ、としか言いようがないですねw 一刀が一刀である限りww(狭乃 狼)
また2人も増えたな。前からいる皆頑張れ(VVV計画の被験者)
hokuhinさま、さ、どでしょうねー?ww 烏丸もどう動いてくるやら?おたのしみに、です^^。(狭乃 狼)
この外史の白蓮は幽州から追われる事は無いかな?唯烏丸の動きが不気味だが・・・(hokuhin)
村主さま、いえいえ、十分で御座いますよw←(兵士の台詞)。 で、白蓮・・・あんだけ強烈な面子の中では、ねえ?^^。(狭乃 狼)
囚人輸送兵「かの者の末期の一言は『来世は立派な厠掃除職人になるんだ・・・』でしたw」と台詞を考えてみたり うたまるさんみたく上手くいきませんがw そして白蓮さん・・・政務・軍事等を一人でそつ無くこなせる能力は「普通」じゃないのに、やっぱなにかしら強烈なパンチあるキャラ点け無いと駄目なのかしらんw(村主7)
poyyさま、ですね、何でもやれる人ほど、重宝される人はいませんから。(狭乃 狼)
東方武神さま、言葉にはしにくいけど、なんとなく解ります。・・・つまり彼女も、十分異常だと(おw(狭乃 狼)
はりまえさま、だからこそ白蓮、とw(狭乃 狼)
よーぜふさま、応援したげてくださいw(狭乃 狼)
三悪さま、・・・(ヒクヒク#)。ネタ読まれた・・・また考え直しだな、こりゃ。てことで、削除までしませんが、先読みコメはお控えを。(狭乃 狼)
kabutoさま、由と瑠里もいますからねw あと、命にはちゃんと伝えときますw(狭乃 狼)
白蓮の普通は十分脅威だと思うけど。(poyy)
何事にも『普通』であるということは、それだけで『異常』なことなんだよね。もちろん、『異常』なものも『異常』なんだけどさ。俺が言いたい意味、解る人はいるかな?(東方武神)
まあ、普通に負けるか普通に勝つみたいな。普通の極みだね。(黄昏☆ハリマエ)
まあうん・・・白蓮、ファイトw(よーぜふ)
青州は三姉妹を連れて行けばあっさりと戦力、労働力を確保できそうな…。幽州の方がしんどそう。白蓮も仲間入りですかね?(三悪)
白蓮がんばれ・・・・。お、次回蒔さんのターンか!?楽しみにしてます!あと命を全力で応援してまーす。(kabuto)
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