本日はすれ違い注意報 part5
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春に新入生を迎え入れた薄紅色の桜、今では見る影もむなしく、地の上に茶色に変色して伏してい

 

る。

 

枝には青々とした新緑の葉が空に向かって突き出している。

 

この葉も秋には桜と同じ運命を辿ることを知っているのだろうか。

 

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理あらわす―――

 

なんと上手く言ったものだろう。

 

 

いっておくが私は別に哲学が好きなわけではない。

 

はっきりいって、こんな哲学的なことを考えていることは非常に異常なのである。

 

その異常を起こしている原因ははっきりしている。

 

 

それは…

 

この暑さ!!

 

 

お天気のお姉さんいわく初夏にしてはちょっと暑いかもしれないと言っていたが、ちょっとどころ

 

じゃない!

 

現在気温29度である。

 

 

かなり暑いわ!!

 

 

体温の上昇と反比例に気持はどんどん萎えていく。

 

私の気持ちも盛者必衰…。

 

いや、私の気持ちは元から衰弱していたから違うか?

 

 

「ちょっと、スイカ、さっさと席取らないとほかの子に席取られるわよ!」

 

 

ユズは鞄とシートをもって観戦によさげな場所をさがしている。

 

ほかの女子もせっせと場所取りをしている。

 

他にすることがないものなのか…。

 

私は攻略途中のゲームしたいんだが。

 

 

「別にいいよ。席なかったら帰ってゲームしない?」

 

 

 

バキャッ

 

 

 

ユズの手に握られていたアルミ缶は数秒前と比べると体積がかなり減っている。

 

…というかアルミ缶の形をしてない!

 

 

「ユズ、早く席を探そう!」

 

「よろしい。」

 

 

 

怖ええええええええ!!

 

 

 

さすがバレー部の鬼神と言われる女、恐ろしすぎる…!

 

思い返せば、今日の朝もすごかった…。

 

昨日の夜に行かないよというメールを送って寝たら、なぜか朝ユズに起こされた。

 

そのあと、観戦準備して、学校までゲシュタポもびっくりな強制移送を成し遂げるし。

 

ユズ…あんた、いい秘密警察になれるよ…。

 

 

そんなこんなしているうちにユズがさっさと席を取って、私たちはそこに座った。

 

グランドでは選手たちがアップのためにボールを華麗な足さばきで巧みに扱っている。

 

 

「あ、樋山!…と夏川!?おまえが来るなんて珍しいな!」

 

 

ぱっと上を向くと見慣れないユニホームを着た同じクラスの大谷ナオヤがいた。

 

大谷は門倉ほどではないが頭がよく、女子に優しいかつ爽やかな好青年である。

 

唯一の欠点はあの門倉の友人であるということだ。

 

 

「私、ゲシュタポに強制移送されたの。」

 

 

ぎろっとユズに睨まれるが事実は事実と言うんだ自分!

 

こ、怖くなんかない!……はず!

 

大谷はちらりとユズを見て、『ああ、樋山な』と合点がいった風に頷いて笑った。

 

 

「まあ、二人ともなんにせよいるんだから見ていってくれよ。」

 

「ええ、スイカと一緒にゆっくり見させてもらうわ。」

 

「うん。でも面白くなかったらゲームしに帰るから。」

 

 

すかさずユズがぱしこーんと持ってきた団扇で容赦なく頭を叩く。

 

 

痛いよ!

 

 

それを見て大谷は、はははと笑う。

 

 

「そりゃー、俺らも頑張らないといけないな。おおっと、もう行かないといけないな。夏川、シュ

 

ウゾウの活躍見て行けよ!」

 

 

じゃあな、といって大谷は去っていってしまった。

 

相変わらず爽やかだなー。

 

しかし、そこで、なぜ門倉の名前がでるんだ…。

 

 

 

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グランドで選手が自分の任されたポジションについた。

 

女子が一生懸命に、『がんばってー、門倉くーん!』や『素敵ー、大谷くーん!』と叫んでいる。

 

私も便乗して『くたばれー、門倉ー!』と叫んだら本日2回目のぱしこーん音が声援の中に消えた。

 

サッカー部の顧問が笛を口にくわえる。

 

両チームの間にサッカーボールが置かれた。

 

 

 

ピイイィィィ――――――――

 

 

 

笛が吹かれると同時にボールが舞った。

 

 

「大谷ね…。」

 

 

ユズの視線の先にはボールとともにフィールドを駆ける大谷がいた。

 

大谷はすいすいと相手を抜かしてゴールに向かう。

 

 

「すごい…。」

 

 

思わず感嘆の声が出てしまった。

 

このままゴールできるのでは…?

 

まったく目が離せない。

 

大谷がゴールに近づくにつれて女子の応援もヒートアップしていく。

 

しかし、相手もゴールを取られるのは何としても阻止したいらしく、ゴールが近づくにつれて大谷

 

のガードも一人、二人、三人とどんどん増えていく。

 

大谷はジグザグに走って相手をまく。

 

しかし、相手の一人が大谷からボールを奪った。

 

 

 

キャ――――――

 

 

 

悲鳴のような声援がグランドに響く。

 

相手チームはボールを持った選手を守るようにチームが一丸となってガードしながらゴールに走

 

る。

 

相手のチームはどんどん勢いをもってゴールに近づいていく。

 

 

 

門倉のやつ、なにやってんの…!

 

 

 

そのとき、相手のボールを持った選手から誰かがボールを奪った。

 

 

門倉だった。

 

 

そのまま、一気に相手チームのゴールまでボールと駆け上がる。

 

門倉は空手の道場で私と闘っている時の表情とは別人だった。

 

一瞬、門倉なのかわからなかった。

 

そして、ゴールネットが大きく揺れた。

 

 

キャ―――――――

 

 

さっきとは違う意味の悲鳴が上がる。

 

女子たちは抱き合って喜んでいる。

 

そこから、ずっと私たちの学校のサッカーチームがリードを守り、3−1でこちらが勝った。

 

私も嬉しかった。

 

嬉しいはずなのに私はなんだか笑えなかった。

 

 

 

 

 

初めてだった。

 

門倉のあんな真剣な表情に出会ったのは。

 

あのグランドには私の知らない門倉がいた。

 

 

そのことがなんだか気になってしょうがなかった。

 

 

 

 

 

説明
すれ違う少女と少年の恋愛の話をかいているつもりです。
主人公スイカの気持に変化がやっと生じてきました。
変化生じるまでに5話も使ったという…。
今回、新キャラ登場します!
PS:ユズの名字は樋山です。
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小説 恋愛 少女 切ない? オリジナル 

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