婚活†無双 〜理想の旦那が見つからない〜 その5 |
ある晴れた日、一刀は城の中を歩いていた。
「魔法以上の愉快な〜……じゃなくて今日は何をしようかな」
基本的にニートな一刀は特にやるべきことは何もない。
そんな自分を変えたくて、雪蓮に何かすることはないかと聞いたこともあった。
『お小遣いあげるから遊んできなさいよ♪』と言われてげんなりしたのはつい最近のことであった。
所謂ヒモである。
「なにか、なにか俺でも出来ることがあるはずだ! と思っていたのは最初の頃で今ではすっかりニートが板に付いてきたもんなー」
ニート巧者を自負する一刀。
「仕方ないから街にでも行こうかな」
引き籠りだけは避けたいので外出することに決めた一刀。
一刀は街を歩くことが好きだった。
現代とは違う街並みを見て歩くのが新鮮で興味深い事だった。
街に行こうと決めた一刀は早速誰かにその事を伝えに行こうとした。
しかし、それはどこからかかけられた声によって叶わなかった。
「この声は……」
遠くに凄く良い笑顔で走って来る小蓮を発見した一刀。
「あれはショコタンだな」
孫尚香という名から一刀がたった今つけた渾名である。
「か〜〜〜ず〜〜〜と〜〜〜!」
「このパターンは突っ込んでくるパターンだな」
出会ったときから何故か気に入られてしまった一刀は、時々小蓮に抱きつかれていた。
「あれを食らうとこっちの身がもたない。ショコタン、いつもの俺と思わないことだ!」
ピンクの弾丸は勢いそのままにいつも一刀に突っ込んでくるのである。
「激流に逆らえばのみこまれる。むしろ激流に身をまかせ同化する。激流を制するは静水」
流れるような動作で小蓮を受け流そうとする一刀。
「あま〜い!」
「グヘッ! ……この天の御遣いの一刀の目をもってしても見抜けなかった!」
当たり前のように一刀が避けきれるわけがなかった。
「えへへ〜♪ シャオ様から逃げられるわけないじゃない♪」
してやったりといった感じの小蓮にため息を吐きながらも、柔らかい年頃の女の子の身体にワクワクドキドキしてしまう一刀。
それにこのような楽しそうな笑顔を見せられては怒るに怒れなかった。
「っで、どうしたんだいショコタン?」
「ショコタンってシャオのこと?」
一刀の腕に抱きつきながら首を傾げる小蓮。
「えっ、あっ、うん。さっき決めたんだけどね」
「何それー! ……うん。一刀ならシャオのこと真名で呼んでいいよ!」
しばし一刀のことを見つめ、何かを考えた小蓮は一刀に真名を許した。
一方許された一刀はキョトンとしていたが、やがてその意味を理解して驚く。
「俺、特に何かしたっけ?」
「それは秘密〜♪ でも真名を呼んでいいのは本当だよ。小蓮だけどシャオって呼んでね!」
そんなことでいいのかと思いつつも真名を預けられたなら呼ばないと失礼になると思った一刀はシャオと呼ぶことにした。
「それじゃあ改めましてシャオ、今日はどうしたんだい?」
「うーんとね、一刀が暇そうだったから相手してあげようと思ったの」
「フヒーヒ」
あまりに直球だったので一刀は心にダメージを負った。
「当たりでしょー?」
「そ、そんなことないんだからねっ!」
「…………」
「やめて! その視線が痛い!」
小蓮の冷めた視線がさらに一刀を追い込んだ。
「それで、本当は?」
「……暇だったので街に行こうとしてました」
「ふふーん♪」
その勝ち誇った表情が悔しい、と心の中で叫んだ。
「それじゃあシャオがとっておきの場所に案内してあげるね」
「とっておき?」
「うんっ。ついて来て」
「あっ、おーい! 誰かに言わなくていいのかー?」
すでに走り始めた小蓮に声を一刀。
一応保護されている身なので報告くらいはしないといけないと考えている律儀な一刀。
「大丈夫っ! どうせみんな軍議してるんだからー!」
「そうなのか? ってもう見えなくなりそうだ!」
だいぶ先を行く小蓮に追いつくために一刀も走り出した。
途中で侍女と会ったので、出かけると伝えて小蓮を追った。
「ああ、ここは最初に孫策と出会ったところか」
「一刀ってこんなところにいたの?」
小蓮に連れられてやって来たのは青姦の森。
「うん。っていうか気がついたら川の中に落ちてたんだけどね」
「一刀って本当に天の御遣いなんだねー」
「今の会話からどうしてそうなるか分からないんだけど……」
川に落ちたら誰でも天の御遣いになれるんじゃないかと言いたげな小蓮に自分の価値を改めて考え直す一刀。
「ところでどこに行くんだーーっていない!?」
いつまにか一人で話していた一刀。
辺りを見渡してもシャオは見当たらない。
一刀は空を睨みつけた。
「くっ、キャトられたか!」
一刀は宇宙人によるキャトルミューティレーション可能性を考えたが、即座にやめた。
考えても仕方ないので普通に捜すことにした。
「お〜い、シャオー! でておいで〜! でないと目玉をほじくるぞー!」
叫んでみても返事はない。
代わりに獣のような声が返って来た。
「まさか、捕食されたのか!? そんなことになったら俺がやられてしまうぞ!」
孫呉の姫を守れなかった罪で斬首される光景が一刀の脳裏によぎった。
ガサガサと草をかき分けるような音が聞こえたのはすぐのことだった。
「シャ、シャオなのか?」
恐怖からか声が小さくなる一刀。
茂みの向こうから返事はない。
「グルっ」
「なんだ、猫かよ」
茂みから顔を出したのは白いお猫様。
そう思っていた時期も一刀にはあった。
「ちょっとサイズが大き過ぎないか君?」
「ガウっ」
徐々に体が見えて来ると、一刀の顔は青ざめる。
「ま、真弓監督?」
当たらずとも遠からず。
白いお猫様は、立派な体格の白虎だった。
「ヘイ、落ち着けよ君。隣の家の塀は高いんだぜ、へー」
誰よりも落ち着くべきなのは一刀の方だった。
「周々、何処行くのー? あれ、一刀こんなところにいたんだ! ちょっと目を離すといなくなっちゃうんだから。お手柄だよ周々」
「あっ、ごめんなさい」
つい反射的に謝ってしまったが一刀には何の非もないのはあきらかだった。
シャオはなでなでと白虎の頭を撫でている。
「あのー、シャオさん?」
「なぁに?」
「そちらの方はどなたでしょうか?」
「私のお友達だよー。周々、挨拶して」
「ガウッ」
「これもどうもご丁寧に。えっ、俺? 俺は北郷一刀と申します。よろしくお願いします」
へコヘコと頭を下げる一刀だった。
「うんうん。これで仲良しだね♪」
「そ、そうだねー。ところで後ろにいるお方は?」
「あっちは善々だよ。ほら善々」
「…………」
白黒のモンスターは一刀は睨みつける。
「お、俺は北郷一刀です! よろしくお願いします!」
機嫌を損ねないように頭を下げる一刀。
「…………」
よろしくしてやるよと言いたげな善々は頭を一刀に向かって突き出す。
「なでなで」
「グルルルルル」
声に出して善々の頭を撫でる一刀。
二人の間に友情が生まれた瞬間だった。
一刀が善々を撫でていると周々が一刀の撫でていない方の手を噛んだ。
「おぎゃあ!」
「あっ、こら周々! 一刀は餌じゃないよ!」
驚いたシャオは周々を止める。
「ん? 痛くないぞ?」
アマガミSS……もとい甘噛みだったようで、一刀に痛みは無かった。
そして頭を一刀に突き出す。
「もしかして撫でろと?」
「ガル!」
「すご〜い! 一刀モテモテだね!」
動物に好かれてもなー、と思いつつ善々を撫でていた手で周々の頭を撫でる一刀。
気持ち良さそうにしている周々。
「グルルルルルル」
「えっ、また撫でろと?」
「ガウ」
「やめるなと?」
二匹の獣の板挟みにあう一刀。
恐らく二匹ともメスであろう。
「ガウッ!」
「グルルルル!」
そして取っ組み合いを始めてしまった獣たちであった。
「あ、あれ大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。いつものことだもん」
シャオは見慣れていると言わんばかりの反応である。
二匹にとって取っ組み合いは日常茶飯事であるようだ。
「あれが始まると長いから別のところ行くよー!」
「あっ、ちょっとーー!」
ぐいぐいと腕を引っ張られる一刀の声が木霊するのだった。
「ここは俺が落ちてきた川じゃないか」
シャオに連れて来られたのは一刀がダイブを敢行した小川だった。
その時のことを思い出した一刀は少し身震いした。
「一刀は雪蓮お姉様がなんでこんなところにいたか知ってる?」
「孫策が?」
そう言われてみると考えたことがなかった一刀。
しかし、よくよく考えてみるとなぜ孫呉の王である雪蓮が護衛の兵も付けずに一人でこのようなところに居たのか。
いつものように政務から逃げて来たのかと考えたが、そのようなことなら敢えて小蓮が質問してくることもないだろうとその考えを捨てる。
「……ここはね、私たちのお母様のお墓があるんだよ」
「…………」
孫呉の前王であり、雪蓮、蓮華、小蓮の母である孫堅。
「孫堅さんだっけ。そんな人のお墓がなんでこんなところにあるの?」
その墓は特に装飾も施されていない武骨な石が置いてあるだけだった。
「お母様が死んですぐに袁術に吸収されちゃったからそんなことしてる暇がなかったの。お母様は派手なのが好きじゃないって雪蓮お姉様が言ってたからこれでよかったかもしれないけどね」
もとは寿春にあった墓を、領地を取り戻すと共にこちらに運んで来たという。
「そうなんだ……」
こういう時、どういう風に声をかけたらいいのか分からない一刀はただ沈黙することしかできなかった。
墓石の前に立っていた小蓮は膝を着く。
「こんにちはお母様。元気してる? シャオは毎日元気にやってるよ。雪蓮お姉様は最近跡取り問題で大変そうにしているよ。蓮華お姉ちゃんはいつか孫呉の王を継ぐかもしれないっていろいろ頑張っているよ。シャオは……」
墓石に語りかける小蓮がいつもと違って大人びて見えた一刀。
「シャオは……何もすることがないの」
その声は少し震えていた。
「シャオはね、お姉ちゃん達の役に立ちたい。だから賊の討伐や軍議にだって参加したいの。でもみんなは今はしなくていいって言うの。……シャオってそんなに役に立たないのかな?」
いつも明るく元気に振る舞っている小蓮。
しかし、その内側でこのような悩みが存在していた。
「戦争中もみんなと一緒に戦いたかった。でもシャオは危ないからお留守番だった。お姉ちゃん達は戦場にいるのに。もっとみんなの、孫呉にために役立ちたいのに……」
小蓮の心の叫びを隣で聞いていた一刀は、ゆっくりと手を伸ばした。
「シャオは偉いね」
「……一刀」
ゆっくりと小蓮の頭を撫でる一刀。
「みんなの役に立ちたいって気持ちは凄く大事だと思うし、俺も少し分かるよ」
今の自分は雪蓮たちに養われているだけの存在。
それが心苦しく感じているのである。
「みんな……特に孫策と孫権はシャオのことが大切なんだよ」
「……じゃあなんで?」
「これはさ、俺の考えだからあってるか分からないんだけどね、二人はきっといろんなことはシャオに経験して欲しいんだと思う」
「どういうこと?」
一刀に体を向ける小蓮。
一刀は手を放して口を開く。
「二人はさ、物心ついた時からずっと戦っていただろ? だから自由な時間がほとんどなかったんだと思う。子供の頃っていうのはいっぱい遊ぶのが仕事なんだ。他にも勉強でも音楽でも自分の好きなことをするもんだ」
「……でもシャオはもう子供じゃないもん」
「そうだね。でも二人にとってはいつまで経っても可愛くて大切な妹だ」
それは時をいくら重ねようとも変わることのないもの。
「でも……」
「それでも、シャオがみんなのために何かをしたいって思うなら二人に伝えてみるといい。きっとあの二人ならわかってくれるはずだよ」
「そうかな?」
「うん。それで何か言われたら俺がガツンと言ってやるよ!」
カウンターパンチを喰らうことは必死だろう。
「ふふ、ありがとう一刀。シャオお姉ちゃん達に言ってみるね」
「おう、頑張れ!」
いつものように明るい表情に戻った小蓮を見送るドヤ顔の一刀。
小蓮が見えなくなると墓石の前に立ち手を合わせる。
「えっと、孫堅さんこんにちわ。あなたの娘さんに拾われた北郷一刀です。あなたの娘さん達はとても立派になられたので心配しないでください。えー、また来るかもしれないですけどその時はお酒でも持ってきますね」
雪蓮からお酒好きだと聞いていたので、今度はお酒を持って墓参りに来ようと思う一刀。
「あれ? 置いてかれた?」
小蓮に置いて行かれた一刀は道が分からず日が暮れるまで森をさまよった。結局、周々と善々に発見され道案内してもらった一刀だった。
城に戻ると、満面の笑みを浮かべた小蓮に会うことなるのだった。
<みっちゃん>
「そこの侍女さん!」
「はい? って御遣い様!?」
廊下を歩いていた私に声をかけて来たのは憧れの御遣い様でした。
ど、どうしましょう! いきなり逢引の約束かも!
「ちょっと孫尚香と出かけてくるから孫策に伝えといてくれませんか?」
「あっ、はい。承りました」
ああ、私じゃなかったです。そうですよね。私なんか。
「ありがとう!」
「……ぽっ」
ああ、そんな素晴らしい笑顔を見せられたらみっちゃん全て許せる気がします。
「じゃあ行ってきます」
「はい。行ってらっしゃいませ♪」
今日はなんていい日なんだろう。
でも護衛もつけないで大丈夫かな?
私の北斗孫家拳があれば護衛くらい簡単に出来ちゃうけどこれは孫家の王を守るための拳だから滅多なことで使えないし。
そんなことを考えていたら御遣い様の姿は見えなくなっていた。
「どうか無事でありますように」
私はただ祈るのだった。
<おまけ>
補習授業を受けて家に帰って来た一刀を迎えたのは部屋の前に集まっていた三台の清掃ロボだった。
「はあ。なんというか不幸だ」
その三台の清掃ロボの中心には今朝処女を奪ったばかりのヒナリックスがいた。
一刀は不幸と言いながらもその表情はどこか嬉しそうだった。
「おーいヒナリックス、こんなところで寝て――」
一刀はヒナリックスの背中が血まみれだということに気付いた。
「おい! ヒナリックス! しっかりしろ! 誰にやられたんだ!?」
しかし、気を失っているのかヒナリックスから返事は無い。
「んん? ボク達、魔術師だけど」
一刀の後ろに立っていたのは緑の髪の女の子。
「これはまたずいぶん派手にやっちゃって」
その女の子はヒナリックスの様子を見て何か知っているかのように呟いた。
一刀はその女子を睨みつける。
「なによ? そんな目で見られてもこまるんだけど? それを斬ったのはボクじゃないし。はわわだって血まみれにする気はなかったんじゃないかなー」
一刀はとりあえず説教を始める。
ヒナリックスを回収するといったその女の子に一刀は殴りかかる。
「てめえ、何様だ!」
しかし、あっさりとかわされた。
「詠ちゃん=メガネ、と名乗りたいところだけど――」
とりあえず詠ちゃんでいいらしい。
「燃えちゃえ!」
「こかーん!」
一刀は股間の子宮破壊(コブクロブレイカー)で詠ちゃんの炎を消し去った。
すでにズボンとパンツは脱いでいた。
「所詮は異能の力」
次々に襲いかかって来る炎を消し去る一刀に詠ちゃんは本気を出す。
「殺れ、魔王董卓(へぅ)!」
「へぅぅぅぅぅぅぅん!」
炎が可愛らしい女の子の姿に変わる。
「邪魔だ」
一刀は魔王董卓(へぅ)を消しにかかる。
「へぅ……おっきいです」
しかし、魔王董卓を消し去ることはできなかった。
続。
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なんとか書けた……|ω・`) 「大人だもん」 |
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