真・恋姫†無双 〜凌統伝〜 拠点√ 聖2|祀里1 |
拠点ルート 聖
沸きあがる歓声。行き交う人々は上を見上げて拍手喝采で盛り上がっていた。
人々の視線の先には桜色の羽織を纏ったすっかり街の有名人となった凌統が最近お騒がせの泥棒を捕まえたところだった。
それなのに何故上を向いているのかというと、泥棒を捕まえた場所は屋根の上だからである。
「手間取らせる。それだけの身のこなしをもっと有効に使うべきだったな」
「ち、ちくしょう……」
足の骨を砕いて既に身動きできない泥棒を抱えて屋根から飛び降りて地面に着地した。
骨が折れている泥棒は着地の振動で悲鳴を上げるが、目障りだと言わんばかりに地面に放り投げられて涙を流している。
凌統は逃げられると面倒なのと見せしめも兼ねて骨を砕くのだ。これで犯罪発生率がグンと下がったのは言うまでも無い。
「お見事です凌統さま。あとは我々が引き継ぎます」
「頼む。歩けないから運んでやれ。俺は警邏に戻る」
「はっ! お疲れ様でした!」
一礼した兵士たちが泥棒を抱えて立ち去っていく。
痛みに耐える悲鳴を背で聞きながら凌統は街並みを見渡しながら歩いていく。
「人も増えてきたな。もっと警邏の回数と人員を増やす必要があるな」
犯罪はいつどこで起こるか分からない。未然に防ぐ事が最善とされているが、残念ながら自衛団と軍だけでは小さな事件の連発に対応し切れていないのが現状だった。
犯罪をなくしてしまおうという風に動いていないから少ない人員でやってきたが、人口が増えるとその分人員を増やさなければならなくなる。
「だ〜れだっ!」
そんな真面目な事を考えている凌統の視界が一瞬で暗くなり、明るい少女の声が聞こえてきた。
背中に柔らかいものの感触があり、背伸びをしているのか後ろに引っ張る力が強い。すぐに目隠しをされていると分かった凌統はその人物の名前を呼んだ。
「聖……」
「ありゃりゃ、簡単に分かっちゃいましたか。残念残念」
サッと退けられた手が遮っていた太陽の光が眩しい。
振り返ると後ろから抱きつくように凌統の首に両手を回している蘇飛の顔がまじかにあった。
「何か用か? 俺は今警邏中で忙しいんだが」
「ちょっと鴉さん。こんな可愛くて見惚れちゃう女の子に向ける第一声がそれですか? 酷いですあんまりです。少しは顔を赤くするとか目線を逸らすとか初々しい反応を見せてください。何ですかその“またお前か”みたいなうんざりした目は!」
「しているんだ。自分で可愛いという女は腹黒いらしいぞ」
「誰がそんな嘘か本当か判りづらい事を言ったんですか?」
「誰か、だ。それより離れろ。前も言ったが、周囲の目を気にしろ」
凌統たちはかなり目立っている。有名人の凌統に後ろから抱きつく女の子。目立って当然だ。
「へっへ〜ん。いつまでもわたしが初々しさ残る美少女だと思ったら大間違いです。これくらいじゃもう頬を赤らめたりしませんよ」
勝ち誇ったように言う蘇飛。凌統はそれでいいのか、と胸の内で呟いた。
以前に半強制的に聞かされた女の子とは、という内容にいつまでも初々しさを忘れないなどという理解できない内容があったことを記憶しているのだが、今の蘇飛の発言でそれは完璧に否定されたことになる。
そんなことを指摘すればまたなにやら聞く必要もない話を永遠とされそうなので黙っておくことにした。
「でも首に手を回しているとわたしも歩けないのでこっちに抱き付きます」
ようやく後ろに引っ張られる感じがなくなると今度は左側に引っ張られる。蘇飛がピッタリくっ付くように左腕に腕を絡めているからだ。
もはや何も言うまい。それが最終的に出した結論だった。
凌統は大人の対応で何も言わず歩き出した。
「ところで先ほどの泥棒さんを捕まえるのを見ていたのですが、少々やりすぎじゃないですか? 気の毒だとは思いませんでしたけど、最後の痛々しい叫び声が耳から離れません」
「見せしめは必要だ。治安維持はただでさえ難しいのに一々手加減していては一向に減らんだろう。犯罪を犯した者がどうなるか、見せしめに痛めつけた方が被害者も納得するし、抑止力にもなる」
「そうですけど、こう……関節を外すくらいじゃ駄目ですか? ちょっと小耳に挟んだんですけど、鴉さんのその行動が不安がってる人たちがいるんです。あ、全然悪さとかしていない一般人ですよ。子供に悪影響が出るのが心配だとか」
言われてみれば酷い事をしていると思う。だが、それくらいしないと今の時勢悪さをする連中が減らないのもまた事実である。
情勢が不安定なのと黄巾賊という簡単に縋(すが)れるものがあることが原因なのだが、それは凌統が解決できる問題ではないからこのような手段になってしまうのだ。
仕方がない、と思うがやはり考えてしまう。
「間接を外すくらいなら簡単だ。しかし、抑止力になってくれなければ困る」
「こういうのはどうですか? そこら辺に縛り付けて空腹にさせたところで目の前でご飯を食べる。それを五日くらい続けたらもう悪さしたくなくなる筈です。あ、水は与えます。死んじゃいますし」
「骨を砕いている俺が言うのもなんだが、酷すぎる。聖、お前根に持つ奴だろう」
「し、失礼なことを言わないでください! 純粋な心を持つ女の子です!」
頬を膨らませて怒る蘇飛に適当な返事を返した。
「もぅちゃんと聞いてくださいよ。わたしは……あれ? 鴉さん。何か騒がしいですよ?」
「人だかり……何かあったのか?」
足早に歩き出して人並みを掻き分けていく。
流石に蘇飛も仕事を邪魔するつもりはないようで腕を放して凌統の後ろをついてきていた。
人並みを掻き分けて進んでいくと、その原因がハッキリした。
「黄巾賊か……」
黄色い布を巻いた肩に黄巾という刺青が彫られた男たちが警備兵相手に剣を向けていた。
「ちくしょう! 街の様子見のつもりだったのによ!」
黄巾賊の中心にいる恐らくまとめ役であろう男が叫んだ。
だいぶ気が動転しているようで、聞いてもいないことを叫び散らしている。
「下見に来たということか。逃がす訳にはいかんな」
両腰に差す剣に手をかけ、引き抜くのと同時に兵士の間をすり抜けて飛び出した。
「な、なんだテメェ……!」
身近にいた男の首を刎ね続けざまに両側を固めている二人を斬り殺す。
そこでふと思った。殺す必要はないんじゃないのか。
気絶させて全員を捕まえた方が情報も多く手に入り、尚且つ惨劇の現場ができなくて済む。しかし、それは無理だった。凌統はそういう甘い考えの人間ではない。
残りは三人。まとめ役の男が残りの二人を盾に逃げ出そうとしたが、あっけなく斬り殺されて凌統の剣が迫る。
「た、たすけてぇ!」
男の首を刎ねるかと思われた剣はその一歩前で止まり、ゆっくりと離れていった。
「運がいいな。いや、悪いのか。仲間の事や居場所、吐いて貰うぞ。連れて行け!」
動けない男を兵士たちが連行していき、凌統は剣を鞘に戻した。
「聖……」
「は、はひ!」
「どうやら俺は荒行事でないと解決できないようだ」
「え? どういう……あ、待ってくださいよ!」
凌統が歩き出し、蘇飛が慌てて追いかけた。
人だかりもいつの間にか散り、いつもの風景に戻っていた。
拠点ルート 祀里
凌統は久しぶりの非番を満喫するつもりで宿を後にした。
蘇飛に見つかれば付き纏われるのが目に見えていたので早朝のうちに街に繰り出している。
「人がいない。当たり前か」
朝露の残る早朝はやはり人が少なく、殺風景だった。これも悪くないと思い歩き出す。
「…………」
「…ぐず……ひぐ……」
平穏な非番は音を立てて崩れ落ちていくのが凌統には分かった。
角を曲がったところで聞こえてきた嗚咽に目を向けると、子供が泣いているようだった。
ただ子供が泣いているのなら問題ないのだが、それが知り合いだというのが問題なのだ。
「おーい、祀里ー!」
凌統の呼びかけに全く気付いていない様子でトボトボと歩いていく。放っておくといろいろと危なそうなので追いかけることにした。
「やっと追いついた。おい祀……」
声をかけようとした瞬間、諸葛均の体がビクッと震えてトットットッと逃げ出した。
その反応に不覚にも少し後ずさってしまい落ち込む凌統だが、今はそんな状況ではない。
「待て! 俺だ! 凌統だ!」
必死な叫びも届かず別段早くもない逃げ足で遠ざかっていく諸葛均を追いかける。
所詮は子供程度の歩幅。追いつくのは造作もなかった。
走っていると腰につけた鈴がチリンチリンと鳴った。それが功を奏したようである。
「鈴の音……?」
聞き覚えのある音に反応して立ち止まって振り返ってきた。
「あ……」
ようやく気付いて少し顔が和らいだように見えた。が、それもすぐに崩れて泣き顔に変わっていく。
「ごわがっだ……おいがげられで……」
「悪かった。怖がらせたか。すまない」
ポンポンと頭を軽く叩いて慰めようとするが一向に泣き止む気配がない。子供の相手というものに慣れていないのもある。
過去にも何度か泣いている子供を相手にしたことがあるが、結局泣き止むまで一緒にいるくらいした対処法を知らなかった。と、そこで一つ思い出した。
「祀里、少し試したい事がある。いいか?」
「ぐず……ふえ?」
涙ぐむ諸葛均はコクンと首を縦に動かし、それを確認して凌統は膝を折って目線を合わせた。そして、
「あ……あぅあぅあぅあぅあぅ!!!!」
諸葛均の小さな体が凌統の腕の中に沈んでいく。顔を真っ赤にする諸葛均を凌統は抱きしめていた。
凌統が思い出したのは蘇飛から聞いた女の子はどういうものか、という話である。
蘇飛曰く、「女の子はとてもか弱い存在です。不安な時や寂しい時は頼りになる人がいてくれるととても心強いんです」だそうだ。
そこらへんの知識に疎い凌統は不用意に「例えば?」と聞いてしまった。返ってきたのが上級技だという抱きしめるという戦法である。
そして止めとして、
「大丈夫だ。俺が護ってやる。だから泣き止め」
耳元で囁かれる心強い言葉にガクッと諸葛均の頭が揺れて、そのまま意識を失った。
「お、おい! どうした!? しっかりしろ!」
軽く頬を叩いてみても意識は戻らず、もしや熱が? と額に手を置くとかなり熱い。
凌統は諸葛均を抱えて医者の下へと駆け出していった。
どうも傀儡人形です。
拠点ルート第二回目ということになるのでしょうか。
今回はちょっと暗い感じの聖ルートとほのぼのな祀里ルートを書いてみました。
恋姫の話の中で孫呉は何かと暗い印象を受けたので雰囲気で書いているとこうなってしまいまいた。
雪蓮と雛里のルートと似させて作ってしまったのですが、最初なのでいいかなって思ってます。
最後が違えばいいんですよ。たぶん。
次は新キャラ登場予定なので楽しみにしているか知りませんが待っていてください。
では。
説明 | ||
お久しぶりです。傀儡人形です。 諸注意として変態司馬懿の世界とは全くの別物の話です。 書き方を試行錯誤しながらなのでおかしな点が多々あると思いますが、温かい目で見てやってください。 |
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コメント | ||
ほう一刀もいるとな。親の仇というのに対して平和ボケした日本人である一刀がなんて言うか…安易なきれいごとにほだされる展開だけはやめてほしいですね。(PON) こるど犬さんコメントありがとうございます。孫呉ルートで一刀もいる感じです(傀儡人形) ロンロンさん、コメントありがとうございます。拠点ルートという事で仇討ちの事は一線を引かせていただいています。拠点以外ではそれを書いていくつもりです。(傀儡人形) 仇討ちはどうした・・・(龍々) ・・・これ・・・どこルート?(運営の犬) |
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