−真・恋姫無双 魏After−月下の誓い 3 |
私が城につくころにはもう宴も終わりを迎え、場内は静けさに包まれていた。
ありがたいことに蜀、呉の将たちはそれぞれ解散したようで少し安心した。
城壁を見上げてみる。
「・・・・・・いるはずないわね」
わかっていた、だが確認せずにはいられなかった。
戦が終わり彼が一人たたずんでいた場所。
彼は何を思い、何を感じて、何を見ていたのだろう。
何を見ていたのか・・・・・・か、少しだけ判る気がする。
「華琳様・・・皆は大広間に集めております」
眉間に皺を寄せた秋蘭が出迎えてくれた。
やはり、気付いているのだろう。
「そう・・・、直ぐに向かうわ。案内しなさい」
そう私は呟くと重たい足を踏みだす。
広間に着くと、集まっていた彼女達が私の方へ視線を集中させる。
すぐに、その視線は何かを探すように私の後方を当てもなく動く。
その場にいないはずの彼を探していることは明らかだ。
彼女達は、彼がいないことに疑問をもち始めたように見える。
私がしっかりしなければ・・・・。
この事実を伝えることは私にしかできない役目。
私がしなければいけない役目。
嫌な役目。
玉座に腰を下ろし一つ大きな息をついた。
「・・・・皆、聞きなさい」
視線が一斉に私へ集中する。
「落ち着いて聞きなさい。気付いてる子達もいるでしょう」
皆、言葉を発しようとはしない。
私の表情から次に発せられるであろう言葉を読み取った者もいるようだ。
何のことかわからない顔をしている者、怒りをあらわにする者、嗚咽を漏らし言葉を待つ者もいる。
だけど皆の視線は私から反れる事はない。
私の言葉を唯待っている。
伝えなければ・・・・・・、わかっているのに言葉が出ない。
私は今どんな顔をしているのだろう。
悲壮感に顔をゆがませてはいないだろうか。
私は覇王よ!!心の中で自身に言い聞かせ口を開く。
「北郷一刀はもういないわ」
彼女達の表情がさらに変わる。
唖然としている者、怒りの限界に達した者、嗚咽が号泣に変わったもの。
皆それぞれ違った表情をしている。
「どういうことですか華琳様!!」
最初に言葉を発したのはやはり桂花だった。
怒りに歯止めが利かなくなったのか、彼女からの問いに私は少し助けられた気がする。
泣きじゃくっている沙和や季衣、流流に問いを投げかけられれば私はやり場のない怒りに任せて怒鳴りつけたであろう。
つらいのはあなた達だけじゃない。
・・・・・・いや、違う。
気付いてしまった。
私は彼の別れ際に立ち会えた。
だけど彼女達は違う。
彼女達が最後に彼と話したのはいつ?
彼の顔を見たのはいつ?
彼に触れたのはいつ?
彼の別れの言葉を聴いた?
私は恵まれていた?
彼女達は別れさえ告げられることもなく。
彼女達は別れを告げることもなく。
「どうもこうもないわ。言葉通りの意味よ」
彼女達は納得がいかないという顔をして私を見つめる。
そんなに私を見ないで。
わかってるわよ、私が恵まれていたことぐらい。
わかってるわよ、あなた達がつらいことぐらい。
だけど。
だけど、どう説明しようが一刀はもういない。
桂花が追求しようとするのを無意識に手で止めた。
これ以上彼女の怒気を向けられると私は八つ当たりをしかねなかったから。
でもわかって。
面と向かって別れを告げられた私の気持ちも。
さよならと直接いわれた私の気持ちを。
彼が消え逝くのを止めることができなかった私の気持ちを。
「・・・・皆も知ってるでしょう? 一刀が体調を崩したこと。
あれは、一刀の知る天の知識、いえ、この場合は私達のこの国で起こるはずだったことを一刀が干渉したことによって起こった事なの」
私は、浅はかだった。
一瞬で秋蘭の顔が歪むのがわかった。
このことを話すと更に傷つくものがいることに気付けなかった。
「・・・・・華琳様。北郷は・・・私を助け・・・・・」
「秋蘭黙りなさい!!」
秋蘭は驚き、そして俯いてしまった。
私は絶えられなかった。
自らの責だと言わんばかりに顔を歪める秋蘭に。
「何を自惚れているの! 偵察命令を出したのは私!! そして一刀自らの意思!! でも、その時点では一刀は貴方達の前に存在していたでしょう!!!」
秋蘭に責があるはずがない、
秋蘭に責を感じてほしくなかったのが私の本音。
そして、多分、いや、絶対に彼もそう思っている。
私は沸騰しそうな心を落ち着かせ言葉を続ける。
「・・・・・一刀が度々体調を崩したのはそのせいだった。そしてこの戦で一刀が知る天の魏と私達の魏は全く別の魏になってしまったのよ」
「・・・・ちょっとまってぇな大将」
そう口を開いた真桜が涙の溜まった目で私を見ている。
その目は私を責める目だ。
何を言わんとしているのか真桜の目を見ればわかる。
聞きたくない。
聞かないで。
わかってる。
自分でもわかってる。
だから聞かないで。
「・・・・・大将は・・・・・知ってたんとちゃうか?」
・・・・・・・。
その言葉で真桜以外の視線も全て私に向けられる。
その視線は驚愕の色合いと、問いの答えを求めている。
「・・・・・えぇ。・・・・・・知っていた、いえ、気付いていたと言う方が正しいわね。」
「・・・大将は隊長を止めることができたんちゃうんか?」
真桜は更に怒気を込めた目を私に向ける。
真桜は今、魏の将として発言してるのではないのだろう。
一刀を愛した一人の女として、私に向けられた目。
私自身も女。
同じ女としてその目を咎める事ができなかった。
真桜の言うとおり、一刀を止める事ができたかもしれない。
でも、止めようとしなかったのは私。
止めていれば一刀が消えることはなかったのかもしれない。
でも、止めなかったのは私。
私は、自身の覇業への歩みを止めることはできなかった。
歩みを止めるつもりもなかった。
たぶん彼も自らの歩みを止めるつもりはなかったのだろう。
「お兄さんは華琳様が止めたところで素直に聞く人ではないですよ」
「・・・・そうなの。隊長は優しいの・・・・・優しいすぎるから素直に聞いてくれるはずないの・・・・」
意外なところから助け舟が出た。
唯私をじっと見つめ微動だにしなかった風からの助け舟。
風がそう言うと合わせたかのように泣きじゃくっている沙和が言葉を発する。
「・・・・・そんなんウチだってわかっとる! わかっとる・・・・けど・・・・・」
真桜は俯き小さな嗚咽を漏らす・・・もう言葉を発することはなかった。
その外の者も言葉を発しなかった。
唯沈黙が続く。
どれだけ時が流れただろう・・・・。
私もこれ以上何も言わなかった。
むしろ言えなかった。
だが、その沈黙は春蘭によって突如破られる。
「・・・・・・もう我慢ならん!!北郷を探し出して切り捨ててくれる!!」
「っ!?姉者!!」
私は春蘭の方へと視線を向けると、彼女は愛刀を肩に担ぎ怒りを隠そうともしていない。
そして広間から出て行こうとする。
「待ちなさい春蘭!」
「しかし華琳様!まだ近くにいるかもしれ・・・・」
「もういない!」
私は春蘭の言葉を遮った。
口にしたくなかった言葉。
口にしなくてはいけなかった言葉。
「もう、いないわ・・・・・・」
私はまだ何か言いたげな春蘭を睨み付ける。
これは唯の八つ当たり。
でも、これ以上彼のことを口にしたくはない。
私だって辛いのよ。
彼女達も辛いのはわかっている。
でも、もう耐えられそうもない。
「さぁ皆、自室に戻りなさい。戦は終わった。でも私達にはまだまだするべき事が山のようにあるわ。」
そう告げて私は立ち上がり広間を後にする。
付いて来ようとする秋蘭を手で制し扉を閉める。
一人になりたい。
この先のことで考えなければいけないことは山ほどある。
わかっている。
それでも考えずにはいられない。
彼のことを思わずにはいれないのだ。
「そう・・・・・北郷一刀は消えたの・・・・・」
「立ち聞きとは趣味が悪いんじゃないの孫策」
私は柱の影にもたれかかっている孫策を睨み付けた。
彼女のことだ、恐らくすべてを聞いていたのだろう。
「あら、魏の将だけを集めて何の話をしてるか気になるじゃない?」
うっすらと微笑みながら笑みを浮かべる孫策をもう一度睨み付け私は部屋に戻るために歩みを進める。
だけど、相手にする気は起きるはずもなかった。
「たまにはその覇王の仮面を脱いだらどう?」
私にこの仮面を脱げと?
この仮面を脱いだ私に何が残るというの?
この仮面を脱いだ私は、もう曹孟徳ではいられない。
唯の女に成り下がってしまう。
私は覇王でいなくちゃいけないのよ。
彼が・・・・・・。
彼が愛したのは覇王としての私なんだから。
「私は、覇王よ・・・・」
孫策の問いにそう答えるしかなかった。
私は覇王。
この先も覇王でいなければいけない。
覇王じゃないといけないのだ。
それ以上彼女は何も言わなかった。
「・・・・・・可愛げのない覇王だこと。
北郷一刀、魏の覇王を唯の女にした男か。一度ゆっくり話でもしてみたかったのだけど
もういなくなっちゃった・・・・・・か」
孫策の呟きを無視し私はその場を後にした。
あとがきっぽいもの
3話目まして獅子丸です。
連続で投稿すると書くことなくなりますね・・・・。
これだけは書かないといけない気がします。
生暖かい目で読んでいただけると幸いです
追記、誤字修正しました。
説明 | ||
第3話です。 | ||
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コメント | ||
とりあうぇず1〜3話まではひとつに、なおかつ複数、2−3ページほどに分けたほうがよろしいのではないでしょうか?(よーぜふ) 1p→本郷×→北郷〇です(カイ) |
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